面白い作品だと思います。とても興味深い。
ポルノであって、ポルノでないといいますか・・・ いえ、エロくないという意味じゃないのですね。十分、そのシーンはいつものわかつきひかるさんらしい、とても濃厚なシーンになっているのですけどね。
そうですねぇ。ひとつキーワードを出すとしたら「実在」でしょうか。
お話は当然フィクションですから、架空の世界の架空の人物による架空の物語なのですけども、なにか「実在感」が感じられるのです。
ひとつめは、この物語の舞台です。
千葉県幕張、たぶん海浜幕張駅周辺を舞台にしていると思います。
僕は埼玉に住んでいるので、幕張はちょっと遠くてあまり行った回数は多くないのですが、それでも3〜4回ぐらいは訪れたことがあります。
1回目は千葉マリンスタジアムが完成した直後、1990年4月に
マドンナのコンサートがありましてね。それを見に行ったのが最初です。マドンナのレコード(CDじゃあありませんw)も持ってましたし、当時はファンでした。たまたまコンサートを協賛した会社の担当部署にいてチケットもただで手に入ったし(笑)
海浜幕張駅に降りると、幕張メッセとできたばかりのマリンスタジアムと幕張プリンスホテル(現APAホテル&リゾート東京ベイ幕張)ぐらいしかなくって、がらんとしていましたね。そしてマリンスタジアムからずっと続く人の列。4月なんだけどまだ風が強くって肌寒かった記憶があります。
あと鮮明に記憶に残っているのは、カルフール幕張(現イオンマルシェ幕張)がオープンしたときに訪問した時のことです。もう新都心に相応しいぐらいいろんなビルが建っていました。そして駅からカルフール幕張まで続く人の塊(ぐちゃっと人が固まっているイメージ)。フランスのお菓子とか惣菜とか、らしいものを期待していったんですけどね。実はそういうものがあまりなくって、結局安ワインを1本買って帰りました。そういえばカルフールの件は、わかつきひかるさんもブログに記事を書いていますね。「
カルフール撤退」
海浜幕張は、僕の記憶の中には、イベントと強く結びついているのですね。日常でない世界だったりします。
そういった高揚感と、強い風がもたらす達成困難な目標というイメージ(補足すると強い風に阻まれて歩くのがちょっとしんどい感じがすることがそのイメージのもとになっています)とが結びついて、ヒロインの沙耶の境遇に重なったのです。
近代的だけど、荒涼として、しかし一世一代の勝負としては相応しい場所。
またまた余談なんですけど、小説の舞台が自分にゆかりが深い場所だったりすると、物語のイメージが一挙に膨らむことがありました。例えば、田中芳樹さん(僕ファンです)の作品で、地球儀の秘密というのがあるのですが、学生時代住んでいた街が舞台でして、読んだ後あまりの懐かしさに、ついその街に行ってしまったことを思い出します。
皆さん、本を読んだときにそんな経験ってありませんか?
僕にはこの「My姫なごみ」は、懐かしさとともに読み始めた直後にその舞台に自分が立っているような感覚を憶える、そんな感覚を久しぶりに味わった作品になりました。
ふたつめは、言葉。
京都弁は、わかつきひかるさんのネイティブな言葉なんでしょう。僕は昔転勤族だったので、住んだところの言葉がうつって、東京なまりに関西弁が混じった妙な言葉をしゃべるのですけど、郷土(大分)に帰ったときはやはり大分弁になります。そういった面で、この作品のヒロインがしゃべる言葉が、とても自然なんですよ。もしかすると、わかつきひかるさんは普段から京都弁をしゃべっているのかもしれないなあなんて感じました。
これも自分自身の経験からなんですけどね。関西(大阪府)に7年ばかり住んだことがありましてね。関西弁・・・なんていうと関西の人から怒られそうですね。実際には京都の言葉、大坂の言葉、神戸の言葉は異なりますからね。そんな中で京都弁はとてもイントネーションが柔らかくって、女性がしゃべるととてもぞくぞくします。
話は脱線しましたが、そういった意味で、このヒロインの沙耶が本当にそこにいて、まるで話しかけてくるような感覚を持ったのです。
みっつめは、ヒロインの沙耶の性格です。
最初はお家の再興のため、主人公を利用しようと近づいてくるわけですよ。
最近、歳をとるにつれ、ひねくれてきたせいか、打算なき行動はかえって信じられないのですよ。
なにか目的がある、だからギブアンドテイクできる。そんな関係のほうが安心できるのですね。そんなわけで、沙耶が打算から主人公に近づくのは、なんとなくほっとするというか、ありうるなあなんて思いながら読んでいました。そしてはじめはギブアンドテイクの関係だったのが、お互いに相手の裏側にある純粋な感情に気づき、少しずつ心と身体が交わっていく。男女の関係としては、とても理想的な感じがするし、だけど絵空事でない、どこにでもありそうな、だからこそとても価値がある、そんなボーイミーツガール物語になっていると思うのです。セックスはお互いの愛情の裏側としてありたいし、セックスすることでさらに愛情が深まるのは、とても僕は美しい関係だと思うのですよね。(と、薄汚れたおじさんは思うのです)
互いに、自分のことは自分で努力して成長すべきですし、そしてお互いに助け合えることは助け合い、しかし依存せず自立する、そんな関係に育っていきますよね。
実在する男女の関係としても、こういった関係を持つことは可能だと思いますし、一方、理想的な関係だとも思います。
この「My姫なごみ」は一風変わった作品です。
ジュブナイルポルノではあります。エロいです。
でも・・・
そういう読み方以外の読み方もできそうな、そんな作品に仕上がっていると思いました。
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