作者 睡蓮 
マッドドッグ1号の技は睡蓮が好きな漫画の外道の詩(主人公が貝塚のアレそっくりな漫画)に出てくる、逆口拓を丸パクリしました。
本編
一台の軽装機動車が土煙が立ち籠る函館山麓ステーションで停まり、扉が開く。
「いったい、何があったのだ……？」
「ハンジローしかいないのだ。こんな派手なことするヤツは……」
「あーあ。このゴンドラ、我々にも使い道あったのに……」
「全くなのだ。修繕にいくらかかるやら」
函館山の頂からゴンドラごと麓に滑り落ちたマッドドッグによって崩れ落ちた麓の発着場に、武装した人型ずんだもんや人間が集結していた。
ずんだ府の兵士ではなく妖精軍所属の兵士である。ハンジローが出撃した後、万一ハンジローまでイゾーに与するようなら抹殺するよう琴葉葵より命を受けた特別行動部隊である。
故にハンジローを狙撃できるよう、部隊の中にはレミントンやモシン・ナガン、豊和ゴールデンベアを持ったスナイパーが数多くいた。
ハンジローの防弾チョッキに貼り付けた盗聴器で彼に裏切る気はないと分かって安堵したが、一方で凄まじい爆音を聞き付けたため、総員で現場に急行したのだった。
部隊の中に唯一、拳銃、それもほとんど骨董品のような中折れ式リボルバーを腰に下げたずんだもんがいる。
ほとんどが似たり寄ったりの顔のずんだもんだが、そのずんだもんだけは誰が見ても分かるほど端正な顔立ちをしている。
どのくらいの美男子かといえば、彼と同じ部屋にいる女が自分でハサミで服を切り、悲鳴を上げて半裸姿で外に飛び出しても、彼の容貌でそれが美人局だと見抜かれる程度には整っている。
「はー早く帰って、茜お嬢様が読む戦況報告をチェックしないとなのだ」
シンベー【妖精軍少将兼琴葉家執事】
それがこのずんだもんの名前である。琴葉姉妹の信任厚く、ハンジローの監視を命じられ、この特別行動部隊を率いているのがシンベーだった。
「ゴンドラ乗り場はひどい有様だが、建物自体は電気系統は死んでるいるが崩れる心配はなさそうだし、入ってみるのだ。ただしくれぐれも用心するのだ。伏兵やトラップさんがあるかも分からんのだ」
シンベーはそう言うと部下から先に歩かせて館内に侵入した。全員が胸ポケットに軍用の懐中電灯を挿している他、目潰しに用いる強力なタクティカルライトをライフルに装着したずんだもんもいるので、固まればそれなりに明るい。
「どうやらずんだ府はあまりここに価値は見出してないようなのだ。兵士が野営に使った跡もない。売店のお菓子もそのままなのだ。うえっ昆虫食の自販機なのだ。くしょにんげんはこんなタガメだのカブトムシだのよく食えるのだ」
「一部の物好きだけだ。普通の奴は頼まれても食わねぇよ」
「おい、こっからゴンドラ乗り場に行けるのだ。一応確認しておくのだ。もしかしたら中に誰か乗って死んでるかもなのだ」
シンベーは天井に吊り下がった看板に書かれた矢印を目で追い、その先にある停止したエスカレーターを指差した。
「ああ……」
今度もシンベーは後方を歩き、部下に最前を歩かせた。かといって後方を見張るわけでもなく、持参した白い恋人をポケットから出して頬張っていた。
＊＊＊
「おちびちゃんはやくおきてなのだ……なんでこんなぺろぺろちてるのに、めをさまさないのだプギャ」
鉄骨が崩落した発着場に出てまず目に付いた、子ずんの頭の残骸を泣きながら舐め回す親ずんを人間の兵士が容赦なく踏み潰す。
今のが麓ステーションで最初に見たずんだ府兵だった。恐らく付近にいたのがたまたま衝突に巻き込まれたのだろう。
「おっ？危ねぇのだ」
頭上の断線したケーブルから吹き出す火花と、瓦礫の散乱する足元の上下を同時に警戒しながら、眼前で煙を吐くゴンドラにシンベー達は接近する。
ほぼ原型を留めておらず、20人は立ち乗れるゴンドラは布団ほどのサイズまで潰れていた。よく見ると、衝突した後に壁を乗り上げたのか車体はひっくり返っている。
仮に中に誰かいても即死なのだとシンベーは思った。覗き込んでみても誰もいない。
「ん？」
帰るのだとシンベーが言いかけた時だった。
ゴンドラの上からずんだ虫が1匹、這い出てきて部隊の前にボトリと落ちた。手足がない、いわゆるたりないずんだ虫だった。それも全身血だらけで、資材やガラス片が身体中に無数に刺さって虫の息だ。
「こ、か……」
だが、シンベー達はその満身創痍の姿のずんだ虫に見覚えがあった。
「マッドドッグ1号……か？だいぶ手酷くやられたな。ハンジローとやり合ったが、負けてゴンドラごと山から突き落とされたというわけか」
マッドドッグ1号だった。ハンジローに手足を切り落とされ、ゴンドラに轢かれたまま麓ステーションまで飛ばされても辛うじて生き残ったようだ。
ずんだもんの兵士が瀕死のマッドドッグを足蹴にする。
「クラブハウスで赤ずん子ずんをいじめ殺す自分に酔ってたシャブ中にはお似合いの末路なのだ。まだ息がギリあるのだ。頭に1発ブチ込んでおく。構わないのだ？シンベー将軍」
「ああ。手柄はお前らにくれてやるのだ。ハンジローだって今さら勲には興味ねぇし構わないのだ」
シンベーは興味なさそうにカンロ飴を口に放り込みながら答えた。
ずんだもん兵は頷き、ゴールデンベア狙撃銃のボルトを起こして弾を装填し、足下のマッドドッグへ向けたその時、マッドドッグが口からガラスのカプセルを吐き出し、前歯で噛み割った。
「えげっ……？」
瞬間、ずんだもん兵が持つゴールデンベアが兵士の身体を貫通した。それも銃口部から縦にではなく、銃身ごと股から額にかけて抉るように貫き、ゴールデンベアは背後の手すりに当たって鈍い金属音が響かせた。
頭頂から下腹部まで裂けたずんだもんの死体が崩れ落ち、ぬかるみを踏んだような音を立てて遅れて血が噴き出した。
「うっ……うおおお……！！」
ゴンドラの上に、マッドドッグが飛び乗っている。手足を切り落とされた胴体の断面部が盛り上がり、数秒もしない内に手足が生え揃った。
四肢だけではなく、折れた歯が全て抜け落ちると、より鋭利かつ巨大な牙が口腔中に敷き詰められた。あまりな膨大な量に顎門が肥大化さえする。
白目を剥き、頭頂の枝豆にまで血管が浮かび上がるその姿はまさに異形の化け物で、兵士達は生唾を呑んで後ずさった。
「お、おいシンベー！何なのだコイツは！？コイツ今何をしたのだ！？」
「シンベー将軍と呼べなのだ。結月ゆかり様の警護をしてた時、あの方がマッドドッグに何かの薬を渡していたのだ。追い詰められたら使えと。自決用の青酸カリさんかと思ってたが、リミッター解除の薬とは……」
シンベーがそう言って嘆息する。
「く、来るぞ！殺せ！」
「ガァァァァァァァァァァァッ！！！」
マッドドッグが雄叫びを上げて高く跳躍し、宙で回旋しながら兵士の頭をライフルごと引き裂いた。その肩を蹴って右の兵士に飛びかかると、首を丸ごと頬張って咀嚼する。
寝返った自衛官の兵士が持つ89式が火を吹くが、マッドドッグは壁を縦横無尽に飛び跳ねてことごとく弾を交わすと、空中で身体を丸めた。
「ゴァァァァァ！！！」
そして唸り声を上げ、全身に埋まったガラスや石を収縮させた筋肉を一気に解放して、散弾銃よろしく撃ち出した。尖ったガラス片が水晶のような輝きを放って降り注ぐ。
「あがぁぁぁぁぁ！！目が、何も見えんのだ！、クソッ畜生！！」
「柚月のババア余計なことしやがって！！」
「まぁあの方もマッドドッグが裏切るとは思ってなかったのだ。許してやるのだ」
そうして、失明したり急所にガラスが刺さった兵士をマッドドッグは容赦なく首を刎ねて屠っていく。ついにはシンベーもマッドドッグの視界に映った。ハンジローと戦っていた時は誇りがあった目付きは、今や暗く淀んでいる。
シンベーもマッドドッグを冷たく見据えたが、彼は戦うどころか前髪を整えるとすぐさま踵を返して、あろうことか部下を置いて逃げ出した。
「撤退するのだ。あ、お前らは闘うのだ。ぼくは少将だから末端のお前らは上官のぼくが生還できるよう力を尽くすのだ」
「な、シンベー！！テメェ！！！」
そう吐き捨ててエスカレーターを駆け降りるシンベーを背後から怒鳴る兵士2人の首を、マッドドッグが左右の手で触れた。
「ぎゅひびぶぁ！？」
マッドドッグは右の掌から放電する。顎を突き抜けて体内を劈く白銀の稲妻は、兵士の脳を焼き切って脳天から噴き出し、顔の穴という穴から茹った血を吐いて兵士は即死した。
次に肩から手首までの筋肉を隆起させ、筋肉による円運動で波を作った。それは掌から左の兵士の首を伝い、頸椎を内から衝撃で砕く。首を中から爆破された衝撃に、ずんだもんの兵士は仰け反って失神するように死んだ。
「ぁと……こ……」
73人。クラブハウス時代、マッドドッグ1号によって死亡、または内臓破裂などの重傷を負った従業員の総数である。観客を含めたら100を超える。
普通なら殺処分されていたが、マッドドッグがクラブハウスに生む莫大な収益の前に不問にされ、観客もまた死ぬかもという恐怖すら忘れるほどマッドドッグの戦いに魅了されていた。
戦地で仲間を鼓舞して戦う英傑の姿はマッドドッグの一面に過ぎない。
ひとたび機嫌を損ねれば手がつけられず、勢いに乗れば尚更手がつけられない。野生の勘で得た豊富な殺ずん術を持つ武勇名高いクラブハウス無敗の王者にして、狂気に堕ちた魔獣。それがマッドドッグ1号の本来の姿である。
「おー怖いのだ怖いのだ」
シンベーはさっさとエスカレーターを降りると、ステーションの敷地を飛び出して乗ってきた装甲車まで戻った。
「グルルルルル……」
だが、壁を登って追ってきたマッドドッグが眼前で車体に飛び乗り、シンベーの退路を塞いだ。身体に電流を纏い、ずんだ餅のようにずんだもんの素足を食べている。
「おっ」
あまり恐ろしい姿なのでシンベーが苦笑いすると、背後からボウガンの矢が放たれ、彼は驚きながらも脇を開いて矢を避けた。
「コイツ、シンベーなのだ！マッドドッグしゃんとたたかってるのだ！！サポートするのだ！」
「のだ！マッドドッグしゃんをひとりでたたかわせはしないのだ！」
ずんだ府の兵士が加勢に来た。数は少ないが、シンベーと同じようにマッドドッグが麓ステーションに叩きつけられる音を聞いて確認に来たのだろう。
「ギルァァァァ！！！」
そんな応援を、マッドドッグは機関銃で返した。
「のぎゃっ！？マ、マッドドッグしゃん！な、なにを！？」
銃座ごと車から引き抜いたブローニング機関銃を撃つと思えば、それそのものを空のずんだ府兵へ投擲し、避け損ねた何匹かは弾け飛んだ。味方だろうとお構いなしのようだ。というよりも見分けがつかないのだろう。
「マッドドッグがうらぎっちゃ！ぶっころちぇ！！」
武器を取り出し、切り替えたずんだ府兵が一斉にマッドドッグに挑みかかる。
「あぎゃぁぁがっ………ち、ちぎれ……ぁぴぁぁぁ」
「お、おちびちゃぁぁん！！よくもおちっ……や、やめちぇ！！おちびちゃんたべさせないで！！ぎっ！がっ！あにゃるさんにおててしゃんいれにゃ………いちゃいちちっばばばぁぉあぁぁぁぁ！！！！おわぉ゛」
「えぇ……」
だが、引きちぎられた我が子の生首を口に詰め込まれた親ずんが、マッドドッグに尻に腕を付け根まで突っ込まれ、悲鳴を上げて臓物ごと生首をあにゃるから引き摺り出されて死ぬ様を見ると戦意を失い、そそくさと飛び去っていった。
「お、引き際をきちんと弁えてるのはむしろいいことなのだ。で、ぼくだけが残った、と」
マッドドッグに背を向けて、シンベーは北に消えていくずんだ府兵を手を庇にして見上げた。
「アグァァァァァ！！」
マッドドッグはその名の通り狂犬の面で涎を垂らして駆け出すと、大口を開けてシンベーの脇腹に牙を剥いた。
「ヅッ！？」
だが、シンベーの枝豆耳から飛び出た刀の柄がマッドドッグを制した。
シンベーは自衛ずんの一角だが、唯一の人型かつ背中に触手を生やすハンジローらと異なり、枝豆耳が触手となっている。そこから刀は出てきた。
まるで時間が飛んだようにいきなり顔面に突き出された柄にマッドドッグは硬直した。というよりも、匂いの変わったシンベーに本能で警戒心を抱いた。
「ん？ぼくと戦うのだ？あまりオススメはしないのだ」
マッドドッグは後方に跳ねて距離を取る。だが、退く気はないのが見て取れる。雷光迸る凶暴な眼光が、一瞬でも慄いた己への怒りでさらに増幅した。
シンベーは枝豆耳を元の姿に戻すと、またカンロ飴を口に入れた。
「うーん……やっぱ捨て置くより殺しといた方がいいかもなのだ」
シンベーはそう言うと双方の枝豆耳に手を差し入れ、内部に納めた太刀を抜いた。そして二刀流の構えを取ったと思えば枝豆耳から鞘も抜き、触手に変わった枝豆耳に絡めた。
鉄製の鞘と太刀。それがシンベーの得物だった。濡れたような光沢の刀身は一流の刀匠が鍛えた最高の品だと見て取れるが、鞘もまた真横の塀に向けて軽く触手を振れば、大の大人も潜れる風穴が空いた。
2本の鞘と太刀の四刀流がシンベーの戦い方だ。刀で鍔競り合っても頭上から鉄の鞘で撲殺され、シンベーも太刀に見合う剣術を持つため、並の人間では歯が立たない。
「さ、来るがいいのだ」
妖精軍少将にして琴葉家執事シンベーは、ずんだ虫の中でも特に質の良い個体を琴葉茜が直々に選りすぐってヘコらせ産まれた、血統由緒正しい名門のずんだもんである。
しかし、その内面は複雑怪奇。一言で言えば混沌。
琴葉家執事として安全な場所で暮らしたいと宣う割に、いざ命令を下されたら2つ返事で最前線に赴き、かと言って戦闘が始まったら階級を笠に部下任せ。それでいて部下も全滅し、追い詰められた辺りで突然戦い始める。
戦場では多くの部下を随伴させるが、自分に護衛は不要だと思っていて、その部下も平時は面倒をよく見るが、いざとなったら普通に切り捨てる。気分屋かと思えば、状況をよく見定めている。
執事としてあらゆる家事業務を身につける一方で、鍛錬を積むことも欠かさない。琴葉茜に本心から忠誠を誓っているものの、今年28歳の癖にお嬢様と呼ばせるのは流石に痛いと思っている。
「どうしたのだ？来ないならこっちから行くのだ」
邪智、温厚、忠勇、卑劣、奔放、冷徹。あらゆる矛盾した感情が矛盾なく同居する琴葉茜最強の配下の1人。それが自衛ずんシンベーである。
「ウゥゥゥガォォォォァァァァァァァ！！」
マッドドッグは大気が震撼する咆哮を上げると、歯軋りして口腔の牙をへし折れるだけへし折り、唾と一緒にシンベーに向かって噴き出した。
『レディースアンドジェントルメン！！今日もお待ちかね、マッドドッグ1号の試合が始まるのだ！！！』
薬物を飲んだマッドドッグの魂はクラブハウスの頃に帰っていた。熱狂する観客の声援を一心に浴び、太陽より眩しい照明に照らされたリングに上がったマッドドッグは、今日も目の前の相手を屠る。
たとえ相手がずんだ虫ではなく、ラーテルや斧を持った人間だろうと負けたことは一度もない。むしろは負けは死と同義だ。許されない。
今日の相手は成ずんだった。若いオスだ。中々良い面構えをしているが、そういうヤツほど片手を食われた途端に泣き喚くからたまらない。
まず勇猛にもオスずんから飛びかかってきた。それをかわすと同時にマッドドッグは挨拶代わりのラリアットを繰り出すが、腕を飛び越えられた。
続いてぐるぐるパンチを互いに見舞うが、数分殴り合っても埒が開かない。リングのゴムロープに身を預け、ゴムの伸縮で強力な一撃を与えるも決定打にはならない。
予想外にできるヤツなのだ。オーナーが別の支店の最強格を連れてきたのかもしれないのだ。
この前の野良ずん一家の大黒柱も中々歯応えがあるオスだったが、コイツはそれ以上なのだ。久々にやるのだ。
オスずんを殴るフリをして腕を振り上げ、相手の意識が完全に上に行ったところで足を払って転ばせる。
そして横に回って自分も一緒に倒れると、空中で左手をオスの背筋に当て、右手は胸に押し当てる。
強制心臓発作
同時に肩甲骨と筋肉による円運動の衝撃を心臓に流し、人為的ならぬずん為的に心臓発作を起こして即死させるマッドドッグの十八番だ。
コイツ、油断してたら殺されかねないのだ。ぐるぐるパンチよりは地味で観客ウケは良くない技だが、これで死ねなのだ。
マッドドッグが力を込めて両肩を波打たせた時、いつの間にかオスずんが消え、マッドドッグの脳天から血が噴き出した。
頭を割られた。視界が血の緑色に染まり、続けて鋭利な2本の刃物で胴体を袈裟斬りにされて腸が飛び出す。生温い血が溢れ出るが、全く痛みがない。これはアカンのだとマッドドッグはどこか無関心に思った。
くちょ……何てことちゃ。やっとぼくも引退する時が来たのだ。しかし、ぼくを負かすなんてアイツはいったいどこのずんだもんだったのだ…‥。
マッドドッグ1号は最後に相手の顔を見ようと頭を上げたが、それっきり何も見ることはなく倒れ伏した。
「クッソキツい一撃をもらったのだ……寝違えたみたいに首がうまく曲がらんのだ」
シンベーは拳大の痣ができた首をさすり、口周りの血を拭って太刀の血を振り払う。そして刃を鞘に納めると、触手は枝豆に戻って鞘ごと飲み込んだ。
脚より長い刃渡の太刀が普段頭のどこに収納されているのか、本人もよく分かっていない。
「ふむ……」
マッドドッグの死に顔に苦痛の跡はなく、むしろどこか柔らかな様子さえあった。シンベーは殺した証に首を切り落とそうと枝豆耳に手をかけたが、何か思うところがあったのか腕を下げた。
「むっ？」
顔に触れたら拭ったはずの血がべったりついたので、シンベーはやっと鼻を折られて鼻血が出ていることに気が付いた。
顔を洗えるものを探しに近場のコンビニに入り、ウェットティッシュを掴んだ。
その時、背後の函館山の山頂が爆発した。ここまで飛来した石つぶてがパラパラと店の窓を叩く。
ハンジローとイゾーが殺し合ってる真っ最中なのだろう。あくまで人型兵としては強いシンベーが出張っても、妖精兵同士の本気の闘いの前には数合切り結ぶだけで身が持たない。
加勢する気にはならず、シンベーは鼻にティッシュを詰めてレジ台に腰掛け、闇世の中で炎に照らされるずんだ府大本営を目を瞬かせて見上げた。
このページへのコメント
続きまだ？
続きが見たいなら続きが楽しみって書くのがいいって昔どこかのコメ欄で見たけど至言だと思う
今、ヘミングウェイの「日はまた昇る」とラノベの「玄関前で顔の良すぎるダウナー系美少女を拾ったら」を同時進行で読んでて、読み終わったら取り掛かります。お待ちください。
マッドドッグ1号の、真の最期……戦うために生き、生かされ、殺し、殺され…………どうか、安らかに……
美男子のシンベーと、覚醒して異形となったマッドドッグ1号という残酷な対比！（特殊能力の有無はあるでしょうが）妖精兵と人型兵で強さが異なる点も興味深いです！
ネームドキャラそれぞれが、それぞれの好きなように動いてしまうと、もうチームとしての結束は望むべくもありませんね……
感想ありがとうございます。
自衛ずんはみんな滅多に会わないので、外からは実は険悪とか競い合ってるとか思われてますが、現実は顔と名前を覚えてるだけの他人という認識らしいです。
間違えた。何やってるのだずんちゃ。
前回の戦いで終わったと思ったらまさかのイゾーとマッドドッグの戦いが始まりビックリしました。
そういえばシンベーは自衛ずん唯一の人型ですがどのような経緯で覚醒したのか疑問です。
また、マットドッグがゆかりから貰った薬は恐らく麻薬等を配合して作られた特殊な興奮剤でしょう。
皮肉にも結月ゆかりが戦争初期で裏切る為に使うのではなく、戦争末期で裏切ったマットドッグが使用してしまいましたね。
シンベーの報告一つで、琴葉茜から戦争のストレス発散の為のはけ口にされるのか、罪人として公開処刑して人間側からの裏切りが発生しないように利用されるのかの考察が溢れてきますね。
そして、ハンジローが万が一裏切った時の対応策が射殺などの行動しかないのがわかった為、琴葉茜がハンジローの忠誠心により謀反を起こさないのと組織の二分化しないだろうと考え、褒美として同じ階級にしましたが、単にハンジローが強すぎて人間から不条理な事をされていないからイゾー達の心情がわからない部分があって裏切らなかっただけで、もし今後の戦いの中で琴葉茜との間に亀裂が生じた場合どのようになるのかが楽しみです。
まさかの展開に驚きつつも、とても楽しかったです。
続編も期待して待っていますが、猛暑やコロナで体調を崩しやすい時期になっているので無理せず、お体に気をつけてくださいね。
マッドドッグ覚醒状態って醜い姿っぽい記述がありますが四肢とかは再生した感じですか？
シンベーは戦力としては弱くても文面だけで武士っぽいイケメンイメージが出てきて結構すこ
マッドドッグ生きとったんかワレ！
しかしシンベー相手についに戦ﾀﾋ・・・
最期に奥の手使って大暴れ、クラブハウス時代に戻って
＞苦痛の跡はなく、むしろどこか柔らかな様子さえあった
というﾀﾋに顔で逝けたのは・・・
これって色々と吹き込まれて乗せられただけで、クラブハウス時代ってマドドッグ１号本ずん的に幸せだったのでは？
しかしこのパワーバランスだと
＞万一ハンジローまでイゾーに与するようなら抹殺する
これって実質不可能なのでは・・・？
いくらレミントンだのモシン・ナガンだの豊和ゴールデンベアだので武装してても、まず弾が当たらなきゃ（ｒｙ
いや薬でパワーアップしたマッドドッグとハンジローの力関係が不明ですが、それでもハンジローがシンベーより圧倒的に強いことは確定でしょうし・・・
感想ありがとうございます
マッドドッグは最期は正気に戻り、やっと役目から解放されて休めるというイメージで柔らかな顔と書きました。
暴走マッドドッグは迫力に気圧された相手には強いですが、ハンジローやイゾーシンベーみたいな実力者相手だとむしろ猪突猛進して動きが簡単に読めるからシラフの時の方がむしろ手強いと思います。