「ん、あっ……んぅ…」
「はぁ…あん……」

沖縄から帰ってきて早々、れいなと絵里はベッドの上でキスを交わしていた。
もう重症だ。たったの3日逢えなかっただけで、これほどに恋しくて愛しくて、離れていた分を埋めるようにキスをつづけた。

「んっ…ねぇ……」
「うん?」
「カンパニュラ、見た?」

絵里の服を半分ほど脱がせたところで彼女にそう聞かれ、れいなは暫く考えたあと「うん」と頷いた。
ベランダに飾った里保の贈ったカンパニュラは今日も綺麗に咲いていた。れいながいない間、絵里は盲学校に居たので世話ができず心配だったようだ。
当の里保はと言えば、さゆみと話をつけることができたようだ。

れいなは今日の昼の便で東京に戻り、さゆみや里保たちと次のスケジュールを確認するため、いちど事務所に寄った。
その際、ふたりの距離が微妙に近くなっていた気がしたが、聞くことはしなかった。そんなことしなくても、さゆみの穏やかな表情を見れば分かる。
詳細は知らなくても良い。ふたりがいま、それぞれのスタートラインに立ったのなら、それは良いことなのだろう。
そして夕方16時過ぎにれいなは帰宅し、土産話もそこそこに、絵里とベッドでキスをしている。

「また、逢いたいな。鞘師さん」

シャツを脱がせた絵里がそんなことを言うので、れいなはちょっとムッとした。
それは如実に絵里に伝わったようで、彼女はクスッと笑う。少しだけ挑戦的な表情にぞくぞくする。

「嫉妬してる?」
「別に」
「嫉妬じゃーん」
「うっさい」

すねたように口を尖らせ、そのまま鎖骨に口づけた。
甘い吐息を漏らしたあと、絵里はぐしゃりとれいなの後頭部を掴んだ。

「ん―――ねぇ…あっ……」
「うん?」
「たまには、絵里が、んっ…シてあげたい」

なにを?と聞き返そうと顔を上げた瞬間、れいなの視界が180度転回した。
思わず「おぉ?」と声を漏らし、気付いたときには絵里に組み敷かれていた。さてこれはどういうことだろうと頭が混乱する。

「だって……いっつも絵里ばっかり気持ちイイし……」
「え……えーっと、れ、れなは絵里が気持ち良ければそれで良いっちゃけど……」
「たまには絵里がれーなを気持ち良くさせたい。れーなの気持ちイイところ、いっぱい教えてよ」
「いや、れなも気持ちイイですよ?」
「やだ。たまにはシたい……させてよ、絵里に」

頬を紅潮させながらも彼女は一気に言葉を紡いだ。相当恥ずかしいことを言っていることは自覚しているらしい。
絵里は誤魔化すようにやや強引なキスをしてきた。頬のあたりに当たったそれは、すぐにれいなの唇を探り当て、貪った。

「んっ!っ、……!」

口内に割って入り、舌を探り当てるとぺろりと絡め取った。
不器用で、強引で、だけど精一杯な彼女のキスに、れいなはすぐに夢中になった。

「ちゅっ…んっ……」
「ふぁ…んー……っ」

抜けるような吐息を繰り返し、互いの唾液を交わす。舌と舌が淫らに絡み合い、呼吸を短くさせる。
すぐに体中に興奮が走り、段々と気持ちが加速していく。
一瞬で、好きにしてほしいと思った。彼女の思うように、彼女が望むように、されたい。力を抜いて、彼女を受け入れたかった。
れいなは舌を蹂躙されながらも、絵里の後頭部をぐしゃりと掴み、指で髪を遊んだ。それが心地良いのか、絵里は優しく笑う。

「んっ……れーなぁ…」
「うん?」
「どうしたら、いーかな…?」

強気なくせにノープランなところも彼女らしく、れいなはクスッと笑った。
彼女の手を自分の胸元へと導き、「絵里がシたいようにどうぞ」と耳元で囁いた。熱い言葉に絆されながらも、絵里は頷く。
シャツの隙間から手を入れ、ゆっくりと揉んだ。少しの力で触られるだけでぞくぞくする。人から触られるのは、さゆみ以来だっけと思い出す。

「あっ……」

思わず、声が出た。高くて甘い声に自分で驚く。
絵里の指先が掠めた突起は既に固くなっていた。久しぶりのせいか、感じるのが早い。

「れーな…可愛い」
「んっ……そう?」
「うん、すごく、可愛い」

絵里は柔らかくそう笑ったあと、シャツを捲り上げ、脱がせた。
ひんやりとした空気に触れたが、すぐに熱い絵里の唇が降ってくる。
絵里はれいなの体を確かめるようにキスを落とし、痕をつけるようにして鎖骨から胸元まで滑らせていく。

「ふっ…んっ、あ…あっ」

左胸に辿り着いた唇は、そのまま乳輪を舐めまわす。決して中心に触らないあたり、狙っているのだろうかとぼんやり思う。
そういう技術ばかり人から学ばないでほしいものだ。まあ恐らく、見えないから感覚に頼っているせいだとは思うけれど。
絵里はちゅっと軽い音を落としながら乳房にキスをし、反対の胸を左手で優しく揉んだ。

「んっ……はぁ…っ」
「れーなの…やっぱちっちゃいね」
「なんっ、で…?」

小さいと言われたことよりもどうして分かるのかが気になった。
なんでそんなことが分かると?と聞こうとしたが、絵里は構わずにゆっくりと揉みつづける。
とても嬉しそうなその顔を見てると、れいなも結構、どうでも良くなる。

「へへ、絵里、分かるんだよ?」
「え…?」
「れーなのこと、ちゃんと分かるんだよ」

絵里はそうして、また乳房にキスをする。
大切なものに名前を付けるような彼女の行為にれいなは目を細める。

「それも、んっ…感覚で、分かると?」
「うん、それに近いけど……でもね」

絵里は顔を上げる。相変わらず視線が絡むことはないはずだった。
だがその瞬間、れいなは絵里と初めて目を合わせた。
それはただ、彼女の焦点の定まらない瞳が、たまたまれいなの方を見ていた、それだけのことだ。

「れーなだから、分かるの」

柔らかく、優しく、シアワセそうに、絵里は笑った。
子どものようで、大人のようで、それはその両方を併せ持った彼女の魅力。
不完全さというアンビバレンスは、ひとつの芸術に近いかもしれない。
彼女を、絵里を絵里たらしめるすべてが、ただ愛しかった。

「アホっ…」

れいなは照れ隠しのように絵里の後頭部をぐしゃりと掴み、やや強引に自分の胸元に押し付けた。
それに気を良くしたのか、彼女は舌を突き出し、固くなったそこをべろりと舐め上げた。

「っあ!」

ざらりとした舌が触れるだけでびくびくと体が反応する。胸から全身へと快感が巡り、脳が麻痺していく。
もっと、もっと触れてほしい。絵里の指で、唇で、舌で、れいなのすべてを、明かしてほしい。

「はぁっ…はぁ……あっ…」

気持ち良くて堪らない。快感が胸から全身へ、そして脳まで駆け巡る。
絵里は舌で右の乳首をべろべろと舐め回し、利き手の右手で左胸を優しく揉んだ。
緩急をつけるようにすると、すぐに突起が立ち上がり、優しく指の腹でそれを触る。

「んんっ!くぅ…ん……」

切なく漏れる声に絵里もどんどんと欲情した。自分の中にあったれいなへの想いが一気に擡げ、止まることを忘れたように加速する。
もっと、もっとれいなを知りたい。れいなの中に、絵里を、自分自身を刻み込みたい。

「はっ……あっ…ああっっ!」

充分すぎるほど固く立ち上がった突起はまるで飴玉のように肥大化していた。
絵里は右手は胸を弄ったまま、唇だけを起用に滑らせ、彼女の体を沿うように舐めた。
胸から肋骨、脇腹、臍へと下げていき、左手でぐいと彼女のズボンを下ろす。

「触って、良い?」

ひやりと下腹部が空気に触れて震えた。もう既にそこが充分に濡れていることなど分かる。
れいなは絵里の頬に手を伸ばし、引き寄せた。触れるだけのキスをしたあと、「絵里…」と彼女の名を呼ぶ。

「いま、どんな色しとぉ?」

絵里は一瞬きょとんとしたが、その声に柔らかく微笑んで、瞼を閉じた。
首筋、鎖骨、胸元まで手を滑らせて、軽く突起に触れたあと、絵里は頬を紅潮させて耳元で囁いた。

「ちょっと……えっちな色してる」
「ホントに…アホっ……」

困ったように、だけど優しく笑ったれいなに絵里もまた笑う。
それが先ほどの質問に対する答えと受け取った絵里は、右手を膝から太腿へと流し、そっと下腹部に触れた。

「っああ!」

ほんの少し触れただけで甘く高い声が漏れた。
絵里の指先には充分すぎるほどの愛液が触れ、それが心地良いのか、ならすように何度か擦る。

「くっ……ん、あ…はぁ……あん!」
「れーなぁ…れーな……」
「あんっ、はぁ……え、りぃ……あっ…ああ!」

ぐちゅぐちゅと粘っこい音が響くたびにれいなは切なく喘ぐ。
その声を自分だけのものにしたくて、絵里は舌を突き出してれいなにキスをする。やや強引な口付けだがれいなも必死に応える。

「んっ…ふっ!んん、んっ…ちゅっ…」

キスをしながら唾液を送り合い、既に舌はとろとろに溶けていた。このままひとつになりたいと、そう願った。
絵里はれいなのそこを規則的に擦り、入口を円を描くようにくるくるとかき混ぜ、主張を始めた蕾を押した。

「ふぁっ!あっ…んん、んっ、あっ……絵里…えりぃ……」
「れーな……いくよ?」

絵里はそう呟くと濡れそぼったそこに指を挿入した。

「ああああっ!」

すぐにれいなの愛液が絡みつく。
絵里はそれを確認するようにゆっくりと入口まで戻し、再び中に入れた。ぐちゅりという音も、確かな温もりも、気持ちいい。

「ふっ…んっ……あ…あっ……ああっ!」

ゆっくりと出し入れを繰り返しながら、絵里はまた口付ける。頬に、首に、耳に、自分の痕を残していく。
指は一定の速度で出たり入ったりを繰り返す。熱を帯びたれいなのそこは愛液を垂れ流し、絵里の指から手の平まで汚していく。
先の方だけを器用に動かし、掻き回し、引き抜いて貫き、絵里の指は多彩に動き、れいなの体は震える。

「はぁっ、あっ…んっ!あ、あっ、あああっ!」

絵里は初めてとは思えないほど器用に指を動かした。
いつの間にかその指は2本に増え、れいなの中を掻き乱し、時折クリトリスを擦り、れいなに快感を与えた。
シーツはぐっしょりと濡れ、れいなはぎゅうと絵里の肩を掴んだ。

「絵里っ…えり!あっ、あっ…はぁ……ひゃぅ!ん、あっ、ああっ、あっ!」

心も体も、絵里でいっぱいになる。絵里以外のことが考えられなくて、れいなは無意識に腰を振った。
絵里もそれを感じ取ったのか照れ臭そうに、だけど嬉しそうに微笑み、指の速度を上げた。
絵里の指がある一点を掠めたとき、れいなは今日一番の声を上げた。

「ふぁぁっ!んっ、そこぉ……あん!」
「れーな……ココ?」

絵里が確認するように指先で突くと、れいなは返事の代わりに背中を反らせながら喘いだ。
吐息が短くなり、そろそろ限界が近いことを悟る。
絵里は左手で優しく胸を揉み、「いくよ?」ともういちど確認した。
れいなの返事はなかったが、絵里はそのまま、彼女の言う「そこ」を重点的に攻めた。

「ああん!えりっ…はぁっ…あっあっ…!ひゃっ!んん、あっ、あああ!」

ベッドが何度も軋み、れいなは声を上げる。腰の動きと指の動きが絶妙に絡み合い、快感に震える。
左手の指で乳首を擦り、絵里はれいなとキスを交わす。
口内に舌を侵入させてれいなと絡み合い、唾液が頬や顎に垂れ、シーツを汚した。

「ふぅっ!んっ、ちゅっ……ん、んっ!」
「んっ…んんー、れー…なっ……すきぃ……んっ」
「はぅ…あっ、!絵里…え、んっ!あ、あ!好き…大好き……絵里っ!」

れいなは両手を伸ばし絵里の体を抱きしめた。
少しだけ息苦しくなるが、もう止められない。腰も指も、意志とは関係なく動きつづける。
そして絵里の指が最奥をついた瞬間、腰が爆ぜた。

「あっあ、ああああっ!あ、えりっ、あああああ!!」

大きく体が震え、れいなのそこがぎゅうと絵里を締め付ける。
その感覚があまりにも温かくて、気持ち良くて、絵里は痙攣する中、指先だけでなんどか掻き毟った。
ビクビクと腰が震え、その動きが収まったあと、ようやく絵里は指の動きを止めた。
まだ指に感じた温もりが恋しいのか、絵里はれいなの中からなかなか出てこようとはしなかった。


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「ぴんくーぴんくぅ〜」

息を整えていると、絵里がれいなの隣に寝そべり、そんな風に楽しそうに話しかけてきた。
実際、話しかけているのかひとり言なのかは分からない。なんだ「ぴんく」って。ああ、れなの色かと苦笑した。

「れーな、ぽっぽぽっぽしてたよ?」
「わけ、分からん……」

絵里が嬉しそうに笑うので、れいなも意味は分からなかったがつられて笑った。
そっと腕を伸ばし、彼女の髪を撫でた。さらさらの髪を指で梳くと絵里はまた笑う。その仕草が少しだけネコっぽくて可愛かった。
絵里は「んー」とれいなの鎖骨の上に顎を乗せ「もっと撫でてぇー」と催促した。
あーあー、そうやって可愛いこと言っちゃってぇ。れいなさん止まりませんよ?と苦笑しながら、れいなは彼女に口づけた。

「んっ…ちゅぅ……ん」

甘い声に完全にスイッチが入った。
睡魔と手を取り合おうとした瞼を持ち上げ、同時に体を擡げる。
唇を離して絵里をぎゅうと抱きしめ、そのまま180度反転し、見下ろした。
「えぇぇ?」と驚く絵里をよそに、れいなは触れるだけのキスをして囁いた。

「……知っとった?」
「な、なにを……?」
「絵里もいま、えっちな色しとぉよ」

その言葉に絵里の顔が真っ赤に染まり、ふるふると首を振って否定した。
些細な仕草ひとつひとつが可愛いなあなんて思って、もうこの恋の病は治らないんだろうなって思った。

「あっ……」

れいなは絵里の胸元にキスを落とした。
絵里はれいなを攻めている間に自分も興奮していたのか、突起は既に固くなっていた。
彼女がしたように、乳輪だけを舐め上げ、その中心は吐息で触れるだけに留めておく。

「んっ…ふぁっ……はぁ…ぁ」

切なそうに声を上げて絵里は体を捩る。
無意識のうちに、突起に触るように体を動かしている姿が愛らしい。
れいなは自分の右手人差し指を軽く舐めたあと、喘ぐ絵里の唇を撫でる。絵里は正直に口を開き、ぱくりと咥えた。
軽く押し込んでやると、絵里はちろちろと舌を動かして指を舐めた。

「んむ…んっ、ん、む…ちゅるっ……ん…っ」

絵里の不器用な舌遣いに満足しながら、れいなもまた絵里の胸を舐め、もう片方の胸を揉む。
充分に肥大化したことを確認し、爪先でかりっと引っ掻くと、絵里はびくっと体を反らせ、思わずれいなの指を噛んだ。

「噛んだらダメやろ、絵里」
「んん…ほ、ほめ……んむっ!!」
「もーちょっとがんばって?」

れいなはそうして中指も口内に押し込んだ。
絵里の歯列に触れ、舌をこねくり回すと、絵里はなんどか苦しそうな声を上げた。
だが決して本気で嫌がっている様子はなく、れいなの右手首を両手で掴み、ゆっくりと指を舐めはじめた。
自分のものを舐められている男はこういう気持ちなのだろうかとぼんやり思いながら、れいなは突起に吸い付いた。

「ふぅっ!んむ、んっ、んっ!」

蕩けた舌で絵里は必死にれいなを舐め上げる。その姿にぞくぞくする。
れいなも絵里に感じてもらおうと、惜しみなく胸全体、乳輪、突起と舐め、キスを落とし、揉みつづけた。
いちど顔を上げ、べっとりと絵里の唾液がついた指をゆっくりと引き抜くと、絵里は少しだけ切なそうな表情を見せた。
れいなは絵里にキスを落とす。

「んっ……ちゅ…」

啄むようなキスのあと「好いとぉ…」と囁くと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
紅潮した頬にもういちどキスをし、れいなはするすると体を下ろしていく。
鎖骨、胸骨、乳房、乳首、肋骨、腹部、臍と痕をつけるようにキスをすると、絵里は短く息を吐きながら体を捩った。
腰のあたりまで下がると、絵里はいつものように「れーな…」と名を呼んだ。

たった一ヶ所、絵里はれいなが下腹部に触れようとするその唇をいつも制す。
その拒絶に含まれた意味をれいなだって分かっている。
だが、もう今日は止まることができなかった。
彼女が見えないことを分かっていながらも黙って首を振り、ぐいと勢いよくズボンと下着を同時に下ろした。

「え……れーな?」
「絵里……」
「ちょ、ま、待って……」

れいなは絵里の膝にキスをし、そのまま唇を内太腿へと滑らせた。
その行為で、彼女はなにをされるかを悟った。

「だ、ダメだよぉ……」

柔らかく諭すように彼女は拒絶を申し出るがれいなは従わない。
絵里の両脚の間に割って入り、内太腿を舐め、段々とその唇は絵里の中心に向かっていく。

「お、お願い、待って!れーな!」
「待てん。絵里……好いとーよ……」
「でもっ、ダメっ…そこ……あぁっ!」

絵里の願いは届かず、れいなは恥骨に口づけたあと、下腹部にキスを落とした。
びくっと反応するが、絵里は慌ててれいなの頭を押しのけようと腕を伸ばす。しかし、れいなも引かず、一向に濡れないそこにもういちどキスをした。

「っ…だめぇ……だめだよぉ…」

泣いてしまいそうな絵里にれいなは答えない。
拒絶されていることは分かる。だけどそれは嫌いだからではない。
彼女には一切の落ち度も罪もないのに、あの日のことに苦しみつづけているのはあまりに可哀想だ。いや、可哀想とかそういう問題でもない。
ただ、否定してほしくなかった。女性として生まれたことを、亀井絵里として此処で生きていることを、此処に確かにある、いのちを。

「あの人が…シた場所だから……穢いからぁ……」

絵里はもう、半ば泣き出していた。
両目を腕で覆い、ひくひくと体を震わせていた。
いまならまだ戻れるかもしれない。だけどれいなは戻らなかった。此処で立ち止まりたくなかった。前を向いて進もうと、決めたから。

「メチャクチャ綺麗よ、絵里」

そう言うとれいなはいちど体を起こし、絵里の体をぎゅうと抱きしめた。
絵里もすぐに両腕を伸ばしてれいなに抱き着く。一切の隙間も許さないように抱きしめて「なんでぇ…?」と耳元で泣いた。
耳に触れた吐息は濡れている。もう泣いてほしくないれいなは絵里の髪を優しく撫でてやった。

「絵里はメチャクチャ綺麗っちゃよ。ココも、ココも、全部」

胸元や腰、そして下腹部に指先でそっと触れながられいなはそう言った。
決して絵里は穢れてなんかいない。
彼女の心は透明なまま此処に在って、それ以上のものはもうこの世にはない。

「約束したやろ。それでも体が穢いって思うっちゃったら、れなが全部、消しちゃるって」

それは雨の降ったあの夜、初めてホテルで結ばれた日に交わした約束だった。
絵里は息を呑むが即座に首を振って否定する。「だって……」となにか言おうとしたその口をれいなはそっとキスで塞いだ。

「絵里の全部、れーなにちょうだい?」

絵里は彼女のその“色”に言葉を失った。
先ほどまでのピンク色や怒りに満ちた紅色ではなく、れいなが宿したのは常に纏っていた水色だった。
それは、絵里がもう1年半ほども仰いでいない天に広がった空の色とよく似ていた。
真っ直ぐな意志を持ち、絵里を包み込むスカイブルーが、なによりも心地良くて温かかった。

「れーなぁ……」

絵里の瞳から溢れた涙に口づけ、その前髪を撫でてやった。
れいなは再び体を下げ、茂みの奥深く、下腹部にキスを落とした。

「っ―――!」



一瞬、絵里の体が震えた。
れいなの唇の温もりを、絵里のそこは確かに感じている。
短く吐息を漏らしながら、絵里はただ、見えない彼女のことを想った。
これほどに優しくて柔らかい温もりと、包み込むような水色を携えたれいなは、いったいどんな瞳をしているのだろうと思う。

「っ…はぁ……あ、あっ……!」

ただれいなにできることは、キスをすることだけだった。それはあの日と全く変わっていない。
絵里のそこ、愛液の流れることを忘れてしまったような下腹部に優しく触れる。
大陰唇に吸い付き、小陰唇に舌を這わせて舐め上げた。

「はぁっ…ん、んっ……っあ!」

絵里はなんどか声を漏らし体を捩る。
感じないわけではない。ただ濡れないだけならば、きっとどうにかなるとれいなは信じていた。
絵里は両親の交通事故を目撃したショックのあまり、光を失った。
叔父から犯されたことにより、だれの愛も受けないと決めた体になった。
だけど、きっと取り返せるはずだった。

「ちゅっ…んっ……絵里…絵里……」
「ふあぁっ!れーなっ…ん、んっ……あ、あ…あ!」

れいなは理屈ではなく実践派であり、感情論で動く人間だった。
ただ絵里に、シアワセになってほしかった。亡くなった両親はもう帰ってこないけど、だけど、また取り戻せるものはあるはずだった。

「れーなっ…はっ…ん、あっ!」

絵里はもういつの間にか、拒絶することをやめ、その手で軽くれいなの後頭部をそこに押し付けていた。
れいなもまた、それに応えるように舌を突き出す。
クリトリスを口に含んで転がすと、絵里は泣きそうな声を上げた。そんな声さえも、愛しかった。

「あっ…あ、あっ、あ!」
「絵里……愛しとぉよ……」
「んんっ…あっ!ぁ……れーなっ!……愛してるっ……!」

れいなが膣口からクリトリスまで、べろりと舐め上げた瞬間だった。

「ふっあ……あっ!ああっ!れーなぁっ!」

いままでとは明らかに違った反応を絵里が見せた。
びくっと体を震わせた彼女にれいなは顔を上げ、「どしたと?」と訊ねた。だが、絵里は答えない。
れいなはもういちど、絵里のそこにキスをすると、彼女は「あああっ!」と声を上げた。

「絵里……?」

絵里は、びくびくと震える体を護るように抱きしめた。
れいなは口元を拭い、上体を起こして絵里の耳元で「だいじょうぶ?」と囁いた。
すると絵里は両腕を精一杯にのばし、ぎゅうと抱きしめてきた。その腕の力はいままでより格段に強くて驚いた。

「っ……れー……なぁ…」
「うん。絵里。此処におるよ、どした?」

切羽詰まり、なにか余裕を失くしたような絵里に眉を顰めた。
絵里は必死に息を整えながら「れーな……」と声を絞り出す。その声も震えて濡れていた。

「なんかぁ……はぁっ…」
「うん?」
「んんっ……き、ちゃい、そう、かも……」

なにが?と問うまでもなかった。
れいなはまさかと思い、そのままするすると右手を下ろしていく。絵里の膝元から太腿を這わせ、脚の付け根へと持っていった。
先ほど彼女から舐めてもらったおかげでれいなの指は充分に濡れている。
そして、絵里の下腹部もまた、れいなの唾液で濡れていた。
少しだけ、触れる。
確かにそこは、唾液で濡れている。
だが、いままでとはなにかが違った。明らかに違うものがそこにはあった。

「絵里……?」

そっと、傷つけないように人差し指を這わせた。
絵里はびくっと背中を反らせた。その指先には、温かいものが触れていた。

「……濡れとぉ」

れいなの指先は確かに、唾液とは違う液体を感じた。
絵里もまたそれに気付いているのだろうけど、彼女は自分の身体を走った快感を押さえるのが精一杯のようだった。

「れーなぁ……あっ!」

ほんの少し指先が触れただけで絵里の体はびくびくと震えた。
れいなは傷つけないようにもういちど、人差し指で絵里のそこを撫でると、絵里は再び嬌声を上げた。
まるで久しぶりに触れる感覚を愛おしむように、全身の性感帯が一気にそこに集まったような感覚さえ覚えた。

「絵里ぃっ……!」

そうしてれいなは絵里をぎゅうと抱きしめ、絵里もまたれいなを抱き返した。
絵里はその瞳から涙を零し、つうと枕へと伝った。それにそっと口付け、拭ってやる。もう、泣く必要なんかない。

「んぅっ……んっ…!」

唐突に現れた感覚にどう対処して良いのか分からず、絵里は腰をもどかしく捩った。
れいなももう、焦らすなんて酷なことはしない。そのまま下腹部に人差し指を這わせると「くちゅり」という厭らしい音が奏でられた。

「ふぁぁっ!!ん、んっ、んぅっ!!」

自分の声に驚いているのか、それとも感じたことのないような快感に怯えたのか、絵里は下唇を噛んで声を押し殺した。
左手でそんな唇を拭い「だいじょうぶっちゃよ」と耳元で囁く。
そんなれいなの声でさえも感じてしまうのか、絵里はなんどか首を振り「だめぇ……」と漏らした。

「もう……なん、かぁ…あっ……」
「うん。どうしたと?」
「はっ…んっ、ぁ……えり…絵里、ぁ…ゃっ……だめぇ…」

一気に押し寄せた快感をいちど頂点にもっていかなくては、このもどかしさは解消されないのかもしれない。
れいなは濡れた音をわざと絵里に聴かせるようにゆっくりと大きく、絵里のそこを擦った。
くちゅり・ちゅく・ぬぷ・という音が室内に響き、絵里はイヤイヤと首を振った。

「ふっ…、あ、あ!ん、あ!あっ!」

肩まで伸ばした絵里の髪が揺れる。
絵里のそこは次々に愛液を垂れ流し、れいなの指からシーツまでぐっしょりと濡らした。
れいなは指先だけを器用に動かし、絵里の中を掻いてやる。

「はぁっ!ん、んっ!やっ…あ、あ、はぁ……あん!」

たったの1本しか入れていないのに、絵里のそこはキツくれいなを締め付けた。
絵里が自らの中にだれかを導いたのは、自ら叔父の体液を掻把しようと洗ったあの日以来だ。
あのときとは全く違う感情が、絵里の中に溢れる。もっと欲しいと、れいなのすべてを求めていた。

「あぁぁっ!ん!、ふっ、あ…ん、!」

甘く漏れる声に欲情していく。
れいなは親指で蕾を押し潰しながら人差し指で中を掻き回す。
絵里の全身を快感が駆け巡り、大きく背中を反らした。もう限界なのかもしれない。

「れーっ…あ!あ、はぁ…ん、!れーなっ!はぁ……あ、あっ!」
「絵里……好いとーよ、絵里」
「んっ、れーな!あっ、好き……はぁ…ん!好きぃ!!」

絵里は両腕を伸ばしてれいなにしがみつき、襲い来るであろう快感に備えた。
れいなは絵里の唇を塞ぎ、舌を突き出して絡め合った。

「ひゃぅ…ん、んっ……ちゅ、んっ!!」

息継ぎも惜しく、キスをつづけながら絵里の中で指を暴れさせた。
ぐちゅぐちゅという卑猥な音が上からも下からも聞こえ、部屋中に充ちていく。
絵里は無意識に腰を振り、れいなの指を奥深くまで呑み込んだ。
れいなもそれに合わせて指を抽挿し、かき乱し、絵里の名を呼んで、彼女を絶頂へと誘った。

「あっ!あ、あああっ!れーなぁ!!ああっ、あん!あああ!!」

絵里は切なく、だが精一杯の声を上げて達した。
れいなはふたりの隙間を失くすようにぎゅうと抱きしめ、もういちど、彼女の名を呼んだ。
耳元で囁かれた自分の名前が心地良く、絵里は「れーなぁ……」と泣きそうな声を出し、その意識を遠くへと飛ばした。


 -------


快感に貫かれた絵里は、規則的な寝息を立てて目を閉じていた。
そんな彼女の髪を撫でながられいなは微笑む。

「気持ち良かった?」

そう訊ねたが、夢の中を泳いでいる絵里には届かない。
れいなはネコのように目を細め、彼女の茶色がかった髪を指で遊んだ。
そろそろ染め直さないと少しムラが目立つなーなんて考えながら、どこのマネージャーだよと苦笑する。
ふと、昨日、愛佳とした約束を思い出した。
絵里の写真を撮るという、約束。

「今週末さ、デートしよっか、公園とか、海とか」

返事がないことを分かりきっていながら、れいなは声をかけた。
れいなは肩を竦め、ベッドの下に落ちていたシャツに手を伸ばし、袖を通した。
そのまま水を取りに行こうと立ち上がる。

「……いくぅ〜」

ベッドを降りた瞬間にそんな声を聞き、振り返る。
いまのいままで寝ていたはずの絵里は「えへへ。デート、しよ?」と笑いかけた。
いつから起きてたっちゃろと笑うと、絵里は上体だけを起こし「れーなといっしょに、デート」と照れたように笑った。
相変わらずそんな仕草も可愛くて、れいなは絵里の髪を撫でた。
彼女は嬉しそうに目を細める。
その視線は、虚空を見つめていた。絡まない視線が、寂しくて、絵里の瞳に自分を映したいって、そう想った。

「れーな……?」

絵里にそう名を呼ばれ、ハッとした。
泣いているのだと気付いたのはその時だった。

「泣いてるの……?」
「ち、違う……違うっちゃよ……」
「……泣かないで」

絵里はそんなれいなの頬に手を伸ばし、そっと涙を指で拭ってやった。
どうして泣いているのか、一瞬自分でも理解できなかった。
哀しいわけじゃない。そうじゃなくて、そうじゃなくて―――?


―――「…ずっと、このままかな」


そのときふと、絵里の発した言葉が甦った。


―――「見えないまま……あの人に襲われたことに怯えながら…ずっと生きていくのかな」


あの日の問いに、れいなはまだなにも返せていない。
いまもなお、れいなは絵里の世界にはいない。いるはずなのに、映ることはない。彼女の中に、れいなの瞳がいない。
ただそれだけのことが寂しくなった。

これ以上、なにを望むというのだろう。
こんなに自分が彼女を欲し、彼女の世界にいたいと思ったことはない。

いつかられいなはこんなに、絵里を愛していたのだろうとれいなは泣いた。

「絵里―――」

れいなは彼女を抱きしめ、額にキスを落とし、そのまま押し倒した。
ギシッとベッドが軋み、瞼、頬、鼻、唇とキスをしていく。

「もう1回、シよ?」

絵里は体を一瞬強張らせた。しかし、れいなにそっと手を伸ばし、頬を滑らせる。
すると柔らかく笑って「……えっちぃ」とからかうように言った。
れいなは、いま自分が纏っている“色”の名前を、絵里に聞くことは怖くてできなかった。
涙を拭いするりと太腿に手を伸ばした。
濡れた絵里のそこは、もういちど、れいなを静かに受け入れた。





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