サイボーグ娘SSスレッドに保管されたSSの保管庫です。一応、18禁ということで。



 いつもと同じ日常が毎日続くなんて当たり前だと思っていたのは、もうどれくらい前だったのか自分でも解らなくなっている。今こ
こにある現実は、一面の焼け野原と崩れかかったビルの残骸と、そして焼けただれた自家用車達の虚しい車列。自治省衛生局が回収し
たらしいドローンの感染体は、おそらくすでに超高周波焼却炉でちりも残らず焼かれたはずだ。

 西暦2150年を超えた辺りの出来事。恒星間飛行デバイス『ハイパードライブ』の実用化により、地球人類の活動圏は遠くオリオンの
ベテルギュース領域まで広がっていた。人口爆発に歯止めが効かない状況下で取られた地球連邦政府の政策は、新たな人類生存可能惑
星への植民政策だった。
 より高性能なハイパードライブ搭載型のスペースシップが量産され、地球銀河系の深淵部へ向けて続々と旅立っていった植民船団が
地球へと戻ってきた2200年頃。地球上で始まった小さな異変は瞬く間に地上を覆い尽くしていった。
 地球人類のRNA遺伝子を直接書き換えてしまう未知のウィルスは、いかなる手段を持ってしても抗体を作り出す事が敵わず、地球上
のすべての陸地に収まりきれずに人工大陸まで作って納めていた300億を超える人々が、ばたばたと病に倒れ命を失っていった。
 
 だが、それは恐怖の前段階に過ぎぬ事を『不幸にも生き残ってしまった人々』は味わうことになる。
 
 その未知のウィルスは死体をまるで生きた人間のようにカモフラージュさせ、あたかも未だ正常に生きていると錯覚させるほどに自
然な振る舞いでウィルスの再拡散を図っていた。基本的人権の解釈論対立でもめている間に、未感染か感染済みか解らぬままのウィル
スキャリアとかしたドローンが恐ろしい勢いでウィルスを再拡散させ、連邦議会が議論の一致を見て感染者を隔離すると決定した時、
すでに未感染の人類は5億を切るほどに減少していたのだった。
 
 その生き残った人々が取った政策はあまりに苛烈だった。
 
 感染済みの者は容赦なく、例外なく、躊躇無く抹消された。まるでゾンビのように緩慢な動きで暴れるドローンは、瞬く間に一掃さ
れたのだった。また、感染済みながら意識がかろうじて残っている者は、たとえ本人の意識が残っていても、遠慮無く射殺され、ウィ
ルスを焼き払うために反応炉の中へ投げ込まれてしまった。
 だが、その過程でおよそ100万人に一人の割合でウィルスに何らかの抗体を持つ人類が確認された。彼らはウィルスに感染後も意識
や自由を失ったり乗っ取られたりすること無く、本人の意識を高いレベルで保ったままウィルスと共存していた。初期段階では躊躇無
く殺されていた彼らだが、ある時、ドローンとなった感染者が彼らを襲わないと言う事が確認されたのだ。その時点でウィルスと共存
する者達は、すべての自由を奪われ、未感染者の守護者としてウィルスと戦うための『高度有機生命体兵器』として扱われることが決
定した。

 全く別の星系から持ち込まれた未知のウィルスは、わずか数個のタンパク質構成体からなる単純な組成であったが、およそ0.01ピコ
リットルの血液・体液などが空気中を漂ったとしても、それが生身の皮膚に触れた瞬間に表面のタンパク質へと浸潤し自己複製を開始
していく凶悪な感染力であった。
 故に、ウィルスへ抵抗するべく編成された防護隊とも言うべき公衆衛生局のスタッフは皆、高度にサイボーグ化された『元・人間』
とも言うべき機械達だ。外界と完全に遮断されたドーム型のコロニーが世界各所に建設され、人類はその中でのみ生存を許されたのだ
が、何らかの手違いでその中へドローンやキャリアーが進入してしまった場合、そのコロニーは例外なく『完全焼却』される運命にあ
る。その、最も汚れ役な作業を請け負う彼らは、ウィルスに抵抗を示した感染済みの人々の脳髄だけを移植された機械としてのみ存在
を許されている。
 
 そして今、つい最近焼き払われたコロニーNo.4900135『西東京シティ』の中心部で、真新しい銀色のボディを輝かせているサイボー
グが4名。焼け野原の旧市街地を眺めていた。

――ッピ! 『ユニット8013!14!15!16!早く移動しろ!エリアコード2146より2158のエリアにドローンが確認された!』

直接脳内に響く指令の声。
 脳以外のすべてを機械に改造されたサイボーグ清掃員たち。

「早く移動しろって」「またやり直し?それとも」
「やっぱまとめて焼き払わなきゃ駄目なのね」
「人使い荒いよねぇ」

――ッピ! 『おまえら、まだ人間のつもりか?もう諦めろ。さもないと次のメンテタイム抜きの懲罰だ』

「あ〜ぁ やってらんないよ」
「死んだ方がよかったね」

 直接の脳波通信でやりとりする彼ら・・・・ いや、彼女らは、ここのコロニーで生き残った人々のために改造された抗体持ちの元女子
高生。ユニットナンバー8013非公式ユニット名『yuka』、8014『mai』、8015『mana』8016『nori』。全く面識の無かった彼女たちだ
が、ナパーム弾に焼かれた市街地の中で回収された死体のうち、わずかな生体反応が検出された者のみを集めて改造されたのだがら、
逆に言えば強運の持ち主といえるのだろう。

 全く同じ外見のボディを持つ彼女達は、首の辺りから上だけが人工皮膚と非生体系素材で作られた生身のような頭部を持つサイボー
グだった。高純度弾力系アクリル体で作られた眼球の色だけが違う、顔の作りまで同一の量産型ユニットだ。

「ねーねー!良いもの見つけた!」
「なに?」
「ほら!ヘアカラースプレー!」
「あぁぁ!」

 緑やら黄色やらの塗料が入ったエナメル系の艶あり塗料缶。もちろん、生身の人間になんか使える開けが無い。だが、彼女達の毛髪
は耐熱シリコン系のアンテナを兼ねた放熱デバイスでもあるから・・・・・

「マナは緑だから髪も緑ね!」

 シュー!

「どう?」
「あ!似合う似合う!」

 気がつけばサイボーグ達の髪の色が見事に四色に分かれていた。

――ッピ!『おーまーえーらぁ!』

「はいはい。わかりましたよ−」
「いまいきまーす!」
「バッテリーが残り少ないから稼働限界まで3時間ちょいでーす」
「武装もあんまり無いんで補給して欲しいでーす」

 6輪バギーに全員が乗って移動を開始する。運転するのはマナ。ユニットナンバー8015。ほんの3週間前まで、毎日のように通ってい
た学校が焼け野原にぽつんと残っていた。どこからか煙の臭いがしていた。涙も流れなくなった瞳で皆が学校の残骸を見ている。もっ
と勉強が出来て頭脳明晰で、そして、ウィルス感染するような遊びをしていなければ・・・・
 
「また学校行きたいね」

 誰かがそうつぶやいた。だけどそんな日常はもう戻ってこない。幾人ものエンジニアに囲まれた作業台の上で彼女達が目を覚ました
時、そんなものはもう遙か遠くの世界の出来事に成り下がっていた。来る日も来る日も、自分たちの体の構造と武器弾薬の使い方を強
制的に学ばされて、そして問答無用でコロニーの外へたたき出されて、ドローン狩りの実地訓練をやらされて。
 ふかふかのベッドの上で暖かい毛布にくるまって眠ることも無く、湯気の立つ熱いスープに笑みを浮かべることも無く、毎日毎日、
充電時間以外のすべてをキャリアーとドローンの焼却に充てる日々を繰り返している。

「ちゃっちゃと終わらせてベースへ戻ろうよ」
「そうだね」

 砂ゲムリをあげて走っていく電動バギーの単調な音。
 彼女達の終わらない旅は続く。

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