←PREV





光井愛佳の最大のミスは、今日がバレンタインだということを忘れていたことだった。
朝学校に来てから、授業中、休み時間、放課後と、愛佳は生徒たちからバレンタインチョコを受け取った。
それらを無下に断ることはできず、とりあえず「お返しはできませんよ」と返答したものの、彼女たちは笑って愛佳に手渡してきた。
愛佳が帰宅する頃には、実に紙袋ひとつ分のチョコレートが貯まっていた。

「どうしよ……」

愛佳はマンションの階段を上りながら頭を抱えた。
1ヶ月ほど前、調理実習でサバの味噌煮をもらっただけであれほど拗ねた彼女のことが頭に浮かんだ。
嫉妬してくれるのは可愛いし嬉しいけど、やっぱり寂しい想いをさせるのかなと時々不安になる。

堂々と、言えたら良いのにと思う。
僕には大切な恋人がいるので、義理チョコでももらえませんって。
だけど、それは言えない。
相手が亀井絵里だと言うことはまずできないし、それを言わずに恋人がいると嘘を突き通す自信もない。
最初から分かっていたことではあったけど。
だれもいない図書館の書庫で、彼女、亀井絵里をこの手に抱いたあの日から―――

「ただいまですよー」

玄関の扉を開けると同時にリビングの方から良い匂いが飛んで来たが、「お帰りなさい」という声が聞こえず愛佳はおや?と思う。
玄関先には彼女の靴が置いてあるのにどうしたのだろうと思っていると、シャワーの音が聞こえた。
ああ、お風呂に入っているのかと愛佳はスーツを脱ぎながら自分の部屋へと入る。
貰ったチョコレートとカバンをベッド脇に置き、ネクタイを外してベッドへと座ると深く息を吐く。

「光井せんせぇー?」

そのとき、風呂場の方から声がして、愛佳は「はい」と返事をする。

「ごめんなさい、もうすぐ上がりますからー!」
「あ、あぁ、気にせんで下さい」

そう返すと、絵里は「うへへぇ」といつものように笑い、風呂場の扉が閉まる音がした。
ああ、僕が帰ってきてた事に気付いたのかと愛佳は優しく笑う。
それと同時に、いままで以上の胸の痛みが襲いかかってきた。
あとどれくらい、彼女と一緒に居られるだろう?本当に、いつまでもこのままで居られるのだろうか?
教師と生徒という関係。
この関係が露呈してしまえば、自分の身が破滅することは目に見えている。
おそらく彼女にも、一生の烙印を押すことになる。
それで本当に、本当にシアワセになどなれるのだろうか?

深みにはまる絶望的な思考に愛佳は頭を掻き毟り、思い立ったように立ち上がり風呂場へと歩く。
脱衣場の手前で靴下を脱ぐと、浴室の方から彼女の鼻歌が聞こえた。
随分とご機嫌だなと思いながら、洗濯カゴに靴下を入れ、脱衣場に立つ。
すりガラスの向こう、ボンヤリと彼女の姿が見えた。
絵里はしゃがみ込んで髪を洗っているのか、愛佳の存在に気付いていない。
愛佳は人差し指でガラスを触り、そのまま彼女の輪郭に合わせて、つうと指を滑らせていく。

このガラスの1枚が、自分と絵里の埋められない関係性なのだろうかと、ふと思った。
手を伸ばせば触れられるのに、決して触れてはいけない。不透明なガラスで隔たれた僕と彼女……
なんて、まったく、ドラマの見過ぎだなと愛佳は苦笑してる間に、絵里は髪を流し始めた。

だがそれでも、心の底から、想ってしまった。
あなたに触れたい。この瞬間さえも、片時も離れないように、体だけでなく、心さえも。
一瞬の隙間も埋めるように、あなたをこの手で抱きしめたかった―――

愛佳はガラス戸に手をかけ、浴室へと入った。
突然の侵入者に絵里は軽く声を上げた。

「ちょっ、な……え?」

シャワーを浴びていた絵里は呆然と立ち尽くすが、自分が裸体であるという状況に気付き、慌てて胸元を両腕で覆う。
愛佳は後ろ手で扉を閉めると、お湯で濡れた絵里の体をそっと抱き寄せた。
一瞬の静寂のあと、浴室にはシャワーから流れる水音だけが残る。

「せんせっ…服……!」

愛佳のシャツとズボンは、降り注ぐシャワーのお湯で濡れてしまうが、そんなことも気にせず、絵里を強く抱きしめた。
お湯を浴びた彼女の体は温かかった。この確かな温もりを、もう手放したくないと思った。
愛佳は絵里の頬に右手を添えると、そのままキスをした。舌を伸ばし、ぺろりと唇を舐めると、絵里は驚いた拍子に口を開ける。
その瞬間に、愛佳はするりと入り込む。

「んっ……ぁ…」

蒸気した絵里の体が熱い。
冬の空気に晒されて冷えた愛佳の体をも温めていく彼女の体温が愛しく、愛佳は絵里と舌を絡める。
突然の出来事に絵里は一瞬だけ逃げようとしたが、数秒後には自分も両腕を愛佳の首へ回し、舌を伸ばして彼を求める。

「あ……ふっ…」

シャワーの流れる音と、ふたりの吐息、舌を絡め合う音が響いた。
浴室という狭い空間に音が反響し、いつも以上にふたりは興奮していく。
愛佳が漸く唇を離すと、絵里は肩で息をしながら、艶っぽい瞳を愛佳に向けた。その仕草に愛佳はぞくぞくする。
もっと、もっと亀井さんが欲しい。
深く、体中に痕を残し、頭から爪先まで、彼女で満たしたかった。

愛佳は絵里の耳に舌を這わせ、右手でその柔らかい胸を揉む。突然の刺激に絵里はビクッと反応する。

「あっ…せ、せんせ……やっ…」

絵里は両手で愛佳の肩を押し返すが、彼は絵里の意志を無視し、さらに刺激を与える。
まさか此処でするのだろうかと思うが、反論しようにも口からは喘ぎ声しか出ない。
愛佳の緩急をつけた手つきに絵里は翻弄され、押し返す手の力は徐々に弱まっていく。
して欲しくないわけではない。それなのに、どうして急に此処でするのだろうという疑問が浮かぶ。

だが、そんなことすら考える余裕も愛佳は与えない。愛佳は左手で絵里の髪をかきあげたかと思うと、唇を貪った。
荒々しいキスに絵里は戸惑うが、時折感じる優しさに、絵里はすべてを委ねてしまう。
愛佳が右手で絵里の硬くなった突起を摘まむと、絵里は「あぁん!」と声を上げた。

「気持ち良いですか、亀井さん」
「んっ、あ……はい……せんせぇ…」

唇を離した愛佳にそう聞かれ、絵里は素直に頷いた。
そのときに見た愛佳の瞳は、揺れていた。
シャワーを頭から浴び、濡れた髪の奥にあった寂しくも優しい瞳、光を探してもがくようなその姿に、絵里はなにかを感じた。
彼の考えていることなどなにも分からなかった。だけど、分からなくても、絵里は愛佳を信じていた。
絵里は肩を押し返していた両手を引き上げ、愛佳の頬、濡れた前髪となぞっていき、後頭部へと回した。
少しだけ背伸びをし、愛佳の濡れた唇に触れるだけのキスを落とすと、その耳元で「光井先生…」と呟いた。

「好きぃ…」

それは舌っ足らずで甘く、柔らかい彼女の言葉。
絵里のその声に、愛佳は目を合わせた。絵里はいつものようにだらしなく、そして優しく笑い、愛佳に言葉を渡した。

「大好きですよ、先生……」

愛佳の考えていることは分からなかった。
なにに脅え、なにに不安を感じ、なにをしようとしているのかも。
それでも絵里は愛佳を信じていた。愛佳の心の声を掬い取るように、その不安に寄り添うように、体を委ねる。
もし愛佳が絵里を求めているというならば、全部、全部、曝け出してしまって構わない。
だから、だからね、光井先生……

「……愛して下さい…」

頭から爪先まで、この瞳も、この声も、この唇も、この胸も、絵里の持っているもの、あなたにすべて、あげるから―――

絵里の言葉は真っ直ぐに愛佳の胸を射抜く。
不安に駆り立てられるように絵里を求めてしまうのに、絵里はそれでも愛佳に応えた。
ただ純粋に愛佳を信じているその優しさが、脆くも崩れそうだった心に沁み込んでいく。
教師なのに、生徒を頼ってこんなことをするなんて、失格にもほどがあるなと思う。
もっとも、絵里をこの手に抱いたあの日から、教師の資格なんて、とっくに失っていたのかもしれないけれど。

愛佳はなんどとなく絵里と唇を重ねる。
角度を変えて、なんどもなんどもその濡れた唇に触れ、歯列をなぞり、離れたくないというように舌を絡める。
時折漏れる絵里の切ない吐息が、愛佳の中の欲望を膨らませていく。
既に爆発しそうに膨らんだそれを、愛佳は止められない。

「あっ……んっ」

愛佳はその唇を、頬、首筋、鎖骨と移動し、胸元へと持っていく。
絵里の胸の柔らかさを楽しみながら唇で強く吸い、白い肌に愛佳の痕を残していく。
ピリッとした痛みが広がると絵里は眉を顰める。
胸の突起を舌で転がすと、絵里は高く喘いだ。声が反響し、絵里は慌てて左手の甲で口元を抑える。
その仕草が、最初に図書館の書庫で彼女を抱いた日と同じで、愛佳は堪らず愛しくなる。

「もっと声、聞かせて下さいよ」

愛佳は右手で彼女の左手首を掴み、そう耳元で囁く。
空いた左手は相変わらず硬くなった突起を弄っている。絶え間なくやってくる快感に、絵里は体を震わせる。

「やっ……だぁ…ってぇ…」

浴室に響く自分の声が恥ずかしく、絵里は天井を仰ぎながら両目を瞑り、切なく息を吐く。
17歳の女の子になんてことをしているのだろうと思うが、際限なく広がる欲望を止められない。
愛佳は右手1本で絵里の両腕を頭上で固定し、彼女の体を浴室の壁に固定する。
その体勢でキスをし、彼女の体を圧迫する。
軽く体を上下に動かすと、愛佳の濡れたシャツが絵里の乳首をこすり、ただそれだけで絵里は感じてしまう。

「んっ!あ……ふぁ……あぁっ!」

口許から零れ落ちる彼女の切ない声が脳を刺激する。
愛佳にとって、バレンタインのチョコよりも、絵里はずっとずっと、甘い。
全く溶けることを知らないその媚薬により、愛佳は翻弄され、自分の欲望を曝け出し、絵里のすべてが欲しくなる。

「あ!あっ、あ……んん、っ…せんせ……せんせぇ…っ!」

絵里は目を瞑っているせいか、いつも以上に響く音のせいか、立っているのがやっとの状態だった。
愛佳は唇をいちど舐めると、そっと体を離し、絵里を上から下までじっと見つめる。
シャワーと唾液で濡れた体で、荒くなった息を必死で整えている絵里が狂おしいほどに愛おしい。
愛佳は左手で絵里の膝から太股の内側、下腹部までをなぞっていく。
シャワーのお湯とは違う、粘着質のある液体が伝っていることに愛佳はぞくぞくした。

「んっ…せん、せぇ……ひゃっ…」

絵里が切なそうに愛佳を呼び、すっと視線を絡める。
泣きそうな瞳で愛佳を見つめる絵里の真意など、とっくに分かっていた。だが、今日の愛佳はなぜか、素直に聞いてやらない。
右手は変わらずに両腕を固定したまま、左手で流しっぱなしのシャワーを持ち、水量を少しだけ上げた。
そのことに気付いた絵里はまさかと思うが、その瞬間にはもう遅かった。

「気持ち良く、させてあげますよ」

愛佳が耳元で低くそう呟くと、シャワーを絵里の下腹部に押し当てた。
多数の穴から放出されるお湯が絵里のそこを刺激する。

「あぁぁっ!や、やだっ!……あっ……あん!」

いままで感じたことのない刺激に絵里は体を捩り、嬌声を上げる。
愛佳は構わずにさらにシャワーを押しつけ、絵里の胸元に噛みつく。
激しいお湯は絵里の下腹部を不規則に刺激し、絵里が逃げようと腰を動かすたびに新たな刺激を与える。

「いやっ!あ、あ……はぁ…せんっ、せぇ……あっ!」

絵里はどうすることもできずに、ただ腰を振って喘いだ。
愛佳は絵里を優しく抱いてやりたいのに、彼にはもうそんな余裕はなかった。
両腕の拘束を解くと、そのまま絵里の頬をなぞり、開いた口の隙間から人差し指と中指を突っ込んだ。
絵里は「んっ!」と声を上げる。

「舐めて下さい、亀井さん…」

下腹部をシャワーで、胸元を口で弄ばれた絵里にとってそれは無茶な要求だったが、絵里は必死に応えた。
トロトロにとけた舌を突き出し、愛佳の指を丁寧に舐めていく。

「あぅ……んん!んーっ、あ……はぁ……あん!」

だが、不規則にやってくる多箇所の刺激に、絵里はもう限界を迎えようとしていた。
ひたすらに腰を振り、自ら強い刺激を求めるように、もっともっとと催促する絵里を見て、愛佳は指を引き抜き、胸元へと滑らせた。

「亀井さん…亀井さん……!」

愛佳は絵里の耳元で優しくそう呟くと、絵里もそれに呼応するように愛佳の名を呼ぶ。

「せんせぇ…!あっ…はぁ……光井せんせぇ…もっ…あぁぁっ!」

胸元への愛佳の指からの刺激、下腹部へのお湯の刺激、そして愛佳の優しい声に絵里は限界を迎えた。
絵里の体は瞬間、ビクビクと痙攣し、絵里は高く嬌声を上げた。ぎゅうと強く瞑られた瞳からは僅かに涙を零す。
自分の体重をも支えられないほどに震えた膝が折れ、絵里はそのまま崩れ落ちた。
愛佳は慌ててシャワーから手を離し、両手でその華奢な体を支えた。

絵里は荒い息を整えながらそっと顔を上げる。
真っ赤に蒸気し、艶めかしい視線を送る絵里に愛佳は再び欲情するが必死に堪える。
絵里はむぅと頬を膨らませると「ばかぁ!」と叫び、愛佳は「わぁ、ごめんなさい!」と焦った。

「もぉー、なにしてるんですか、光井先生のエッチ!」
「え、え、エッチって…いや、それはまぁ……」
「変態!スケベ!お風呂場で急にとか、しかもシャワーでとか……エッチぃ!」

ああ、最後まで受け入れてくれたくせにと愛佳が困ったように笑うと、絵里は声のトーンを落とし、そっと呟いた。

「…せんせぇのが良いもん」
「へ?」
「………っ、指でも良いから、先生のが良かったの!シャワーじゃなくて!先生のでイきたか……」

大声でそこまで叫び、絵里は口を噤む。
悔しそうに、だけど恥ずかしそうに唇を震わせ、絵里は両手を伸ばし、愛佳に口付けた。
触れるだけのキスは、チュッという軽い音を残して消える。愛佳は目を丸くしたまま絵里を見つめた。
絵里は顔を伏せ、息をなんどか吐いたあと、涙目を愛佳に向けた。

「先生の……ちょーだいよぉ…」

その言葉に、愛佳の欲望の焔は再び燃え上がった。
愛佳は絵里の唇にキスを落としながら、胸元へと手を伸ばし、再び柔らかい乳房を揉む。
優しく掌で包み込み、時折硬くなっている突起を指の腹でなぞると、絵里は切なそうに声を上げた。

「亀井さん……」
「あ…はぁ……はい…」

快感に震える声で、絵里は上目遣いのまま愛佳に応える。
思わずドキッとしてしまうその表情に愛佳の心臓は自然と高鳴る。もう、待ってなんかやれない。

「そこ…掴まっといてもらえます?」

愛佳の言葉に絵里が「ふぇ?」と返すと、愛佳は絵里の腰に腕を回しぐいと引きよせた。
突然のことに声も出せずにいると、絵里は腰を持ち上げられ、両腕は自然と浴槽の縁を掴む形になった。
愛佳に背中を向けているこの状況に、絵里はこの後のことを悟った。

「ちょ、後ろからっ……んっ!」

絵里が反論しようと首を愛佳に向けた途端、その唇は愛佳に塞がれる。
強引で、そのくせに何処となく優しいキスに、絵里はなにも言えなくなる。

「…もう、いきますね……」

その言葉が終わるや否や、絵里の愛液でたっぷり濡れた下腹部に、愛佳のそれが入ってきた。

「っあ―――!」

熱く滾った愛佳の欲望、太くて硬いそれは、絵里の下腹部を容赦なく貫いた。
突然の大きな刺激に絵里は背中を反らせて耐える。
ビクビクと脈打つそれに呼応するかのように、絵里は必死に息を整え、痛みを堪える。

「動きますから…」
「や…だ、ダメぇ……まだぁっ!」

絵里の切ない願いを聞かず、愛佳はいちどそれをギリギリまで引き抜き、再び打ちつけた。

「あぁん!」

絵里が奥を突かれた瞬間、甘くて艶めかしい声が浴室に響いた。

「ふぁっ!あっ、あっ……あぁっ!」

愛佳はゆっくりと絵里の中で熱いそれの出し入れを繰り返す。
いちど達して敏感になっている絵里の下腹部は、いままで感じたことのない刺激に興奮し、容赦なく愛佳を締め付ける。
なんども吐きだしてしまいたい欲望を抑え、愛佳は絵里の奥、絵里の最も感じる部分を的確にこする。

「あぁん!せ…せんせぃ…みつい、先生……あっ…そこぉ!…はぁ……ぁっ!」

愛佳は右手を伸ばし絵里の揺れる胸を掴む。
新たな刺激に絵里は再び天井を仰ぎ、その快感に酔いしれる。
愛佳の大きいそれが出入りするたびに、絵里のそこは厭らしく音を奏で、もっともっとと催促する。
それに呼応するように絵里の声も大きくなっていく。

愛佳から与えられる快感に絵里はなんども意識を飛ばしそうになる。
自分の体を支えている両腕は震えるが、それでももっと気持ち良くなりたかった。
絵里はなにも考えられず、無意識のうちに左手で自分の胸を揉んでいた。
愛佳に右胸と下腹部を、自分で左胸を弄って快感を与え、絵里は自らを絶頂へと導く。
絵里を後ろから突いていた愛佳は、そんな絵里の様子に気付いたのか、腰の動きを少しだけ早くし、背中に圧し掛かってきた。

「はぁ……自分でシテるんですか、亀井さん…?」
「ひゃぅ…あっ……だぁ…ってぇ…あっ、あぁっ!」
「…エッチなのは、亀井さんやないですか」

愛佳はそう言うと、絵里の小さな背中をベロリと舌で舐めた。
さらにやってきた新しい快感に、絵里の頭の中はもう真っ白になりそうになる。
それでも絵里は、左胸を弄るのをやめない。
愛佳は的確に絵里の弱い箇所を突きながら、絵里の右胸の突起を摘まんでは弄ぶ。

「気持ち良いですか……亀井さん…」

耳元で呟かれる艶っぽくて低い声に絵里は体中が震える。
自分で弄る胸の刺激よりも、愛佳のその声だけで、絵里はすぐにでも達しそうな予感がした。
絵里は涙を浮かべた瞳を愛佳に向けた。

「気持ち、いいよぉっ!」

絵里のその嬌声に応えるように、愛佳は自分の左手を、絵里の左手に重ね、その動きを止めさせる。
そして絵里の濡れて光る厭らしい唇に軽くキスを落とすと、優しく微笑んだ。

「いきますよ……?」

愛佳のその言葉に、絵里も泣きそうになりながらも頷く。
ひとつ息を吐いたあと、両腕で腰を掴み、自分のそれを打ちつけた。

「あぁっ、あんっ……はぁ…あっ、あっ!」

いままでとはまるで違う快感が絵里に襲いかかった。
愛佳の攻めに、絵里はなんども小さな絶頂は迎えていたが、愛佳は絵里を休ませずに攻め立てる。

「ふぁっ!やぁ…あ……あっ、んん!せ、せん……あ…やぁ!」

厭らしい水音と厭らしい喘ぎ声が浴室を占拠する。
もうこの声は、隣近所に聞こえているのではないかと錯覚するが、そんなことはもう考えられない。

愛佳から与えられる快感、絵里から与えられる快感が強すぎた。絵里には愛佳しか、愛佳には絵里しか見えない。
愛佳は自分の限界を悟ったのか、強く腰を打ちつけると、絵里の下腹部がぎゅうと締め付けた。

「ああぁっ!せんせぇ!!」
「亀井さん……くっ…か……絵里!」

瞬間、愛佳は無意識のうちに「絵里」と名を呼んだ。
絵里はそんな愛佳の声を確かに聞き、愛佳に貫かれ、絶頂を迎えた。

「っ…あ……愛佳ぁっ!」

愛佳が己の欲望を吐き出し、絵里がその意識を飛ばす寸前、絵里は必死に彼の名を呼んだ。
世界でいちばん、これ以上ない大切な人の名前は、どんな愛の言葉よりも、優しくて柔らかくて、そして切なかった―――

「ばか、変態、スケベ」

ベッドに横になり、毛布を頭までかぶって悪態をつく絵里に愛佳はほとほと困っていた。
なんども謝るが、絵里は許す様子もなく、ひたすらに愛佳の悪口を吐く。

「チョコ苦手なくせにいっぱい貰ってきて…」
「いや、ですから、断るのは申し訳ないでしょ?」
「……絵里のこと、急にお風呂場で襲って」
「あー……ほら、この間はキッチンでしたし、たまにはこういうアウトローも良いかと思って」

瞬間、愛佳の顔面に枕が飛んでくる。
今度もまたよけることができず、顔面にそれを喰らった愛佳は、痛みをこらえながら鼻をさすった。

「変態、どスケベ、エロオヤジ」
「え…エロオヤジ……」

さすがにそこまで言われて愛佳は少しだけ凹む。
そんな愛佳を見て絵里は毛布からちょこんと顔を出し、「あのね」と声を出す。

「好きだから…」

突然の告白に愛佳は耳を疑った。

「絵里は光井先生のことが好きだから。だからだいじょうぶですよ」

愛佳は最後まで、絵里になにも言うことができなかった。
自分が絵里を欲した理由も、あそこまで執拗に求めた理由も、なんの説明をしてやれなかった。
それでも絵里は最後まで、愛佳を信じ、愛佳の心の声を掬おうと、真っ直ぐに向き合った。
絵里のこれ以上のない想いに愛佳は自然と笑顔になり、そのままベッドへと潜り込む。
絵里も抵抗しようとはせず、彼の腕の中にそっと抱かれる。

「僕も…大好きですよ……絵里…さん?」

愛佳が照れたようにそう言うと、絵里も「うへへぇ」と笑う。

「くすぐったいね、それ」
「そうですね」

そうしてふたりは静かに笑いあった。
冬の冷たい風が吹く、バレンタインの夜のことだった。

不安もそこにはあったが、確かにあのとき、僕たちは前へ進もうとしていた。
少なくとも亀井さんは、そのつもりやった。

なんでやろうね……

なんで僕はいつも、あり得た未来を想像しては、胸を痛める以外に術はないんでしょうね……





NEXT→
 

ノノ*^ー^) 検索

メンバーのみ編集できます