・・・・・・・・・奇跡が起こったの。

デパートの外に出る前に腹ごしらえをしようとたまたま通りかかったグルメゾーンでそれは起こった。
あの“愛しのれいな君”がさゆみのデパートに来ていたのだ。
しかも女装してスカートの中では可愛らしい象さんが元気いっぱいになっている。
2人のやり取りを柱の影からずっと伺っていたが、
どうやらあの金髪の女がれいな君に女装をさせたうえに、攻めて楽しんでいるようだ。
金髪にはグッジョブと言いたいところだが、どうせならさゆみが金髪のポジションに付きたかった。
はたから見てるだけでもさゆみのムスコはギンギンになっている。
ちなみに言っておくがここまでは奇跡の前哨戦というべきだろう。
どうにかれいな君からあの金髪を引き剥がすことを考えていたときに奇跡が起こったのだ。

金髪はれいな君を席に残し、トイレへと歩いて行った。
今がチャーンス!!!

トコトコとれいな君のもとへ歩いてく。

「あれぇ? れいな君じゃんw」
「あっ さゆおかえり 今ちょうどえりがトイレ行ったとこ」
「え!? さゆみの名前覚えててくれたの!?」
「は? せっかく服装まともになったのに今度は頭おかしくなったん?w」
「れいな君だっておかしいの 女装してノーパンなんて普通の人はしないのw」
「・・・だってえりが無理矢理///」
「(ふぅん あの金髪の名前はえりっていうのか)
 まぁ、そんなことどーでもいいから、これからさゆみと一緒にデートしてほしいの!」
「は? 今してるやん デートと言えるかは微妙だけど・・・3人やし」
「だぁかぁらぁ 3人じゃなくてさゆみと2人きりでデートしてほしいの!」
「意味わからん れーなとさゆが2人きりでデートなんてえりが許すわけないやろ」
「もうえりちゃんのことはいいの! さゆみとれいな君でこっそり抜け出すの!」
「だから無理やって てかれーなに『君』付けで、えりに『ちゃん』付けってキモいけんやめりって」
「え!? れ、れーなって呼んでいいの!?」
「い、いつもそう呼んでるやん(ショックで頭おかしくなったとかいな!?)」
「じ、じゃぁ れーなって呼ばせてもらうの(いつもそう呼んでるって・・・
 あの初めて会ったときからずっとさゆみのこと考えてくれてて、
 れいな君の頭の中ではもうれーなとさゆの仲ってことなの!? 嬉しい!! うさちゃんピース♪)」

このとき弟しげ君はスーパー弟しげ君になったそうです。

やばいの・・・もう完全にスカート持ち上げちゃってるの
とにかくれいな君連れて外に出なきゃ!

疑いの目で見つめてくるれいな君の腕を無理矢理引っ張って立たせる。

「な、なんすると!?」
「一生のお願いなの! さゆみに付いて来てほしいの!」
「で、でも・・・」
「えりちゃんにはまた後でってメールでも打っておいてほしいの」

試着室で<キスして>と懇願してきた時と同じ目つきになる。
我ながらこの攻撃には心底弱いと思う。

結局説得に負けて、えりには悪いけど1回家に帰ってからまた夜に会おう、というメールを送った。
でも嘘や隠し事は嫌だったから、さゆがどうしても付いて来て欲しいって言うから、と付け足しといた。
(これなら罪悪感もないし、いざというときもお仕置きされるのはさゆだから安心だ。)

しげ君に連れられてデパートの外に出る。
が、どこに向かうのかは一切わからない。

「どこ行くと?」
「うーんとね とりあえずあっちの方かな?」

どうやら市街地の中心ではなく、はずれの方に向かうらしい。
だが、この先にあるのはゲーセンとファミレスがあるくらいだ。
あれ? そういえばいいんちょの家ってこっちの方だったかも。

「なんでえりは呼んじゃいけんと?」
「・・・さゆみは2人っきりになりたいの」
「でも、さゆはれーなよりえりの方が好きやん なんか理由でもあると?」
「(なんだかグチグチうるさいの) 理由ね・・・ゲーセンに着いたら教えてあげるの」

結局さゆがおかしくなった原因は何もわからないまま、ただ目的地はゲーセンだということだけがわかった。
時間は2時半。
道を歩いてる人は皆、デパートの方へとすれ違ってゆく。
さすがに女装にはもう慣れたが、
スカートの下がノーパンという状態では注意しすぎてもしすぎるということはない。
突風には十分気を行けなくては。

そんなことに気を配っていたせいで、さゆのズレた言動に違和感はほとんど感じなかった。
昼飯を食い損ねたすきっ腹をさすりながら一見平和な整備された午後の歩道をさゆと並んで歩いてゆく。

10分も歩くと、目的地のゲーセンにたどり着いた。
さゆとは来たことがなかった。
ただ、このときになって1つの疑問が浮かんできた。

「・・・ゲーセンならえりも呼べばよかったやん」
「なんか言った?」
「いや・・・」

あいかわらず何かおかしいとは感じていたが、えりを置いてきたという点を除いては何も不自然なことはない。
それにえりに内緒でさゆと遊んだことだってざらにある。

「何しよっかなぁ♪」

とりあえず定番的にユーフォーキャッチャーへ向かう。
えりがどうしても欲しいといったぬいぐるみを取るために、2000円近く使ったことを思い出す。
そういえばあの時、取れたときの感動のあまりちょっと泣いちゃったっけ?

「あ あのぬいぐるみ欲しいの!」
「・・・うーん あれは無理やね」
「なんで?」
「こう見えても、ユーフォーキャッチャーは結構やったことあるっちゃん あのぬいぐるみはまず取れんね」
「そっかぁ でもあのぬいぐるみ欲しいなぁ あっ、ちょっと待ってて!」

何か思いついたようにさゆは走って消えて行った。
今のところ、大した事件も起きてなかったが、これじゃぁ本当にただのデートになってしまう。
それって結構マズいんじゃ・・・

さゆが店員を連れて戻ってきた。

「このぬいぐるみなの」
「かしこまりました」

いやに低姿勢の店員はユーフォーキャッチャーの鍵を開けて、
さゆの指差したぬいぐるみを取り出してさゆに渡した。

「ほかにもお気に召しました商品はございますか?」
「ううん また見つけたら呼ぶから、そのときはよろしくなの」

さゆが手をヒラヒラと振ると、店員はそそくさとれーな達から離れて行った。

「見て! かわいいの」
「なんでぬいぐるみ貰えたと?」
「さゆみが可愛いからじゃない?(まぁ、諭吉さん10人もいれば愚民を動かすことなんて楽勝なの)
 れーなも何か欲しいものがあったらさゆみに言って?w」
「・・・・・・うん」

色々と腑に落ちないことはあったが、
今のところれーなにとって不利になるようなことは何も起きてないからとりあえず放っておいた。
今度はあのキーホルダーが欲しい、と奥のユーフォーキャッチャーまで腕を引っ張られていく。
れーなが男の格好、つまりいつも通りの格好なら間違いなくカップルだと思われるだろう。
はしゃいでるさゆも案外悪くないな、と思った。

「うん これなられーなが取ってあげるったい」

コインを入れて1つ目のボタンを押す。
隣ではさゆが目をキラキラさせて、アームとキーホルダーを交互に見つめている。
ユーフォーキャッチャーの光に照らされたさゆの白い顔が暗いゲーセンの中でひと際映えていた。
まぁ、あのときのえりの方が美しかったけれど。

そんなことを考えながらでも、起用に一発でお目当てのキーホルダーにアームを引っ掛けた。
普段は“へたれーな”などと言われてるけど、これでさゆも少しは見直したかもしれない。

さゆは待ちきれないといった様子で、屈んでキーホルダーが上から落ちてくるのを待ち構えている。
ちょっと後ろに下がってその光景をほほえましく眺めていると、スカートの端からお尻の割れ目が少しだけ覗く。
ドキッとしたが、服を替えて来たんだからその時にパンツぐらい買ってくればよかったのに、と少し変に思った。
まぁ、れーなにとっては朗報であろう。

「れーなすごーい!!」
「へへっw そーやろ」
「ねぇねぇ 次は一緒にプリクラ撮りたいの」
「ん いいよ」

手を引かれてゲーセンの端っこへと小走りで行った。



その頃えりちゃんは・・・

「くそっ! れーなめ・・・えりを裏切るなんて許せない!! さゆもお仕置きですよ!!」

トイレから戻ったえりちゃんはテーブルの上に残された昼飯をほおばりながら、かなりご立腹の様子。
ゴクンと口の中のものを飲み込んで勢いよく立ち上がる。

「ぷはぁっ 絶対ゆるさな・・・あれ? さゆ?」

グルメゾーンの脇をスーツ姿の大男に担がれたクレイジープリンセスが通り過ぎていく。

「うーん・・・どーゆーこと? ま、いっか 家帰って、お仕置きプランでも考えとこ」

言葉とは裏腹に、ちょっとさゆらしき人物が気になったえりちゃん。
後をつけてみる。

「うーん・・・やっぱりさゆかなぁ? でもなんで・・・誘拐って感じでもないし」

クレイジープリンセスはデパートの入口に停められていたでっかいリムジンの中に投げ込まれた。
中でわちゃわちゃと動くシルエットが見えたが、リムジンはそのまま走り去っていった。





つづく
 

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