創造論とインテリジェントデザインをめぐる米国を中心とする論争・情勢など

インテリジェントデザイン概説

よく質問されるが、答えもないインテリジェントデザインについての質問


Andrew ArensburgerによるFrequently Unanswered Questions about Intelligent Design(よく質問されるけど、答えてくれないインテリジェントデザインについての質問)というページがある。これは、インテリジェントデザイン理論というものが、いかなるものか、よくわかる内容となっている。

一般的な質問

1. インテリジェントデザインの科学理論とは何ですか?

1.1 インテリジェントデザインの検証可能な予測は何ですか?※a
1.2 どのような観測事実だと、原理的にインテリジェントデザインを反証可能ですか?

2. インテリジェントデザイン分野で、現在どのような研究がなされていますか?

3. インテリジェントデザインを検証するどんな実験がなされましたか?

3.1 十分な資金と機材があれば、インテリジェントデザインを検証するどんな実験ができますか?それらの実験のために何が必要ですか?
3.2 技術的制約で不可能だが、原理的にインテリジェントデザインを検証するどんな実験ができますか?その実験のためのどんな技術が必要ですか?

4. 査読つき学術誌にインテリジェントデザインのどんな論文が掲載されましたか?※b

4.1 どんな論文が学術誌に拒絶されましたか?インテリジェントデザインの論文が何本学術誌に投稿されましたか?
4/2 投稿論文は拒絶されましたか?拒絶されたのであれば、どういう理由でしたか?それらの論文は査読コメントに対応して修正および再投稿できましたか?

5. インテリジェントデザインからどのような技術的な発展が出てくるでしょうか?

6. インテリジェントデザイン理論の実用的な応用例がありますか?

6.1 考古学では、発見した石が原始的な矢尻なのか、岩の欠片なのか判別するのに苦労することがよくあります。インテリジェントデザインは石器と岩の欠片を判別するのに役に立つでしょうか?
6.2 暗号解読やSETIや数理分野では、ランダムな信号とメッセージの判別ができると役に立ちます。これらの分野で、インテリジェントデザインはどう役に立ちますか?

7. 人間の目の盲点のような部分最適なデザインや悪いデザインをインテリジェントデザインはどう説明しますか?※c

8. 細菌が動物を攻撃するために使うメカニズムと、これらの攻撃に対抗する免疫システムのような、互いに戦うデザインをどう説明しますか?

9. ホモサピエンスは独自のデザインイベントの産物でしょうか?もしそうなら、それはどんなイベントでしょうか?
インテリジェントデザイン"理論"の研究なんか誰もやっていないということがわかる回答なき質問群を示すAndrew Arensburgerのうまい整理のやり方である。

実際、インテリジェントデザインのシミュレーション研究もフィールドワークも実験室実験もない。あるのは文献批判だけ。

※aについてAndrew Arensburgerは以下の、完璧な"God of the gaps"論であるDembskiを引用して、反証可能性のなさを明示している:
Dembski: Is Intelligent Design Testable?

Intelligent design is eminently falsifiable. Specified complexity in general and irreducible complexity in biology are within the theory of intelligent design the key markers of intelligent agency. If it could be shown that biological systems like the bacterial flagellum that are wonderfully complex, elegant, and integrated could have been formed by a gradual Darwinian process (which by definition is non-telic), then intelligent design would be falsified on the general grounds that one doesn't invoke intelligent causes when purely natural causes will do. In that case Occam's razor finishes off intelligent design quite nicely.

インテリジェントデザインはきわめて反証可能である。一般における指定された複雑さと、生物学における還元不可能な複雑さは、インテリジェントデザイン理論の範囲内でインテリジェントエージェンシーの重要な目印である。素晴らしく複雑で、エレガントで、統合されているバクテリアの鞭毛のような生物システムが、定義上では非目的である、漸進的なダーウィンの過程で形成され得るなら、インテリジェントデザインは、純粋に自然の原因によって説明されるとき、インテリジェントな原因を呼び出す必要がないという一般的な根拠において、反証されるだろう。その場合は、オッカムの剃刀によりインテリジェントデザインはまったくうまく始末する。


※bの査読つき論文については、Kumicitも扱っているが、まさに本数少なすぎ。しかも、実質的にインテリジェントデザインの論文ではない。それに、「インテリジェントデザインの論文は学術誌に拒絶される」と主張するなら、拒絶論文を積み上げて見せるべきだというAndrew Arensburgerの指摘はとっても的確だ。

※cの部分最適なデザインや悪いデザインについては、キリスト教神学の古来よりの問題である「神義論」に突入してしまう話。



重複もあるので、整理しなおして用語の定義について見る:
定義

1. 基本用語の定義

1.1 デザインとは何ですか?
1.2 インテリジェンスとは何ですか?
1.2 デザインはデザイナーの存在を意味しますか?
1.4 デザインはインテリジェントデザイナーを意味しますか?もしそうなら、何故ですか?

2. 還元不可能な複雑さ(Irreducible Complexity)について

2.1 還元不可能な複雑さとは何ですか?
2.2 客観的にどうやって検出しますか?
2.3 還元不可能な複雑さは、インテリジェントデザイン理論と、どう関係していますか?

3. 複雑に指定された情報(CSI=Complex Specified Information)あるいは指定された複雑さ(Specified Comlexity)について
>
3.1 複雑に指定された情報とは何ですか?
3.2 どうやって計算しますか?計測の単位は何ですか?
3.3 計算例を示してください。たとえば、スプーンとか、アミノ酸が数個のタンパク質とか。
3.4 複雑に指定された情報は、インテリジェントデザイン理論と、どう関係していますか?

4. 以上の回答に「情報」という単語が含まれる場合について

4.1 情報の定義は何ですか?
4.2 情報の測定および計算方法は?
4.3 計算例あるいは測定例を示してください。

はじめのデザインやインテリジェンスについては、BeheとDembskiの回答相当の記述がある:
Design is simply the purposeful arrangement of parts.

デザインとは部品の目的ある配置である[ Behe 1998 ]。

We could therefore define intelligence as the capacity for rational or purposive or deliberate or premeditated choice.

我々はインテリジェンスを、合理的、あるいは目的を持った、あるいは慎重な、あるいは計画的な選択能力と定義できる [ Dembski 2001 ]。


ただし、「デザイナーの意図や目的は不明あるいは研究対象外」とされているので、「デザイン=意図不明な意図的部品の配置」とか「インテリジェンス=目的不明な目的ある選択能力」という、わけのわからない定義になっている。

後半はとても有名なネタである。もちろん、インテリジェントデザイン理論家Dr. William DembskiやDr. Michael BeheやDr. Stephem MeyerやDr. Jonathan Wellsたちは一度たりとも、実測例を示したことがない。

もともとの定義も
Dembski asserts that specified complexity is present in a configuration when it can be described by a pattern that displays a large amount of independently specified information and is also complex, which he defines as having a low probability of occurrence.

Dembskiは指定された複雑さを、非常に多くの独立した指定された情報を示していて、かつ起きる確率が非常に小さい複雑さを持つパターンとして記述される構成の中にあるものと主張している。[wikipedia:Specified Complexity]
というもので、「自然の過程で起きる確率」を基準としている。すなわち、「進化生物学の隙間の大きさ」とでもいうべきもの。情報量とは関係がない。しかも、この確率さえも計算された例がほとんどない。

ということで、これらの回答なき質問リストは、「情報」とか「情報量」とか「複雑さ」とかは、ポエムとしての意味はあっても、数理的な意味は持っていないことを指摘するものである。


この後は定番シリーズ:
デザイナー

1. デザイナーは誰ですか?
2. デザイナーは何人いますか?あるいは、いましたか?
3. デザイナーは必然的にインテリジェントですか?
4. デザイナーは必然的に意識がありますか?
5. デザイナーは必然的に生きていますか?
6. 生物がデザインされたと結論できる特徴(複雑に指定された情報)を、デザイナーが持っているとするなら、デザイナーをデザインしたのは誰ですか?
7. あるものが人工物であるかどうか判断する時、我々は人間のデザイナーの意図を仮定します。たとえば、矢尻が狩猟のためのものなのか、崇拝のためのものか、皮を焼くための道具なのか。デザイナーの意図は何ですか?
8. もし、これらの質問への答えが「わからない」であれば、十分な資金と実験機材があったとすれば、どうやって答えを見つけられますか?
インテリジェントデザインの公式な答えは、もちろん「不明」である。

デザイナーの意図は検証不可能であるため、言及しても科学の版図外になる。ところが、意図がわからないと、「デザイン=意図不明な意図的部品の配置」といった意味不明な定義が出現してしまう。

さらに、次も定番シリーズ:
デザインプロセス

1. デザインイベントの回数は?
2. 最初のデザインイベントはいつでしょうか?
3. デザインイベントの頻度はどれくらいでしょうか?それは一定でしょうか?それとも、バース的に起こったのでしょうか?
4. 今でも、デザインイベントは起きていますか? 起きていないとすると、最後のデザインイベントはいつですか?
5. デザインイベントはどこで起きましたか?
6. デザイナーが働いているところを観察できたとすると、どのように見えるでしょうか?デザインイベントが現在起きたとすると、どうやってそれを認識できるでしょうか?
7. デザインイベントの基本タイプはどれくらいありますか?簡単に説明してください。
8. デザイナーはプロトタイプを創りましたか? もしそうなら、今でもプロトタイプが見つかりますか? どうやって、プロトタイプだとわかりますか?
9. デザインのコンセプトをどうやって実装するのでしょうか?
10. 地球以外でもデザインイベントは起きましたか?
2つの都合により、インテリジェントデザイン理論家たちはこれらに答えられない。ひとつは、"若い地球の創造論"および"古い地球の創造論"と互換性を保つために、時系列に触れられないこと。もうひとつは、「細菌の鞭毛を直接、地球に配備した」のか、「鞭毛を持つように進化できるような細菌を地球に配備した」のか明言したくないため。

デザインの実装についての議論は、もちろん検証不可能。従って、答えようがない。しかし、答えないと、「不明なデザイナーが、不明な時に、不明な方法でデザインし、不明な方法で実装した」という何を言っているのかわからない"理論"になってしまう。

あと、「プロトタイプは量産型よりも強い」というラノベ・アニメな法則があるが、実際にはそれはないだろう。だから、プロトタイプはあったとしても生き残っていないという回答はありだと思われる。


あとは理科の授業について:
1. 理科の授業でインテリジェントデザインを教えることを主張するなら

1.1 インテリジェントデザインを進化論に言及せずにちゃんと教えられますか? もしそうでないなら、インテリジェントデザインは場当たり的な反進化論ではありませんか?
1.2 インテリジェントデザインの授業計画はありますか?それはどこで見れますか?

2. 理科の授業で「論争を教える(teaching the controversy)」ことを主張するなら

2.1 進化論についての科学的論争とは正確に言って、何ですか?
2.2 他の話題についても論争を教えるべきですか?たとえば、同性愛が生まれつきか、それともライフスタイルの選択か? 避妊か禁欲についてはどうですか?

ここで重要な点は「インテリジェントデザインを進化論に言及せずにちゃんと教えらること」である。

実際には「進化論は間違っているから、インテリジェントデザインは正しい」以外に言うことがない。いみじくも、インテリジェントデザインの本山たるDiscovery InstituteのGeorge Gilderは次のように語っている:
[ The evolution of George Gilder (Boston.com 2005/07/27) ]

<"I'm not pushing to have [ID] taught as an 'alternative' to Darwin, and neither are they," he says in response to one question about Discovery's agenda. "What's being pushed is to have Darwinism critiqued, to teach there's a controversy. Intelligent design itself does not have any content."

Discovery Instituteの方針について問われたとき、彼(George Gilder)は「私はダーウィンの代替としてインテリジェントデザインを教えることを推進していない。そして彼らもだ。推進しているのはダーウィニズムを批判することであり、論争があることを教えることだ。インテリジェントデザイン自体に中味はない」と答えた。







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