東方キャラとウフフにイチャつくまとめ

「あっ、しまった……!」
 
仕事場からの帰り道、○○は何かに気付き悔やむような声を上げた。
今日は弥生の十四日である。
外の世界では3月14日、つまり――。
 
「アイツへのプレゼント買うの忘れてた……」
 
男性が女性にチョコレート等のプレゼントを贈る日、ホワイトデーであった。
バレンタインデー共々幻想郷には無かった習慣だが、外の世界から流れ着いた雑誌の情報やらそれを広めた新聞の影響もあってか今ではすっかり定着している。
例に漏れず、○○も先月のバレンタインデーに愛しい恋人からチョコレートを貰っていた。
それも、愛情の詰まった手作りの物を。
だから、気が付いてしまった以上無視する訳にもいかなかった。
 
「いや、気付かなかったら無視して良い訳でも無いけどよ……」
 
誰に言うでもなく、○○は独りごちた。
見上げてみると空は赤みが掛かり、ゆっくりと宵闇が迫っていた。
段々と春が近づいているとはいえ、まだ日が落ちるのが早い。
プレゼントを買うなら、早めに行かなければ帰宅すらままならなくなってしまうだろう。
 
「……さっさと行くか」
 
○○は人里に踵を返し、向かう事にした――。
 
 
夕暮れ時の人里は、大勢の人で賑わっていた。
帰路を急ぐ者、夕食の食材を買い求める者、これから夜の仕事に向う者。
店の者も書き入れ時なのが分かっているからか、店先で声を張り上げて客引きをしている。
その往来を通りの端から眺めつつ、○○は思案していた。
 
「来たは良いが……チョコレートなんて売ってるのか?」
 
貰った時には考えてもいなかったのだが、彼女は一体どうやってチョコレートを手に入れたのだろうか?
バレンタイン後の男達の話を聞く限り、それなりの女の子が所持していた事になる。
女子は女子間で何か特別な流通ルートがあるのかもしれない。
となると、今この人里でチョコレートを手に入れるのは少し難しいのかもしれない。
しかも当日に、である。
 
「仕方ない、和菓子で勘弁してもらうか……」
 
いささか不釣合いな気もするが、仕方がない。
背に腹は代えられぬのだ。
少なくとも何も持たずに手ぶらで帰るよりは遥かにマシだろう。
そう考え甘味処で適当に何か見繕ってもらおうとした時、ふと気になる物が目に入った。
 
「……何の人だかりだ?」
 
見ると道端に露店を出しているらしく、人だかりが出来ていた。
――その人だかりが全員男なのが妙と言えば妙だったが。
気になった○○は何が売っているのか覗いてみる事にした。
 
「ちょっと御免よっと……ん?これは……」
 
人垣を掻き分け、露店の机の前まで這い出た○○が見た物はよく見知った物であった。
 
「これは……チョコレートじゃねぇか……」
 
光沢を持つ茶色の物体、今まさに○○が探し求めていた物であった。
小さな袋に詰められたちょっとした物から、紙箱に収納されているしっかりした物まで様々な種類が並んでいる。
 
「さあさあチョコレートは要らんかい〜?気になる女の子への贈り物に最適だよ〜!」
 
この露店の主と思われる少女が声を上げて客引きをしている。
毛先が肩に届く位の、少し癖のある黒髪。
この時期にしては少し寒そうに見える桃色のワンピース。
だが、一番目を引くのは頭から生えている一対の兎耳である。
それが、彼女が人間では無い事を証明していた。
 
(確か、因幡てゐ……だったか?)
 
迷いの竹林でたまに見かけられる妖怪兎、それが彼女だ。
なんでも人間を幸運にする程度の能力を持っているらしい。
なるほど、今の状況を考えると確かに幸運と呼べるのかもしれない。
だが、同時に詐欺染みた悪戯を行う事でも有名であった。
現にそれは売られているチョコレートの値段にも表れていた。
 
「……ぐぇ」
 
思わず○○は変な声を出して呻いた。
チョコレートのその絶妙に高い値段を見たからだ。
しかも性質が悪いのはすっぱりと諦めが付くほどの値段では無く、買い手の心を惑わすような微妙な高価さで設定されている事だ。
確かに無理をすれば買える、買えるのだが――。
○○は顔を上げ、怪訝そうな表情でてゐを見た。
 
「ん、どうしたのお客さん?」
 
てゐはニヤニヤと人を食ったような笑みを浮かべる。
恐らくは○○が何を言いたいのかもお見通しなのだろう。
むしろ、お見通しだからこその態度なのかもしれない。
 
(こいつ、完全に足元見てやがるな……)
 
商売において重要なのは需要と供給のバランスだ。
供給が少なく、需要が高ければ値段は自然と吊り上がる。
そしてそれが今目の前で少し極端に起こっているだけなのだ。
見ると周りの男共も皆似たような顔をして悩んでいる。
恐らく○○と同じく値段を見て躊躇しているのだろう。
 
(くそ、仕方ねぇ……)
 
踏ん切りを付けた○○はチョコレートを梱包した紙箱を一つ指さした。
 
「……これ、一つ」
「ハイ、お客さん一つお買い上げ〜!」

紙箱を受け取る代わりに代金を支払う。
 
(しばらくは昼飯ケチらないとダメだな……)
 
心の中で一つため息を付く。
だが、探していた物が手に入ったのだ。
まずはそれを喜ぶ事にした。
 
「お、俺も!」
「ワシも!」
「ぼ、僕も!」
 
○○の購入が切っ掛けになったのか、周りで買おうか悩んでいた男達が一斉に殺到し始めた。
ここにいては邪魔になると思った○○は露店の前から去ろうとした。
 
「あ、そうそうお客さん」
 
不意に○○はてゐに呼び止められた。
何事かと振り返ると、先程浮かべていたニヤけ顔を再び浮かべている。
 
「それをあげる女の子と今夜よろしくやりなね〜」
 
○○にはてゐの言っている意味がよく分からなかった。
だが、聞き返そうにも既に彼女は他の客との対応に入ってしまったので諦める事にした。
 
「……まあいいや、さっさと帰ろう」
 
時間も丁度良い頃合いになっている。
今から帰れば問題無く家に辿り着けるだろう。
目的も果たせた○○はそのまま帰路に就く事にした。
だが、今の○○はまだ分からなかった。
てゐの意味深な言葉の意味を。
そして、○○が手に入れたチョコレートによって何が引き起こるのかを――。
 
 
家への帰り道、○○は購入した紙箱を軽く掲げてぼんやりと眺めていた。
 
「さて、どうやって渡したもんかな」
 
以前のバレンタインデーの時には満面の笑みを浮かべた彼女に、ストレートに渡された。
ならばこちらも満面まで行かないでも笑顔を浮かべながら渡せばいいのだが、正直少し恥ずかしい。
あそこまでニコニコしながら渡せたのは天真爛漫という言葉が似合う彼女の性格があるからだろう。
かと言ってぶっきらぼうに渡すのもそれはそれで味気無い。
などと悩んでいる内に自宅の前まで着いてしまっていた。
 
「……まあ、普通に渡すか」
 
その普通が上手く出来るか分からないから悩んでいたのだが、不思議と考えはまとまっていた。
変に凝らずに何気なく渡してしまえば良いのだ。
そう心に決めた○○は、戸に手を掛けるとゆっくりと横へと引いた。
 
「ただいま〜」
「あ、おかえりなさ〜い!」 
 
台所の奥から嬉しそうな声が聞こえた。
しばらくすると、その声の主がこちらに向かって駆け寄ってきた。
白い衣服に身を包んだ金髪の少女。
背中から生えている薄い羽根が彼女が人間で無い事を物語っていた。
 
「ただいま、リリー」
 
幻想郷に春を告げる春告精、リリーホワイト。
彼女が○○の大切な恋人であった。
大好きな○○を出迎えたリリーはニコニコと笑顔を浮かべる。
一切の邪気が無い正しく無邪気な笑み。
それを見ていると仕事の疲れが癒されていくのを感じた。
思わず苦笑するように息を漏らすと、○○はリリーの頭へゆっくりと手を伸ばした。
そして出迎えてくれたお礼をするようにゆっくりと撫でてやる。
心地が良いのか、リリーは気持ち良さそうな声を漏らした。
渡すなら今がチャンスかもしれないと○○は思った。
 
「ああそうだ、これ」
 
努めて何気ない様にしまっておいた紙箱をリリーに手渡す。
やたらと悩んでいた割には上手く渡せたと思った。

「はぇ?なんですか〜これ?」
 
手渡された紙箱をリリーは不思議そうな顔をしながら受け取った。
 
「まあその、あれだ……先月のお返しだ」
 
あと日ごろ一応世話になってるからな、とほとんど呟くように続けた。
無意識の内に視線を逸らし、頬を指で軽く掻いたのは照れ隠しだったのかもしれない。
言われた直後はきょとんとして首を傾げていたリリーであったが、すぐにこの贈り物の意味を察したらしい。
感激し、とても嬉しそうな満面の笑顔で○○の身体へと飛びついてきた。
 
「おわ!?な、なんだよ?」
「ありがとうございます〜!!」
 
全身で喜びを表すかのように、身体を密着させて擦り付けてくる。
とにかく喜んでもらえたようで何よりだ。
 
「大げさな奴だな、先月のお返しなんだからそんな大層なもんじゃねぇよ。お前のみたいに手の込んだ手作りでも無いしな」
「そんな事無いですよ〜。リリーは○○さんから貰えたのがすっごく嬉しいんです」
 
そう言いながら笑うリリーは本当に嬉しくて幸せそうだった。
○○としても自分の想像以上に喜んでもらえて悪い気はしない。
満足したのか、○○から身体を離したリリーは笑顔で見上げてきた。
 
「ありがとうございます、○○さん」
「お、おう……」
 
面と向かって改めて礼を言われると少し気恥ずかしかった。
全身がこそばゆい感覚を覚える。
だが、嫌な感覚では無かった。
 
「じゃあこれはもう少しで晩御飯が出来るから、ご飯を食べた後に食べましょうね〜」
 
そう言うとリリーは再び台所へと戻って行った。
○○も食事の準備をする為に、家へと上がった――。
 
 
食事を終えた○○は穏やかな時間を過ごしていた。
リリーの手作りの料理は今日もまた美味かった。
思わず満足げに息をゆっくりと吐き出す。
一方のリリーは台所で食器を洗って食事の後片付けをしている。
後姿しか見えないが、鼻歌混じりに食器を洗う彼女はどこかご機嫌そうだ。
この後食べる予定のチョコレートが楽しみなのかもしれない。
それとも、そもそもそのチョコレートを貰えた事が嬉しかったのか。
とにかく、今のリリーはとても楽しそうだ。
そんな彼女を見ていると、○○の顔にも自然と笑みが浮かぶ。
やがて洗い物が終わったのか、リリーがこちらに向かって来た。
ニコニコと嬉しそうにしながらリリーは○○の隣へと腰を下ろした。
 
「いや、なんでこっち来るんだよ。向こう側座れよ」
「え〜、良いじゃないですか〜」
 
わざわざ隣――それもぴったりと寄り添うように――に腰を下ろしたリリーに抗議をするが、そんなものはどこ吹く風だといった感じである。
もっともこれは日常茶飯事な出来事で、○○は毎回抗議している。
それを軽く受け流して、結局隣に座るのが毎度の流れであった。
言うなれば、二人の間のお決まりの挨拶のようなものなのだ。
事実、何だかんだ言いつつも○○も満更では無い顔をしている。
男と言うのは中々に繊細で非論理的な生き物なのだ。
腰を下ろしたリリーは大事そうに○○から貰った紙箱を取り出した。
まるで高価な陶器を手渡されたかのようだ。
  
「え、えと、開けて……良いですか?」
 
それでいて胸が躍るのを抑えられない子供の様にリリーが聞く。
わざわざあげると言って手渡したのに律儀に許可を求めてくる彼女の姿が少しおかしく思え、○○は思わず苦笑を浮かべた。
 
「別に俺に聞かなくても良いって。お前にあげたもんなんだから」
「じゃ、じゃあ開けますね〜」
 
リリーは紙箱の包みをゆっくりと丁寧に解いていく。
それは○○から貰ったプレゼントを例え包み紙であっても雑に扱いたくないという心の表れだったのかもしれない。
包み紙を綺麗に解き切ったリリーはゆっくりと紙箱の蓋を開ける。
 
「わぁ……!」
 
そしてその中身を見て思わず感嘆の息を漏らした。
箱の中は仕切りで均等に分けられており、その部屋一つ一つに手ごろなサイズのチョコレートが収まっている。
それほどの大きさでは無いが一つ一つ形が少しずつ違っており、凝っているのが見て分かった。
表面が光沢を塗ったかの様に綺麗に光を反射している。
さながら一種の芸術品かと見紛う程の出来だった。
ほんの少しだけ、食べるのが勿体無いとリリーは思った。
だが、食べ物は食べなければ意味が無いのだ。
そう考えながらリリーは箱の中のチョコレートを一つ摘まんだ。
指先につるつるとした感触が返ってくる。
 
「それじゃあ、いただきま〜す」
 
そのままリリーはチョコレートを口に含んだ。
目を閉じてゆっくりと味わうように咀嚼する。
 
「ど、どうだ……?」
 
思わず○○は彼女に感想を求める。
自分が作った訳では無いが、やはり味がお気に召したかは気になる。
これで美味くないようなら明日永遠亭にまで文句を言いに行く気概であった。
だが、その必要は無さそうだった。
 
「ん〜、とっても美味しいです〜!」
 
顔を綻ばせてリリーが喜ぶ。
どうやら、味の問題は無かったらしい。
安心した様に軽く息を吐いた。
 
「一体これどうしたんですか〜?」
「……まあ、ちょっとな」
 
てゐから買った事は黙っておいた。
悪戯に定評のある妖怪兎から買ったと聞いたら変な印象を与えるかもと思ったからだ。
ついでに金額の事も黙っておく事にした。
かなりの身銭を切って買った事を知ったらリリーの事だ、変な気を遣うと思ったのだ。
結果としてこんなに喜んでもらえたのならそれ相応の金額を出した甲斐があったというものである。
 
「こんな美味しいチョコレート初めて食べましたよ〜。○○さん、ありがとうございます〜」
「あ、ああ。まあ、気にすんな」
 
笑顔でお礼を言われ、思わず○○は軽く狼狽してしまった。
無意識の内に視線を逸らす。
それには特に気付かずリリーは二個目のチョコレートを摘まみ、口に運ぼうとする。
だが、口に入れる直前に何か思いついたようだ。
 
「良かったら○○さんも一緒に食べませんか〜?」
「お、良いのか?じゃあ一個……」
 
一個貰おうとチョコレートに手を伸ばそうとした時に、リリーが持っていたチョコレートを近づけてきた。
 
「あ〜ん」
「…………」
「あ〜ん」
「……」
 
思わず閉口する。
リリーが何をしたいのかはよく分かる。
分かるから閉口したのだ。
そんなこっ恥ずかしいやり取りをするつもりなど毛頭無い。
抗議の意味も込めて仏頂面で黙り込む。
だが、そんな行為がリリーに通用する訳も無く。
 
「あ〜ん」
「……んあ」
 
彼女の笑顔に負けて、口を開ける事となった。
屈辱的敗北である。
やはり男という生き物は惚れた女の笑顔と涙には勝てないのだろう。
口の中に入れられたチョコレートを噛むと、僅かな歯ごたえと共にすぐ噛み切れた。
そのまま咀嚼して口の中で溶かす。
心地良い口溶け、まろやかな甘味。
本能的に幸福感を感じた。
和菓子には無いこの独特な食感が病みつきになりそうだ。
口溶けを堪能した○○は、既に液体になったチョコレートを飲み下した。
 
「……美味いな」
「はい、そうですね〜」
 
リリーは自分の事の様に嬉しそうにする。
その様子を見ていると、自分の中の毒気が抜けていくような気がした。
思えば先程までゴチャゴチャと考え込んでしまっていた気がする。
だが、リリーの嬉しそうな姿が見れるだけでそんな物はどうでも良くなってきた。
 
(やっぱ買って来て良かったな……)
 
二個目のチョコレートを食べながら○○はそう思った――。
 
 
その後、二人はしばし甘い一時を過ごした。
いくつかあったチョコレートも二人で食べたので、半分ほどになっている。
いつもならそろそろ風呂にするのに丁度良い時間だ。
だが、今○○はそれを行動に移そうとしていなかった。
何か、自分の身体に妙な違和感を感じていたからだ。
 
(なんだ……?妙に暑いな……)
 
何故かは分からないが身体が火照っているのが分かった。
風邪かとも思ったが、それにしては身体のダルさが無い。
○○の気付かない内に動悸が激しくなり、呼吸が荒くなる。
そして自分の躰の内で何かが蠢いているのが分かった。
生き物としての本能、雄としての本能。
それらが○○の中で出口を求めて渦巻いていた。
やがてその衝動は○○の下腹部――股座に収束していく。
 
(なんだこれ……なんなんだこれ……?)
 
自分の身体の事なのに何が起こっているのか分からなかった。
何故この瞬間にいきなり獣欲を持て余しているのか自分でも説明が自分でも出来なかったのだ。
思わず○○はリリーの方を見る。
それはリリーにも何か変化は無いか確かめるという理由もあった。
だが、一番の理由は滾る獣欲の発散先を無意識の内にリリーに求めてしまっていたからかもしれない。
 
「リリー……?」
 
押し殺し、呻くような声で名前を呼ぶ。
その声に反応したのか、リリーがゆっくりとこちらを向く。
 
「ぁ――……」
 
上気した顔、トロンとして潤んだ瞳、軽く開かれた唇の間から吐き出される熱っぽい吐息。
それらが彼女が今どんな状況なのかを雄弁に語っていた。
脱力しているのか、少し頼りなく見える姿勢はむしろ幼い身体付きにそぐわない妙な艶やかさを醸し出していた。
まるで雌が雄を誘い、発情させるような――。
不意にリリーと目が合った。
 
「――っ」
 
その瞬間、○○の股座にゾクリとした物が走った。
思わずゴクリと喉が鳴った。
劣情を催しているのが自覚出来た。
本能的に血流がそこに集中し始める。
 
「…………」
「…………」
 
その間に言葉は無かった。
そんな物が無くてもお互いに何を考え、何を求め、何をしたいと思っているのかが分かったからだ。
勘や経験からの推測では無い。
生き物の遺伝子レベルに刻まれた生存本能が潜在意識下で二人に訴えかけているのだ。
その訴えを感受したのか、リリーがゆっくりと動き出した。
ゆっくりと緩慢な動きで○○に向かって這い進む。
そのまま○○の身体に縋りつくかの様に這い上ってきた。
リリーが腕を首に回して身体を密着させてくる。
○○もまた、それに応える様に腰に手を伸ばして抱きしめてやる。
彼女もまた躰が火照っているのか、少し熱く感じた。
リリーが顔を近づけてくる。
ゆっくりと、ゆっくりと――鼻頭同士が触れ合いそうな程に。
彼女が吐く熱っぽい吐息と、○○が吐き出した吐息が絡み合う。
こちらを見つめるリリーの瞳は潤んでおり、ぼんやりとだがその視線の先にいる○○を映し出していた。
――きっと彼女の目に映る自分も、目の前の彼女のような表情をしているのだろうか?
ぼんやりとそんな事を考える。
ここまで来てリリーが何をしようとしているのか分からない訳は無い。
彼女の瞳を見つめながら、○○はその時をただじっと待つ。
やがてリリーがゆっくりと目を閉じた。
そのまま顔を寄せてくる。
それに応える様に○○も目を閉じ、ゆっくりと自分の顔を軽く前へと差し出す。
 
「んっ……」
 
二人の唇が触れ合った。
柔らかな感触が伝わってくる。
唇で相手のそれを軽く挟み、啄んでその柔らかさを堪能する。
不意にリリーの舌先が○○の唇に触れた。
小さな舌先を差し出し、じゃれる様に彼の唇を舐ってくる。
○○もそれに応えてやる様に、舌を少しだけ差し出す。
自然と舌先同士が触れ合った。
舌先同士を擦り合わせたり、絡ませてみたり、唇で挟んで軽く吸い立てたりする。
まるで仲睦まじい男女の番が、親愛を深め合う為にするキス。
先程までの二人の興奮具合から見たらむしろ穏やか過ぎる風に見える程だ。
だが、勿論二人もこの程度のキスで満足するはずも無い。
お互いの中に存在する獣欲は鎮まるどころか、むしろますます猛り狂っていた。
呼吸をする為か、一旦リリーが顔を離す。
とろんとした目でこちらを見つめてくる。
その情欲に濡れた瞳が何を訴えているのか、分からない訳が無かった。
刹那、リリーがいきなり顔を近づけてきた。
そのまま○○の唇を奪う。
先程の唇でじゃれ合う恋人同士の様なキスでは無い。
相手を捕食し、欲望の赴くままに貪る。
そんな表現が相応しい口付けだった。
 
「はむっ、んじゅ、じゅる、じゅるる、んふ、んちゅ、じゅ……」
 
淫猥な水音が、口元から響く。
互いに唾液を塗した舌を絡ませ合い、妖しく蠢かす。
にゅるにゅるとした感触、そして相手の舌と擦り合わせているという事実に興奮が高まる。
激しさからか、口内に分泌された唾液が口端から漏れ出る。
漏れ出た唾液は顎を伝って垂れ、二人の口元を汚した。
だが、そんな事にも構わず二人は情熱的なキスを続ける。
 
「ぷはっ、はぁ、はぁ……」
 
呼吸をするのも忘れる程没頭していたのだろうか、リリーが口を離して大きく喘いだ。
○○とリリーとの口の間に、銀色の糸が幾多も掛かる。
それが二人の興奮具合と、口付けの濃厚さを物語っていた。
 
「○○さん……私、なんだか変なんです……」
 
息を絶え絶えにしながら、リリーが話す。
涙に濡れた瞳は、何かを懇願している様であった。
 
「さっきから私、躰が熱くて……頭がぼーっとして……なんだか切ないんです……」
 
リリーが両手で○○の腕を掴んだ。
そして、その腕を自身の胸元へと導く。
無意識の内に○○は彼女の乳房を鷲掴みにしていた。
雄の本能に渇望する様に刻まれた魅惑の柔らかさが伝わってくる。
思わず夢中になり、掴んでいる手で揉みしだく。
 
「んんっ……!?んぁ……」
 
突然与えられた刺激にリリーの口から思わず声が漏れた。
その声に驚きの色はあれど、嫌がるような気配は毛頭無かった。
むしろ、悦びの色がありありと見て取れた。
 
「○○さぁん……あっ、んっ……」
 
顔をだらしなく蕩けさせながら、リリーが甘えたような声で○○の名を呼ぶ。
雄を惑わし、誘惑する魔性の声。
そんな声で甘えられて我慢出来る男がいるはずが無かった。
 
「んむっ、んんっ!?」
 
○○は強引にリリーの唇を奪うと、そのまま押し倒した。
いきなりの事に驚き目を見開いていたリリーだったが、すぐに状況を理解したようだ。
身を委ねる様に目を閉じる。
 
「じゅ、じゅる、んぐ、はむ、ちゅ、じゅるる……」
 
リリーを押し倒し、四つん這いで覆い被さった○○は、その状態で彼女の咥内を凌辱する。
先程までのキスと違うのは、位置関係的に○○が絶対的な主導権がある事だ。
床へ押し付けるかのような口付けをする。
雌を屈服させているという事実が、○○に醜悪な満足感を与える。
一方のリリーも大好きな雄に為すがままにされ、凌辱染みた事をされているという事に悦びを感じていた。
リリーの咥内を好き勝手に貪っている○○だが、貪りつつも手をリリーの服へと伸ばす。
そのまま片手で器用に衣服のボタンを外していく。
やがて全て外し終えた○○は、一旦リリーを解放した。
肌蹴られた衣服の隙間から、桜色の下着が垣間見える。
直接的に裸体が見えている訳では無い。
だが、見えないからこそ滾る興奮もある。
もはや○○の思考回路は興奮で焼き切れる寸前であった。
荒い呼吸を何度も繰り返し、辛うじて自我を保っている状態である。
だが、その自我は僅かな切っ掛けさえあれば崩れてしまうだろう。
不意にリリーが腕を伸ばしてきた。
○○の首に腕を回し、ゆっくりと引き寄せる。
そして耳元に唇を近づけると、囁いた。
 
「来てください……」
「――!!」
 
全身が一瞬で鳥肌立った。
女が男を惑わし、狂わせる一言。
今の○○には、それは十分過ぎる程に効果がある一言であった。
そこからの事はあまりよく覚えていない。
無我夢中でリリーの衣服を乱暴に剥ぎ取り、素裸に剥いた事だけは覚えている。
ほんの少しだけ冷静さを取り戻した○○の眼前には、柔肌を全て晒したリリーが横たわっていた。
彼女は相変わらず蕩けた顔で笑みを浮かべている。
まるでこちらを誘うかの様に、恋しがるかの様に、慈しむかの様に。
先程と違って顔が赤いのは、裸体をこちらに晒しているからだろうか?
思わず○○は唾を飲み込む。
こんなものを見せられ猛らない男がいるだろうか?
いや、いる訳が無い。
居るはずが無い。
子孫を残すという原初の生物的本能に逆らえる生き物など、居ないのだから。
もはやする事は一つしか無かった。
○○は着ていた衣服を乱雑に脱いだ。
勿論、自分の股座も包み隠さず晒す。
既に○○の股座の逸物は痛いほどに怒張していた。
獲物を求めて鎌首を擡げている。
 
「わぁ……」
 
リリーが歓喜と驚きを含んだため息を漏らした。
ゆっくりと○○がリリーに覆い被さる。
怒張した逸物の先端を、リリーの秘所へと宛がう。
彼女のそこは既に十分なほどに濡れており、○○を受け入れる準備は出来ていた。
平静を装う為に口を無理やりに閉じる。
だが、食いしばった歯の隙間から漏れる荒い息は抑えられない。
 
「……いくぞ」
 
呻くように絞り出された声。
今の○○には、その言葉が精一杯だった。
リリーの答えも聞かずに腰を突き出した。
 
「〜〜ッ!!」
 
いきなり与えられたあまりの刺激に、リリーは思わず躰を仰け反らした。
口からは声にならない嬌声が漏れる。
膣壁が締り、○○の肉棒を刺激する。
あまりの快感に、彼の口から情けない息が漏れた。
だが、何とかすぐに絶頂を迎えてしまう事だけは避ける事は出来た。
こんな事で達してしまったら男としてのメンツに関わる。
しばらくすると与えられていた刺激の波が去ったのか、リリーはゆっくりと脱力した。
ハアハアと荒い呼吸をしながらも、じっとこちらを見つめてくる。
その目には快楽からか涙が溜まっていた。
ふるふると震えるおぼつかない腕をゆっくりとこちらに伸ばしてくる。
リリーの両手が、○○の頬を包む。
まるで母親が愛おしい我が子を愛でるかのように、優しく頬を撫でた。
 
「○○さ、ん……」
 
快感に息を詰まらせながら、愛しい彼の名を呼ぶ。
その表情は、情事に似つかわしくない程の慈愛に満ちた笑みだった。
 
「リ、リー……」
 
○○も彼女の名を呼び返す。
それは無意識の内の行動だったのかもしれない。
○○は繋がったままゆっくりと顔を近づける。
リリーが何かを期待するかの様に熱い吐息を吐いた。
その期待に応える様に、○○はゆっくりと唇を重ねた。
 
「んっ……」
 
リリーが歓喜の息を漏らした。
閉じられた目元から涙がこぼれ落ちる。
唇の間から舌先を軽く出し、リリーの唇を舐る。
それに応じる様にリリーも舌を出した。
やがて、舌同士を絡め合わせ始める。
同時に、○○が腰をゆっくりと動かし始めた。
 
「んんぅ……!」
 
リリーが嬌声を漏らすが、口を塞がれているためくぐもった声にしかならない。
それでもリリーは舌を突き出し、濃厚な口付けを必死に続ける。
○○もその舌の動きに応えながら、段々と腰の動きを速めていく。
 
「んんっ、んあっ、はむ、じゅっ、じゅる、ふっ、んっ……」
 
膣内を抉られる度に息を詰まらせ、口端から声が漏れる。
だが、それでもリリーは口付けを決して止めようとはしなかった。
それは○○に負けじと、という心の表れなのかあるいは――。
――あるいは、さらなる快楽を求め望んでいるからなのか。
下の口からはグチュグチュと淫猥な水音が響く。
膣内は収縮を繰り返し、○○の肉棒に刺激を与え続ける。
まるで早く精を放ってくれと強請っているかのようだ。
一方の上の口からも粘ついた水音が響き続けていた。
互いに舌を、唾液を、快楽を求め合い貪り合う。
上と下、両方の口を互いに慰め愛し合う。
もはや二人の行為は獣の交尾と言っても過言では無かった。
もっと欲しい、もっと貪りたい、もっと愛し合いたい。
肥大した欲求は更なる欲求と飢餓感を呼び起こす。
だが、それも終わりに近づきつつあった。
不意にリリーが躰を捩って口を離した。
目に涙を湛え、泣きそうな表情でこちらを見てくる。
 
「わた、し……もう、イッちゃ、あっ……!!」
 
限界が近い事の訴え。
それは○○も同じであった。
腰の辺りを支配する甘い痺れ、それが段々と大きくなりつつあるのを自覚していた。
もうすぐ、自分も限界に達するだろう。
○○はゆっくりと躰を倒し、リリーの頭を腕に抱くようにした。
 
「いいぜ……俺も、もう……」
 
抱きしめた頭の耳元で囁く。
同時にラストスパートとばかりに腰を激しく動かし始めた。
 
「あっ、あっ、んん、○○、さ……!!」
 
耳元でリリーの喘ぎ声が聞こえる。
――この女をもっと啼かせたい。
その一心で○○は腰を動かし続ける。
腰から背筋に這い上がってくる射精感を必死に食いしばって我慢する。
粘液をかき混ぜる水音、肉同士がぶつかり合う音、そして男女の荒い息遣いだけが部屋に響く。
もはや何も説明は要らない。
あとは二人で昇り詰めるだけだ。
そして、その瞬間は訪れた――。
 
「イク、イッちゃ、あ、あぁ――!!」
 
暴力的な快楽の波がリリーを襲う。
四肢が引き攣り、躰が仰け反る。
同時に膣内が激しく収縮した。
もはや限界まで登り詰めていた○○がその刺激に耐えられるはずが無かった。
 
「ぐ、あぁ……」
 
獣が慄く様な呻き声。
同時に○○はリリーの膣内へ精を放った。
肉棒が脈動し、精を吐き出す。
その動きに連動して全身に雄として最上級の快楽が電撃の様に走り巡る。
あまりの快感に、口から喘ぎ声が漏れるのを止める事が出来なかった。
永遠に続くかと思われた至福の瞬間。
だが、やがて快感はゆっくりと引いていった。
ぜえぜえと息を切らしながら、○○は躰を起こした。
リリーの顔を覗き込むと、どうやら彼女はまだ快楽の海を漂っているらしい。
時折躰を痙攣させ、幸せそうな声を漏らしていた。
○○は労を労う様に優しくリリーの頭を撫でてやる。
汗で張り付いた前髪を除けてやると、リリーはとろんとした笑みを浮かべた。
 
「○○さぁん……」
 
うわ言の様に発せられた言葉。
それは意識して発しているのか、無意識の内に出たのかは分からない。
○○は言葉に応える様に軽く唇へ口付けをした。
肉棒を引き抜くと、○○は四つん這いでリリーから少し離れた。
 
「…………」
 
絶頂に達した事によって○○の中に少し冷静さが戻った。
未だに躰は熱いし、股座の逸物は怒張しているが意識だけはいつもと同じ状況である。
 
「……一体何だったんだ……?」
 
自分とリリーに起こったこの謎の興奮、いや発情と言っても良い。
こんな事が起こるのは初めてだ。
一体自分たちの身体に何が起こったのか、何が原因なのか○○は必死に思考を巡らす。
ふと、○○の目に気になる物が留まった。
それは今日買って来たチョコレートを梱包していた紙箱。
その紙箱の蓋である。
開けた時には気付かなかったが、蓋の裏に何か張り付いている。
 
「……封筒?」
 
なぜこんなものが張り付いているのかは分からない。
だが、とにかく○○はその封筒の中身を確認してみる事にした。
封筒の中身は紙が一枚。
そこには文字が書かれていた。
 
『チョコレートの中に良い雰囲気になる薬を入れておいたよ。これで彼女と熱い夜を過ごしてね』
 
思わず○○は封筒ごと手紙を握り潰した。
 
「あの妖怪兎がぁ……!!」
 
今なら分かる、このチョコレートを買った後のあの意味ありげな笑みの意味が。
まんまと高い金でチョコレートを買わされ、あまつさえこんな悪戯染みた事もされた。
明日永遠亭まで直接乗り込んで抗議してやろうか、と○○の怒りは収まらない。
そういえばまだチョコレートは残っていたはずだ。
これ以上厄介毎に巻き込まれてたまるか。
あのチョコレートは早急に処分せねばならないと思った。
 
「おいリリー、そのチョコレートは……んむっ!?」
 
○○の言葉は途中で遮られた。
何故ならリリーが突然キスをしてきたからだ。
そのまま○○は仰向けに押し倒される。
彼女が口移しで何かを○○の口内へ流し込んできた。
ドロドロしていて甘く、そしてほんの少しだけ苦みのある液体。
反射的にその液体を飲んでしまった○○はすぐに液体の正体を悟った。
躰が燃える様に熱くなり、心臓がドクドクと音を立てて鼓動し始める。
○○の腹の上に圧し掛かったリリーが楽しそうに笑う。
だが○○にははっきりと分かった。
リリーの瞳が情欲に蕩け切っているのを。
 
「○○さん……まだチョコレートが残ってますから……」
 
リリーがチョコレートを口内へ入れる。
そのままゆっくりと顔を近づけてきた。
 
「一緒に食べましょう……?」
 
チョコレートを口に含んだまま、リリーが口付けをしてきた。
突き入れられた舌に乗ったチョコレートが○○の口内へと押し込められる。
今の○○にそれを阻む気力などもはや残されていなかった。
そのチョコレートと共に、○○の理性もゆっくりと融かされていった――。
 
 
その日、幻想郷には桃色の雰囲気が漂っていた。
原因は言うまでも無くあのチョコレート。
愛しい人に贈った青年、ちょっと気になっている子に贈った少年、日頃の感謝を込めて贈った男性。
その全員が漏れなく情事に没頭していたという。
後日この日起こった事はちょっとした事変として新聞で特集されるのだが、それはまた別のお話――。


メガリス Date:2016/03/14 23:41:54

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