作者 睡蓮 
過去一短いです。五十嵐さんが以前出したこの動画の影響を受けて書きました。五十嵐さん、新作待ってます。
本編
「ぬふんんんっっっっっ！！！うおりゃぁぁぉぁぁ！！！」ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ
焼け付くように蒸し暑い真夏の昼。歩道で1匹のメスのずんだ虫が四肢をピンと伸ばし、下腹部に力を込めて野太い叫び声を上げている。
顔を真っ赤にして気張り、足元のアスファルトは汗が広がったものと影が一体化していた。どうやら出産の真っ只中らしい。よく見ると腹がだいぶ膨らんでいる。
だが、気づいていないのかメスずんが赤ずんを産もうとしているところはマンホールの蓋である。この時期のマンホールの蓋は極めて熱い。フライパンを置けば野菜炒めが作れるほどだ。
「うっ、で、りゅ……」
そんなところに赤ずんを産もうものなら
「ｵｷﾞｬｰﾉｯﾃﾞｭﾜｱｧｯﾁﾞｭﾜｧｧｧｧｧｧｧｸﾞｷﾞｬｧｧｧｧ‼︎?‼︎?」ｼﾞｭｩｩｩ
当然こうなる。
あれだけ顔を赤黒くして奮戦していたが、頭が出たらあとはもう栓が抜けたようにすぽりと赤ずんは飛び出てきた。
温かく居心地の良いメスずんの胎内から、右も左も分からない外界に放り出される不安に赤ずんは泣き喚いていたが、まさか産後すぐ鉄板で焼かれるとは思いもしなかっただろう。泣き声はすぐに絶叫に変わった。
「………」
だが、メスずんは声を枯らして喚く赤ずんを見ても少しも取り乱さない。それどころか横にあった割り箸を握ると、赤ずんを強くマンホールに押し付けた。
「ｸﾞﾙﾁﾞｯﾆｮﾀﾞ‼︎ｵｶﾞｰﾁﾞｬﾅﾝﾃﾞｺﾄﾞｽﾙﾉﾘｬ‼︎ｺﾆｮｸｼｮｱｸﾏｼﾞｺﾞｸﾆｵﾁﾘｮﾁﾈｪｪｪｪｪｯｯ‼︎‼︎」
背中と後頭部を生きながら焼かれ、沸騰した血が血管を破裂させて皮膚を割く。赤ずんは血走った目から血涙を流し、まだ歯のない口をこじ開けてメスずんを罵倒する。
「……」
だが、メスずんは一切耳を傾けることなく赤ずんをひっくり返すと、今度はうつ伏せの姿勢にさせて顔を焼き始めた。
「ｶｯ……ﾎｧ……ﾌﾟｧ」ﾁｰﾝ
赤ずんは想像を絶する苦痛についに気を失った。それでも黒ずんだ四肢は痙攣し、頭の血管が膨れ上がってぴくぴくと震え、頭に昇った体中の血が出口を求めて頭皮から噴き出すと、急速に水分を失った頭や身体は乾いて皮はパリパリになり、香ばしい匂いが漂った。
「うーん、ほーじゅんなかおりなのだ……」
その匂いを嗅いだメスずんが、うっとりと舌なめずりして目を閉じた。これ以上焼くと焦げるので、メスずんは割り箸でマンホールから赤ずんを出した。
赤ずんはとうに死んでいた。焼き潰された顔は爛れて表情は読み取れないが、口があった穴は大きく歪み、絶望と困惑、何より激痛の中で息絶えたのは明らかだった。
「さてと……なのだ」
メスずんは草むらに入ると、弁当についている魚の形の醤油ボトルを持って戻ってきた。そして、それをまだ煙が出ている赤ずんの死体にふりかけた。じゅっと音がして、焦げた醤油の耐えがたい芳香が立ち昇る。
『赤ずんの醤油焼き』完成である。
「あぁぁ……！！もうがまんできんちゃ！！いただきまちゅ！！」ｶﾘｯ
メスずんは口から滝のように涎を垂らすと、我が子だったそれに齧り付いた。カリカリの皮に歯を突き立てると、中は半生の肉からじゅわっと肉汁が飛び出し、メスずんは舌を火傷しないように口を開けて息をしながらゆっくりと噛んでいく。
「お、おいち！おいち！さいこーのひかげんなのだ！！たまらんのだ！！」ﾊﾌﾊﾌ
メスずんは一口目を飲み込むと、噛みちぎった腹を開いて熱い肝を啜った。口周りを血だらけにし、追加で醤油をかけて貪り食う。
「うめーのだ！このきせつにしかくえねーさいきょーのグルメなのだ！！このためにふゆをのりきったのだ！！」ｶﾞﾂｶﾞﾂﾊﾞｸﾊﾞｸ‼︎
このメスずんは2年ほど前、飢餓状態の最中に偶然マンホールで焼け死んだオスずんを食べて以来、食べるために赤ずんを孕んで、同じようにマンホールで調理して食すことに熱中していた。
赤ずんの方がずんちを食べる心配がない上にエグ味が少なく、甘い味がするからだ。かといってたりないは苦いから嫌いだった。
やがて、味付けも覚えて一丁前に調理するようにさえなった。赤ずんを食べることの躊躇いや後悔など、カケラもない。
「むらのみんなはバカなのだ！こんなにおいしいごはんさんがあるのに、それをおしえてあげたぼくをついほーするなんて、いっしょーこのグルメをしらずにしんでいくのが、かわいそーなのだ！」
メスずんがそう言いながら、脳味噌を食べようと赤ずんの頭を掴んだ時だった。
「ぷぎぃっ！！？」ｸﾁｬｯ
通りすがりの自転車がメスずんを轢き潰した。歩道のど真ん中で赤ずんの醤油焼きにパクついていたのだから無理もない。
メスずんはおちりから上をタイヤで切断された。断面からは胃腸が垂れ、今さっき食べたばかりの赤ずんの脚の一部が出てきた。疑いようもない致命傷だった。
「せめて、あたましゃ……んを……ッ」
だが、メスずんは失血で飛びそうになる意識の中で赤ずんの頭に歯を突き立てると、まだ柔らかい頭蓋骨を噛み砕き、中身の脳みそを音を立ててじゅるじゅると啜った。
「お、おい、ち……おもいのこす、こ、こと、ないち……ゃーー……」ﾁｰﾝ
口の中でしっとりととろける脳みそのほろ苦さを堪能すると、メスずんはぽろりと涙をこぼし、幸せそうな顔で息絶えた。
メスずんは最期まで赤ずんの頭に噛みついており、見つけたカラスや猫が食べようとしても2匹を引き剥がすことはできなかった。
このページへのコメント
ママずんの余りの醜さにドン引き（褒め言葉）です。
人間に害を与える個体以外で、こんなにブッ飛んだヤバい奴は他に記憶がない…。
幸せそうな顔で我が子の脳みそにかぶりついて死んでいるずんだ虫なんて、醜いことこの上ないですね。
子供を調理して食うなんて酷い奴だ！みたいに、人間から敵意を向けて殺されるのではなく、人間の関心の外で息を引き取る終わり方が、新しくて面白かったです。
生食では飽き足らず醤油を用い始めるとは、なかなかグルメな妖精ですね！カニバリズムに手を（口を）出してしまった以上、もう元の食性には戻れないと……
太陽に熱されたマンホール蓋で同族を焼くことを覚えたのなら、次はその知能を、人間を打倒することに使い始めるかも……と考えると、人間としてはここで命が尽きてひと安心……なのかもしれないですね！
人間がずんだ虫を鉄板焼きにするんじゃなくてお前が焼くのかよ
子を子と思わないおぞましさは､まさに害獣で同族喰いを覚えた個体は同族喰いを優先するのでこの個体が仲間に同族喰いの素晴らしさを広めたらこの一帯の害獣は自滅するので布教活動を頑張って欲しかったです。
ウワァエッグい…
内容のエグさではなく今まで見てきたずんだ虫で一番の狂気を感じた‥
醤油焼きなんていう調理までして食すエグさよ…