[周囲は夜のように暗い。柳の木が枝をしだれさせ、
足元の白い石畳はぼんやりとしか浮かび上がらない。

風は生ぬるく頬を撫でて、遠くの方に提灯の
ぼんやりした灯りが見えるのみ────]



[そんなロケーションの中、]



 っ っきゃあぁあぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ───!!!!??


[──思い切り甲高い悲鳴が響き渡った。]



[幽霊のけたたましい悲鳴に、目を丸くする。
悲鳴はアトラクションによるものではない。同行者によるものだ。

ヤニクは口元を手で隠して、声を殺して笑いを堪えた。]

 ダイジョブデスカ?
[笑いの波が収まってから、振り返って小声で櫻子の無事を確認する。
ここは所謂おばけ屋敷。
今しがたスプレー音と共に道の脇から飛び出してきたのは和装の死体風の人形だった。]



― おばけ屋敷 ―


[思い切り喧しい悲鳴を上げた幽霊は、同行者をすり抜けて一歩後ろにいた。振り返ったヤニクとほぼ同じたかさに浮いた本物の幽霊はぶんぶんと首を左右に振った。]

 いま、いまなに、かおあおい
 霧!? ぶぁあって
 お、おっきな音しましたね!!!?

[涙目でふりかえるヤニクの肩のあたりに握った風の手を浮かせながらアトラクションの幽霊に驚かされた本物は問いかけにまったく要領を得ないことを言った。]



 はははは。霧出るシタネ。
 音大きかったデスカ。
 ダイジョブダイジョブ。ヤニクついてマス!

[まだ混乱の最中にいる櫻子に、うんうんと頷いておく。
一歩道の先へ進み、様子を伺う。]

 ……Oh.
 さくらこさん!向こうに女性?がイマスヨ?
 何でショウ? 皿? ナンデ?

[緑色のライトに照らされた古井戸を指さした。]




 び……びっくりしました
 こんな風なんですね

[正直な心境を添える。とりあえず手近にあるものからと選んで入ったのけれども予想以上だった(櫻子が驚きすぎという話もあるが)]

 ぱてさんこういうのへいきですか?

[異国からの来報人は何でもない風に笑っている。
落ちつきにつられて、混乱が少しおちついてくる。
まだそれでも涙目ではあったし、後ろからはしっかり離れないまま一歩前に進むのに続く。浮いたままなのは人間らしく偽装する余裕がなくなっているせいだ。]


 お皿? ええとそれは───

[緑色に照らしだされた井戸にいる女は
いちまぁ…い にまぁ… いと、掠れた声で
皿の数を数えている。]

 あれは、…… 番町皿屋敷という

            [さん……まぁい]

 おはなしが ……

  [よんまぁ……い]

 ありまして……





 ネー。コンナ風なんデスネ。
 ニポンのホラー興味深い思いマス。国柄デマスネー。

[櫻子に同意するが、恐らく観光気分の彼のいう「こんなふう」が指しているものとは多少ズレている。]

 平気? ン〜〜〜 楽シ!
 驚かされるのチョト好きデス。

[好奇心旺盛な外国人は櫻子が幾分落ち着いたのを見ると、迷うことなく井戸のほうへ数歩進んでいく。]

 ……ホー。バンチョサラ?
 全然きいたトキありまセン。
 有名人デスカ?

              [ご……まぁい]



 ぱてさんお強いです……

[しみじみとした声で言うと同時に感心した。
同行者が平然としていてくれるとこちらもある程度冷静を取り戻せる──手は頼るように相変わらず肩にしっかり添えられていたが。]


 はあー……
 そうなんですねえ。

[驚かされるのが好きというのには軽いカルチャーショックを覚えて目を丸くして]

[ろく……まぁい]

[カウントダウンに顔を引きつらせる幽霊は我知らず手を胸元に引き寄せた]

 そう です ね、怪談話としては
 かなり有名なお話かと 思います ね

          [なな…まぁ……い]

 高級なお皿を割ってしまった女中の
 お話で……主人にきつい罰を受けて、その

 井戸、に身を……

[はち……まぁい……]


[櫻子の感心による溜息で、ヤニクは照れくさくなって笑った。]

 ヤニクチョト呑気なのカモしれナイネ?
 もしスゴイコワかったら、外マデお送りしマス。

[櫻子の皿屋敷に関しての解説を聞き、小声で感想を言う。] 
 
 エ〜〜〜カワイソ〜〜……。
 てゆかニポンジンスグ身投げしナイ?コワイ…

    [きゅう……まぁ……い]

 主人さんはチョト怒りっぽいネー……



  [ああああ…… ああああ………
  
 いちまいたりなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ]

 ワオ。




とっても たのもしく思います

[緊張の中ではあるけれど、余裕がある人が傍にいるのは素直に心強かった。]

 だいじょうぶ、です
 でも。あの、……ちょっと掴まらせていただいていてもいいですか

[そう頼んだのが少し前]

[頭では理解しているのだ。作り物だと。そして、くるぞくるぞと脅しているのもだ。
──けれど、ですねえ、とヤニクの感想は急に上がったボルテージに唾と一緒に飲み込まれてしまった。]


[たりなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいいいいい!!!]



 〜〜〜〜っっっっっ!!!
 

[びくーーっ!と全身の毛が逆立たせて
幽霊はぱっと手前の背中に顔を伏せた。]


!! !!!!!
 

[ぎゅっとしようにもすり抜けるだけだ。ただ腕に青い着物の袖が絡んでいる。こちらの方が見ようによっては正真正銘のホラーだった。]

 〜〜〜〜〜〜!!!



 ……!! !!!! !!!!!

[うらめぇぇぇしいぃぃぃやあぁぁあああと、お菊さんの上げる声に、幽霊は隣の同行者の腕に肩のあたりに顔を埋めて(※じっさいに埋まっている)ふるふると首を振った。]



 エト………さくらこさん?

[スーッとする。すっごい体がスーッとする。
背筋に悪寒が走るが、これは恐ろし気な皿を数える女のせいではない。
リアル少女幽霊の同行者が、己の体をすり抜けているからだ。

あらぬところから櫻子の体のパーツが突き抜けている。
頼りにしてくれて嬉しい――が、些か画が……ウーン……まあいいけれど……。

触れられないのでただ盾として立っている他出来ない。
落ち着く様子もまだないので、不自然に立ち止まったままのヤニクは、お菊さんに会釈した。
笑って誤魔化しておけ!と王子様スマイルを振りまく。
小声で「行きますよ」と同行者の幽霊に声をかけ、じりじりとその場を立ち去る。……]




*


*


*

──桜守大花園、ベンチ──

[陽射しはさんさんと周囲を照らしている。
植えられた緑は整えられて園内を彩っている。
アトラクションを備えた施設のその一角、緑のベンチの上に着物姿の女が顔を両手で覆って座っていた。]



 ……………〜〜お恥ずかしいところを
 お見せしまして…………

[消え入りそうな声で、櫻子は指の隙間から声を出した。死にたい。いや、死んでいるのでいっそ消えたかった。]



[ベンチで幽霊と並んで座る。
ヤニクの手にはたい焼き。パイーパティにはない魚の形の小豆菓子。
聞けば櫻子は食事は摂らないそうだ。一人で食べるのも何かな…と思い遠慮も考えたが、曰く気にならないらしいので試している。]

 ははははは。コワかったデスね!

 素直に驚く、トテモチャーミング。
 気にしないでネ。

[櫻子のお化け屋敷でのリアクションのおかげで、昨日から元気無さげなヤニクにも徐々に笑顔が戻ってきていた。
独り言の多い外国人状態のヤニクだが、そのあたりはあまり気にしないことに決めた。好きな人と一緒に居るところを誰かに見られて恥ずかしいとは思わないし。……まあ人からは一緒にいるようには見えないのだが。]



[なんでこう、こう情けないところばかり見せてしまうのかと眠りこんでいたときのことを思っても羞恥が増すばかりだ。はあ。とため息をつく。]

 ぅ ぅ ぅ、己を計り間違いましたね……!
 なんだかダメなところばかり
 見られているような気がいたしますが!

[唸ってから、気を取り直すように顔を上げる。
きりりと眉に力を込めて ぐ。と拳を握り]

 …〜りべんじ! りべんじしましょう!
 別のもので!
 ば、挽回の機会をください!

[この時ばかりは経緯については頭から抜けていた。純粋に負けん気のようなもので名誉回復のチャンスを請うた。]



[たい焼きに頭から齧りつきながら、ひたすら恥じまくっている櫻子を宥める。]

 マアマア。初めてデスシ。そゆコトありマスネ。
 ダメとは違う思うケド、Ok.そこまでゆーナラ、ヤニク受けて立つしマス。
 さくらこさんのハチャメチャスゴいトコ見れるのヤブサカ?ありまセン。

[なにがどうリベンジなのか、どうなれば挽回なのかは分からないが]

 ン〜〜、つまり恐怖に打ち勝つことの出来るPowerfulな女性とゆこと示したいとみまシタ。
 ではアレはどうでショウ!

[ヤニクはジェットコースターを指さした。]




[実際のところ櫻子もなにが名誉挽回なのかは深く考えてはいない。完全に勢いである。]

 でもですね こう…っ うぐぐ。
 いえ、だめですね。言い訳はしません!

 次! つぎで!
 取り戻します!

 そう、そうですね!ぱわふるな!
 生倉先生みたいな!
 ちょっとかっこいい感じとか!
 
 とてもいいと思いますので!

[ぐ。っと握りこぶしを握って(考えずに)ヤニクの提案に乗る。気合を入れ直したところで次の目的地が決定し(てしまっ)た。]



 くらり先生とも知り合いだったデスか?幽霊のヒト顔が広いネー。
 アー?確かに?くらり先生Powerfulカッコイイトコ?正味?ありマスね?
 或いはCoolとゆうか……ある意味寛容とゆうか……。

 ナルホド。ではアレに乗る間、さくらこさんはくらり先生のように
 ナンダッケ?コ・ピ・ペSmile?で頑張りまショウ。

 では行きマスよ!


[というわけでは二人はジェットコースターに乗ることになったのである。
隣同士に座って、身体を抑える安全バーをおろし、徐々に上昇する。

坂を登り切ったコースターが、じりじりと坂を降りようとしている。
ヤニクはきゃっきゃと喜んで下降に臨んだ。
スカイダイビングが趣味でこれが苦手ということは勿論なかった。一方櫻子は────]




[──そう序盤は、まだついていけていたのだ。
登りの間は、地力の推進力でだ。]


[問題になったのは、下降を初めて加速が始まってからである。──幽霊は、物体をすり抜ける。

そう、物体を! すり抜けるのである!!]


 …っっ


[落下が始まって2秒。だんだんと列車から引きはがされていく。

基本的に櫻子が歩いている風に見せるのも寄りかかる風に見せるのも雰囲気やフリのようなものだ。

つまり、日常生活において困難な行為がいくつかあるたとえば──乗り物に乗る。ということなどがそれだ。]



[隣で微笑み(コピペスマイル)ながら何かは不明だが何かをがんばっている風だなあとは思っていた。
察することができなかった。だって普通に乗り込んだのだから、じゃあ乗れるのかなー幽霊だけど……と思ってしまったのだ。けれど違った。

彼女は要は──『めちゃくちゃ頑張って走る』に近い方法で、ジェットコースターを追ったのである。
ああ櫻子が小さくなっていく……櫻子がジェットコースターのスピードに追い付けず、遠く遠く……。]


 たうばぁ……(あーあー……)





──ジェットコースター出口──

[結論として、幽霊は登りまではついていけていたものの、下り以降は完全に置いてきぼりをくった。自力でコースターの後を追いかけるも、結局は追いつけずに出口のところで待つことになった。]



 くや しい、っ です……!!

[限界速度に挑戦をしすぎたせいで、ちょっと髪の毛もエアリーになりすぎている。]

 もうちょっと生倉先生みたいに
 かっこよく……っ!

[ジェットコースターから降りてきたヤニクに、櫻子は笑顔の奥でぐぐぐと歯を噛みしめた。追いかける途中、気をつけていたせいで、コピペスマイルがはりついてしまっている。]




[そしてジェットコースターからスタスタと降りてきたヤニクは、櫻子の前で腕組みをして首をかしげた。
暫し櫻子の嘆きに耳を傾けた後……]

 ………。
 アノ……乗れナイなら乗れナイと言うシテ頂かなけレバ。

[すごい気遣うような声音で諭した。
かなりエアリーすぎる髪と笑顔のかたちに凝り固まった顔面を直して差し上げたいが触ることは出来ない。指で髪の乱れを指摘しながら]

 一緒にきたのに、一人で乗る、チョト寂しデスヨお。
 
 チャント二人で出来るコト考えまショウ。Ok?




[正論だ。うぐ、と幽霊は顎を引いた。ぐうの音も出ない。ついムキになってしまった点を恥じる。]


 はい………………

[諭されて自分の頬っぺたをひっぱる。スマイルに固まった頬を矯正して、指摘される通りに跳ねてしまった髪を手で直した。]




[園内を散策しながら試せるものは片っ端から遊んでいるが、
なにせ乗り物全般、追いかけることはできても乗れるわけではない。
櫻子の追いかけ方があんまり見事で何度も笑わせては貰ったのだけれど、
櫻子はちゃんと楽しめているのだろうか。

一緒に歩き回れるものということで、ミラーハウスにも入ってみたものの
櫻子が鏡にうつらなかったので引き返した。]



― 園内案内図前 ―

[次の遊びを探して園内案内図前へと戻る。]


 ……ン〜……。
 あぁ!写真!どうでショウね!


[案内によればポラロイド写真がとれるとのことである。
心霊写真などというし、もしかすると写るかもしれない。]



(あらためて、ですけど。
 わかってたつもりでしたけど
 ……つもりだったですねえ)

[乗り物はダメでミラーハウスも引き返してきてしまった。うーん。と眉を下げて少し困って笑う。『一緒に』をするには霊体はどうにも、やっぱり何かを一緒にするにも不自由だ。]

(しかたない、んですけども)

[諦めるのは得意だ。ただ少し、今日に限っては少し、いつもより胸が痛いというか。──それと気づかないうちに、諦めが悪くなっているのかもしれなかった。]


(……でも……さっきの飛ぶの。
 ちょっと楽しかった……なんて言ったら
 また叱られてしまうでしょうか)

[全力で飛ぶなんてことは普段はしないから、びゅんびゅん風を切ったり空中回転してみたりなんてことは通常一人でいるときはしない。]

 …ふふ、

[やっているときは必死だったけれど、ふりかえってみると楽しかった気もした。生倉のようにはなれなかったけれど、生倉のようになろうとしてみるなんてしたことはなかったから新鮮だった。]


― 園内案内図前 ―

[たぶん、同行者の王子様が心配するほど幽霊は楽しくないわけではなくて、ただ少し一緒にが難しいのだなあということに思いを馳せていた。]

 写真……写真ですか。
 とったことがないのですが、

[悩ましいプラン策定の道中、案内看板の前の提案に、ほうほうと幽霊は興味深げに頷いて。]


 ……

[じーーーー。と目の前の青年を見た。]


[そうして、それから。]



 ───  欲しい、かもです。写真。

[結果の如何を問わず。という風情で、
ふんわり幽霊は笑った。]



[今日の予定を決めて貰う際、遊園地に行きたいことを恥ずかしがったり、行けると決まって顔を輝かせたり。
随分楽しみにしていたようだから───こうなってしまって寂しい思いはさせていないだろうか。
櫻子にジッと見つめられ、ヤニクは心配を隠すように王子様スマイルを浮かべた。]

 そデスか!
 デハ試してみまショウ!

[記念撮影コーナーとやらに向かう道すがら、──少し迷って幽霊の手に手を重ねた。]


 もし、イヤでなけレバ。


[すりぬけてしまうのであくまで手を繋ぐフリだ。そこには温度も手触りもないけれど。]




[じいっと見つめる表情はにっこりとしたまさに王子様然とした表情で、ほんの少しだけ小首が傾いだ。ただ写真の話には、ぱ。と表情が輝く]


 はいっ

[こくんと嬉しそうに笑みを見せて縦に大きく頷いた。ぴょんと髪を留める桜色のリボンが跳ねる。]

[それから道中隣と手に透ける感覚に幽霊はきょとんと目を丸くして隣を見上げた。]


 〜〜 〜〜

[おろりと一瞬口を開いて閉じる。案内役の線引きから、外れてしまってはいないだろうか。でも、]


 いや、では。…ないです。
 

[面映ゆそうに幾らか頬を染めながら、すり抜けてしまう手の位置を掌の中に留め置くを選んだ。]

[てくてくと歩くふりをしながら記念撮影コーナーに向かう途中、傍からは見えない方の同行者は隣を見上げて、]


 …私はけっこう、楽しいのですけれど。
 ぱてさんは楽しめていらっしゃるでしょうか

[ミラーハウスに入らずでてきてしまったりもそうだけれど、たくさん考えてくれているようだったから。]


 … … … 

 ううん。難しいですねえ、いっしょ。

[へら。と曖昧な困り笑いを浮かべて幽霊は眉をさげた。]


 私は、眺めているだけでも
 十分元気がいただけるのですが。

[言葉を交わせる誰かといられるだけでも、十分新鮮で楽しく思える。やめたミラーハウスでもきっと眺めるような気分で楽しめただろうと思った。
でも、]


 … それでは、…
 寂しくさせてしまって、いるでしょうか。

[それでは満たせないものがあるのなら。そちらの方が、やっぱり──少し、胸に痛いものがある。]


[──してあげたいと思うから、
してあげられないことがあるのが
たぶん胸に重いところがあって。]




 エッ。楽しそに見えまセンか?

[それは困った。心配こそしてはいるが楽しいのだ。]


 ……ナルホド。
 お互い心配性でいけまセンネ。

[王子様は困り笑いを浮かべた。]

 ヤニクはトテモ楽しデス。
 さくらこさんが遊園地来てみたかったように、
 さくらこさんやさくらさんと出かけるコト、ヤニクの憧れネ!
 ……七年デス。七年間「さくら」が好きでシタ。

 ですから、チョト欲張りシタ。

[困り笑いにテレが混じった。ヤニクは先ほどまでの気持ちを白状してしまうことにした。]


 ん〜〜、ミラーハウス入りマセンしたのは
 鏡見て、自分一人に見えるのイヤだったからデス。
 ホントは一緒に来てマス。デスカラ、そゆの見てても楽しめナイカモ思いまシタ。

 ……さくらこさん、遊べるモノ少なくて寂しいシテなかったナラ、
 トテモ良かった思いマス。楽しなら安心ネ!
 ……多分さくらこさんはさくらこさんなりに遊んでいたのでショウし。

 デスカラ、ワタシのただの欲張りデシタ。
 一緒になにかスル、難しデスケド欲しかった。
 これは寂しとは違いマス。

 ヤニクが寂しを心配してたのは、さくらこさんのコトだけデス。
 一緒に居る出来るナラ、遊園地マデの散歩もヤニクには幸福だったのデスカラ!





[王子様の返答と困り笑いを幽霊は下から見上げて]

 ん〜〜〜


 ん〜〜〜〜〜〜〜 そうですねえ
 ちょっとしんぱいでしたね!

[ん! と素直に大きくひとつ頷いた]

[お互いに心配性だというのはそうなのだろう。
自分については、自覚もあったし。]

 ……なるほど。

[同行者の言葉をおしまいまで聞いて。幽霊はふむう。と口元につないでいない方の手を当てた。]

[暫くそうして悩んだ後、目を閉じ口元から手を動かしてこめかみに指をあてる]


 うーーーーーーーーーーーーん……


 先ほどの案内板をみたかぎり
 お土産屋さんがあるのですよねえ


[こめかみに指をあてたポーズのままぱちりと大きい目を開いて隣を見、]

 どういうものがいいのかわからないので。
 一緒に選んでくださいな。
 あとは〜ううん、ちょっとすぐには
 やっぱり思いつかないですねえ

[ううーん。と悩む様子をあからさまに幽霊は顎をあげて、]

 ──全力でこーすたーを追いかけてみるのも
 結構楽しかったりもしましたけど
 それはいっしょとはちょっと違うのでしょう?

[ひとりぼっちのミラーハウスでは駄目なようだった、ジェットコースターも。成程、一人と一人でだめなのだとしたら、それは難しいかもしれない。]

[でも。だ。]



 … よくばっていいんだと思いますよ。


 一緒にできないことを残念に思うのは……
、うーん。そうですね。
 本音のところでは、少しありました。

 自分については、おばけになったときのことを
 すっかり覚えていないくらい
 長くおばけでいるので慣れっこではあるのですが。
 
 そうですねえ。でも、今日ばっかりは
 それだときっと
 ……私が寂しいのかもですね。

[幽霊はそこでほんのり苦笑した。]

[七年。と、王子様は言った。それは幽霊にだって長い時間だ。
まだ10代の彼にとってみればずっとずっと大きな時間だったろう。
そう思えば、いい思い出をと思ってしまう。

つい、欲を張りたくなってもしまう。]

 んん! ここは! よくばりましょう!
 私、がぜんよくばりたくなりました!

[少し体を前に倒して、前から覗きこむように小さく握りこぶしで隣を見上げ]

 なので、つきあっていただきたく!
 ──ひとまずはそうですね。


 まずは、一緒に。──悩むところからですね。


 となるとお。

 写真のほかに何がいいですかねえ。
 うううん……思いつきますか? 何か。

[うーん。と道中難しい顔で幽霊は話題を振りながらむむむと唸った。]



 ナルホド!一緒にお買い物ナラ出来マスネ。
 Ok.ではそれはやりまショウ。

 はははは。全力でコースターと追いかけっこトテモスゴイ楽しかったナラ、
 実はそれでも良くはあるのデス。
 バラバラに違うモノ見て持ち寄るも、楽しデスネ。


 ケド、今日はワタシがアナタの近くにありたいカナ。
 んー……なんといっても?正味?なトコロ?



 ワタシにとってはコレ、すきなヒトとの初デートとゆヤツですカラ!

[満面の笑みで王子様は言った。]

[俄然欲張りたくなったらしい幽霊に頷き、ヤニクは手をつないでないほうの手で上の方を指さした。
 指さした方向には観覧車がある。]

 アー。
 デハあとで、アレ乗りまショウ!

 さくらこさんに着いてきて貰う必要ありマスが
 ゆっくりデス。ワタシも主にきっと景色見るスル。


 同じコトして遊べマス。




 はい! お土産にかわいいの……あ、でもぱてさんの
 お好みもきいてみたいですね?

[一人ではなくて、二人でプランを練りながら、歩く道すがら]
 ん。バラバラでも楽しいです。
 違うってことを知るのもそれはそれで
 嫌いではないですしねえ

[そう相槌を打っていた幽霊は、満面の笑みで告げられるデートの言葉に少し頷きかけていた首を不自然に止め、]
[ちりちりと胸が痛む。言わない方がいいと思いますと理性の声がして]
 … …… そうですねえ。
 でしたら、もひとつ。一緒の視点に、立てますね。

[へらりと笑って、幽霊は重なるだけの手をそっと指に絡めた。]
[聞こえたその声を、そっとひっそり無視をした。
どうぞこの言葉の意味など伝わりませんように。]

[手を離さなければと思うのに、]
[どうしても今日があんまり楽しくて]

[──すっかり、手放しがたいくらい
すきになってしまっているなんてそんなことは]

[伝わっては、ならないことだ。]

[曖昧に笑みで物思いは閉じ込める。指さされた先を見上げる。
ゆっくり大輪の輪につり下がったゴンドラがゆっくりと空中にあがっていく。]

 わ!

 いいですね。きっと町が
 すっかり一望できると思います!

[はしゃぐように幽霊は観覧車を見上げてから、にっこりと笑みを浮かべた。]



[ 『でしたら、もひとつ。一緒の視点に、立てますね。』 ]

[──そういう意味と受け取ってもいいのだろうか。]

 ………

[少し目を大きくして、若干遠まわしなその言葉に対して首をかしげてみせる。]

 いまのニポンゴチョトむつかしデス。

[次の説明があるかどうかを待つ。結局JAPANESE雅な言い回しにはいまひとつ慣れないままでいるので、
勘違いをしているのかもしれない。──つい期待してしまって、咄嗟に確かめたくなってしまった。
明日には終わってしまうことなのに。

手元に風に触れたような冷たさを感じた。見下ろしてみると、白い指が手に絡んでいた。
嬉しいのに、また少し胸が苦しく息苦しかった。]

[──罪悪感。

ヤニクには、最後だからと無責任に気持ちを伝えている自覚がある。
最後の最後に期待を持たせようとしてくれているのだとしたら、随分やさしい幽霊だなと思った。]



[きっと。やさしいなんて思われていることを幽霊が知ったら、全力で否定を返すしかなかっただろう。
だって、酷く不実なことをしていると──その自覚は、あったから。]

 あら。──…そうでしたか?

[髪をふわりと靡かせて、隣の──同行者をふりかえる。
目を柔らかく眇めて、どこがわからなかったかわからないようなフリをした。]


[説明をしましょうかとは、言わなかった。
聞かれたくなかったからだ。
──好きだと思う。好ましく思う。大切だと思う。
幸せになってくれたらと、思う。

その気持ちを与えることができる存在と言ってもらえるなんて、なんて。
なんて、稀有で泣きたくなるくらい幸福なことだろう。

けれど同時に、その役目に対して
自分は不適だろうとも思うから。
他に、誰かが彼の隣に並べるのなら
譲った方が、きっといい。]

(……だから、聞かないでくださいね)

[彼を大事にすることを思うなら。
手を離した方がいいという判断は、櫻子の中では今も変わらず『正しい』ことだ。]

[彼の事情はわからないまま]
[ただ、少しだけ。今だけ夢がみたかった。]

[この気持ちは、今だけ。
曖昧な中でしかきっと自分に持つことを
──許せないだろうと思うから。]

[へらりと笑うまま園内を歩くうち、マスコットと看板が並んだコーナーが見えてくる。]

 あっ、ほら。
 あそこではありませんか!?

[話題を続けることを避けるように
幽霊は、そちらをはしゃぐように指で示した。]



[櫻子の言葉が誠実なものでなかったにしろ。ただのごっこ遊びでも。
幸福な夢の手助けをして貰えたことは、ヤニクにとっては嬉しい贈り物だった。

櫻子が「何を訊かれたのかわからなかった」なら、それ以上聞くことはしない。
確かめてみたところで良い事なんて起こらない。
自分が彼女に伝えているのも、占いの結果がでるまでの無責任な恋心だ。


王子様は欲張った。欲張っていいと言われた。
櫻子自身も今日を「きっと楽しく」「いっぱいあそぶ」つもりでいると聞いている。

だから、少しだけ。今だけは曖昧で楽しい夢を見ることを選んだ。]



― 撮影コーナー ―

[マスコットと看板が並んだコーナーが見えてきた。
互いに話を切り替えて、試しに早速写真をとってみたのだが──]

 ン〜〜〜〜、写ってまセンネ。

[撮れた写真をまじまじ見てみても、心霊写真にもなっていなかった。
せめてこう……白くボンヤリ写るみたいなことがないものかと思ったが。
まあ写らなかったならば、仕方がないので]

 さくらこさん、どのへんにイマシタか?




[ニコニコと"ヤニクの映った"写真を隣から覗いていた幽霊は、問われて瞬き顔をあげ、]

 ?? ええと、たしか、ここに。

[疑問符を浮かべながら指さすと、──きゅきゅきゅポラロイドの上にマジックで黒髪リボンに着物姿の絵が足された。]
 … … …

[手書きでツーショットに変わった写真に、わあ。と幽霊は口を開けた。]

 こちら、本当にいただいてしまっていいのですか?

[触れられずとも離し難いように、写真に手を添えて、]

 …〜っ   ♪

[えへへと笑み崩れる幽霊は踵を上げては下げるを繰り返す。]

 っ♪ 

[満面の笑みで過ぎるくらいの喜色。頭の上で桜色のリボンがぴょこぴょこと揺れた。]

*

[お土産屋さんの散策は、あれがいいこれもいいとの検討会の結果、
じゃあゼンブでと言いだした王子様を櫻子が止めてひとつに絞ることで決着がついた。]

*

[側にあった射的屋で、特別限定品に目を引かれた
櫻子が足を止める。ヤニクが和装姿のおやっさんにコルク銃を借り受ける。

構えた王子様の手で商品が狙い撃ちにされるのに
櫻子は目を丸くしたあと跳ねながらぱちぱちと賞賛の拍手を送った。]

*

[あれもこれも、とそうするうちに
笑っている時間が増えていった。]

*

[楽しくて]

[楽しくて]


[──それは、きっと今日が終わるというのを忘れてしまうくらい。]




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