「これでとどめ! 真六武衆シエンでプレイヤーにダイレクトアタック!」
ツァンディレは高らかに宣言した。
赤い甲冑に身を包んだ武者が屠るべき敵へと襲いかかる。
「ぐぁぁぁああ!!?」
 
  -クロウ-  LP 0

デュエル終了に伴い、ソリッドヴィジョンが消滅する。
ディレは対戦相手のクロウへと駆け寄った。
「あ、あの。ボクとパー……」
「ちっくしょう、こんなのアリかよ! やる事が汚ねぇぜ!!」
クロウはひどく不機嫌そうに吐き捨てると、一人ですたすたとどこかへ歩きだす。
「あ……」
残された少女、ディレは俯いた。これで15人目だ。
デュエル・アカデミアでの課題。それは1か月後に校内で行われるタッグデュエル大会での
パートナーを見つけることだった。
相手は性別、学年を問わない。それどころかデュエリストなら誰でも良いという破格の条件だった。
殆どの生徒はその場で同じクラスの生徒とパートナーを組んだ。
こんな旧サテライト地区まで出向いて相手を探している生徒など、彼女一人くらいだ。
ディレはおもむろに空を見上げた。
(勘違いしないでよね、別に泣きそうになんてなってないんだからね……!)

昔から人と接することが苦手だった。
会話する時にはいつも緊張のあまり、虚勢を張って相手を貶してしまう。
そうして自分に寄ってくる人間はどんどん減り、いつまでもこの癖を直すことはできなかった。
(自業自得か……)
今度は下を向いた。
(諦めよう。先生には怒られるし、単位も落とすだろうけど……)
帰りに高級プリン、「グングニル」でも買って帰ろう。そう思った時だった。

「デッキが……光ってる……?」

デッキケース、厳密にはその中のカードの一枚が光っていた。
ディレはそのカードを手にとった。
「これって……」
それは自分にとって馴染みの深いカードだった。
六武衆デッキの最古参の一人。今なお共に闘う戦友。
「六武衆、ヤリザ……?」

ぴかーん

光が最大まで強くなり、視界の全てが白で埋め尽くされた。
眩しさで目が開けられなかった。
「くぅ! なにこれ……」
やがて発光が治まり、ディレの視界が回復してきた。
「大丈夫でござるか? ディレ殿」
「!?」

目を開けると、自分の正面に一人の武者が跪いていた。
それはカードで見たイラストの人物と全く同じだった。
「ヤ、ヤリザ!?」
「御意」
まるで自分に忠誠を誓うといわんばかりの姿勢をとる男をディレは上から眺めた。
鎧はまるで本物の様に精巧で、コスプレと主張するには多少無理がある。
カードと男を見比べてみる。
顔立ちから装飾の細部まで似通っていて、まるで絵の中から飛び出してきたような迫力がある。
「あ、あんた……何なの……?」
「ディレ殿が気付いている通り、拙者の名は六武衆ヤリザ。
 大将軍に仕える武士の一人でござる。
 ディレ殿、主である貴女の助太刀する為に参上致した」
「助太刀?」
ディレがオウムの様に聞き返した。
ヤリザだか三沢だか知らないが、カードから出てきた男なんて得体が知れない。
正直、ディレはすぐにこの場から逃げ出したい気持ちだった。

「あのね、ボクは別に困ってなんかないんだから。
 今から友達とサ店に行くところなの。じゃあね」
手短に告げてディレは立ち去ろうとする。

「嘘でござるな」
「はぁ!?」
「ディレ殿に御学友など一人もいないはずでござる」
「うっ!!」
図星だった。
最近大きくなってきた胸に刃物がグサッと刺さった気がした。
「ツァン・ディレ。16歳。デュエルアカデミア高等部一年生。
 身長155cm、体重○○kg、血液型はA。 
 成績は比較的優秀。だがその理由は友人がいなくて他にすることがないため。
 当然、放課後ティータイムするような相手はおらず、
 授業の合間の休憩は机に伏せて寝たふりをするのが習慣。
 最近の悩みは急成長するバストと太りやすい体質。
 そしてそんな体質にも関わらず甘党。
 一週間前に発売した、お手ごろ価格にも関わらずに無類の味を誇る期間限定プリン、
 「グングニル」が今のお気に入り。
 本当は「トリシューラ」を食べたいと望みながらグングニルを一日三食。
 その甲斐あってこの一週間で体重が○kg増え」
「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
恥ずかしい秘密を暴露され、ディレが思わず絶叫した。その目には涙を浮かべている。
「なに! あんた! ストーカー!?」
「拙者はずっとディレ殿を見ていたでござるよ。デッキの中から」
「デッキ? じゃああんた本当にカードの中から?」
ディレは考え込んだ。確かにこのヤリザがカードの中から出てきたのだとすれば納得はいく。
自分の秘密は誰にも知られることはないはずなのだ、だって一人暮らしだし、友達いないし。
そうでなければ手の込んだストーカーの仕業ということになる。それはなんか考えたくない。
「拙者がタッグデュエルのパートナーになるでござるよ!
 ディレ殿、共に勝利を勝ち取りましょうぞ!」
ヤリザがずいっと迫ってきた。
「イ、イヤよ! 誰があんたなんかと!」
恥辱を与えられておいて言いなりになるのはディレのプライドが許さなかった。
「ふむ、ディレ殿の最大の特徴を忘れていたでござるな……」
「特徴?」
「『つんでれ』でござる。本当は誘われて嬉しい癖に冷たくあしらわなければならないとは。
 つんでれとは難儀な生業でござるな」
「は、ハァ!? 誰が嬉しいっていうの!? 
 勘違いしないでよね! あんたなんかに誘われても全然嬉しくないんだからね!」
「鼻がどこぞの人形の様に伸びているでござるよ。あとそのニヤケ顔のせいで説得力が全くないでござる」
「!! だっ!誰がニヤけてなんか!」
ディレは腕で顔を隠した。
確かに悪い気はしなかった。彼女にとって誰かからこうして熱烈なアプローチを受けるという経験は
無に等しいからだ。
だが受けるかどうかは別である。
「ふむ、殿が表面的に拒否しなければならないのだとすれば、こちらも表面的に
 従わせなければならないでござるな。心は痛むが……」
「あんた何ブツブツ言ってんの?」
「ディレ殿ッ!!」
「何よ?」
「これを見るでござる!!」
「!!」

ヤリザがディレに突き出したのは一枚の写真だった。
「あ、あああ、あんたそれ」
それはディレにとって最も人に知られたくない姿。
最大の恥。
「主が『便所飯』とは。部下としては複雑な気持ちでござるな」
ディレが便器に座り、ぽろぽろと涙を流しながら弁当を食べている写真だった。
「か、かえせっ! かえしてっ!」
ディレがヤリザに飛びかかるがディレの身長ではヤリザに届くはずもなく、
その場で掲げられた写真を奪おうとぴょんぴょん跳ねるだけだった。
「ディレ殿…… 便所は飯を食うところではござらんよ?」
「くぁwせdrftgyふじこlp!!!!!!!!」
駄々をこねる子供を諭すような目を向けられ、ディレが言語の体を為していない悲鳴を上げた。
その目にみるみる涙が貯まっていく。そして。
ディレはその場にぺたんと座りこんだ。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ〜〜〜 orz」
「ま、まぁ元気を出すでござるよ! なんなら拙者が毎日付き合うでござる!
 拙者が毎日便器で味噌汁を作るでござるよ!」
「ヤリザ……///」
ディレは鎧武者と共に女子トイレで犯罪行為を行う自分の姿を想像してみた。
「それはイヤ」
「なんと」
ヤリザは一息おいて、コホンとわざとらしい咳をした。
「しかし、困ったでござるな。拙者、昔から物を失くすことが多く、
 学び舎でも恥をかいてばかりだったでござる」
「!! あ、あんたまさか……」
「ん?」
「それ、バラまこうっていうの……?」
「いやいや!! そんな主人の恥を晒すような事を拙者がする訳がないでござる!」
ヤリザはとても爽やかな笑顔をディレに向けた。
「ただ、ディレ殿に断られたショックで『うっかり』学び舎に、この写真を始めとした、
 拙者の『ディレ殿の恥ずかしい写真コレクション』を落としてしまう。そんな参事はあるやもしれませぬな。 
 まぁ、それはまた別の話でござる! ところでディレ殿、拙者をパートナーにしては下さらぬか?」
ヤリザはとても爽やかな笑顔をディレに向けた。
「……フツツカモノデスガ、ヨロシクオネガイシマス」
こうしてここに一組のタッグが誕生した。







「ん、ふぁ」
ツァンディレの朝は早い。遊ぶ相手がいないので遅くとも夜9時には就寝。
9時間睡眠して朝6時に起床。アカデミアへの通学時間は15分なので家を出るのは8時でも間に合う。
まずはブログのチェックだ。パソコンはいつでも使えるように一日中起動させてある。
それが重症であることに彼女が気付くのは当分先の話だ。
「特に新しい情報はなし、と」
ディレが見ているのはDMの最新情報を載せるまとめブログ。この界隈では一番の知名度を誇るものだ。
「また、下ネタ……」
名誉が管理人を変えたのか、最近ではもっぱら下ネタとキ○チガイを載せるだけの
実のないサイトになってしまったと思う。
同級生の男子といい、男とはどうしてこう下品なのか。
ディレは呆れた。
ボサボサの頭を直すために一階へと降りる。するとフライパンで何かを焼く音が聞こえてきた。
「あいつ……」
扉を開ける。そこには
「ディレ殿! お目覚めでござるか!」
ヤリザがいた。
「おはよう、死んで」
「酷っ」
視界に入ってきたヤリザをギロリと睨みつける。
「ち、朝食ができているでござるよ」
テーブルの上を見るとご飯、味噌汁、ヤリザが今焼き終わった魚など、簡素なわふー料理が
並んでいた。
それらを全て無視して、ディレは冷蔵庫を開けた。
「!? 無い!? グングニルが無い!? ドゥローレンも! ブリューナクも!」
「朝からプリンとは…… また太るでござるよ?」
「どこ! どこにやった! 言え!」
ディレは狂犬の様にグルルと唸った。そういう性なのか、昔から寝起きの機嫌は最悪だった。
「ひょ? ディレ殿の健康を管理するためでござる。プリンは全て処分させてもらいましたぞ。
 もちろん拙者の腹の中に(はぁと)」
「おいデュエルしろよ!!」
「痛い痛い!やめて!包丁で刺さないで!」

食事が行われるのはそれから20分後のことだった。

「あんた料理うまいのね」
「お褒めに預かり光栄でござる」
「褒めてない」
「」
「あんた、わかってるの? 今日の大会」
「ああ! 拙者に全てお任せでござるよ」
第一回NTDG(ネオドミノ・タッグデュエル・グランプリ)
それが今日から開かれる大会の名前だ。
ネオドミノシティ全体を会場とした大規模なタッグデュエル大会。
デュエリストであれば誰もが参加資格を持ち、アカデミアの生徒は全員が強制参加。
ディレにとっては「はーい、友達と二人一組になってー」と言われているに等しい。
「あんの蟹頭ァ……」
ギリギリ
「ディ、ディレ殿?」
ちなみにこの大会の発案者はチャンピオンの不動遊星だ。「他者との絆を大事にして欲しい」
そうインタビューで答えていた。
(絆絆って! あの絆教の教祖が! 友達がいない奴はどうすればいいってのよ!!)
「そ、そうだディレ殿!拙者はタッグデュエルということしか存じておりませぬ。
 具体的なルールなどを教えて頂ければ……」
「あ?」
ギロッ
「ヒィ!」
ディレは立ち上がって部屋へと戻った。そして円形の、囚人の枷のようなものをつけたグローブを二つ、
ヤリザの足元に投げ捨てた。
「これは……?」
「まず街に出て誰でもいいから参加者とデュエル。2つのグローブにスターチップを5個ずつつけたら予選突破。
 その後に決勝トーナメントよ」
枷にはそれぞれ5つ、グローブ2つで合計10の星形の穴が開いており、既にそのうちの2つには小さな☆が埋まっていた。
要するに王国+ジェネックス+バトルシティである。
「ところであんた、ちゃんとデッキは持ってるんでしょうね?」
「もちろんでござる! とっておきでござるよ」
やけに自信満々だ。彼も最近チート強化された六武使いなのだろうとディレは推測する。
タッグデュエルにおいては互いのデッキの相性が最も重要となる。
無能な味方は強敵よりも恐ろしいのだ。
だが同じデッキで統一していればその心配もない。
ディレは口元に笑みを浮かべた。優勝とはいかなくともそこそこの戦績は納められるかもしれない。
不機嫌はいつの間にか治っていた。
「じゃあ行くわよ! ヤリザ!」


「どうしてこうなった」
ディレは絶望した。今の自分のデッキなら大抵の相手には引けを取らないと自負していた。
実際、ディレはここまで一回も負けていない。なぜなら戦ってもいないからだ。
対戦を申し込もうとすると相手が逃げていく。それが相次ぎ、気付けば一日が終わっていた。
「なんで…?」
ラノベの主人公にありがちな怖い顔という訳でもない。不動遊星のように強さが知れ渡っている訳でもない。
だとすれば原因は……
「あ」
「ん? どうしたでござるか?」
「お前だーーー!!!!!」
外見で「自分は六武使いです」と物語っている男がいた。
自分から強敵に挑む必要もない。避けられるのは当然だった。
「あんたのせいでっ! 脱げっ! この鎧脱げ!」
「ちょ、やめ、のび太さんのエッチー!!」
「あああ〜 どうしよう、もう夕方だ。デュエルタイムが終わっちゃう……」

試合が認められるのは朝9時から日没まで。予選の期間は土曜日の今日と明日の日曜だ。
決勝トーナメントが行われるのは平日だが、参加できる者は学校だろうと会社だろうと休むことが
主催者権限で許されるのでそこは問題ない。
問題は明日一日で4勝する必要があることだ。
(どうする? どうしよう……)
その時だった。

「ハーモニカの音…?」
美しい音色が聞こえてきた。そちらの方を振り返った。
一人の男がこちらを歩いてきた。ハーモニカはその男が吹いているらしい。
(なにあれ、こわ……)
男はどんどんこちらに向かってくる。どんどん、どんどん。
(え? こっち? ボク?)
やがて男はディレの正面に立ち止まった。
美しい銀髪に精悍な顔つきだが、その目には生気を感じられない。
しかし、それでいて何かに焦がれるような情熱を秘めているように見えた。
「六武使いか…… お前らか? 俺を満足させてくれるのは?」
ヤリザを見て男はそう言った。左手にはデュエルディスク、右手にはグローブを装備している。
ということは彼もまた参加者なのだろう。
「お前らにデュエルを申し込む」
「あ、あのっ」
「ん?」
「パートナーは……?」
ディレは思っていた疑問を口にした。どう見ても参加者だが、パートナーと思わしき人物はどこにも
見当たらなかった。
「そんなものは必要ない。俺のパートナーのターンはスキップでいい。ライフは半分、手札も互角でいい。
 ただし先行は貰うぜ」


無茶苦茶だと思った。確かにパートナーがいなければそういう参加の仕方もあると聞いた。
だが実際にこんな無茶な条件でやる人がいるだなんて。
ディレは男の右手の枷を見た。5つの穴には全て☆が埋められていた。
(この人、強い……)
「大会なんぞに興味はねぇ、俺はただ満足できる相手を探しているだけだ。
 お前らが勝ったらスターチップは全部くれてやるぜ」
「!  その勝負、受けます」
「ディレ殿……」
彼はおそらくかなりの猛者だろう。だが、このままではどん詰まりだ。
元々、自分たちの相手はこうした常識外れの相手しか用意されていないのだ、
ディレは腹をくくる。
「いくよヤリザ!」
「御意!」
お互いにデュエルディスクを構える。モーメントとリンクし、ディスクが起動する。
ディスクが音を立て変形していく。

「「デュエル!!」」

ツァンディレ LP4000  vs  鬼柳 LP2000
 &
ヤリザ


「俺のターン! インフェルニティ・デーモンを召喚! カードを4枚セット! ターンエンドだ」
「ボクのターン、ドロー!」
引いた手札に目を通す。
(よし、これなら)
「ボクは、永続魔法・六武衆の結束を発動。
 そして六武衆の御霊代を召喚! さらに効果で真六武衆キザンを特殊召喚!」
2体のモンスターのソリッドヴィジョンが現れた。
「効果で御霊代をキザンに装備! これで攻撃力はIFデーモンを超える! バトル! 
 キザンでデーモンに攻撃!」


鬼柳 LP2000 →1500

ビリビリビリッ
「きゃぁ! なに?」
小規模の雷。そう思わせる光が鬼柳を、彼の首に装着されたチョーカーを中心に発生していた。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
光が鬼柳を襲った。
「だ、大丈夫ですか?」
ディレは思わず鬼柳に駆け寄った。
「ハァハァ……ダメだ、こんな痛みじゃ満足できねぇ。
 こんなんじゃ『地獄の帝王』の高みにはたどり着けねぇ……」
(うぅ……何この人……もうヤだ……)
鬼柳を助け起こすと、ディレはそそくさと離れた。
「拙者のターーーーン!」
ヤリザが派手なモーションでドローした。
「拙者は六武衆の結束で2枚ドロー!」
「あ!」
「?」
「あんた! 何勝手に使ってんのよ!」
「え? いや、ディレ殿が拙者のために残してくれたのでは?」
「違うわよバカ!」
鬼柳にドン引きして、発動するのを忘れていただけである。
「拙者は強欲と謙虚な壺を発動。拙者が選ぶのは闇の誘惑!」
「ちょ!あんた、六武デッキじゃないの?」
「? そんな事一言も言ってないでござるよ?
 拙者は闇の誘惑を発動して2枚ドロー。その後、手札の闇モンスターを除外でござる。
 さらに成金ゴブリンを2枚発動! トゥーンのもくじ×3! トレードイン!(ry」

鬼柳 LP1500→3500


(フ…満足するまで好きにするといいさ。俺の勝ちは揺るがないがな)
鬼柳は余裕の笑みを浮かべた。
(俺の場に伏せてあるのは「インフェルニティ・インフェルノ」「インフェルニティ・ガン」
 「ミラフォ」「神の宣告」だ。そして墓地にはインフェルニティデーモン。
 次のターンで手札は合計2枚となる。インフェルノでデッキからビートルとネクロマンサーを送り、
 ガンを発動した瞬間、俺の勝ちは確定する……)
鬼柳はこれまでの旅路を思い返していた。満足街で謎の商人から買ったチョーカー。
かつて伝説と言われたプロデュエリストが考案したというそれはたちまち鬼柳を虜にした。
デュエルダメージを現実の痛みへと変換する装置。しかし、痛みのはずのそれは鬼柳にとっては
至高の快楽としか思えなかった。
それ以来、彼はチョーカーに取りつかれ、町長としての役目すら放棄し、デュエルに明け暮れた。
快楽に溺れたい、だがデュエリストとして手を抜くことは本能が許さない。
そんなジレンマによって彼はただ強い相手を求め続けるデュエルマシーンと化した。
(こいつらもこの程度か……)
六武使いなら既に数えきれない程狩ってきた。
しかしその大半はただ強さという光に惹かれて集まるだけの蛾にすぎず、彼を満足させるには至らなかった。
(そうだ…… これが終わったら遊星に会いに行くか…… もう随分と会っていないものな。
 ジャックやクロウにも会ってみるか。驚くぞ、あいつら)
自然と鬼柳の顔に笑みがこぼれた。
(ならば早く終わらせないとな)
「おい、まだか? 早くしろ」
「もうすぐ終わるでござる」
もうすぐ? 未だにメインフェイズ1だ。相手はずっと魔法ばかり使っていて責めてくる様子などなかった。
何がもうすぐだというのか。
「これでドローしてっと。完成したでござる、エクゾディア」
「「ゑ?」」
対戦相手の少女と間抜けな声がハモった。
オレンジ色だったはずの夕焼けが灰色の雲に覆われていく。
ゴロゴロと不穏な音が鳴り、周囲の人々が悲鳴をあげた。
最初は腕だった。人間のものではない巨大な腕が雲から突き出た。
そして、灰色の雷雲の中から――
巨大な、魔神が――

封印されしエクゾディア  ATK ∞

「地獄の業火! エクゾードブレイムでござる!」
自分を灰も残さずに燃やし尽くさんとする炎を受け、鬼柳の体は歓喜に震えた。
「これだ!! これこそが俺の求めていた――がああああああ!!!」

鬼柳 LP3500 → 0


表情はどちらかといえば嬉しそうに見える。
目は虚ろで宙を向き、だらしなく開かれた口からはよだれが垂れ続けていた。
「アヘ顔、という奴でござるな」
ちなみにズボンの真ん中はまるで漏らしたかのように濡れていた。
「だ、大丈夫なの?この人……?(なんかイカ臭い……)」
「所詮、ソリッドヴィジョンのダメージでござる。ディレ殿が気にすることではござらんよ」
ヤリザは鬼柳のグローブから4つの☆を抜き取った。
「これであと2勝でござる」
「この人は?」
「セキュリティにでも通報するといいでござる(色々不審者っぽいし)」
気絶した鬼柳を置いて二人は歩きだした。
「(あの人あんまり強くなかったな)今日の晩御飯何?」
「ハンバーグでござる」
「うそ!? やたっ!」

並んで歩き、一見、中睦まじく見える二人。
そんな彼らを見つめる3つの影があった。
年も背丈も不揃いだが、彼らは皆、純白のローブで顔まで隠していた。
「ふぅん…… あれが僕達の敵なんだ?」
最も幼い少年が口を開いた。
「そうだ、奴の力は我らの未来を大きく揺るがす可能性を持つ。早急に対処せねばならん」
3人の中で最も巨漢の老人が籠った声を出した。

「フン、下らん。あんな雑魚、俺一人でも十分だ」
青年がニヤリと口角を上げた。
「潰してやる。俺の『機皇帝』の力でな!」

    -続かない-

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