──桜守の桜──

[朝。すっかり花を落とした桜の木の下、
青い着物の幽霊は──人を待っていた。]

 … … … 

[なんとなく落ち着かないのか、右を見て左を見て、
その場で口元にこぶしを当てて、ぐるぐるとその場を回り始める。]



(神社仏閣……? いえ、でも遊ぶのには
 ちょっと向かないですよねえ……
 私、話しかけるわけにもいかないですし。
 たぶんひとりごとを言ってる
 不審者に……見えちゃいますよねえ)

(というと、ある程度賑やかで……
 繁華街……? 映画などはこの土地の
 という感じではないですし。

 …… どこをご案内するべきか……)
 

[待ち人が来るそのだいぶ以前から、ぐるぐると歩き回りながら幽霊は本日のコースを練っていた。
この町の観光地にはだいたい桜が植えられているため、それなりに候補は立てられるくらいの知識はあるのだけれど]



 (…… ……。


   邪念……でしょうか、これは)

 

[あげていく条件に当てはまる候補地はある。
賑やかであまり他人の目を気にしなくともよくて、はしゃいだり往来で話していても不審がられない場所。
強いて言えば、一人で行く人間はあまりいないかもしれないが。]


(……いえ、条件があう、ので……
 私が行ってみたい……という気持ちがあることは否定はできないのですが、
 他にいい候補が思いつかないのであって…… ……)


[ぐるぐる、まだ歩き回り]

 ……
 お好みに合うかを、


 …… 聞くだけ聞いてみましょう、か。

[そう、聞くだけならいいはずだ。もし興味がわかなさそうなら他の候補を進めればいいのだし。]

 …よしっ 

[うん。と小さく胸の前で左右の手を握った。
言うだけ言ってみることにしよう。]

[ずっとずっと──誰かと行ってみたいと
そう、思ってきた場所なのだし。]



──桜守の桜・数分後──

[ひとつの場所を心に決めた桜の幽霊は
出迎えた人に向けて桜守にある観光地のひとつを
『提案』として挙げた。]

 今日ご案内させていただく場所なのですけれど
 桜守大花園、といってですね

[目を閉じ、こほん、と無駄な空咳をひとつ。
櫻子は一見真面目な顔をして、歴史と由緒がある観光スポットだと異邦人の青年に説明をした。]



 歴史と伝統があり地域に愛されながらも
 たくさんの若い人が訪れるという
 温故知新の商業施設でして、

[ただ、視線を合わせず気がそぞろに見える。
説明は長々として要領を得ていない。]

 つまり、その──〜〜 …

[言葉に詰まって、そろそろと反応を伺うように櫻子はヤニクの顔を見た]

 ……
 遊園地というところ、なの ですが。

[けれど、すぐ見ていられなくて顔を斜め下にそらしてしまった。]

 やっぱり 、観光地としては
 … こどもっ ぽい……ですかね……

[笑われるだろうか。ですよね!と強めに言った方が良かっただろうか。
でも、ずっと誰かと行ってみたいと思っていて。
桜の木の下に集まる恋人たちが、楽しそうに思い出話をしているのに、
──ちょっと本音のところでは憧れたりなんてしてしまっていて。]

 …ご、ご説明したとおりに行く利点も
 あるかなあ……なんて、です ね。

[だから「勿論別のところも候補としては押さえてありあますけど」と口では言いつつも、
結構期待してしまっているところもあった。
そんな内心の照れくささやらやっぱり自分が行ってみたいという気持ちを優先してはいないかとか。
そんな気持ちが多々あって、だから]

 もし、よかったら、と
 …思うのですが


[────どうでしょうか。と尋ねる声は、
なんだかおそるおそるになってしまった。]


*



──桜守の桜──

[昨夜の約束の通りにヤニクは櫻子の居る桜の木の下へやって来た。

一晩たって落ち着いたのだろう。
───落ち着いてしまった、ともいうのかもしれない。

空元気は不興をかってしまいそうだ。だからお言葉に甘えて自然に振舞うことにしていた。
少し気落ちしているような普段よりは落ち着いた様子で、少し元気のない笑顔を浮かべ挨拶をした。

それから、今日の「街の案内」の行先についてを聞かせてもらうことになった。]

 桜守大花園、デスか。
[全く知らない。といった顔だ。
櫻子の実に詳細な説明を丁寧に耳に入れては時折頷いている。歴史や由緒なども興味深そうに。全て聞き終えて、何がそんなに言いづらいのかと言葉を待ってみれば]

 ゆうえんち。
[目を瞬いた。
櫻子の伺い見るような視線が外れて、彼女は斜め下を向いてしまう。]

 ? こどもポイ?

 アレイ・ヤァル?(ちょっと?)
 なんの心配スル?

 ははは。ゼンゼンそんな事ナイデス!
 ヤニク、ニポンの遊園地初めて!トテモ楽しみ!
[察するに彼女は、きっと行ってみたいのだろう。
それが愛おしくて、歯をみせて笑った。
今日は元気が貰えそうだ。]

*

[桜の木陰に来た待ち人はやっぱりというか昨日の影を引きずっているようには見えた。
ただ、無理に元気にふるまわれるよりは、ずっとずっと安心なことだった。
町を見て回っている間に気晴らしができればいい。]

 ……遊園地、です。


[そうして、選んだ提案を口にして審判の下るときを待ち──]

 う"… いや、もっと日本文化伝統的なとか
 あるかなあと思いまして……

[なんの心配かと問われるとどうにもしどろもどろになってしまう。純粋な疑問が少々胸に来る。
ただ、]

 …
   …

 ほんとう ですか?

[ただ。断られるだろうかとか、そういう些細な危惧は軽やかな笑い声が吹き飛ばしていった。]
[行ってみたい。と聞こえた言葉に逸らしていた顔をあげて]



 …はいっ! きっと楽しいです!
 

[ぱあ。と喜色がわかりやすいくらいに表情に浮いた。
両方の掌を顔の前て合わせて、なんなら跳ねそうな勢いで大きくこくこくと幽霊は縦に頷く。]


 はあぁああ…… よかった……っ
 緊張してしまいまして……
 

[誰かを誘うなんて、実は初めての経験だ。ほっとして安堵の息を吐いて肩を下ろしてから、]

…… ……… ……
[きらめく白い歯をみせる笑顔に行き会って]

─────。……
[あまりにはっきりはしゃいでしまった自分を自覚してしまった。]

 …… あ、
 あー…

[顔を見たまま羞恥でかああ、と頬が赤くなる。
だんだん視線と顔が俯いていった。]

[下を向いた顔が横にそれて、]


 …こ、
   こほんこほん!


[顔に赤みを残したまま、幽霊はあまりにもわざとらしすぎる咳ばらいした。]


 で、ではご案内しますね。
 いきましょうか。
 

[何か言われる前に。と幾分慌てた調子で桜の木の幽霊は校門の方をぎくしゃくと指さして先に歩き始めた。]



 由緒のある場所ト、ききまシタよ!
 文化伝統はまた別の機会に。
 今日はそのオススメの遊園地、見たくなりまシタ。

[顔をぱあっと輝かす櫻子ににこにこと頷いた。
すると徐々に、櫻子の顔が赤らんでいく。]

 ……?
[櫻子は顔を逸らしてわざとらしい咳払いを繰り返し、校門の方へ向かう。
ヤニクは彼女の隣を陣取って、青い着物の幽霊と並んで歩くことにした。
歩幅をあわせ、二人で桜守大花園へ向かう。]



──道中──

[朝の早いうちだからか、住宅街の道に人通りは少ない。
ご近所の雀や猫に行き会うと櫻子は会釈をして通り過ぎる。
動物たちの方が幽霊の気配には敏感だからだ。]


 少しいくとイチョウの遊歩道があってですね
 秋になると黄色の天井ができてきれいで。


[つい先ほどの失態もあり、赤くなった顔を冷まそうと顔をあげて朝の風を切る。
先導を、と思って一歩前に出ると、歩幅の差か隣に背の高い影が並ぶ。]


 … … 朝のうちには色付き眼鏡をかけて走っている人や、犬の散歩をしている人たちがよく利用してるんですよ
 

[説明の途中 え。と隣を見上げはしたものの、おかしいとも言えない。
注意することでもなければダメだというのも違うだろう。何も言えずにただ顔を見てしまった。]



[櫻子と並び立って歩きながら、彼女と目があえばヤニクはにっこりと笑い返す。
とくにおかしなところは感じていない風だ。]


 イチョウも花デスカ?

[遊歩道とイチョウの話で、その植物に馴染みがなく聞き返した。
日本の四季の経験はないが、きっと半年ほど先のことなのだろう。]


 秋、まだまだ先デスネ。

[周囲の景色を見るついで表情をみせずに、なんでもないような声音で言う。
「楽しみです」とは付け加えられなかった。日本を離れたら見には来れまい。]

 ナルホド。おさんぽコース!
 ヤニクも飼ってる犬と散歩スル、とてもスキ!
 また朝に来るシテみマス。 





 …… ……
 

[見上げた視線はにっこりとした笑顔で、受け止められてしまった。つられて、にこ。っと笑顔を浮かべる]


(うん? あれ? ? 距離感って
 これであっているのでしたっけ?
 …そうでしたっけ??)


[笑顔の上に疑問符は浮かんだが、あまりにも自然にそうされて何も言えないまま押し切られてしまった。]


 イチョウは花ではなくて、
 葉っぱなのですが、黄色く染まるんですよ


[簡単に黄葉のしくみを伝えて、紅く染まる椛についての話もして、]


 ────、…
 

[説明に動かしていた手元を見ていた目線が、ふと上がった。
なんでもないような声で、顔は見えなかったけれど]


 ……そうですね。ちょっと先ですねえ。
 

[──あまり、先の話はしない方がいいのかもしれない。と思った。]


[約束をしてしまったのは、
今日と明日の時間だけ。
だから、未来のことは口にはしない方が
いいのかもしれない。]


───。(そう、ですねえ)


[その方が、お互いのためにも。]


 ふふ。……わんちゃんとお散歩楽しそうですねえ
 ぱてさんは動物に好かれそうですよ
 

[犬の散歩の話に切り替えて、少し意図して可笑しそう声を立てた。
また。と聞こえれば、はい。とだけ相槌を打って、アスファルトで舗装された道を音もなく歩く。]

*

[住宅街を歩くうち、見えてくるのは丘の上に続く石段だ。]
 

 …… ああ、っとここの神社の石段は
 上るとちょっと大変ですが
 


 木之花咲耶姫をお祀りしていて
 そこにも桜が咲いていて、
 その桜も、とても、きれい ですよ。

[そんな風に紹介しながら連れ立ち町を歩く]



[住宅街を歩き、丘の上に続く石段に差し掛かると、また櫻子が説明をしてくれた。
神社らしい。石段の奥に赤い鳥居がみえた。]

 ニポンの神様のお家?それトモ神様に会うための窓口デスカ?

 ……桜、もう散ってしまったでショウか。
 学校の木も見事デシタので、他のは見に行くしてマセンが
 そんなに美しナラ見てみたかったデス。

[質問に対する櫻子の受け答えを聞きながら、神社を通り過ぎる。]



 ここにあるのは窓口のほうですねえ。
 おうちのときもありますね。
 桜は、そうですねえ、雨でしたからねえ……
 学校の桜は一本ですが並ぶ桜は
 本当に夢の世界のように見事なので。

[そう説明をしつつも、桜のことが褒められるのは嬉しいのか、ふんわりとした笑みを浮かべる。]


 そういえば、ぱいぱーてぃのお国では
 神様のお住まいはどんな風なんですか?
 

[湧いたのはふとした興味心。たずねて隣をみあげた。]
*
[南の国の神様や精霊の話は、日本から出たことのない幽霊には興味深いもので、
はあー。とか、ほぉう…とか感心したように繰り返し相槌を打つ。

遠い異国のことはよく知らない。
想像がつかないところはたくさんあった。]

 そういうお国で育っていらしたんですねえ。
[感心などしてみたりもするけれど。そのうち櫻子が用意してきた会話の種は底をつきてしまった。
これでも色々会話の内容について考えてきた筈だったのだけれど。

水族館があるとか、今日は行かない場所についてもひととおり。]


… … (ええと、……)
 

[何か、別の話をした方がいいだろうか。
どの話をしたか、頭の中で並べ直す。

*

[会話が絶えてしまうと
聞こえる足音は一人分だ。
幽霊の足音は聞こえない。

隣を、今は歩いているけれど。
王子様が彼らしいスマートさで
着物の此方に歩調を合わせてくれているのも
わかってしまうけれど。
お礼をいうのもなんだか変だ。]

[これでいいのか悪いのか。
その判断がつかなくて、少し気が急く。
正直なところあまり誰かと遊びに行くなんて
そんなことをしたことがないから
自信が持てないでいるのかもしれない。]


 ────、

[顔を見る勇気が出なくて、肩のあたりへと視線をあげる。赤いパーカー。
掛けてくれたのと同じもの。距離が近いとあのときと同じ香りがする気がした。]


 …

[匂いは記憶を刺激しやすい。気持ちが落ちついてくると忘れていた罪悪感が胸の奥をさした。]


(… うー… よくないですねえ)
 

[すぅ。と深く息を吸って、気持ちを落ち着ける。
たくさん遊びましょうと言ったのだから。
今日は案内役兼遊び相手で、励ませたらそれでいい。
余計なことは考えないようにするべきだ。]



 … すみません。
 歩くと少し時間かかっちゃうんですねえ
 

[桜守大花園が見えるのは少し先。
隣のヤニクに眉を下げた笑みをむけて申し訳なさげに段取りの悪さを謝った。]



[桜守大花園までは距離があるらしい。歩きながら街の説明を一通りうけているうち、会話の種がつきてしまって沈黙が訪れる。
櫻子からまだ行っていない場所や先の季節の説明をうけては、
折角の好意を無駄にしてしまう罪悪感と街に居られる時間の無さを思い、胸がチクチクした。

街の雑音と一人分の足音。
ただ傍に居られること自体は、静かでも幸せだ。
顔伺い見ると、到着に時間がかかっていることを謝られた。]


 ゼンゼンダイジョブ!

 ヤニクはさくらこさんと居られるコト自体が嬉しデス。
 こうして一緒に街を歩くが出来る、とても幸福ネ。
 一番イイ案内貰うシテマス。アリガト。


[道の先、遠くに観覧車らしきものが見えてきた。]


 
[申し訳なさは胸の内。──彼が『失恋』したのだとは知らされないままなら、
まだ変わらず町に残るのだろうと安易に信じる者の目には、秘される罪悪感までは見通せない。
ただ、貰った言葉に眉が八の字に下がった。]




 … …〜 ありがとうございます。
 

[曖昧に笑みを浮かべる。やっぱり心のどこかで自分の行いが"間違いだ"と。そう思っているからか、あまりうまくは受け取れなくて。]

*

[『自然に一緒に喜べるような』といった自分の言葉が返ってくるようだ。
それができないなら、やっぱり本当はこうしているべきではないのだろうけれど。]


 …えへ、えへへへ…
 て、てれてしまいますね!
 

[誤魔化すように口元に重ねて曲げた両手を当てて、身体を少し横に傾げた。不実だと思いながら、貰った言葉を断らなかった。]

*

[にっこり細めた瞳の裏で]

(ずるいです、よねえ)

[溜息をひっそりと呑み込んた。]


 …えへへ。過分なお言葉照れてしまいますが
 色んなお話ができて、こうして歩けて
 とっても嬉しいのですよ。


 …… 私も。
 

[へへへ。と少しゆるい笑い方。
隣から一歩前に進んで、目的地の門の手前。]


 白状してしまいますが、
 こういうこと、してみたかったですからね。
 

[悪戯がばれた子どものように額にちょんと崩れた敬礼を当てる。
そう、間違っているとしても、今日と明日だけは、望むと決めた時間だから。]


 ですので。


 … ですから、今日はめいっっぱい
 遊んでくださいね!
 

[できるだけ、明るい声でゲートの方を指さして。
何からいきましょうねえと──そんな話をした。]

*

[櫻子が浮かべたのは曖昧な笑み。けれどそれでよかった。]


 ……───。

[この想いは占いの結果を聞き次第、終わりにしなければならない。
想いを成就させたいとは最早考えていなかった。これはただの恋の引き延ばし。
好きなひとと一緒にいたい。ただそれだけに付き合わせているのだから。
いっそ困らせているのであれば、身を引く際に気楽かもしれない。]


 そうでシタか。 
 さくらこさんがしてみたいコト一緒に出来るの、とても嬉しデスネ! 

[できるだけ明るい声で返事をして、ともにゲートをくぐった。
此処のことを何もしらないヤニクは、じゃあ手近なところからと───……]




*

*

*


[そう、そのときにはまったく考えてもいなかった。
ゲートを抜けて一番近くのアトラクションに向かった後に何が起きるかなんて。]

*

*

*



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