「ぅう〜っさぁっぶ!さっぶいよ〜…」

休み時間…ポケットに両手を突っ込み、廊下を歩く田中先生
暖房器具など設置されていない冬の廊下は当然のごとく冷えきっており、
体から熱が逃げないよう、ちっちゃな体をさらに縮こまらせて歩いている

「なんで学校の廊下ってこんなに冷えるんかいねぇ〜…床暖房にすりゃいいやん……ん?」

ポケットの中のカイロ袋(ver.マイ○ロ)を握りしめてぶつくさ文句を言っていると、
なにやら前方から生徒たちのどよめきが

「なん?どーしたと?」
「…た〜…な〜…か〜せ〜ん〜せぇぇぇぇっ!!!」

逞しいムッチリ太股の華麗なるフットワークで他の生徒たちを避けながら廊下を突進してくるのは
田中先生 My Love な亀井絵里
少し手前でグッと踏み込んだかと思うと高く高く跳躍した

「うわわわわわっ!」

(0^〜^)<どっすーん!!

絵里のプランチャ・スイシーダを避けるわけにもいかずに抱き止めた田中先生
勢い余って二人仲良く懐かしいフレーズと共に廊下に倒れこんだ

「あたたたた……っ亀井さん!怪我は?!」
「…ウヘヘwしてませーんw」

バッと上体を起こして絵里の安否を気遣う田中先生
しかし先生の心配を余所に絵里は嬉しそうに抱き着き、
田中先生の小さな胸に頬っぺたスリスリなんかしちゃったりなんかして

「はぁ…よかった……もう!危ないやん!先生が避けとったら亀井さん怪我しよったとよ!?」
「んふーwせんせー優しいから受け止めてくれると思ってましたぁwww」
「確信犯かい!ったく…廊下走んのも人に飛びつくのも危ないけんダーメ!!ホラ立って…」
「ぶぅ…はぁ〜〜い………と見せかけて末端冷え症アターック!!」
「うひぃいいいっ!!」

ションボリしながら立ったかと思ったのも束の間、瞬時に両手で田中先生の細い首筋を包む絵里
その攻撃名通りの冷えた手を首筋に突っ込まれて田中先生は寒気倍増
冷たいしくすぐったいしですくんだ肩と顎で絵里の手を挟んでしまい、
離してほしくても自分で捕まえているという矛盾が絶賛発生中である

「ひっ…つっつめてぇーっ!」
「ウヘヘwあったかぁいwww」
「ぐぁあああ…ちょっ離してコレ、ねぇ亀井さん…」
「ええ〜」

絵里の手を掴み、なんとか顎のロックを外す田中先生
余りの手の冷たさに少し驚いた

「冷たぁ…どーしてこんなに冷えよぉとー?」
「さ、さぁ…せんせーは手もあったかいね…」

さっきの勢いはどこへやら…
思いがけず田中先生に手を握ってもらったのが嬉しくて少し顔を赤らめる絵里
田中先生が絵里の両手を自分ので包みこみ、
はぁ〜っと息を吐いて温めてあげちゃったりするもんだからドキドキが止まらない

「はぁ〜〜っ…冷え症やったら他のコ達みたいにスカートの下にジャージ履きぃよ」
「…ふえっ?えっ?」
「あ・し。見てるこっちが寒くなるわ」
「えっと、あー…それもそうなんですけどぉ……あのっせんせーはあの恰好どう思ってます?」

舞い上がって少しボーッとしてた絵里が我に返っておどおどと上目遣いで聞くと、
田中先生は先程言った姿で周りを行き交う女子生徒たちに視線を移す

「んー…女子高生らしい格好っちゃけどぉー…まっ可愛くはないかなぁ」
「…ウヘヘっwだったら絵里はぁーかなぁいw」

安心したようにふにゃぁと笑う絵里を見て思わず抱きしめたくなってしまった田中先生
日頃、好き好き言っている上にこんな可愛いこと言っちゃって、
どれだけ好いてくれているのだと照れてしまう

「はぁ?なんそれ」

ダメダメ、この年頃によくある“憧れ”やけん…と自分に言い聞かせ、
呆れた風を装いながら手を擦って息を吹き掛けてあげる
ちなみに絵里は先生の唇と自分の手との距離が思いの外近くて、
(近い近い近い近いってゆーか今ちょっとさわった?さわったよね?さわったよねぇぇええっ!?)
と心の中で歓喜の叫びをあげている

「はぁ〜〜っ……あ、そうだコレ」

お互い手から自分の動悸が相手に伝わってしまわないかハラハラしながら、
ある程度絵里の手が温まると田中先生は自分のポケットの中からカイロ袋を取り出した

「かわいい〜wあっ…あったかぁ〜いwちょっと最初からこっち出してくださいよぉwww」
「ニヒヒw忘れとったw」
「…ウヘヘw」

軽口を叩きつつ、離れていく手を寂しく感じながら渡されたカイロ袋を大事そうに抱える絵里
ただの小さなカイロだが、田中先生の私物を持っているというだけで胸いっぱいだ
嬉しそうにしている絵里に微笑みながらポケットに手を突っ込む田中先生

キーンコーンカーンコーン

「おっとぉ…ホラ、早く教室戻りぃ」
「はぁい…せんせぇは次どこのクラスですかぁ?」
「ん?次はないと。だけん保健室行ってカイロの予備いっぱい貰ってくるったいw」

田中先生が保健室と言った途端、カイロを返そうとした絵里の手が止まる

「…保健室、行くんですか?」
「おー、それにあそこはお日様が射すけん、冬はひなたぼっこにいいとよww」

絵里の様子に気付いていないのか、ニヒヒと笑っておどける田中先生

「亀井さんもサボってとまでは言わんけど、冷え症が酷いんやったら
 あったまりがてら休み時間に保健室行って道重先生に相談しぃ?」
「はい…」
「お茶出してくれるけんw」
「…はぃ…」
「あーでも人に煎れさせよぉったい、あいつ。そのつもりでおった方がいいかもw」
「………」
「…亀井さん?」

周りの生徒達はバタバタとそれぞれの教室に戻っていく中、
俯き、指先が白くなるほどカイロを強く握り締める絵里

「どーしたと?ぅおっ」

急におとなしくなった絵里を怪訝に思った田中先生が下から覗き込むと、
ドンッとカイロを押し付けられた

「ちょっ、なん…」

文句を言おうとしたが絵里の顔を見て思わず口を噤む

「……ぁ、亀井さん!」

唇を噛んで今にも泣きそうな顔をしながら踵を返して走り出した絵里
そのまま教室に戻って行くのかと思ったら急に立ち止まり、勢いよく振り向いた

「ばかっ!せんせーのばかっ!」

振り向き様叫んだ絵里の声が廊下に響き渡り、周りの生徒の視線が二人に集まる
田中先生は一瞬呆気にとられたが、すぐさま手の中のカイロを絵里に向かって投げた

「廊下走んなってゆっとろーが!あとソレあげるけん!女の子が体冷やすなバカ!」
「ぅ〜っ…ぅ〜っ……大好きだばかぁーっ!!」

受け取ったカイロと田中先生を交互に見てそう叫ぶと、絵里は自分の教室に戻って行った
一人残された田中先生
まだ少し廊下にいる生徒達と移動中の教師達にチラチラニヤニヤされ、苦笑いで返す
ガリガリと頭を掻いてポケットに両手を突っ込み、保健室へ向かう

絵里にぶつかる直前まで握ってたのだから、カイロ袋の存在なんて始めから気付いてた
ただ、こちらがホッと温まるくらい無邪気に笑うくせに、
手は痛々しいまでに冷えきっていたから、
温めてあげたくなっただけだ

…唇が触れるほど息を吹き掛けてまで?

ひたひたと静かな廊下を歩いていた足を止める
手と唇にまだ残っている絵里の手の感触
それにも気づいていない振りをしていたが…

ふにゃ…と溶けた笑顔を向けてくれるあのコを
自分のものにでもしたかったのか

そう思い至ったところで眉をしかめ、それを打ち消すようにガリガリと頭を掻いた

「…青いなぁー……」
「なにがぁ?」

廊下には自分一人だけだと思って呟いたら後ろから声がした
れいなが驚いて振り向くと、キョトンとした顔のさゆみが立っていた
いつの間にか保健室前まで来ていたらしく、出先から戻ってきた彼女と出くわしたようだ

「あービックリしたっ」
「ねぇ何が青いなぁーなの?」
「んー?別にぃ?…授業がうまくいかんかったけん、まだ未熟やねぇ自分と思っただけったい」
「ふぅーん…」

興味があるのかないのか、無表情で相槌を打つさゆみにれいなは鼻の頭を掻いて緩く笑う
さゆみが保健室のドアを開けると、廊下よりも格段に暖かい空気が二人を迎え入れた

「うはぁ〜あったけぇ〜ww」
「社会科準備室も暖房ついてるでしょう?」
「おっさんらといるより此処でひなたぼっこしてたいとw」
「相変わらず猫だねw」
「ニヒヒwさゆ、コーヒー!」
「さゆみも飲みたいから煎れて?」
「ははっ言うと思ったーw」

いつもと変わらないやり取りをして先程浮かんだことを考えないようにした
あのコが不快に思うことを承知でさゆみの名前を出したのだ
いくら好意を寄せてくれてたって教え子には手を出してはいけない
そう自分に言い聞かせてさゆみに笑いかけた





田中先生の葛藤 おわり
 

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