東方キャラとウフフにイチャつくまとめ

 深い森にひしめく巨樹のようにそびえる本棚の間を、一つの影が滑るように動いていた。
 影の向かう先からはささやきのような、それでいて力のこもった声が響いてくる。

「…………………………」

 ほどなくして、本棚の前にたたずむ人影のようなものが見え始めた。
 祈りをささげるかのごとくうつむいているが、決してそうではない。
 その声ににじみ出る感情は、祈りという表現が似合わない生々しさがある。

「『大丈夫?』
 自分の下にいる少女の顔を見つめながら、少年は気遣わしげに声をかける。
 一糸まとわぬ彼女の身体はきゃしゃで、これからしようとしていることに耐えられないの
 ではないかと不安になる。
 『うん……平気』
 微笑みながら答える少女の声は、しかしわずかに震えていた。
 『なるべく、優しくするから』
 初めての経験に不安が抑えられないが、相手はもっと不安なのだろう。
 安心できるように、努めて柔らかく声をかけると、少女の身体をそっと覆うようにして、
 少年は静かに自分の身体を沈めていった。
 少年の分身がゆっくりと、まだ誰も踏み込んでいない少女の秘奥へ進んでいく」

 呪文を詠唱するように続く声の主が気付かぬうちに、影はそっとその背後に忍び寄る。

「『――っ!!』
 わずかな抵抗があったがそれもすぐに失われ、腰が沈みこむのと同時に、少女が顔を歪め
 て声なき声を上げる。
 『……痛い?』
 少年は少女の苦しそうな表情に思わず動きを止めた。
 繋がった身体の隙間から、紅い血が流れている。
 『大丈夫、だから……そのまま、して』
 けなげに応える少女が愛おしくて、少年はそっと唇を重ねた」

 声の主は、手にした一冊の本を読み上げているのだった。
 もはや念じるかのように熱を込めながら、その声は次第に大きくなっていく。

「『だい、じょうぶ、私も、なんだか、だんだん身体が熱くなって……』
 上気した顔でしがみついてくる少女を抱きしめながら、少年も快感がこみ上げてくるのを感じて」
「……ちょっと」
「『僕、も……』下腹で膨らんでいく熱が爆発しそうになるのを懸命にこらえつつ、少年はほとんど無意識に腰を」

 背後から近づいた影が、抑えた声で警告するが、
 警告を受けた当の本人は気付いておらず、熱心に音読を続けている。

「そこまで――」

 影が、手にした方形の物体を振り上げた。

「――よっ!!」
「いだっ!?」
 
 金属を仕込んだ表紙と骨がぶつかる鈍い音が響く。
 パチュリーが振りおろしたグリモワールが、文の頭に的確にヒットしていた。

「……痛ぁ」
「ちょっとこっちに来なさい」

 殴られたところを抑えて涙目になっている文の袖をつかみ、有無を言わせず引っ張ると、
 パチュリーは薄暗い通路を進んでいった。 



「まったく……それでなくても静かにしてほしいところなのに、そういうシーンの音読はやめてちょうだい」

 紅魔館の図書館。ちょっとした迷宮と言ってもいい広さの館内には、
 テーブルと椅子を備えた休憩用スペースが点在している。
 二人はそんな場所の一つに来ていた。

「あはは、すみませんつい熱中してしまって。……あぁ、まだ痛い」

 頭をさすりながら、文は勧められるのを待たずに椅子に座った。

「小悪魔から来てるとは聞いてたから、何かネタでも嗅ぎつけてきたかと思えば」

 呆れたようなため息をつくと、パチュリーも向かいに腰を下ろした。

「おや、ネタになる心当たりがあるんですか?」
「ないけど、あなたどこからネタを作り出すかわからないでしょうが」
「おやおや、心外ですね。文々。新聞はいつだって真実をお届けする新聞ですよ?」
「どうだか。まあそんなことより、よ」
 
 パチュリーの手が無造作に振られ、話題を打ち切る

「なんでわざわざ図書館に来て、小説の、その……濡れ場を読んだりしてるのかしら?」

 咎めるような口ぶりではない。が、答えないという選択は許されそうにない雰囲気がある。

「え? いやあ、ははは」
「ちゃんと相手がいるでしょうに」

 妖怪の山で文が外の世界出身の恋人――○○と暮らしていることは、紅魔館でも周知の事実らしい。
 だからこそパチュリーにとっては
 「十二分に実践しているはずなのに、何故そんなに熱心に文字情報を求めているのか」
 ということが疑問なのだろう。
 知識人というものは、抱いた疑問を放置したり諦めたりはしない。
 どうやら逃げられないと悟ると、文は仕方なさそうに口を開いた。

「まあその、なんです。たまにはこう、新しい風を吹き込んでみようかなと」
「新しい風って、あの辺りの本はそんなに上級者向けの内容はなかったと思うけど」
「いえいえ、むしろあれくらいの方が、一回りして参考になりますよ」
「へーぇ……」

 言葉の裏に匂わせた濃厚な性生活の詳細を想像しかけたのか、
 パチュリーの視線は明らかにうんざりした色を含んでいたが、
 それを注がれている文は気にした様子もなく胸を張る。

「ま、長く生きてますからね、そういうことについても豊富な知識があるわけですよ。
 なんだったら四十八手でも暗唱してみせましょうか?」
「……けっこうよ」

 顔をしかめてこめかみを押さえながら、パチュリーはテーブルの端にあった鈴を振った。
 十秒と経たない内に、書棚の暗がりから影が一つ進み出る。 
 控えていたのか、空間を転移してきたのか、姿を現した小悪魔が、テーブルの傍に来て一礼した。

「お呼びですか、パチュリー様?」
「紅茶を淹れてちょうだい。渋みの強い葉がいいわ」
「――かしこまりました」

 来た時と同じように、小悪魔は音もなく下がっていった。

「すみませんねえ、気を遣わせてしまって」
「あなたに出すつもりじゃないんだけど」
「またまたぁ、ははは…………で、ですね」

 言葉を切ると、文は椅子を引き、テーブルの対面に向かって身を乗り出した。

「なによ急に」
「パチュリーさんを知識人と見込んで、ちょっとお聞きしたいことがあるんですよ、そっち関係で」

 幾分ひそめた声で、文はそんなことを口にした。

「豊富な知識があるんじゃなかったの?」
「流石になんでもかんでもというわけには」
「ふぅん。どんなこと?」
「――――あの、ですね」

 文の表情は真剣で、
 肘を突いて組んだ両手にあごを乗せているパチュリーの気だるげな様子とは対照的だ。

「早く言いなさい」

 促され、文が意を決したように口を開いた。



 お茶の支度をして戻ってきた小悪魔の横を、入れ違いに文が通り抜けていった。
 今にも倒れるのではないかと思えるほど蒼白いその顔色に小悪魔が声をかけようとしたが、
 その間も与えず小走りに立ち去ってしまう。 

「射命丸さんはもうお帰りに?」
「ええ。帰したわ」

 盆を置きながら問いかけた小悪魔に答えるパチュリーは、幾分疲れた様子だ。
 紅茶が注がれるのをぼんやりと眺めながら、深々と息をつく。

「そうでしたか。一応カップを用意してきたんですけどね」
「……しかし、意外だったわ」

 そう呟くと、パチュリーはカップに口を付けた。

「どうかなさったんですか?」
「まあ、大したことじゃないわ――相手を信じなさいとしか言えなかったけど、まあ大丈夫でしょ」

 パチュリーは半ば独り言のようにそう言うと、舌の上に広がる豊かな渋味をゆっくりと味わうのだった。




「――はーい」

 呼び鈴が鳴ったのを聞いて、○○は玄関に出た。
 文は紅魔館に用事があるからと出かけて、まだ戻っていない。
 普段文が山の外へ行く時なら、ついでに運んでもらって一緒に出かけることも多い○○だが、
 今日は来客の予定があったため、留守番をしている。

「ちわー、永遠亭ですぅ」
「はい、今開けまーす」

 ドアを開けると、縮れ気味な黒髪の中に兎の耳を生やした小柄な少女が立っていた。

「置き薬の確認に来たよー」

 因幡てゐが一枚の紙を広げて見せた。
 妖怪の山での販売許可証だ。
 哨戒担当の白狼天狗によるものだろう、妙な形の判が押してある。

「今箱持ってきますので、ちょっと待っててくださいね」

 そう言うと○○は、薬箱を取りに行った。
 山でも薬は手に入るし、永遠亭製ほどではないにしろ、決して質の悪いものではない。
 一応は妖怪用だが、人間にも問題なく使えるはずだ。
 それでも、○○達の家では
 「○○さんのために、ちゃんと人間用のいい薬があった方がいいですから」
 という文の配慮で、永遠亭の置き薬を頼んでいる。

「胃薬くらいで、あとはそんなに使ってないですけど」
「どれどれ……」

 ○○が持ってきた薬箱を置いて座ると、
 上がりに腰を下ろして待っていたてゐが中身を点検し始める。
 
「ふんふん、まだ入れ替えなきゃいけないのはないね。実際ほとんど使ってないようだし。
 まあうちとしてはいっぱい使ってくれた方が商売になるけど、健康なのはいいことだよ、うん」

 一人軽快にしゃべるてゐとは逆に、○○は口を開けずにいた。
 訊くべきことはわかっているのだが、それを単刀直入に切り出す度胸はないので、
 何となく押し黙ってしまうし、振舞いも自然と落ち着かないものになる。
 良くないと思ってはいるのだが、どうにもならない。

「ん、どしたの?」

 どうやらてゐにも気付かれてしまったらしい。

「いや……妖怪の山の担当っててゐさんなんですか?」

 文に連れられて参加した宴会などでてゐとの面識はあったし、
 人里に住んでいた頃にも永遠亭の置き薬を利用したことはある。
 ただ、薬売りとしててゐがやってきたのを初めて見たのは、この家に越してきてからだ。

「ん? ああ、若い妖怪兎だと、山に入って営業とかどうしても尻ごみしちゃってね。
 年季が入って肚の据わった私にお鉢が回ってきたのよ。なんで?」

 少しあからさますぎるくらい幼い表情と仕草で、てゐが首を傾げた。
 一見すると言葉に反しているが、意図的にそんなものを出せることこそが年季の証明と言える。

「いや……」

 「男性の薬売りが来ることはないのか」と尋ねようとして、○○は口ごもった。
 てゐが実際かなりの古株であることは文から聞いて知っていたし(なればこそ改まった口調になってしまう)、
 一から十まで見透かされてしまうのを避けるためには、それ以上言ってはいけない気がしたからだ。



 ――が、どうやらもう十分だったらしい。



「何が欲しいの? 避妊具? 精力剤?」
「うぐっ!?」
「そっち系のものも売ってるよー。今ないものなら、近いうちに持ってきてこっそり渡してもいいし。
 それとも健全な青少年としてなんか相談したい? いいよ、大体のことならアドバイスしてあげられるだろうから」
「………………」

 にやにやと笑いながらまくしたてるてゐに、○○は何も言い返せなかった。
 先ほどとは違い、今○○が黙っているのは、頭の中が真っ白になって何を言っていいかわからないことによる。
 ○○が言い出せずに悩んでいたのは、まさにそういった関係のことだった。

「ほらほら、てゐちゃんに話してごらん? 
 これでも長生きしてるんだから、聞いといて損はないよ?」

 こうも的確に射抜かれてしまっては、もはや抵抗のしようもない。
 すっかり観念した○○は、包み隠さず話す決心をした。



「なるほど……彼女とHしたいけど童貞なので勝手がわからない、
 とりあえず避妊具だけでも買っておくべきだろうか、と」
「はい……」

 うつむきながら○○は、消え入りそうな声で答えた。
 話す決心をしたからと言って、話す恥ずかしさがなくなるわけではない。
 他人に話すだけでも顔から火がでる思いなのに、相手が女性で、
 なおかつそれを要約して返されるとは、もはや責め苦のようだ。

「と言うか、どういう状況なの? ヤりたくて仕方ないけど相手にはぐらかされてそこまで行かないとか?」
「あ、いや、そういうことではないです。
 こう、イチャイチャしているだけで十分精神的な充足感は得られるけれど、
 決してそういうことがしたくないわけではなし、一緒に住んで結構経つし、
 そろそろそんなステップに進んでもいいような気がするけれど、さてそうなるとどうしたものか、と」
「あーはいはい、ごちそうさま。んで、どうなの? 万が一にでもパパにはなりたくないとかある?」

 片手を団扇代わりにぱたぱたと振りながら、若干投げやり気味にてゐが尋ねてくる。

「そんな、そりゃ今すぐそうなりたいとまでは言わないですけど」

 ○○は向きになって反論した。具体的な計画として考えたことこそないが、
 いつか文と自分がそうなることもあるだろうと、当たり前のように考えていた。

「じゃあとりあえず、避妊はしない方がいいかもね。私らみたいな禽獣上がりだと
 ”作ることがメインじゃなくても、出来ないようにするのは抵抗がある”なんてのも少なくないから。
 愛情を疑われたくはないでしょ?」
「そういうものですか」
「そういうものよ」

 こうした「幻想郷における人妖の文化の差」のような話になると、
 外の世界から来た人間としてはうなずくしかない。

「それから、前戯はちゃんとすること。
 あんまりがっついて濡れてないのに挿入れようとすると、痛いし気持ち良くなれないからね」
「はあ。できればそこに至る最初の一歩について聞きたいんですが」
「まあ、そういう雰囲気作って誘えば、自然とそうなるものだって」
「……雰囲気」

 簡単に言うが、○○にしてみれば作ったことはもちろん、
 そんな雰囲気の中に身を置いたことさえないのだから、どうにも雲をつかむような話だ。
 口に出してそう言ったわけではないのだが、表情は明らかに腑に落ちないと語っていたらしい。
 気が付くと、てゐが少し困ったような顔をしていた。

「うーん、じゃあ一緒に軽く飲んだら? 多少酒が入った方がそっちに流れやすいかもよ」
「……いい考えのような気もしますが、できれば最初は素面でしたいです」
「……もう相手に任せてひたすら待つとか」
「それはそれでなんだか情けないと言うか、流石にもう少し能動的にと言うか」
「ああもう、めんどくさいなあ」

 ほんとにもうこれだから、などとぶつぶつ呟いていたてゐが、ふと悪そうな笑みを浮かべた。

「じゃあいっそのこと、私で練習しておく?
 一回ヤっちゃえば自信ついて、スムーズに持っていけるかもよ?」

 そう言ってしなを作るてゐ。
 両腕を身体の前で組んで胸を強調するポーズは、幼い体付きでは本来の意味を成さず、
 一見して冗談めかしてのことだとわかる。
 しかしよく見れば、ほんのわずかにその目の奥に宿った妖しい光を見いだせたかもしれない。

「いえ」

 ○○はよく見なかった。そうする間さえ空けずに即答したからだ。

「文以外とそういうことをするつもりはないので、せっかくですが」
「――真面目だねえ。うそうそ、ちょっとしたジョークだってば」

 けらけらと笑いながらも、てゐは姿勢を正した。

「ま、アドバイスとしてはこんなとこかな。あとはなるようになるんじゃない?」



「はい、じゃ確かに」

 代金を受け取ると、てゐは立ち上がった。

「……ほんとにいいんですか?」
「ん、なにが?」
「いや、薬の代金だけで」

 請求されて払った金額は薬の分だけだったが、
 ○○がイメージしている通りのてゐなら、
 アドバイス料として、法外とは言わないまでもそこそこの対価を要求するところだ。

「あー、いいのいいの。私にだってそういう優しさはあるってことよ」

 笑いながら、てゐは首を横に振った。
 ○○が恥じ入るとともに申し訳なさを感じるほど、余裕と包容力に満ちた大人の笑みだった。

「――色々とありがとうございました」
「……それに早いとこヤり出してくれた方が、そっち系のもの色々売れそうだしね」
「え?」
「いやいや、こっちの話。んじゃま、健闘を祈ってるよ」

 てゐは手を振りながら、次の訪問先へと飛び立っていった。

「健闘、か」

 だんだん小さくなるその後ろ姿を、○○はぼんやりと見送っていた。









「健闘、か……」

 洗い終えた皿を拭き、棚にしまいながら○○は改めて呟いた。



 てゐが帰った後、陽が落ち始める頃になってようやく文は戻ってきた。
 待っている間に支度をした米がちょうど炊きあがったところだったので、
 何はともあれまずは夕飯に、ということになったのだが、
 昼間にてゐとああいった話をしてしまったせいで、○○としてはどうにも口数が少なくなる。

 加えて、文の様子がおかしい。
 顔色が優れないのもそうだが、食事中話しかけてもどこかうわの空だった。
 いつもの夕飯時なら、大抵文の方から言いだして「晩酌でも」ということになるのだが、それもない。
 もしどこか体調が悪いとか、悩み事があるといった理由なのだとしたら、健闘どころではない。
 とにかく気遣う言葉の一つもかけてあげなければと○○が振りかえった時だった。

「あの、○○さん、ちょっといいですか」
「ん?」
「その、ちょっと、大事な話が」

 固い表情で居住まいを正す文に釣られて、思わず○○も文の前にきっちりと正座した。

「……大事な話って、なに?」

 押し黙ったままの文がじりじりとにじり寄り、膝と膝がぶつかりそうになる。
 ややあって、大きく一つ呼吸するとともに、文が口を開いた。



「私、千年以上生きてますけれど、こうして恋人同士になったのは○○さんが初めてなわけです」

 急に改まってどうしたのか、と○○は思ったが、文の気迫に押されて何も言えず、ただうなずくばかりだ。

「これで私も身持ちは固い方ですし、軽い気持ちで遊びまわったりはしてないです。
 ……それ以前に新聞作りだとか修行だとか、もっとやりたいことがありましたし。
 天狗になる前、鴉だった時も、速く飛ぶことだけが生きがいでそれどころじゃありませんでした」

 まあそんなだったから鴉天狗になれたんですけど、と文は微笑んだ。
 ○○は、外の世界にいた頃に読んだ小説を思い出していた。あれは鴉ではなくカモメだったが。

「ですから、私は誰とも、その……経験してないわけです。
 いつでも○○さんの好きな時に、封を切ってもらうばかり、と言いますか」

 少しだけ考えた後に意味を理解し、○○は赤面した。
 文も頬を染めているが、その顔はどこか誇らしげに輝いていた。
 が、その表情が一転、不安に曇る。

「ですが、その証拠がないんです」

 悲しそうな紅い眼が、すがるように○○を見つめてくる。

「証拠って……」
「初めての時って血が出るものだと思ってたんですけど。
 私みたいな鴉天狗の場合、人間でいう『月のもの』の代わりにタマゴを産むじゃないですか。
 どうも、そういうことはないらしいんですよね。パチュリーさんに聞いたんですが」

 そこまで言うと文は、○○が膝の上に載せていた右手を両手で取り、しっかりと握った。

「だから、○○さんに信じてもらうしかないんです……信じて、ください」
「信じるよ。もちろん」

 一瞬の迷いもなく、○○は答えた。左手を文の右手に添え、両手でそっと包みこむ。
 元より、○○に取って文の言葉以上に信じるべきものなどない。
 けれどそれよりも、文が不安な顔をしなくてもいいように、笑顔でいてくれるように。
 ○○は優しく笑いかけながら、文の視線を受け止めた。

「それに、俺はどっちかと言うと最初よりも最後に
 ――いや、生きてる間、文の一人だけの男になれれば」
「……もう、何言ってるんですか」

 そう言った文は泣き笑いの顔になっていた。

「未来永劫どこまでも、○○さんが私の最初で最後のただ一人の人ですよ」
「文……」

 互いに重ねた両手に力が込められ、視線が絡み合う。
 ○○は文の手が、そして自分の身体の芯が熱くなるのを感じていた。
 
「あの……」

 文がおずおずと口を開く。
 何を言おうとしているのか、○○にはわかっていた。
 甲斐性と呼ばれるものに自信はなかったが、それでもその先は自分から言い出したかった。

「文……今晩、文の初めてにならせてくれないか」
「…………はい」

 二人の唇が、そっと重ねられた。





「…………」

 かれこれ30分以上、○○は歯を磨いている。
 とにかくまずは交代で風呂に入ろうということになり、文に先を譲ったのが一時間ほど前。
 ただ待っているのもなんだから、と布団を敷き、少し考えた後に掛け布団を畳んで部屋の隅によけ、
 それでも上がってくる気配がないので歯を磨き始めて、今に至る。

「……お先にいただきました」

 ようやく文が風呂から上がってきた。
 湯上りで上気した頬と、薄手のパジャマの襟元から覗く肌が艶めかしい。
 とりあえずうなずくと、いい加減水っぽくなっていた口の中を流しでゆすぐ。

「じゃあ、入ってくるよ」
「はい。……待ってますね」
 
 文の熱っぽい囁きに鼓動が大きくなるのを感じながら、○○は風呂場へ向かった。



 間欠泉地下センターからの熱供給によっていつでもお湯が出るため、
 ○○と文の家では比較的気軽に風呂に入ることができる。
 既に文が入った後だが、幸いお湯はそれほど冷めていないようだ。
 洗い場に座り、桶にお湯をくむと、○○は水垢離のように頭からそれをかぶった。

「……っはあ」

 頭を振り、滴を払う。
 深呼吸を一つすると、苦しいほどの鼓動がようやく少し治まった。

 日々、文とは割と濃厚なスキンシップを取っている。
 だが、そうした時でも、意外に色欲に火が付くようなことはなかった。
 おそらくそれはそれで十二分に幸せで、満たされていたからなのだろう。
 そしてこれからも、それらは幸せであり続けるはずだ。
 これからしようとしていることも、新たな幸せの形とすることができるだろうか。
 その手の情報が簡単かつ大量に手に入る外の世界にいたおかげで知識はあるが、
 同時にそうした知識が実戦ではあまり役に立たない、ということもわかってはいる。
 ○○の胸の内で、健全な青少年としての期待と未経験者の不安が入り混じっていた。

「いやいや、しっかりしないと」

 そう、自分に経験がないことばかり気にしていたが、それは文も同じことだとわかった。
 そのこと自体に良いも悪いもないが、初めて同士なのだから、一緒に不安がって、一緒に経験していけばいい。 
 少なくとも、もう尻ごみしている段階ではない。
 とにかくまずは身体を洗おうとしたのだが、

「あれ?」

 石鹸がない。いや、あるにはあるのだが、欠片しか残っていない。
 昨日○○が文の後に入った時は、ほぼ新品同様、丸ごと残っていたはずなのだが。
 首をかしげつつ、○○は新しい石鹸を出すことにした。





 念入りに洗った身体をよく拭いてパジャマに袖を通すと、○○は寝室へ向かった。
 薄明かりに包まれた部屋の中、布団の上に座っていた文が、古風に三つ指を突いて迎えてくれた。
 大抵の時は被っている兜巾が、枕元に置いてあるのは、
 天狗としてではなく一人の少女として○○に抱かれようとする気持ちの表れか。
 いつも二人でこの布団で寝ているが、こうして向かい合って座ると、
 妙に新鮮な感覚で、それでいて気恥ずかしい。

「あの……○○さん、よろしく、お願いします」
「あー……その、こちらこそ」

 いささか他人行儀に一礼した頭を上げ、顔を見合わせる。
 なんとなくおかしくて、自然とお互いの口元がほころぶ。
 
「文……」

 ほころんだ口元を引き締め、○○は文の両肩を優しく掴む。
 眼を閉じ唇を結んだ文の身体を、自分も眼を閉じて引き寄せると、そっとキスをした。
 視覚に頼らなくてもスムーズにできる程度には、慣れた行為だ。
 それなのに、みずみずしい熱と弾力が、新鮮な心地よさとともに流れ込んでくる。
 触れ合わされた唇を開き、形を確かめるように舌で文の唇をなぞると、
 文もわずかに口を開け、舌先に吸いついてきた。

「ちゅ、ちゅ、ん、んっ」

 熟した果実から甘さを残らず吸い出そうとするような熱心さで、舌が吸われている。
 その勢いに乗って、○○は文の口の中へ舌を滑り込ませた。

「ん!? んむ、あ……あむ、ん」

 不意の侵入者に驚いた文の舌は一瞬後ろへ退いたが、
 すぐに待ちわびていた客を迎えるために進み出た。
 絡みつくように伸ばされたそれは、○○の唇の隙間へ押し込まれる。

「んむぅ……ん、ぁ、はむ、んる、ちゅ」
「ふぁ、んぐ、ちゅ、ちゅ……はぁ、あむ」 
 
 どちらからともなく、相手の頭を抱き寄せるように両手が回される。
 唇と唇が密着し、一つの空間となった二人の口腔の中で、
 ○○と文の舌は別個の生き物のようになって、主達より一足先に情熱的な交合を繰り広げていた。

「うく、ん、ぅ…………」

 くねる文の舌を、上あごや歯の硬さを、柔らかな頬の裏側の粘膜を、
 ○○は夢中で味わっていた。
 もはやどちらのものかもわからない唾液は味らしい味などしないのに、
 頭のどこかがしびれるような甘さを感じているような気がする。

「んふぅ、ん、ん、れろ、ん、ふぅ」

 舌の裏側、付け根の辺りをくすぐったい快感がやわやわと這い回る。
 文もキスの快楽に酔っているらしく、甘えるような息遣いが聞こえる。
 自分の舌を引き戻すと、○○は文の舌を甘噛みし、そのまま強く吸った。

「む、んうぅぅぅぅぅ!」
 
 後頭部への圧力が弱まったのを感じて、○○も手を緩める。
 唇をすぼめて文の舌をしごき上げるようにしながら、寄せ合っていた顔を離した。
 小さな水音を名残惜しげに残して、文の舌が○○の口から引き抜かれた。

「っ、ぷは、ぁ。はぁ、はぁ」
「はぁ……はぁー……」

 潤んだ眼と眼が互いを捉える。
 言葉がなくてもそれだけで、次にするべきことを確かめ、受け入れ合えたことがわかる。

「……脱がせる、よ」
「はい……お願い、します」

 ――それでも一応口に出してしまうのが、慣れていない悲しさだ。
 荒い息をどうにか整えながら、○○は文のパジャマのボタンを外しにかかった。
 焦り、震え、滑りそうになる指先を落ち着かせながら、ぎこちない手つきで、上から順に一つずつ。
 何ということはない工程が、○○には何かの封印を解く儀式のように思えてくる。
 ふと視線を上にずらすと、されるがままになっている文も緊張した面持ちになっていた。



 ようやく一番下のボタンが外れた。
 そっと前をはだけると、文が身をよじり、パジャマが肩から滑り落ちた。
 さらけ出された肌は白く滑らかで、無駄な肉の少ない身体はしなやかな曲線を描いている。
 ブラジャーは付けておらず、小振りながらも確かな膨らみが主張していた。
 
「……だめですよ、○○さん」

 思わず見とれていた○○の耳に、熱い吐息混じりの文の声が飛び込んでくる。

「○○さんも、ちゃんと脱いでくれないと、恥ずかしいじゃないですか」

 そう言うと、文は○○の襟元に腕を伸ばし、○○に負けず劣らずのぎこちない手つきで脱がせ始めた。
 ○○の上半身を裸にすると、文は膝立ちになり、手を差し出した。
 その手につかまり、○○も膝から上を起こす。

「……なんか、どきどきしちゃって」

 はにかみながら、文は両腕を広げた。

「下、脱ぐ前に……両手で、抱きしめてくれませんか。ぎゅー、って」

 期待に満ちた視線に微笑むと、○○は文の背に腕を回した。文も嬉しそうに抱きついてくる。
 ○○の胸板に柔らかな双丘とその先端にあるわずかな硬さが押しつけられた。
 お互いの肩に顔を埋める深い抱擁は、隔てるものがないせいか、相手の鼓動を自分のもののように伝えてくる。
 身体の芯が火照っているが、抱きしめた文の身体も熱くて、触れているところから一つに融け合うような錯覚さえ生まれる。
 湧き上がる欲求のおもむくままに、○○の指は文の背中をなぞっていた。

「んっ……」

 耳の傍で甘い声が上がった。

「くすぐったかった?」
「くすぐったいというか、なんというか……翼の付け根辺りは、敏感なんです」
「この辺?」

 今はしまわれている翼が広げられている時のことを思い出しながら、
 ○○は肩甲骨の内側辺りを指の腹で優しく撫でる。

「そう、ですね……あっ……ぞくぞくしますけど、嫌じゃないです……」

 熱にうかされたような声でつぶやくと、文は○○の肩に口付けた。
 そのまま啄ばむようなキスを降らせながら、両手を背中に這わせてくる。
 感触の心地よさだけでなく、その手つきに感じられる愛情が○○には嬉しい。
 文にも同じように感じてほしくて、背中から腰へと位置を変えながら、一層優しくさすっていく。
 緩急を付けて愛撫すると、腕の中に収まった文の身体が、時折びくりと反応した。
 
「……○○さん」
「……うん」
 
 いつまででもこうしていられそうな気がしたが、本来の目的はさらに先にある。
 二人の手がそれぞれさらに下へと動き、相手のパジャマのズボンにかかった。





「……やっぱりその、よく見たい、ですか?」
「……直接見たことないし、うまく入れられないと困るし。
 ――うん、よく見ておきたいかな」
「わかりました……やっぱりちょっと恥ずかしいですけど」

 両膝を立てて座っていた文が、最後の一枚に手をかけた。

「結構伸びるものなんだね」
「ドロワと違ってフィット感が売りですから、逆に伸びないと脱ぐとき大変に……よいしょ」

 純白のショーツから魅惑的な脚が抜き去られる。
 四つん這いの体勢で覗きこんでいた○○の目の前にあるのは、
 下腹から続くふっくらとした丘と、薄く生えそろった黒い綿毛の小さな草原、
 そしてその下にある一筋の線のような肉の谷間。

「……広げてみてもいい?」

 文は真っ赤に染めた顔を小さくうなずかせた。
 そっと添えた両手に力が入り過ぎないよう気を付けながら、○○はそこを左右に開いた。
 
「………………ぁ」

 思わず、といった様子で文が小さく声を上げた。
 ピンク色をした粘膜の花は、とろりとした透明な蜜を溢れさせていた。
 広げられた肉と肉は、引き離された名残を惜しむように糸を引いている。
 下の方では、文の身体の中への入口がひくひくと震えている。

「もうだいぶ濡れてるんだね」
「……や、普段からこんななわけじゃないんですよ?
 ○○さんがたっぷりキスしてくれたり、触ってくれたりしたから、止まらなくなって」

 見る限り、スムーズに挿入できなくて痛がらせてしまう、ということもなさそうに思えた。
 とはいえ、念のため指とか舌とかできちんとほぐしておいた方がいいのではないか。
 ○○がそう言うと、文は首を横に振った。

「魅力的な提案ですけど、そうしたらもう、入れてもらう前に本格的に気持ち良くなっちゃいそうで」
「男と違って続けてその……イっても大丈夫なんじゃないの?」
「そうですけど初めてですから、けじめと言うか、きちんとしたいと言うか……
 最初はなかなかうまくイけないなんて言いますけど、それでも」
「わかった。じゃあ、本当にちょっとだけ」

 ○○は文の花弁に顔を近づけた。

「あの、臭かったりとかしないですか? 一応ちゃんと洗ったつもりですけど」
「大丈夫だよ。いい匂いがする」

 触り心地のいい柔らかな毛に鼻先を埋める。
 濃く香る石鹸の匂いの中に、○○の好きな文の甘い匂いがほのかに混じる。
 ○○はそこかしこに、優しく触れるだけのキスをした。
 小さな突起に、濡れた肉に、左右の膨らみに、これから自分を迎えてくれる入口に。
 唇が触れるたびに、文の身体はぴくん、と震えた。

「じゃあ――」
「待ってください○○さん」

 身体を起こした○○に、文がわずかに息を乱しながら声をかける。

「○○さんのも見せてくれなきゃずるいです」
「え」
「自分の中に入っちゃったらもう見えないじゃないですか。
 今の内に、どんなものが入ってくるのかよーく見ておきたいんです」
「……いいよ」

 たった今同じことを頼んでおいてそんな風に考えるのを申し訳なくは思うが、
 いざ自分の番になるとやはり恥ずかしいものだ。
 だが、確かに文の言うことには一理ある。
 ○○は膝で立つと、下着を下ろした。
 抑えつけられていたものが勢いよく姿を現す。

「わあ……」

 覗きこんでいた文が息を呑んだ。
 既に臨戦体勢になっているそれは、ゆらゆらと揺れている。

「……変じゃないかな」
「私も実際に見るのは初めてなので、その、なんとも」
「お父さんのとか――」
「お父さんは鴉だったので……しかしこんなに大きくなるものなんですね」

 ○○自身も内心驚いていた。
 生まれた時からの付き合いだが、今までになく大きく膨らんでいるように見える。
 それだけ文との行為に興奮している、ということなのだろう。

「じゃあ私も、ちょっとだけご挨拶を」
「……本当にちょっとだけでお願いします」

 暴発してしまったら、今後の展開及び○○の心へのダメージは計り知れない。

「では……よろしくお願いしますね――ちゅ」

 いたずらっぽく笑うと、文は竿に手を触れないまま、痛いほど硬くなっている亀頭の先端にキスをした。
 ほとんど触れるか触れないかの接吻だったが、視覚的・精神的な刺激は強く、
 電流が○○の背筋をぞくりと上っていった。
 
「じゃあ、○○さん――」

 文はゆっくりと仰向けに身体を横たえた。
 
「――よし」

 大きく一つ深呼吸すると、○○は力強くうなずいた。





「行くよ、文」

 文の脚の間に陣を布いた○○は、手に握った竿を文の蜜花にあてがった。

「はい、来てください、○○さん……!」

 腰に力を入れ、そのまま前へ――

「あれ?」

 ――進めない。
 そのまま文の中へ進んでいくはずだった○○の得物は、ぬるりと逸らされてしまった。
 入口が狭いのか、角度が良くないのか、何度やっても同じように狙いが外れてしまう。
 焦りとともに先端を擦られる快感が募っていき、それがさらなる焦りを呼ぶ。
 
「○○さん――」
「たぶんもうちょっとで……」
「あ、いえ、その」

 これから入っていくべきところを注視していた眼を、○○はほんの少し上に向けた。
 幾分焦点の合わない瞳で、文は○○を見つめている。

「にゅるにゅるこすられてると、だんだん切なくなってきて、えと……
 ちょっとだけ、キス、してくれたら落ち着くかな、なんて……」

 ふっと、○○は小さく息を吐いた。
 良い意味で、肩の力が抜けた気がした。
 そこに文がいて、自分を受け止めようとしてくれている。
 目的は挿入することではなく、文と一つになること。

「ごめんね、焦らすつもりはないんだけど」

 焦らずゆっくりつながっていこう。
 空いていた片手を文の傍に衝いて、○○は身体を傾けた。

「んー……」
「ん……」

 歯の根元を一本一本なぞるように、差し込んだ舌を巡らせていく。
 つらそうだった文の息遣いが少しずつ穏やかになり、そしてまた少しずつ昂ぶっていき、



 つぷり、と○○の腰が沈み、



「あ」
「入った!?」



 ――そのまま根元まで一気に呑みこまれた。





 ついさっきまでうまく挿入できなかったのは、
 おそらく文が緊張のあまり膣口を締め付け、意図せず○○を拒んでしまっていたのだろう。
 キスで緊張が解け、締め付けが緩んだ結果、○○の先端が侵入を果たした。
 一度受け入れてしまえば、愛しい○○の身体の一部として、文の身体は歓喜を以て迎え入れる。
 幾度かの産卵で柔軟に練り上げられた文の膣内は、至極すんなりと○○を奥まで呑みこみつつも、
 同時に密着して優しく締め付けながら摩擦を加えた。
 粘膜に、襞に、愛蜜のぬめりに擦られて生まれた灼けるような快感は、○○の股間から脳へ一気に流れ込んでいった。




 

「く……!」

 竿全体を熱く包み込む文の体温が、頭を痺れさせる。
 挿入のために添えていた片手をなんとか伸ばし、もう片方と同じように支えにする。
 押し寄せる快感に耐えるため、○○は眼を閉じ、歯を食いしばった。
 そうしないと、あっという間に決壊してしまいそうだったからだ。
 それでも、余裕のない中でありながら、○○の胸にはある種の達成感が生まれていた。
 童貞ではなくなった、ということではなく、こうして文と結ばれたことへの達成感だ。
 だからこそ、文を置いて自分だけ達してしまうのはあまりにも情けなくまた申し訳なくて、なんとしても避けたかった。

 が、少なくともそれについては心配なかった、のかもしれない。

「ぁ、○○、さん――」

 文の見開いた眼には今にもこぼれそうな涙がにじみ、
 口は少しでも空気を取り入れようとするかのように開閉を繰り返していた。
 擦った分だけ擦られ、締め付けた分だけ圧迫され、とどめに身体の奥底を突かれたことで、
 文もまた経験したことのない快感に喘いでいるらしかった。
 
「だめ、わた、私、もう――――!!」

 泣き声を漏らしながら、文は両腕と両脚を○○に巻き付けた。
 突然下からしっかりと抱きしめられ、体勢を崩した○○は文の身体に覆いかぶさるように倒れ込む。
 文の膣内の締め付けがぎゅう、と強まり、○○のものを握りしめるように愛撫した。
 そこで、限界が来た。

「うあっ!?」
「ぁああっ!!!」

 粘り気のある精液が尿道を通り抜けていくのがはっきりと感じられた次の瞬間、
 目の前が真っ白になるような快感とともに、脈打つ砲身が文の中へ精を撃ち込んでいった。





「………………………」
「………………………」

 抱き合ったまま、○○は余韻を味わっていた。
 出せるだけ出し尽くした後も、結合したままの下腹が時折うずき、快感を送ってくる。
 時折思い出したように身体を震わせている文も、同様らしい。
 射精後の力が抜け出ていくような感覚は独りでする時と変わらないが、
 その代わりに重ねた身体から文の温もりが染み込んでくるようで、不思議と虚脱感はない。

「……ごめん、なんかあっという間で」
「……いえ、私の方こそ」
「今さらだけど、重くない?」
「大丈夫ですよ。むしろあったかくて、心地よい重みです」

 顔を見合わせ、笑う。
 ○○はわだかまっていた申し訳なさが解けていくような気がして、ほっとした。

「でも、こうして文と一つになれてすごく嬉しい」
「私もです……なんだか、こうやって深く繋がることができて、
 ようやく身体が心に追いついたような気がします」

 恥ずかしそうに、けれど幸せそうに、文が囁く。

「もしかして、我慢させてた?」

 ○○は不安に駆られて訊ねた。
 自分が悩んだり迷ってる間、文を待たせていたとしたら――

「そんなことはないですよ。
 ただ、今まで知識が先行してた分、これから○○さんと色んなこと試していきたいな、
 とは思ってますけれど」
「ああ、それは俺も望むところ、かな。あんまり上手くないかもしれないけど」
「それは私も同じことですから……二人で一緒に、いっぱい気持ち良くなっていきましょう?」

 微笑む文に、○○はキスで応えた。

「とりあえず、どうしましょうか。お風呂とか、入ります? それとも……」
「もう一回、でもいいけど……もうちょっとだけ休もうか?」
「そうですね、じゃあちょっとだけ……」

 指を祈るように絡めて、手をつなぐ。
 すぐに、規則正しい文の寝息が聞こえてきた。
 ○○は文に身体を預けると、文を追いかけるように束の間のまどろみに落ちていった。
 
 改めてこれまでもこれからも、どこまでも一緒に行けそうな気がした。


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