東方キャラとウフフにイチャつくまとめ

あった。
空気は少し寒いし、湿っている。
そのせいか布団もいつもの軽さは感じず、肌に張り付き少し圧迫される様な重みを感じる。
そこで○○はようやく目を開けた。
最初に見えた光景は木目の天井の模様、見慣れた光景である。
寝起きという事もあってか、目が自分の意識した様に開かない。
――変なタイミングで起きてしまったのだろうか?
そんな事を頭の片隅でぼんやりと考える。
なんとか頭をハッキリさせようと、○○は意識して瞬きを繰り返す。
そうする事でようやく自分の意識がハッキリしてきたのを自覚した。
ゆっくりと状態を起こし、身体に掛かっていた布団を退ける。

「ふあぁ〜ぁ、ねむ……」

一つ大きな欠伸をし、頭をボリボリと軽く掻く。
部屋の中を見回してみると、何となく暗い印象を受けた。
普段起きる時間よりも早く起きてしまったのかもしれない。
と思っていたのだが、どうやらそれが理由とは言い切れないようだ。

「……曇ってるのかな?」

いくら早朝と言ってもある程度の日の光は感じるはずである。
ところが今はその日光が差している様子も無いのだ。
全体的に暗く、どんよりとした印象を受ける。

「……も、し、か、し、て――」

段々と脳が覚醒してきたようで、○○の頭の中で一つの嫌な推測が生まれる。
その推測が間違いである事を願い、またそれを確かめる為に○○はノロノロと起き上った。
そして眠気を引きずる様に、重い足取りでゆっくりと玄関へと歩を進める。
春にしては少し寒く感じる気温、妙に重く感じた布団、そして曇り空――。
冷静に考えれば当たり前の事、しかし今の○○にとってはその当たり前である事が起こって欲しくなかった。
玄関の戸に手を掛け、ゆっくりと横へと引く。
そして外の光景へ目を向ける。

「――ハァ、だよなぁ……」

落胆と諦めと嫌な予感が当たってしまったほんの少しの笑いが混じった声が、○○から漏れた。
ふと、その時――

「んぅ……おはようございます〜……ふあぁぁ……」

○○の後ろから可愛らしい声が聞こえた。
声がした方を振り返る。

「ん?ああ、おはようリリー。悪い、起こしちまったか?」

そこにいたのは春を運ぶ妖精、幻想郷の春告精、金髪蒼瞳の少女。
○○の恋人であるリリーホワイトであった。
リリーも寝起きという事でまだ眠いのか、口に手を当てて可愛い欠伸を一つする。

「そんなことないですよ〜……こんな朝からどうしたんです〜……?」

眼を擦りながらリリーが問いかける。
そんな姿を見ていたら先ほどまでの陰鬱な気分が少し和らいだ気がした。
自然と軽い笑みが漏れる。

「残念だがリリー、今日のデートは中止らしい」
「……?なんでですか〜?」

まだ寝起きで眠いからか、それとも頭が上手く回らないのか、リリーは眠そうな顔のまま首を傾げた。
どうやらリリーにはまだ理由が分からないらしい。
○○は苦笑し、肩を軽く竦めた。
そのまま背後の外を、親指で指した。
外は霧が掛かり、涼しい――むしろ少し寒いくらいだ。
それもその筈、外は細かい雨――春雨がしとしとと降り注いでいた――。


今日は本来ならば久しぶりに二人揃って休める休日の筈であった。
ここ最近リリーは幻想郷中に春を伝える度に朝も夕も忙しく飛び回っていた。
一方の○○も春という新たな節目のを季節を迎えるにあたり、仕事の方が中々に多忙であった。
その結果中々二人揃って自由な時間が取れていなかったのである。
だが幻想郷に春が訪れてしばらく経った頃、リリーの幻想郷に春を伝える役目も大体終わり、○○の方も仕事の方が一段落ついた。
では、次の休日に久しぶりに二人で外に出掛けてデートをしよう、そういう約束になっていたのだ。
だが万が一という事もあり、雨が止むという僅かな希望に掛けて昼過ぎまで待ってみたのだが、その結果は――。

「止まねぇな……」
「止まないですね〜……」

――ご覧の有様である。
雨が止む気配は一向に見えない。
二人の楽しみを阻み、それをあざ笑うかのように春雨は降り続けていた。
一応雨の中を行こうとすれば行く事は出来る。
だが、デートの途中で雨に降られたのならまだしも最初から雨が降っている中を歩くという状況では盛り上がる物も盛り上がらない。
そもそも時間が時間だ、今から出かけたとしても自由に動ける時間など僅かにしか無い。
結果、二人は家の中で暇な時間を過ごすという休日を送る事となった。

「ちくしょ〜、なんたって今日に限って雨が降るんだよ……」

○○が窓から空を恨めし気に見上げる。
これが人為的な所業であればまだ良かったのだが、人智の及ばない領域の所業であるため、ぶつける矛先が無い怒りと諦めで○○の心は悶々としていた。

「仕方ないですよ〜」

そんな○○を見かねたのかリリーが若干の困り顔を浮かべつつ、少し笑いながら声を掛けた。
お盆にお茶が入った湯呑みを二つ載せ、○○の方へ近づく。

「お茶が入りましたよ○○さん」
「ああ、サンキュ。……アチチッ」

若干苛立っていたのか、お茶の温度を確かめずに飲もうとした○○が熱がる。
それを見てリリーは小さく笑い、自身の湯呑みを持って○○の隣へ座わった。

「それにしても今日は残念だったな、こんな天気になっちまって」

お茶を飲んで少し落ち着いたのか、若干諦めたような声色で○○はリリーに話しかける。
両手で湯呑みを持ってお茶を飲んでいたリリーは、楽しそうに笑いながら答えた。

「そうですね〜……でも、私は嬉しいですよ〜」
「え、なんでだよ?」
「ふふ、だって……」
「だって?……うおぁ!?」

隣に座っていたリリーは素早い身のこなしで、隣に座っていた○○の脚の上へと座った。
○○は丁度胡坐をかく様な体勢だったので、その前にすっぽりと収まる。
そのまま○○に身体を預け、彼女のトレードマークでもあるニコニコ顔で見上げてきた。

「だって、○○さんとずっと一緒にいられるからですよ〜」
「……!?そ、そうかよ……」

予想していなかった直球回答に思わず○○は動揺してしまう。
リリーはこんな恥ずかしい様な事を平気な顔をしてさらっと言いのけてしまう。
今までの付き合いで、リリーがこういう性格でこういう事を言うというのは分かっている。
今まで散々それで振り回され、困惑させられてきた。
だというのに未だに慣れることが出来ない。
気恥ずかしくなったのか、○○は湯呑みに残っていたお茶を一気に呷りながら明後日の方向を向く。

「あ、もしかして恥ずかしがってます?」
「……そんな訳ねぇだろ」
「でも顔や耳が真っ赤になってますよ〜?」
「なってねぇから!!」

言った後で後悔した。
これでは肯定してしまっているのも同然ではないか。

「あ〜、○○さんムキになってます〜。かぁわいい〜」
「あーもう、そんなんならどけよ……!」

図星を指摘され、思わず言葉に力がこもる。
リリーの肩を掴み、脚の上から退かそうとグイと押し出そうとする。

「あっ、ごめんなさいごめんなさい。ちょっとからかい過ぎました〜」
「本当に反省してるのかよ……?」
「勿論してますよ〜?」

ニコニコしながらの言葉なので説得力がまるで無い。
だがここでグチグチ文句を言うのも大人気ないと思ったので、仕方なくリリーの肩を押し出すのを止める。

「……ハァ」

どうにも釈然とせず、○○はため息を一つ着いた。
そんな○○の姿をみてリリーは小さく笑った。

「ふふ……でも、私が凄く嬉しいのは本当ですよ〜?」

少し間を空けて、リリーが嬉しそうな声で話し始める。

「勿論外に一緒に遊びに行くのも楽しみにしていたよ〜。でも、こうやって大好きな○○さんとずっと一緒に居られるだけでも私は嬉しいんです」

そう言いながらリリーは○○の手に自身の手を合わせ、掌同士を重ね合わせてきた。
今回も不意の行動ではあったが、不思議と動揺しなかった。
先ほど盛大に動揺したというのもあるかもしれないが、彼女の穏やかな雰囲気で落ち着いていられたのかもしれない。
手を握ってくるリリーの手はとてもあたたかかった。
あたたかくて、そして柔らかい。
まるで穏やかに、そして優しく包み込んでくれる春の様な――そんな感触だと○○は思った。
この心地良い感触をもっと感じたいと思ったのか、○○もいつの間にかリリーの手を握り返していた。
それが嬉しかったのか、リリーが小さく笑う。

「リリーの手はあったかいな」
「そうですか〜?○○さんの手もおっきくてあったかいですよ?」

不思議と気分が落ち着いていた。
今ならこっ恥ずかしい事も言えるかもしれない。
覚悟を決めた○○は、一度ゆっくりと息を吸った。
そして、握っている手の力をほんの少しだけ強めながら言った。

「俺も……リリーと一緒に居られて嬉しいよ」
「……はい!」

リリーはその言葉に満面の笑顔を浮かべた。
見ると彼女の頬も紅潮していた。
やはりリリーも恥ずかしかったのだろうか?
それでも、リリーは自分の気持ちを率直に自分へ伝えてくれた。
そう考えると、愛おしいと思う気持ちが○○の中で生まれる。

「んんっ……!?○○さん……?」

思わずリリーの身体を抱き寄せていた。
繋いでいた手を離し、リリーの身体を腕でギュッと抱きしめる。

「こうしたくなった。……嫌だったか?」
「そんな事無いですよ〜、ちょっとびっくりしちゃいましたけど」

リリーが嬉しそうに笑いながら答えた。
リリーも自身の身体を抱きしめる○○の腕を掴む。
そのまま身体の力を抜いて○○の身体に身を預けてきた。
どうやら嫌では無いというのは本当らしい。
ならば躊躇う事は無い。
彼女を抱きしめる腕から伝わる感触を存分に楽しむことにしよう。
しかし、これだけでは少し物足りない気がする。
折角久しぶりに一緒に居られるのだから、もっと楽しみたい。
しかし、春雨がそれを拒んでいる。
何か良い考えはないか――そう思っている時にリリーが声を掛けてきた。

「○○さん、お話しませんか?」
「お話し?」
「そうです、最近○○さんとあんまりお話し出来てなかったから一杯お話ししたいです」

その案を聞いて○○は少し考える。
――悪くない案だ。
一人納得して小さく頷く。
この状況下で他に出来る事というのも思いつかないし、それに単純に○○もリリーと話をしたいと思ったからだ。

「……そうだな、それも良いかもな。じゃあ何を話すか?」
「何でも良いですよ〜、最近の○○さんの話とか」
「別に俺の話聞いても面白くないだろ……まあいいや、その代わり後でリリーの話も聞かせてくれよ?どんな風に幻想郷に春を伝えたのか、その時どんな景色を見たのかとか」
「ふふ、良いですよ〜」

そうして二人はゆっくりと始めた。
まるで今まで触れ合えなかった時間を取り戻すかの様に――。



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