最終更新:ID:P8uAioaXSg 2012年02月14日(火) 06:07:02履歴
ケイトさんが好きすぎて、二人で通常ルールのチャンピオン大会制覇した…という夢をみた。
冬ということで、それ関連の電波を受信。
おっぱいの流れガン無視でごめんなさい。エロなし寸止め
▽ ▽
デュエルというものは歴史ある世界共通のエンターテイメントだ。
たった一回のデュエルに何人もが一喜一憂し、様々な記憶や記録を積み重ねていく。
同時に、デュエルは戦う相手と本気でぶつかり、互いを理解し合う最上級のコミュニケーション手段でもある…とアタイは思っている。
デュエルを通じて相手を知り、それが高じればその相手が身を置く文化を知る…高尚な交流じゃないか。
ここ最近では、相方と住まうネオ童実野シティ…ひいては日本の文化に接する機会が非常に多くなってきた。
アジア圏、特にここ日本の文化は非常に独特だ。衣・食・住に様々なオリジナリティが見てとれる。
ビネガーを混ぜたライスに、カットした生魚を乗せる「スシ」とやらはちょっとした衝撃だった。
申し遅れたがアタイの名はケイト・モヘア。
一応デュエルの賞金とその関連収入だけで飯に困らない程度の生活を送れている、プロデュエリストの端くれだ。
今は、ふとした事で知り合った相方と同棲している。
話を戻そう。日本の文化についてだ。
アタイもこの国に住むようになって、様々な形でその文化に触れてきた。
特徴的なフォルムに機能美を併せ持った日本の物品は、中々に興味深い。
その独自の文化は技術の発展と共に進化し、留まることなく、より洗練され続けている。
素晴らしきかな東洋の神秘、アタイもそのカルチャーに完全に魅了されてしまっていた。
要するに何が言いたいのかというと――
「ん〜…悪くないじゃ、ないか……」
――ジャパニーズ・こたつ最高ってことだ。
丈の低いテーブルに突っ伏していると、身体の芯まで力が抜けていくのが分かる。
向かい側に座ったあいつが、にこにこ笑いながら、小粒のオレンジの皮を剥いて「気に入ってくれてよかった」と言った。
そもそもの始まりは、アタイが相方と一緒に手近なタッグデュエル・トーナメントで優勝したことに始まる。
『【D-HERO Bloo-D】でダイレクトアタック!!』
WRGPでタッグを組んでからというもの、ほとんど負け知らずのアタイ達は、危なげなくトーナメントに優勝することができた。
表彰や、その後のインタビューなどを簡潔に切り上げたアタイ達は、賞金を手に帰路についていた。
その途中、あいつが寂れた家具屋に寄ったのだ。
風が身を切るように冷たい、この冬の季節、はやく帰って温かいメシでも作ってやりたいというのに…。
いったい何が入り用なのだろう? 確かにこいつの部屋には家具が少ないが、必要最低限のものは揃っている。
そもそもこいつは部屋に余計なものを置きたがらない筈だ。
訝るアタイをよそに店内を物色し始めたこいつは、数分後に目当ての品物を見つけたようだった。
コンセントが付いた丈の低いテーブルとカーペット、そして布団ともテーブルクロスともつかない大きな厚手の布。
「なに、それ?」
アタイの質問に、こいつは笑顔で「帰ってからのお楽しみ」とだけ答えた。
大会の賞金は主収入で生活資金でもあるのだが、この家具のセットはあまり懐を圧迫する事のない手頃な値段で購入できた。
マンションに到着するなり、こいつは鼻歌交じりに、見慣れない家具を組み上げ始めた。
…といっても、テーブルの脚と台板の間に厚手の布を挟むというだけのものだったが。
カーペットを敷き、その上にテーブルを配置。テーブルの隅から伸びているコンセントを差し込み、こいつは「はい、準備完了」と言った。
「あ、本で見たことあるよ…『こたつ』ってやつだろ?」
中国から伝来したものが独自の発展を遂げたといわれる、一風変わった暖房器具だ。
赤外線を熱源に、それをこたつ布団で覆うことで熱を閉じ込めるもの、と記憶している。
あいつが頷き、いそいそと足を中に突っ込んだ。アタイもそれに倣い、下半身を潜り込ませる。
「ん、なんか…思ってたほどじゃないね」
率直な感想だった。
温かいと言えば温かいが、全くもって予想の範疇だ。
日本に住んで長い知人が「恐ろしい程の心地良さ…まさに東洋の神秘よ!」と力説していたが…そんなに推すほどのもんだろうか?
でも、まぁじわじわと身体を温めてくれるのは分かりやすくていい。
夕飯を作るまで少しばかり時間がある。せっかくこいつが買ってくれたんだし、もう少しばかり温まっていようか…。
――この判断が、そもそもの間違いだった。
「…困った」
そして今、本当に困っている。
「どんなマジックだい、これは…」
抜け出せないのだ、こたつから。
こたつが特別に心地良いと感じるわけじゃない。ただ、どういう事か、このこたつから足を抜くと凄まじく寒い。
部屋の環境が悪化したなんてありえないから、つまりこれは…こたつか、こたつのせいなのか。
もうそろそろ夕飯を作ってやらないといけない時間なのに…
突っ伏していた顔を持ち上げると、赤いキャップの下から覗いた顔が「ケイト〜ごはん〜」と訴えている。
分かってる、分かってるんだが抜け出せない。あぁちくしょう、だらしない男が嫌いと公言してはばからないアタイがこのザマか。
今なら分かるぞ知人よ、これがアンタの言ってた東洋の神秘ってヤツなんだな。
でも、こたつが如何に快適であっても、こいつの空腹を捨て置くわけにはいかない。
なんとか意を決して立ち上がろうとして、目の前のあいつと目が合った。
何やら悪戯を思いついたような、ちょいと不敵な笑みに嫌な予感がした瞬間…
「えっ…?」
見えないこたつ布団の内側で、投げ出した足が何かに押さえ込まれるのを感じた。
間髪入れず、身動きがとれなくなった足の裏に…
「ちょ、やめっ…ひぁ、ぁはははははははは!」
容赦のないくすぐり攻撃に、たまらず笑い転げてしまう。
「や、やめて…あは、ははは、やめぁはは!!」
こいつは時々こういう子供みたいな事をするのだ。
一応ラインというものは弁えているようだが、唐突に仕掛けたりするから始末が悪い。
必死に抜け出そうと試みるが、思いの外がっちりと固定された足は動く気配がない。
「ほん、と…やめっははは…! 降参、こうさんだってはは、あははは!!」
こいつは、ノリが過ぎる時にはとことんやらかす悪癖がある。
抵抗も、解放の懇願もこいつには届くことなく…アタイは実に十数分間に渡って笑いの地獄に閉じ込められたのだった。
――まぁ、事態が収まればアタイも冷静にこいつを叱ることが出来るわけで…。
「……」
キッチンで無言のまま夕食の調理を進めるアタイに、後ろから「な〜、ごめんって」などと間延びした謝罪の言葉がかかる。…が、無視。
とりあえず今日のメニューは手軽に作れるオムライスにしてみた。
チキンライスを手早く作り、卵をかしゃかしゃと溶く。また後ろから「な〜」とのんびりした声。
「うるさい、ちゃんと反省しな! それと勝手に正座崩すんじゃないよ!」
振り返ってぴしゃりと言い放つと、赤いジャケットを羽織る肩がしょんぼりと落ちるのが見えた。
「あと誰がカーペットの上でいいって言ったのさ、フローリングの上で正座!」
実を言うと、料理をしているうちに怒りそのものは失せていた。
だが、そのまま許したのでは示しがつかない。そして、悪戯に対するささやかな復讐、という考えもあったのは確かだ。
睨みつけるアタイの演技に騙されてるのかは定かではないが、あいつはすごすごと固く冷たい床板の上まで移動し、ちょこんと正座をし直した。
――なんというか、小動物のようでかわいい。
うっかり許してしまいそうになるが、ここは我慢。
アタイはニヤけそうになる顔を必死で制しながら、とっととオムライスを作り上げちまうことにした。
「よし、できた」
せっかく心地良いテーブルがあるんだから使わない手はない。今日はここでディナーといこう。
「ま、正座はもういいよ、こっちに来な」
グラスを二つ置いて水を注ぐと、ちょっと離れた位置で正座を維持するあいつの顔がパッと明るくなるのが見えた。
キッチンに戻ってオムライスを盛りつけた大皿を手に、再び居間へ。
テーブルに皿を置くと、あいつは違和感に気付いたようだった。
そう、皿はひとつ。
言外に「どういうこと?」と目で訴えるあいつに、アタイはふふんと笑って言ってやる。
「アンタは今日、晩メシ抜き。水だけ」
言ったそばから肩を落とす姿が目に入る。はは、困ってる困ってる。
こいつ気付いてないんだろうな、このオムライスが…一人前にしちゃデカすぎるってこと。
いただきます、と柏手を打ってもくもくと食べ始める。出来は悪くない。
ちらりと横目で様子を窺うと、あいつは捨てられた子犬みたいな目でこっちを見ていた。
スプーンに適量を乗せて「いるかい?」とばかりに掲げてみせると、必死でぶんぶんと首を縦に振ってくる。あぁもう、なんかかわいいぞこいつ。
「じゃあ、ほら…一口だけだからね」
スプーンをあいつの口元まで運んでやると、あいつは心底嬉しそうな顔でオムライスを頬張った。
雛にエサをせっつかれる親鳥ってのは、こんな気分なんだろうか?
まだ欲しいかと問えば即答で肯定が返ってきた――まぁここで「我慢します」なんて聞き分けの良いこと言われたら、逆にアタイが困ってたところだ。
交互にスプーンを運び、時間はかかるが、いつもと同じように二人で夕食を摂る。
ちょっと変わったスタイルになったが、特別な事は何もない日常だ。
こういう新婚バカップルみたいな奴らの真似事なんか、普段は恥ずかしくて出来たもんじゃない。
でも、結果的にこんなことが出来たのも、今日こいつが、二人でくつろいでいるジャパニーズ・こたつを買ってくれたからだと思う。
そういった意味じゃ、間接的に口実を作ってくれたこいつに感謝すべきかもしれない。
身体の芯がじわりと温かくなってくるのは、多分こたつだけの所為じゃない。
今は、この心地良さに浸っていたい…そう願いながら、アタイは目の前の愛しい馬鹿にオムライスを食わせていた。
数十分後、食後のコーヒーを嗜みつつ、目の前で正座の痺れに悶えまくるあいつを観賞。
頼れる男で、たくましくもあり、時折かわいくもある…。
こいつといるだけで、満たされる。楽しくて、嬉しくて…何より幸せだ。
表面上だけはいつも通りの仏頂面でコーヒーを啜りながら、アタイはぼんやりと考えていた。
――今日はアタイの方から……えっち、誘ってみるかな。
▽ ▽
以上。寸止めでごめんなさい。
ケイトさんにブツブツ文句言われつつメシ作ってもらいたい。
冬ということで、それ関連の電波を受信。
おっぱいの流れガン無視でごめんなさい。エロなし寸止め
▽ ▽
デュエルというものは歴史ある世界共通のエンターテイメントだ。
たった一回のデュエルに何人もが一喜一憂し、様々な記憶や記録を積み重ねていく。
同時に、デュエルは戦う相手と本気でぶつかり、互いを理解し合う最上級のコミュニケーション手段でもある…とアタイは思っている。
デュエルを通じて相手を知り、それが高じればその相手が身を置く文化を知る…高尚な交流じゃないか。
ここ最近では、相方と住まうネオ童実野シティ…ひいては日本の文化に接する機会が非常に多くなってきた。
アジア圏、特にここ日本の文化は非常に独特だ。衣・食・住に様々なオリジナリティが見てとれる。
ビネガーを混ぜたライスに、カットした生魚を乗せる「スシ」とやらはちょっとした衝撃だった。
申し遅れたがアタイの名はケイト・モヘア。
一応デュエルの賞金とその関連収入だけで飯に困らない程度の生活を送れている、プロデュエリストの端くれだ。
今は、ふとした事で知り合った相方と同棲している。
話を戻そう。日本の文化についてだ。
アタイもこの国に住むようになって、様々な形でその文化に触れてきた。
特徴的なフォルムに機能美を併せ持った日本の物品は、中々に興味深い。
その独自の文化は技術の発展と共に進化し、留まることなく、より洗練され続けている。
素晴らしきかな東洋の神秘、アタイもそのカルチャーに完全に魅了されてしまっていた。
要するに何が言いたいのかというと――
「ん〜…悪くないじゃ、ないか……」
――ジャパニーズ・こたつ最高ってことだ。
丈の低いテーブルに突っ伏していると、身体の芯まで力が抜けていくのが分かる。
向かい側に座ったあいつが、にこにこ笑いながら、小粒のオレンジの皮を剥いて「気に入ってくれてよかった」と言った。
そもそもの始まりは、アタイが相方と一緒に手近なタッグデュエル・トーナメントで優勝したことに始まる。
『【D-HERO Bloo-D】でダイレクトアタック!!』
WRGPでタッグを組んでからというもの、ほとんど負け知らずのアタイ達は、危なげなくトーナメントに優勝することができた。
表彰や、その後のインタビューなどを簡潔に切り上げたアタイ達は、賞金を手に帰路についていた。
その途中、あいつが寂れた家具屋に寄ったのだ。
風が身を切るように冷たい、この冬の季節、はやく帰って温かいメシでも作ってやりたいというのに…。
いったい何が入り用なのだろう? 確かにこいつの部屋には家具が少ないが、必要最低限のものは揃っている。
そもそもこいつは部屋に余計なものを置きたがらない筈だ。
訝るアタイをよそに店内を物色し始めたこいつは、数分後に目当ての品物を見つけたようだった。
コンセントが付いた丈の低いテーブルとカーペット、そして布団ともテーブルクロスともつかない大きな厚手の布。
「なに、それ?」
アタイの質問に、こいつは笑顔で「帰ってからのお楽しみ」とだけ答えた。
大会の賞金は主収入で生活資金でもあるのだが、この家具のセットはあまり懐を圧迫する事のない手頃な値段で購入できた。
マンションに到着するなり、こいつは鼻歌交じりに、見慣れない家具を組み上げ始めた。
…といっても、テーブルの脚と台板の間に厚手の布を挟むというだけのものだったが。
カーペットを敷き、その上にテーブルを配置。テーブルの隅から伸びているコンセントを差し込み、こいつは「はい、準備完了」と言った。
「あ、本で見たことあるよ…『こたつ』ってやつだろ?」
中国から伝来したものが独自の発展を遂げたといわれる、一風変わった暖房器具だ。
赤外線を熱源に、それをこたつ布団で覆うことで熱を閉じ込めるもの、と記憶している。
あいつが頷き、いそいそと足を中に突っ込んだ。アタイもそれに倣い、下半身を潜り込ませる。
「ん、なんか…思ってたほどじゃないね」
率直な感想だった。
温かいと言えば温かいが、全くもって予想の範疇だ。
日本に住んで長い知人が「恐ろしい程の心地良さ…まさに東洋の神秘よ!」と力説していたが…そんなに推すほどのもんだろうか?
でも、まぁじわじわと身体を温めてくれるのは分かりやすくていい。
夕飯を作るまで少しばかり時間がある。せっかくこいつが買ってくれたんだし、もう少しばかり温まっていようか…。
――この判断が、そもそもの間違いだった。
「…困った」
そして今、本当に困っている。
「どんなマジックだい、これは…」
抜け出せないのだ、こたつから。
こたつが特別に心地良いと感じるわけじゃない。ただ、どういう事か、このこたつから足を抜くと凄まじく寒い。
部屋の環境が悪化したなんてありえないから、つまりこれは…こたつか、こたつのせいなのか。
もうそろそろ夕飯を作ってやらないといけない時間なのに…
突っ伏していた顔を持ち上げると、赤いキャップの下から覗いた顔が「ケイト〜ごはん〜」と訴えている。
分かってる、分かってるんだが抜け出せない。あぁちくしょう、だらしない男が嫌いと公言してはばからないアタイがこのザマか。
今なら分かるぞ知人よ、これがアンタの言ってた東洋の神秘ってヤツなんだな。
でも、こたつが如何に快適であっても、こいつの空腹を捨て置くわけにはいかない。
なんとか意を決して立ち上がろうとして、目の前のあいつと目が合った。
何やら悪戯を思いついたような、ちょいと不敵な笑みに嫌な予感がした瞬間…
「えっ…?」
見えないこたつ布団の内側で、投げ出した足が何かに押さえ込まれるのを感じた。
間髪入れず、身動きがとれなくなった足の裏に…
「ちょ、やめっ…ひぁ、ぁはははははははは!」
容赦のないくすぐり攻撃に、たまらず笑い転げてしまう。
「や、やめて…あは、ははは、やめぁはは!!」
こいつは時々こういう子供みたいな事をするのだ。
一応ラインというものは弁えているようだが、唐突に仕掛けたりするから始末が悪い。
必死に抜け出そうと試みるが、思いの外がっちりと固定された足は動く気配がない。
「ほん、と…やめっははは…! 降参、こうさんだってはは、あははは!!」
こいつは、ノリが過ぎる時にはとことんやらかす悪癖がある。
抵抗も、解放の懇願もこいつには届くことなく…アタイは実に十数分間に渡って笑いの地獄に閉じ込められたのだった。
――まぁ、事態が収まればアタイも冷静にこいつを叱ることが出来るわけで…。
「……」
キッチンで無言のまま夕食の調理を進めるアタイに、後ろから「な〜、ごめんって」などと間延びした謝罪の言葉がかかる。…が、無視。
とりあえず今日のメニューは手軽に作れるオムライスにしてみた。
チキンライスを手早く作り、卵をかしゃかしゃと溶く。また後ろから「な〜」とのんびりした声。
「うるさい、ちゃんと反省しな! それと勝手に正座崩すんじゃないよ!」
振り返ってぴしゃりと言い放つと、赤いジャケットを羽織る肩がしょんぼりと落ちるのが見えた。
「あと誰がカーペットの上でいいって言ったのさ、フローリングの上で正座!」
実を言うと、料理をしているうちに怒りそのものは失せていた。
だが、そのまま許したのでは示しがつかない。そして、悪戯に対するささやかな復讐、という考えもあったのは確かだ。
睨みつけるアタイの演技に騙されてるのかは定かではないが、あいつはすごすごと固く冷たい床板の上まで移動し、ちょこんと正座をし直した。
――なんというか、小動物のようでかわいい。
うっかり許してしまいそうになるが、ここは我慢。
アタイはニヤけそうになる顔を必死で制しながら、とっととオムライスを作り上げちまうことにした。
「よし、できた」
せっかく心地良いテーブルがあるんだから使わない手はない。今日はここでディナーといこう。
「ま、正座はもういいよ、こっちに来な」
グラスを二つ置いて水を注ぐと、ちょっと離れた位置で正座を維持するあいつの顔がパッと明るくなるのが見えた。
キッチンに戻ってオムライスを盛りつけた大皿を手に、再び居間へ。
テーブルに皿を置くと、あいつは違和感に気付いたようだった。
そう、皿はひとつ。
言外に「どういうこと?」と目で訴えるあいつに、アタイはふふんと笑って言ってやる。
「アンタは今日、晩メシ抜き。水だけ」
言ったそばから肩を落とす姿が目に入る。はは、困ってる困ってる。
こいつ気付いてないんだろうな、このオムライスが…一人前にしちゃデカすぎるってこと。
いただきます、と柏手を打ってもくもくと食べ始める。出来は悪くない。
ちらりと横目で様子を窺うと、あいつは捨てられた子犬みたいな目でこっちを見ていた。
スプーンに適量を乗せて「いるかい?」とばかりに掲げてみせると、必死でぶんぶんと首を縦に振ってくる。あぁもう、なんかかわいいぞこいつ。
「じゃあ、ほら…一口だけだからね」
スプーンをあいつの口元まで運んでやると、あいつは心底嬉しそうな顔でオムライスを頬張った。
雛にエサをせっつかれる親鳥ってのは、こんな気分なんだろうか?
まだ欲しいかと問えば即答で肯定が返ってきた――まぁここで「我慢します」なんて聞き分けの良いこと言われたら、逆にアタイが困ってたところだ。
交互にスプーンを運び、時間はかかるが、いつもと同じように二人で夕食を摂る。
ちょっと変わったスタイルになったが、特別な事は何もない日常だ。
こういう新婚バカップルみたいな奴らの真似事なんか、普段は恥ずかしくて出来たもんじゃない。
でも、結果的にこんなことが出来たのも、今日こいつが、二人でくつろいでいるジャパニーズ・こたつを買ってくれたからだと思う。
そういった意味じゃ、間接的に口実を作ってくれたこいつに感謝すべきかもしれない。
身体の芯がじわりと温かくなってくるのは、多分こたつだけの所為じゃない。
今は、この心地良さに浸っていたい…そう願いながら、アタイは目の前の愛しい馬鹿にオムライスを食わせていた。
数十分後、食後のコーヒーを嗜みつつ、目の前で正座の痺れに悶えまくるあいつを観賞。
頼れる男で、たくましくもあり、時折かわいくもある…。
こいつといるだけで、満たされる。楽しくて、嬉しくて…何より幸せだ。
表面上だけはいつも通りの仏頂面でコーヒーを啜りながら、アタイはぼんやりと考えていた。
――今日はアタイの方から……えっち、誘ってみるかな。
▽ ▽
以上。寸止めでごめんなさい。
ケイトさんにブツブツ文句言われつつメシ作ってもらいたい。
タグ
コメントをかく