サイボーグ娘SSスレッドに保管されたSSの保管庫です。一応、18禁ということで。

 「素体引渡しを完了しました、ご確認をお願いします」
 黒服の男が輸送用カプセルにコードを入力すると圧縮空気の音と共に蓋が開き、少女の姿が露になる。
 制服姿の少女は目を瞑っているが、胸が規則正しく上下する事から息をしていることが分かる。
 書類に貼られている写真と同一人物である事を確認し、少女の身体に異常が無いか確かめる。
 見た限りでは問題は無いようだ。
「問題無いようです。ご苦労様です」
 差し出された書類にサインをしながらそう答える。
「はい、どうも。それでは今後の細かいスケジュールは追って知らせます」
 書類のサインを確認した後、細かいデータの入ったディスクを置いて男達はゲートから退出して行った。

 部下に少女メディカルルームに移し身体検査をするよう命じデスクに戻ると、立ち上げたPCに先程のディスクを収める。
「本当に何処にでも居る子だな…」
 ディスクには少女の詳細な情報が記されていた。

 秋月麻衣 17歳
 両親は健在、2歳下の弟があり、家庭は円満で中の上程度
 友人は多くは無いが親友と呼べる物も居る
 成績は上の下、ただし運動は苦手
 病歴はとくになし、視力矯正以外虫歯一本無い健康体そのもの

 機械化適性値62 … 事前の説明通り、10代後半の平均とほぼ同値だ

 最後に、第三期機械化歩兵開発計画 試作機素体 とある。
 この何処にでも居る少女の世界でも他に無い運命がそれだった。

 増えすぎた人口と枯渇した資源、演算装置技術の停滞、南北・東西を始めとする軍事的緊張、そして医療用代替機械技術
 これらに代表される様々な要素がこの計画を動かした。

 日本は自国防衛のため軍を再整備することになるが、大型の戦闘艦や戦闘機、戦車の所有量は軍縮条約により大幅に制限されていた。
 当時の政府が憲法を根拠に明らかに不平等な条約をそのまま受け入れたため、諸外国のそれとは比べ物にならないほど少ない数しか持てない事になっていた。
 これが原因で時の政府は解散、総選挙の結果大敗し与党はおろか、ほとんどの議席を失ったのはここだけの話である。
 既存の大型兵器では数の不利を覆せないと認識した政府と軍は今までに無い兵器の開発に比重を傾けていく。
 いくつかのプランが示され、審議と試作が繰り返された。
 その結果、人間大のロボット兵器が最有力と目されていた。
 しかし、自立思考も遠隔操作も技術的な信頼が十分に確保できないという壁にぶち当たる事になった。
 ロボット兵器に搭載できるサイズのノイマン型の人工知能では刻一刻と変化する最前線の状況に対応するだけの思考速度を得られない、そう結論付けた技術部は発想を逆転させる。
 演算装置が人間の思考速度に劣るなら、思考速度が劣らないものを演算装置に使用すれば良い。
 すなわち、人間をロボット兵器の制御装置として組み込めばよい。
 幸い、医療用としてサイバネティック技術は世界でも群を抜いたレベルを持っていたため、軍事技術への変換は容易であった。

 国防軍中央技術研究所で製作された試作第1号は、完全なロボットにブラックボックス化された生体脳を組み込むと言う形を採っていた。
 軍内で選抜された素体を利用して開発された試作第1号は、結論としては完全に失敗に終わる。
 組み込まれた脳は接続された機械を自らの身体と認識できず、暴走をおこし完全に破壊された。
 義肢などの使用者には見られない反応に各分野の権威達が下した解決策は、脳を組み込む形ではなく肉体を置き換える、それも段階的に機械化を行い、自身の身体であることを認識させる事だった。
 また最終的には人間に近い外見を維持し、特に顔については人間のそれと全く変わらない外見をするようにする事だった。
 これを参考に製造された試作第2号暴走を起こすことなく無事に完成に至り、現在でも最重要防衛秘密として保管されている。
 開発計画は第2期に移行し、様々な付加機能を与えられた機械化兵が製造された。
 そして計画は第3期へと発展し、実際の運用を見越した開発へと移る事になる。
 第2期までは訓練をつんだ兵を素体として改造を行ったが、実際の運用では民間人から素体を確保する事になる。
 その際、どの様な反応を示すかのデータ取得と兵器として運用可能な状態へ設定するノウハウの確立が今回の目的だ。
 事前のミーティングでは今回の素体は、完全な民間人、軍事関係には一切の関連性なし、戦闘行為への親和性が低め、平均的な機械化適性、といった条件で行うとの事だった。
 秋月麻衣はこれらの条件を満たした素体として選ばれたのだ。
 予定通りに製造が完了すれば。1ヶ月後には彼女は最新型の人型兵器として幹部達の前で性能評価を受けていることだろう。
 これからの1ヶ月間の間に、彼女は脳以外のほぼ全てを奪われ、人間としての17年間を否定され、戦うための道具へと生まれ変わることになる。
 それは最早決定された運命なのだ。
2.宣告

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