作者 睡蓮 
函館山の戦いの合間に書いた話です。そっちも近日中に出します。
本編
12月の寒空の下、閑散とした公園の原っぱを砂に塗れた小汚いずんだ虫がよちよちと歩いている。
「うーしゃむいしゃむい！くちょ！あのくしょかいぬし！ぼくをすてやがるなんちぇ、とんでもねーくされげどーなのだ！！」
そう悪態を垂れるこのずんだ虫、どうやら元飼いずんのようだ。つい最近捨てられたのか真冬の割に血色が良く、体付きもがっしりして、ずんぽも中々立派なモノをぶら下げている。
「ぼくはちょっとムラムラしたからママずんをヘコっただけちゃ！なーにが、やめちゃーおにゃかにパパずんのこどもがいるのだーなのだ！ママずんならいかなるときでも、パパずんをよろこばせるのは、とーぜんちゃ！バカずんが！」
察するに、妊娠中にも関わらずつがいのメスをヘコり、それが飼い主の勘気を被って捨てられたようだ。どこに出しても恥ずかしいヘコずんだ。
「ま、まぁたしかにママずんのあにゃるさんブッこわして、トロトロになったおちびをみたママずんは、ショックでしんじゃったけど、そんなのママずんがクソザコだったからなのだ！ぼくのせーじゃないちゃ！」
そう吐き捨てながらヘコずんは公園を歩いていく。途中でクローバーの葉を一口かじり、まずいが食べれなくはなかったのかしかめっ面でもう一口頬張った。
「でも、くしょにんげんはぼくのことを、なに1つわかってないのだ！ぼくにはこのさいきょーにしてさいこーのずんぽがあるのだ！コイツでそこらじゅーのメスずんをヘコりちらかし、メロメロにしたメスにごはんさんをけんじょーさせるんちゃ！そしてまいにちリッチにくらし、くしょにんげんをみくだしちゃるのだっ！！」
ヘコずんは、ご自慢のずんぽの虜にしたメスずん達に養われて生活することを画策しているらしい。
だが、そんなことをすればヘコったメスずんのオス達の報復が待っており、ヘコずんが望むような安泰な暮らしは難しいのだが、飼いずん故にそこまで頭は働かないようだ。
ヘコずんが向かう先には水飲み場があった。どんな公園にも一つはある、上部には噴水のように下から水が突き出す蛇口、下に普通の蛇口がある水飲み場だ。
上で水を飲み、下では手が洗いやすいようにできている。
「こんなきったねぇからださんじゃ、へコれるメスもヘコれねーのだ！りっぱなずんだもんとして、いかなるときもキレーなからださんじゃないとダメちゃ！」
ヘコずんは流水で身体を洗う気らしい。元は飼いずんだから最低限の衛生観念はあるようだ。
ヘコずんが水飲み場に近づいた時、蛇口がある裏側から同じずんだ虫の声がした。
「むぐぐぐ……て、てあししゃんがはがれないのりゃぁぁ！！」
「おちびちゃん！いまたすけてあげるからね！」
回って見てみると、蛇口から流れた水を排水する穴に子どもが落ちないようはめ込まれた金属のグレーチングに、子ずんの手足が張り付いてしまっている。無理に剥がせば皮が剥がれる。
まだ皮膚の薄い子ずんは冬に直に金属に触れると、皮がくっついて取れなくなってしまうことがあるのだ。
蛇口から水を浴びせて剥がそうとしたが無駄だったらしく、子ずんはぐしょ濡れの姿で青白くなって震えている。このままでは命が危ない。
「うおおぉーーーっ！！のだちーー！！」ｼﾞｮﾛﾛ
「えぶっ、く、くちゃぃぃぃぃ！！」
パパずんはフワフワと浮いて、子ずんの上からおしっこを浴びせかけた。すぐにお湯が用意できない場所では人間でも有効な手段だ。
「く、くちゃいのだ……おぇ……おとーちゃ……ぬるくてきもちわりゅいだけで、ぜんぜんはがれないのりゃ……」ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ
だが、ずんだ虫のおしっこでは温度が低くて意味がないようだった。おしっこを浴びた子ずんは悪臭にえづきながらなお寒さに震えていた。
「くちょ、どうしたら……あっそこのよーせいさん！おちびちゃんをたすけてほしいのだ！このままじゃごはんさんたべれないし、おうちさんにかえれないちゃ！」
パパずんが途方に暮れていると、蛇口をよじ登るヘコずんの存在に気づいた。パパずんはヘコずんに助けを求めて声を張り上げた。
「のだ？」
ヘコずんは呼びかけられる前から2匹のことは認識していたが、自分には無関係だと無視を決め込んでいたので、助けを求められても面倒臭いだけだった。
「フゥン！！」
「ぴゅあっ」ﾌﾞﾁｭｯ
ヘコずんは勢いよくグレーチングに飛び降りると、上から子ずんを踏み潰した。
「え？」
短い悲鳴を上げて子ずんの胴体はグレーチングの目の間に押し潰され、サイコロ型にぶつ切れた肉片は側溝の中に落ちて流れて行った。
「おちびちゃん……へ、へんじしてなのだ…… あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛おえ゛っお゛あ゛あ゛ーーッ！！！」ｹﾞﾛｯﾁｰﾝ
手足と僅かな頭の皮膚片だけが張り付いたままグレーチングに残り、パパずんはその残骸を前に発狂。20年は老けた形相で雄叫びを上げ、血と吐瀉物を吐き出してショック死した。
「まったく、じゃまくせーヤツらだったのだ」
ヘコずんはそう吐き捨てて再度上の蛇口によじ登ると、蛇口をゆっくり回してちょろちょろ流れる水に手の先を付けた。
「ううう゛……くちょぉ！」
水の猛烈な冷たさに尻込みしたが、腹を決めて蛇口を強く捻り、ヘコずんは噴き出す水を全身に浴びた。
「あぎゃぁぁぉぉぁぁぉぁぁぁぁ！！！からだしゃんがぁぁぁぁぁ！！こ、ご、こおりゅぅぅぅぅ！！」ﾌﾞﾙﾌﾞﾙﾌﾞﾙ
まるでナイフで切り刻まれているような激しい痛みがヘコずんの全身を駆け回る。飼いずんだった頃は温かいシャワーを浴びていたが、野良ずんとなった今は血肉まで凍り付きそうな冷水でしか身体を洗えない。
しかし、ヘコずんは歯を食いしばって水を浴び、体についた泥や砂を拭い取った。
どんな値千金のずんぽを持ったヘコずんでも、不潔な見た目ではメスずんのあにゃるさんはピクリともしない。それを弁えていたからだった。
いつでもどこでもメスをヘコるなら、ヘコるメスにも敬意を払え。それがヘコずんの流儀なのだ。もっとも、ママずんは妊娠中にヘコって子ども諸共殺しているので、相手のコンディションまでは考えていない。
「うう゛〜〜ち、ちにそーなのだ……でも、これでキレーなからだしゃんになっちゃのりゃ……これならどんなメスもぼくにメロメロなの、だ」
たっぷり3分冷水を浴び、歯をガチガチ鳴らしてヘコずんは行水を終えた。枝豆耳に薄く霜が降りていた。
「と、っにかく、ヘコるまえにどこかあたたかいところをさがしゅのだ……からだしゃん、あたためにゃいと……のだ？」
ヘコずんが目の前にあるGUの店を眺め、中に忍び込んで暖を取ろうと考えた時だった。
「のだっ！？」
鳴き声に反応して振り向くと、上空からヘコずんの元へ大きなカラスが迫っていた。勝てる相手ではない。慌てて逃げようとしたが、ここは公園。逃げ込める場所は遠くの公衆便所しかなく、間に合わない。
逃げ込めたとしても入り込まれたり待ち伏せられたらなす術がない。
「………」
迷いはなかった。
ヘコずんはすぐさま腕に力を込めて手刀を作ると、己の喉笛にそれを一思いに突き立てた。
「うぐぁっ……！！ぐっ……ぅ……おぉ……」ｻﾞｸｯ‼︎
血が噴き出したが、身体が冷え切っているので痛みはほとんどなかった。そのままヘコずんは、力を振り絞って突き立てた手刀を左へと走らせ、鮮血と共に喉笛を引き裂いて自裁した。
「ざまぁ、な、のだ……くしょ、カ、カラスに……ずん、ぽを、うばわれ、るくらいな、ら、しし、しんだほーがマ、マシの、だ……ふふ」
ヘコずんは血を吐くも、心から満足げな顔で倒れた。
ずんぽを奪われた姿で、ヘコヘコもできずにおめおめと生き恥を晒すくらいなら潔く死を選ぶ。
ヘコずんにとって、それほどずんぽは掛け替えのないものなのだ。降伏するくらいなら腹を切る道を選ぶ侍と似た覚悟が、このヘコずんにはあった。
命よりも誇りを取った気高きヘコずんは、消えゆく意識の中で最後の光景を目にした。
「は……？」
それは、水飲み場の縁に降り立ち、ヘコずんが身体を洗うのに使った水を啜るカラスの姿だった。
カラスは最初からヘコずんなど興味がなく、ただ偶然綺麗な水を見つけて飲みに来ただけだったのだ。
つまりは、ヘコずんの早とちり。自爆だった。
「………」ﾁｰﾝ
ヘコずんは先走ったことをひどく後悔したが、それも一瞬で、すぐに死んだ。
カラスはヘコずんの死体を一瞥したが、一口も食べることなく飛び去っていった。
ヘコずんにとってずんぽは命よりも大事なもの。ずんぽを失うくらいなら死ぬるという個体は下記の通り少なくない。
「さむくて、ずんぽがたたなくなっちゃのだ……さて、どっかのクソいぬにくわれてくるかなのだ」
「ヘコヘコのしすぎで、ずんぽがちぎれちゃ！わるくないずんせーだっちゃ！」ｻﾞｸｯ
「ばい(売)ずんのメスからへんなびょーきをもらって、ぼくのマグナムずんぽがくさったのだ。くしょかいぬしはびょーいんにつれてってくれたけど、ヘコヘコできないなら、いきててもしかたないのだ！！」ｸﾞｻｯ
それは、つがいがいたところで関係ない。
「パパずん……ずんぽがなくなっても、あたちのパパずんはパパずんだけなのだ……あいしてるのだ……いっしょにうまれたばかりのおちびちゃんをそだてるのだ……」
「ぱぱ、ぱぱ、すきなのだ、ぱぱ」
「うるちぇーっ！！ヘコヘコできないならいきるだけムダなのだ！ガキをそだててもムラムラはきえないのだ！いまこのしゅんかんも、ムラムラしちぇる！しにばしょをさがしてくるから、オメーらはかってにしあわせになれ、なのだ！」
真冬。今日も不能になったヘコずんが、次々と自らの手でその生涯を終えていた。
また別のずんぽを失ったヘコずんの生き様
「うーしゃむいしゃむい！くちょ！あのくしょかいぬし！ぼくをすてやがるなんちぇ、とんでもねーくされげどーなのだ！！」
そう悪態を垂れるこのずんだ虫、どうやら元飼いずんのようだ。つい最近捨てられたのか真冬の割に血色が良く、体付きもがっしりして、ずんぽも中々立派なモノをぶら下げている。
「ぼくはちょっとムラムラしたからママずんをヘコっただけちゃ！なーにが、やめちゃーおにゃかにパパずんのこどもがいるのだーなのだ！ママずんならいかなるときでも、パパずんをよろこばせるのは、とーぜんちゃ！バカずんが！」
察するに、妊娠中にも関わらずつがいのメスをヘコり、それが飼い主の勘気を被って捨てられたようだ。どこに出しても恥ずかしいヘコずんだ。
「ま、まぁたしかにママずんのあにゃるさんブッこわして、トロトロになったおちびをみたママずんは、ショックでしんじゃったけど、そんなのママずんがクソザコだったからなのだ！ぼくのせーじゃないちゃ！」
そう吐き捨てながらヘコずんは公園を歩いていく。途中でクローバーの葉を一口かじり、まずいが食べれなくはなかったのかしかめっ面でもう一口頬張った。
「でも、くしょにんげんはぼくのことを、なに1つわかってないのだ！ぼくにはこのさいきょーにしてさいこーのずんぽがあるのだ！コイツでそこらじゅーのメスずんをヘコりちらかし、メロメロにしたメスにごはんさんをけんじょーさせるんちゃ！そしてまいにちリッチにくらし、くしょにんげんをみくだしちゃるのだっ！！」
ヘコずんは、ご自慢のずんぽの虜にしたメスずん達に養われて生活することを画策しているらしい。
だが、そんなことをすればヘコったメスずんのオス達の報復が待っており、ヘコずんが望むような安泰な暮らしは難しいのだが、飼いずん故にそこまで頭は働かないようだ。
ヘコずんが向かう先には水飲み場があった。どんな公園にも一つはある、上部には噴水のように下から水が突き出す蛇口、下に普通の蛇口がある水飲み場だ。
上で水を飲み、下では手が洗いやすいようにできている。
「こんなきったねぇからださんじゃ、へコれるメスもヘコれねーのだ！りっぱなずんだもんとして、いかなるときもキレーなからださんじゃないとダメちゃ！」
ヘコずんは流水で身体を洗う気らしい。元は飼いずんだから最低限の衛生観念はあるようだ。
ヘコずんが水飲み場に近づいた時、蛇口がある裏側から同じずんだ虫の声がした。
「むぐぐぐ……て、てあししゃんがはがれないのりゃぁぁ！！」
「おちびちゃん！いまたすけてあげるからね！」
回って見てみると、蛇口から流れた水を排水する穴に子どもが落ちないようはめ込まれた金属のグレーチングに、子ずんの手足が張り付いてしまっている。無理に剥がせば皮が剥がれる。
まだ皮膚の薄い子ずんは冬に直に金属に触れると、皮がくっついて取れなくなってしまうことがあるのだ。
蛇口から水を浴びせて剥がそうとしたが無駄だったらしく、子ずんはぐしょ濡れの姿で青白くなって震えている。このままでは命が危ない。
「うおおぉーーーっ！！のだちーー！！」ｼﾞｮﾛﾛ
「えぶっ、く、くちゃぃぃぃぃ！！」
パパずんはフワフワと浮いて、子ずんの上からおしっこを浴びせかけた。すぐにお湯が用意できない場所では人間でも有効な手段だ。
「く、くちゃいのだ……おぇ……おとーちゃ……ぬるくてきもちわりゅいだけで、ぜんぜんはがれないのりゃ……」ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ
だが、ずんだ虫のおしっこでは温度が低くて意味がないようだった。おしっこを浴びた子ずんは悪臭にえづきながらなお寒さに震えていた。
「くちょ、どうしたら……あっそこのよーせいさん！おちびちゃんをたすけてほしいのだ！このままじゃごはんさんたべれないし、おうちさんにかえれないちゃ！」
パパずんが途方に暮れていると、蛇口をよじ登るヘコずんの存在に気づいた。パパずんはヘコずんに助けを求めて声を張り上げた。
「のだ？」
ヘコずんは呼びかけられる前から2匹のことは認識していたが、自分には無関係だと無視を決め込んでいたので、助けを求められても面倒臭いだけだった。
「フゥン！！」
「ぴゅあっ」ﾌﾞﾁｭｯ
ヘコずんは勢いよくグレーチングに飛び降りると、上から子ずんを踏み潰した。
「え？」
短い悲鳴を上げて子ずんの胴体はグレーチングの目の間に押し潰され、サイコロ型にぶつ切れた肉片は側溝の中に落ちて流れて行った。
「おちびちゃん……へ、へんじしてなのだ…… あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛おえ゛っお゛あ゛あ゛ーーッ！！！」ｹﾞﾛｯﾁｰﾝ
手足と僅かな頭の皮膚片だけが張り付いたままグレーチングに残り、パパずんはその残骸を前に発狂。20年は老けた形相で雄叫びを上げ、血と吐瀉物を吐き出してショック死した。
「まったく、じゃまくせーヤツらだったのだ」
ヘコずんはそう吐き捨てて再度上の蛇口によじ登ると、蛇口をゆっくり回してちょろちょろ流れる水に手の先を付けた。
「ううう゛……くちょぉ！」
水の猛烈な冷たさに尻込みしたが、腹を決めて蛇口を強く捻り、ヘコずんは噴き出す水を全身に浴びた。
「あぎゃぁぁぉぉぁぁぉぁぁぁぁ！！！からだしゃんがぁぁぁぁぁ！！こ、ご、こおりゅぅぅぅぅ！！」ﾌﾞﾙﾌﾞﾙﾌﾞﾙ
まるでナイフで切り刻まれているような激しい痛みがヘコずんの全身を駆け回る。飼いずんだった頃は温かいシャワーを浴びていたが、野良ずんとなった今は血肉まで凍り付きそうな冷水でしか身体を洗えない。
しかし、ヘコずんは歯を食いしばって水を浴び、体についた泥や砂を拭い取った。
どんな値千金のずんぽを持ったヘコずんでも、不潔な見た目ではメスずんのあにゃるさんはピクリともしない。それを弁えていたからだった。
いつでもどこでもメスをヘコるなら、ヘコるメスにも敬意を払え。それがヘコずんの流儀なのだ。もっとも、ママずんは妊娠中にヘコって子ども諸共殺しているので、相手のコンディションまでは考えていない。
「うう゛〜〜ち、ちにそーなのだ……でも、これでキレーなからだしゃんになっちゃのりゃ……これならどんなメスもぼくにメロメロなの、だ」
たっぷり3分冷水を浴び、歯をガチガチ鳴らしてヘコずんは行水を終えた。枝豆耳に薄く霜が降りていた。
「と、っにかく、ヘコるまえにどこかあたたかいところをさがしゅのだ……からだしゃん、あたためにゃいと……のだ？」
ヘコずんが目の前にあるGUの店を眺め、中に忍び込んで暖を取ろうと考えた時だった。
「のだっ！？」
鳴き声に反応して振り向くと、上空からヘコずんの元へ大きなカラスが迫っていた。勝てる相手ではない。慌てて逃げようとしたが、ここは公園。逃げ込める場所は遠くの公衆便所しかなく、間に合わない。
逃げ込めたとしても入り込まれたり待ち伏せられたらなす術がない。
「………」
迷いはなかった。
ヘコずんはすぐさま腕に力を込めて手刀を作ると、己の喉笛にそれを一思いに突き立てた。
「うぐぁっ……！！ぐっ……ぅ……おぉ……」ｻﾞｸｯ‼︎
血が噴き出したが、身体が冷え切っているので痛みはほとんどなかった。そのままヘコずんは、力を振り絞って突き立てた手刀を左へと走らせ、鮮血と共に喉笛を引き裂いて自裁した。
「ざまぁ、な、のだ……くしょ、カ、カラスに……ずん、ぽを、うばわれ、るくらいな、ら、しし、しんだほーがマ、マシの、だ……ふふ」
ヘコずんは血を吐くも、心から満足げな顔で倒れた。
ずんぽを奪われた姿で、ヘコヘコもできずにおめおめと生き恥を晒すくらいなら潔く死を選ぶ。
ヘコずんにとって、それほどずんぽは掛け替えのないものなのだ。降伏するくらいなら腹を切る道を選ぶ侍と似た覚悟が、このヘコずんにはあった。
命よりも誇りを取った気高きヘコずんは、消えゆく意識の中で最後の光景を目にした。
「は……？」
それは、水飲み場の縁に降り立ち、ヘコずんが身体を洗うのに使った水を啜るカラスの姿だった。
カラスは最初からヘコずんなど興味がなく、ただ偶然綺麗な水を見つけて飲みに来ただけだったのだ。
つまりは、ヘコずんの早とちり。自爆だった。
「………」ﾁｰﾝ
ヘコずんは先走ったことをひどく後悔したが、それも一瞬で、すぐに死んだ。
カラスはヘコずんの死体を一瞥したが、一口も食べることなく飛び去っていった。
ヘコずんにとってずんぽは命よりも大事なもの。ずんぽを失うくらいなら死ぬるという個体は下記の通り少なくない。
「さむくて、ずんぽがたたなくなっちゃのだ……さて、どっかのクソいぬにくわれてくるかなのだ」
「ヘコヘコのしすぎで、ずんぽがちぎれちゃ！わるくないずんせーだっちゃ！」ｻﾞｸｯ
「ばい(売)ずんのメスからへんなびょーきをもらって、ぼくのマグナムずんぽがくさったのだ。くしょかいぬしはびょーいんにつれてってくれたけど、ヘコヘコできないなら、いきててもしかたないのだ！！」ｸﾞｻｯ
それは、つがいがいたところで関係ない。
「パパずん……ずんぽがなくなっても、あたちのパパずんはパパずんだけなのだ……あいしてるのだ……いっしょにうまれたばかりのおちびちゃんをそだてるのだ……」
「ぱぱ、ぱぱ、すきなのだ、ぱぱ」
「うるちぇーっ！！ヘコヘコできないならいきるだけムダなのだ！ガキをそだててもムラムラはきえないのだ！いまこのしゅんかんも、ムラムラしちぇる！しにばしょをさがしてくるから、オメーらはかってにしあわせになれ、なのだ！」
真冬。今日も不能になったヘコずんが、次々と自らの手でその生涯を終えていた。
また別のずんぽを失ったヘコずんの生き様
このページへのコメント
何よりも「ずんぽ」に重きを置きすぎたゆえの、知られざる「へこずん」の生態……ある意味で、自然界における個体数の調整に一役買っていたり？（多分違う）
『改心』の主ずん公と同様、本ずんとしては立派な武士道や騎士道のようなものを貫いているようでいても、その価値観は人間や他の生物にとっては心底どうでも良いもの、もしくは嫌悪感にとって代わるのですね！
睡蓮さん投稿お疲れ様です。
前回のとは違い、勘違いとはいえガタイの良いタイプは潔く命を絶とうとしたのは驚きました。
（そしてこいつらの小さい腕が喉元まで届く事にも驚きました）
そして途中の円グラフですが、へコずんの場合は残り一割の内容が変わりそうな可能性がありますね。
例「他の雄ずんの方がずんぽが出かかった」「雌ずんにずんぽ小さいと言われ絶望した」
（この円グラフ１匹だけ明らかに脳みそがずんだ虫じゃない何かが言っていますね）
函館山の戦いの合間の続き楽しみに待っています。
ずんぽを失えば死ぬのは繁殖出来ない害獣に価値は無いと言う概念だろうか？ずんぽを失い自害したり子供の死に親がショック死したりとどうせなら全パターンの自殺理由を描いても良かった鴨？
極東の島国に住む害獣にいきなり抗議自殺されてもネタニヤフもハマスも困惑しそう
あっさり自殺するずんだ虫に笑いました。
短くて読みやすく、面白かったです。
デタラメなタフネスの設定も良いですが、紙耐久の設定も良いですね。
こんなに簡単に死ぬなら、ずんだ虫家族を捕まえて、「お前がここで自殺したら、残りの家族は助けてやるよ」ってけしかけて自殺させた後に、しれっと裏切りたいなぁと、ふと思いました。