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「ねえ、ナマポンって年いくつなの?」
「自分は19です」
「19!?・・・全然見えない・・・」

格好が格好なだけに無理もないことだった。
身長も結構高いし顔つきも大人びていて未成年にはとてもじゃないが見えない。
というか19の若造がピストル持って、軍人で、おまけに指名手配されているとはどういうことなのか。

「軍人っても自分は自衛隊員じゃなくて中東の軍人なんですよ。
 ま、いろいろあって今はその軍から追われてる身なんですけど。日本に来たのも4年ぶりくらいです」
「軍人になる前は普通に日本で暮らしてたの?」
「あい。そです。福岡からこっち移ってきて、この土地で聖と出会って恋に落ちて、
 ラブラブしてたんですけど・・・なんか気付いたらいつの間にか中東で兵士やってました」
「話飛び過ぎでしょ」

ナマポンは苦い笑みで頭を掻きながらめんぼくないと言葉を零す。
ナマポンがなぜ軍人になったのか、そんなことよりも会話の中にあった"聖"という単語に興味をそそられた。

「聖って?」
「あ・・・、へへ。自分の彼女ですハイ」
「君、自分の名前は言わないくせに彼女の名前は簡単に出すんだね」
「へへへ〜」

ただ惚気たいだけだったのかもしれない。掘り返すんじゃなかった。
と後悔しても後の祭りで、ナマポンは口から先に生まれたような流暢さで聖のことを語りだす。

「聖はですね〜ばり可愛いやつでしてね?自分がこう頭を撫でると花が咲いたみたいにパーって笑顔んなって、
 それから紅葉みたいに顔を真っ赤に染めるんですよ〜」
「ふぅん・・・」
「しかも胸がスカーレット・ヨ○ンソン!」
「へぇ・・・」
「ほんと、いい女ったい・・・」

日本人男性は胸の大きい女性に魅力を感じるという。逆に中国では胸の大きい女性はバカに見られるみたい。
絵里は中国に生まれた方が幸せだった。けど別に気にしているわけじゃない。大切なのは柔らかさって自論があるし。
なんてどうでもいい絵里の主張は置いておいて、繁華街に着いたので思い出にふけるナマポンの脇腹を肘で小突く。

「ん。繁華街着いたけど胸牛ってお店の場所、ナマポンわかる?」
「・・・」
「ナマポン?」
「しっ。・・・追っ手に尾けられてるっぽいです」
「え」
「排除しますから、ここで動かないでいてください」
「ちょ、」

言うが早いかナマポンは腰にかけてあったベレッタを取り出し、単身、人がごった返す歩行者天国の中へ突っ込んで行った。
こんな人の多いところで銃なんか乱射したらボヤ騒ぎどころじゃないだろうに・・・!
止めなきゃ、という思いでナマポンの後を追う。

「ええっ!なんでついて来たと!?しかも結構足速いし!」
「だってこんなところでピストルバンバン撃たれちゃ君指名手配どころか網走監獄逝きだよ!」
「そんなんわかってますって!こっちゃトーシロとは違うんですよ!?あーもう!」

物凄い剣幕でナマポンが走り寄ってくる。
それにウルトラマンのスペシウム光線の格好で身構えていると、ふわりと足が地面から離れ目線が少し高くなった。

「暴れずにそのままじっとしとり」

絵里の体を片腕で抱えながら人の波をかき分け、走るナマポン。
自分の体よりも大きなリュックサックを背負っている状態で絵里を軽々持ち上げるあたりさすがは軍人というべきか。
言わずもがな通行人のみなさまからの好奇の目に晒され、いっそ殺してと願った。

「ナマポン!絵里たちすんごい目立っちゃってるから!降ろしてほんと恥ずかしい!」
「大丈夫!すぐ終わりますから!」
「すぐっていつー!?」
「もうすぐです!」

交差点の人の海を抜け出し、ナマポンの足が止まる。
右手に持たれた銃がスロー映像のように標的に向かって照準された。
ナマポンの目はネズミを捕食しようと狙うジャッカルのようで、怖いもの見たさでつい惹き込まれてしまう。
パスン!と空気が抜けたような音と微かな振動がして、ナマポンが発砲したのだとわかった。

「・・・よし」

お腹への圧迫感がなくなり足に地べたの感触。そして微かな、枯葉がくすぶったような硝煙の香り。
絵里以外誰一人として気付いていないが、確かに残る発砲の証がそこにあった。

「・・・よし、って・・・?」
「たぶん、やりました!」
「──」

暑さのせいだけじゃない、冷たい汗が背筋を川下る。
言動がバカだから意識しづらいけど、軍人ってことはもちろん毎日のように人を殺しているわけだ。
絵里がご飯を食べている時も、仕事している時も、寝ている時も、バラエティーでバカ笑いしてる時も、
ナマポンは、人間が酸素を吸って二酸化炭素を吐くくらい当然のように人を殺しているんだ・・・。

「音がしなかったのはサプレッサーつけてるからなんですよ。サイレンサーみたいなもんです。
 消音とまではいかないですけど、これだけ混雑している街中なら人声や足音等で発砲音は相殺されます。
 しかも相手がトーシロだったんで案外余裕で急所狙えました!もぅナめんなって感じですよね〜」
「・・・」
「・・・ドン引きしました?」

うまく立てないのは自分の足がすくみ上がっているからなんだろうか。

「・・・そこに空き地あるんで、ちょっと休みましょうか」


 **********


人の命がどれほどの価値があるのかわからない。
国によっては100円単位で取り引きされる命もあるという。
けど絵里が育った日本では人を殺すことはとても罪深いこととして教えられてきた。
哲学的なことはわからないけど、いけないことを平気でやるはみだし者のナマポンは普通じゃないと思う。
普通じゃないからこそ、怖い。

「絵里さんも食べます?」
「・・・なにそれ・・・」
「ヨモギです。そこらにたくさん生えてますよ。体に良いんですよこれ〜」
「雑草じゃん・・・絵里いらない・・・」
「そうですかー残念です」

全然残念そうに見えないのはニコニコしながら土のついた雑草を夢中で食べているからに違いない。
今までだったらバカだな〜って、ちょっと微笑ましい目で見れたのに
先ほどのことがあったせいか草を食べるナマポンの姿がひどく不気味に見えた。
そりゃそうだ。人の命を奪っておいて平気でご飯食べてんだから。

「モグモグ・・・そんな熊でも見たような顔しないでくださいよ〜悲しいじゃないですか」
「だって・・・」
「仕方のないことなんですよ。だってやらなきゃやられますし」
「・・・・・・今初めて気になった。どうしてナマポンは軍人になったの」

草を食べる手を止め、ナマポンは中空に乾いた目を向ける。
捨てられたヨモギが風に舞った。

「話せば長くなるんですが・・・」

ナマポンは間に沈黙を挟みながら少しずつ、不器用に自分の過去を語り始めた。
それは絵里の想像を遥かに超えた、ある意味壮絶な話だった。

1人で旅をするのが昔から好きだったナマポンはなにを思ったかその時はやたら海外に出てみたかったらしく、
しかし金はないわパスポートは持ってないわで八方塞がりであったと。考えに考えた末出した結論が
『海を渡って密入国すればいいじゃん!』
よし、そうと決まればさっそく盗んだバイクもといボートで日本海を横断だ。
勢いよく出発したはいいが当然のごとくゴッツい戦艦に拿捕されてしまった。

「その戦艦の保有国がかの有名な独裁国家でして・・・1年ほどその国に軟禁されてたんですけど脱国したんです。
 けど日本に帰ることもできないしどうしようって大陸を彷徨ってたらおかしな連中に捕まりまして」

そいつらの正体がやば〜い葉っぱを売ってる連中だったんです、と人差し指を口に当てたナマポンが渋い顔をして囁く。

「なにかのトラブルで空輸ができなくなったとかで遠路はるばる車走らせてお届けする最中だったんですよ。
 けどお届けする国が絶賛戦争中の紛争地域でして、そこで自分が利用されたんです。
 飯食わせてやる代わりにこいつを届けろって。ですが・・・」
「・・・」

裏切られたんだろうなぁ・・・。
絵里の稚拙な想像は見事にビンゴしていた。ナマポンはあっさり悪い連中に裏切られ一人紛争地に置き去りにされる。
けどナマポンはバカだったのでそんな絶望的な状態にあってもあまり深く考えなかった。
とりあえずお腹減ったから何か食べようと思い、ロクに掃除もされていない小汚いレストランでお金もないのにご飯を食べた。
すると偶然そこに居合わせた国の偉い軍人さんが東洋人のナマポンを見て、軍で保護しなくてはと思いナマポンを軍人にしたという。

「・・・と、まぁこんな感じです」
「ただのバカじゃん!」
「ウフフフ。そうかもしれませんな〜」

かもじゃない。地球が誕生して46億年。こんなバカは地球史以来初めてかもしれない。
ワールドというかスペースクラスのバカだ。れいなもバカだけど、さらなるバカがここにいた。スペースオブバカ光臨である。

「その偉い軍人さんのおかげでバカポンは軍人として生き延びられたんだね」
「ウフフ。そりゃ放っとけば日本人ですから、反乱軍に捕まって人質にされていらんことされたらお国としては面倒ですし、
 仕方なく、って感じだったんだと思いますよ上司も。今は敵ですけどね。脱走したんで」
「なるほど・・・。ところでナマポンがそんなバカやってる間、聖ちゃんはどうしてたのさ?」
「え、さぁ?」
「・・・」

さっき鼻の下伸ばしながら惚気話を延々語ってたのはなんだったの?
ナマポンは絵里の眉間に皺の寄った顔を見て両手を振って自己擁護を始める。

「いやいや!違うんですよ誤解しないでくださいよ!
 知らんのも無理はないんですって。だってその間聖となんの連絡もとってないんですから!」
「は、はぁ!?」
「4年ほどですかねえ?自分が日本出たのが15の時だから・・・うん、4年ですね。聖となんのコンタクトもとってません」
「よ、よね、」

今思い知った。
博多弁だし、バカだし、ちょっと似てるとは思っていたけどこれが決定的な共通点。
ナマポンはれいなだ。
相手の立場を全く考えずに勝手に突っ走るところ。まんまれいなそっくり。
頭に血が上ってきた。

「どうして福岡の男ってやつはどいつもこいつも・・・」
「え、絵里さん?」
「絵里は聖ちゃんのこと何にも知らないけど!君にそっくりな男のことはよぉ〜〜〜〜〜〜っく知ってるから言わせてもらうけど!
 ちょっと勝手すぎるんじゃないですかねえ!?」
「あわわわ」
「旅が好きだからボートで北○○に行っちゃった!?彼女の了承は得たの!?どうして彼女を置いて勝手にどっか行っちゃうわけ!?
 自分の都合でホイホイ行動しやがって振り回される方の身にもなれってんだコンチクショー!」

絵里の怒号が蝉の鳴き声に重なって夏の昼空に響く。
呆気にとられポカンとしているナマポンは餌にパクつく鯉のようにマヌケでちょっと可笑しい。
ムカつくけど笑えるので顔の筋肉がつりそうになる。

「君らはねえ!去る側だからいいのよ!自分の都合で決めたことだから!けど置いていかれる方はいい迷惑だよ!
 いつ帰ってくるかもわからない、何をしているかもわからない、連絡くれない・・・自分勝手が過ぎるんだよ!
 一方的に置いてかれた聖ちゃんの方がきっとナマポンよりもっと辛い思いしてる!」
「・・・」

毎日、彼からの連絡を待ってポストを覗く日々。電話を眺める日々。ぬくもりが欲しくて自分を慰める日々。
もう自分は飽きられたんじゃないか、彼は向こうで新しい女の子とよろしくやっちゃってるんじゃないか、不安な毎日。
何回涙を流したかわからない。時間が経つごとに磨り減っていく心。

「絵里が・・・どんな思いで・・・っ!」

情けないことに涙まで出てきた。
ナマポンは絵里とれいなのことなんて当然知らない。ナマポンに怒鳴っても意味なんてないのはわかってる。
けど、言わずにはいられなかった。

「うぅぅ〜〜〜」
「・・・絵里さんも、いろいろあったんやね・・・」
「・・・グス」
「置いていかれた方が辛い思いしとぅ・・・当たり前か。わけもわからないまま好きな人が遠くに行ったっちゃもんね」
「・・・グス。・・・ナマポンは・・・不安に思わなかったの?
 残してきた彼女がもしかしたら、自分を捨てて他の男に走るんじゃないかって・・・」
「う〜ん・・・」

顎に指を当て、しばし黙考するナマポン。

「思いませんでしたね〜。不思議と」

はい嘘!
とは、言えなかった。
れいなもそうだった気がする。別れを持ち出した時のれいなの反応はこっちが驚くくらいの衝撃を受けていた。
それってつまり絵里が新しい彼氏に逃げるなんてかすりも思わなかったってこと。
でも、それってなんで?バカだから?

「バカ・・・なんですかね?いやぁそれもありますけど、でもやっぱり一番の理由は、」
「うん」
「聖が自分以外の野朗を好きになるはずないから、ですかね?」
「・・・?それって、自信?」
「自信じゃないですよ〜。自分は偉くもないし立派でもない。絵里さんの言う通り自分勝手なクズ男です。
 人間のランクで言うと下から2番目あたりに位置するんじゃないですかね?一番上はマザー・テレサです」
「じゃあなんだよー」

ナマポンが口角を吊り上げ、ニヤっと笑いながら、

「信じるココロ・・・ですよ」


 **********


出発した時はまだ9時も回ってない早朝だったというのにいつの間にかお日様は真上に昇っていて、
流れる汗すら蒸発させてしまうんじゃないかってくらいその身を燃やしていた。
この時間帯、繁華街は過疎地のさびれた商店街のように人がいない。
それはもちろん胸牛も同じことで、正面玄関、裏口と当然のように鍵がかけられてあった。
しかしあんぽんたんなナマポンは施錠されたドアを万力で壊・・・こじ開け、勝手に中へとずんずん入って行ってしまう。
立派な犯罪行為だけど、ナマポンが今までしてきたことに比べれば住居不法侵入なんて蟻の巣爆撃くらい瑣末なことなんだろう。

「ねえナマポン。言っちゃなんだけどさ・・・こんな真昼間に人なんていないと思うよ?まして風俗店だし」
「いますよ。聖はこの店に居候してるんで」
「み・・・、え、聖って・・・彼女じゃん。聖ちゃんて風俗嬢なの!?」
「そうっちゃよ〜」

彼女が風俗嬢でもさして気にした様子を見せないナマポンは慣れた風にどんどん店の奥へと進んで行く。

「自分と聖はこの店で知り合ったんですから。ボーイと風俗嬢としてね」
「え、だって4年前にはもうすでに付き合ってたわけでしょ?年が・・・」
「違法っちゃけどバレなきゃいいんですよ。未成年でも風俗で働いてる子なんて日本でもそう珍しくありませんし、
 それにお金もなかったですから。両親から捨てられた自分と、由緒ある家を捨てた聖には」

詮索するつもりもないけどあまりにも波乱万丈すぎるナマポンの人生を誰か本にしてそして絵里に売ってほしい。
ジャンルはラブロマンスで。買うから。

「たぶん店長は朝から日課の打ちっぱなしに行ってるはずだから、
 店には聖しかいないはず・・・お〜〜い聖〜〜〜〜!」
「ちょ、」

数年ぶりだというのにそんなんでいいの?
シチュエーションに全く気を遣わないナマポンに心底呆れた溜息が漏れる。
しばらくして奥から女性のはーいという声が聞こえた。

「はい、どちらさまです・・・か・・・」
「聖ー!久しぶりっちゃ〜〜ん!会いたかったとー!」
「・・・・・・」

初めて見る聖ちゃんの印象は白のワンピースを着た淑やかそうなお嬢様だった。
ていうかどこかで見たことあるんだけどどこだったっけ・・・
たぶんあんまり良い思い出じゃないんだろうな。脳が思い出すのを拒否してる。
4年ぶりに大好きな彼女に会えてテンションが高くなっているナマポンとは対照的に
聖ちゃんはまばたきをするのも忘れてナマポンをポケーっと見つめていた。

「すっかりアダルティーなお姉さんになっとぅっちゃねー!胸もさらに成長して嬉しいかぎりったい!」
「え、り・・・ぽん?」
「そうっちゃよー!久しぶり!会いたかっt」
「バッッッッッカァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

バイーンと、ゴム鞠が弾むような音と共にナマポンがふっ飛ばされる。
で、出たー○姉妹の秘奥義シリコンアタック。
おそらく聖ちゃんのは純粋培養の本物で不純物なんて1ミクロンも混じっちゃいないだろうけど。

「いてて・・・」
「今までどこ行ってたのよ!!さんざん人を心配させて今更ひょっこり帰ってきて久しぶり〜なんてっ・・・!」
「ウフフフ・・・ごめんごめ」
「・・・っ」
「あ。み、聖・・・」
「生きててよかった・・・っ」

聖ちゃんは両手で顔を覆い隠しながら嗚咽をあげる。
いつになくシリアス顔のナマポンが聖ちゃんを胸にそっと抱き寄せごめんと呟く。
完全に邪魔者状態の絵里はしかしこの場から離れようなんて気遣いは全く起きず、2人から目を逸らせないでいた。

「ずっと待ってたよ・・・」
「うん」
「絶対帰ってくるって、信じてた・・・」
「うん」
「おかえり・・・」
「ただいま・・・」

・・・2人の姿が有りし日の絵里とれいなにオーバラップする。
再会はこんなロマンチックなものではなかったけど別れたあの日、泣きながら2人で抱きしめあってキスをした。
でもあの時はただ悲しいだけだった。こんな幸せな光景とは違う。
聖ちゃんと絵里の何が違う?どうして絵里はあんな結末を迎えて、聖ちゃんはこんなに幸せそうなんだろう。
なにが違う?なにが・・・

「聖」
「なに・・・?」
「衣梨奈は・・・実は今日中にまた向こうに戻らないかんと」
「え・・・」
「衣梨奈はこの数年間中東のある一国の軍に所属していたっちゃん。
 今までは軍の一員として戦ってきたっちゃけど、これからは反乱軍として国と戦う」
「・・・」
「だけん・・・死ぬかもしれん」
「!」
「あそこは第二の故郷だけん・・・捨てられん。みんなの力になりたか」
「・・・」
「ばり自分勝手なこと言いようっちゃけど・・・待っててほしい」

怒りで目の前が真っ赤になるってこういうこと。
手のひらに爪が食い込んで痛い。今すぐこのふざけた男をグーで殴りたい。
何もかもが絵里たちと酷似していて、最早他人事では済まなくなっていた。

「なんだよそれっ!!!!!!」
「え、絵里さん」
「待っててほしいってなんだよ!?勝手すぎるでしょっ!?なんで・・・なんで一緒にいてあげないんだよっ!?」

ナマポンはあいつじゃない。あいつじゃない。けど・・・
どうして?
絵里のこと愛してるなら、どうして置いて行こうとするの・・・。
なんで、側にいてくれないの・・・。
どうして・・・

「ありがとうございます。絵里さん」

聖ちゃんが落ち着いた仕草で絵里にほがらかな笑顔を向ける。
どうして絵里の名前を知っているのか、そんなことよりもなんで笑顔でいられるのか、理解ができなかった。

「男運悪すぎますよね。お互い」
「・・・」
「でもいいんです。こういう人ですから。バカはなにしても治らないんですから」
「・・・」
「バカだから好きになったんです」

聖ちゃんは絵里が見ているにも関わらず、背伸びをしてナマポンの唇にささやかな口付けを施す。
そして・・・

「待ってるよ。待ってるから・・・絶対帰って来てね・・・」
「うん」
「信じてるよ・・・」
「うん・・・」

信じる・・・?信じるってなにさ。
そんなサブイボが出るようなクサイ言葉掲げてもナマポンは死ぬときは死ぬし自分の意志で帰ってこない可能性だってある。
これなの?これが絵里と聖ちゃんの違いなの?
これが・・・

"信じるココロ・・・ですよ"

「絵里にはわからないよ・・・」


 **********


彼女と1時間にも満たない再会を果たしたナマポンは風のように去った。
絵里の心に大きな爪痕を残して。





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