サイボーグ娘SSスレッドに保管されたSSの保管庫です。一応、18禁ということで。

作者:SSスレ2-503氏

 アキハバラがオシャレ系の店舗で侵食され始めたのは、いつ頃のことだっただろうか。

 駅前デパートがatreに変わり、建て直されたラジオ会館にはかつて入居していたテナントが
一つも戻ってはこず、100円ショップの類は全て姿を消した。

 道を行く人々も装いも、いわゆるアキバ系から原宿系へと移っていった。

 そんな時代の流れの中にあっても、長年の間にこの土地に染み込んだ妄執は、そう簡単に
消え去ってしまうものではないようで、立ち並ぶ華麗なビルの隙間のそこここに、アキバ独特の
雰囲気を醸す怪しげな店が細々と営業を続けている。淘汰の末に生き残っただけあって、他の
土地では決して見ることができない、限りなく特異な性格を持った店々が。

 ***


 中央通りの信号を一つ越えた路地裏の、ビルとビルに挟まれた幅2メートル程の細い道。
道の両脇に立てられた網ラックには、質素なパッケージに包まれた商品が無数にぶら下がって
いる。

 気泡アリB級品義眼 (ヘイゼル) \30,360
 補修用人工皮膚 (Y28%/M16%) 30cmx45cm \580
 生セルバッテリー 24V 8.0Ah \18,226
 ………
 ……
 …

 第二次世界大戦後の真空管ラジオから始まって、家電製品、アマチュア無線、マイコン、
家庭用ゲーム機と、この街には常に先端テクノロジーに属する商品が集まって来た。

 そして今、この街の商品で主流を占めるテクノロジーと言えば、「義体」。

 このビルには地階から8階まで、義体に関する商品を扱う店が集まっている。義体メーカーの
正規品だけでなく、平行輸入品や中古品の豊富な在庫。一山いくらのジャンク品の中には、
シリアル番号が書かれていたと思しき箇所を削り取った跡が見て取れる物さえある。

 そんな商品の合間をぬって、狭苦しい店内の奥へと進んでいく。一人乗ったらもう一杯という
感じのエレベータにカートと共に乗り込んで、辿り着いたビルの最上階。

 8階にあるその店の前には、通路の殆どを占領して大きな立て看板が置かれていた。看板には
羽飾りのついた緑色の帽子と同色の服をまとった小さな男の子の絵が描かれている。悪戯好きな
天使のキャラは、この店の主の性格そのものだと言われている。

 怪しげな店が多いこの街でも、「濃さ」で言えば5指に入るだろうというのが、マニアの間での
もっぱらの噂。

「いらっしゃいませ〜」

 店内に入るなり、典型的なメイド服の少女が声をかけてくる。くりっとした大きな目と笑みを
絶やさない口元が印象的なその顔は、こんな店には不釣合いな程に愛らしい。いや、この顔が
あるからこそ、この店の商売が成り立つのだろうけれど。

 メイド服の袖や裾からすらりと伸びた手足。そのハリのある艶やかな肌が、地階の店頭に並んで
いた商品と同類とはとても思えない。一見したところでは、この少女は、ごく普通のどこにでもいる
女の子以外の何者でもない。

 でも僕は知っている。

 店舗紹介に載せられた義体番号から検索できる公開情報では、脳と顔面、子宮、肝臓の一部以外
は、全て造り物のはず。義体技術が進んだ今でも、全身が機械というケースはそんなに多くはない。
 この店に来た目的は決まっている。けれどこの娘を前にして、その目的をストレートに切り出す
のは躊躇われた。切り出す頃合を見計らいながら、中古パーツを買いに来た普通の客のふりをして、
棚に並んでいる商品を適当に見て回っていく。

「何をお探しですか?」

 気がつくと少女が隣に立っていた。ニコニコと無邪気に微笑むその顔さえ、後ろめたい気持ちを
隠し持つ身ににとっては、心の内を見透かされているように感じられる。

 実際、1日に何人もの客を見ている目からすれば、何にも手を触れることもなく、分類にも無頓着
に目を彷徨わせている様子は、ここにある商品に関心なんか無いことは明らかなのかも。

「え、えーと、あの、その……」

 言葉にすればたった数語ですむ用件を口に出せず、少女と目を合わせることもできず、その場に
立ち尽くす。

「お客様、限定サービスをお望みでしたこちらへどうぞ」
「え〜!? ドクター、なんで分かるんですかぁ〜??」

 ……どうやら少女の方は素で分かっていなかったらしい。

  声をかけてきたのは、この店の主。ドクターと呼ばれている通り、義体医師の資格を持って
いる。義体化が極めて困難なケースのみを扱い、法外な謝礼を要求するのだとか、この店を
やっているのは趣味に過ぎないのだとか。マニアの好みそうな怪しげな背景の持ち主だ。まあ、
これも単なる噂でしかないけれど。

 「あ……はい。お願いします」
 こうまで図星をさされては逃げようもなく、観念して店主の言葉を肯定する。さすがに少女と
目を合わせるのは躊躇われたけれど、ちらっと盗み見た彼女の顔は見間違いようもなく赤く
染まっていた。顔面が生身というのは本当らしい。


 ***


 狭いフロアを二つに仕切る壁の向こう側は、この店の目玉商品である限定サービスだけを扱う
異空間だった。中央には診療用のベッドが一つ。左右に置かれたサイドテーブルの上には様々な
器具や部品が並んでいる。

「では、こちらにご記入を」

 この雰囲気の中でも、店の主はビジネスライクに事を進めていく。サイドテーブルの空いた
スペースに差し出された書類を置き、記入欄を埋めていく。

 書類を書かされる理由は……。

 中古品を売るためでもなく、高額商品を分割払いで買うためでもなく。あの少女の身体の一部を
一晩借り受けるため。機械でできた身体を持つ彼女がいて初めて成り立つ「限定サービス」だ。
それが、この店が「濃い」といわれる所以なのだ。

「あれ、ここ年齢を書く欄じゃないですよ?」

 書類を覗き込んでいた少女が声をあげた。店主に代わり、書かれた内容が正しいかどうかを確認
するのも彼女の役目なのだろうか。怪訝そうな表情を浮かべて、書類と僕の顔とを交互に見比べて
いる。ため息を一つついてから、その欄の文字の上に振り仮名を書き添える。

 いそ はじめ
 五十 一

 小学校にあがって、自分の名前を漢字で書けるようになって以来、何度同じ事を繰り返してきた
だろう。自分自身では、もう間違われることを何とも思わなくなったけれど、間違えた方のリアクション
に付き合うのは未だに気疲れする。

 少女は、書き加えられた文字を目にして、目を丸くする。そして何か言いかけそうになった瞬間。

 ごんと小さな音がした。

「ドクター、痛いですぅ〜」
「失言の報いだ」
「え〜、だって、だって、これはどう見ても……」
「年齢のはずは無い」

 頭を押さえて涙目の少女の言葉を、言下に切り捨てる冷徹な店主の声。

 まあ確かに。いくら老け顔だとしても、三十以上も年上に見える、なんて普通は無いよなあ。

「ご記入内容はこれでよろしいですね?」

 結局、店主が書類に目を通して、記入内容を確認する。

「はい。よろしくお願いします」
「ドクター、ご希望の部位はどこですか? 腕? 脚? それとも胸?」

 名前欄に気を取られていたためか、貸し出す部位は確認していなかったらしい。書類は既に店主
の手の中にあり、少女が立っている位置からは見ることができなくなっている。

「下半身」

 素っ気無い一言が返される。
「はい。下半身ですね……って……え〜〜っ!?」

 確かに書類には様々な部位に混じって「下半身」という選択肢が載っていたし、この店に来た
目的は正にそれなのだし、そもそもこんな大きなカートを引きずって歩いている理由はそれ以外に
無いのだし。

 ……そんなに驚かれるくらい珍しいのか……orz

 少女の様子はと言えば、口元に手を当てて、目をまん丸に見開いて、顔は真っ赤を通り越して
湯気が立ち上がりそうなくらい。漫画でも、ここまで見事な驚きと恥じらいの表現は、滅多にお目に
かかれるものじゃない。


 ***


 気まずい雰囲気のを破ったのも、冷静な店主の声だった。

「では、一晩、下半身をお貸しします。破損・紛失の際には実費賠償となりますのでご注意
ください。何らかの事由で汚損した場合は、お客様負負担で洗浄・消毒をお願いします。なお、
生体箇所は除装いたしますので悪しからず。さあ、緋乃子、こっちへ」

 通り一遍の警句を口にして、少女の名前と思しき名前を呼ぶ。

「……はい」

 少女は俯いたままベッドに歩み寄る。表情は読み取れなくても、上ずった声色やふらつく足元が、
少女の内心の動揺を物語っている。店主は既にサイドテーブルから器具を取り上げて、解体作業に
入る準備を淡々と進めている。

 機械が詰まった造り物の身体とはいえ、目の前で、彼女の身体が分断される。そしてそれを家に
持ち帰る。

 そう思っただけで、背筋をぞくりと快感が這い上がった。
 ***


 服を着たままで解体作業を進められるはずがなく、ベッドの脇に立った少女は、ちらちらと僕の
方を窺いながらメイド服を脱いでいく。

 腕の付け根。
 脚の付け根。
 胸の周り。
 お腹の周り。

 身体を覆う布が無くなっていくにつれて、今まで隠されていた人工皮膚の分割線が露になっていく。
最後に外したチョーカーの下にも、くっきりとした分轄線が見えている。胸元と股間をそれぞれの手で
覆って立っている彼女の姿は、人間のそれであると同時にロボットのそれでもある。公開情報の通り、
外から見える範囲では、彼女の身体の全てが造り物だった。

 しばらくそうしてから、店主の視線に促されて、少女はベッドの上に横になった。両手と両足を
伸ばした状態で枷を嵌められて、もう彼女には身体を隠す術は無い。

「緋乃子、ハッチを開けて」
「はい、ドクター……」

 店に入った時に聞いた元気さからは想像も付かないほどの弱々しい、消え入りそうな声。面識の
無い相手に裸体を晒すのと、身体の中の機械を晒すのと。彼女にとって、どちらが辛いことなの
だろう?

 かちりという小さな金属音と共に、彼女のお腹の分轄線に沿ってメンテナンス用のハッチが開く。
鈍色の光を放つ機械の中央に収められた、唯一つ透明なガラス様の物でできた丸いケース。微かに
濁った液体で満たされたそのケースの中に、ピンク色の何かが見えた。

 身体の内に隠れていた、数少ない彼女の生身の部分。
 多分、彼女の脳もまた、同じようなケースの中に収められている。彼女自身と言える生身の部分は
全部を合わせても数kgにも満たないはずだ。外見は元と変わらなくても、こんなケースの中に収められて
生きていくのは、どんな気持ちなんだろう。

「あ……んんッ……」

 店主の手が彼女の身体の中を弄るたびに、少女が小さな呻き声をあげる。彼女の身体は、中の
機械にまで感覚があるのだろうか? そんな仕様になっている義体なんて聞いたことが無い。これは
店主の趣味なのか、それとも大金を払う客へのサービスなのだろうか?

 少女の赤く染まった頬の上を、いく筋かの汗が滴り落ちていく。吐く息の甘い香りがここまで漂って
くるような気さえする。お腹の中の機械を目の前で見ていてさえ、これは快感に酔いしれる少女
以外の何者でもない。限りなく精巧に作られて膨大なデータを与えられたロボットでも、CG技術の
粋を凝らして制作された3D映像でも、この存在感には遠く及ばない。

「ん……ふ……ぅ……」

 少女のトロンとした目が見つめているのは、店主の手の中にあるケース。身体から取り出されても
なお、培養液の中で生きている少女の一部。彼女が確かに『少女』であることを証明する部分。
もしも何かの手違いで、除装されないまま貸し出され戻ってこなかったら……。

 ケースを見つめる視線から何を読み取ったのか、店主は僅かに眉を寄せ、ケースを傍らの機械に
取り付けた。かちりと鍵を掛けるその音で、邪な妄想が破られる。

 自分の性癖の対象が機械の身体にあるのは間違いない。だからといって、純粋な機械に萌えは
無い。どれほど良くできていても、ロボットには欲情しない。生身の身体を機械に変え、なおかつ心を
保ち続けている。そんな『サイボーグ』こそが理想の相手。

 生身の箇所を除装すると言われたのを至極尤もと思いながらも、心の底では納得していないの
かもしれない。こんな形の取引ではなくて、素の彼女と縁を結ぶことができたなら……。
「お客様、手を貸していただけますが?」

 店主の声で妄想が再び破られた。既に彼女の両脚は付け根から外されて、何本かのケーブルで
繋がっているだけの状態だった。固定用のネジ穴が等間隔に空いている鉛色の人工骨。ジョイントを
外されてだらりと伸びきった人工筋肉。いく本ものチューブの端に取り付けられたバルブから僅かに
漏れ出た冷却液や潤滑液が、シーツをカラフルに染めている。

 機械仕掛けの脚の重量は20kgくらいあるはずだ。筋肉質とは程遠い店主一人で運ぶには少し
ばかり荷が重い代物には違いない。まあ、これもサービスを兼ねてということで、拒む客はいない
だろう。

「では、いきますよ?」
「む……ん……」

 残ったケーブルも外されて、脚は完全に少女の身体とは別個の存在になった。2人がかりでも
まだ重い少女の脚。店先で見た通りの艶やかな肌は、電力の補給を失って温かみを失いつつ
あった。それでもなお、吸い付くようなもち肌の手触りも、握る手に合わせて適度な弾力で押し
返してくる筋肉の柔らかさも、造り物とは思えない程の心地よさを与えてくれる。できることなら、
いつまでも触っていたい。

 そんな願いが叶う訳もなく、店主に促されるまま、サイドテーブルの空きスペースに両足を揃え
て並べ置く。両脚を失った少女の姿は、意外な程に小さく見えた。枷の束縛が無くなって自由に
なった脚の付け根の部分が、股間を隠そうとするかのように悶えている。

「緋乃子、無意味だからやめなさい」
「でも、ドクター……」

 精一杯の努力を無意味と決め付けられて、不服そうな少女の声。貸し出されたその先で、どんな
扱いを受けるかも分からない。それでも自分の身体に付いている限り、羞恥心の対象から外れる
ことはないのだろうか。
「下半身のデバイスを取り外して。電源はそのままで」

 少女の気持ちを気遣う様子もなく、ハッチの中の機械にコードを繋ぎ、モニターに映し出される
グラフを睨んでいる。目を閉じた少女が何か呟くたびに、グラフが一つずつゼロのラインへと落ちて
いく。全てがゼロのラインに集ったのを確認し、店主は大型の電動ドライバーを取り上げた。

「やっ……ん……ドクター……もっ……と、優しく……」

 店主がハッチの中へドライバーの先端を突っ込むと、また少女が呻き声をあげて懇願する。

「……くっ……う…ん……あぁ……ぁ……」

 ドライバーのモーターが唸りを上げ、下半身を繋ぎ止めている太いボルトが外される度に、身悶えと
共に嬌声が彼女の口から漏れて出る。サイドテーブルに置かれるボルトの本数が増えるにつれて、
少女の上半身と下半身の動きがちぐはぐになっていく。

「これで最後だ。緋乃子、接合部が傷つくから、動かないように」
「はぁ……はぁ……ハ……イ……、ドクター……」

 荒い息遣いの中、呂律の回らなくなった口調で少女が答える。人工筋肉も人工骨も、接合を全て
外されて支えを失った下半身。不用意に動けば、予期しない部分が接触して傷つくこともあるのだろう。
両手でシーツを握り締め、唇を噛み締めて耐える構えをする少女。店主の手が、ぐいぐいとハッチの
開口部の奥深くへとドライバーを押し込んでいく。

「あ、……あああぁぁぁぁッ!!」

 噛み締めた唇の奥から絶叫が漏れ、それでも下半身は僅かに揺れただけだった。

「うむ。よく耐えたな、緋乃子」
「…はぁ……はぁ……は……ぁ………あ…り…がとう…ございま……す」

 店主は、少女の頭を軽く撫で、ほんの少し表情を緩めたようだった。
「では、これからお持ち帰りの梱包をいたしますので、お客様は表の部屋でお待ちください」
「え、ええ……。分かりました」
「あの、はじめ……様?」

 薄っすらと目を開けた少女が、こちらの方を見上げている。

「え?」

 枷を外された少女の右手がすっと伸び、ベッドの脇に立つ僕の手を握る。その柔らかくて暖かい
手は、じっとりと汗で湿っていた。

「優しく、してくださいね?」

 答える前に、店主の手が振り上がり……。

 ごんと大きな音が室内に響き渡る。

「いっ……たぁ〜〜っ。ドクター、痛いです〜」
「痛いのはこっちの手だ。訳の分からんことを言うんじゃない」
「でも、これはお約束と言うもので………ああ、ごめんなさいっ! ……って……あああ〜っ」

 再び手を振り上げようとするドクターの姿に、少女は両手で頭を押さえようとして、その反動で
上半身がベッドから転げ落ちそうになる。

「一度頭から落ちてみろ。打ち所によっては、少しはましになるかもしれん」
「ドクター、それ、どういう意味ですか!?」

 両手でシーツを掴んで、あわや転落という寸前で踏ん張っている少女。彼女には分からなかった
かもしれないけれど、店主がとっさに手を伸ばして彼女を受け止めようとしたのは、見なかったことに
しておこう。
「失礼しました。どうぞ、表へ」
「はい」

 店主と少女の間には、何人たりとも割り込む隙は無いようだ。湧き上がる羨望の想いを宥めながら、
ベッドに背を向けて仕切りを隔てた表の店へと歩みだす。


***


「では、お借りします」
「はい。よろしくお願いします」

 店主が大きな包みを台車に載せて奥の部屋から出てきたのは、それから10分ほどたってからの
ことだった。バッテリーの一部を取り外して軽くなっているとはいえ、40kg弱もある義体の下半身。
用意してきたカートに載せかえて、車までたどり着くだけでも一仕事だ。でも、これがあの彼女の
モノであるならば、どれほど重かろうとも苦にはならないだろう。

 そして、家に帰り着いたその先は……。

 ベッドの上の少女の姿を思い出し、前にも増して強い快感が背筋をぞくりと這い上がった。

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