あれは僕がいくつのときだったろう。

真夜中に喉が渇いて目が覚めた晩だ。
僕は水を飲んで、足音を立てないように裸足で歩いた。
ひたひたと石の壁面に僕の足音が小さく反響するのでゆっくり歩いた。
父さんを起こしてしまったらしこたま怒られるだろうから。

そのとき、微かに物音が聞こえた気がした。
音が聞こえてきたのは、僕たち家族とリシドが物置きとして使ってる部屋だ。
泥棒かと思って身構えたけど、何かを漁っているような音はしなかった。
木戸が少しだけ開いている。
その木戸の向こうから微かに音が漏れているようだ。
勇気を出して、僕はそこから中を覗いてみることにした。

覗き込むと中は薄暗かったが、石の廊下よりは少しだけ明るかった。
室内に小さな明かりが灯されていたためだった。
微かな衣擦れの音が聞こえたので、音のする方を注意深く見た。

姉さんとリシドだ。

こんな時間に何をしているの?
もう真夜中なのに、物置の整理かい?
そう声を掛けようとして、咄嗟に抑えた。
リシドの手が姉さんの薄い夜着の下に潜り込んでいたから。

姉さんの夜着の下で、リシドの手が蠢いていた。
胸全体を撫でさするように動いたり、押しつぶすように動いたりしていて
その動きは時折酷くゆっくりになったり、急に乱暴になったりする。
姉さんはリシドに後ろから羽交い絞めされるようにされていたにもかかわらず
蠢くリシドの腕に縋るようにしていた。

2人は喧嘩してるわけじゃないのか……。
良かった、リシドと喧嘩して姉さんが力で勝てるわけがない。

良く見ると、リシドのもう一方の腕は姉さんの背中全体をさすっている。
姉さんとリシドがひそひそと何ごとか囁きあっていた。
秘密の話だろうか。
そういえば、2人の空気がいつもと違うような気がする。

木戸を少し、ほんの少しだけ開いて、室内の物音に耳をそばだてる。
「……っリシド……」
「…………」
姉さんの声が小さく聞こえた。
相変わらずリシドの手は姉さんの胸のあたりにある。
リシドが姉さんの夜着をめくりあげると、姉さんの胸がこぼれ落ちた。
リシドの大きな手が姉さんの大きな胸を包むように、さすったり
撫でたりするたびに、それは形を変える。
「や……ぁ…ぁっ」
姉さんの身体がリシドの腕から逃れるかのように捩れて前の古い机に倒れこむ。
苦しいのだろうか。
でも、姉さんの腕はリシドの腕に添わされたままだ。

リシドの太い指が姉さんの乳首を捻りあげる。
意外にも、ごついリシドの指が繊細に動く。
「ああ……あ…………」
ぎゅっと目を瞑って、姉さんが仰のいた。
その切ないような声を聞いていると、僕まで何故だか切なくなり、胸が苦しくなってきた。
姉さんの身体は仰向けに裏返され、胸から腹にかけて露わになっている。
その上にリシドが覆い被さるようにして、姉さんの乳首を舌先で舐めたり、しゃぶったりしていた。
リシドのやつ、あんなでかい図体してるのに、赤ちゃんみたいだ。
僕でさえ、姉さんの胸にあそこまで触らせてもらったことがない。
ほんのちょっと触ると、姉さんが困ったように笑うからだ。
何やってんだよ。なんでリシドには許すんだよ。
苛立ち混じりの息苦しさが募る。

仕返しのように姉さんはリシドの股間に足を乗せる。
あ、あれはずっと昔に姉弟喧嘩をしたときに姉さんにやられたことがある。
足にぐっと力を込められるとすごく痛いんだ。
だけど姉さんの足はリシドの股間を、まるで捏ね回すように撫でており、
リシドは痛がるでもなく、その足をさせるがままにしていた。
机の上で姉さんの身体を横抱きにしてリシドの手が姉さんの腹を下方へと、
時折撫でるように円を描きながら、ゆるゆる滑っていく。
僕は、その手の行き先を何となく予想して、どきっとした。
しかし、その手は予想していたところを撫でつつも素通りし、姉さんの太股で停止する。
それから膝の裏側に動き、姉さんの片足を机の上へ持ち上げた。
姉さんの身体は、机の上に座って片足を投げ出すような形になっている。
姉さんがあんな格好をするなんて。
前に僕が同じようなことをやったら、姉さんやリシドに行儀が悪いとたしなめられたのに
リシドはそんな姉さんを叱りもせず、むしろもっと机の中央に追いやるようにしてしまった。
いつしか動きを止めていたリシドの股間の上の足を掴み大きく開かせる。
(いや、姉さんが自ら足を開いたのかも知れない)
そうすることによって、巻きスカートの合わせ目が大きく開き、が捲れ上がって
姉さんの腰巻が薄闇の中でもはっきり見えた。
リシドの手が内腿を撫でさするたびに、姉さんは小さく声をあげ、太股を震わせる。
その手がふいに、下履きの中へ入り込んだ。

姉さんは声にならない叫びをあげ大きく身体を震わせた。
下履きの中の手が2,3度前後し、細かな動きをする。
それを嫌がっているのか、姉さんはリシドの手を上から抑えた。
だけど、姉さんの手はリシドのそれの上にあるだけで、決して払いのけようとはしない。
リシドは姉さんの下着をとると、それから糸が引いているのが見えた。
それは室内の灯りに一瞬光ったあと、糸の中央から雫を伴って落ちる。
姉さんの膝裏にリシドが手をあてて、姉さんの足を大きく開かせた。
そして、しげしげとリシドが姉さんの股間を観察する。
リシドからは良く見えるんだろうけど、こちらからは薄闇にまぎれてしまっていてよく見えない。
見られているのが恥ずかしいのか、姉さんは身をよじらせている。
リシドが姉さんの股間に顔を近づけていく。
何をしてるんだ、僕ですら姉さんのそこは見たことがないのに。
僕には許さないのに、リシドには見せるのかよ。
苛立っているのに、なぜか邪魔できない。
胸が激しく鼓動を打って、股間までもが熱を持ったようにむずむずしてきた。
何をするんだ。何をしようとしているんだ。まさか。
胸がどきどき言って、もうそこから目が離せない。

べろりとリシドが舌を長く伸ばして、ついに姉さんのそこを舐め上げた。
「あっ……や、や…、あ!」
リシドが犬が水を舐めているような音をさせて舐める。
姉さんの足は宙に向かってぴんと攣っていて、時折ぶるぶると震えた。
姉さんがリシドの頭に手をやり、自分に押し付けている。
やはり、姉さんは嫌がっていないのだ。

どのくらい経ったのか、リシドは顔を上げた。
姉さんは目を瞑ったままぐったりと机の上に横たわっている。
リシドはやっぱりいつもと同じような無表情だったけど、その額にはうっすら汗がにじんでいる。
でも、それはリシドだけじゃなく姉さんも同じだった。
ランプの灯りが2人の汗で濡れた肌に鈍く反射していた。

リシドは無表情のまま姉さんの身体にゆっくり乗り上げた。
その大きな身体で姉さんを潰さないように気を使ったのか、姉さんの顔の両隣に手を置く。
「リシド」
迎えるようにしなやかにリシドの首にまわされる姉さんの腕。
大きく開かれる姉さんの足の間に入り込み、リシドは片腕で姉さんの腰を抱いた。
「リシド……」
小さく囁く姉さんの声はとても優しい響きだった。
2人はゆっくりと腰と腰を近づけ、重ね合わせた。
はあっと姉さんが息を吐く。苦しそうだ……。
それからしばらく動かなかったので、僕は2人が眠ってしまったのかと思った。

少し経ってから、リシドがちょっとずつ腰を揺らし始め、その動きは次第に激しさを増していった。
「あっ…リ…シド、……あ」
リシドに揺さぶられて、姉さんの大きい胸がゆさゆさ揺れる。
それに吸い寄せられるように、リシドがまた姉さんの乳首に口をつけて舐めしゃぶる。
リシドはあまり表情が変わらないけれど、姉さんは苦しそうだ。
リシドの肩に必死でしがみついて、その揺れに耐えようとしているように見える。
「リシ……ド……リシド…ねえ、リシド……!」
「…………」
何度呼ばれてもリシドは姉さんの呼び声に応えない。
無言で、ただ姉さんを揺さぶっていた。
けれど姉さんは他に意味のある言葉など何も言わなかったし、リシドを拒もうともしていなかった。
2人の重みを受けて、古い机がぎしぎしと鳴る。
だんだんと揺れが大きくなり、姉さんは人形のように揺さぶられ続けていた。
2人の呼吸が荒く、激しくなる。
その呼吸の合間には聞き取れない程に小さい悲鳴や呟きが混じっていたが
姉さんの声は次第に切羽つまったようなものになり、高まっていく。
「い……っく、リシド、あ……イ…くゥっ…!!」
姉さんの背中が大きくしなり足をつっぱらせると、リシドはそこで初めて苦しそうな表情になり
2,3回腰を揺らすと、姉さんの身体の上にぐったりと覆い被さった。

2人が身体を離す頃にはいつのまにか股間の疼きは引いていたので、僕は急いで自分の部屋に戻った。
もちろん、来たときと同じように足音を忍ばせて。

次の朝、僕は2人に何をしていたのか聞くことはしなかった。
聞いてはいけないような気がしたからだ。特に、父さんの前では絶対に。
だから、ずっと黙っていた。ずっと誰にも聞かなかったし、言わなかった。
そしてそれは現在に至っても変わらない。

真夜中に喉が渇いて目が覚める。
また、僕は水を飲んで、足音を立てないように裸足で歩く。
ひたひたと石の壁面に僕の足音が小さく反響するのでゆっくり歩く。
うるさいと怒る父さんはもういないけれど、それでも。

微かに物音が聞こえてくる。
そこは、僕たち家族とリシドが物置きとして使ってる部屋だった。
木戸が少しだけ開き、その向こうから微かに音と光が漏れている。
覗き込むと中は薄暗いが、石の廊下よりは少しだけ明るい。
微かな衣擦れの音が聞こえる方を、ある確信を持って、見る。

姉さんとリシドだ。

『こんな時間に何をしているの?』


僕はもう、その答えを知っている。




<完>

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Wiki内検索

どなたでも編集できます