妖精はしょくざい
最終更新：
saiyan_party 2024年09月23日(月) 19:30:06履歴
本文 作：祭屋 
ここはどこかの大自然。青々とした木々が風に揺れ、妖精たちは慎ましくも穏やかな生活を送っていた。
[きゃっ、きゃっ]
[わぁいわぁい]
[おいち！おいち！！]
[ずーん・・・ずーん・・・]
[ああ、なんてすばらしいのだ]
[かわいいおちびちゃんが うまれたのだ！]
[おめでとうなのだ！]
[うちのおちびちゃんと なかよくしてほしいのだ！]
[ぼくはおにーちゃとして、おとーちょをまもりゅのだ]
[おひしゃま、ぽかぽかしゃん！]
[しあわせなのだ]
[ぼくたちみんなで、このあったかいひびをまもっていくのだ！]
・・・
ﾜｱｱｱ
テーブルに着いた人々から歓声と拍手が起こる。
大画面のモニターに映し出されたのはしあわせで、しあわせを極めた妖精たちの楽し気な様子。
上映会が終わり、人々のテーブルを回る男性がいた。
「本日はお越しいただきありがとうございます」
「いいえ、待ちきれなくてウズウズしちゃいますよ。料理長」
ニコニコ笑顔の上品なマダムに深々と頭を下げるのは料理長と呼ばれた男性。
清潔な服と真っ白なエプロンを身に着けている。
[にんげんさん！ここからだして！！]
[ぼくたち、たべられちゃうのだぁ？]
[うしょだ！うしょなのだ！！]
料理長が手に持つは妖精一家が仲良く収められたカゴ。お馴染みの(？)虫カゴと違いちょっとオシャレな、オーナーセレクトの上等な物だった。
上品な席だろうが普段の鬼威惨でも、妖精の声というのは悉く無視されるものであるということは変わらない事実らしい。
こと食事においては悲鳴や苦痛、嘆きは旨味のスパイスとなると言われているのでその意味も含むデモンストレーションなのかもしれない。
「先ほどの映像を見てから余計に期待が増しましたわ。あぁ可愛い妖精たちね、食べちゃいたいくらい♡」
「ハハハ、他のお客様にご紹介を終えたのち直ぐ取り掛からせて頂きますよ。楽しみになさってくださいね」
[ぼくたちは、まいにちしあわせにすごしていたのだ！]
「お客様、こちらが本日生きながらにして焼かれる妖精一家でございます」
[こわいおー！たちけてえ！！]
「すごぉい。ママ、僕このイキがいいやつが食べたい！」
「まあこの子ったら・・・我が儘言っちゃいけないのよ」
[しょんな、しょんなぁ・・・]
「大丈夫ですよ。ボク？こいつら以外にも妖精はいて、みーんなイキが良くて新鮮、しあわせなヤツらを揃えているからね？美味しいよぉ」
「ほんとぉ？コックさんすごいっ！」
「ハハハッ、美味しい料理はおじさんにお任せさ！みんなの前で調理するから、キミも見に来てね♡」
料理長が席を回り挨拶をするたびに、楽しい会話や食への期待で笑顔が生まれる。
籠の中のムシケラが泣いて騒いで助けを求めようと、それらはすべて無視される。
しかしそれらは耳に届いていないのではなく、聞いて意味を理解したうえで躪られ嘲笑われている。
喰われるためだけに生かされ、『しあわせ』に管理されていただけの妖精たち。
突然楽園を追われ、訳も分からぬまま運ばれた先は自分たちを食らおうとする人間たちの只中。
しあわせからの落差、騙されていた怒り、死への恐怖、絶望etc.
それらを極めた混乱の中、泣いて喚いて無駄な抵抗を試み、あっさりと阻まれてまた嗤われる。
そんな無駄を繰り返しているうちに、とうとう席を回り終えた料理長が鉄板の前に立つ。
期待と好奇心に目を輝かせた先ほどの少年以下、大多数の客がまだかまだかとその時を待ちわびていた。
「では皆さん、鉄板の上でもがき苦しむ最期の輝きを目に焼き付けてくださいね？ハイっ！」
ｼﾞｭﾜｱｱｱｱ
[あああああああああああああああっ！あぢゅい！あぢゅいあぢゅいあじゅいっ！！！]
[やぢゃあああああっ！やぢゃああああああああああああああああああっ！！！]
親と子が並べて熱される。
ろくな抵抗もできないままにこのまま悶え苦しみ美味しく焼けるのを待つのみ・・・なのだろうか？
いや、このままでは嫌だ。自分はダメでもせめて子だけは・・・。
自分たちを騙して嘲笑っていた人間たちに一矢報いたい。ヤツらに、一発、食らわせる・・・！
父妖精の闘志に火が点いた。
腹ばいにされ、ギュッと押し付けられた手足はすでに感覚がない。バランスの悪い体型のせいで目を向けることすらできない。すでにどこか焼け落ちているかもしれない。
自分は間違いなく助からない、だが！ わが子を！ 救うことは！ できる！ できるはずだ！！！
[ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ]
[おおおおおちびいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ！！！]
「あっ」
低い唸り声をあげ、渾身の力を絞り切った父妖精の振るった頭、枝耳ビンタが軽い子妖精の体を弾き飛ばす。
すっかり生を諦めて燃え尽きようとしていた子妖精は灼熱鉄板から解放され、勢い余って場外へ転げ落ちてゆく。
[おち、び・・・]
[つよ、くぶぢゅぶっ！？]
「何しやがんだこのカスうううううっ！！」
どぢゅり。と振り下ろしたヘラに切り潰される父妖精。
料理長の柔和だった笑顔が、怒りに歪み震えている。
「申ぉーっ！しわけございませんお客様方！！私の不注意で食材が・・・！貴重なお時間と、お楽しみを・・・！！！」
ハッとし、怒りに任せた自身の行動を恥じる間もなく集まった客に対し頭を下げる料理長。
お客様の楽しみにしていた料理が、見世物が台無しになってしまった。一体どうお詫びすればいいのか・・・。
「頭をあげてください料理長。私たちの中で怒っている者などおりませんわ」
「そうですよ。こんな、ちょっとしたハプニングじゃないですか」
「こんな飛び跳ねるくらい新鮮で元気有り余ってるってことですよね？俺ァ余計に腹が減っちまったよ〜」
「お、お客様・・・！」
マダムの言う通り、料理長を咎めるものなど存在しなかった。
皆が変わらず自分の料理を、見世物を楽しみにしてくれているのだ。
ジーンとし、胸が温かくなった料理長に、先ほどの少年が近づいてくる。
「コックさん、逃げたやつ捕まえたよ？これでまた料理してくれる？大丈夫？？」
[あがが。おとー、ちゃ・・・？]
「ボク・・・！ありがとう。すぐに美味しい妖精フルコースを御馳走するからね・・・！みなさんも、ありがとうございます」
拍手と歓声に包まれ、ようし！と張り切った料理長はいつも以上に腕を振るうのであった。
それはそれとして、一度落ちたものは衛生上の問題があると裏に下げられたのだが・・・。
「まったく、妖精にも困ったもんだ。まさか逃げ出すなんてな」
「ずいぶん根性のあるヤツもいたもんだなｗ」
若いホールスタッフが先ほどの子妖精の尻尾をつまみ、プラプラと揺すっている。
[にんげんさん！おとーちゃを、ぼくのかぞくをたすけて！！]
「はァ？うるせェ」
ぐぢゅっ。ぽいっ。
首を折られて残飯入れへ。不衛生なものは処分するに限るのだ。
「しかし料理長気合入ってるなあ。控えの妖精も全部出しちゃう勢いだぞ」
「そういう真剣で、景気のいいところがウケてるんだから。ほれ俺らも手伝うぞっと」
妖精フルコース。本日も大盛況であった。
あとがき
たまには何の捻りも無く、展開もオチも読めそうな凡庸でありきたりなヤツを。短いのもアッサリ読める美徳ですね(物は言いよう)
料理人の方が『今からこいつら焼きますからね？』ってアッピルするの見ていい趣味してんなーと思ったのがきっかけです。うめぇモンは罪深いのだ(個人の感想です)
ウサギさんが偉い人に自分の身を捧げた話もあることですし、妖精もいっちょヤってみっか？
料理人の方が『今からこいつら焼きますからね？』ってアッピルするの見ていい趣味してんなーと思ったのがきっかけです。うめぇモンは罪深いのだ(個人の感想です)
ウサギさんが偉い人に自分の身を捧げた話もあることですし、妖精もいっちょヤってみっか？
このページへのコメント
これで家族１匹ずつ残して目の前で料理した家族をゴミ箱に捨てて全員でカップラーメン食べるとか、そういうわけではないですね
食材としてならもったいない
メンチ・哀愁のボレロ〜食すのね を思い出す
あれは中々にひっどい(褒め言葉)でした
動画のバカ共がやってたら違和感無い催しですねwこうすればよかったんだ！(今更)
無知♡なのでググったらひっどい()内容でしたね…
おちびを吹っ飛ばしたパパの焼けながらも満足そうな顔が目に浮かびます
おちびを捕まえたお子さん偉いね
父妖精の自己満足が為に片付けの手間やら残飯が増え、お客は驚き料理長が頭を下げるハメになりました。許せませぬ。
料理長も含めて優しめの世界にしたかったので、お子さんは(俺にしては)かなりの善属性だと思います
読みやすくて面白かったです。
鉄板で熱するずん虐は鉄板！
食材としてずんだもん存在罪の食材を行った訳ですね（適当解釈）
ずんだ虫のライブキッチンや解体ショー、嬢ちゃんが得意そうだなぁと思いながら読みました。
書く必要は無さそうですが、一応…
存在罪の食材→存在罪の贖罪
テッパンの鉄板ネタ、という渾身のおっさんギャグに気付いて頂けてありがたいです。
デキ心で始まった(？)言葉遊び短編シリーズもさっそくネタが尽きそうで自分で自分の首を絞めています。
嬢ちゃんが犯ると作ったはいいが誰が食うのか問題、そもそもあのガキにマトモな料理ができるのか疑問…とおいちゃんどころか俺の方からストップかけたくなる問題山積みですね…。
もっと言えば本作自体ヒトとシチュを挿げ替えたハンバーグ作れよ(もしくはショッピング)なんじゃないかと気付き寒気がしましたが、今更なのでどうか知らん顔をしていてください
パパずんの愚行のせいで子ずんは食べられる事もなく廃棄されるのは子ずんにとって幸福なのだろうか？ミノタウロスの皿を思い出してしまいました…
もっと言えば父妖精自体も黒焦げ真っ二つ不可避なので揃って食い物になりませんね、出来損ないが。
指鹿為馬なので当該作品を知りませんでしたが、こちらは食われるのガチ拒否なので類似点を挙げるとするとヒトと妖精の視点や意識のズレあたりでしょうかね…
食材はその身に不釣り合いな「しあわせ」を享受したことを贖罪せねばならず……
抵抗すら無意味、懇願は聞く耳持たず！人間たちの一貫した態度が心地良いですね！妖精が言語能力を発達させたとはいえ、それを加味して（噛みしめて）のエンターテインメント！
ハプニングでさえも受け入れる、料理が繋ぐあたたかい世界！衛生的なリアリティも相まって、食の世界における「本気」を感じました…
「しあわせ」先払い制だったらしいのでもう満額受け取り済みらしいですよ。落差も含めて美味しく頂くための仕込みなのかもですね。
加味しめての言葉遊びにニヤリとしてしまいました(拡大解釈)
(妖精以外に対して)大分やさしいせかいというか、温かさは意識したポイントなので嬉しいです