十代とカミューラ 蚊


膝裏にまで届くカミューラの緑色の長い髪。
十代はそのとても艶やかで手触りがいい綺麗な髪を手櫛とヘアブラシを使って梳かしていた。
彼はこうしてよく彼女に「髪を梳かしてちょうだい」と頼まれる。
「何で俺が?」とめんどくさがったりしたことはない。なにせ女が男に髪を触らせるのは、それだけその男を信頼している証だから。
尤もこの二人の場合は既に愛し合う男女が辿り着く終着点である夫婦という間柄なので信頼以前の話なのだが。

「どうしたんだ?」

そうして髪を梳かしていた十代がふと鏡台に映るカミューラを見て声を掛ける。
実は彼女、先ほどからずっと腕を掻いているのだ。

「蚊よ、蚊に刺されたの」

そう言って腕を見せるカミューラ。彼女が掻いていた部分には赤い斑点が出来て腫れている。

「うわ、ホントだ。でも、あんまり掻くなよ。皮膚が傷付いて血が出たり膿んだりしたら大変だろ」
「わかってるわよ。けどあんまり痒いものだからつい、ね」

十代が注意すると掻くのは止めたカミューラだったが代わりに指で擦り始めた。
余程痒いのだろう。後で薬を塗ってあげないといけない。

「よし、髪梳かすの終わったぜ」
「うふふ、ありがと♪」

ニッコリ微笑んだ彼女は自分の首の後ろに手を回すと両手で髪の毛を集めて頭の高い位置に上げた。
そしてぎゅっと搾るように持つと黒い髪ゴムを取り出して、集めた髪の根本の部分を縛り結い上げ、頭の後ろから腰の下まである一本の尻尾のような髪型に纏めた。いわゆるポニーテールという髪型だ。
(カミューラのポニーテール……いいな。それにうなじも……)
そのポニーテールの髪に指を絡めて触りながら、露わになったカミューラの白いうなじを見て思わず顔を赤くする十代。
実に健全な男の反応なのだが彼はその白いうなじの一部分にぽつりとある赤い点に気付いた。

「なあに十代。私の美しいうなじに見とれているの?」

自身の首の後ろを見つめ続ける十代にカミューラは妖艶に微笑む。
(キスでもしてあげようかしら?)

「なあカミューラ」
「なあに? キスしてほしいの? それともこんな真っ昼間にエッチでもしたいのかしら?」

「よろしくてよ?」などと冗談めかして言うカミューラだったがもし十代がそれを求めるなら、彼女はいつでも彼にその身を委ねるつもりだ。
だが彼が言おうととしているのは全く別のこと。

「い、いや、キスもいいしエッチもしたいけど……お前さ、首筋も蚊に噛まれてるぞ」
「ええっ!?」

慌てて首筋を押さえるカミューラ。確かにそこには腫れているような感触があった。

「なんでこんなところまで刺されるのよ!」
「お、俺に聞かれても……カミューラの血が美味しいとかか?」
「蚊、蚊の分際でこの私の血を吸うなんて生意気なっ、見てよコレ!」

怒った彼女は興奮気味に十代の方に向き直ると大胆にも腰の目いっぱいまであるスカートのスリットから白いムッチリとした太ももをさらけ出した。
此処が部屋の中じゃなくて外だったら道行く男たちの視線を集めるてしまうところだ。
そしてその魅力的な白い太ももにも赤い点が付いている。

「あ、ココも噛まれてんのか?」
「そうよ、ココだけじゃないわ。ココもココもよ!」

見せてくれた右の太ももに二カ所。手の甲と腕にそれぞれ二カ所。首筋に一カ所の計七カ所も蚊に刺されていたのだ。
多いとは思うがこれくらい刺されることだってあるだろうと思う十代だったが、よく考えればずっと一緒にいて彼女ばかり蚊に刺されるのもおかしい。
基本的に二人は一緒にいる。家にいるときはもちろん、買い物に行くときも出かけるときもデュエルのときも。寝るのも同じ布団で抱き合って寝ている。別行動を取る方が少ない。
それなのに十代はあまり蚊に刺されないのだ。まるでカミューラだけが狙われているかのように。
もちろん蚊が特定の人物を狙って血を吸うなんてことがあるわけない。
こうなるともう体質的な原因だけだ。知っているところでは太った人や汗っかきの人などは、それ以外の人と比べて蚊に刺されやすいということ。
ではカミューラは太っているか? そんなわけがないだろう。カミューラはとても痩せている。ふくよかなのはおっぱいとお尻だけ。
汗っかきかというと、暑い日は普通に汗を掻くがまあ平均的な方だろう。
あと思い当たるのは……

「ヴァンパイアだからとか?」

そう、カミューラは人間ではなくヴァンパイア。吸血鬼だ。

「それはヴァンパイアだって蚊に刺されるわよ。だけど私はそんなに刺される方じゃないわ」
「ん〜、でもさ、それってカミューラがまだ中世ヨーロッパのヴァンパイアの社会で暮らしてたときの話だろ? それに多分カミューラが住んでたとこって日本よりずっと涼しいだろうし」
「ま、まあ、それはそうだけど……」

蚊は比較的暑くて湿度の高い地域に多い。日本の夏は高温多湿。彼女が住んでいた処より確実に暑い。
そして人間とヴァンパイアの違い。聞いたことはないがひょっとすると人間よりもヴァンパイアの方が蚊に好まれやすいのかもしれない。
人間の血が好きな蚊。同じく人間、というより十代の血が好きなカミューラ。
その十代=人間の血を吸うカミューラの血というのは蚊にとって凄く美味しいのかも……

「く、くぅぅ〜ッ、誇り高きヴァンパイアの貴婦人であるこの私が蚊なんかに悩まされることになるなんてっ、」
「まっ、とりあえずは虫除けスプレー買いに行こうぜ」

そして薬局にて一つしか残っていない虫除けスプレーをめぐってカミューラと、元全国大会優勝者のインセクトデッキの使い手がデュエルすることになるのだが、それはまた別のお話。

このページへのコメント

カミューラのポニーテール見たいです。
十代君とカミューラが結ばれているなんて凄く嬉しいです。

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Posted by 名無し(ID:tZQZCsEWnw) 2018年08月21日(火) 18:51:13 返信

わかりますカミューラさん蚊は鬱陶しいですよね

カミューラさんの髪の毛をとかしてる十代とそれを頼むカミューラさん
ラブラブしてていいですね

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Posted by VVV 2012年11月13日(火) 00:24:44 返信

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