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「え!新垣さんこっち帰ってくるんですかぁ!?」

施術後の小休止にコーヒーを飲んでいた吉澤さんの手が止まり、視線がこちらへと向くのを感じる。
すぐ側で吉澤さんのデザイン案を見ている工藤はそれに夢中でこちらには全く関心がない。

『ええ。一時的にだけどね。吉澤さんにも言っといて』
「いつになるんですかぁ?」
『急な話で悪いんだけど明日にはもうそっちに着くから』

電話で得た情報をメモに書き、吉澤さんに見せる。
親指を立て、頷く吉澤さん。その表情はどこか嬉しそうだ。
それもそのはず。田中さんが渡米してしまってからすぐに新垣さんも日本を出たのだ。
行き先はアメリカ・・・ではなく、ポリネシアである。
新垣さんにとっては日本よりもポリネシアの方が望郷の念が強いみたいだ。

『ところで・・・愛ちゃんは元気にしてる?様子はどう?』
「高橋さんですかぁ?高橋さんなら毎日、」

喉から出かけた言葉をかろうじて止める。
小春は自分でも鈍い方だと自覚しているが、これを新垣さんに言ったら間違いなく悲しむだろうことはわかる。
鈍いとか、自分で言ってちゃ世話ないが。
にしても田中さん田中さんと言っていた新垣さんが、いの一番に高橋さんのことを気にするとは珍しい。

「高橋さんは・・・・・・、元気ですよ〜。なんか高橋さんに用でもあるんですかぁ?」
『ん・・・そういうわけじゃないのよ。わかった、ありがとね』
「じゃあ日本でお待ちしてますっ」
『吉澤さんにもよろしくね。じゃーねー』

ブツリと通信が途絶える音を確認し、受話器を戻す。
コーヒーの後の一服と、吉澤さんが胸ポケットからピースを取り出し、火をつける。
側にいた工藤がゲホゲホとあからさますぎる咳をした。おかまいなしの吉澤さんが口を開く。

「いやー・・・素直に嬉しいね。やっぱこの年で1人は寂しいよ。最近は梨華ちゃんも忙しくてかまってくれないし」

煙と一緒にババ臭いセリフをこぼす吉澤さん。

「・・・とりあえず、高橋さんに伝えるべきですよねぇこれ」
「フッ。あんたがどんなに足掻いたって今日明日であのクズが更生するとは思えないけど」
「クズって酷いですよぉ〜オケラやアメンボと一緒で高橋さんだって生きてるんですから」

今は・・・昼の2時か。
この時間なら高橋さんはおそらくあそこにいる。

「小春、ちょっくら行ってきますね」

吉澤さんのしょうがないなという苦いため息を受け、急いであの場所へと向かった。


*****


チンチンジャラジャラ。
うるさい、臭い、汚い。こんなところ好きで来るやつはよっぽど酔狂なやつだと思う。
世の駄目人間が多く集まる場所、パチンコ。
昔の高橋さんなら一番縁の無かった場所だ。

「・・・いた」

ここ1年ほどで見慣れたバーバリーのTシャツに短パンジャージというあべこべでダサダサなファッション。
まだ彼が"まとも"だった時に見た私服姿はブランドをお洒落に着こなしていて同性の小春から見ても素敵だと思った。
彼のトレードマークだったスーツはしばらく見ていない。

「高橋さぁん!」

煙草をパカパカ吸いながら今にも寝そうな表情のままハンドルを回す高橋さんがそこにいた。
彼は耳がいいのかこんな騒がしい場所でも小春の声に気づいてくれたようで、瞳だけがこちらを捉えてくれた。

「フーーー・・・・・・、なんだ小春か」
「なんだじゃないですよ〜。まーたこんな所でギャンブルしちゃって。
 打ちっ放しか麻雀かパチか。高橋さんの1日のスケジュールってしずかちゃんより単純ですよね」
「フン」

当時じゃ考えられないことだが。悲しいことに高橋さんは変わってしまった。悪い方に。
本人はなにも言わないが原因は誰が見ても明らかで、新垣さんが日本から出て行ってしまったからだろう。
それ以来、会社には鬱病と偽って長期休みをしており毎日こんな駄目ライフを送っている。

「せっかく良いニュース持ってきたのに」
「なんだよ俺の家の隣にソープランドでもできたのか?」
「違いますよぉ・・・・・・新垣さんが帰ってくるんですよ」
「なんだそんなことか・・・」

すっかり短くなった煙草の吸殻を台に設置された灰皿へ捨て、嘆息する高橋さん。
箱にいっぱいに積まれたパチンコ玉を手の平で遊びながら新垣?とこぼし、

「新垣ィ!!??!?」

50m先まで響きそうな大声でそう叫んだ。

「ににに新垣って・・・ガキさんか!!?」
「その人しかいないですよ」
「ま、マジか!!?マジか!?本当か!!?」
「嘘なんてついてどうすんすかぁ〜」

高橋さんはハンドルを回すことなどすっかり忘れ、放心状態である。

「そ・・・そうか・・・ガキさんが・・・戻ってくるのか・・・」
「ですよ〜。パチンコ玉コロコロしてる場合じゃないですよぉ?こんな姿新垣さんに見られたら幻滅どころじゃないですよぉ」
「・・・ガキさんが・・・帰ってきちまう・・・のか・・・そうか・・・」
「・・・?あれ?喜ぶと思ったのに。嬉しくないんですか?」
「いや・・・嬉しくないはずない。けど・・・」
「けど?」

高橋さんの瞳の中に過去の映像が蘇っていく。
やがて誰とはなしにポツリポツリと語りだした。


 **********


『ガキさん好きだー付き合ってくれ俺と』
『ごめんねー・・・』

心底申し訳なさそうな顔をしてキッパリ頭を下げられる。
これで通算99回目か。次フられたら祝100回、3桁の大台だな。
これだけの数告白していると最早シチュエーションに気を回している緊張感も真剣さもなく、
下手な鉄砲数撃ちゃ当たるの要領で購買のバイト中だとしても頓着しないものである。

『はぁ。フられた回数数えるほど惨めなこたぁないな。100回超えたらもう数えるのやめるか』
『愛ちゃん諦め悪すぎでしょー・・・私みたいな女のどこがいいんだか・・・ほんと趣味悪いんだからねえ』
『そりゃお互い様だ。あんたもあのヤンキーにホの字なあたり世間一般とは価値観ズレまくってるだろ』
『ヤンキー・・・田中っちのことかぁー・・・』

しまった。田中のことは今は禁句だった。ガキさんの傷口に塩塗りたくってどうする。
ほんと俺は・・・肝心なところでいつも失敗するんだよな。昔からそうだ。

『田中っちかぁー・・・・・・・・・・・・あのね、愛ちゃん』
『なに』
『私・・・日本出ようと思ってるんだ』
『え?』

ガキさんの顔を仰ぎ見る。
冗談を言っているようには見えない。そもそもガキさんは性格的に冗談を言うような輩ではない。
これは・・・本気だ。でもどうして急にそんな?いや、だいたい理由は想像できるが・・・悔しくて認めたくない自分がいる。

『もとより私は田中っちをポリネシアに連れて帰るために日本に来たのよ。こんなに長く滞在するつもりなかったの。
 最初は簡単なもんだと踏んでたんだけどねー・・・田中っちがあんなに意思の固い人間だとは思わなかったわ。
 結果、田中っちはアメリカ行っちゃうし、だったら日本にもう用はないしポリネシア帰るかー・・・なんて』
『・・・』
『だから愛ちゃんとももうすぐお別れね』

冗談じゃねえ。
なんでこのエリートでイケメンでリッチマンの俺がこんなバカ女1人に負けっぱなしのままハイサヨウナラせにゃならんのだ。
後に残るのは99回もフられたっていう不名誉な成績だけじゃねーか。

『なんだよそれ。突然帰るなんて・・・そんなもん許さねえぞ』
『あはは・・・ごめんね』
『なにがごめんねだよ。絶対帰さねえ。邪魔してやる。日本に縛りつけてやる』
『あははははは』

でかい口開けて大笑いをしていた彼女を不覚にも可愛い、なんて思ってしまっている内に
俺の願いも虚しく、別れの日はあっという間にきてしまったんだ。


・・・


『見送りはいいってあれほど言ったのに・・・ほんと愛ちゃんはしょうがないやつねえ』
『うるせーうるせー』

出張やら旅行やら何が目的なのか知らんが平日の真昼間でも空港は渋谷センター街並の混雑さを呈していた。
大多数のリーマンの例に漏れず俺も出勤日のはずなのになぜこんな場所にいるのか。
今日は大事な会議があったはずで、俺は企画要望書を提出しなければいけないんじゃなかったのか?
見送りなんて理由だけで会社サボっちまって、何考えてんだ。

『もう搭乗しないといけない時間だから・・・ここまでだねー』
『・・・』
『愛ちゃん、いろいろありがとう。購買で親切にしてくれたこと忘れないわ』
『・・・フン』
『また会えるといいね』

顔に皺作って目細めて、まるでお日様のような100万ワットの笑顔を見せてくれる。
これで見納めになるかもしれない。忘れないよう、その顔を目に焼き付けておく。
そしてガキさんの足が一歩下がった。

『それじゃ・・・』
『待てよ!』

周りにいた通行人AやらBやらC共が一斉にこちらへと視線を向けてくる。
だがそんなものはおかまいなしに俺は唇が裂けそうなくらい大口開いて、

『好きだぁぁぁああぁぁあぁぁぁああぁぁあぁああぁあああああああっ!!』
『・・・ぇ』
『ガキさんっ俺とぉぉ〜〜〜・・・付き合ってくれぇぇぇ〜〜っ後生だぁぁぁぁ〜〜〜っ!!』
『・・・』

な、
なにを言ってるんだ俺は・・・なんだこの公開処刑は。フられすぎてトチ狂ったのか。
言った瞬間に後悔の波が押し寄せた。これじゃただの見世物だ。
周りの視線が痛い。いいから早く返事を寄越せ。今すぐここから逃げ出したいんだ。

『・・・ごめんね・・・』
『・・・』
『そんな簡単に田中っちのこと、忘れられないみたい』
『・・・』
『じゃあ・・・ね。愛ちゃん。今までありがとー・・・』

田中田中田中って。
うるせーんだよっ!

『今度帰って来たら!!!!!!!!』
『へ?』
『また告白するから!!!!』
『・・・』
『それまでに今よりもっと色男になって・・・今度こそ、惚れさせてやらあ!!!!!』


*****


「とまぁ、大見栄張って啖呵きったはいいがこのザマだよ。ぷはは」
「それ聞いた新垣さんはなんて反応したんですか〜?」
「なにも言わず笑ってたよ。それからなにも言葉を交わさないままお別れしたんだ。
 無理無理って思ってたんじゃないか?ま、その通りだったわけだが」
「その通りって・・・」

確かに高橋さんはどうしようもない駄目人間に堕ちてしまったわけだけど、
まだ再会して告白もしていないのに決め付けることはないんじゃないか。

「今からでも遅くはないですよぉ高橋さん。髪整えて煙草やめてクリーニングしたてのスーツ着れば以前のあなたに元通りです。
 元はイケメンなんですからそれで告白すれば・・・」
「フ。もういいんだよどうでも。100回もフられてんだ。今更身なりどうのこうのの問題じゃないさ」

高橋さんがコールボタンを押すとすぐさま店員が走り寄ってくる。
それに手で×印を作り、清算の合図をするとパチンコ玉が積まれた箱が店員によって奥に運びこまれた。
それに伴い、高橋さんが席を立つ。

「次はどこ行くんですかぁ?」
「聖ちゃんに会いにおっパブでも。ほんじゃ、ガキさんによろしくな。俺のことは元気でやってると伝えておいてくれ」
「会わない気ですか?」
「あたぼうよ。こんなだらしない姿見せられるわけないだろ」

だったら改善すればいいのに。
高橋さんは手をひらひらと振り、奥へと消えていく。

「じゃーな」
「・・・。自分の気持ちにケリつけないままでいいんですか〜〜〜っ?」
「うるっせーなぁ。いいんだよもうどーでも」
「そんなぁ」
「いつまでも叶わねぇ恋追っかけてもいられないんだよ。おまえみたいにもう、若くもないんでな」

おっさんエキス垂れ流しなセリフを吐きながら高橋さんは行ってしまった。
通路のど真ん中に突っ立ってた小春を、パチラー共が邪魔だと睨みを効かせながら通り過ぎていく。
それでもそこから立ち退く気にはなれなかった。

「・・・高橋のバカヤロー・・・」

なんだよこの魚の骨が喉に引っかかったみたいな、気分の悪い結末は・・・。


*****


「ハッハッハッハッハ!そんなことがあったのかあの2人に!ハハハハハ!ケッサク!」
「んな笑わんでも・・・吉澤さんクズすぎですよぉ。小春あの2人応援してんのになぁ」

施術台に腰掛けながらゲラゲラ笑う吉澤さんは彫り師のカリスマには到底見えない。
吉澤さんに憧れていた工藤は夢をダイナマイトでぶち壊されたような気分じゃないだろうか?
と、工藤を横目で見てみるも吉澤さんのことは全く目に入っていなかったようで、一心不乱にマシンを動かしていた。

「ほぉ。やっぱりあんた才能あるね工藤。線に乱れがない」

スキンに筋彫りを彫る工藤を後ろから掠め見る吉澤さんが関心したような声でそう零す。

「その彫ってるやつね。デザインしたのれいななんだよ」
「! 田中さんが・・・・・・やっぱすげえ」
「あいつが初めてここに来た時のこと思い出すねえ。今の工藤みたいに涼しい顔してトライバル彫ってた。
 そりゃあもう芸術的な線だったよ。あたしゃ震えたね」
「そうだったんスか・・・!」
「・・・ふふ〜ん。ねえ工藤?あんた18になったらさ、うち就職しない?」
「え!?」

驚いたのは工藤ではなく小春だ。
吉澤さんがYHで彫師をやらないかなんてスカウトをするのはこれが初めてなんじゃないだろうか?
つまりそれほどまでに工藤の才能は突出しているということだ。
工藤への嫉妬の炎が小春の中で燻る。それと同時に惨めな気持ちが氾濫する川のように溢れた。

「・・・いやぁ、俺は・・・自分で店持ちたいんスよぉ」
「へえ。でかい夢持ってるんだねえガキのくせに」
「田中さんみたいにアメリカ行って名を上げて・・・それから自分の店持つのが夢なんス」
「ひゅう。言うじゃないの」
「工藤・・・おまえ・・・」

工藤は挑発するような視線を小春に向け、

「やる前から諦めてるようなショボ蔵とは違うんでね」
「・・・」

こいつ・・・。

工藤は筋彫りを終えるとスキンとマシンを自分のジュラルミンケースにしまい、席を立つ。

「ツブシは自分の部屋に戻ってやります。この田中さんのデザイン案、少し借りててもいいっスかね?」
「いいよ。好きにやんな」
「ありがとうございまス」

ペコリとお辞儀をしてから颯爽と出て行く工藤。
工藤が消えたのを皮切りに吉澤さんが口を開く。

「小春。おまえまだ進路で悩んでるんだね」
「・・・」
「たくさん悩め悩め。若い内はどちらか迷えるだけ幸せさ。年とるとそんなこともできなくなるよ」
「吉澤さん・・・小春は・・・彫師にはならないほうがいいんですかね?」
「さぁね。でも才能ないからねえ・・・結局選ぶのはおまえだよ。
 フォローしておくと・・・あんたの周りにいる人間に才能溢れるやつが多すぎたんだ。あんたは普通だよ。
 タトゥーで大成功を目指すならやめといた方がいいけど、細々とやっていくなら小春の腕なら十分さ」
「・・・そう・・・ですかぁ」
「フフ・・・」

吉澤さんが口角を吊り上げながらいつものように煙草を取り出し火をつける。
灰色に包まれた煙たい部屋を乾いた目で見つめ、考える。どの道が正しいのか。

「もう少し・・・悩んでみます」
「そうだね・・・んな焦っても仕方ないさ。こんな悩みも大したことなかったなんて思える日がくるから」
「はい・・・」

こんな時、いつも思う。
田中さんがいてくれたら・・・小春の悩みも笑って馬鹿にしてくれるのかなって。
そして"大丈夫"と言ってくれるかな、なんて。ありえない妄想を・・・


 **********


ほぎゃあほぎゃあと赤ん坊の泣き喚く声が店内に響く。

「ありがとうございます。お会計、980円になります」
「・・・・・・」
「おきゃっさん。980円」
「あ、はい・・・」

ポカンとアホみたいに口を開けてさゆみを見ていた客が慌てて財布から札を出す。
無理もない。常連さんはもう慣れたものだけどなんせ赤ん坊背負ってレジ打ちしてるんだから。

「20円のお返しです。ありがとうございましたー」

出て行く客と入れ替わりに馴染みの顔が店に入ってくる。

「あ、いらっしゃい絵里。こんな夜中にどうしたの。今仕事終わったとこ?」
「・・・うん・・・」

うつむく絵里の顔色は青を通り越してビリジアン色になっていた。
ストレスによる心労か、ここ数日で体がかなり衰弱してしまっている。
倒れるのも時間の問題だ。

「絵里、気持ちはわかるけど休んだ方がいいよ。あんたロクにご飯も食べてないんでしょ。すっかり痩せちゃって・・・」
「だいじょーぶ・・・仕事してないと、れいなのことばっかり考えちゃうから・・・」
「・・・なにかれいなから連絡あった?」

力なく首を振る絵里。その様子が状況の深刻さを物語っている。

「航空会社にも電話したし外務省にも連絡したよ・・・。けど未だ犠牲者の身元確認ができてないんだって・・・。
 焼死だから司法解剖でもしないと特定するのは難しいんだって・・・」
「ちょっと待ってよ・・・そんな死んだの前提みたいな話はなんなの?生き残った人たちは?その中にれいなは?」
「もちろん調べたよ・・・。でもれいなの名前は・・・・・・なかった」
「そ、」

そんな・・・。
あいつが・・・あいつがくたばるなんてそんなこと・・・

「う、嘘だ・・・」

目の淵から溢れ出てくる涙。
さゆみが泣いたのを感じ取ったのか赤ちゃんがさらに大きな声で泣き叫ぶ。
店内にちらほらといた客が異変を感じとったのかちらちらとこちらを見たり、気を遣って出て行ったりしてくれた。

「・・・絵里だってまだ信じてないよ・・・でも・・・」
「嘘だ・・・嘘だ・・・れいな・・・っ」

あの馬鹿がこんなところで死ぬなんてありえない。
でも・・・でももし本当に、れいなに何かあったんだとしたら・・・

「この子だけは・・・この子だけは守んなくちゃ・・・」
「・・・うん」

さゆみの背中にあるこのささやかな存在だけはなにがあっても守り抜いてみせる。
それはもちろん絵里も同じで、真剣な顔で力強く頷いてくれた。

「この事故のことはとりあえず絵里とさゆの秘密にしといて。
 れいなが死んだなんて1ミリも思っちゃいないから変に騒ぎにはしたくない」
「わかった」
「それじゃ・・・れいなからなにかレスポンスあったら報せにくるよ。バイト頑張ってね」
「うん。絵里も・・・体壊さないようにね」
「ありがと・・・・・・絵里の仕事のせいでいつもごめんね。・・・・・・"れいな"のこと・・・よろしく」

影の刺さった表情のまま絵里が店から出る。
その日はバイトを続ける気が起きなくて、店長に連絡し早退させてもらった。
家に帰った後もれいなのことばかりが頭の中でぐるぐると渦巻いていた・・・





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