サイボーグ娘SSスレッドに保管されたSSの保管庫です。一応、18禁ということで。

作者:SSスレ2-726氏

 髪を後ろで縛り、セーターとシャツをまくり、フロントホックのブラジャーを外すと、世間の標準から見て大きな範疇に入り、なおかつ弾力もある乳房が露わになる。
「お待たせ、竜也ちゃん」
 私は今にも泣き出しそうな顔をしている赤ちゃん──先月生まれた息子の竜也ちゃんを抱き寄せ、片方の乳首を小さな口に咥えさせると、竜也ちゃんは口を動かしてお乳を吸い始め、コクンコクンと飲んでいく。
 少しして、お乳が出なくなったのか竜也ちゃんの口の動きが止まったら、ほっぺを軽くつまんで乳首から口を外し、反対側を咥えさせると、またお乳を吸ってくる。
 やがて両方の乳房から飲み終わり、軽く背中を叩くと、竜也ちゃんの口からケプッと空気が漏れる。
「良し」
 私は部屋の片隅にあるベビーベッドに竜也ちゃんを寝かせると、台所へ向かう。
「さてと……」
 私はセーターとシャツ、ブラジャーを脱いで椅子に掛ける。
『胸部メンテナンスハッチ・OPEN』
 人工義眼の網膜に投影されたコマンドメニューから目的のコマンドを選択すると、プシュッと軽い音を立てて胸が両開きになる。
「今回も良く飲んでるわね」
 両乳房のタンクを取り外し、中身がほとんど無くなっているのを確認すると、消毒が済んでいる換えのタンクにミルクを入れ、同じく消毒済みの乳首と一緒に付け替える。
 乳房のタンクと乳首の交換を済ませて胸を閉めると、『胸部メンテナンスハッチ・OPEN』の表示が視界から消え、代わりに『乳房内タンク・加熱中』の表示が現れる。
 これで何時間か後、竜也ちゃんがまたお乳を欲しがる時には適温で授乳が出来ると言うわけだ。
「ん──こっちも良し」
 念のため、手で乳房と乳首を触り、感度も確認していると、
「寒いのに、何て格好してるんだよ、絵里先生」
 ブルッと身体を震わせながら、竜也ちゃんの父親──つまり私の夫が入ってくる。
「機械の体は風邪なんて引かないわよ。むしろ冷やした方がちょうど良いの」
 そう答えつつも、向こうが見ていて気分的にもっと寒くなると言う事は分かるから、ブラジャーを付け直し、服を着る。
「そう言う剣也君こそ、風邪を引かないように気をつけてね。しっかり働いて、一家の主としての甲斐性付けて貰わなきゃ。私も一緒に稼ぐけど、父親が母親のヒモじゃ、竜也ちゃんが可哀想だし」
 剣也君は「分かってるよ」と答えながら、居間に移動する。そうしてベビーベッドの上から剣也君が覗き込むと、父親のお帰りに竜也ちゃんがキャッキャと笑ってくる。
「それにしてもさ、この子は俺にも似てるけど、ちゃんと先生にも似てるんだな」
 実の親子なんだから当たり前の事を言うと思うだろうが、剣也君の言いたい事が別にある事はすぐに分かった。
「それはまあ、生身の時と同じじゃないけど、似た姿に作ってあるのよ、この義体は」
 服を着終わって、私も居間に入りながら答える。
「こうなる事まで考えて作ったわけじゃないけどね──」
 つい口からポロッと続きが出て、
「何か言った?」
 振り向く剣也君に、私は「別に」ととぼける。
 危ない危ない。
 別に今更知られてどうなるとも思わないが、それでも剣也君に知られたくない事というのもあるのだ。
 それにしても、本当に『組織』にいた頃は、私がこうなる事なんて想像さえしていなかった。
 敵である剣也君に助けられて、一緒に『組織』を相手に戦って、遂には剣也君と結婚して、子供まで産んで、今こうして3人で暮らしてるなんて──

 当たり前な話だけど、私も最初から機械の体だったわけじゃない。
 ちゃんと生身の身体を持ってこの世に生まれてきたし、私を産んだ母がいて、父がいて、そして姉がいた──。

 私より2歳年上だった姉は、勉強が出来て、スポーツも複数の部活から助っ人の依頼が来るほどで、何より道ですれ違う人が10人中10人が振り向くだろうと思うほど綺麗な人だった。
 けれど、そんな姉を持った妹──勉強は出来ても姉には追いつけず、スポーツは全く駄目、おまけにガリガリの貧相な体型──の立場を考えて欲しい。
 どんなに頑張っても追い抜けない、追いつけない姉の存在は、物心ついた時から大きなコンプレックスになって、私にのしかかってきた。
 これで能力の違いを鼻に掛けるような高慢な性格だったら憎みようがあったが、姉はいつも私の事を気遣って、「無理しなくていいのよ」と言ってくれた。
 両親も姉と私を比べる事はせず、「あなたはあなたなんだから」と言ってきたが、逆に姉との差を意識する事になり、年を経るごとに私は意固地になっていった。
 私は姉に対して口をきこうとしなくなり、姉が何を言ってきても私は聞かないふりを続けた。
 そうして周囲の声をシャットアウトした私は、自身のアイデンティティーを確立するべく唯一の取り柄である勉強で姉を負かそうと、持てる時間の全てを費やした。
 けれど、崩壊の時は何の前触れもなくやって来た。
 あれは、私が16歳、姉が18歳。春の足音が日々近づくある日の事だった。
 その年大学に合格した姉は、両親と一緒に合格祝いの買い物へ行き、私は当然ながら一緒に行くのを断って勉強に没頭していた。
 だがその日の午後、突然警察から電話が掛かってきて、両親と姉が乗った車が交通事故に遭った事を知らされ、私は頭が真っ白になりながらも病院へ急いだ。
 けれど私を待っていたのは、霊安室で物言わぬ骸となった家族で、特に姉の遺体は相手の車が衝突した最も近い位置に座っていたために、原形を留めてさえいなかった。
 事故の理由が相手側の明らかな不注意だった事も、向こうの運転手も死んでいた事も、私にはどうでも良かった。
 ただ、私が姉に追いつく事はもう一生無くなってしまった事が、私の中に大きく深い喪失感となって残ってしまったのだ。
 なまじ知識があるせいで、それで全てに投げやりになり、無気力になってしまえば、その先の人生はすぐに行き詰まってしまう事が分かってしまったから、投げ出す事も出来なかった。
 結局私は、目的を失ったまま勉強という道を進むしかなくなったのだ。
 そうして時は流れ、私は学校の偏差値や教師の薦め、その他諸々に流されるように研究者への道を進み、生体工学の最先端の世界へ入って行った。
 けど、社会というのは勉強が出来るイコール優秀とは限らなくて、周りとの協調性や、目上の印象を良くするためのいわゆる要領の良さが重要な場合もあり、研究の世界でもそれは例外ではなかった。
 そして、家族とさえ繋がろうとせずに思春期を送った私にまともなコミュニケーション能力が備わっているわけがなかった。
 あっという間に周囲から孤立した私だったが、意固地な私は逆に群れなければ何も出来ない低能な連中と他人を見下し、自分一人で実績を上げてやろうと研究に没頭した。
 寝食を惜しみ、有形無形の圧力にさらされ、文字通り身を削って私の研究は次第に形を為していき、これで周囲を見返してやると息巻いていた矢先、二度目の崩壊は訪れた。
 上層部とそいつらの腰巾着共の裏工作によって私の研究は全て横取りされ、私は無能のレッテルを貼られて研究所を追われる事になったのだ。
 私を呼び出した研究所の所長が何を言ってきたかは想像が付くが、恨みと憎しみで一杯だった私の耳には一切入らなかった。
 気が付けば私の目の前には血塗れでデスクに突っ伏す所長の姿があり、頭が真っ白になった私は急いでその場から逃げ出し、無我夢中で身を隠した。
 とは言え所詮は頭脳しか取り柄のない女一人、普通ならすぐに警察に捕まって、新聞記事の一部になって私の人生は終わっていた事だろう。だがそこへ手を差し伸べる奴らがいた。
 それは薬物や機械化で改造した動物や人間、人工臓器や兵器などを世界中の軍隊や金持ちに売る『組織』で、私はその誘いに即座に飛びついた。
 表の世界に居場所を失って、他に生きる道がなかったという理由もあったが、何よりその時の私は社会も善悪も、そして人間さえもどうでもよくなっていた。
 だから私は表の世界にいた時から進めていた義肢の研究を更に飛躍させ、人間の全身を精巧に模倣した義体を完成させるに当たって、自身の脳を移植させる事に何のためらいもなかった。

 そうして私は生体脳を除く全身を機械化したサイボーグになった。
 嫌いだった私の生身の肉体を捨てて、
 それ以上に嫌いだった姉が成長していたら、こんな大人になっていただろうという姿になって──

 それからしばらくの間は順調だった。
 全身義体の技術を完成させた実績もあったけれど、それ以上に『組織』の男達の私を見る目が大きく変わり、好意的に接するようになったのだ。
 もっともそれは有能な者に対する尊敬や敬意ではなく、私の外見に対する下心である事は明白だったが、私は不愉快にならなかった。
 この美しさが精巧に作られた作り物である事は分かっているくせに、外見だけであっさり態度を変える、馬鹿で単純な奴ら──
 私は腹の中で見下しつつも、表面上は彼らに感謝を返し、時には機械化のせいで満たされない食欲の代わりに増大する性欲を満たす相手とした。
 そうして姉の似姿を穢す事は、私の人生を歪ませた姉に対する復讐にもなった。

 ところが順風満帆の時は永遠には続かなかった。
 『組織』が改造用素体として確保した1人の少年が、改造手術の直前に常人の何十倍もの身体能力を発揮する超能力に覚醒し、『組織』の構成員達を片っ端から倒して逃亡したのだ。
 幸か不幸か私は別の用事でその事件に立ち会う事がなく、『組織』の方でもすぐに排除できるさして重大ではないイレギュラーとしてその少年──剣也君をみなしていた。
 ところが彼は『組織』の差し向けた刺客をことごとく返り討ちにして、その中には私自身が開発に関わった改造人間も含まれていたために、『組織』の中で私の立場が危うくなってきた。
 私は起死回生のため、彼の能力や動向を探り、機会があれば籠絡、もしくは暗殺するスパイの任務に自ら志願し、彼の通う高校に保険医として潜り込んだ。
 高校でも男達を中心に私は好意的に受け入れられ、どこも人を外見だけで判断するのかと内心呆れ、見下しつつも、私は容姿を鼻に掛けない優しい保険医を演じた。
 そうして保険医の仕事の傍ら、私は密かに剣也君の情報を探り、一方で最悪『組織』から粛正が差し向けられた時のために逃走する準備も進め、状況がどう転んでも生き延びられるよう努めた。
 けれど私が思っていた以上に『組織』の動きは早かった。
 私が離れている間に、『組織』の研究セクション内では私を排除して取って代わろうとするグループが発言力を増し、そいつらがスパイの反逆の危険性を声高に主張したらしい。
 そうして私の知らない所で処分を決定した『組織』は、直後に差し向けた刺客の戦闘用サイボーグが剣也君を抹殺するためのサポートを私に命じ──実際は抹殺のための捨て石にされるはずだった。
 けれど運命は皮肉なもので、他人が使い捨てにされるのを黙って見ていられないと、敵であるはずの剣也君に、私は間一髪の所で助けられたのだ。
 家族の敵である『組織』の一員に対して、熱血漢というかお人好しというか、正直私は呆れたが、もはや同じ『組織』の敵となった者同士、剣也君と一緒に戦う事になった。
 とは言うものの、最初は利害の一致で繋がっている者としてしか剣也君を見ていなかった。
 表面上、私は持てる能力と、『組織』にいた頃から蓄積してきた情報をフル活用して、彼の戦いをサポートしていたけれど、心の中ではある種の諦めを抱いていた。
 所詮この子も他の奴らと同じように、私を外見でしか見ていない、あとは私と同じように利害の一致でしか繋がっていないんだ、と──
 でも、ある日『組織』のある幹部の作戦で剣也君と分断された私は、向こうの圧倒的な戦闘力の前にまともに太刀打ちできず、私は裏切りの制裁として少しずつ義体を破壊されていった。
 剣也君が向こうの敵を倒して助けに来てくれた時には、私は腕をもぎ取られた左の肩口や、身中のあちこちの傷口から機械部品を覗かせ、ちぎれた配線が火花を散らしていた。
 もちろん顔も例外ではなく、人工皮膚が半分ほど剥がれて金属製の頭蓋骨と片方の電子義眼が露出している有様だった。
 けど剣也君は、そんな無残で醜い姿をさらす私を目の当たりにしても、目を逸らすどころか、その目には嫌悪感を一切見せなかった。
 それどころか、「醜い姿でしょう? いくら外見を綺麗に作ったってそれが裏切り者のスパイ人形の本当の姿よ」とせせら笑う『組織』の女幹部に対し、
「てめえのその心の方がよっぽど醜いよ」
 そう怒りも露わに、既に一仕事済ませて疲労とダメージが残る身体にも関わらず、剣也君は敵を打ち倒した。
 それでも女幹部の言葉に、自分の身体が機械、作り物である事を再認識させられ、心を抉られた私に、剣也君は言ってくれた。
「生身でも機械でも関係ない。自分の心が、意志がある限り、先生は人間だ」
 その言葉を聞いた時、私は嬉しかった。
 そして、剣也君と身体はもちろん、心も繋がりたいと思った。

 それは紛れもない、初恋だった──
 それから後の『組織』との戦いは、私にしてみればおまけのようなものだ。
 『組織』はその後も刺客を送り続けてきたが、ことごとく剣也君が返り討ちにして、その傍らには常に私がサポートとして付いていた。
 そのうち敵の勢いが落ち始めたのを見て取った私達は攻撃に転じ、『組織』の拠点を1つ1つ潰していき、遂には最後の基地を潰して『組織』のトップも倒した。
 『組織』が壊滅した後も、剣也君と私は残党を相手に戦ってきたが、それもすぐに終わりが見えてきて、私はある恐怖を抱いた。

 このまま『組織』がなくなったら、私と剣也君を繋ぐものが無くなってしまう──

 だから私は剣也君が高校を卒業する日を前に、『組織』が研究していた人工子宮を完成させて身体に増設し、『最後のセックス』で剣也君との子供を妊娠させた。いわゆる既成事実作りというやつだ。
 けど、そんな事をするまでもなく、剣也君はずっと前から私の事を好きでいてくれたらしかった。
 それを知った時、私は剣也君と、心から繋がったのだと感じた。
 剣也君は自分の心と意志を持っている事が人間の条件だと言ったけれど、私の考えは少し違う。
 自分の心と意志を持たずに生きる者は、例え生身の身体だったとしても『人形』でしかなく、心と意志を持つ事で『人』になる。
 そして他人と関係を持ち、繋がる事で『人』は『人間』になる。
 そう言う意味では、私はあの日、初めて『人間』になれたのだった──。

 その後私達は、当初は『組織』からの逃走用に準備していたルートを使って今の場所に落ち着くと、そこで竜也ちゃんを出産した。
 とは言っても全てが順調だったわけじゃない。
 最初は私の臍から直接人工子宮に栄養を供給していたのだが、予定通りに成長せず、食べ物からの栄養でないと駄目なんじゃないかと言う剣也君の意見で、口から摂取した食べ物から栄養を抽出して人工子宮に送るように改造した。
 だとしたらちゃんとした味がしないと胎教に悪いんじゃないかと思い、剣也君にも手伝って貰って、味覚のセンサーも作った。
 それらを全部ひっくるめてたった数ヶ月で完成させてしまうなんて、我ながら驚異的な速さと言える。いわゆる愛の力というやつかしら?
「ねえ剣也君、私の事、『組織』のスパイだって知る前から好きだったって言ったわよね。それってやっぱり理由は顔?」
 ちょっと意地悪な質問をする私に、剣也君は「ん〜」と困った顔をして、
「それもあったけど、何て言うのかな? どこか寂しそうに見えたんだよな」
「寂しそう、ね……」
 昔なら鼻で笑っていた所だが、今は何となく納得できる。
 昔は満たされない食欲の代わりに性欲が増大していると思っていたが、剣也君と結婚して、竜也ちゃんがお腹の中にいた間、私はセックスをする気が昔のように起きなくなっていた。
 もしかしたら、他人との繋がりを拒絶しているつもりでも、心のどこかでは他人と繋がっていたいと思っていて、それがセックスしたいという欲望になって吹き出していたのかも知れない。
 私は戸棚の上から鏡を取って見る。
(ねえ姉さん、姉さんの顔を勝手に私の顔にした事、やっぱり怒ってる?)
 鏡に映る姉の顔に向けて、私は心の中で問い掛ける。
 剣也君と出会う前は、天国とか地獄なんて信じてなかったけど、今は違う。
 『信じる』というよりは、『あって欲しいと思っている』という方が正しいけど。
 機械の体でも、脳が生身である以上、いつかは私にも死が訪れる。
 でもその後も多分先に死んでいるだろう剣也君と一緒にいたいから、多分彼は天国行きだろうから私も天国へ行きたい。
 それに、両親と姉にも、ちゃんと正面から向かい合って謝りたい。
 あの時は意固地になってごめんね、と。
 姉さんの姿で色々悪い事をやってごめんね、と。
 そのためにも、『組織』にいた時やそれ以前に犯した罪をきちんと償って、更にそれ以上に沢山良い事をしなくちゃいけないと思う。
 とは言っても──

「ねえ剣也君」
 後ろから剣也君を抱き締めて、
「久しぶりに、しましょう」
 甘えた声で私が誘うと、
「おいおい、俺は仕事から帰ったばかりで疲れてるんだから勘弁してよ、先生」
 困ったように剣也君は答えるが、私は片方の腕を下から剣也君の方へ回し、
「そう言ってる割には、こっちは元気じゃない。身体は正直ね」
 剣也君の膨らんだ股間を撫で回して私は言う。
「待てよ、竜也が──」
「今ミルクをあげたばかりだから、1時間は軽く大丈夫よ。どうせお風呂に入るんだからその前に、ね──」
 私は剣也君の前に回り、彼の口を私の口で塞いで抗議の声を封じ、その勢いで床に押し倒した。

 剣也君と竜也ちゃん──新しく出来た家族のおかげで、私は人間でいられる。
 それには生身の部分がいくら残っているかなんて関係ない。
 とは言え昔ほど激しく求めないものの、やっぱりセックスはやめられない。
 もちろん今の私の身体は剣也君専用、だけどね──

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