急に目の前が明るくなる。またお母さんがカーテンをいきなり開けたのだろう。もう少し寝ていたい。そう思いながらいつもの小言を待ったがその気配が無い。
薄目を開けると見知らぬ男性が目の前に居た。いや、昨日あった男性だ。その事と同時に様々なことが思い出される。
機械化改造、素体…
「目が覚めたら全部夢でした。そんな事を期待していたんだろう」
村上さんの言うとおり、全てが夢である事を期待していた。しかし、それは全て打ち砕かれていた。
「残念だったな。早く起きろ」
促されて立ち上がると、裸同然の自分の姿が目に入る。思わず反射的に前を隠す。そう言えばこんな格好していたんだ。
「懲りない奴だな。早くしろ」
呆れたような声が聞こえる。そう言えば首輪までしているんだった…
逆らってもしょうがない。恥ずかしいがなんとか立ち上がる。
その時、
クー
と、大きな音がした。
恥ずかしい。裸を見られているのとはまた全く異なった恥ずかしさだ。顔が真っ赤になっているのが分かる。
「朝食のしたくは出来ている。早く来い」
そう告げて部屋を出て行く村上さんについて、私も部屋を出た。
小会議室とプレートに書かれた部屋に入る。
ホワイトボードと机・椅子のセットが幾つかあるだけの狭い部屋だが、机の上には数冊の本と学校の給食のような食事が一人前だけ置かれていた。
「先に食事を済ませてしまえ」
村上さんはホワイトボード傍の椅子に座り、私を促した。
「いただきます」
しっかりと口に出してから食べ始める。味はあんまり感じられない。でも、食事をしているという事実が嬉しかった。
2人とも一言も口にしないまま食事は終わった。
「それじゃあ、食器は後ろの机に置いておけ。座学を始めるぞ」
ノートPCを開き、スライドの準備をしながら言う。
「さて、まずは昨日の復習だ。君の現在の立場を正確に言ってもらおう」
現在の立場…、年齢や職業なんかを聞いているのではない。昨日言われた、機械化歩兵とかの事だろう。これはただの授業なんかじゃなくて、その計画の一部なんだ。
「き、機械化歩兵…、育成計画のそた、被験者です」
開発計画、素体。そんな単語が浮かんだが思わず違う言葉を使う。
「間違いだ」
昨日見せた懲罰用というボタンを取り出すのを見て身構えるが、何の意味も無い。
「!」
次の瞬間、激しい痛みが体を襲う。その痛みに声も出ない。
「与えられた情報は正確に記憶しなければいけない。また、間違った情報を故意に上官に伝えるのは重罪だ」
村上さんの声が、先程よりも怖い。
「もう一度聞くぞ」
先程、無意識に避けた言葉を思い出し口にする。
「機械化歩兵…開発計画の試作機…素体です」
「正確には『第三期機械化歩兵開発計画の試作機素体』だ。これは改造処理により人型兵器となる素材であると言うことを示す」
改造、兵器。先程の痛みがその非現実的な言葉に信憑性を与える。
「改造後の立場は兵器と言う言葉が示す通り、軍の管理下に置かれ命令には絶対服従を強いられる。戦車や小銃と同じ立場だ。もちろん、自由意志など認められない。将官や兵卒たちの命令を実行するために全力を尽くすんだ」
昨日も言われた事だが、今の自分の扱いが言葉に重みを与える。いきなりの拉致、容赦ない懲罰、透け透けの服装。このまま、私は言われる事を実行するだけの人形になるのだろうか…
「さて、一言で機械化歩兵と言うがどの様な物を指すか知る必要がある。将来自分がどんな姿になるか興味があるだろう」
どんな姿か…、恐怖もあるが興味もある。
「だが、先に君自身が将来どの様な姿になると思っているか教えてもらおう」
どの様な、と言われも想像できない。TVで見た義手はほとんど変わりない外見をしていた。私もああゆう物を付けられるのだろうか?答えに詰まってしまう。
「一般に知られている機械化技術では代表的なものは義手がある」
ホワイトボードのスライド画面に義手であろう物が映し出される。これはTVで見たことある。
「はい、それなら知っています」
そう答えると、スライド画面に全裸の私が映し出される。そして、手首から先が外れ、先程の義手が代わりにくっつく。
ほとんど、違和感が無い。よく見るとくっついた場所にうっすらと跡が見える位だ。でも、ああいう風に機械にされてしまうのかと思うとゾッとする。
「次によく知られているのが義足だ」
今度は義足が映し出された。これもTVで見たことある。さっきの義手と同じように、スライドに映った私の腰から下の部分が取り外され義足がつけられる。
「大体、一般に広がっている機械化処理はこんなものだろう」
確かにどちらもTVで見たことがある。だが、私がそんなものを付けられるなんて…
「わたし、手だけじゃなくて足も機械にされるんですか?」
一応、確認する。これがすべて私につけられ訳じゃないかもしれない。
「あまり知られていないが、義手だけではなく腕全体を機械化して代替品とする技術も一般に広がっている」
答えの代わりに驚くべき言葉が返ってきた。腕全体!そんなに機械にするなんて…
画像では今までと同じように腕が取り除かれ義腕に代わっていた。
「まさか、嘘ですよね」
冗談だと言って欲しい。こんな腕までなんて…だが、否定の言葉の代わりに村上さんの口から出たのはこんな言葉だった。
「人工皮膚の技術も発達したが、人間に偽装する訳ではない兵器には不要な代物だ」
今まで人間と遜色無かった見た目が一変し、機械が剥き出しなった。
「こんな格好になるなんて…」
誰が見ても機械だと分かる。今までの姿とは全く違う姿だ。
「さらに内臓を必要最小限の代替機械に置き換えることにより内臓火器や動力炉の収納スペースを確保する事ができる」
お腹から授業で習った内臓が次々と飛び出し、代わりに何かの機械が飛び込んでいく。
最後に心臓が飛びでして来たときは、今の心臓が止まってしまった様に感じた。
「そんな、心臓まで… 死んじゃいます」
多分、代わりになる機械が与えられるのだろう。でも、今の私はもう生きていけない。別の何かになってしまう気がする。
「不要な内臓などを削除したから最低限の生命維持装置で生きていられるよ。でも、内臓火器とかつけたからね。今のままじゃ立つのがやっとだ。このままじゃとてもじゃないが戦闘なんて無理だ」
戦闘なんてしたくない。そう思ったが口に出なかった。
すると、画面にまた義足が映し出された。しかし、先程のそれとは別物だと一目瞭然だった。
まず全体的に線が細かった以前のものに対して、力強い線で構成されている。そして、今でこそ金属の外見を晒しているが、人間そっくりに似せていた前者と比べ、最初から金属製でこの状態こそ正常であると感じさせるデザイン、人間の身体を真似るのでなく機能優先である事が一目で分かった。
「幸い出力が大きな動力炉を内蔵したことにより、こういう軍用義足を使用して長時間戦闘を行う事ができる」
それが私の身体に取り付けられる。だが、今までの物と違い、貧相な私にはあまりにも似合わなかった。
「ついでに腕の方も軍用のものと取り替えよう」
腕の方も足と同じだ。機能優先で人間の腕とはまったく別物。そして、私の身体はまた別な物へと変貌していった。
「軍用って…、こんな…」
口から声がこぼれる。
「一般には一切出回らない代物だよ。片手で軽くゴリラを締め上げる事が出来る。パワーセーブをした所で日常生活はもはや不可能だと考えていいだろう」
確かにそうだ。こんな姿の化物が日常の中に居ていいはずが無い。私は完全に日常から隔離されるのだ。
次に映し出されたものは金属製の身体だった。それも女性型のふっくらとして身体。
「攻撃能力を手に入れても、防御性能は全くダメだ。胸元などを打ち抜かれたら内臓機械が破壊される恐れがある。そこで金属製の身体を与える」
首からは下の私の身体が消え去る。残ったのは新たに与えられた機械部品だけ。
「これが君の身体だ」
消えた胴体の代わりにさっきの金属の胴体が収まる。そして、そこには首から下が完全に機械化された私が居た。
「あ、あ、・・・」
すべて奪われてしまった。手、足、内臓、そして胴体そのもの。首から下は完全に機械化されてしまった。
その事実に私の感情は限界を超えてしまった。股の間から暖かいものが流れ出すのが分かる。
しかし、ボディースーツに阻まれてそれが外に漏れ出す事は無い。村上さんが何かを言っているが理解できなかった。
「もう何も無いんだ…」
そんな言葉が口からこぼれ続けた。
だが、それを止めたのは意外な一言だった。
「最後はこれだ」
まだ何処を改造されるんだ? そう思った時信じられないものが映し出された。金属性の髑髏。そうとしか表現できないもの。
と言う事は…
「これを君の顔に合わせると…」
皮膚がくっついていき、徐々に人間の顔を形作る。そう、私の顔だ。
額になにかのプレートが付いていたり、耳が変だったりするけど、いつも見ている私の顔だ。
「顔部に関しては出来る限り、改造前と同じ状況を再現する。これは現在の身体が自分の物だと認識させる為の処置だ。これに君の脳を収める」
画面に映った私の頭からピンクの脳味噌が飛び出し、あっという間に小さく切り落とされていく。
「一部の運動や代謝機能を司る部分は機械に置き換えられる。これは通常なら脳側で処理するのではなく義肢側で神経パルスを処理するが、2度と元に戻る事を考慮されない兵器の場合、不要部分のスペースを再利用した方が義肢側に余計なスペースや重量、処理遅延などが発生しないので効率的だ」
そして、さっきの機械の私の頭に脳味噌が収められ、中身の無い古い頭の代わりに私の身体に接続された。
「これが、最終的な完成予想図だ」
そこに居るのは頭まで含めて全身が機械化された少女だった。頭部だけは今の私そっくりだが、それすら作り物だ。ただ、脳味噌の一部だけが機械の中に納められているのに過ぎない。
「これが私…」
だが、先程の手足だけ機械化されていた状態と違い全ての調和が取れていた。
そして、美しいと感じた…
「改造は徐々に段階を踏んで行われる。改造中の光景もしっかり観察してもらうぞ。それにより機械でできた身体が自分自身のものであるという認識をしっかり持ってもらう」
多分、これまで見せたのと同じ段階を踏んで改造するのだろう。
「せめて、人工皮膚を…」
叶わないと知りながらも、口から出る。
「それは出来ない。まず人工皮膚は人間が義肢を使用する際、本来の四肢との違いを隠す為のものだ。だが、人型兵器は当初から機械であることが当然の事である。だからそれを隠す必要は無い。それにこの機械が露出した身体は自分が人間とは異質なものであると言う自己認識を強固にしてくれる。自分は兵器であって、人間ではない。最も基本的な認識だ。正しく自己認識が出来ていないと混乱の元になる。現在の君が良い例だ。君は何だね?、機械か?人間か?」
「私は、人間です」
今の私は機械ではない。その思いが口から溢れた。
しかし、懲罰のスイッチを取り出した時、自分の答えが間違った事を悟った。
「ほら、間違った。さっきも言ったとおり君は試作機の素体に過ぎない。人間ではなく生体部品だ。やれ、人権だ、最低限度の保護だのといった物とは無縁の存在だ。それを忘れてはならない。それじゃあ、最後に簡単な手術をして今日の授業を終わろう」
激しい痛みの中、もう人間ではない、という事実が強く心に残った。
薄目を開けると見知らぬ男性が目の前に居た。いや、昨日あった男性だ。その事と同時に様々なことが思い出される。
機械化改造、素体…
「目が覚めたら全部夢でした。そんな事を期待していたんだろう」
村上さんの言うとおり、全てが夢である事を期待していた。しかし、それは全て打ち砕かれていた。
「残念だったな。早く起きろ」
促されて立ち上がると、裸同然の自分の姿が目に入る。思わず反射的に前を隠す。そう言えばこんな格好していたんだ。
「懲りない奴だな。早くしろ」
呆れたような声が聞こえる。そう言えば首輪までしているんだった…
逆らってもしょうがない。恥ずかしいがなんとか立ち上がる。
その時、
クー
と、大きな音がした。
恥ずかしい。裸を見られているのとはまた全く異なった恥ずかしさだ。顔が真っ赤になっているのが分かる。
「朝食のしたくは出来ている。早く来い」
そう告げて部屋を出て行く村上さんについて、私も部屋を出た。
小会議室とプレートに書かれた部屋に入る。
ホワイトボードと机・椅子のセットが幾つかあるだけの狭い部屋だが、机の上には数冊の本と学校の給食のような食事が一人前だけ置かれていた。
「先に食事を済ませてしまえ」
村上さんはホワイトボード傍の椅子に座り、私を促した。
「いただきます」
しっかりと口に出してから食べ始める。味はあんまり感じられない。でも、食事をしているという事実が嬉しかった。
2人とも一言も口にしないまま食事は終わった。
「それじゃあ、食器は後ろの机に置いておけ。座学を始めるぞ」
ノートPCを開き、スライドの準備をしながら言う。
「さて、まずは昨日の復習だ。君の現在の立場を正確に言ってもらおう」
現在の立場…、年齢や職業なんかを聞いているのではない。昨日言われた、機械化歩兵とかの事だろう。これはただの授業なんかじゃなくて、その計画の一部なんだ。
「き、機械化歩兵…、育成計画のそた、被験者です」
開発計画、素体。そんな単語が浮かんだが思わず違う言葉を使う。
「間違いだ」
昨日見せた懲罰用というボタンを取り出すのを見て身構えるが、何の意味も無い。
「!」
次の瞬間、激しい痛みが体を襲う。その痛みに声も出ない。
「与えられた情報は正確に記憶しなければいけない。また、間違った情報を故意に上官に伝えるのは重罪だ」
村上さんの声が、先程よりも怖い。
「もう一度聞くぞ」
先程、無意識に避けた言葉を思い出し口にする。
「機械化歩兵…開発計画の試作機…素体です」
「正確には『第三期機械化歩兵開発計画の試作機素体』だ。これは改造処理により人型兵器となる素材であると言うことを示す」
改造、兵器。先程の痛みがその非現実的な言葉に信憑性を与える。
「改造後の立場は兵器と言う言葉が示す通り、軍の管理下に置かれ命令には絶対服従を強いられる。戦車や小銃と同じ立場だ。もちろん、自由意志など認められない。将官や兵卒たちの命令を実行するために全力を尽くすんだ」
昨日も言われた事だが、今の自分の扱いが言葉に重みを与える。いきなりの拉致、容赦ない懲罰、透け透けの服装。このまま、私は言われる事を実行するだけの人形になるのだろうか…
「さて、一言で機械化歩兵と言うがどの様な物を指すか知る必要がある。将来自分がどんな姿になるか興味があるだろう」
どんな姿か…、恐怖もあるが興味もある。
「だが、先に君自身が将来どの様な姿になると思っているか教えてもらおう」
どの様な、と言われも想像できない。TVで見た義手はほとんど変わりない外見をしていた。私もああゆう物を付けられるのだろうか?答えに詰まってしまう。
「一般に知られている機械化技術では代表的なものは義手がある」
ホワイトボードのスライド画面に義手であろう物が映し出される。これはTVで見たことある。
「はい、それなら知っています」
そう答えると、スライド画面に全裸の私が映し出される。そして、手首から先が外れ、先程の義手が代わりにくっつく。
ほとんど、違和感が無い。よく見るとくっついた場所にうっすらと跡が見える位だ。でも、ああいう風に機械にされてしまうのかと思うとゾッとする。
「次によく知られているのが義足だ」
今度は義足が映し出された。これもTVで見たことある。さっきの義手と同じように、スライドに映った私の腰から下の部分が取り外され義足がつけられる。
「大体、一般に広がっている機械化処理はこんなものだろう」
確かにどちらもTVで見たことがある。だが、私がそんなものを付けられるなんて…
「わたし、手だけじゃなくて足も機械にされるんですか?」
一応、確認する。これがすべて私につけられ訳じゃないかもしれない。
「あまり知られていないが、義手だけではなく腕全体を機械化して代替品とする技術も一般に広がっている」
答えの代わりに驚くべき言葉が返ってきた。腕全体!そんなに機械にするなんて…
画像では今までと同じように腕が取り除かれ義腕に代わっていた。
「まさか、嘘ですよね」
冗談だと言って欲しい。こんな腕までなんて…だが、否定の言葉の代わりに村上さんの口から出たのはこんな言葉だった。
「人工皮膚の技術も発達したが、人間に偽装する訳ではない兵器には不要な代物だ」
今まで人間と遜色無かった見た目が一変し、機械が剥き出しなった。
「こんな格好になるなんて…」
誰が見ても機械だと分かる。今までの姿とは全く違う姿だ。
「さらに内臓を必要最小限の代替機械に置き換えることにより内臓火器や動力炉の収納スペースを確保する事ができる」
お腹から授業で習った内臓が次々と飛び出し、代わりに何かの機械が飛び込んでいく。
最後に心臓が飛びでして来たときは、今の心臓が止まってしまった様に感じた。
「そんな、心臓まで… 死んじゃいます」
多分、代わりになる機械が与えられるのだろう。でも、今の私はもう生きていけない。別の何かになってしまう気がする。
「不要な内臓などを削除したから最低限の生命維持装置で生きていられるよ。でも、内臓火器とかつけたからね。今のままじゃ立つのがやっとだ。このままじゃとてもじゃないが戦闘なんて無理だ」
戦闘なんてしたくない。そう思ったが口に出なかった。
すると、画面にまた義足が映し出された。しかし、先程のそれとは別物だと一目瞭然だった。
まず全体的に線が細かった以前のものに対して、力強い線で構成されている。そして、今でこそ金属の外見を晒しているが、人間そっくりに似せていた前者と比べ、最初から金属製でこの状態こそ正常であると感じさせるデザイン、人間の身体を真似るのでなく機能優先である事が一目で分かった。
「幸い出力が大きな動力炉を内蔵したことにより、こういう軍用義足を使用して長時間戦闘を行う事ができる」
それが私の身体に取り付けられる。だが、今までの物と違い、貧相な私にはあまりにも似合わなかった。
「ついでに腕の方も軍用のものと取り替えよう」
腕の方も足と同じだ。機能優先で人間の腕とはまったく別物。そして、私の身体はまた別な物へと変貌していった。
「軍用って…、こんな…」
口から声がこぼれる。
「一般には一切出回らない代物だよ。片手で軽くゴリラを締め上げる事が出来る。パワーセーブをした所で日常生活はもはや不可能だと考えていいだろう」
確かにそうだ。こんな姿の化物が日常の中に居ていいはずが無い。私は完全に日常から隔離されるのだ。
次に映し出されたものは金属製の身体だった。それも女性型のふっくらとして身体。
「攻撃能力を手に入れても、防御性能は全くダメだ。胸元などを打ち抜かれたら内臓機械が破壊される恐れがある。そこで金属製の身体を与える」
首からは下の私の身体が消え去る。残ったのは新たに与えられた機械部品だけ。
「これが君の身体だ」
消えた胴体の代わりにさっきの金属の胴体が収まる。そして、そこには首から下が完全に機械化された私が居た。
「あ、あ、・・・」
すべて奪われてしまった。手、足、内臓、そして胴体そのもの。首から下は完全に機械化されてしまった。
その事実に私の感情は限界を超えてしまった。股の間から暖かいものが流れ出すのが分かる。
しかし、ボディースーツに阻まれてそれが外に漏れ出す事は無い。村上さんが何かを言っているが理解できなかった。
「もう何も無いんだ…」
そんな言葉が口からこぼれ続けた。
だが、それを止めたのは意外な一言だった。
「最後はこれだ」
まだ何処を改造されるんだ? そう思った時信じられないものが映し出された。金属性の髑髏。そうとしか表現できないもの。
と言う事は…
「これを君の顔に合わせると…」
皮膚がくっついていき、徐々に人間の顔を形作る。そう、私の顔だ。
額になにかのプレートが付いていたり、耳が変だったりするけど、いつも見ている私の顔だ。
「顔部に関しては出来る限り、改造前と同じ状況を再現する。これは現在の身体が自分の物だと認識させる為の処置だ。これに君の脳を収める」
画面に映った私の頭からピンクの脳味噌が飛び出し、あっという間に小さく切り落とされていく。
「一部の運動や代謝機能を司る部分は機械に置き換えられる。これは通常なら脳側で処理するのではなく義肢側で神経パルスを処理するが、2度と元に戻る事を考慮されない兵器の場合、不要部分のスペースを再利用した方が義肢側に余計なスペースや重量、処理遅延などが発生しないので効率的だ」
そして、さっきの機械の私の頭に脳味噌が収められ、中身の無い古い頭の代わりに私の身体に接続された。
「これが、最終的な完成予想図だ」
そこに居るのは頭まで含めて全身が機械化された少女だった。頭部だけは今の私そっくりだが、それすら作り物だ。ただ、脳味噌の一部だけが機械の中に納められているのに過ぎない。
「これが私…」
だが、先程の手足だけ機械化されていた状態と違い全ての調和が取れていた。
そして、美しいと感じた…
「改造は徐々に段階を踏んで行われる。改造中の光景もしっかり観察してもらうぞ。それにより機械でできた身体が自分自身のものであるという認識をしっかり持ってもらう」
多分、これまで見せたのと同じ段階を踏んで改造するのだろう。
「せめて、人工皮膚を…」
叶わないと知りながらも、口から出る。
「それは出来ない。まず人工皮膚は人間が義肢を使用する際、本来の四肢との違いを隠す為のものだ。だが、人型兵器は当初から機械であることが当然の事である。だからそれを隠す必要は無い。それにこの機械が露出した身体は自分が人間とは異質なものであると言う自己認識を強固にしてくれる。自分は兵器であって、人間ではない。最も基本的な認識だ。正しく自己認識が出来ていないと混乱の元になる。現在の君が良い例だ。君は何だね?、機械か?人間か?」
「私は、人間です」
今の私は機械ではない。その思いが口から溢れた。
しかし、懲罰のスイッチを取り出した時、自分の答えが間違った事を悟った。
「ほら、間違った。さっきも言ったとおり君は試作機の素体に過ぎない。人間ではなく生体部品だ。やれ、人権だ、最低限度の保護だのといった物とは無縁の存在だ。それを忘れてはならない。それじゃあ、最後に簡単な手術をして今日の授業を終わろう」
激しい痛みの中、もう人間ではない、という事実が強く心に残った。
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