キュキュキュッ、キュキィィィー!!

ショッピングビルの地下駐車場に、車のタイヤのスピン音が響き渡る。
駐車場にいた人々は驚いた表情で音の方向に顔を向ける。
ピンク色の軽自動車が、カーアクションさながらに回転し。そして空いている場所に、奇跡的にキキッ、と音を立てて無事に駐車することができた。
それを見ていた人々は。老若男女問わず、

「あの車に近付いたら危険」

と感じ取り、今の出来事を胸の奥に仕舞い、見なかったことにして、再び建物へ自分の車へと進んでいった。


奇跡の軽自動車の中で、ハンドルを握りしめた見目麗しい女性が不敵に口角を上げている。

「ふ、ふふ……年の瀬の昼間の運転デビューなの」

ハンドルを握ったままの腕が震えているのは喜びかそれとも自身の運転技術の為か。
それは不明だが、女性は機嫌よくシートベルトを外し、嬉々と車から降りようとして。
助手席に座っている、顔が青ざめた屍に目をやった。

「ちょっと、れーな、大丈夫? アンタの体の弱さは相変わらず改善しないわねぇ」
「オエップ……妻の運転技術が助手席に乗る夫を殺すレベルで困ってます」

口を手で覆いながら、れーなクンは青色吐息で答えた。
その答えに、運転者、さゆみさんは目をウサギのように丸くして尋ねる。

「なに? そのYa◯oo! 知恵袋の検索トピックスにありそうなものは?」
「名前の通りっちゃけど」
「よく分かんない」

年の瀬恒例の、新年用の物品の大量購入の為に、世の中のお父さんが通る、妻の買い物の荷物持ちとして連れてこられたれーなクンだったが、

「一歩でも歩いたられなはマーライオンになると」

という主張が通り、「使えないわね」の言葉を受け取って、無事に車内でお留守番が決定した。

「寒いだろうけど我慢してね」

車のキーを抜き、一人建物に入っていくさゆみさん。
れーなクンは助手席の背もたれを倒して、 Oh……とか言いながら目を手で覆った。

来ただけでマーライオンなら、帰りは自分はナイアガラの滝になる。

そんな絶望にも近い確信があり、目の前が暗くなる。
意識がすーっと遠くなり……。
がちゃ、とドアが開く音で目が覚めた。

「はい、お待たせ。れーな、背もたれを元に戻して。後ろに荷物を入れられないから」
「う……れなは寝とったんかいな?」
「さあ? でもさゆみが帰ってくるまでの3時間、意識がなかったのなら、寝ていたんじゃないの?」

言われた通り、背もたれを戻すと、さゆみさんは、その華奢な体でどうやって持ってきたのか問いたくなるほどの大きな袋をいくつも後部座席に入れている。

「優樹のものをたくさん買ったら、大荷物になっちゃった」
「れなにはお土産とかなかとー?」
「え? あー、あるわよ。はい、これ」

そう言われ、差し出されたものは。
昔懐かしの風ぐるま。
呆れながらも受け取り、口でふーふーと風を送って回す。

「れなはダイゴローかいな。ん? ダイジローやったっけ?」
「知らないし。テナントの一部がリサイクルショップになっていたから、そこで買っただけ。れーな、お土産がないと拗ねそうだしね」

どんだけ子ども扱いすんねん、と思いながらも満更でもないようにカラカラと風ぐるまを回す。
ぶるり、と体が震える。
12月の冬の空気は冷たい。暖房の入っていない車内にいたためか、体はすっかり冷え切っている。
荷物を全て入れ終えたらしい、さゆみさんが後部席のドアを閉め、運転席に入ってきたときに。
れーなクンは寒さと違う理由で、体が大きく震えた。
行って、買って、荷物を詰め込めば、あとは帰るだけである。
……あの、さゆみさんの運転で。
本能が告げている。
一分一秒でも、あの運転を遅くしたい、と。
しかし、これといった策もなく、さゆみさんを見つめていると。
キーが鍵穴に差し込まれ。捻られる瞬間、

「な、さゆ!」
「え、なに?」

思わず左腕を掴んでしまった。
さゆみさんは不思議そうにこっちを見ている。
なにか、なにか言わないと。そうやって心では焦るものの、なにも思いつかない。
口をついて出た言葉は。

「さゆ、ドキドキせんと?」

という、自分でも意味不明な言葉だった。
さゆみさんは「はあ?」と言いながら呆れた顔になる。

「なに、それ」

そう促されるが、自分でもどうしたらいいか分からない。
言葉に詰まるれーなクンを見ながら、さゆみさんもれーなクンの腕を掴んで。少し拗ねた表情で、言った。

「さゆみは今でも、れーなにドキドキしていますけど?」

頰をピンクに、小さく唇を尖らせる。
その表情に、れーなクンのハートに矢がブスッと刺さった。
口を開けた間抜け面のれーなクンを見詰めながら、さゆみさんは言葉を続ける。

「れーなは、もうさゆみにドキドキしないの?」

少し寂しげに言われた言葉に、慌てて首を大きく横に降る。
さゆみさんの左手を、れーなクンは両手で包み込む。
小さくて冷えたその手を。自分の熱で温めるように。
さゆみさんに顔を近づけ、さゆみさんが自分しか見えないように、自分がさゆみさんしか見えないようにする。
突然の接近に、さゆみさんは狼狽え、目を泳がすが、れーなクンにはそんなこと、関係ない。ただ、さゆみさんの瞳を見つめ、偽りのない言葉を放つ。

「おかしなこと言うっちゃけど、真面目に聞いてほしか。今、れなは、さゆに恋した。惚れ直した、とはまた違う感じ。
 毎朝起きるたびに、さゆのこと好きやけど、もっと、もっともっと好いとぉ。さゆ。れなの奥さんになってくれて、ありがとーと」
「れーな……」

地球が誕生して太陽が出た数だけ、貴女が好きになる。

お互い、顔を赤くして、潤んだ瞳で近付いていく。

ちゅ。
まるで付き合いたての、初々しいキスをした。

重ねるだけのキスを一つだけし、唇を離し、れーなクンは真っ赤な顔で、目の前の愛しい人に囁く。

「もっと触りたか。もっとさゆを感じたいけん」

さゆみさんは赤い顔で、ただ静かに頷いた。
れーなクンが体を運転席に乗り出し、覆い被さる。そのままちゅ、ちゅ、と何度も重ねるだけのキスをする。
さゆみさんはれーなくクンの首に腕を回して、もっと、とねだるように顔を引き寄せる。開いた唇から舌を入れ、

「ん、んっ」
「ふ、さゆ……」

そのまま深いキスを続ける。
キスをしたまま、れーなクンはさゆみさんのコートを開き、セーターの上から胸に触れる。
はあ、と熱い息がれーなクンの口腔に放たれる。
セーターと、その下のブラウスの裾を捲って、素肌に触れると、手が冷たかったのか、さゆみさんの体が鋭く震えた。
心の中で、ごめん、と謝って、そのまま滑らかな肌に手を滑らせる。
ブラの上から膨らみに到達すると、さゆみさんの体は小さく強張った。
唇を離す。至近距離で見つめるさゆみさんの目はとても潤んでいる。

「……よか?」
「なにを、いまさら」

ブラを押し上げ、直に触れると、目の前の顔が、んっ、と快感に歪んだ。

「あ、あんっ」
「かわいか……さゆ、かわいいっちゃ」

車内という、狭い空間で始めてしまい、窮屈なことに今更気づくが、もうお互いに止められなかった。
かわいい、とうわ言のように言いながら、頭を移動させて、もう一つの空いている胸に顔を近づける。
震える先端に、はあ、と熱い息を吐きかけてから、ぱくりと唇に含んだ。

「あ、れー……っ」

さゆみさんの言葉が届かないように、一心不乱に、れーなクンは吸う。
さゆみさんが震える手をれーなクンの頭にやり、離すのではなく、押し付けるようにしたことで、気を良くして、れーなクンは舌を使って舐めあげたり、歯を使って甘噛みしたりする。
両手はさゆみさんの腰や脇腹を撫で、細さと柔らかさをしっかりと感じ、感触を楽しむ。
胸に顔を埋もれさせながら、手は動かし、片手がスカートの中に入って太ももをなぞったとき、さゆみさんの腰が小さく跳ねた。
そのことに気付かないフリをして指を進めさせ、下着の上から秘部を優しく擦る。

「んっ」

開発されている体は正直に反応し、指が上下に動く度に、下着がしっとりしてくる。
一度スカートの中から手を出して、両手を使ってホックを外す。
スカートと下着を一緒に下ろそうとすると、さゆみさんは素直に腰を浮かしてくれた。
れーなクンは気を良くしながらも胸に顔を埋めたままで、器用にスカートと下着を取り去る。
露わになった下半身に冬の空気が冷たいのか、さゆみさんの脚は小さく震えていた。
労わるようにれーなクンは太ももを撫で、寒いはずなのに熱い秘部に、指を動かしていく。

「うあっ」

小さな悲鳴。そしてぴちゃぴちゃという水音。れーなクンが指を動かす度に、水音は響く。
とろりと蜜が溢れ、車のシートを微かに汚したところで、れーなクンは指を離し、自分のズボンを締めていたベルトをカチャカチャ音を立てて外し始めた。
もう充分に勃起した男根をずるりと取り出し、二、三度擦って、熱い秘部に添える。

「ちょ、れーな!」

ぐい、と顔を起こされた。
きょとん、とした表情でさゆみさんを見つめるれーなクン。

「ったく、本当に女心が分かっていないの」
「ん?」
「……キス、してよ」

拗ねた表情で言われ、愛おしさを感じながらも笑顔になって、ごめん、と呟いてから唇を重ねる。
唇を重ね、舌を絡ませて。
そしてれーなクンは、そのまま男根をさゆみさんへと進ませた。

「ん、んーっ!」

さゆみさんが苦しそうな声を出すものの、ずぐずぐと飲み込まれていく。
すっぽり、根元まで入ったところで、唇を離す。
さゆみさんは子ウサギのように身体を震わせ、その長いまつ毛も震えていた。
申し訳ない、という気持ちはあったが、れーなクンも動いて気持ちよくなりたいという思いもあったので、さゆみさんの目尻の涙を舌で掬い取ってから、小さく、

「動いてよか?」

と、尋ねる。
さゆみさんは小さいながらも首を縦に振ったので、その体を強く抱き締めて腰を動かし始めた。

「うん、ふっ」
「ふあ、さゆっ」

すぐにでもハイスピードで腰を動かしたい気持ちもあったが、さゆみさんの体を考えて、我慢の範囲でゆっくりと動かしていく。

「さゆの中、ばり気持ちよか……」

嘘偽りのない言葉を吐きながら、少しずつ少しずつ腰の動きを速くしていく。
ぱしんぱしん、と動く度に、さゆみさんは荒く熱い息を吐く。

「も、れーな、速くしていいから……っ」
「うん」

お許しが出たので、自分が気持ちいいと思う速度で腰を動かした。

「あ! あんっ!」

さゆみさんが強くれーなクンの体を抱き締める。
れーなクンも抱き締め返して、さゆみさんでいっぱいになりながら動きを速くする。
コツン、と奥を叩くと、素直に中が収縮する。
れーなクンは何度も奥を叩く。

「うあ、ちょ、だめっ」
「だめじゃなかとーやろ? さゆはここが好きっちゃん」

れーなクンは自分の言葉を証明するかのように、コツコツと叩いた。

「もっ、ふあ、イクっ!!」
「ぐあぁ、そんなに締められると、れなもっ」

真冬に汗だくになりながら、気持ちよくさせたい一心で腰を動かし、荒い呼吸のまま、相手の唇を貪る。

「んっ、んーっ!!」
「うっ!」

口付けながら、さゆみさんは体を痙攣させ、れーなクンは素直に欲望のままに吐精した。





ぶいー、っとピンクの軽自動車は危うげに公道を走る。

「うう……寒い……」
「さゆ、寒いならもう一度一緒に熱くなろっか?」

軽口を叩くれーなクンを、さゆみさんは信号が赤になって停車した時点で鋭く睨んだ。

「この、アホっ! 真冬に汗だくになったらすぐ冷えるに決まっているでしょうが!!」
「うえー? さっきまでさゆもノリノリで汗だくになって気持ちいいことしとったっちゃろー?」
「れーな。今すぐ車から降りるの。轢いてあげるから」
「すみませーん」

これっぽっちも誠意のこもっていない謝辞を聞きながら、さゆみさんはプンスカ怒りながらアクセルをゆっくり踏む。
ピンクの軽自動車は、危うげに車道を走る。
れーなクンは助手席の背もたれに体を預けながら目を閉じる。

「なあ、さゆー」

返事はない。
運転に集中する為にさゆみさんが口を開かないことは往々にしてある。
れーなクンは気にした様子もなく、風ぐるまに息を吹き掛けながら言葉を続けた。

「今夜も寒くなるっちゃねー」

返事はない。

「二人で原始的に体が熱くなることをするとー」

車体が動揺したように大きく揺れる。
対向車のトラックの真ん前に車が来たとき、れーなクンは「ギャー!!」と大きく叫んだ。





性夜詰め合わせ さゆみさんは別腹です 終わり。


……。
…………。
………………。
ニヤリ。


性夜詰め合わせ 食後のくつろぎ に続く。
 

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