はじめに 
お久しぶりです。けもです！
先週は予告なく投稿をストップしてしまい、大変申し訳ございませんでした。
急な発熱や財布の紛失等、災難が続きましたが、何とか生きています！
今回の短編小説は、過去作『がんも大王の教唆』や『#愛でギャル』、『クリスマス、どーてーやろうの哀愁と慈愛と傲慢』で描いてきたような「愚かな人間さん」をテーマにしております！
『あにゃるを拭いたその紙は』の続編も執筆中です。今年中の投稿を目標にしておりますので、応援よろしくお願いいたします！
※この小説はフィクションであり、実在の人物･団体･事件とは一切関係ありません。また、特定の社会的立場の人々を揶揄する意図は一切ございません。
本編
「……失礼します」
俺は、理科準備室に呼び出された。
「おお、君か」
椅子をくるっと回して俺の方を向いたのは、物理の教師。
伸び放題になったくしゃくしゃの白髪と、丈の長い白衣。マッドサイエンティストとはまさに、こいつのことを言うのだろう。
「……何の用だ？」
「何だ、聞かされてなかったのかね？ 指定校推薦の校内選考だよ」
淡々と答える目の前の男。
どういうことだ？
「なあ、ジゴワットさんよ……校内選考、だと……？」
「ワシもよくわからんが……複数人出願希望者がいるからって、進路指導主任が君を直接見るように言ったからなあ」
「フザけんなよ……俺だって、ヒマじゃないんだ」
用意された椅子にどっかりと腰かけた俺は、低い声で凄むように、ジゴワットをにらみつける。
ジゴワットというのは、この物理教師のあだ名だ。
誰が名付けたかは知らない。いつしか、皆がそう呼んでいた。
本名は知らない。この俺が、知る必要もない。
「やる気がないなら帰れよ、俺の貴重な“青春”を奪いやがって」
「まあまあ、落ち着けや少年……せっかくだから、ワシが面談してやろうじゃないか」
面談してやろう、だと？ 俺に敬意を払わないその態度にも、腹が立った。
何よりも、「少年」というその呼び方。
大学進学を控える俺に向かって、「少年」だと？
老いぼれにとっては、目の前に立つこの俺でさえも、赤子のようなものだということか。
「いいか？ 俺は容姿端麗、成績優秀でスポーツ万能、非の打ち所がない人間だぞ？ どうして、こんな面談なんかする必要があるんだ？ ソッコー、俺で決定だろう？」
「いやいや。君が知らないだけで、学校はかな〜り慎重なんだ……何しろ、ひとりの学生を学校の“代表”として推薦するわけだからな……」
「俺が！ 俺こそが！ この学校の“代表”にふさわしいことは、誰もが認める“事実”だろう！？ この俺が、 在 籍 し て や っ て る ん だ 、むしろ、お前ら学校側がありがたく思え？ な？」
ばんばんと、机を叩く。
普通の教師なら、素直に俺に従っても良い頃だったが……
ジゴワットは、何食わぬ顔で白髪をいじっているだけだった。
「おい、聞いてんのかジゴワット」
「いやぁ、若いって恐ろしい……どこから来るんだろうかねぇ、その全能感は」
「は？」
「ワシの若い頃を思い出すわい……かつてはワシも、自分に出来ないことは何もないと、そう思っとった」
「お前の昔話なんか、どうでもいいんだよ……“面談”するなら早くしろ」
なかなか進まない会話に、イライラが募るばかりだった。
「おお、すまんすまん……長々と話すのもアレだ、1問につき1分で答える形式にするとしようかね」
ジゴワットが机の中をゴソゴソと漁り、なにやら縦長の置き時計のような物体を取り出す。
「にょだ……にょだ……」
ガラス張りの大きな構造物の中に、木のような形のオブジェと、緑色の丸い物体。そして、一番下には、1匹の小さなイキモノがうごめいている。
ずんだ虫の幼虫………………「子ずん」だった。
「な、なんで、ずんだ虫が……？」
「はい、それじゃあ……“あなたの名前と生年月日、出身校をこの順番でお話しください”」
急なずんだ虫の登場に狼狽える俺に構わず、ジゴワットは勝手に質問を始めた。
面談じゃなくて、面接が始まったのか？
「ま、待てって……えっ、と、俺は、いや、ワタクシは………………」
「ず、ずんだもち！ ずんだもち！ んちょ……んちょ……」
子ずんは、木のオブジェをよちよちと登り始める。その甲高い声も相まって、自分が今、何を話しているのかすら分からなくなった。
「よいちょ、よいちょ……やっちゃーにょだ！ ずんだもち、ずんだもち！！」
子ずんは、木の上まで登りきると、緑色の物体を前にして目をキラキラとさせた。
あれは、ずんだ虫が好むという、ずんだもちなのか？
「時間切れだ、次………………“あなたが、高校時代に最も力を入れたことは何ですか”」
ぽちっ！ がちゃん！
「にょだあああああっ！？」
ジゴワットがスイッチを押すと、オブジェがくるっと180度回転し、子ずんが下に落ちた。
「い、いちゃい……にょだ、ずんだもち、ずんだもち………………」
子ずんは衝撃に身を震わせていたが、やがてまた、頭上で輝く「ずんだもち」を目指して木を登り始め……
いや、それどころじゃない！
「俺が……いや、ワタクシが高校時代に力を入れたことは、部活で……いや、部活動で、インターハイに出場して………」
「ずんだもち、ずんだもち！ にょだ、にょだ、にょだ、にょだ！！」
「そして、後輩の女を茂みに連れ込んで…………いや、これじゃない……」
「よいちょ、よいちょ！ ずんちゃのずんだもち！ ずんちゃのずんだもち！」
まずい。考えがまとまらない。言いたかったこととは違う言葉が、口から飛び出す。
「こ、こんどこそ、やっちゃーにょだ！ ずんちゃのずんだもち、ずんちゃのずんだもち！」
集中を欠いた状態でまともなことを言えないままでいると、子ずんが再び木の頂点にまで達した。
「…………………よそ見したな」
「え？」
「どうして、ワシの目を真っすぐ見なかったのかね？ 今質問してたのは、ワシだ。この妖精ではない」
「はぁ……っ！？」
何だ、こいつ。
変な道具を持ち出しやがって。ツッコミ待ちか？
負けを認めるようで屈辱だったが、聞きださずにはいられない。
「おいジゴワット、待て……今度は俺の質問に答えろ」
「今質問してたのは、ワシだと言った」
「待て、何で急に面接が始まってんだよ」
「まだ面談は終わってないぞ」
「ま……………待てってんだよおおおおおおおおおおおおおおお！！」
「叫ぶな叫ぶな、見苦しいぞ、少年」
頭に血がのぼる。この俺が、ジゴワットに翻弄されている……？
「何のつもりか知らないが………………何のつもりだ、これは」
「これか？ ああ、ワシが開発した、“子ずん時計”だよ……子ずんの視野の狭さと、ワンパターン化された思考、そして際限ない欲望を利用したのだ！」
聞いてもないのに、ジゴワットは得意げに説明を始めた。
「これは本当は“ずんだもち”ではない、ただのボールだ……だが妖精は、緑色かつ丸いものを“ずんだもち”だと思い込むことが往々にしてある……これを目指して、木を登り……“ずんだもち”にたどり着くまで、約1分！ リセットはこのスイッチだ……かなり調整に苦労したが、砂時計よりも神秘的だろう？」
「フザけんなよ……スマホのタイマー使えよ、バカか？」
この変な時計のせいで、なんかボロが出たような気がする。
「確かになぁ、スマホがあって当たり前の君等の世代には、少々わけがわからないものだろうがね……昔は、それこそ時計なんてなかったときは、自分たちで時間を把握する方法を模索していたもんだ。時間への憧れだな、うん」
「だから、昔話はいいって…………どうしてこの面談に、こんなずんだ虫が必要なんだよ？」
「“最悪”の想定だよ」
「は？」
「例えば、志望校の最終面接、失敗が許されない状況……そんな時、面接官がこんな奇怪な時計を持ち出さんとも限らんだろう？」
「いや、お前だけな？」
……………………
何でこんなやつが、教師なんかしてるんだ？
俺の頭に、漠然とした疑問が浮かぶ。
「ずんちゃのずんだもち、ずんちゃのずんだもち…………ありぇ？ かめないちゃ！ にゃんで！ にゃんで！」
子ずんはというと、緑のボールに歯を突き立てて、噛み切れずに不満そうな声をあげていた。
ジゴワットは、子ずんの声など聞こえていない様子で、話し続けている。
「この世の中は、理不尽なことばかりだ……今の君は、様々な人間によって“守られている”状態だが、これから君が独り立ちするならば、誰も君を守ってなどくれないのだ」
「ふん…………脅しのつもりか、ジゴワット？ 俺には仲間がいる！ そいつらがいる限り、俺は……」
「仲間……おおかた、自分をおだててくれるだけの、取り巻き集団だろう？」
「……だったらどうした？」
「そんなやつらが、5年後も、10年後も一緒にいると、本気で思っているのかね？ 今の君は、危うい。とても、危ういのだ」
そう言うなりジゴワットは、再び「子ずん時計」を操作し、子ずんを下に叩き落とした。
「いちゃい！！ はぁ……はぁ……にょだ…………にょだ……」
「子ずん時計」の中で動き回ったせいで、子ずんは息を荒げているように見えた。
「……ふうむ。子ずんでは、体力が長続きしないのが難点だな……この状態では、もはや正確な時間は計れまい」
ピッ！ ぐじゅっ！
「にょげっ！！」
ジゴワットがガチャガチャと裏側のボタンを操作すると、壁面からハンマーが飛び出して一瞬のうちに子ずんを潰し……
がこん！！
「にょ、にょだ？」
すぐさま、新たな子ずんが補充された。
「えっ、またずんだ虫が……？」
「この中には、薬で眠らせた子ずんを数匹装填してある……今出てきたこいつが死んでも、また代わりはいくらでも補充出来る……人間社会とは、そんなものだ」
「なっ……何が言いたい！？」
「君も、結局のところ……自分が何のために生まれたのか見出せず、死んでいく……………この子ずんと同じようなものなのだよ」
「……おいジゴワット、ケンカ売ってるのか？ よくも俺をずんだ虫と同等などと……」
再び、頭に血がのぼった。拳を握りこんで、ジゴワットをにらみつけるが……
ジゴワット本人は、へらへらとしているだけだった。
「すまんすまん……確かに、君は妖精よりも頭は良いはずだな………………何しろ、勉強ザカリの学生だもんなぁ……はっはっはっ」
「調子乗んなよ……！？」
このジジイは、つくづく、俺をイラつかせる。
「あのな、ジゴワット。俺にはな……最も、嫌いな言葉がある」
「ん？ いきなりどうしたのかね、少年」
「“学生の本分は勉強”って言葉だ…………ああ、口にするだけで虫唾が走る」
「………………」
「これは、敗者の言葉だ！！ 勉強しか取り柄がなくて、本気で“青春”を楽しもうとしないバカどもの、負け犬の遠吠えなんだ！！」
そうだ。そんなバカどもがいくら努力しても勝てない領域…………ステージに、俺はいる。
なぜって、俺は苦労しなくても、勉強やスポーツが「出来てしまう」。
まさに、この世は俺が輝くためにあるようなもの。そんな世界で、楽しまなくてどうする？ 「青春」を謳歌しなくてどうする？
さっきジゴワットは、俺をずんだ虫と同等のように言った。だが、それは大きな間違いだ。
俺は容姿端麗、成績優秀でスポーツ万能、非の打ち所がない人間だ。あんな醜悪なずんだ虫などとは、断じて違う。
俺ではなく、俺の下にいる有象無象のバカどもこそが、ずんだ虫だ。
そいつら、「真のずんだ虫」どもが、どう頑張っても勝てない俺をひがんで、負け惜しみのように………
「………………少年。君は、本当に狭い世界で生きているのだね」
ふんぞり返る俺だったが、ジゴワットは俺の言葉に納得しなかったようだった。
どうしてだ。年老いて、頭が固くなったか。
「狭い世界、だと？ いきなりどうした」
「“井の中の蛙”……いや、君の場合は…………」
どんっ、と、大きめの虫カゴが俺の前に置かれる。
「……さしずめ、“籠中のずんだ虫”と言ったところか」
「うっ……！？」
悪臭を放つ虫カゴの中には、成虫のずんだ虫が5匹。
「「「「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」」」」
そのうちの4匹は、仰向けになって虫カゴの底に転がる。臭いのは、そいつらがクソまみれになっていたからだった。
「のーだのだのだのだ！ のーだのだのだのだ！ ぼくこそが、さいきょうちゃああああああ！！」
虫カゴの真ん中でふんぞり返る1匹のずんだ虫が、甲高い声で叫ぶ。
「……3日間、オスの妖精だけを集めて閉じ込めておいた……酷く野蛮だが、オスだけ集めればこうもなろう」
「……だから何だ」
「わからないかね？ 君はこの学校、あるいはこの町という狭い世界の中で、すべてを支配した気になっているだけなのだよ」
「……黙れ」
「世界は広い。君は“自分より劣った人間しかいない”と思い込んでいるようだが、君より優れた人間もまた、この広い世界の、いたるところに存在するのだよ」
「黙れ！！」
「のだぁ？ ぐちぐちぐちぐち、うるさいくちょにんげんなのだ……」
減らず口を叩くジゴワットに殴りかかろうとした俺だったが、ずんだ虫の声が聞こえて、そちらに怒りの矛先が向く。
「あ？」
「そんな、ばかみたいにさけばれたら、おみみさんが、いたいちゃ！ このさいきょうのぼくのきげんをそこねたつみで、ぶっころしてやるのだ！」
「は？ 調子乗んな、虫風情が」
「は？ ちょうしのんな、くちょにんげんふぜーが」
「ぐっ！？……こ、こいつ……」
「のーだのだのだのだ！ のーだのだのだのだ！ くちょにんげん……そのちいさいのうみそで、ぼくのありがたいことばが、りかいできたなら、だまってるちゃ！」
俺の言葉を真似するようにニヤニヤとキモい笑みを浮かべるずんだ虫。
気が付いたら俺は、虫カゴのフタを開け放ち、そのずんだ虫を掴み上げていた。
「のだっ？！ おいくちょにんげん！ ぶれーなのだ！ はなちぇ、はなちぇ！ きたないてで、さわるなああああああああああああああああああああああ！！」
「虫風情が！ 無礼にも、汚い虫ごときが、この俺を、侮辱したなああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ！！」
ぎりぎりぎり……
俺は、ずんだ虫の体を握る手に力を込める。ずんだ虫の体が歪み、長い舌が口から飛び出した。
「あげげげぇ……おい、くちょにんげん！ ばんぶつのしはいしゃたるぼくに、なにを……」
「黙れ、ずんだ虫！！ 調子乗んなって、言ったああああああああああああああああああ！！ “ばんぶつのしはいしゃ”は、この、俺だあああああああああああああああああああああああああああああああああ！！」
「ぎぇがあああああああああああああああああああああっ」
ぶちゅちゅっ！！
俺の手の中で、ずんだ虫が潰れた。
有象無象のバカどもの未来を、俺がこの手で潰したという優越感が、全身を駆け巡る。
「ジゴワット。お前はさっき、“井の中の蛙大海を知らず”という言葉を使って、この俺を侮辱したよな？」
「…………」
「知ってるか、ジゴワット？ この言葉の、続きを！！……いや、お前は知らないだろうな」
「…………」
「“井の中の蛙大海を知らず、 さ れ ど 空 の 青 さ を 知 る ”…………つまりこれは、“青春”だ！！」
「…………」
「お前の言うとおり、確かに俺は、“まだ” 井の中の蛙なのかもしれない…………だが、誰よりも“青春”を謳歌している俺は、全ての支配者になるべき人間なんだ！！ ああそうさ、絶対に、そうなるはずなんだ！！」
確信した。この世界が、たとえジゴワットの言うように広かったとしても…………
この俺が、いずれは全てを支配して……！！
「どうだ、ジゴワット！！ この俺を、羨ましいと思うか？ さっきから黙ってるが、どうした？ ん？ この俺が神々しすぎて、言葉も発せなくなったか？」
「…………不合格だ」
「は？」
ジゴワットは、ただひと言、そう告げた。
頭が、真っ白になる。
この俺が、否定された…………？
「進路指導主任から送られてきた調査書を見たが、数字だけ見れば、確かに君は優秀だ。それは間違いない…………だが、この短時間話すだけで、君は本校を“代表”する人間としては、ふさわしくないとわかった」
「なっ………」
「それに、先ほどの“井の中の蛙”の続きについてだが…………それは、後の時代に、日本で付け加えられたものじゃないのかね？ 原文の“荘子”には、ポジティブなニュアンスは含まれてなかったはずだ……“井蛙（せいあ）は以て海を語るべからざるは、虚に拘ればなり”……………井戸の中のカエルに、広い海の話をしても分からないのは、自分の“狭い世界”に拘っているから、という意味だ」
「は？ は？ は？」
「“されど空の青さを知る”、か…………“青春”などという空虚な概念に執着し、他者をことごとく蹴落として自己満足を得ようとする愚かさよ、少年！！ その根拠のない全能感を振りかざしてこの世に不可能はないと思い込んだ挙句、他者を徹底的に見下し、自身の欲望のままに従えようとする傲慢さこそ、ワシが君を“籠中のずんだ虫”と形容した理由そのものよ、少年！！」
「お、お前…………言わせておけば、このクソジジイがあああああああああああっ！！」
椅子を蹴飛ばして、今度こそジゴワットに殴りかかる俺。
この調子に乗ったジジイをぶん殴って、俺こそが、「ばんぶつのしはいしゃ」であると………！！
がしっ！！
「はぱ？！」
「動きが遅いぞ、少年…………いや、それ以前に………教師に暴力は良くない！ はっはっはっ」
なぜだ。どうして、ジゴワットが俺の拳を受け止められる！？
こんなジジイのどこに、そんなパワーが！？
「ぐ………は、放せ！ よくも、よくもこの俺を、またしてもずんだ虫などとおおおおおっ！！」
「今まで誰からも、その歪みきった性格について指摘されなかったのかね？ ワシは、正直恐ろしい」
「恐れる必要はないんだ、クソジジイ…………ただ、敬えばいいんだ！ お前は、さっきからずっと、俺に対する“敬意”が足りない！！」
「ううむ。君が生きてきた世界は、本当に狭すぎるのだね…………さっきワシが不合格を出した時、君は相当ショックを受けていたようだが、誰かから“否定”をされるのは初めてかね？ その狭い世界で、何を学んだ？」
「ふざけるなああああああああああっ！！ お前ごときが、この俺を評価するなどと！！」
「…………何も、学んどらんようだね」
「簡単なことだ！ お前はただ、“合格”だけ、出せばいいんだ！！ 俺こそが、この、俺こそがあああああああああっ！！」
信じられなかった。俺の言うことを聞かない………いや、聞けないやつが、こんなところに存在するなんて……
「喚いてもムダだ、少年。 “不合格”というワシの結論は、変わらんよ」
「なぜだ、なぜだ、なぜだああああああああああああああああああああああああああああ！！」
「さっきから説明してる通りだが……端的に言うと、人間として欠落した要素が、君にはあまりにも多すぎる……だからこそ、指定校推薦の校内選考から、君は脱落だ。この枠には、他の志望者が……」
「黙れええええええええええええええええええええええええ！！ どうして、有象無象のバカどもが、俺を差し置いて……！！」
「そこよ、そこ」
ダメだ。話がまるで通じていない。かくなるうえは、拳で黙らせるしか……！！
ぎりぎりぎりっ！
「うぐうううう！！」
「甘い……甘いぞ、少年。老いぼれだからといって、見くびってもらっては困る」
俺は腕に力を込めたが、ジゴワットは逆に、俺の腕が動かないようにがっちりとホールドしてしまった。
「ジゴワット、お、お前…………いったい……」
「君の嫌いな昔話になってしまってすまんが………ワシはかつて、F市の愚連隊に所属していて、そこでは“毒”と呼ばれていたのだ」
「ど、ドク…………！？」
「ワシは裏工作をしたり、ケンカの道具を発明したりする、愚連隊の頭脳的な役割だった…………あまりにもド派手にやるもんだから、仲間内からも恐れられた…………まあ、不良があちこちで抗争するような古き良き時代だったな、はっはっはっ」
な……何でこんなやつが、教師なんかしてるんだ！？
「君はさっき、“学生の本分は勉強”という言葉が嫌いだと言っていたが………実際、勉強は大切だと、ワシは思う。今、こうやって教師をやれているのも、物理が昔から好きだったからというのもあるからな」
「だ、だま……………」
「ケンカ相手のバイク同士をワイヤーで繋いで正面衝突させたら、“マッドマックス”で観たような大爆発をしてな…………それからかな、物理に本格的な興味を持ったのは…………ああ、懐かしきF市に戻りたい…………時が立った今、どうなってるのか見たいわい」
冷や汗が流れるのを感じる。一刻も早く逃れようと力を込めるが、相変わらずジゴワットの力は、強すぎた。
「おっと、そうだ……………進路指導主任から、万一目に余る行動があった場合は、“指導”を加えても良いと言われていたんだった」
「うっ……！？」
「まあ、君の場合……………目に余る行動“しか”なかったがね」
ニヤリと笑ったジゴワットが、腕を振りかぶった。
避ける暇もなかった……………
「………………指導ォ！！」
どっごおおおおおおおん！！
「ぐやわぁあああああああああああああああああああああああああああああっ！！」
か、勝てない。
こ、こんなやつを、世の中に解き放っちゃいけない！！
俺は宙に吹き飛びながら、敗北感というものを初めて味わったのだった…………
〜終〜
ここまで読んでいただきありがとうございます。
愚かな妖精の末路を書くのも楽しいですが、「妖精みたいな人間」の末路を書くのもまた、楽しいです！（人を選ぶかとは思いますが……）
昨年書き溜めていた創作アイデアのストックが底を尽きかけているので、没になったプロットを発掘して、書き直すのもアリかなあと思っています！(笑)
けも
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このページへのコメント
アホ相手に質問するのは おれの役だ
話し掛けられた時以外口を開くな
続けてよろしゅうございますか？
貴様は人間ではない
両生動物のクソをかき集めた値打ちしかない！
おれの使命は役立たずを刈り取ることだ！愛する海・・・学校の害虫を！
分かったか ウジ虫！
本日よりずんちと呼ぶ、いい名前だろ？
聞いて驚くなずんち、うちの食堂ではずんだ餅とあまあまは出さん！
タンカス以下のずんちが！
パパずんのずん液がシーツのシミになり ママずんのあにゃるに残ったカスが お前だ！
じっくりかわいがってやる！
笑ったり泣いたりできなくしてやる！
さっさと立て！
隠れてマスかいてみろ 首切ってクソ流し込むぞ！
って優しく面談したらボッキリ折れるんだろうなぁ
煽り耐性ゼロでチキンと言われてもブレーキ踏めるほど成長しないですしおすし
ブラウン博・・・ジゴワット先生が将来リビアのテロ・・・過激派からプルトニウム詐欺った後で悪役の銃でハチの巣にされそうになると思うのでヘイトを全部このずんちにおっ被せましょう
コメントありがとうございます。ハートマン軍曹の罵詈雑言特集ありがとうございます！もしかしたら、「自衛ずん」育成の現場がまさにあんな感じだったりして…………
登場人物の元ネタについて言及して下さりありがとうございます！タイムマシンに妖精が引っ付いて時間転移先で大惨事に……なんてイメージも膨らみますね！
学業優秀なら一般で行きなよなあ…
コメントありがとうございます。何よりも「青春」という概念に異常なまでに執着する「少年」にとっては、一般受験に挑むという姿勢そのものが嫌悪の対象だったのかもしれませんね！
しかし、推薦受験こそ、受験者の人格等が重視される場合が多いので、何もかもが自分の思い通りになるだろうとタカをくくっていた「少年」にとってはワナでした……
前回読んだ作品(セラピーずん)同様、展開が気になって最後まで読み進んでしまいました。
もちろん、残酷表現を嫌う方が居るのは当然で、ずん虐は世間的には非難されて当たり前なテーマかもしれません。
ですが、本作のように、
「言葉を話せているが、果たしてそれはお互い分かり合えているのか？」
「各々が自分の世界に凝り固まって、独自の解釈で他者に言葉を投げかけていないか？」
などの命題にもつながるのでは？と個人的には考えています。
せっかく言葉を話せるのだから、上記のような命題は常に心においておきたいと個人的には考えています。
…などとご立派そうなことを言いつつ、本音では子ずん時計欲しいです(笑)
コメントありがとうございます。この場をお借りして作品を投稿し続けるうちに、自身の哲学が日に日に膨らんでいるようにも感じています！ 同時に、「自身は人間らしくあり続けたい」「こんな××にはなるまい」という一種の戒めとして……
子ずん時計、中の子ずんを「交換」する際の残骸等の掃除が大変そうですよね！改良の余地ありです()
ここまで、妖精の「くしょにんげん」にムカつかないのは稀なことですね
そして、まさかの「………………指導ォ！！」（笑）
通常の「ずん虐」とは違った作品でしたが、楽しめました（ニッコリ）
ありがとうございます。
他の方々もおっしゃる通り、kemoさんの実生活が大事であり、最優先であるので、ご自愛ください。
むしろ、毎週作品投稿していることがすごいんですよ（驚愕）
kemoさんがkemoさんのペースで書いて頂けるのが一番のベストだと、私個人は思っております
お疲れ様でした
コメントありがとうございます。今回こそは妖精の「くちょにんげん」も的を射ていたと言いますか……妖精にとっては誰もかれもが「くちょにんげん」でしょうけれど……
いちおう登場した妖精（と、妖精みたいな人間）は制裁されているので、お許しいただければと……()
励ましの言葉、ありがとうございます！私のペースで引き続き精進してまいりますので、またコメントお待ちしております！
数字上どんなに優秀でもずんだ虫より傲慢なのは人間として終わってますな
コメントありがとうございます。本当に聡明な人間ならば、他者の意見や存在を受け入れ、尊重してほしいものですね！ ただ自分が、自分がと喚いているだけでは、それこそ妖精と変わらないわけで……
ただ今執筆中の小説には、「別の意味で」人間として終わっている人間を登場させる予定ですので、ご期待（？）くださいませ！