『海開きだから海水浴にいくYO!』


早朝に、さゆと裸で起きて、二人のLINEに届いた内容がこれだった。
れーなは髪をボリボリ掻きながら、

「吉澤さん……? ってことは今日は仕事は休みと?」

さゆはLINEを見て、

「……フクちゃんと香音ちゃんのほうにも届けたみたい」

と『女子会』というグループで登録しているLINEを見て、少し呆れていた。

「ま・最近暑くなってきたけん、そろそろ優樹を連れて海に行こうか話しとったから、ちょうど良かと? それに吉澤さんの言葉は絶対やけんね」
「そうだね。先週のサマーバーゲンで優樹の水着も買ったことだし」
「優樹だけじゃなかとーやろ? さゆもやけん……」

そう言って、スルリとさゆの白い肌を撫でる。

「んっ……。れ、れーなもでしょぉ……」

優しく・やらしく、肌を撫でると、さゆの息が熱くなる。

「まだ朝早いけん……海水浴の準備は一回だけシてからでも良かとーやろ……?」

はあ・はあ、と熱い息をあげるさゆ。 ̄ ̄ ̄ ̄よし、これはイケると!
そう、れーなが確信して、さゆに覆い被さったとき、またLINEの着信音が鳴った。
しぶしぶスマホを見ると、


『おっ始める前に支度しろYO!』


…………。吉澤さん、れーなたちの部屋に盗聴器か監視カメラでも仕掛けてませんか?
さゆにもスマホを見せると、真っ赤になって、

「吉澤さんの言葉は……」
「絶対、やけんね……」

れーなは背中に『無念』の二文字を背負って、仕方なくベッドから起きた。
さゆは火照った体を冷ます為か、急いで浴室に行ってシャワーを浴びに行く。
ベビーベッドにいる優樹を見ると、

「ちち……はは……じゃんねん……」

そう寝言を言ってコロンと寝返りをうった。


………………


れーなたち一家がマンションのエントランスに降りると、生田家と香音ちゃんが準備万端ですでに来ていた。

「あれ、鞘師クンは?」

さゆみがそう尋ねると、ストローハットを被った香音ちゃんが、

「今、駐車場から車を出しに行ってます」

と答えた。
そう言えばこの大人数だと分乗していくのかな、と考えていると。
駐車場からゆっくりとボルドーカラーのヴォクシーが出てきた。
運転席の窓が開く。

「お待たせじゃ。まーちゃんとどぅーのチャイルドシートも取り付けたから全員乗れますけぇの」

とハンドルを握った鞘師クンが言った。
後部席のスライドドアが自動で開く。
どやどやと、みんなで乗り込む。

「里保、ちゃんと運転できると?」
「えりぽんワシを馬鹿にしとらんか? 免許取ってから一度も事故も違反も起こしていないワシはゴールド免許じゃ」
「いつも、あたしが助手席に乗っているからだろうね」
「そうじゃ。もし事故でも起こしたら香音ちゃんに怪我させてしまうけえの」

軽い惚気を聞き流して、優樹をチャイルドシートに乗せてシートベルトをしっかり締めた。
最後部には遥君、優樹、さゆみとれーながギュウギュウに座り、中央席には生田とフクちゃんが、運転席は鞘師クン、助手席には香音ちゃんが座った。
スライドドアがゆっくりと閉まる。

「じゃ、出発じゃけえの!」

意気揚々と言う鞘師クン……って、あれ? 誰か忘れてない?
車が動き出そうとした瞬間、

『吉澤さん!』

車中のみんなの声がハモった。
鞘師クンが慌ててブレーキを踏む。みんなの体がガクンと軽く前のめりになる。……みんな、シートベルトをしていて良かった。

「そうじゃった、そうじゃった」
「もう里保ちゃんの慌てん坊」

助手席の香音ちゃんが呆れた声を出す。


それから。
約20分ほど車中で吉澤さんが降りてくるのを待っていた。

「おー遅くなってゴメンYO」

大きなクーラーボックスを肩に下げて、反省の色が微塵も見えない様子でやって来た吉澤さん。
…………れーなのお小遣いを賭けてもいい、あのクーラーボックスには缶ビールがぎっしり詰まっているんだろう。
生田の隣に座って、早速クーラーボックスを開けて缶ビールを取り出す。

「じゃ、出発だYO!」

吉澤さんの威勢の良い声で、車は発進した。 ̄ ̄ ̄ ̄。


………………


一方、その頃。
マンション1階にある新垣マートで、てんちょが一人レジに立ちながら、

「……ヒマなのだ」

と呟いていた。
バックヤードに続く扉が開き、

「うへへぇ、そんなてんちょに朗報でーす」

亀井さんが笑顔で顔だけ出した。
……隙間から見えた田中さんがなぜか紅い顔でぐったりしていたけれど、それは見なかったフリのほうが良いのだ。

「てんちょ、運転免許と車持ってますよね? 海! みんなで海に行きましょー!」

いえーい! と一人で盛り上がり、パチパチと手を叩く亀井さん。

「あら、海ならさゆみも行きたいの」

と、さゆみさん……じゃなくて婦警さんが、いつの間に入っていたのか、バックヤードから顔を出した。

「婦警さん、仕事は……」
「今日は非番なの」

……ああ、だから制服姿じゃなくて私服なのだ。

「にーがきさんと海! えりも行きたいですっちゃ!」
「ぽ、ぽん! いつの間に現れたのだ!?」
「ふつーにドアから入ってきたですけん」

えっへん、と胸を反らして威張る理由が分からないのだ。

「ぽんは学校……」
「もう夏休みですとー」

 ̄ ̄ ̄ ̄そうか、もうそんな時期なんだ。

「って! 全員で行ったら、店はどうするのだ!?」
「うへへぇ、そこは心配ないですよ、てんちょ♪」

亀井さんがスマホを見ながら僕に説明し出した。

「小春クンがホストを引退して、彫り師だけでやって行くって、この間聞いたんです。ところが今日は『YH』は臨時休業。
 吉澤さんからのLINEだと、どうやらみんなで海水浴に行くらしい、って、絵里のLINEに小春クンから文章が届いたんですよぉ」
「……それとこのコンビニがどういう関係があるのだ?」
「鈍いですねえ、てんちょも。小春クンに店を任せれば、絵里たち全員が海に行けるじゃないですかぁ」
「いや……しかし……」

口籠っている僕に、亀井さんは、ととと、とやって来て、耳打ちした。

「吉澤さんが『みんなで』海水浴に行く、って説明しているんですよ? つまり当然さゆみさんも行ってますでしょ? 見たくないですか? さゆみさんの、み・ず・ぎ♪」
「よし! 店は小春クンに任せて、早速出発するのだ!」

僕の即決に亀井さんは「うへへぇ、さすがてんちょ♪」と笑っていた。


………………


某所、海水浴場。
たくさん並んでいる浜茶屋に、一際豪奢な浜茶屋が一軒立っていた。
そこのオーナーらしき若い女性のような男性が、部下の黒服に指示を出していた。

「さあ海開きなの! この浜茶屋は他と違って託児施設を設けてあるの、更にプロのライフセーバーも雇っているから、子どもたちの安全は保障されたものなの」
「さすが若、お見事でございます」
「……と、いつものパターンだと、さゆみは別世界のいつものガキんちょに美しい顔を引っ張られるのがオチだから、託児施設は保育士とその見習いに任せて、奥に引っ込むの」

さっさと歩いて隠れた……じゃなくて、監視ルームへと入っていく『若』の姿を、黒服は見守っていた。
託児施設を任された数名の保育士と、まだ大学生で来年保育士の資格を取る予定の見習い数名が、黒服たちの指示に従って、すでに子どもを預けにきている両親の相手をしている。
その中に一人、小麦色の肌をしたスレンダーな保育士見習いが、

「ああ、緊張します……でも、これも未来の保育士への第一歩なのです!」

と、震える手を握りしめながら、やる気を起こしていた。


………………


「「さ・い・あ・く!!」」

二人の男女の声がハモった。
ラベンダー色の水着を着た女性が腕を組んでそっぽを向く。

「踊れる素敵な佐◯男子と2対2で海辺合コンするから、って同僚に言われて来てみれば……こんなチビっ子石田だったなんて!」
「僕だって可愛いヤ◯ト女子を紹介するよ、と言われてせっかくの休みに海に来たのに、相手が小田、お前だったなんてね!」

青色の海パンを履いた男性も負けじと顔を背ける。
そして二人、はあ、と息を吐く。

「同僚はもう一人の素敵佐◯男性と意気投合して二人で別行動しちゃいますし……」
「僕だって、あっちのヤ◯ト女性が良かったよ……」

ザザーン、と波が寄せては返し、二人の間を潮風が通り抜ける。
二人は考える。
すぐにでも帰りたいところだが、お互い同僚と車を乗り合わせているから、帰るに帰れない。
コイツとはさっさと離れたいが、一人で海、というのも、かなり虚しい。
っていうか、寂しい人だ。

二人が考えた結果。

「……帰る時間まで、アンタといる方がまだマシですね」
「それは僕の科白だよ」
「言っておきますけど、手を繋いだりとかは、絶対にしませんからね」
「こっちだってお断りだよ」
「……取り敢えず、どうしますか?」
「……砂浜に立っていても暑いだけだから、浜茶屋に行こうか……」

そう言って男性は砂浜に置いた、カセットテープデッキを持ち上げた。

「それは……」
「ん? ああ、踊れることが僕の強味だしね。それによく『踊ってー』と言われるからいつも持ち歩いているんだ」

それだけ言って、さっさと歩き出す男性。
女性はその後ろ姿を見て、想う。

それ、私がプレゼントしたやつじゃないですか。
もう何年前ですか。
物持ちがいいというか貧乏性というか……そういうところ、変わってませんね。

「ちょっと、女の子を置いて歩くのは、どうかと思いますよ!」

わざと声を荒げて、先を行く男性に小走りで駆けて行った。


………………


海岸近くの有料臨時駐車場でバカ高い駐車料金を払って、鞘師クンは車を止めた。

「さ、着いたけぇの」

そう言ってスライドドアをボタンで開ける。
生田が弾けるように外に出て、

「海ー!」

と叫ぶ中、フクちゃんは寝ている吉澤さんの肩を軽く叩いて、

「吉澤さん、海に着きましたよ」

と起こしている。

「うみー、うみー」
「うみー!」

さゆみは、興奮気味に窓の外の海を見ている優樹と遥君のチャイルドシートのベルトを外してやった。
車から出してあげると、二人はトテトテと海に向かって歩き出す。

「優樹、危ないっちゃよ」
「遥も、もう少し我慢すると」

二人の九州男児が我が子を抱っこする。
香音ちゃんも、いつの間にか助手席から下りていて、運転席から出てきて伸びをしている鞘師クンの腰をポン、と叩いて、

「里保ちゃん、お疲れ」

と労っている。
生田は遥君を片手に、もう片方で浮輪やらビーチパラソルやらをひょいと担ぐ。鞘師クンやれーなも、持参してきた物を肩に担いだ。
女性陣は自分の水着だけを、 ̄ ̄ ̄ ̄吉澤さんだけはクーラーボックスも含めて、軽い荷物で男性陣と一緒に歩く。

「やっぱ混んでるっちゃねえ……」

人ゴミが苦手なれーなは、うんざりとした声を出す。

「ま・この辺りじゃ一番有名なビーチですから仕方ないですけぇ」

フォローするように語る鞘師クン。
砂浜まで出て、水着に着替える為にも、どこか適当な浜茶屋を探す。探すために歩いていると、

「お、ビーチバレーのコートがあるYO」

吉澤さんが興味津々な声を出した。

「ビーチバレー、よかとですね。着替えたらやりましょうっちゃ!」

勝負事に熱くなる生田が早速提案する。

「えりぽん、バレーはいいけど、その間、遥や優樹ちゃんはどうするのよ」

フクちゃんのストップがかかった。

「あー……。そうやけんね……」

うなだれる生田。
その時、生田の肩をバンバンと香音ちゃんが激しく叩いた。

「ね! えりちゃん、あの浜茶屋、託児施設があるって!」
「お。本当じゃ。なになに……『ライフセーバーもいますので、お子さまの安全をお約束します』というノボリも立っとるぞい」

視力の良い鞘師夫妻が見つけた浜茶屋は、他のボロい浜茶屋と違って、綺麗で清潔そうな雰囲気。

「じゃあ、あの浜茶屋に決めて、優樹たちを預けよっか」

さゆみの意見にみんな賛成した。



決めた浜茶屋『シゲなの亭』は、ほどほどに混んでいた。
そこの縁側で、そっぽを向いてカキ氷を食べる、一組の男女。……あれ? どこかでみたことあるような……?
視線に気付いたのか、同時にさゆみを見る男女。お互い見覚えがあって、じーっと見つめ合う。

「 ̄ ̄ ̄ ̄あ、田中さんですよね!?」

女性のほうが思い出したかのように声を出した。

「は、はい。そうですけど……」

さゆみのほうは、どうしても思い出せなくて、それが伝わったのだろう、女性は立ち上がり、ぺこりと頭を下げた。

「いつもご利用ありがとうございます! 私、ヤ◯ト宅配便の小田です!」

 ̄ ̄ ̄ ̄ああ! 宅配便の人かぁ、制服姿じゃないから気付かなかった。
男性のほうも立ち上がり、ぺこりと頭を下げる。

「こんなところで会えるなんて奇遇ですね! 僕は佐◯急便の石田です!」

 ̄ ̄ ̄ ̄あ・男性のほうも宅急便の人。なんて奇遇すぎる奇遇。

「さゆみさん、お知り合いですか?」

フクちゃんと香音ちゃんがひょこりと顔を出した。

「あら、譜久村さんと鞘師さんまでいらっしゃるなんて!」

記憶力が良いのか、サラサラと名前を言うヤ◯トの人。
驚いているフクちゃんと香音ちゃんに、自分はヤ◯ト宅配便の小田です、と告げて、ようやく認識してもらえたようだった。

「同じマンションの方が揃って海水浴なんて、仲がよろしいんですね!」

笑顔で言われるから、それに仲良くしているのは事実なので、こっちも笑顔で返した。

「宅急便の二人は……デートなの?」

ライバル会社同士の社員の恋愛ってありなのかなあ、とか考えていると、

「「違います!」」

はっきりきっぱりと否定された。

「だれがこんなのと!」
「その言葉、そっくり返します!」

……うーん、息が合っていて仲が良さそうなんだけど……。
……恋愛って難しいの。


そこに、先に水着に着替えた男性陣がドヤドヤとやってきた。

「さゆー、どげんしたと?」
「聖、知り合いやと?」
「香音ちゃん、まだ着替えてないんじゃ」

宅急便の人たち、と説明すると、

「あーいつもご苦労様ですと」
「毎回ありがとうっちゃ」
「毎日すまんのぉ」

と挨拶した。
いえいえ、と笑顔で返すヤ◯トの女性と、ポカンとした顔の佐◯の男性。……なんでそんな表情をしているんだろ?

「ほら、さゆたちも着替えんと」
「あ・うん、優樹たちは預けてくれた?」
「ん。バッチリたい」

託児施設のスペースに目を向けると、小麦色の肌をしたスレンダーな保育士さんに、優樹と遥君、腕にぶら下がって遊んでいた。
水着に着替えるために宅急便の二人に「それでは失礼します」と告げて、女性三人で更衣室に向かう。

 ̄ ̄ ̄ ̄そこで、フクちゃんと香音ちゃんの着替えシーンを見てしまい、自分の胸に、思わず手を当てて軽くヘコんだのは、秘密……。


………………


YO! YO! YO! ここからはよしざーが実況するYO!
よしざーは、ヤローたちと同じ頃に着替えたんだYO!で・女性陣が着替えている間に、
男性陣は宅急便の二人にあれこれ話しかけて、一緒にビーチバレーに参加するように誘ったんだYO!
ヤ◯トのODAちゃんは快く参加をOK、佐◯の石田は、この男性陣たちがさっきの女性陣のパートナーだと知って、ひどく落ち込んだYO。

「そんな……もう引っ越しの手配は済ませたのに……」

とかブツブツ言ってたけど、よしざーは気にしないNE!

「それよりバレーに参加しろYO」

って背中叩いてやったら、

「……そうですね、この悲しみをスポーツで発散します!」

とか言って、ビーチバレーへの参加が決まったYO!
その間に、女性陣の着替えも終わって、水着姿で出てきたとき、男性陣全員が鼻の下伸ばしたYO。

「ちゃゆ、そのピンクのビキニは反則っちゃろ……ハアハア」
「聖ぃ……ばりエロかぁ……ハアハア」
「香音ちゅわぁん。その緑のタンキニ、ぶち似合っとるんじゃあ……ハアハア」
「み、皆さんお素敵すぎる……石田、鼻血出そうです……」

シゲちゃんは、今にも襲いかからんとする旦那をギロリと睨んで、上からラッシュパーカーを着たから、れいなはがっかりしたYO。
よしざーは、ビーチボールをレンタルして、

「それじゃ、コートへ向かうYO!」

と率先して砂浜に出たNE。

コートに向かう間、ODAちゃんと鞘師の女房が話している間に意気投合したらしく、

「ね、小田ちゃんて呼んでいい?」
「はい! 私も鞘師さん……だと旦那様と混ざっちゃいますから、香音さん、とお呼びして良いですか?」
「構わないんだろうね♪」

なんて、腕を組み合って、キャアキャアしているYO!
男性陣は石田を囲んで、

「お前も隅に置けないヤツっちゃねー、ライバル会社の彼女がおるなんて」
「田中さん、ち、違いますよ! 彼女じゃありません!」
「じゃ・なんで一緒に海に来たんじゃ?」
「それは……同僚との2対2の合コンに誘われて……」
「ばってん、合コンで初顔合わせにしちゃ仲良さそうだったとー」
「それは……その…………元カノなんです」
「「「えっ!?」」」

これには男3人と聞き耳を立てていたよしざーは驚いたNE!
しかーし! その後、更に驚く発言があったYO!

「で、でも3ヶ月で別れちゃって……その、……キスすらしませんでしたから」
「「「どええっ!?」」」

大きな声を上げる男性陣に、訝しげな目を向ける女性陣。男性陣は気にせず石田を更に小さく囲む。

「お前、あんな可愛い彼女がおって、キスすらせんかったんやと!? 石田……お前、もしかして……どーてー?」
「わ、悪いですか生田さん!?」
「うーん悪いことじゃあないんじゃが、30までに卒業せんと、魔法使いの資格が取れてしまうけぇのぉ」
「鞘師さん、話がズレてませんか?」
「れななんて、中坊で卒業したっちゃ。ふーん……」
「た、田中さん、珍獣を見るような目で見ないでください!」

 ̄ ̄ ̄ ̄とまあ、この辺りでよしざーの耳は女性陣に移動させてみたYO! 女性陣もODAちゃんを囲んで話が盛り上がってたYO!

「ね、ね、小田ちゃんは今どこに住んでるの?」
「今は社員寮です。でもそろそろお金が貯まったので、引っ越そうかな、とか考えていて」
「引っ越したい候補はあるの?」
「はい。駅に近くて、素敵なマンションなんです。賃貸も分譲もやっていて、賃貸でしたら、私のお給料でも住めそうな値段なんです」
「そうなんだ〜。ね、今はスマホ、コインロッカーに預けてきちゃったけれど、あとでLINEの交換しない?」
「はい喜んで!」
「あ・香音ちゃんだけズルい! 聖も!」
「さゆみにも教えてほしいな」
「はい、お二人にも交換できたら嬉しいです」


そんなこんなで、ビーチバレーのコートに着いたYO!
ちょうど空いていて、よしざーは早速、 ̄ ̄ ̄ ̄ビールのプルトップを開けたYO。

「あの……ビールを飲んでいる吉澤さん、参加しないんですか?」
「だってよしざー抜きで8人、ちょうどいいじゃないかYO。よしざーは審判ね」
「はあ……」

呆れ顔のシゲちゃんを気にもせず、グビグビとビールを飲む。
プハッ、と口を開けて。

「どうせなら賭けてみようYO」

と提案してみた。

「賭け?」

みんなが首を捻る中、説明を始める。

「そ。男女で分かれて、負けたチームは勝ったチームとよしざーに昼メシ奢る、ってのはどうYO?」
「それ、面白そうっちゃね」

勝負事が大好きな生田はノリノリで乗ってきた。

「まあ負けても昼ご飯を奢るくらいなら……」

と、他のメンツも納得する。
 ̄ ̄ ̄ ̄と・言う訳で。
男性陣は前衛が生田と鞘師、後衛がれいなと石田。
女性陣は前衛がフクちゃんとODAちゃん、後衛がシゲちゃんと鞘師の女房。
鞘師の女房が、被っていたストローハットを、

「吉澤さん、持っていてくださいますか?」

と渡してきたので、快く預かった。
ジャンケンで最初のサーブ権を決めて、男性チームからのサーブとなった。

「それじゃあ試合開始だYO!」

の声と共に、昼メシを賭けた勝負が始まった。 ̄ ̄ ̄ ̄。


………………


同時刻、新垣マート店内。

「……ヒマ」

一人でレジに立ちながら小春はそう呟いた。

「昼前なのに、お客様がゼロってヤバくないですかねえ?」

誰ともなしに呟いてみる。
もう、お握りなどの食品や飲み物の補充もしてしまったし、雑誌の整頓もしたから、あとは肝心のお客様が来るだけなのだが、一向にやって来ない。
小春は髪を手で撫でつけて、

「 ̄ ̄ ̄ ̄新垣マートが潰れたら、小春が困るから、少し売上に貢献してみますか」

そう言ってスマホを取り出す。
メール作成を開き、宛先に、ホスト時代のお客様たちのメルアドを次々に決定していく。

「元No.1ホストの実力を見せてやりますよ」

『今、◯×町の新垣マートでバイトをしています。貴女のお顔が見たいです。ぜひお立ち寄りください』

そして、わざと伏し目がちに寂しそうな表情の写メを添付して、送信する。


十数分後。
新垣マートは女性たちで溢れ返っていた。

「やーん、小春クン会いたかったの〜」

と小春の手を握る女性もいれば、買い物カゴいっぱいに商品を購入する女性もいる。それらの女性客をニコニコと小春はさばく。
 ̄ ̄ ̄ ̄だがしかし。
コスメや雑誌やスイーツの売れ行きは好調なものの、小春を意識してか、お弁当類があまり売れない。
さて、どうしたものか。そう考えていると。
ピン・ポーン♪ と、入店のチャイムが聞こえて、反射的に

「いらっしゃいませー」

と笑顔を向ける、 ̄ ̄ ̄ ̄と。

「あれ〜小春クンじゃん」
「絵里さん……お久しぶりです」

アパレル会社でデザイナーをしている、絵里が入ってきた。
絵里は今、デザイン部の部長をやっている、バリバリのキャリアウーマンだ。

「仕事がひと段落ついたから、さゆで遊ぼうと思って来たんだけど、留守で絵里ちゃんガッカリ」
「さゆみさんは海に行ってますよ。ついでにここのてんちょたちも」
「そっかぁ。じゃあここでお昼ご飯買っていこうかな、昨日から碌に食べていないんだ」

そこでキラリーン☆ と小春は思いつく。

「絵里さん、ちょっとお耳を……」
「ん? なに?」
「お金はいりませんから、サクラをしてくれませんか?」
「あ・何だか面白そう♪ なにをやればいいの?」

コショコショ、と話して、フンフンと絵里が頷く。

「おっけーおっけー、軽いもんですよ♪」

ささっとお弁当コーナーに行き、少し大声で、

「絵里、カツ丼とスタミナ弁当にしよーっと!」

と二品を選んだ。小春はすかさず、

「たくさん食べる女性は大好きですよ!」

と、明るく答える。
コンビニにいる女性たちが、ザワ、とした。
 ̄ ̄ ̄ ̄そこからは。
カツ丼を始めとした丼物、ガッツリ系のお弁当、大盛りパスタなどが売れに売れた。
女性たちがいなくなる頃には、お握りやパンが2〜3個転がっている、という状況。

「いや〜小春クン、商売上手だね〜うへへ」

ちゃっかりバックヤードで温めたカツ丼を頬張っている絵里が褒める。

「絵里さんのおかげですよ」

キリリとしたホストモードの顔から、へらへらした素の笑顔に戻る小春。

「じゃあ僕もお昼ご飯……って、ほとんど商品がないや」
「さっき絵里がサクラで買った、スタミナ弁当あげるよ。おいで、一緒に食べよう」

 ̄ ̄ ̄ ̄そうして、新垣マートのバックヤードで、フニャフニャへらへらとした昼食が始まった。


……………………


時刻を少し遡り。

「田中優樹ちゃんと譜久村遥君ですね、確かにお子さま二名様、お預かりします」

ハキハキとした口調で春奈は言った。
大学の長い夏休み、バイトも兼ねて浜茶屋で保育士の練習をしに来たのだ。
来年度の保育士の資格を取る為に猛勉強していたが、それには実践が一番、と思い、大手財閥が運営するこの浜茶屋のバイトを応募した。
預かった子ども二人は早速春奈の腕にぶら下がって遊んでいる。

「こらこら二人とも、おねーさんの腕が抜けちゃうから」

そう言いながらも、春奈はニコニコしている。

「優樹ちゃん、遥君。積み木で遊ぶ?」

積み木を手に取りながら提案すると、二人はイヤイヤと首を横に振った。

「じゃあボール?」

やっぱりイヤイヤと首を横に振る。
優樹は浜辺を指し、

「おしゅな、おしゅな」

と言い。遥は海を指して、

「うみー、うみ!」

と言った。

「お砂遊びか海で水遊びね。どっちを先にしようか?」

しゃがんで、二人の目線に合わせて会話する。

「おしゅな!」
「うみ!」

両者、互いに譲らない。
優樹と遥は見つめ合って。 ̄ ̄ ̄ ̄もしかしたら睨み合っていたのかもしれない。

ぺちぺち! と優樹が遥を叩いた。

「こらこら! 優樹ちゃん」
「おしゅな!」
「いたいたい」

半ベソになっている遥を慌てて担ぎ上げる。

「優樹ちゃん、遥君を叩いちゃダメよ」

めっ! って軽く怒ると、優樹はシュンとした。

「おしゅな……」
「優樹ちゃん、そんなにお砂遊びがしたいのね?」

コクン、と頷く優樹。

「まー……」

遥がジタバタと春奈の腕でもがいて、下ろせと表現している。
遥を下ろしたら、優樹の頭を撫でて、

「……おしゅな」

と言った。
パアッと優樹の顔が明るくなる。

「どぅー、おしゅな?」

コクンと頷く遥。

「遥君もお砂遊びでいいの?」

春奈の言葉に、もう一度頷く遥。

「……そっか。じゃあ行こうか、優樹ちゃん、遥君」

そう言って二人の手を繋ぐと。
優樹が、またプルプルと首を横に振って、自分を指して、

「まー」

と、答えた。

「えーっと……『優樹ちゃん』じゃなくて、まーちゃん、て呼べばいいの?」

にっこり笑う優樹。

「じゃあ遥君のことは……どぅー?」

ニコニコ笑って頷く優樹と遥。

「そっか。まーちゃんとどぅーね、おねーさんの名前は、はるな、だよ」
「はるな……はるなん!」
「はるなん、はるなん」

さっきまでと打って変わって、キャッキャとはしゃぐ二人に、春奈もつられて笑顔になる。

「それでは、まーちゃんとどぅーとはるなんで、お砂遊びをしましょうね」
「ごー」
「ごー、ごー」

GOね、親御さんの言葉を覚えたのかしら、と春奈は微笑ましく思いながら、二人にヨチヨチと手を引かれ、浜辺へと向かった。


……………………


波の音が遠くに聞こえ、潮風が香る、臨時の有料駐車場。係員の人にバカ高い駐車料金を払って、黄緑色のタントを止めた。

「着いたのだ」
「わーい♪ にーがきさんと海ー♪」
「ここが一番近くて有名な海水浴場だから、ここにさゆみさんがいる可能性は高いの」
「さゆ、名推理だね〜うへへぇ」
「ふう……暑いっちゃねえ」

5人でガヤガヤ言いながら、荷物を下ろす。

「で・さゆみさんは何処にいるのだ?」
「そこまでは分からないの」
「てんちょの股間の小さなアンテナで探せないんですかぁ?」
「……僕にそんな機能は付いてないのだ」
「小さなアンテナってなんですと?」
「ぽん、気にしたら負けなのだ」
「早く浜茶屋に行くっちゃよー」

さっさと歩き出す田中さんのTシャツの襟首を、亀井さんが掴む。ぐえ、という声が田中さんから上がる。

「れーな待ちなさい。浜茶屋もちゃんと吟味しなくちゃ」
「そうなの絵里の言う通りなの。 ̄ ̄ ̄ ̄ね、絵里。あそこに丁度良い岩場があるの」
「あ・ホントだ。大きな岩場だから岩陰もあるね。そこにれーなを連れ込んで……うへへぇ♪」
「さすが絵里、話が早いの♪ それじゃあ、あの岩場近くの浜茶屋に決定なの」

亀井さんと婦警さんでぽんぽんと話が進んでいく。
 ̄ ̄ ̄ ̄どうやら浜茶屋は決まったらしいのだ、それなら顔が青白くなりかけている田中さんの襟首を離してあげればいいのに。

「じゃ、しゅっぱーつ♪」

亀井さんが田中さんをずるずる引きずって、婦警さんと仲良く歩き出した。その後ろに従う僕とぽん。

「ところで絵里、見たところ、水着を持ってきてないみたいなの」
「うへへぇ、絵里ちゃんは賢いから、下に着てきたんだよぉ」
「……帰りの下着は?」
「あ」

と・いうわけで。
僕たち5人は亀井さんと婦警さんが決めたボロい浜茶屋で着替えて波打際まで来ていた。

「よーし泳ぐけんねー! にーがきさん見ててください、えり遠泳をしますっちゃ!」
「あー。行ってくるのだ」

嬉々として海に入っていくぽん。こういうところは中学生なんだよなあ。

「てんちょ♪ 絵里たちは砂浜で遊びませんか?」

遊ぶってなにをするのだ? そう言おうとしたら無理矢理砂浜に寝かされた。

「てんちょ、昨日も深夜勤だったでしょ? 癒してあげますよぉ」

言いながら砂を体にバッサバッサとかけていく。
あー砂の温度が心地良いのだ……確かにずっと夜勤続きで疲れていたのだ……

うつらうつらとしながら、そんなことを考えていると。
 ̄ ̄ ̄ ̄どうやら僕は少し眠ってしまったらしい。
亀井さんの「かーんせーい♪」という声で目が覚めた。
婦警さんが僕の足のほうから、

「写真撮ってあげるの。はい笑ってー」

とスマホを向けているから、つい笑顔で『カシャッ』という音を聞いた。

「んー、良く撮れたの。てんちょさん見ます?」
「見せてほしいのだ」

気軽に返事する僕と、側でふにゃふにゃ笑っている亀井さん。田中さんは……何故か赤い顔で僕から目を逸らしている。……?

「はい、これなの♪」

見せてもらった画面は、 ̄ ̄ ̄ ̄

「どえええええっ!?」

思わず奇声を上げる。
こ、この、僕の首元まである巨大で精密すぎる男性器の砂像。こんなもの、モザイク物なのだ!
しかも僕の顔の横にはデカデカと『巨根』という文字まで書かれてある。

「う〜ん、猥褻罪でタイーホものの出来栄えなの」

今すぐ砂から体を跳ね起こ……そうとしたのだが、体が全く動かない。
どれだけの砂を被せたのだ!

「てんちょはもう少し寝てて大丈夫ですよぉ、絵里たちはご飯に行って来ますね。あとお財布はちゃーんと預かっておきますからぁ」
「こら! 僕の財布からご飯を食べる気なのは分かるのだ!」
「うへへぇ♪」

僕をその場に残して去っていく亀井さん・田中さん・婦警さん。
嗚呼……砂浜を歩くカップルや家族連れの視線が痛いのだ……。
叫んでぽんに助けてもらおうかと思ったけれど、中学生にこんなリアルな男性器像は見せられないのだ。
だから。僕は寝たふりをしながら体は必死に動かして砂の中でもがいていた……。
 ̄ ̄ ̄ ̄結局。ぽんが遠泳から帰るのと、僕が砂像を壊して脱出したのは、ほぼ同じ時間だった……。
その頃には、だいぶ太陽も傾いていて。岩場の方から、ニャンニャンという猫のような鳴き声と、うへへぇ、とどこか聞き覚えのある声が聞こえてきたのは記憶から削除しておくのだ……。


……………………


YO! YO! YO! 再びよしざーの実況だYO!
ビーチバレーは石田のサーブから始まったYO!
ボールはぽーんと鞘師の女房……って呼ぶの面倒くさいから、旧姓は鈴木だったらしいから、これからはズッキと呼ぶYO!
ボールはズッキの前に落ちてくる。
ズッキは綺麗にトスをして、ぽよん、とボールを飛ばした時、ぽよんぽよんと胸が揺れたYO。

「うっ」

男性陣コートからそんな声が聞こえたので見ると、鞘師が股間を抑えて前屈み気味になっていたYO!

「聖ちゃん!」
「任せて!」

フクちゃんがジャンプして、アタックを決める。その時、胸がぷるるんっ! と揺れて。

「おうっ」

今度は生田が股間を抑えて前屈みの姿勢になったYO。
そんな前屈みの二人の間にボールは落ちたNE!

「女性チーム1点先取だYO!」

よしざーが言うと女性チームが「やったねー」と声を上げる。

「こら鞘師と生田! なにやっとると!」

れいなの声が飛ぶ。男二人はバツが悪そうに、

「すまんですっちゃ、田中さん。ばってん……」
「あの攻撃は反則じゃあ……」

まだ前屈みのまま言ったYO。
今度は女性チームからのサーブで、シゲちゃんがサーブを打つ。
が。ボールはヘロヘロとネットを越えたものの、男性チームのコート外に落ちた。

「はい。男性チームに1点だYO」

よしざーが無情にも言うと、ガックリ落ち込むシゲちゃん。女性陣はそんなしげちゃんに駆け寄って、

「さゆみさん、落ち込まないでください」
「そうです、まだ同点ですよ」
「これからじゃんじゃんと点を取れば良いだけですから」

と、次々と声を掛ける。
女性チームがシゲちゃんを慰めている間に、男性チームも固まって、なにやら相談する。

「今の見たっちゃろ? さゆは運動オンチやけん、さゆを狙ってボールを打てば良かと」
「……いいんですかねぇ、それで」
「勝負事は時に無情たい!」
「そうじゃ、これも作戦の一環じゃけぇ」

次は男性チームのサーブ。れいながポンっとボールを打つ。
作戦通り、シゲちゃんの目の前までボールが落ちてくる。
シゲちゃんが慌ててボールをトスするものの、尻もちをついて、女性チームのコートからボールは大きくはみ出した。

「よっしゃ!」

男性チームからそんな声が上がる。 ̄ ̄ ̄ ̄が!

「さゆみさん!」

フクちゃんが猛ダッシュでボールを拾いに行った。 ̄ ̄ ̄ ̄これぞフクムラダッシュ!
フクちゃんはボールをトスして女性陣のコートに戻す。

「任せてください!」

ODAちゃんが飛んでアタックする。
アタックする瞬間を、

(あいつ、結構胸があったんだなあ……)

とぼんやり考えていた石田の顔面にボンッと当たって落ちた。

「はい、女性チームに1点追加だYO」

きゃー! と盛り上がる女性チーム。

「フクちゃん、ありがとうね」
「そんな……さゆみさんのためですから」

顔を紅く染めて答えるフクちゃん。
フクちゃんの手を借りて起き上がるシゲちゃん。

「あー……もう、砂だらけ」

着ていたラッシュパーカーに付いた砂を手で払う。

その時、よしざーは気付いたYO。
いつの間にかコートの周りを他の海水浴客たちが観戦していたことに。……特に女性チームのコートに男性が多いことにも。
よしざーは預かっていた、ズッキのストローハットを逆さにして、

「はいはい、おひねりはこちらにどうZO」

と呼び掛けると、次々と投げ込まれる小銭。
シゲちゃんはそんな観客に気付かず、

「もう暑いから脱いじゃおう」

と言ってゆっくりとジッパーを下ろす。 ̄ ̄ ̄ ̄その仕草が、エロい。
まるで蝶が羽化するかのように妖艶にパーカーを脱いで、ついでにお尻に食い込んだ水着を指で直す。
※イメージ

『おおっ!』

と、観客からどよめきが走り、ストローハットに続々と紙幣が投げ込まれる。

「「「「うっ!」」」」

男性チームからもそんな声が聞こえて視線を移すと、4人全員が股間を抑えて前屈みになっていた。

「ちゃゆエロい……今すぐ岩場の陰にでも隠れて……ハアハア」
「聖一筋の俺が……ばってん、エロいっちゃ……」
「ワシだって香音ちゃん一筋なんじゃが、しかし……」
「さゆみさん……セクシーすぎます……」

そんな男性陣を呆れたように見ているODAちゃん。その顔には、

「男ってバカ」

と書いてあるYO。
何故か目をギラつかせながらシゲちゃんを見ているフクちゃん。
ズッキは、観客に気付いたらしく、横目でチラリと見る。 ̄ ̄ ̄ ̄それが流し目をしているかのようで。

『ひゅー!』

と、歓声が上がって、ストローハットに小銭やら紙幣やらが投げ込まれる。


試合再開。今度は女性チームのサーブでズッキがボールを構える。
男性チームのほうにも観客が集まりだして、

「ね、あれ、ハロ島カープの鞘師クンじゃない?」

という囁き声がよしざーの耳にも入った。
鞘師にも聞こえたらしく、観客のほうを向く。

「やっぱり鞘師クンよー!」

鞘師が軽く手を振ると、キャー、と黄色い声が上がる。
その瞬間だったYO。
ドゴオッ! とビーチボールにあるまじき音を立てて、鞘師の顔面にボールがめり込んだ。
サーブを放ったズッキが全身に闘気をみなぎらせて、

「里保ちゃん、なにヘラヘラしているんだろうね」

と冷たく言った。
続いてフクちゃんのサーブ。
これは普通にぽーんとボールが舞い上がり、しばしトスの連続で互いに相手コートに返す。
その時に観客のほうから聞こえた声。

「あの頬に傷のある人、マッチョまでいかなくても、いい体してない?」
「本当。逞しくて素敵!」

生田の耳にも入ったのか、その顔が緩む。
またその瞬間だYO!

「えりぽん、なにデレデレしてるのよ!」

ドゴスッ! とフクちゃんのアタックが生田の顔面に直撃したYO。

その後も。

「れーなの馬鹿ぁっ!」

ドスッ!

「女性なら誰でもいいんですね!?」

ゴスッ!

 ̄ ̄ ̄ ̄と。女性陣の怒りのサーブやアタックが男性陣の顔面にぶつかり、男性チームは死屍累々の状態となったYO!

「はいはい。終了しゅーりょーだYO」

よしざーの声に、女性陣は我に返ったように怒りを引っ込めた。

「男性チームが再起不能になったから女性チームの勝利だYO!」

いえーい! と4人でハイタッチする女性陣。
男性陣は仰向けだったりうつ伏せだったりで全員倒れている。

「お昼ご飯は里保ちゃんたちの奢りなんだろうね」
「そう言えば『シゲなの亭』にはアワビの酒蒸しがメニューにありましたよ」
「じゃあ、それにしましょうよ、えりぽんの奢りで」
「いいね、ちゃんと吉澤さんの分も出してよね、れーな?」

ううう……、とゾンビのような呻き声を出しながらよろよろ立ち上がる男性陣に、

「「「「分かった?」」」」

と、冷たい声を掛ける女性陣。

男性陣は怯えたように、

「「「「……はい」」」」

と力無く返事した。

「別に男性陣の奢りじゃなくても大丈夫だYO」

よしざーの言葉に、不思議がる数々の視線。

「見ろYO、このストローハットの中を」

そこにはビーチバレーを観戦しに来ていた海水浴客からのおひねりが山と積まれてあった。
男性客はおろか、女性客からも、回っておひねりを頂戴したので、かなり重い。

「小銭も多いけれど、万札もいくつか入ってるYO! 軽く見積もっても20万はあるYO!」
「「「「「「「「ええー!?」」」」」」」」

全員が揃って驚きの声を上げた。

「これで昼メシは豪華に食えるYO」

そう提案したら、男性陣は、

「財布が助かったと……」
「良かったっちゃ……」
「安心したけぇ……」
「……ほっ」

と、安堵の声を上げた。
しかーし!

「それじゃあ勝負した意味ないの」
「そうですわ。遊びでも勝負は勝負」
「大人しく自腹を切るんだろうね」
「嫌だ、と言ったら男らしくないですよ?」

と、女性陣は容赦ない。
男性陣はガックリうな垂れて。

「「「「……分かりました」」」」

と財布を出した。


『シゲなの亭』まで歩きながら、ズッキが、

「そのお金、どうするんですか?」

と聞いてきた。

「んー、どうしようかNE」
「吉澤さんが戴いたんですから、吉澤さんの好きにして良いですよ」

とシゲちゃん。
うんうん、とシゲちゃんの言葉に頷く残りの女性たち。

「 ̄ ̄ ̄ ̄じゃあ、水上コテージの宿泊代にするYO!」
「「「「……はい?」」」」

女性陣の声がハモる。

「誰も海水浴が日帰りだなんて言ってないYO。『シゲなの亭』に張り紙がしてあって、
 『当店ではご希望のお客様にプライベートビーチにある水上コテージを格安で提供しております』と書いてあったYO!
 そこに家族単位で泊まればいーじゃんかYO!」

よしざーのその言葉に。
元気なく歩いていた男性陣の背中が伸びる。

「おい生田、確か託児施設って……」
「はい田中さん、24時間預けてくれますっちゃ!」
「香音ちゃんと水上コテージ……デュフフ」
「さゆー、アワビでもなんでも食べるがよかとー♪」
「聖ぃ、スッポン料理もあったとね♪」
「香音ちゃん、ウナギも食わんか♪」

ウキウキと歩き出す男3人。
下心丸見えのパートナーたちに、うな垂れるシゲちゃん・フクちゃん・ズッキ。
ODAちゃんに目を向けると、

「わ、私は日帰りのつもりで同僚と来ていますし! そ、それに明日はお仕事ありますから! お昼を一緒にしたら、失礼します!」

赤い顔で手をブンブン振って泊まりを拒否する。
石田を見ると、同様で、

「ぼ、僕も明日は仕事ですから! いやー、夏は忙しいんですよ!」

あははー、と乾いた笑いを出す。
……ま・無理強いはしないけどNE。

ウキウキ歩く男性3人。
呆れた表情を見せる女性3人。
真っ赤になった男女2人。
そしてよしざーの9人で、『シゲなの亭』に向かった。 ̄ ̄ ̄ ̄。





オールスターズの海水浴 おわり
 

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