「さゆ、さゆ…っ!」
「ああんっ、愛くん、いいのっ!愛くん!」

私の自宅マンションの寝室にある、ダブルベッドの中央。
私とさゆは裸のまま向かい合った格好で腰を下ろして、秘部を結合させながら、互いの名前を呼んでいた。

さゆと付き合い始めて、二週間が経とうとする頃だった。
二人とも、通っている学校が夏休みを迎えたのをいいことに、さゆと私は毎日のように何度も何度も、
二人の身体の境界線がなくなるんじゃないかと思うくらいに身を重ね合った。
その日の朝も、目が覚めてから二人でシャワーを浴び終わると、またさゆのことが欲しくなってしまったのだ。

リンスの香りを漂わせる黒髪を揺らしながら、さゆのスリムな身体が私の前で跳ねる。
スプリングの軋む音が僅かに響いていて、私の目の前には、上下にふるふると揺れるさゆの小ぶりな乳房があった。
私は採れたての瑞々しい果実のようなそれを、唇でつかまえた。

「んっ…!おっぱい、吸われてる…ふふっ、愛君、さゆみの赤ちゃんみたいなの」
「あ。今、私のこと、ちょっと馬鹿にしなかった?」

私が笑うと、さゆも笑う。

「違うの。さゆみに夢中になってくれて、嬉しいの」
「だって、すごいんだ。さゆのおっぱい、甘くて、やわらかくて…こんなの、反則だよ」

薄桃色の乳首を口に含み、ちゅうちゅうと音を立てて吸い上げる。

「いいよ…もっと、もっと吸って。さゆみは、愛君のものだよ。さゆみの身体で、いっぱい気持ちよくなって」

さゆがまた、今度はゆっくりと上下運動を再開させた。
私はベッドの反動を利用して、さゆの動きに呼応させるように腰を突き上げた。
重力に逆らって、ずん、ずん、と下から力任せにさゆの身体を空中へ打ち上げる。

「ちゅ…んちゅっ…、はっ、はあっ…、さゆは、どう?私の、気持ちいい?」

私の、とは、さゆの膣で搾り上げられるだけの存在になった私の肉竿のことだ。

「うん、さゆみのっ…あん、奥に、んっ、当たってるのっ」

喘ぎながら、さゆが一心不乱に腰を振り続ける。
どこかぎこちなさを感じる動きではあるものの、清楚な肢体が快楽を貪り、快感に身悶える様は、
男としての自尊心と充足感を大いに感じさせてくれた。

もっと、さゆを抱きたい。もっと深く、さゆと繋がりたい。
この黒髪の女の子を、もっと私のものにしたい。

そんな感情が膨らんでいくと、私の全身に甘い痺れが奔って、私はさゆの体重を支えきれなくなった。
私が後ろに倒れると、それに釣られてさゆもバランスを崩し、仰向けになった私の上にもたれ掛かってきた。

「…ねえ、愛君。さゆみと、愛君の前の彼女、どっちがいい?」

息を切らしながら、突然、彼女が私に聞いてくる。

「なんだよ。この状況で、そんな質問」
「ちゃんと答えて。じゃないとさゆみ、拗ねちゃうから」
「知ってるくせに」私は口に出して答えた。「さゆ。さゆがいい」

さゆは表情を変えずに身体を起こして、前後左右に不規則な腰のグラインドを始めた。

「さゆみって、こんなに淫乱なんだよ。愛君だって、本当は幻滅したでしょ」
「何言ってるんだ。そんなことないよ」

また自然に、さゆの吐息から喘ぎ声が漏れ始める。

「聞いて。はあ、はあっ…、さゆみ、ホントはこんなエッチな女の子だって、愛君に思われたくなかったの」

私の肩に置かれていたさゆの手に、ほんの少しだけ力が籠もったことに、このとき気が付いた。

「なのに、おかしいの。変なの。身体が動いちゃって、止まらないの。
 欲しいの。もっと愛君が、愛君が欲しいの」

これが只の嬌声ではないことくらい、さゆが何を思っているのかということくらい、私には明らかだった。
私はさゆの足を右腕で抱きかかえながら、そのまま横へ、体位を入れ替えるように押し倒した。
至近距離で、さゆの目を見つめる。

「さゆ。愛してるよ」

さゆも私も、愛しい人に裏切られて、こうして現在を迎えているのだ。
不安に思う気持ちがあって当たり前だった。

それでも、さゆに安心して欲しい。
私の気持ちを信じて欲しかった。

そんな私の言葉に、さゆは何も言わず、ただ頷いた。
その目から涙が溢れる。

「なんで泣くのさ」

違うの、とまた彼女が首を振る。

「そんなこと言われたの、さゆみ、初めてだから、うれしくて…」

掛けてあげるべき言葉が咄嗟には思い付かず、ただ愛しい気持ちだけが強くなって、
私は彼女の涙をキスで拭った。

「これから先、何度でも聞かせてあげるよ。約束する」

そうして、行為が終わったあとは、特に出かける用事もなかったので、
二人ともシーツを身に纏っただけの格好で、ずっと話をしていた。
今度どこでデートしようかとさゆに聞くと、ディズニーシーに行ってみたいと言うので、
女の子はみんな夢の国が好きなんだなと苦笑しながら、じゃあチケットを取っておくよ、と私は言った。
どうせなら、その後泊まるホテルもこの前とは違うところにしようか、と提案する私の肩に、さゆが身を寄せてきた。

「愛君って、すごいよね。高校生なのに、独り暮らしなんて。しかも、こんなに広いマンションで。
 さゆみ、初めてこの部屋に来たときは、本当にびっくりしたんだよ」

「私の力じゃないよ」私はなぜかそれに弁解するような口ぶりになった。

「地元で開催された俳優のオーディションを受けたら、偶々、そこの偉い人に気に入られたらしくて。
 君は十年に一人の逸材だ、なんて。上京したら、この部屋に住めって言われた。それだけさ」

さゆにこの話をしたのは、今日が初めてだった。
私の経験上、こんな告白をした場合、他者が取る行動は、必要以上に喜ぶか、必要以上に驚くかの二択だった。
でも、さゆは驚きもせず、目を少し伏せただけだった。

「ふうん。愛君、芸能人なんだ。でも、なんでさゆみに黙ってたの?」
「私のことを知っている人なんて、いないから。さゆにはあんまり言いたくなかったんだ」

まだ研修中で、無料でレッスンを受けている身なのに給料まで出ているからだ、とは言い辛かった。

「なんか、寂しいな」と、さゆがぽつりと呟いた。

「ごめん。今度からは、ちゃんと言うよ」

ううん、とさゆが首を横に振る。

「それもあるけど。芸能界って、アイドルとか、女優さんとか、スタイルも良くて綺麗な人がたくさんいるでしょ。
 さゆみなんかじゃ太刀打ちできないなって、そう思ったの」

私は手を伸ばし、力を込めてさゆの身体を抱き寄せた。

「さっきの言葉、もう忘れちゃった?私が愛してるのは、さゆだけだよ」

私は続けた。

「役者になるのは、子供の頃からの夢だったんだ。だから、さゆにも応援して欲しいな」

いつか同じ話を里沙にしたときのように否定されるのが怖くて、目を見られなかった私に向かって、さゆは微笑んでくれた。

「愛君がテレビに出たら、すぐ人気になっちゃうよ。だって愛君、格好良いもん。まあ、背はちょっと低いけど」
「それ、気にしてるのに!」

昼の少し前くらいの時間になって、空腹を感じた私たちは、ようやくベッドから降りた。
クローゼットを開けて、目に付いた衣服を適当に手に取り、それを順に纏っていく。
さゆは替えの服がないので、皺にならないようハンガーに掛けていた、私の部屋に来たときと同じ服を着ることになる。

部屋のインターフォンのチャイムが間抜けに鳴り響いたのは、そんなときだった。





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