今日は、冬にしては珍しく、暖かい日差しが室内に入って来る日だった。
勿論、外はこれからが本番!というくらい寒いのだろうが、部屋の中は、暖房の所為もありぽかぽかして風情が楽しめる度だ。
こたつで昼食を摂ってひと休みし、この季節では珍しく外に干せた洗濯物を取り込んださゆみは

「やれやれ……今日も結構あったよねぇ……」

などと独りごちながら、洗濯物をたたんではタンスにしまっていた。
それをれいなは、のんびりと肘枕などしながら眺めている。

「ちょっとれいなぁ、手伝ってよぉ」
「えー、今日ぐらいは良かっちゃろぉ」
「だって、この洗濯物の半分以上はれいなのじゃない」
「…れな最近は忙しかったやん。この間はまた佐世保のベースに呼ばれたばっかりやし」

あ、そうか。そう言えば、そうだった。

「だけど随分仕事があるよねぇ。佐世保のベースって、そんなに人多いの?」
「いや、結構人が入れ替わっとるっちゃん」
「ふーん。そう」
「やけん、他ン人のタトゥーば見て、れなに声が掛かるとよ」

僅かに鼻をひくつかして得意げに言うれいなに

「……って、それ、れいなの名前しか知らないからじゃない?」
「えー?」
「吉澤さんのこと知ったら、れいなじゃなくて吉澤さんに声が掛かるかもね」
「さゆぅ。それはちょっと酷かっちゃん」

憎まれ口を叩きながら、さゆみは、夫のとろけそうな表情にそっと目をやった。
れいなは、出張で稼いだ金で買う予定の、愛妻と愛娘へのクリスマスプレゼントをぼんやりと頭に浮かべていた。

するとそこへ、隣の部屋にいた優樹がトテトテと入ってきた。

「あらあら、もう積み木はいいの?」

さゆみの顔が思わず綻ぶ。
れいなの様子を見ると、寝てはいないようだが、肘枕のまま少々とろんとした目をしている。
優樹も、いつもと違うれいなの様子に気付いたのだろう。
ちょいと小首をかしげて見ている。その仕草が何とも愛らしい。
そして、いつもであればパッとれいなに飛び付くのだが、今日は、足音を忍ばせるように、そろりそろりと近付く。

「チーチ」
「んー?何ねぇ……」

夢うつつのれいなの傍にちょこんと座る。そして、その小さな手でれいなの頬をペチペチと軽く叩きながら

「ネーンネェー、コォオーイーヨー、オコォーオーイーヨー」

と、まだ回らぬ口で、どこかで聞き覚えた子守歌を歌いだした。
頬を撫でるが如くの小さな手の感触と、回らぬ口ながら意外にも上手い歌を聞いていたれいなは……

Zzzzzz……Zzzzzz………

……本当に、夢の中に入っていってしまった。

「まぁったく。どっちが赤ちゃんなのかわからないの」

と、呆れ顔でさゆみが呟く。
コテンと仰向けになったれいなに、優樹は

「ウンショ、ウンショ……」

と言いながら胸の上によじ登る。そして

「チーチィ……」

と言うが早いか、れいなの上でとろとろと眠り始めた。

洗濯物を片付け終わったさゆみは、その様子を見て、ふたりを起こさないようにそぉっと立ち上がった。
こんなところで寝てしまっては、幾ら部屋が暖かいとは言っても風邪を引く。
れいなが風邪を引く分には自業自得だが、可愛い娘に風邪を引かせる訳にはいかない。
キュッとれいなのスウェットを握り締めている、優樹の手をそっと取り、小さな指に手を掛ける。

「優樹。こんなところじゃなくて、ベッドでちゃんとお昼寝しようね」

と、手を剥がそうとするが、半分おねむの優樹は

「ヤー!ヤー!チチトォ……」

と、いやいやをする。
それどころか、その手でさゆみの指を捕まえて

「ハーハ!ハハモォ……」

などと、言い出した。
おねむでぐずる優樹が駄々をこねだしたら聞かないのを知っているさゆみは、フゥッと溜息を吐いた。
まぁ、部屋は暖かいし、ここはホットカーペットの上だし、何か掛ければ風邪を引くことは無いだろう。

さゆみは、またもや立ち上がり、寝室から予備の掛布団を取り出してきた。
そして、また、部屋に戻り、今度は本格的に寝入っているれいなと優樹に掛ける。
そして、布団に自分も潜り込んで、優樹を自分が抱き取り、枕代わりにれいなの腕を伸ばさせて

「こんなのも、偶には、良いかもね……」

と言いながらすうっと寝入ってしまった……………。



1時間ほど、思いも寄らぬほどにぐっすりと眠った3人は、ほぼ同時に目を覚ました。
ぼんやりした頭を何とかすっきりさせ、優樹をベビーカーに乗せてスーパーへと買い物へ向かう。

「お昼寝なんて久し振りにしたね」
「そうやね」
「なんだかちょっと体が軽くなったみたい」
「れなも、ここントコの疲れが無くなったみたいっちゃん」
「でも優樹、上手に子守唄歌ってたねぇ」
「うんうん。録音しとかんやったンが勿体無かったと」
「今度はさゆみも歌ってみようかなぁ」

……それを聞いたれいなと、ベビーカーの中の優樹の顔が、笑顔のまま、ほんの少ぉしだけ引きつる。

「さ、さゆは歌わんでも大丈夫とよー……」
「バブ……………」





小さな幸せの中で       了
 

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