#14 <<< prev





また見られてる。

朝になっても開かれることのないカーテン。
安全ピンで少しの隙間も許さないぐらいにびっちりと閉ざされたそれの、もっと小さな隙間から生ぬるい視線を感じた。
今日もトイレで隠れて着替えないといけないのか・・・。
光明射すことない真っ暗な部屋の中、まともに寝ていないのはこれで何日目だと思考するも、
小学生レベルの計算もまともにできなくなった愚鈍な自分の脳じゃ、とりあえずまだ生きているという事実しか確認できなかった。
部屋というものは一番安心できる自分だけの空間。
この部屋はもう、その役目を果たしていない。
限界は近かった。


*****


「いつ見ても感動しますねこれ!巻頭カラー!」

"TATTOO launge"というゴシック体のロゴが極彩色を放っている、悪趣味丸出しのまぁまぁ分厚い雑誌。
それの見開き1ぺージをこれ見よがしにれいなに見せてくるのは、タレた目が特徴的なヘラヘラ顔のひょうきん男。

「小春、それはもういいけん。それよりインク補充してほしいっちゃけど」
「やっぱり伸ばして部屋に貼ろうかな〜。だってそうそうないもんねこんなの。
 こ〜んな有名な雑誌に小春の知り合いの作品が巻頭で載っちゃうなんて!」
「・・・」

もういいや。自分で行こう。
施術場の椅子から立ち上がって、道具棚を漁り、のたのたとパレットに黒のインクを補充する。
彫師のアシスタントという仕事を忘れてここのところ小春はずっとあの調子だ。
というのもれいなが投稿したタトゥー作品があろうことか雑誌の巻頭に、しかも4ページもの枠を取ってでかでかと載ってしまったからなのだが、
加えてその雑誌が彫師業界の中では大変ポピュラーなタトゥー専門誌で、タトゥーというアブノーマルなジャンルにも関わらず
発行部数が50万部を超えるという一大書籍なのも小春が狂喜乱舞する理由の中に含まれる。
最初こそれいなも今の小春と同じように大喜びしたものだがあまりにも小春が騒ぐので、人の振り見て我が振り直せというのか、
段々と冷めていって今に至るというわけだ。何事もやりすぎはよくないという教訓。

「これに載ってから田中さん指名の予約、結構入ってますもんねー。有名雑誌の巻頭の力は凄いですよほんと。
 あー小春も一度でいいから載ってみたいなあ。このまま頑張れば3年以内には載るかなあ載りたいなあ」
「おまえじゃ無理無理」

純粋な青年の夢を片手でりんごを潰すかのごとく絶望的な言葉で粉砕したのはこの店のオーナー、吉澤ひとみ閣下様である。
閣下は咥えた煙草を人差し指と中指で挟んでからふぅー、と部屋中に副流煙を蔓延させ、小春の持っている雑誌を半分寝てるような目で見つめながら、

「ま、予想はしてたけど本当に1発でラウンジの巻頭飾っちゃったんだかられいなは本物なんだろうね。
 小春も私の言葉にショック受けなくてもいいよ。"普通"は無理なんだからこんなのは」
「普通は、って・・・まるでれいなが普通じゃないみたいな言い方ですね」
「普通じゃないよ」

当たり前でしょ?みたいな顔をして、また1つ煙を吐いてから随分短くなった煙草を携帯灰皿に捨てると吉澤さんはさっさと背中を向けて、

「天才だよおまえは」

なんて、抑揚の無い声で言った。


*****


さて、もういい加減慣れたものだが吉澤さんの独断によりまたも昼前だというのに店を閉めてしまい、
そのせいで時間を持て余していたれいなと小春は2人で飯でも食いに行くかと部屋を出たときのことだった。

「あ」
「ん? って、あ・・・ガキさん」

どこか出かけていた帰りなのか、珍しいカッチリとしたフォーマルスーツ姿のガキさんとばったり出くわしてしまった。

あの夜のことを思い出して自然、顔が火照る。
あの夜のことってのは先日のエレベーターが故障してガキさんと2人閉じ込められてしまった時のことなのだが・・・
れいなはその時ガキさんから告白紛いのことをされたのだ。あれから意識しっぱなし。
やはり他人から好意を持たれるというのは嬉しいものである。

「や、やっぴぃ」
「ふふ。田中っち、顔赤いよ?なんで?ふふ」
「赤くないやろ」
「そうだね赤くないね〜」

相変わらずれいなのことは子供扱いなんだな。
小春、邪魔ですかね?という声が後ろから聞こえたがそれに適当に首を振って、ガキさんの服装を改めて注視した。

「なんか珍しい格好してるっちゃけど・・・」
「ああうん。バイトの面接にね、行ってたのよ」
「へえ。バイト始めるんやね」
「さすがにずっとタダ飯喰らいの居候ってわけにはいかないわよー
 吉澤さんはいいって言ってるんだけどね。ま、そこらへんはちゃんとしないと」
「むしろバイトっつーか就職しちゃえばええやん」

ガキさんはれいなの言葉を聞いてキョトンとしてから、すぐにいたずらっ子のような邪悪な笑みを浮かべて、

「田中っち。忘れたの?私がなんのために日本に来たのかを。あなたをポリネシアに連れて帰るためなんだけど?
 長く滞在するつもりもないのに就職なんてするわけないでしょ。田中っちが帰るって言ったらバイトもしなくて済むんだけどねえ」
「帰らん」
「ほらそうやって言うから〜。まだまだ日本にいなきゃいけないみたいね私も」

というかれいなは一生帰らんつもりなのだがそれを言ったらガキさんはどうするんだろう?

「れいなは向こう行くつもりないっちゃけど・・・ガキさんずっと日本におればええやん」
「え?」
「ずっとこっちにおれば?ガキさん帰るってなるとやっぱ寂しいし、ずっとこっちにおってほしいっちゃけどれいなは。てか、おれよ」
「・・・」

なぜかガキさんの顔が茹でたタコみたいに真っ赤になった。

「っ、じゃあね田中っち!、と久住くん!じゃ!さよならっ!」

バイバイとれいなが返すのも待たず、ピューと擬音がつきそうなくらい早足でガキさんは吉澤宅へと消えて行った。
よくわからないままれいなと小春は2人顔を合わせ肩をすくめ、男2人で飯を食べるにはうってつけの店、すき家へと足を運んだ。


*****


「なんかさっきの、プロポーズみたいでしたね田中さん」
「はぁ?」

おろしポン酢牛丼の牛肉だけを食べて、余ったご飯を半分小春の器に移し変えていた手が止まる。
こいつは今なんて言った?

「いやだって、ずっとここにいてほしいとかーいろとか。つまりそういうことですよねぇ?」
「なにがそういうことだよ。全然まったくこれっぽっちもプロポーズなんてしたつもりなか」
「そうですかぁ。でもあの様子じゃ少し誤解されたかもですね。顔真っ赤でしたし新垣さん。
 小春はてっきり田中さんが絵里さんから心変わりしたのかと思いましたよ〜なんか新垣さんといい雰囲気だったじゃないですか」
「心変わりなんて誰がするか。れいなは昔も今も絵里一筋っちゃん」

え〜?なんて間延びした声で牛丼とは名ばかりの白米丼に口をつけた小春が目線だけをれいなに向けてポツリと、

「モグモグ・・・じゃあ告ったんすかぁ?」
「え?」
「告白ですよ。こ・く・は・く。したんですか?絵里さんに」
「なん言いようと。絵里は今、」
「フリーですよね」

・・・・・・そういえばそうだ。
小春の言う通り、絵里は今フリーだ。高橋とはあのホテルの一件で終わったはず。
そういえば、じゃねーよ。好きな女がリボンつけて貰われるのを待ってる状態だというのに
それに気付きもしないまま牛丼なんて食べてる場合か。
今は、絵里とヨリを戻す絶好の機会じゃないか。こんな重大なこと、今の今まで忘れていたなんて。

「・・・ちょっと行ってくるけん」
「へ?どこ行くんですか田中さん」
「絵里んち」
「えっ。 あ!つか飯代!小春、今月900円しか自由に使える銭が」


*****


タクシーを捕まえ、絵里の家に向かって10分程経過したぐらいか。
信号待ちで止まって、なんとはなしに窓から街の風景と人間観察をしていたら、

「・・・ん?」

あれは・・・さゆじゃないか。
200m先の歩道で、何を急いでるのか知らんがツカツカと結構なハイスピードで歩いているさゆを発見した。
さゆにしては珍しく脚を出していないロングパンツ姿で、それでもスタイルと顔が良いせいで人目を惹いているのが遠目でもわかる。
しかも・・・後ろに男を連れていた。
これにはさすがにビックリしたのだが、そうか。もう春だもんなあ。
さゆにもそりゃあ浮いた話の1つや2つあったっておかしくはない。
あの外見で今まで男に縁が無かった方がおかしかったんだ。
男の方は帽子をかぶっているので顔はわからないのだが見た感じ背も高いし
体型も痩せすぎず太すぎずの丁度良い中肉中背で、なかなか見た目的にお似合いのカップルであった。
ヘコヘコ後ろをついて行っているあたり、尻に敷かれている感は否めないのだが。
ま、とりあえずは心の中でおめでとうと言っておこう。


*****


午後3時を回って、決闘場所である亀井絵里宅に到着。
以前ここに来たときは・・・窓から侵入しようとしたんだっけな。
結局未遂に終わってしかもフられたんだが。
今日は前回のような惨めたらしい結末にはさせないさ。

ピンポーン
しーん・・・

ピンポーン
しーん・・・

ピンポ

「ああもう!仕事かよちくしょう!いないやん!」

あてつけにドアをガンっと蹴ってからドッカリと地べたに座る。
絶対に帰らん。来るまでここで待っててやる。
前もこんな感じで絵里を待っていたな。日本に帰ってきた初日のことだっけか。
あの時はこうして座ってから数分もしないうちに眠気が襲ってきて、

「ふわ・・・」

そうそう、こんな風に。


*****


『マジでキモイっちゃん!離せ!』
『キ、キモイ!?俺のどこがキモイんだよ!かなり勇気出して告ったのにそれはねえだろうがよ!
 しょうがねえだろ好きになっちまったんだから!真面目に返事してくれよ!』
『触るなキモイ!マジでキモイ!』
『こいつ・・・!チビのくせに・・・!』
『ひっ!』

なめくじが迫ってくる。
逃げよう、そう思っても震えて足が動かない。
弱くて情けなくて、女みたいな顔の自分が嫌いだ。
あの痛みをまた味わうのは嫌だ。助けて。誰か助けて!

『・・・え?』

まるでスーパーマンのように。
オレンジのストライプ柄のパンツ丸出しで、空から、女の子が、降ってきた。
訂正。降ってきたという例えはちょっとおかしい。
舞い降りた、というのが適切なくらいその人は綺麗に、カッコよく着地してれいなの前で大手を広げた。

『弱いものイジメはよくないですよ!』

弱いもの・・・まぁ間違っちゃいないが。
ところで本人気付いていないようだがスカートが完全に捲れ上がっていて後ろ側がパンツ丸見えである。

『ゲッ!3年の亀井絵里!別名、暴走列車!なんでおまえがしゃしゃりでてくんだよ!かか関係ないだろっ!』
『確かに関係はないけどこんな目立つところで大声で騒いでちゃ公共の迷惑だし、なにより嫌がってるじゃんその子。やめなよ』
『うるせー!大体こいつが俺をキモイとか言うから、』
『さっさとどっか行かないと潰しますよ?』

その声色にれいなまで背筋がゾクッとなる。
彼女がドスの効いた声でそう言った瞬間、男は背を向けてさっさと走り去って行った。
覚えてろよー!というお決まりなセリフを残して。

『ふぅ。まぁったく。ああいう野蛮なのは逆恨み激しいから気をつけてね。・・・あ、大丈夫?』
『・・・』

れいなの方に向き直った彼女はとても愛らしい顔をしていて、
こんな可愛い子があんなアグレッシブなこと平気でやってたのかと思うと顔の造形で人は判断できないなと改めて確信した。

『わっ。可愛い〜女の子みた〜い!ちょっとヤンキーっぽいけど。君ほんとに男の子?これじゃあ同性から迫られるわけだよー』
『・・・男で悪かったっちゃね』
『なにそれどこの方言?君おもしろいね・・・あ。髪、汚れてるよ』

女の子は、無防備にれいなに近づいた後、れいなの長く放置して中途半端に伸びきった茶髪を一房持って手でゴミを払い落としてくれた。
そしてなぜかそのままマジマジと髪を観察している。女は他人の髪を調べるのが好きなのか?こんなこと、前もされたな。

『綺麗な髪だね。君みたいな女顔の男の子は誤解を受けるから髪を短くすべきだと思うけど・・・似合ってるからそのまま伸ばすべき』
『・・・つい最近、別の子からは髪を切れって言われたっちゃけど・・・』
『だめだめ。こんな綺麗なの切るなんてもったいないでしょ? ね!』

そう言って、見た者全てを幸せにすることができそうな大輪の花のような笑顔を浮かべた。
その笑顔に心、奪われた。

『・・・うん。 ところでパンツ丸見えっちゃよ』

亀井絵里。
笑顔が世界一似合う少女に恋をした。


*****


起きて〜

「・・・ん」

朝〜朝だよ〜〜朝ご飯食べて学校行くよ〜

「・・・。んなアホな」

目を開けると目の前にはアルミでできた手摺があって、ああそういえばここはアパートの廊下だったなと思いながら横を見ると、

「おはよぉ」
「・・・はよ」

待ち人来たり。絵里がいた。

「絵里の部屋のドアはそんなに寝心地いいですかね?」
「硬い」

よっこらしょ、と立ち上がる。
絵里が帰って来たということは今は17時過ぎぐらいだろうか。日が沈みかけて空が藍色に染まっていた。

「絵里。話、あるっちゃん」
「・・・うん」

部屋に入れてと言おうとしてやっぱりやめた。ここで言っても別に不都合はない。
誰かに聞かれるのが恥ずかしいとかそんなこと思ったこともないし。
深呼吸をしてから絵里の目を真っ直ぐに見つめ、

「好いとう」
「・・・」
「れいなと、付き合って」
「・・・」

言った。
さりげなく自分の胸を触るとドックンドックンと心臓がこの身体を突き破らんばかりの勢いでリズムを乱しているのがわかった。
緊張はしているが、自信は、ある。
さゆも、あの高橋ですら絵里がれいなのことを好きという意味に捉えられるようなことを言っていた。
そいつらの言葉を信じる。

れいなと絵里には今、なんの障害もない。
お互い好き合っているならもう結果はわかりきっているだろう。勝利以外の結果などありえない。
さあ早く返事をよこすんだ絵里。どうせYESなんだろ?

「・・・ごめん」

ほらな?これで晴れてれいなと絵里は元鞘に

「って、ええええええええええええええ?!??!!」
「・・・」
「・・・。あ、冗談?なんだ」
「冗談じゃないけど・・・」
「嘘やーん!!!」

なんでだよ!?

「違うの!あの、誤解しないでほしいんだけど・・・絵里は、」
「なんだよ」
「絵里は、やっぱり今もれいなが好き・・・なんだと思う」
「!! って、じゃあなんで!?」

好きならいいじゃん。なんでフるんだよ意味がわからん。
絵里は気まずそうにれいなから目を逸らして、

「まだ高橋さんとちゃんとお別れしてないの。だからまだ、友達でいてほしい」
「・・・は?」

高橋?いや、高橋とはもう終わっただろ。なんでそいつの名前が出てくるんだ。
そいつが絵里の前から姿を消したからこそ、れいなはこうして告白しにきたというのに。

「高橋って・・・過去の男やん。どうでもいいっちゃない?」
「よくないよ・・・絵里のせいであんな嫌な形で別れちゃって、それですぐれいなに乗り換えとか・・・。
 高橋さんを振り回しておいてさ・・・超、最低女じゃん絵里」
「そんなんいちいち気にせんでもいいやろ。終わったことやし」
「気にするよ。こんな中途半端なままれいなと付き合いたくない。高橋さんに今までのお礼と、謝罪、しなきゃ」

ムッカー
お礼と謝罪ってなんだよ。
コーヒーギフトでも送って、それにごめんなさいって書いた手紙を付けとけばいいじゃないか。
下手な謝罪言葉よりもそっちの方が嬉しいだろ。見るからに好きそうな顔してるし。何ってコーヒー。

「高橋高橋って・・・れいなのこと好きなのに高橋高橋高橋。
 なんなんそれ!じゃあ高橋とちゃんとさよなら〜したられいなと付き合うん?」
「う、うん。・・・たぶん」
「あぁ〜!?たぶんってなによたぶんって!ちゃんとしっかりしれよそのへん!」
「っ、れいなだって!れいなこそ新垣さんとはどうなの?絵里に告る前にちゃんと清算したの!?」

なぜかガキさんの名前が唐突に出てきて一瞬どもった。なんて返せばいいのかわからなくて言葉に詰まる。

「っ。・・・ががががががっきーさんはかか関係ないっちゃろーが!」
「・・・なんでそんな焦ってるの。顔すごい赤くなってるけど・・・」
「赤くなか」
「嘘つきーーー!新垣さんとなんかしたんだ!・・・・・・わかった。キスしたんでしょ!?」
「キスはしとらん!」
「"は"ってなによ"は"って!まさか・・・・・・寝たんだ」
「! っこの・・・」

ポフッ
ピコピコハンマーより軽めの、打撃力などほぼ無い形だけのグーで絵里の頭を小突いた。
『落ち着け』と『めっ』という意味を込めて。
頭を押さえた絵里がれいなを驚いた顔で見上げる。

「ガキさんを巻き込むな。それに、言ってるっちゃろ。れいなは絵里が好きやけん、抱くはずなか」
「・・・」
「れいなは絵里とヤりたいの!!!!!!」
「!」

ボンっと小爆発でも起きたかのように絵里の顔が茹で上がる。湯気まで出そうな勢いで。

「・・・・・・絵里だって〜・・・」
「だ、だって、なん?」
「・・・なんでもなぃ」
「・・・おまえな。言えよそこは」

お互いに落ち着きを取り戻して、静かな空気が間に流れる。
絵里が顔を下に向けながら、

「疑ってごめんね。でも不安なんだよ。絵里とれいなには今、繋がりがないから」
「不安なら付き合えばいいやん」
「それはだめ。その前に高橋さんときちんとお別れしなきゃ。だから、待ってて」
「・・・待つってどんくらい?」
「わかんないよ。でも、お願い。勝手だとは思うけど・・・」
「・・・」

待てと言われると承諾するしかれいなには選択肢がない。
さんざん絵里を待たせた経験があるため、それを言われると極端に弱いのだ。反抗する気もなくなる。

「・・・わかったよ・・・いくらでも待つけん」
「ありがとう・・・。それまで他の女の人のところに行っちゃだめだよ?」
「・・・それもわかっとぅよ」

しかしフったくせに浮気するなとかホント随分勝手なこと言ってんな〜。
別に、する気なんてないし従うけどさ。惚れた弱みだなあ。
・・・。会話が続かないし用件が済んだのでここらが潮時かと思い、帰る素振りを見せる。

「・・・じゃあ」
「・・・うん」

気まずかったのでさっさと背を向けて行こうとすると後ろからそれを抑制する力が加わった。
なんだと思い後ろを見ると絵里がれいなの服の裾を掴んでいる。

「なん?」
「ちゃ、ちゃんと絵里のことだけ見ててよ」
「はいはいわかっとぅよ。じゃ」
「ほんとに!」
「・・・あーもう」

体ごと向き直って、できるだけ優しく絵里の頭を撫でた。
安心しろ。れいなにはおまえ以外はありえない。おまえしかいない。おまえがいいんだ。

「・・・。今度こそ、帰るけんね」
「うん・・・」

頭を押さえて俯く絵里を見て自分も恥ずかしくなって、その場から早足で退散した。


*****


「はぁ」

いや、最後いい雰囲気だったけどさ。
フられた事実は変わらないわけで。つまり2連敗ってこと。

『待ってて』

「・・・」

まぁ4年くらいなら、れいなは待つけどさ。
いややっぱ4年は無理。





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