#22 <<< prev





れいな達の住んでいる街はわりと都会な方で、遊びのネタには困らないほど娯楽施設が豊富だ。
テーマパーク等を運営する各会社がシェア争いを繰り広げているようで、町内一周をしたら違う遊園地を少なくとも2回は見れるだろう。
中でもアップルフロントエージェンシー、通称AFAが経営する巨大テーマパーク、ハローランドは連日何万人という来場者が訪れるほど。

「人・・・多っ!」
「平日でもおかまいなしに混んでるね」

というわけで、ハローランドにやってきたのだ。

「さゆ。予め言っておくっちゃけど、れいなは絶叫とおばけとコーヒーカップは絶対乗らんけんね。あと観覧車も」
「・・・。乗るものないじゃん」
「絶叫は乗れないことはないっちゃけど好きじゃないけん。どうしてもって言うなら乗るけど・・・」
「さゆみも好きじゃないけどさあ、せっかく来たんだし1つぐらいは乗っておこうよ。有名なマノコースターとか」
「コアラの形のやつやっけ?まぁ1つぐらいなら・・・」
「よしっ。じゃあ1つ目はそれでGOー」

れいなの隣にいるのは道重さゆみ、ただ1人。
男女1人ずつペアで遊園地。つまりデートのようなもんだ。

「せっかくのデートなんだから楽しまなきゃね」

と、世の男性のハートを一発で射抜けるような華やかな笑顔を見せながらさゆがれいなの手を握ってきた。
デートのような、ではないな。これはデートだ。
なぜなら今日1日だけは道重さゆみは田中れいなの彼女なのだから。


 **********


視界に映る2組の男女に悟られぬよう自らが透明人間になったつもりで後を尾けていく。
テーマパークという場所は都合がよかった。人が多いので爆発でも起きない限り、まず音では気付かれない。
ただ1つ問題があるとすればターゲットが人の中に紛れて見失ってしまうことだけだ。それだけは避けたい。

「・・・」

楽しそうに談笑しながらアトラクションに乗る様は誰がどう見てもカップルそのものだ。
同じくらいの背丈でどちらも髪が長いため姉妹に見えなくもないが、繋がっている手がそれを否定させる。
雰囲気だけ見たら今すぐキスでもしかねない程の仲睦まじさ。1秒たりとも2人を見逃せない。
絶対に許さない。
絶対に許さない・・・


*****


ぎゃああああああああああ
ひいいいいいいいいいいい
うわあああああああああん

「ちょ、ちょっと、休憩・・・」

いつものローテンションはどこへやら。さゆは今にもスキップしそうな程の足取りでれいなの腕を取ってあちこちへ引っ張り回して行く。
嫌がっても無理矢理付き合わされるので入場してから1時間後には半ば諦めてさゆの好きなように身を任せていた。
これじゃあ恋人というか・・・尻に敷かれているダメ夫と肝っ玉母ちゃんが若い頃の気分で結婚記念日デートでもしているみたいだ。
言うまでもないが最初に言ったれいなの絶叫は乗らないという言葉はもうさゆのHDDの中から完全に消去されている。

「早く。次行くよ。次はあれね。急流下り」
「えっ、」

さゆの指が差す方向を見ると、傾斜85度くらいのほぼ直角の山の頂上から船の形をしたトロッコが水しぶきをあげて真っ逆さまに下っていた。
地球の重力に逆らうことを放棄したその船はそれだけじゃ飽き足らず水の流れに沿ってグルグル回ったり、上下に激しく揺れたりと
見ているだけで今朝食べたブラウニーを戻しそうだ。
言っても無駄だろうが一応、

「乗りたくなか・・・」
「ダメ。ほら早く。今ならちょうど空いてるから」
「・・・。さゆ、おまえ絶叫得意やったっけ・・・?」
「全然得意じゃないよ。れいなと一緒だから平気なだけ」
「・・・」

策士め。
んなこと言われたら嫌だなんて言えないじゃないか。

「行くよー」
「うわあああああああああん」

ズルズル・・・


*****


さゆは本当に容赦なしだった。
れいなの言葉はさゆにとっては校長の長話と同じく右から入ってそのまま左に通過していくだけのもののようで、
何を言ってもさゆを止めるストッパーにはなりえなかった。
だがいつもしかめっ面のさゆが恵比寿様のように目を垂れさせながら口を開けて楽しそうに笑う様は、
れいなの船酔いにも似た気分の悪さを一瞬で吹き飛ばしてくれて、その笑顔だけでどんな乗り物にも乗れた。
れいなとさゆはハローランドを全制覇するくらいのたくさんのアトラクションに乗り、気が付けば時間は17時を回っていた。


*****


「オエエエ・・・」
「ちょっと、いつまで蹲ってるの。大丈夫?」
「頭がぐるんぐるんしとぅ・・・だけんコーヒーカップは乗らんてあれほど言ったのに・・・」
「だってもう乗ってないのあれくらいしかなかったんだもん。それに混んでなかったし」
「別に乗るだけならよかったっちゃん・・・ハンドルをアホみたいに回す必要はあったと?
 ちょっとマジで休憩させて・・・っておい!引っ張るなって!れいなの話聞いとーと!?」

鬼かこいつは!

「次はあれ!」
「・・・!えっ!?」

ズルズルと引っ張られた先に見えたものはおどろおどろしい看板が背筋をゾクッとさせる、遊園地の代表的アトラクション。
おばけ屋敷だった。

「ままままま待った!これはいかんやろ!無理!無理無理無理無理無理!無理!」
「さゆみだって入りたくないけどここの人気スポットだし、せっかくだから入らなきゃ損だよ」
「ダメダメダメダメダメ!れいなホント、おばけは無理っちゃん!これだけは許さんとよ。断固拒否する!
 どうしても入りたいなら1人で行けばいいっちゃろ。れいなここで待っとぅよ」
「だーーーーーーーーーーーーーーめーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「あっ!だから引っ張るなって、ちょ、あ、だめ、あ、あああああああああああああああああああああ」

もちろんれいなに拒否権など無いのだった。
入場口に垂れ下がっている真っ黒なカーテンをくぐって中に入ると一面闇の世界が広がっていた。しかも寒い。
いつ何が出てくるのかわからないのでファイティングポーズを取ったまま、気持ち早足でどんどん進む。
まるで自分が人間界から魔界に入ってしまった初心者冒険家で、拳一つで未知のダンジョンを探索しているかのようだ。
さゆは自分が入りたいとかこいてたくせにいざ入ると臆病風に吹かれたのかさっきから小さい声でやだやだ怖いよと呟きつつ、
れいなの腕をがっちりホールドしたまま離さない。しかもこいつセコイことにさりげなくれいなを盾にして背中に隠れてやがる。
あの勢いはどうしたんだ。

「さゆ・・・そんな強い力で腕掴まれると苦しいんやけど」
「やだやだ怖いよ・・・成仏して・・・天国に逝って・・・」
「・・・」

聞いちゃいない。

「なんか・・・最初ビビってたっちゃけど入ってみるとそう大したことないみたいっちゃよ?不気味な置物が置いてあるだけ」
「ほんと?そんなこと言ってさゆみを怖がらせる気なんでしょ。絶対腕離さないから」
「・・・。まぁいいけど・・・」

実はさっきからさゆの胸がポヨンポヨン当たっていてそれにばかり気が向いているせいかおばけとかかなりどうでもよくなっていた。
集中していないと下半身が大変なことになってしまうためビビっている余裕がないのだ。
おっぱい当たってるっちゃけどと言うと殴られそうなのであえて言わない。それに、悪くないし。そこはやはり男子なので。
なんて、さゆの胸ばかりを気にかけていておばけに対して無防備なのがいけなかった。

「!!!」

和室のような部屋を歩いている時だった。
突然真横の障子からビリビリと和紙を破るような音がしたと思ったら無数の手が現れたのだ。
完全に不意を突かれたれいなはさゆのおっぱいの感触を噛み締めながらそこでプツリと意識を失った。


 **********


「ガキさん。発注しておいたメロンパンが1つ足りないんだけど」

小ぶりなケツを俺に向けながら商品を棚に陳列していた購買の責任者、新垣里沙は俺の言葉に数秒の時間を回想に費やした後、
思い出したようにポンと手の平に拳を置いて、

「あ!ごめーん!お金だけレジに入れて食べちゃってた。バーコード通してなかったわね。ごめんごめん」
「そうじゃねえよ!なんで店の商品を店員のガキさんが一目散に食ってんだよ!食うなっつったろ!」
「だって寝坊しちゃって朝何も食べてこなかったのよ。つい手が出たのね」
「・・・はぁ。ま、いいや」

ガキさんの奇天烈すぎる言動行動は今に始まったことでもなし、いい加減俺もずっと付き合ってりゃ慣れてくるってなもんだ。

「まぁいつもの調子取り戻してくれたようで安心した。ここ最近ずっと元気なかったからな。なんかいいことあったの?」
「心配してくれてたの?ありがと〜!もう元気だから大丈夫」
「べべべべ別に心配とか別に」
「入院してた私の友達が無事に退院してね。仕事とかで最近すれ違っててなかなか会えなかったんだけど今週お休みがあるじゃない?
 久しぶりに会えるな〜って今からちょっとワクワクしてるの」
「・・・あっそう」

聞かなきゃよかった。
昨日までこっちがウンザリするくらい溜息ばかりついていたのに恋する女ってのはこうも単純な作りしているんだなあと。
俺のバカにしたような視線を受けてもガキさんは浮かれていて全く意にも介さないようでニコニコしている。
その顔を見て、ガキさんの先ほどの発言に少しカチンときたのもあってか俺はいらぬ対抗意識みたいなものに火がついてしまったようで、

「・・・・・・。あのさ」
「なに?」
「そのガキさんの"友達"ってヤツに会ってみたいんだけど」
「え?田中っちに?愛ちゃんが?」
「うん」

田中っていうのかそいつ。やけに俺は田中に縁があるな。断ち切りたい縁なんだが。

「いいよ〜じゃあ私が住んでるマンション来なさいよ。田中っちもそこの住人だし、絶対すぐ仲良くなれるから!」
「そ、そうかな」
「田中っちとってもいい子だし愛ちゃんと気が合いそう!何時に待ち合わせしようか?私が住んでるとこわかる?」
「いや」
「じゃあ近くの○○スーパーにお昼頃に待ち合わせて、それから・・・」


*****


「・・・ん」

夢から現実へと徐々に覚醒していく感覚。
まだ夢の世界に漂っていたいと思いつつもそれに逆らわずに目を開けた。

「おはよう」
「・・・さゆ・・・?」

さゆの顔が目の前にあった。
なんでだろうと思う間もなく、さゆの膝の上で寝てるからか、と頭に確かに感じる肉感で納得した。
頭は気持ちよくても首から下は固いベンチの上にあるので刺された傷が少し痛い。
なんでれいなはこんな人がごった返している場所で膝枕などという衆目をこれでもかと浴びるような痴態を晒しているんだろう。

「れいな、おばけ屋敷で失神したの。覚えてない?」
「・・・・・・。忘れてたっちゃけど、さゆの言葉で今思い出したとよ」

どうやってここまで移動してきたのか、気になるが恐ろしくて聞けない。
思わず両手のひらで顔を覆った。

「恥ずかしか・・・。女の子の手前、失神するとか・・・。カッコ悪すぎっちゃろ・・・」
「今更恥ずかしいとか、そんなのないでしょ。何年れいなと顔つき合わせてきたと思ってんの」
「いや、だって・・・今日はさゆの彼氏やろ?れいなは。頼りないとこ見せたくなかったっちゃん・・・」
「・・・」

さゆの顔が紅葉のように赤く染まっていった。元が色白なのでツートンみたいでおもしろい。

「・・・。そういうの、反則」
「本当のことっちゃろーが」
「はいはい。あー暑い暑い」

と言って手で顔をパタパタと仰ぐさゆ。
・・・・・・。
少々れいなが情けない姿なのが傷だが、この雰囲気。渡すなら、今だ。

「さゆ。これ、やる」
「なに?」

ジャケットのポケットから出した立方体の箱。
包装もリボンも何も飾っていない、むき出しのそれを無造作にポンとさゆに渡した。

「これは・・・?」
「バレンタインのお返し」
「・・・」
「ポストに入ってたあのチョコ。さゆやろ?」
「・・・知ってたんだ」
「つい最近知ったばっかやけど・・・遅れてごめん。一応、手作り」
「・・・」

時の流れを忘れてしまったかのように、微動だにせず箱をじっと見つめるさゆはやがて頬をポッと赤らめて、

「・・・ありがとう」

嬉しそうにはにかんだ。
その顔を見て、前から抱いていた疑問をぶつけてみようと、思った。

「・・・あのさ」
「なに?」
「なんで今年になって、チョコくれたん?今までくれんかったっちゃろ。あ、5円チョコはノーカンだけんね」
「聞いたらガッカリすると思うけど」
「なんだよ」
「れいながフリーだったから」
「・・・なんだそりゃ」

ロマンチックな理由があるかと思えば、とんだ肩透かしだ。
さゆはニヘッと人をからかうような悪戯っ子の笑みを見せた後、ふと切なげな表情になって、

「れいなが外国行ってから4年経って帰ってきて、久しぶりに見てさ。
 せっかく忘れてたれいなへの恋心がね、蘇っちゃったの。もう一生帰って来なくてよかったのにさ」
「そりゃすいませんね」
「やっとれいなのこと諦めがついたと思ったら突然ひょっこり帰ってくるんだもん。人の気も知らないで、勝手だよねほんと」
「うう・・・」
「ほんと、せっかく忘れかけてたのにね・・・」

さゆの体温の低い、ひんやりとした手がれいなの頬を包んだ。

「顔見ただけで思い出しちゃったんだもん・・・」
「・・・、え。お、おい」

潤んだ瞳と艶やかなピンク色の唇が段々と近づいてくる。
両手でガッチリと顔の位置を固定され、さゆの色気にも中てられ、身動きが取れない。
まずい。確かに、今日一日彼女って約束はしたが、これは・・・キスは、まずいって───、

「ちょっ、さ」

「だめええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「・・・へ?」

ドッカーーーーン!
と、猪が壁に激突したような音があたり一面に響いたかと思ったら突然体が下へと引っ張られた。
ドスン!と未だ傷の癒えない腰をコンクリートの地面にしこたま打ち、もんどりうつ。

「はおおおおおおおお!!!!いっでえええええええええええええ!!!」
「だめだめだめだめ!だめだもん!キスなんて絶対許さない!!」
「いだだだだだだだ!なんなん一体!?・・・え!?」
「絵里のだもん!!れいなは絵里のだもん!!さゆとキスなんて絶対だめええええええええ!!」
「・・・え、絵里!?」

れいなをベンチ、もといさゆの膝から引き摺り下ろしたのは・・・絵里だった。
絵里は足が汚れるのもおかまいなしに地面に直に座って泣きじゃくっていて、鼻からは鼻血がツゥーと垂れている。
道往く人がれいな達を好奇の目で見ていく中、周りの状況が全く見えていないのか泣きながられいなの体を万力で抱きしめてくる絵里。
なんだこの状況は。

「な、なんで絵里がここに・・・?」
「れいなのバカバカバカぁぁあ〜〜〜!浮気しちゃダメって言ったのに!ばかああああああ!!うええええん!」
「う、浮気!?浮気なんてしとらんよ?」
「さゆとキスしようとしたくせに〜〜〜〜!絶対許さないんだから!うえ〜〜ん」
「えっと・・・」

なんて言えばいいんだよ。
れいなが一から詳しく説明しようと無い頭を総動員させて言い訳を練っているにも関わらず勝手にヒートアップしていく絵里。
さっきから人の胸をドスドス叩きまくっていて・・・マジで痛い。

「れいなは!れいなは絵里の彼氏だもん〜〜〜〜〜〜!!」
「え、」
「れいなは絵里のだもん!!!絵里だけのものだもん〜〜〜!!!」
「な、なんだとぉ・・・」

なぜ絵里がハローランドにいるのか。もうこれは後回しだ。
今、なんて言った?

「え、絵里、今なんて」
「ヒック・・・ヒック。れいなは・・・絵里の彼氏だもん・・・浮気なんて絶対許さない・・・浮気したられいなを殺して絵里も死ぬ・・・」
「・・・」
「ううううううう〜〜〜・・・ヒック。うえええ・・・」
「お、おっけい。まずはちょっと落ち着きようよ。そこのベンチ座り?」
「ううう〜〜・・・」

夜泣きする赤子をあやす母親の心境で絵里をベンチに座らせた。
そこでようやく気付く。

「あれ・・・?さゆのやつ、どこ行ったと?」


 **********


ほんと、さゆみってばお人好しだよね。
抱き合う2人を尻目にハローランドの出口へと歩を進める。
まさかあそこまで上手く事が運ぶなんてなあ。

「・・・ふふ」

やっぱりさゆみはあのお騒がせカップルをフォローする役回りの方が性に合ってるみたい。
だって、さゆみが手助けしてあげないとあの2人、いつまで経ってもくっつかないままじゃない。

「世話のかかるバカップルだわ・・・」

呟いてから、飾り気のない箱の封を開け、歪な形のチョコレートを口に運ぶ。

「・・・うへぁ」

くどすぎて不味すぎて、涙が出てきた。
しょっぱい味が口の中に入ってきて、チョコが甘すぎるからいいアクセントになってるのかも。さっきよりマシな味に感じる。

「・・・ふっ」

さようなら、さゆみの長かった初恋。さようなら、さゆみの王子様。
次会うときはちゃんと、友達として接することができるはず。
さようなら・・・
そして、お幸せに。


*****


「つまり、さゆが、絵里をここに呼んだと。そういうこと?」
「・・・うん」

さっきまでいたベンチから人気のない場所へと移動してようやく腰を落ち着けた。と言っても椅子もなにもないただの整理された原っぱなのだが。
平静を取り戻した絵里から事の顛末を聞き出す頃には陽が沈み始めていてそろそろハローランドも閉園の時間だ。
絵里はずっとれいなとさゆの後を尾けていたらしい。なぜハローランドにいるのか、それはさゆに呼び出されたからだそうだ。

「さゆがね、メールでれいなとデートするって。わざわざ時間と場所を教えてくれたの」
「・・・」
「最初は冗談だと思ったんだけど、一応心配になって来てみたら、れいながさゆと手繋いで楽しそうにしてるし、らぶらぶだし、
 さゆのおっぱいが腕に当たってれいな鼻の下伸ばしてるし・・・」
「う・・・」
「邪魔しちゃいけないなって思って、我慢してたんだけど・・・だけど・・・」
「・・・」
「き、キス、しようとしてて・・・それだけはダメだって・・・もう、わけわかんないまま飛び出してた」
「だからってベンチに顔ぶつけんでも・・・」
「だって勢い出しすぎて転んだんだもん・・・うう〜・・・」

涙の粒が零れ落ちそうな程うるうるとした瞳でれいなを見上げてくる絵里。
その目にドクンと心臓が高鳴った。

「な、なんでダメって思ったん」
「それは・・・」
「止めたってことは、れいなとさゆがキスするのが嫌やったってことっちゃろ?なんでなん?」
「・・・」
「・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・きだから」
「え?今なんて」

絵里は米でも炊いてんのかってくらい顔から湯気を出しながら、

「れいなが好きだから!!!!!」
「!!」
「れいなのこと、超超超・・・好きだから!!!!!」
「おっ、おお」
「嫌だったの!好きだから!だから止めたの!文句ある!?」
「な、ないッス!!」
「絵里はれいなが好きなの!!文句ある!?」
「な、ないッス!!!」
「れいなはどうなの!!?」

れいなか。さんざん言ったはずだが、それをここで聞いてしまうか。
開いていたジャケットのチャックを意味もなく閉じる。
時は来た。
ここだ。ここが勝負所だ。
くずしていた足を正座させ、背筋をピンと伸ばし、応援団長になったつもりの気迫と声で、

「ばり好いとぅよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「・・・」
「あ、絵里のことだけんね」
「〜〜〜、わ、わかってるに決まってんでしょバカぁああ!もう肝心なところで決まらないんだからいつもれいなは!」
「ご、ごめん」
「もう・・・ばかぁあ・・・」
「ははは・・・」

お互いに見詰め合って、朗らかに笑いあった。
長かった・・・。
どれくらいぶりだろう、絵里とこうして愛を確かめあったのは。
初めて告白しあった時のあの甘酸っぱい中学の頃の思い出が蘇ってきて、れいなも泣きそうになってしまった。
やっと、やっと・・・


「え、絵里さんや」
「なに」
「き、きすしてもよかですか」
「・・・」

絵里はクールな顔をしたままポカンと口を開けるというあべこべな顔を見せた後、
挑戦的な笑みを浮かべてかられいなの頬を戸愚呂100%の腕力と握力でホールドし、

「んっ」
「!」

鼻が頬に埋まりそうなくらいの深すぎる口付けをれいなに見舞ってくれた。
思い出したくもない、あの時の涙の味のキスとは違う。
甘美で官能的な、もういろいろ我慢できなくなる程エロいキスはウイスキーをロックで飲んだ後のような酔いをれいなに味わわせてくれて・・・

「もう我慢できん!!!!!!!!!!!!!!!お持ち帰りさせてもらうっちゃよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
 拒否権なし!!!!!!!!!!!強制連行ーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!
 ニシシシシシシシシシシシシシシシシシハハハハハハハハハーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「きゃあっ」

絵里をお姫様抱っこでそのまま隣町の自宅マンションまで走って持ち去らせるパワーをもくれたのだった。





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