「もうすぐ、誕生日じゃの」

昼食に、と、香音のお父さんが慌てながら出掛けに腕を奮ってくれた炒飯をパクつきながら、鞘師君が言った。
炒飯を温め直すついでに作ったワカメスープを啜りながら、香音はキョトンとした顔をする。

「里保ちゃん?あたしの誕生日、8月だよ?」
「もう夏休みじゃろうが」
「夏休み入ったばっかりだし、まだ10日もあるんだけど……」

香音は呆れ顔をする。

夏休みの宿題はさっさと終わらせて思いっきり遊ぼう、と、ふたりで前から話し合っていた。
少々ごたごたがあってスタートは遅れたものの、1日おきに交互に互いの家で、宿題をしている。
鞘師君の家で宿題をするときは、お母さんが昼食を作ってくれるので、3人で食卓を囲んでいる。
香音の家で宿題をするときは、お母さんや、偶にはお父さんが作ってくれたものに香音が1〜2品作り足して、ふたりっ切りで食事をしている。

「僕、毎日香音ちゃん家で宿題したいなぁ…」
「何で?里保ちゃん家のゴハン、美味しいじゃん」
「でも、こうやってふたりだけで食べられるじゃろ?」

「ところで、さ」
「何?」
「香音ちゃん、誕生日のリクエストは無いかの?」
「リクエスト、って?」
「その…例えば、僕、『香音ちゃんが欲しい』って言うたじゃろ?」
「あ……」

それを聞いて、香音の頬がほんのりと染まる。
鞘師君はスッと顔を香音に近付け、耳元でささやく。

「あんなコトでも良いし、他のことでも構わんけぇの」
「……」
「香音ちゃんが欲しいもの、あげたいんじゃ」
「……」
「欲しいもの、何でも言って。出来る限りのこと、したいんじゃ」

香音が、ぽつりと口を開いた。

「それじゃ、さ………」
「うん?」
「あのね……ギュッとして、『好きだよ』って、言って欲しいなぁ……」
「……それだけ?」

首までもを染めて、こくりと香音が頷く。
鞘師君は(自分にとってはあまりにも)ささやか過ぎる“お願い”に、驚いてしまって声が出ない。
その様子を見て、何か香音は誤解したのだろう。

「あ、あの…い、嫌だったら、別に………」

鞘師君は、香音に向き直り、そっと近付いた。
両腕を差し伸べ、ギュッと香音を抱き締める。
もう一度耳元に口を寄せて

「嫌な訳、無いじゃろ……」
「え……」
「そんなことじゃったら、誕生日じゃなくても良えって」
「……」
「いつだって、言うてくれたら良えのに…」
「で、でも、普段はして貰っても殴り飛ばしちゃったりしてるのに……」
「だから言うて欲しいんじゃ。僕、ニブいからのう」

鞘師君は、ひとつだけ、息を吸った。
耳元で、アツい吐息と一緒にささやく。

「香音ちゃん、好きじゃ…」
「……」
「他の誰も見えんくらい、香音ちゃんが好きじゃ…」
「……」
「愛しとるよ…」
「……」
「この手の中から、離しとう無い…」
「……」
「ずっと、こうやって、一緒に居たいのう…」

閉じられた香音の目から、スッと、光るものが零れて、頬擦りしていた鞘師君を濡らした。
鞘師君は驚いて顔を離し

「ど、どうしたん、かの?」

香音は、そっと目を開け、潤む瞳で鞘師君を見詰め

「幸せ…」
「香音ちゃん…」
「嘘でも、嬉しいよ…」
「あ、あの…」
「幸せまみれで、死んじゃうかも、なんて、思っちゃった。えへっ……」

そっと顎を摘み、チュッと軽くキスをして、鞘師君が言う。

「それは、ダメ」
「え?」
「僕は、まだ足らん」
「い、いやその…」
「例えでも、100年早い。それ、100年後に聞かせて…」

言葉が終わるか終らないかのうちに、香音に唇を寄せる。
唇に、頬に、額にキスを落とし、耳朶を吸い、首筋に唇を、舌を、這わせる。

「好きじゃ…」
「……」
「大好きじゃよ、香音ちゃん…」
「……」
「愛してる…」
「……」
「香音ちゃんの、甘い匂いで、頭が痺れそうじゃ…」
「……」
「もう二度と、離さんけんの」
「……」
「この手の中から、消えんでな………」

それを聞いて、香音の表情が、フッと曇った。

「ごめんね……」
「香音ちゃんが、謝ることじゃ無いじゃろ」
「でも…」
「不安にさせた僕が悪かったんじゃけん」
「ううん。そんなこと…」
「でも、これだけは覚えといてな」
「な、何?」
「僕が好きなのは、香音ちゃんだけじゃ」
「うん……」
「フクちゃんには、もう甘えんからの」
「そこまでしなくても……」

香音を抱き締めてささやきながら、キスをしつつ首筋や喉元に舌を這わせていた。
その所為か、はたまた息が上がる香音を見ていた所為か、鞘師君のカラダに少々“異変”が起きたのは必然だったのだろう。
体から突き上げる衝動を必死に堪え、腰を引いて抱き締める腕に力を込める。
……が、不自然な姿勢で抱き締めていたからか、香音も“異変”に気付いたらしい。

「あ…あのさ、里保ちゃん」
「ん?」
「う、上の、あたしの部屋、行く?」
「へ?」
「だ、だって……シたい、でしょ?」

香音は、下を指差しながら顔を真っ赤にして言う。
鞘師君は、思い切りかぶりを振り

「きょ、今日は準備しとらんし……」

と、口籠る。

「で、でも、里保ちゃん、キツそうだ、よ?」
「が、我慢する!…でも、我慢し切れんかったら、トイレ、貸して……」

何とも情けない顔で言う鞘師君の腿に、そっと、香音の手が置かれた。

「それで、良い、の?」
「え?…って、香音ちゃん?!」

香音は、そっと鞘師君のデニムに手を掛け、ファスナーとパンツを同時に下ろした。
鞘師君の硬くなったモノがピョコンと顔を出す。
香音は、一瞬怯むような表情を見せ、ぐっと息を呑んだ。

「な、何、を………」

髪を耳に掛け、眼を閉じてそっと顔を下ろして……。

「か、香音ちゃん!そんなコト、せんで良えって!!」

鞘師君のモノが温かいものに包まれた。
ぬるりとした感触が竿を上下し、時たま出っ張りを柔らかいものがそっと掠める。

「うあっ!」

吸い込まれるような感触に、今すぐに出してしまいそうになるのを懸命に我慢する。
背筋を駆け抜けるような快感と衝動に必死に耐える。
それなのに…香音が添えていた指が裏スジを無意識になぞり、同時に上目遣いで見上げられたとき……。

「うわ、あああぁぁぁぁっ!」

……………呆気無い程に、果てた。

「かっ、香音ちゃん!!」

鞘師君は、香音が自分から離れると同時に、慌ててティッシュの箱を手に取った。

「こ、これに吐き出して……」

と、急いでティッシュを引っ張り出そうとする。
……が、香音はギュッと目を瞑り、両手で口を押さえて上を向く。
ごくん、と、喉が鳴る。

「の、飲んじゃっ、た」

瞳にいっぱいの涙を浮かべつつ、香音は微笑った。

それからが大変だった。
鞘師君は急いで香音を洗面所に連れて行ってうがいをさせ、背を擦ったり叩いたりして吐かそうとする。
が、無論のこと、そんな程度で飲んだモノを吐き出す筈も無い。
背を叩く幾度か目で、香音が痛がるので、鞘師君は諦めてリビングのソファーに香音を抱きかかえて戻った。
並んで座り、泣き出しそうな顔で、鞘師君は香音を抱き締める。

「ごめん…香音ちゃん、ごめん!本ッ当に、ごめん!!」
「何が?」
「あんなモン飲ませてしもうて……僕……僕……」

泣き出しそうな顔の鞘師君に、香音はそっと向き合った。
どうして、僕、こんなに酷いコトしたのに、香音ちゃん、微笑えるんじゃ?

「ううん。お礼」
「お、お礼?」
「そ。我儘聞いてくれて、いっぱい好きだよって、言ってくれた、お礼」

香音はそっと近付き、チュッと音を立てて鞘師君の頬にキスをした。

「大好きだよ、里保ちゃん」





ア・ナ・タ三昧         了
 

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