ちょっとだけ未来の遊城さん宅。

十代とカミューラの日常
ヴァンパイアはにんにくがお好き?

「ただいま……」

プロデュエリストとして活躍する遊城十代は、今日も数々のデュエルを行い愛する妻と娘が待つ我が家へ帰ってきた。
その割にどこか元気がない様子の彼だが無論理由があった。
玄関で靴を脱いでいるとパタパタと足音を立てて、まだ幼稚園児くらいと思われる長い金色の髪を頭の左右で纏めたツインテールの少女、いや幼女が駆け寄ってくる。

「パパ、おかえりなさ〜い!」

元気よく飛び付く幼女を抱き留めた十代は「ただいま」といって彼女の頭を優しく撫でた。
この幼女、よく見れば耳の先が尖っていて口の中に見える犬歯もまた鋭く尖っている。
それもそのはず、この子は十代と十代の妻のヴァンパイアカミューラとの間に生まれた娘で名を遊城エルザ、カミューラの血を色濃く受け継いだ純粋なヴァンパイアなのだから。
『人間とヴァンパイアの間にはヴァンパイア、若しくはヴァンパイアハーフが生まれる』
という彼女の言葉通り、十代とカミューラが愛し合い、情交を交わし続けた結果として妊娠し、生まれたのがこの子だったのである。

「ところでエルザ、ママは?」
「うん… お夕飯作ってる…」
「そ、そっか…」

娘にママはどうしているかと聞くとにこにこ笑顔が一変して、暗く塞ぎ込んでしまう。合わせるように気落ちする十代。
別に夫婦喧嘩をしている訳ではない。今朝だって周囲がうらやむほどに仲睦まじい夫婦っぷりを披露していたのだから。
では何が原因か? 
それは「お夕飯」についてのことだった。

「ただいま……」
「あら? お帰りなさいアナタ」

食卓のあるリビングに入ると夕飯の準備を終えたらしい妻カミューラがキッチンで手を洗っているところだった。
彼女は食事の準備の邪魔にならないよう長い緑髪を首の後ろで一つに束ね、いつもの紅いドレスとは違う紅のワンピースを着て白いレースのエプロンを着けている。
(うっ…くっせ〜っ)
十代の鼻を刺激する何とも言えない臭いが部屋中を漂っていた。
臭いの出所は食卓に並べられた料理。

「パパ〜…」
「あ、ああ座ろっか、」

並べられた料理を見てイヤそうな声をあげる娘。自分を呼ぶ娘と共に席に着いた十代は、味噌汁と思わしきお椀の蓋を開けて思わず嘔吐きそうになってしまった。

「にんにくの味噌汁…」

味噌汁の中身、その具が一部の野菜を除いて全てにんにくだったのだ。

「はいアナタ」
「あ、ありがと…」

カミューラに手渡された茶碗、白いご飯と共に細かく砕けた白に近い黄土色のものがいっぱい入っている。
(にんにくご飯…)
更に、にんにくの炒め物。にんにくのお漬け物。極めつけにデザートとか言って出されたにんにくジュース。
見ているだけで嘔吐きそうになるほどの、にんにくのオンパレード。
これこそ彼の元気が無かった理由だった。
なにせここ三日ほどこのにんにくパレードが続いているのだから無理もない。

「もうにんにくイヤ〜!」
「何言ってるのエルザ! にんにくは身体にいいのよ? いっぱい食べなきゃママのような立派なレディになれなくてよ?」
「うう〜っ」

嫌がる娘を叱るカミューラだったが、嫌がっているのは十代も同じなのだ。

「あのさ〜、こう毎日にんにく尽くしじゃ飽きもするだろ?」
「ほら〜パパもイヤって言ってるよ〜」
「アナタがそんなことでどうするのよ! 子供の手本になるのが親の勤めでしょう!」
「いやだからってこれはやり過ぎだろ? 大体にんにくが嫌いって訳じゃないんだからちょっとぐらい良いじゃねーか…」

娘はヴァンパイアだが生まれながらにしてにんにくを食べられるのだ。
これはおそらくにんにくを克服したカミューラと、人間である十代の血も流れているからこそだろう。
そして娘はにんにく嫌いではない。寧ろ好きな方だ。
だが、いくらなんでも全てがにんにく料理で三日も続けば別のものを食べたくもなるし、にんにくが嫌にもなる。
それこそ人間だとかヴァンパイアだとかは関係ない。

「仕方ないじゃない。お母様に「にんにくって美味しいですわね」なんて電話で話してたら、段ボール箱にぎっしり詰めて送ってきたんですもの」
「それはわかってるけどなぁ…」
「それに、にんにくってもの凄く美味しいじゃない?」
「あ、あはは…」

ヴァンパイアはにんにくが苦手、命に関わる食べ物―――というのがデマになるのも、そう遠い話ではないのかもしれない。
目の前ににんにくを食べても平気なヴァンパイアが二人もいるのだから。
尤も、このまま行けば娘は大きくなったらにんにく嫌いになりそうだが。

「お魚食べた〜い!お肉食べた〜い!カレー食べた〜い!」
「文句言ってないで食べなさい!!」
「カミューラ、オレも肉とかカレーが食いてェ」
「ええいお黙り!!」

今日も平和な遊城家は、こうしてにんにく臭い夜を送るのだった。


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