格納室を出るとそのまま共有スペースへと向かう。大規模手術用の部屋が並ぶエントランスを通ると3個中1個に手術中のサインが灯っていた。
簡単な改造なら各班のメディカルルームで可能だ。ここを使っていると言うことは、誰かがかなり大規模な改造を行っている事になる。興味を覚え、見学スペースへ足を運んだ。
「村上か、おつかれさん」
見学スペースには先客が居た。4班の主任である小宮だ。
「小宮、お前はもう終わったのか?」
「ああ、大まかな説明の後、左手を改造してカプセルに放り込んどいた」
「どうだった?」
「止めて、許して、と泣き叫んだが仕舞いにゃ新しい手を見て黙っちまったよ。そっちこそどうだ?」
あっけらかんと言う。この仕事はこいつには向いているんだろう。
「こっちは説明と着替えだけさせて、カプセルに入れてきたよ」
「時間に余裕がある奴は楽でいいな」
「知るか。担当を決めたのは部長だ。文句ならあっちに言え」
「まあ、こっちはこっちのスケジュールでやらせてもらうよ。少なくとも奴さんみたいに時間が無くってキリキリしてる訳じゃないからな」
そう言って肩をすくめると、窓の下に広がる手術室のほうを促した。そこには手術着姿の人間たちと手術台に拘束されている少女の姿があった。流石に音声までは聞き取れないが、少女が必死になにかを叫んでいるのが分かる。
左足はすでに金属製の義足に取り替えられている。右足がある場所では金属部品がくみ上げられている。不意に違和感を覚えて、手元のオペラグラスを取る。
「おい、あれって軍用の義足じゃないか!」
「そうだよ、柴田女史は習熟期間は要らないとのことで、初っ端から軍用の義足に改造し始めたのさ」
仕方ないなぁ、とぼやく小宮。無茶なことぐらい分かっている筈だ。
「止めなかったのか?」
「今回の製造方針は各班に任せるって取り決めだろ。それに俺が言った所であの女が聞くか?」
頑なな柴田女史の性格を思い出し、無駄だと悟る。
「だろ、言い出したら聞かないさ。それに10日で仕上げるなんて息巻いたんだ。躊躇する訳ないだろ」
今回の計画では同時期に5人の少女がここで改造される事になっている。標準の陸戦仕様が3体、空戦仕様と海戦仕様が1体ずつに生まれ変わるのだ。
その内陸戦仕様の3体は製造期間が異なっている。
10日間、20日間、30日間の3つだ。
完了した次の日幹部達の前でお披露目となる。
ここで大失敗した日には将来が危うい。まして、改造が終わっていないなどと言えばどうなる事か…
それでも他のメンバーよりも有能なだと公言して憚らない柴田女子は10日間以内に完璧に仕上げると、立候補したのだった。ちなみに私の担当する麻衣は陸戦仕様の30日間、小宮の担当は空戦仕様で30日間が期限だ。同期間だがシンプルな陸戦仕様に比べ空戦仕様や海戦仕様は機能習熟に時間が掛かる。小宮のスケジュールが私のものよりも早いのはその為だ。
そんなことを考えているうちに、組み上げが終わったようだ。
さっきまで泣き叫んでいた少女は、小声でないやら呟いている様だ。多分、逃避をしているのだろう。
改めて少女を眺めると、上品そうな顔立ちとスリムな身体つきをしている。だが、その控えめな腰部には金属製の無骨な軍用義足が接続されている。パワー偏重で太く、格闘専用のブレードを内蔵した義足はあまりにも異質で、それが繋がっていること自体不自然だ。
あまりにもアンバランスな姿に、思わず興奮を覚えてしまった。あの少女はいままで相応しい足をしていたのだろう。それをいきなり切り落とされて、化物のような軍用義足に挿げ替えられたのだ。もう靴を履くこともない。友人達と遊びまわる事もできない。あの足は戦場を掛け抜け、敵を蹴りで破壊し、そして改造されて遥かに重くなった、陸戦兵器である自分自身を支える為だけにあるのだ。
そう遠くないうちに麻衣もあの足になるのだ。その日を楽しみに待つとしよう。
「おい、村上。村上!」
あ、少し考え込んでしまったようだ。
「少しじゃないだろ。おまえこの仕事に就かなければかなりヤバイ犯罪犯しそうだな」
失礼な奴だ。
「そんな訳あるか。発覚しないよう工作するぐらい出来るぞ」
「余計悪いわ! まあ、もう終わりみたいだし柴田女史に出くわす前に俺は上がるぞ」
「俺も上がるわ」
小宮に続いて個室に向かって歩き出した。
2.宣告 2.5 宣告・裏
簡単な改造なら各班のメディカルルームで可能だ。ここを使っていると言うことは、誰かがかなり大規模な改造を行っている事になる。興味を覚え、見学スペースへ足を運んだ。
「村上か、おつかれさん」
見学スペースには先客が居た。4班の主任である小宮だ。
「小宮、お前はもう終わったのか?」
「ああ、大まかな説明の後、左手を改造してカプセルに放り込んどいた」
「どうだった?」
「止めて、許して、と泣き叫んだが仕舞いにゃ新しい手を見て黙っちまったよ。そっちこそどうだ?」
あっけらかんと言う。この仕事はこいつには向いているんだろう。
「こっちは説明と着替えだけさせて、カプセルに入れてきたよ」
「時間に余裕がある奴は楽でいいな」
「知るか。担当を決めたのは部長だ。文句ならあっちに言え」
「まあ、こっちはこっちのスケジュールでやらせてもらうよ。少なくとも奴さんみたいに時間が無くってキリキリしてる訳じゃないからな」
そう言って肩をすくめると、窓の下に広がる手術室のほうを促した。そこには手術着姿の人間たちと手術台に拘束されている少女の姿があった。流石に音声までは聞き取れないが、少女が必死になにかを叫んでいるのが分かる。
左足はすでに金属製の義足に取り替えられている。右足がある場所では金属部品がくみ上げられている。不意に違和感を覚えて、手元のオペラグラスを取る。
「おい、あれって軍用の義足じゃないか!」
「そうだよ、柴田女史は習熟期間は要らないとのことで、初っ端から軍用の義足に改造し始めたのさ」
仕方ないなぁ、とぼやく小宮。無茶なことぐらい分かっている筈だ。
「止めなかったのか?」
「今回の製造方針は各班に任せるって取り決めだろ。それに俺が言った所であの女が聞くか?」
頑なな柴田女史の性格を思い出し、無駄だと悟る。
「だろ、言い出したら聞かないさ。それに10日で仕上げるなんて息巻いたんだ。躊躇する訳ないだろ」
今回の計画では同時期に5人の少女がここで改造される事になっている。標準の陸戦仕様が3体、空戦仕様と海戦仕様が1体ずつに生まれ変わるのだ。
その内陸戦仕様の3体は製造期間が異なっている。
10日間、20日間、30日間の3つだ。
完了した次の日幹部達の前でお披露目となる。
ここで大失敗した日には将来が危うい。まして、改造が終わっていないなどと言えばどうなる事か…
それでも他のメンバーよりも有能なだと公言して憚らない柴田女子は10日間以内に完璧に仕上げると、立候補したのだった。ちなみに私の担当する麻衣は陸戦仕様の30日間、小宮の担当は空戦仕様で30日間が期限だ。同期間だがシンプルな陸戦仕様に比べ空戦仕様や海戦仕様は機能習熟に時間が掛かる。小宮のスケジュールが私のものよりも早いのはその為だ。
そんなことを考えているうちに、組み上げが終わったようだ。
さっきまで泣き叫んでいた少女は、小声でないやら呟いている様だ。多分、逃避をしているのだろう。
改めて少女を眺めると、上品そうな顔立ちとスリムな身体つきをしている。だが、その控えめな腰部には金属製の無骨な軍用義足が接続されている。パワー偏重で太く、格闘専用のブレードを内蔵した義足はあまりにも異質で、それが繋がっていること自体不自然だ。
あまりにもアンバランスな姿に、思わず興奮を覚えてしまった。あの少女はいままで相応しい足をしていたのだろう。それをいきなり切り落とされて、化物のような軍用義足に挿げ替えられたのだ。もう靴を履くこともない。友人達と遊びまわる事もできない。あの足は戦場を掛け抜け、敵を蹴りで破壊し、そして改造されて遥かに重くなった、陸戦兵器である自分自身を支える為だけにあるのだ。
そう遠くないうちに麻衣もあの足になるのだ。その日を楽しみに待つとしよう。
「おい、村上。村上!」
あ、少し考え込んでしまったようだ。
「少しじゃないだろ。おまえこの仕事に就かなければかなりヤバイ犯罪犯しそうだな」
失礼な奴だ。
「そんな訳あるか。発覚しないよう工作するぐらい出来るぞ」
「余計悪いわ! まあ、もう終わりみたいだし柴田女史に出くわす前に俺は上がるぞ」
「俺も上がるわ」
小宮に続いて個室に向かって歩き出した。
2.宣告 2.5 宣告・裏
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