8月4日、夜。鞘師クンは明日の試合に備えての猛練習から、ヘロヘロになって帰ってきた。

「香音ちゃん、ただいまー」

玄関でそう声をかけると、パタパタとスリッパの音が近付いてくる。

「おかえり、里保ちゃん」

料理中だったらしく、香音はエプロンを着けて、右手には菜箸を持っている。

「香音ちゅわん、おかえりのチュ〜♪」

タコの口をしながら、香音に抱きつこうとする鞘師クン。

「――――は、しないんだろうね」

菜箸を鞘師クンの喉にあてて、牽制する香音。鞘師クンは慌てて体を引っ込めた。

「ほら里保ちゃん、お風呂沸いてるから、汗を流してきなよ。ご飯も、あと少しで出来るから」
「……はーい」

しぶしぶ浴室に向かう鞘師クン。――――香音はその背中に。

「お風呂から上がったらキスしてあげるから」

と、声をかけた。
その言葉に鞘師クンは。
即行で服を脱いで脱衣カゴに入れ、即行でシャワーで汗を流し、即行で全身を洗い、
即行で湯舟に浸かって、即行で浴室から出て来たのは、言うまでもない……。



「香音ちゃん、上がったんじゃ」

全身から湯気を立てながら、キッチンにいる香音に駆け寄り、後ろから優しく抱き締める。
香音は顔だけ振り返り、

「もう、こんなときだけ早いんだから……」

呆れた口調ながらも微笑んでいる。

「ご褒美が香音ちゃんのキスなんじゃから、当たり前じゃあ」

そう言って唇を重ねる。香音が「んっ」と声を漏らした。――――その声も煽情的で。
二人、少しだけ口を開けて深くキスをする。
香音の舌は、料理の味付けを確認していたのか、調味料の味がした。
だが鞘師クンには、それすらも甘く感じる。
ピチャピチャと舌を絡ませていると、鞘師クンの下腹部が熱くなってきた。

(このまま、ご飯よりも先に香音ちゃんをいただきたいのぉ……)

そんなことを考えながら、手をそっと香音の胸に這わそうとする。――――と。

……グウ〜。

鞘師クンの腹の虫が鳴った。
その音に、香音は唇を離し、

「里保ちゃん、お腹空いてるんだね。今、盛り付けるから椅子に座ってて」

笑いながら言った。
空気の読めない己の腹の虫を恨めしく思いながら、仕方なく椅子に座る。
少しだけ待っていると、

「はい、お待たせ」

香音が満面の笑みで皿や小鉢を持ってくる。
豚肉の生姜焼き・タコと山芋の和風カルパッチョ・ゴーヤとわかめの梅ポン酢和え・キノコとトマトの酸辣湯と、どれも疲労回復に効く料理だ。

「しっかり食べて、疲れを残さずに明日の試合、頑張ってね」

笑顔で言われると、鞘師クンも笑顔で、

「もちろんじゃよ!」

と張り切って答える。
香音はエプロンを外して、椅子に座った。
二人、向かい合って、料理に手を合わせ、

「「いただきます」」

と声を揃えた。
夕飯を食べながら、明日の試合のことや、今日、香音が産婦人科に行ったことなどを話す。

「――――お腹の子、女の子だって」
「え!? 本当けぇ!?」
「ここで嘘を言ってもしょうがないんだろうね」

女の子と分かって鞘師クンはニヤニヤ笑顔になる。

「昔の香音ちゃんみたいにリトルリーグに入れて、野球少女に育てたいのぉ」
「里保ちゃん、気が早いって」

そう言いながらも、香音も幸せそうだ。

「で・で、予定日はいつじゃ?」
「まだ正確には分からないけれど、2月の頭ぐらいだろう、ってお医者さんが」
「そうかぁ」

満面の笑顔ながらも、パクパクと幸せそうに料理を頬張る鞘師クン。

「香音ちゃん、この生姜焼き、美味いんじゃ」
「本当? 疲れているときには濃い目の味付けが良い、って前に本で読んだから、その通りにしてみたんだけど……良かった」
「他の料理も、もちろん美味いけぇ」

鞘師クンが褒めると、香音は恥ずかしそうに微笑んだ。
食事が済むと、香音が、

「はい、食後の飲み物」

と言って、レモンのハチミツ漬けを氷水で割ったものを、鞘師クンの前に置いた。
それを一口飲むと。フワリ、学生時代のことを思い出す。


自分がピッチャーで香音がキャッチャーをしていたリトルリーグのころ。
中学のときには、ピッチャーとして活躍して注目を集めていた。
高校のときに、肩を壊してピッチャー生命が絶たれたこと。
自棄になって、野球部から遠去かっていたときに香音が励ましてくれたこと。
外野手として部に戻り、甲子園出場を果たしたこと。
――――いつでも香音は、野球部の、そして自分のマネージャーだった。
そしていつも、レモンのハチミツ漬けを作っては、自分に、部員たちに食べさせていた。


「――――懐かしい味がするんじゃ」

鞘師クンがそう言うと、香音はキョトンとして、

「そうなの? 今でも時々作ってるじゃない」

と返した。
今が夏の甲子園シーズンだから、懐古的になったのかもしれんのぉ、そう思いながら、もう一口、二口と飲んだ。――――



洗い物は鞘師クンの役割なので、スポンジを泡立てて、カチャカチャと音を鳴らせながら皿を洗う。

「じゃあ、あたしはお風呂に入ってくるね」

そう言って脱衣所へと消えていく香音。
泡だらけになった皿を流水で洗いながら、鞘師クンはぼんやりと考える。

(香音ちゃんがお風呂……裸の香音ちゃん……)

香音の入浴シーンを想像するだけで、再び下腹部に熱が集まる。

(最近、ゴブサタじゃったからのぉ……)

悶々と考えた結果。――――
鞘師クンは急いで皿を洗い終え、足音を殺して脱衣所へと向かった。
静かに引き戸を開ける。香音はシャワーで汗を流しているらしく、鞘師クンが脱衣所に来たことは気付かなかった。


香音がボディソープを泡立てていると、ガチャリ、浴室のドアが開いた。
えっ!? と思って振り向くと、腰にタオルを巻いただけの鞘師クンが立っていた。

「な、なに? 里保ちゃん!?」

慌てて胸を隠すが、鞘師クンはずんずんと浴室に入ってくる。

「香音ちゃん、背中を流してあげるけぇの」
「は、はい!?」

香音が落としたウォッシュタオルを拾い、椅子に座っている香音の背後に回る。
テンパったままの香音を意に介さず、タオルをよく泡立てて、優しく背中を洗い出す鞘師クン。

「香音ちゃん、力加減はどうじゃ?」
「う、うん、丁度良いよ……」

香音の小さな背中は、カチコチで、緊張しているのが分かる。
首筋にフウッと息を吹きかけると、ビクンッと香音の体が動いた。

「もっとリラックスして……僕に身を委ねて……」

耳元で甘く囁くと、香音の体はフニャフニャと力が抜けた。
背中を丹念に洗うと、

「じゃ、次は腕じゃな」

と告げる鞘師クン。

「……背中だけじゃないの?」

紅い顔で振り向く香音に、優しく口付ける。
――――口付けを終えてから。

「今日は僕が全身、洗ってあげるけぇの……」

至近距離で見つめ合いながら囁く。
香音の全身がシャワーのお湯の熱さのせいじゃない理由で真っ赤になる。
それでも。

「じゃあ……お願いするね」

と顔を伏せがちに、小さな声で言った。
鞘師クンは香音の前にヒザ立ちになって、腕や足を、ウォッシュタオルをクルクルと回しながら、優しく、丹念に洗っていく。
四肢を洗うと、鞘師クンはウォッシュタオルから泡を搾り取る。
その泡を香音の豊かな胸にあてる。

「あ……」

香音が小さな声を上げるも、

「デリケートな部分は手洗いが良いそうじゃ」

と言って、手の平を使って、香音の胸を泡だらけにしていく。
あくまで、ソフトに。それでも香音は、ハア・ハアと熱い息を吐く。
胸を終えて、今度は腹部に。わき腹をなぞると、ピクリと香音の体が震えた。

「香音ちゃん……足、開いて」

鞘師クンに促され、オズオズと足を開く。香音のソコは、――――とても潤っていた。
それに気付かないフリをして、秘所を優しく洗う。茂み、秘唇、そして入口。
コポリ、と蜜が湧き出した。

「ふぅん……くぅん……」

香音がすすり泣くような声を出す。
その声と、目の前の香音の秘所のせいで、鞘師クンの股間はギンギンに勃起して、巻いたタオルを持ち上げていた。
しかし強い理性でなんとか持ち堪える。
愛撫するかのような手つきで洗うたびに、

「はあ、うん……っ」

香音の艶のある声が浴室に響く。
ゆっくり手を引くと、ツーッと透明な糸が指に絡んだ。

「……さ、洗い終わったんじゃ。香音ちゃん、今シャワーで流すけぇの」
「あ……うん……」

香音は夢から醒めたような、ぼんやりとした声を出す。
シャワーの湯温を手で確かめてから、香音の首から背中にかけてのラインに流水をあてる。

「……ちゃんと泡を流さんとな」

言いながら、流している部分に、そっと手を添える。
香音のきめ細やかな肌に、触れるか触れないかの絶妙な手つきで全身の泡を流していく。
香音の体がふるふると震える。
泡を綺麗に流し、シャワーを止めた。

「里保ちゃん……」

名前を呼ばれ、香音の顔を見ると、頬を赤く染めて、涙目で鞘師クンを見つめている。
そのあまりにも妖艶な姿に、唾を飲みつつ、

「どうしたんじゃ、香音ちゃん」

平静を装って尋ねる。

「――――おねがぁい……」
「……なにをじゃ?」

そこで香音の恥ずかしさが限界にきたのだろう。――――鞘師クンの鍛えられた胸板に入ってきた。そして、――――

「ちゃんと、触って……」

蚊の鳴くような声で言った。――――

香音からのおねだりに、ついだらしなく頬を緩める鞘師クン。

「じゃあ続きはお風呂の中でな。体を冷やしたらあかんじゃけぇの」
「うん……」

香音の頬に軽いキスを一つして、そしてお姫さま抱っこで香音を持ち上げる。
そのときに、鞘師クンの腰に巻いていたタオルがハラリと落ちた。
そんな些細なことは気にせずに、そのまま湯舟に入り、後ろから香音を抱き締めた。
濡れた髪を掻き分け、白いうなじに口付けを落とす。
そして柔らかく豊満な胸を優しく揉む。

「あ……うぅん」

頂をキュ、摘むと、

「あんっ」

香音が高い声で鳴いた。

「香音ちゃん……体を僕のほうに向けてくれんか?」
「……うん」

香音は湯舟の中で、ゆっくり体を回転させる。
お湯がチャプン、と揺れた。
鞘師クンは、香音の胸を本格的に揉み始める。指を埋め、頂を擦る。
頂に唇を寄せて、ぺろ、と舐める。そして口に含み、ちゅうちゅうと吸ったり、舌で転がす。

「あうぅんっ」

香音が鞘師クンの頭をぐしゃりと掴む。
香音は軽く背中を反らせて胸を押し付けてくるので、鞘師クンは、「もっと、って催促しとるんじゃな」と判断して、頂を甘噛みする。

「んあっ、んぅん、ふあ……っ」

もう一つの頂も指の腹で擦ったり、摘んだりすると、香音は嬌声を響かせる。

(――――ん?)

鞘師クンは股間に小さな気持ち良さを感じた。
神経を集中させてみると、どうやら鞘師クンの垂直に立った男根に、香音が自らの股間を擦り付けているらしい。
ちょうど陰核に男根が当たるらしく、香音の腰はゆらゆらと動いている。
鞘師クンは空いている手で、そっ、と香音のわき腹をなぞり、秘所へと手を伸ばす。
――――お湯とは違う、とろりとした液体が溢れ出ていた。――――

「んうっ! 里保ちゃ、ん……」

香音は自分の胸から、鞘師クンの頭を離させる。
至近距離で見つめ合い。

「――――ちょうだい……」

真っ赤な顔でそれだけ言って、香音は鞘師クンに深く口付ける。
絡み合う舌と舌。送り合う唾液。
――――もう鞘師クンも堪えきれなかった。
深く口付け合ったまま、お湯に浸かっている香音の両太ももを、ひょい、と持ち上げる。
香音の秘所を己の男根の先端に導き。――――グヌヌ・ヌプ、と貫いた。
唇を塞がれた状態で挿入されたので、

「んふぅ、ふうっ」

香音はくぐもった声を出す。
鞘師クンはそんな香音を薄目で見ながらも、唇を離さずに挿入し続ける。

「んうっ、んー!」

香音の息苦しそうな声が聞こえたところで、根元まで入ったので唇を離した。
香音はビクビクと体を震わせながら、はあ・はあ、と荒い息を吐く。鞘師クンはそんな香音の背中をポンポンと優しく叩く。

「辛かったか? 香音ちゃん」
「ん……だいじょ、ぶ……」

まだ荒い息を吐いている香音の頭を、鞘師クンはゆっくり撫でた。

「大丈夫だから……ね、動いて……?」

そう言って香音は鞘師クンの首に腕を回す。

「分かったけぇの」

香音の腰をしっかり掴んで、鞘師クンは上下に動き始めた。

「あっ、うん!」

始めは、ゆっくりと抜き挿しする。――――それでも湯舟のお湯がぱしゃぱしゃ音を立てて飛沫を上げる。
入口でぐるぐる遊んでみたり、香音のイイトコロを擦ったり、最奥を突いてみたり。
――――鞘師クン自身にも快楽が増して、徐々にスピードを上げていく。

「はぁん、ふうっ、んう!」

香音の声も一際高くなる。

「はあっ、は……気持ち良いか? 香音ちゃん」

鞘師クンの問いかけに、香音はブンブンと首を縦に振り、

「すっごぉい……気持ち良いよおっ!」

と、切な気な声で答える。
そう答えたときの表情が、すごく艶のある色っぽさで。――――自然と鞘師クンの動きが速くなる。
バシャバシャとお湯が跳ねる。

「ふぁん、あんあんっ!」

香音は鳴きながら、鞘師クンにしがみついて首元に顔を埋める。そろそろ限界が近いのかもしれない。

「くうっ! 香音ちゃん、」

鞘師クンも射精感を堪えつつ、呼びかける。

「顔、見せて……。香音ちゃんのキモチイイ顔、僕に見せて……っ」

鞘師クンのお願いに、力無く、それでもおずおずと顔を見せた。
見つめ合いながら、お互い、昇りつめていく。――――

「くふぅんっ、あん! り、里保ちゃん!」
「ぐうっ! 香音ちゃん!」

ラストスパートをかける鞘師クン。

「ああぁぁぁんっ!」

香音のナカがギュウッと締まる。締めつけながら奥へと吸い込まれそうな感覚に。

「う! 出る!」

鞘師クンは香音のナカに白い欲望を吐き出した。――――


………………


二人、寝室のベッドで夏用パジャマを着ながら抱き合っていた。

「……無理させてしもうたか?」

今更ながらに浴室での行為を反省して、香音の頬に、そっ、と指で触れる。

「そんなことないんだろうね」

香音は微笑みながら答えた。
頬に触れている指を静かに手に取って、それに優しく口付ける。

「えっと……あたしも、気持ち良かったし……」

最後は消え入りそうな声で言う。
鞘師クンの心に、香音に対する愛しさが溢れて、強く抱き締めた。

「香音ちゃん、眠くないか?」
「んー。実はあんまり眠くない」
「じゃあ子守唄を歌ってあげるんじゃ」
「へ?」

鞘師クンの唐突な言い出しに、間抜けな声を出す香音。
そんな香音を意に介さず、鞘師クンは優しく歌い出した。

「……ハッピーバースディ、トゥーユー♪ ハッピーバースディ、トゥーユー♪」

子守唄じゃない歌に、香音は一瞬きょとんとしてから、ベットボードにある時計を見た。――――時計は0:05を指していた。
もう、8月5日だったのだ。

「ハッピーバースディ、ディア香音ちゃん♪ ハッピーバースディ、トゥーユー♪……」

甘く優しい声で歌われて、香音は額を鞘師クンの額にあてた。

「ありがとう……里保ちゃん」

鞘師クンは片足を香音の足に絡める。

「今日の試合ではホームランを打つけぇの。それを香音ちゃんに捧げる」
「……うん、すごく嬉しい。絶対に観に行くからね」
「2本、打つから」
「え?」

香音は額を離して、鞘師クンの顔を見る。――――鞘師クンはとても優しい目をしていた。

「1本は香音ちゃんの為に。そしてもう1本は、お腹の子の為にじゃ」
「里保ちゃん……」

香音はそれ以上言葉が出なかった。鞘師クンの優しさとか愛情や、慈しみ、それらのものを感じることが出来たから。――――

「期待、してるね」

それだけを言うのが精一杯だった。
鞘師クンはタオルケットをバサリ、二人の肩まで掛けた。

「じゃ、もう寝ようかの。香音ちゃんの体と僕の試合に響くといかんしのぉ」
「うん」

そうして二人、同時に目を閉じた。――――
願わくば夢でも一緒にいられるように。二人ともそう想いながら。――――




夢を、見た。
顔立ちの整った女の子が、ヘルメットを被り、バットを握りながら打席に立っている。
両親は芝生の土手に座りながら我が子を見守っている。

「かっとばせー! さーやーし!」

味方席からそんな叫び声が聞こえた。
ピッチャーがボールを投げる。
女の子はバットの真芯でボールを捉え、鋭いヒットを放った。
女の子は走り、一塁ベースを蹴って二塁ベースを目指す。相手側の外野手は、ようやくボールを拾ったところだった。
ボールが内野に戻ってきたときには、女の子は余裕で二塁ベースを踏んでいた。
味方陣から喝采が起きる。
女の子は、土手の両親に向かって、愛らしい笑顔でピースする。
両親も笑顔で女の子に手を振った。――――。



………………



――――8月5日のハロ島カープの試合にて。
鞘師クンは香音への約束通り、2本のホームランを打って、チームを勝利に導いた。
ヒーローインタビューの壇に立った鞘師クンは最後に恒例の、

「しゅわしゅわ〜?」

と言って。

『ぽーん!』

香音は他のファンと一緒に、笑顔で大きく叫んだ。





アナタに、捧げる。 了
 

ノノ*^ー^) 検索

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