TF6早くやりたいのに、売り切れ……


ドロー12で書いた十代×カミューラの続きで、夏らしいネタを考えたら
時期を外した……

投下




「あっついわねェ〜……」

抜けるような白い肌に大粒の汗をいっぱい浮かべながら呟いたのは、スリットの入った紅い服を着ている
鋭い牙と尖った耳が特徴的な長い緑色の髪の女、ヴァンパイアのカミューラだ。
彼女は絶世のが頭に付くほどの美貌の持ち主だが、今は眉間にしわを寄せて顰めっ面をしているので
せっかくの美貌が台無しになっていた。

「暑い、暑い、暑いっ!」

彼女はひたすら暑いと連呼する。
暑いとは言っても別にベッドの上のプロレスごっこをしていたからという事ではない。
することはしていたのだが、終わってから結構時間が経過しているのでその熱はとっくに醒めている。
つまり普通に部屋に居るだけで暑いのだ。
いや、ここ暫くの間は何処に居ても暑かった。
カミューラは左手に持った団扇で顔を煽ぎながら、右手で服の胸元――コウモリのワンポイントの部分を握って
ぱたぱたと服の中に空気を送っている。
ベッドに腰掛けているので上から見れば彼女の大きく豊かな胸が乳首までバッチリ見えてしまうだろうが、
そんなことを気にしている余裕は今の彼女にはない。
彼女はふと視線を壁に掛けられている温度計に向け、げんなりとした表情を浮かべた。
赤い色の水銀が見たくもない数字にまで上昇していて、肌で感じる暑さに加えて目からも暑さが感じられ、
本来なら好きな筈の赤色が段々鬱陶しく思えてきた。
気温37℃――猛暑と呼ばれる35℃を超えるこの気温が10日連続で続いているのだ。
冷房の無い部屋や、壊れている部屋では灼熱地獄になっていることだろう。
残念ながらカミューラが生活を送っているこの部屋もこれに当てはまってしまっている。
例え焼け石に水だとは言え、35℃を下回ってさえいれば“猛暑ではない”という思い込みで多少マシには感じるかも知れない物の、
残念ながら気温が下がる気配は一向になく、それどころか天気予報が当たっていれば、
向う二週間はこの猛暑が続くようで“残暑”という言葉を耳にするだけでも気が滅入り、何もやる気がしないのだ。

「もううんざりだわっ! 日本ってどうしてこんなに暑いのよっ!」

いくら彼女がヴァンパイアで人間より体力が有ると言っても暑いものは暑い。
ましてや彼女が生まれ育った故郷は山と森に囲まれた一年を通して涼しい地域であり、高温多湿な日本とはかなりの気温差がある。
無論、夏になれば暑くなる事もあるが、故郷とは違うジメジメとした湿気混じりの日本の暑さというのは、彼女の知る暑さとはまた違い、
同じ気温でも湿度の低い暑さと比べると、体感的により暑く感じられるのだ。
何百年も生きているカミューラではあったが故郷から外に出たことは一度として無く、実際に外国にきたのは此所日本が初めてであった為、
故郷との気候の違いに身体が慣れていないのも手伝って、この連日の猛暑は非常に辛いものがあった。

「あのさぁ、カミューラ。イライラすると余計に暑く感じるから少しは落ち付けって、」

いつもは下ろされているカミューラの鮮やかな緑色の長い髪は、下ろしたままでは余計に暑く感じるから
今は一本の三つ編みにして纏められている。
その長い三つ編みを手で弄びながら言葉を返したのはカミューラと同じこの部屋の住人で
此所デュエルアカデミアの生徒であるオシリスレッドの遊城十代だ。
彼もあまり元気とは言えない。勿論この暑さのせいだ。
朝起き抜けにカミューラと愛し合った時はここまで暑くなかった物の、
昼になると一気に気温が上がったせいもあって、全身から汗を噴き出させてしんどそうにしていた。

因みにカミューラもオシリスレッドの生徒だったりする。
十代とカミューラは人間とヴァンパイアという種族を越えた恋人同士であり、婚約者であり、夫婦であるという間柄だ。
まあ色々あってそんな関係になった訳だが、カミューラがレッド寮に住む以上は形式的にでも生徒である必要があったので、
デュエリストとしての実力と十代との関係を考慮して、特例でアカデミアの生徒として登録されたのだ。
そのせいで出たくもない授業に出させられているが、「なんで私が授業に出なきゃいけないのよ…」と
愚痴を零しつつも真面目に出ているところが意外に高評価を得ていたりする。
まあ彼女に取っては成績なんてどうでも良く、十代と一緒に居られる事が重要なのだが……

「でもまあ、確かに暑いよなぁ」

ここ数年、夏になると異様な暑さに見舞われていたが、今年は飛び抜けて暑かった。
流石に観測史上最高を更新する事は無い物の、やたらと猛暑日が多く夜になっても気温が下がらない日が続いている為
少々暑くても平気な十代も流石にバテていた。


「というよりも、この島が暑すぎるんじゃないの? この間あなたの家のお墓参りに行ったときはここまで暑くなかったじゃない」

そんな彼に率直に感じたことを口にしたカミューラは遊城家の墓参りを思い出す。
先週、お盆ということもあって墓参りに行くという十代にくっついて、本土に渡った時はここまで暑くはなかった。
(そう言えば別の意味でヒヤヒヤさせられたわね…)
その際、十代の両親に彼の口から「この人、カミューラって言うんだけど……あのさ、俺この人と結婚するつもりなんだ」
と、紹介されたのだ。
これには十代の両親は勿論のこと、カミューラ自身も驚いた。
なにせ親への紹介でいきなり“結婚相手”などと言うのだから……。
カミューラは十代と夫婦関係になる為に彼と初めて身体を重ねた日から“私たちは夫婦だ”と、
積極的に迫り続け、十代も彼女に好意を抱いていたこともあって、法的な問題で正式にはまだだが、
二人の間では妻であり夫であると認め合うという、実質的な婚姻関係を結ぶことに成功していた。
つまり彼女は最初から強引に、半ば自分で勝手に決めるくらい積極的に事を進めてきた訳である。
彼女がここまで強引だったのは、“自分は独りぼっち”“世界にたった一人のヴァンパイア”
という孤独感からくる強い思い故だ。
勿論自分を受け入れ、愛してくれる十代が側に居るからそういう思いも多少は薄れていたが、
自分に恋心を抱かせた彼と本当の家族になって、僅かに残った孤独感すらも消し去りたかったのだ。

しかし、そんなカミューラでも十代の両親となると話しは別で、十代を相手にしたときのように強引にはいけない。
そもそも彼と彼の両親では立場が違う。
互いに好意を寄せていた十代には「結婚して」と言っても問題は無いが、
初めて顔を合わせる彼の両親に「妻です」などと言えば失礼にしかならないだろう。
最近はあまり口にしなくなったとは言え、よく“人間なんか”と言い、ヴァンパイアとしてプライドの高い彼女は
人間ごときにどう思われようと関係ないとの考えを持っているのだが、それでもやはり十代の家族には認めてもらいたいと思っていた。
だからこそ彼女はヴァンパイアの貴婦人として恥にならぬよう、古臭くはあるが作法に則っての挨拶をと考え、
貴族たる者礼節を重んじ、そして優雅に、それでいて控えめに

「突然押し掛けてしまい申し訳ございません。わたくし、十代様とお付き合いさせていただいております、カミューラと申します」

と、結婚などと言うのではなく、あくまでも“交際している”という自己紹介に留め、慎重にいくつもりだったのだ。
そう決めていたのを一瞬で台無しにされたのである。
いつもは好きな十代の気楽なところが、この時ばかりは憎らしくなってしまった。
久しぶりに会う息子が親に一言の相談も無しに決めた結婚相手を連れてきたとなれば
好印象を持ってもらうどころか、悪い印象を抱かれるだけだ。
そう考えたカミューラは頭の中が真っ白になってしまい、次にどう返せばいいのか?
何を言えばいいのか分からなくなってしまった。

だが現実には彼女の心配とは逆に、十代の両親は息子が連れてきたワインレッド色の、
いかにもヨーロッパの社交界にでも出てきそうなドレスを着ている年上美女を“結婚相手”と
紹介されて驚いていただけで、悪い印象を持つなど欠片ほども無く、
続けて十代が「カミューラはヴァンパイアなんだぜ」と教えても、
拍子抜けするぐらいあっさり二人の結婚を認めるなど、意気込んでいた自分が馬鹿らしくなるような結果に終わったのだ。
結局彼女は貴婦人らしい挨拶などすることなく、丁寧な口調ながらも普段通りの自分で接し続けることになり、
色々と襤褸が出てしまったのだが、それも含めて受け入れられ、初の顔合わせは実に友好的な雰囲気で終わった。
このとき彼女は思わず呟いていた「さすがは十代の御両親ね……よく似てるわ」と。

「まあ、火山が有るしな」

遊城家のお墓参りを思い出していたカミューラは十代の言葉に思考を打ち切った。

「そうだったわね 唯でさえ暑いのに、もっと暑くなる原因が有るのよねェ…… ねぇ、何か涼しくなる方法はないの?」

「涼しくなる方法か……」

自分以上に辛そうなカミューラに、十代は相変わらず彼女の三つ編みにした髪を自分の指に巻き付けたりして弄びながら
少しでも涼しくなる方法は無いかと考えこむ。
アイスやジュースを買いに購買に行くのはこの炎天下ではキツイし、カミューラも外に出たがらないだろう。
といって自分が行っても帰ってくるまでに溶ける、若しくは温くなるから意味がない。
なら涼しくなったような気にでもなればと、何かないかと考えた。
(カミューラの髪… 緑色の髪… 緑… 緑と言えば森… 森と言ったら……ああ、そういえばあの話しいいんじゃないか?)
彼女の髪をいじっている十代はそこから順に連想していき、今日聞いた話しを思い出した。

「涼しいかどうかわかんねーけど、変な話し聞いたぜ」

「変な話し?」

その話しがどんな内容なのかはわからない物の、話し一つで涼しくなる訳がないと訝しむカミューラだったが、
とりあえず聞いてみなければ始まらないと思い十代の話しに耳を傾ける。

「ああ、ここ最近の話しらしいんだけどな、何でも森に幽霊がでるらしいんだ」

「ゆっ……ゆう……れい…?」

その幽霊の話しは一年の、特にオシリスレッドの生徒たちの間で噂になっているらしい。
話しの内容はこうだ。
居残りをさせられていたオシリスレッドの一年生が夜に森の中で、全身が真っ黒な何者かに襲われたというのだ。
その真っ黒な影はあの世から呼んでいるような不気味な声で「……墓場に〜〜……ようこそ〜〜〜……」と話しかけて来たらしい。
実際その言葉通り、今まで木々だった周囲の景色が気がつくと気味の悪い墓場に変わっていて、
何故かデュエルを挑んできた影に、あまりの恐ろしさにまともに闘うことが出来なかった一年生は負けてしまい、
持っていたレアカードを奪われてしまったとのことだった。
一年生は負けた悔しさより、その不気味な影が恐くて一目散に逃げ出した。
翌日の朝に友達数人に付いてきてもらって昨日襲われた場所に来てみると、そこにはいつも通り木々だけしかなく、
昨日見た墓場はどこにも無かったというのだ。

「で、その墓場はあの世への入り口で、真っ黒な影ってのは死んだことに気付かずデュエルを続けている幽霊で…って、カミューラ?」

話しももう終わりというところで十代はカミューラの身体が微妙に震えているように感じ彼女に声を掛けた。
さっきまで団扇を煽いでいた手が止まっている。
どうしたんだ? と十代が彼女の顔を覗き込もうとしたとき、

「な、ななな、何よっ くだらないっっ! ちっ、ちっとも涼しくなんかないわっ!」

彼女は勢いよく十代に振り向き、怒っているみたいに叫んだ。
たまにヒステリックになるときはあるけど、流石に話し一つで怒られたことはなく、
いきなりのことでビックリした十代は身を乗り出す彼女に合わせて身を引いた。

「だっ、だいたいっ、幽霊なんて非科学的な物がいるわけないじゃないっっ!!」

「お、怒らなくてもいいだろ、 でもやっぱ涼しくならないよな」

(けど、非科学的って……それならアビドスとかハネクリボーとかBMガールとか精霊はどうなるんだよ?)
十代は頭の中で考えはした物の、何だかまた怒鳴られそうな気がしたので言うのを止めた。
その間もカミューラはぶつぶつと呟いていた。「幽霊… 迷信… そんなの居るわけ…」

その夜、深夜2時。
草木も眠る丑三つ時。
いくら暑い熱帯夜と言えどこの時間帯ともなれば殆どの生徒は眠りについていた。
夏休みと言うことも有って実家に帰省している生徒も多く、寮内どころか島内全体が静寂に包まれている。
聞こえるのは精々、虫の鳴き声くらいの物だ。
その虫の鳴き声さえ聴いている者は居ない……ただ一人を除いては。

「ね……眠れない」

十代と二人で同じベッドに入っているカミューラは目がさえて全く眠れないで居た。
吸血鬼が夜眠らないのは当たり前なのだが、彼女の場合は十代と生活を共にしていることもあって
昼起きて夜寝るというのが普通になっているのだ。
だからこそ、この時間帯ならとっくに睡魔に取り憑かれて眠りについている筈だった。
それに彼女にとって本来夜は好きな時間帯であり、眠れないというのなら島内を散歩するという選択肢だってあるはずだが、
何故か彼女はベッドから出ようとしない。
それどころかあれほど「暑い暑い」と愚痴っていたのに掛け布団を引っ被っているのだ。
普段ならいつも十代に抱き付いて眠っている彼女が、身体こそくっつけているが一人で布団を被っている。
本当は「一緒に布団に入って」と十代にお願いしていた訳だが断られていたのだ。
当たり前だ、この暑いのに誰が好き好んで布団に入るだろうか?
結局一人で布団を引っ被ってしまった妻に、十代も「どうしたんだよ…?」と心配していた。
よもや思うまい。 こうなった原因が昼に話した幽霊の話しなどとは…

(ひ、羊を数えるのよっ 羊が一匹……羊が二匹…)
何としてでも寝るんだと羊を数え始めたカミューラ。
しかし脳裏に思い浮かんだ牧場に立つ彼女の前を通り過ぎていく羊が、次第にぼやけて人魂になり、
更には牧場までが不気味な墓場に変わってしまうのだ。
(どうしてこんなのが思い浮かぶのよっ!)
何度羊を数えても墓場が思い浮かんで余計に眠れなくなった彼女は、それなら十代に起きてもらってと
横で寝ている彼の肩を掴んで揺さぶった。

「十代起きなさいっ、起きてっ、」

彼を起こしたところで自分が眠れるわけではないが、一緒に起きていれば少なくとも不安な気持ちは和らぐと思ったわけで、
迷惑も顧みずに揺さぶり続ける。だが一向に起きる気配はない……
その時だ、一瞬入り口のドアに付いている窓ガラスに人影が映ったのは。



「だ、誰っ!?」

気になったカミューラは十代を起こす手を止めドアに近付いていく。
こんな時間に翔や剣山が来るはずがないし、それ以外では心当たりがない。
ドアの前に立った彼女は外の気配を確かめる物の、誰かが居るようには感じられなかった。
念のためにと入り口のドアとは反対側の窓の外枠にぶら下がって、羽を休めていたコウモリに命令して見に行かせ、
コウモリの目を通して外を見てみたが、やはり誰もいないようだ。
彼女は思い切ってドアを開き、外の様子を確認する。

「……気のせいかしら?」

廊下に人がいないのを確認した彼女は手すりから身を乗り出して下を見る。
この時、迂闊にも懐に入れていたカードを一枚落としてしまった。
落ちたカードは“ヴァンパイアジェネシス”彼女の持つ切り札にして、強力なレアカードだ。
彼女は「なによもう…」と愚痴を零しながら取りに行こうとした。
するとそのとき、階段の陰から素早く飛び出した人影が彼女のカードを拾って一目散に逃げていくではないか。

「ちょっ、それ私のカードよッ 返しなさいッ!」

暗くて顔は見えなかったがレッド寮の生徒ではないことは確認できた。
ならば一体誰がと考えるも、イエローにしろブルーにしろ他人のカードを盗るような人間はいないため見当が付かない。
そもそもこのようなことが知れ渡ればアカデミアを退学になる可能性もある。
そんなリスクを冒してまで他人のカードを盗むだろうか?
とにかく取り返さなければとカミューラはカードを奪った泥棒を追いかける。

このとき彼女の頭の中からは抜け落ちていた。
オシリスレッドの生徒がデュエルしたという幽霊の話しのことが……


「確かにこっちの方に来たはず……」

いまカミューラがいる場所はレッド寮からかなり離れた森の中だった。
小柄で素早い人影は中々捕まえることが出来ず、追いかけ続ける内に森の中に入ってしまったのだ。

「うぅ…っ き、気味が悪いわねェ…っ」

昼間でも薄暗い森の中は夜になれば真っ暗になる。
幸いにもヴァンパイアである彼女は夜目が利くので辺りがハッキリ見えているものの、
それが却って気味の悪い雰囲気を増幅させているのだから皮肉としか言えない。

「や、やっぱり大人しく布団の中で目をつむっていればよかったわ、」

そもそもここは彼女にとって夜の散歩コースの一つであり、普段歩き慣れている場所だ。
当然気味が悪いなどと思ったことは無い。
だが今は違う。気味が悪い、歩きたくない、早く出たい。
そう思う原因は無論、昼に聞かされた十代の話し……

(夜中に森の中で真っ黒い影に…)
「ば、バカバカしいっ、」
(デュエルを挑まれ…)
「デュエルする幽霊ですって!? そんなの居るわけ無いでしょうっっ!」
(その影はあの世から呼んでいるような…)
「わ、私は生まれてから数百年間、幽霊なんて見たことないわ…っ み、見えないものは居ないのよ…っ、」

ここに来て思い出してしまったのだ、森の幽霊話しを。
カミューラは必死になって否定しながら歩き続ける。
白い肌に浮かび上がる冷や汗、次第に大きくなる歩幅、
早く抜けたい、もう捕まえられなくていい、明日にでも十代と二人で探せば、
焦る気持ちは歩みを更に早くしていく。やがて彼女が少し開けた場所に出たところで立ち止まったとき……


(不気味な声でこう言うんだ…)



『……墓場に〜〜……ようこそ〜〜〜……』



「ひ…ッ!」

突然前から聞こえてきた不気味な声に ビクゥッッ! とカミューラの身体が硬直した。
頬には一筋の汗が伝う。
彼女はゴクリと生唾を飲み込みながら前方の暗闇を凝視する。
すると不気味な声が聞こえてきた闇の中から ぬうっと一つの影が出てくるではないか。
それはさっきから彼女が必死に追いかけていた〈ヴァンパイア・ジェネシス〉を盗っていった小柄な人影だ。

「お、おまえ…っ!」

『これが返してほしければオレとデュエルしろォ〜〜〜』

薄い緑色のフード付きの服を着たそいつは頭にすっぽりフードを被っていて、
薄暗いこの場所では夜目が利かない人間の目だとフードの中が影に隠れて全く見えず、
影だけが動いているように見えるため、不気味な声も相まって幽霊に見えてしまうかも知れない。
しかしカミューラには暗闇など関係ないので、相手が実体を持つ存在であることがハッキリわかった。

「あ、アハ… アハハっ、にっ 人間じゃない、」

幽霊の正体見たりっ! と、乾いた笑い声を上げるカミューラだったが、彼女の膝はガクガク笑っている。
いくら彼女が、実体がある、人間に見える、だから人間だ! と決めつけても、心も身体も正直なのだ。

『人間〜〜〜? 人間なんて“名前”じゃあないぜぇぇ〜〜〜…… だってオレの名はゴーストだからな〜〜』

そう言ってフードが取られて現れたのは、窪んだ目に痩けた頬、ボサボサの髪に青白い顔と
凡そこの世の者とは思えない不気味な男の素顔。
男の顔を見た瞬間、今まで張っていた虚勢がとうとう音を立てて崩れ落ちた。

「ゆ、ゆゆゆッ 幽霊〜〜〜ッッ」

「“幽霊”じゃねえゾ! ゴーストだゾォォォォ〜〜〜!!」

露わになった男の素顔はとても生きている人間のものには見えず、
本物の幽霊だと思ったカミューラは甲高い悲鳴を上げた後、
肩を抱きながら沸き上がってきた恐怖に唇が震えてガチガチと歯が鳴り、何も言葉が出てこなくなった。
彼女は自分で言っていたように幽霊を見たことなど数百年間生きてきて一度としてない。
だが幽霊の話し、怪談話はいつの世にも存在するし、誰でも一度は聞かされたことがあるだろう。
そう、カミューラは幽霊が大の苦手なのだ。正確にはその手の類の話が。
その原因はやはり幼い頃に彼女の叔父がした怪談話で、話しの後に決まって幽霊の格好をした叔父に脅かされた経験から、
大人になっても幽霊が怖くて仕方がないのだ。
恥ずかしい話しだが、カミューラはそのせいでおねしょをしたことさえある。
勿論おねしょは子供の頃のことで、そんな恥ずかしいことを知っている者は今は居ないし、
大人になってからはしていない。もしもそんなことを十代に知られたら顔を合わせられなくなるだろう。
そんなわけで初めて目にした幽霊と思われる存在に、気高く美しい吸血美女は子供のように怯えきっていた。

(い…いや…っ 怖い… 助けて十代……)
カミューラは愛する夫に助けを求めるも、彼は今ベッドの上でぐっすり眠っているはずである。
仮に起きていたとしても行き先も告げずに飛び出してきた彼女の居場所が分かるわけがない。

「さあいくぜぇぇ〜〜 デュエルッ!」

幽霊男  LP4000
カミューラLP4000

不安と恐怖に怯える彼女を余所に不気味な声でデュエル開始の宣言をする幽霊男は
相変わらず不気味な表情を浮かべている。

「オレのターン、ドロー オレは手札からゴーストカード〈メデューサの亡霊〉を攻撃表示で召喚!」

〈メデューサの亡霊〉攻撃力1500

「カードを一枚伏せてターンエンド さぁ次はお前のターンだゾ」

幽霊男に促されたカミューラはドローしようとするも手が震えてカードが上手く掴めない。
(は、早く… 早く終わらせて…… 十代のところに…帰るのよ…ッ)
焦りながらもなんとかカードを掴めた彼女は手札からモンスターを召喚。

「わ……私は…っ て、てて、手札から…っ モンスターを攻撃表示で召喚……っ た、ターンエンド…っ」

〈ピラミッド・タートル〉攻撃力1200

「ギャハハハーッ! そんな低い攻撃力で攻撃表示にしてやがるぜぇぇッ!」

いつものカミューラからは想像も出来ない弱々しく消え入りそうな声。
召喚したモンスターも攻撃力が低いというのに攻撃表示にしてしまうミスを犯している。
本当は幽霊とデュエルなんてしたくない。それこそ今すぐにでも逃げ出したい。
でもそんなことをすれば呪われるかも知れない。取り憑かれるかも知れないと思う彼女は逃げたくても逃げられないのだ。
それに恐怖のあまり身体が言うことを聞かなくなっていた。
彼女の性格を知っている翔や剣山、何より十代が見ていれば口をそろえて言っていただろう「誰?」と



「オレのターン、ドロー! こいつはいいっ ツイてるゾっ! オレは手札からフィールド魔法、墓場を発動するゾォ〜〜〜」


続けて2ターン目に入った幽霊男が威勢良く発動したフィールド魔法〈墓場〉が展開されたことで、
今まで木々しかなかった辺りの景色が一変、見渡す限りの墓と人骨が出現して不気味な情景が広がった。
(や…っ いやぁ…っ)
その光景はただでさえ幽霊男に怯えているカミューラにさらなるショックを与え、パニックを引き起こす。
今にも泣き出しそうなカミューラを気にも掛けない幽霊男は続けて攻撃を開始。


「召喚された〈メデューサの亡霊〉は墓場フィールドのパワーを得て攻撃力がアップするゾ!!」

〈メデューサの亡霊〉攻撃力1500→1950

「〈メデューサの亡霊〉で〈ピラミッド・タートル〉を攻撃ッ!」


〈メデューサの亡霊〉攻撃力1950→〈ピラミッド・タートル〉攻撃力1200
〈ピラミッド・タートル〉破壊 カミューラLP4000−750=3250


「うぅ…ッ! ピッ ピラミッド・タートルの効果発動…ッ」


〈ピラミッド・タートル〉を破壊されたカミューラはカードの効果を発動する。
このカードの効果は戦闘によって墓地に送られたとき、デッキから守備力2000以下のアンデッド族モンスター1体を
フィールド上に特殊召喚することができる。


「わ、わたし、は…っ デッキから〈ヴァンパイア・ロード〉を特殊召喚!」

〈ヴァンパイア・ロード〉攻撃力2000

「チッ、まあいいぜぇぇ〜〜 そのくらいは想定内だゾ ターンエンド」


幽霊男は想定内と言っているが〈ヴァンパイア・ロード〉の方が攻撃力が上である。
ということは何らかの策がある筈なのだが、


「私…っ ターン……ドロー…っ 〈ヴァンパイア・ロード〉で、攻撃……」


怯えて泣きそうになっているカミューラに相手の手を読んだり、自分の作戦を立てることなど出来る筈がなく、
攻撃力が上だから攻撃するというデュエル初心者のようなことをしてしまった。


「おお〜ッと、トラップカード“炸裂装甲”発動!!」


炸裂装甲リアクティブアーマー。
このカードは相手モンスターの攻撃宣言時に発動することができ、その攻撃モンスター1体を破壊することができる。
それによって破壊される〈ヴァンパイア・ロード〉
〈ヴァンパイア・ロード〉は相手のカードの効果で破壊され墓地に送られた場合、次のスタンバイフェイズにフィールド上に
特殊召喚することができるので、次のターンには復活するのだがその次どころではない。


「ひっく… わ…わたし……モンスター……ひっぐ……しゅび…っ…しゅびひょうじ……っ」


カミューラが目に涙を浮かべて嗚咽を漏らし始めたのだ。
極度の緊張を超えてしまうと泣いてしまうのは、いくら気の強い彼女と言えど例外ではなく、
一刻も早く幽霊から逃げたいのに逃げられないという状況に、心の限界を迎えた彼女は、とうとう泣いてしまったのだ。
今のカミューラは妖艶で高飛車な貴婦人などではなく、幽霊が怖いと怯えるか弱い女の子と変わらない。
といっても彼女は少女ではなく大人の女性であるため、幽霊男からは“臆病者のデュエリスト”と取られてしまい、
「ギャハハハーっ 泣いてやがるぜぇぇ〜〜っ」と言われてしまうわけである。
因みに守備表示で召喚されたのは〈ヴァンパイア・バッツ〉守備力600
効果はフィールド上に存在するときアンデッド族の攻撃力を200Pアップするというものだ。


「オレのターンドロー、よし、オレは〈朽ち果てた武将〉を攻撃表示で召喚!」

〈朽ち果てた武将〉攻撃力1000→1300

「更に〈朽ち果てた武将〉の効果発動! このカードの召喚に成功した時、手札から〈ゾンビタイガー〉1体を特殊召喚できるんだゾ!」

〈ゾンビタイガー〉1400→1820

「さあ、じわじわイクぜぇぇ〜 〈メデューサの亡霊〉で〈ヴァンパイア・バッツ〉を攻撃っ!」

〈メデューサの亡霊〉攻撃力1950→〈ヴァンパイア・バッツ〉守備力600 破壊。

「更に〈ゾンビタイガー〉でプレイヤーにダイレクトアタックだぁ〜〜っ」

〈ゾンビタイガー〉攻撃力1820→カミューラLP3250−1820=1430

「まだまだいくゾォォ! 〈朽ち果てた武将〉ダイレクトアタック!」

〈朽ち果てた武将〉攻撃力1300→カミューラLP1430−1300=130

「ターンエンドっ、次のターンで決めてやるぜぇぇ」


このターン猛攻撃を浴びせかけた幽霊男だが、やろうと思えば決着は付いていた。
何せ〈朽ち果てた武将〉と〈メデューサの亡霊〉の攻撃を入れ替えていただけで良いのだから。
それをしなかったのは彼の手元にあるカードが原因だ。
〈ゴースト王パンプキング〉毎ターンゴーストモンスターの力の源である霊魂プラズマを供給することで、
自分の場に召喚されている全てのゴーストモンスターの攻撃力を10パーセント増幅させることができる。
(次のターン復活する〈ヴァンパイア・ロード〉の攻撃力は2000だ オレの場にあるどのモンスターよりも強い
 それで勝った気になったところに〈ゴースト王パンプキング〉の登場だぁぁ!!
 勝てると思わせたところで一気に絶望に突き落としてやるゾォォォ〜〜〜、それであの女の〈ヴァンパイア・ジェネシス〉をいただきだぁぁ!)
幽霊男はただ勝つのではなく、希望を持たせて絶望させる気で居たのだ。

「…ッッ」


幽霊男からの連続攻撃を受けたカミューラはその場に膝を折り曲げて崩れ落ち、ペタンと尻餅をついた。
(もう… いやぁ… 十代っ 十代っ)
立て続く一方的な攻撃に、ただでさえ低かった戦意を更に失わせた彼女は此所にいない夫に助けを求め続ける。


「ひっく… 十代……十代……」


カミューラはカードをドローするどころか座り込んだまま、ただひたすらに十代の名を口にする。
いつも彼女の側に居てくれる心のよりどころたる愛する男の名を……

“カミューラッ”

するとどうだろう、彼の声が聞こえるではないか。
だがわかっている。自分の居場所を知らない彼が此所に来る筈がないことは…
そう否定する彼女の耳にまた十代の声が聞こえた。


「どこだカミューラーッ!」

「十……代…?」


今度こそ幻聴ではなく確かに聞こえた彼の声に、彼女は下を向いていた顔を上げて彼の姿を探し求める。
そして先ほど自分が歩いてきた方向から聞こえる声が徐々に近付いてきて、


「カミューラっ!」


やがて姿を現した彼にへたり込んでいたカミューラは有無を言わさず抱き締められた。
温かい彼の温もり、自分を心配する彼の声に安心したのか、彼にだけは絶対に見せたくない、
たとえこのような状況に有ってさえ強がりを見せて隠そうとする自分の弱い姿をさらけ出した。


「じゅうだいぃ…、おば…け……おばけぇぇッ…」


十代に抱き締められたカミューラは恥も外聞もなく泣きじゃくりながら彼に抱き付き、
ぽろぽろと涙をこぼしている。


「大丈夫だカミューラ、大丈夫だからもう泣くなよ」


泣きじゃくるカミューラの背や頭を優しく撫でて慰めていた十代は、自分たちに対峙するように立つ
カミューラがお化けと言った男の方を見た。
窪んだ目に痩けた頬、ボサボサの髪に青白い顔と確かにお化けに見えなくもない。
幽霊を、お化けを怖がっているカミューラにはそう見えたが、十代には一目でわかる。
明らかに生きている人間だ。


「カミューラ、あいつは人間だ オレと同じ生きている普通の人間だぜ だから怖くねぇって」

「にん…げん…? おばけじゃない…?」


目に涙を浮かべたままきょとんとした顔で小首をかしげ、上目遣いに十代を見つめるカミューラからは
それでもまだ若干信じていない様子が伺えた。
(な、なんか子供みてえだな…)
普段の高飛車な態度とは違う弱々しい子供のようなカミューラ。
彼女は妖艶で美しい大人な美女で、着ている服も露出の多い大胆な物だから
こういった泣きじゃくったり小首をかしげたりする姿はとてもギャップが大きく不思議な感じがする。
(でも、かわいいな…)
彼女が見せた意外な一面に十代は戸惑いとともに嬉しくなる。
自分が知らないカミューラを、また一つ知ったからだ。


「それに本物のお化けだったとしても、オレが付いててやるからさ」


言いながらポンポンと背中を叩かれたカミューラは、自分を励まし、慰めてくれる十代の唇に
自然に自らの唇を押しつけ、彼を求めた。


「んっ… んふぅっ… あむっ…」


いや、押しつけるだけには留まらず、彼の口を割って舌を入れ、ちゅぱちゅぱ音を立てて絡ませ、
お返しにと十代に舌を入れられ、牙を舐められたり、舌を絡められたりと深く熱いキスになってしまう。
長く長く続くディープなキス。ある意味とても微笑ましい光景とも言えたが、約一名はストレスが溜まりまくっていた。

「いい加減にしやがれっ! デュエルはまだ終わってねぇゾっっ!」


そんなのを目の前で見せつけられていた幽霊男は堪らず叫んで二人のキスを妨害する。
デュエルの最中に何やってんだ!? 彼女居ない歴=年齢のオレに対する当てつけか!? といった感じで。


「んっ んん…… はぁぁ……」


幽霊男に言われたからか、ねっとりした糸を口の間に引かせながら顔を離したカミューラは、
少し調子を取り戻したようで先ほどまでの狼狽ぶりは無くなっていた。
泣きじゃくり怯える少女のような姿はもうそこには無い。
十代との愛の溢れるキスは彼女から恐怖心を綺麗さっぱり吹き飛ばしてしまったのだ。
今は(十代にあんな恥ずかしいところを見られてしまった!)などと考える心の余裕さえ生まれている。
しかし、いくら幽霊男に対する恐怖心が和らいだとはいっても、現状追い詰められている状況は変わらず、
手詰まりなのは否定できない。
(ダメだわ、私の手札にはこの状況を覆すカードが無い… このままでは…)


「カミューラ、自分の引きを信じろよ」


だが、それさえも十代が吹き飛ばした。
まだ不安そうな表情を浮かべるカミューラに掛けられた十代の声援は、彼女に取ってはとても大きく、
勇気付けるには十分すぎる物だった。
どうしようもない状況を覆し、逆転し続けてきた遊城十代。
その十代の妻である自分がこの程度のことを乗り切れなくてどうする!
そう心の中で叫んだカミューラはこのドローに全てを掛けた。
(そうよ、自分の引きを信じるのよ)


「私のターン! ドロー!」


今までの弱々しい声ではない力強い声でターン宣言とドローをしたカミューラは、
手にしたカードを見て唇をにやりと歪ませた。
彼女の手札にこのカードが来たことによって一気に逆転への道が示された。
それはまるで十代の引きを再現しているかのように……。


「よくも散々好き勝手やってくれたわねェ…… 倍返しにしてあげる」


自分の強さに恐れ戦いていたカミューラが、十代の抱擁を受けて口付けを交わした途端
態度を一八〇度変え不適な笑みを浮かべたことに、どうなっているんだ? と思いつつ、
それでも自分優位な状況に、「どうせハッタリに決まってるゾ!」と彼女を挑発する幽霊男。
だがカミューラはもう怖くなど無い。自分の側に来てくれた十代に勇気をもらったから。
彼が側に居てくれるなら怖い物など何も無い。


「フフフっ ハッタリかどうか、答えは直ぐに出ますわ…… 私は手札よりフィールド魔法〈不死の王国ヘルヴァニア〉を発動ッ!」


フィールド魔法〈不死の王国ヘルヴァニア〉発動と共に、幽霊男が発動していた〈墓場〉が破壊され、
辺りの景色が薄気味悪い墓地から、中世ヨーロッパに出てきそうな古城に変わっていく。


「〈不死の王国ヘルヴァニア〉だとォォ!」

「このカードは手札のアンデッド族モンスター1体を墓地に送ることで、フィールド上の全てのモンスターを破壊することができるッ!!」

「ハハハ何をするかと思えば…っ バカだゾこいつ! そんなことしたらせっかく復活したお前のモンスターも破壊されるゾ!」


そう、現在カミューラの場にはモンスター効果で復活した〈ヴァンパイア・ロード〉1体しかいない。
おまけに彼女の手札には生け贄召喚しかできないレベル5以上のモンスターだけしかないので、
ヘルヴァニアの効果を発動したら後がないのだ。
だが、それは彼女の手札にある魔法カードと組み合わせることでクリアされる。
たとえ最強のカード〈ヴァンパイア・ジェネシス〉が無くとも、ヘルヴァニアが手札に加わった時点で彼女の勝ちは決まったのだ。
そうとは知らない幽霊男は、この状況では何をしても詰んでいることには変わりはないと、益々勝利を確信した。


「フフ、そうねェ…… でも残念ね、手札から〈ヴァンパイア・ロード〉を墓地に送り〈ヘルヴァニア〉の効果発動!」


カミューラはそんな幽霊男の言葉に怯むことなく〈ヘルヴァニア〉の効果を発動した。
それによって幽霊男の場にある〈メデューサの亡霊〉〈ゾンビタイガー〉〈朽ち果てた武将〉が次々と破壊されていき、
彼女の場の〈ヴァンパイア・ロード〉も破壊され、フィールド上のモンスターが全て破壊された。


「マジでやりやがったゾ……でもオレの勝利は変わらねえゾ!」

「さあ、どうかしら? 私は手札から永続魔法〈ミイラの呼び声〉を発動! 知っているわよねェこのカードの効果は?」

「うぐ…ッ じ、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合手札からアンデッド族モンスターを1体……特殊召喚することができる……」

「その通り…、私は手札から〈闇より出でし絶望〉を召喚!」

〈闇より出でし絶望〉攻撃力2800

「まだよ! 手札から魔法カード〈生者の書−禁断の呪術−〉を発動!」


〈生者の書−禁断の呪術−〉の効果は、自分の墓地にあるアンデッド族モンスター1体をフィールド上に特殊召喚し、
相手の墓地にあるモンスター1体をゲームから除外するというものだ。
これによりカミューラの墓地にある〈ヴァンパイア・ロード〉が復活する。


『ワハハハハハッ!!』
〈ヴァンパイア・ロード〉攻撃力2000


都合、三度の召喚をされた〈ヴァンパイア・ロード〉はいつもと同じ高笑いを上げて場に現れた。
カミューラの勝利の決め手となる召喚に、いつもはカワイソウに感じてしまう『ワハハハハハッ!!』という高笑いも、
とても頼もしく感じられる。


「さあて… 場の状況はどうなっているか、もうお解りよねェ? 」

「お、お前の場には攻撃力2800と2000のモンスター…… オ、オレの場には……」

「モンスターが居ない……さあ、覚悟は宜しくて? おしおきよ! 〈闇より出でし絶望〉プレイヤーにダイレクトアタック!!」

〈闇より出でし絶望〉攻撃力2800→幽霊男LP4000−2800=1200

「これでとどめよ! 〈ヴァンパイア・ロード〉ダイレクトアタック!!」

〈ヴァンパイアロード〉攻撃力2000→幽霊男LP1200−2000=0

「ジ・エンドよ」

「オ、オレの負け……」


胸元に手を当てて優雅な勝利宣言をするカミューラに対し、ついさっきまで絶対的優位に立ち、
自分の勝ちを確信して調子に乗っていた幽霊男、いや幽霊みたいな男は地面に手をついて元々血色の悪い顔を、
更に真っ青にして愕然としていた。


“ガツッ!”
「ひえッ!」

「私のカード… 返して頂けて?」


そんな彼の目の前に脚を思いっきり振り下ろし、ヒールの踵を土にめり込ませたカミューラは、ニッコリ微笑んで言い放つ。
しかし、細められたその目は決して笑ってない。
幽霊男から見ればスカートのスリットから覗く彼女の綺麗な生足を拝める絶好の位置なのだが、
今の彼にそんな余裕は残ってない。

(イ、イイ笑顔だな…)
十代は完全にいつもの調子を取り戻したカミューラを見て、良かった良かったとしながらも、幽霊男が気の毒になる。
そのイイ笑顔を見慣れている十代から見ても今のカミューラは怖いのだ。


「は、はいィィ! お、おおおおッ お返ししますゥッ!」


幽霊男は大慌てでカードを取り出すと、恐る恐る両手を差し出してカミューラに渡した。
カードを受け取った彼女は満足げな表情を浮かべると、もう用は無いとでも言うように踵を返して十代のところに戻っていく。
何もされなくてホッとした幽霊男だったが、自分に恥をかかせてくれた上に、
一番見られたくない姿まで見られた彼女がこれで終わらせるはずがない。
「ああ、そうそう……」と歩みを止めたカミューラはもう一度幽霊男に振り返ると……


「アンタ人間の分際で…… ヨクモアンナオオハジヲカカセテクレタワネェェェ〜〜〜〜ッ!」


大きく口を裂けさせ、しわがれた声を出して凄んだ。


「ひッ ギャアア〜〜〜ッッ!!」

当然だがそんな顔をこんな暗い森の中で見せられたら数割増しで迫力が出るため、
幽霊男は腰を抜かしてへたり込んでしまった。


「まあまあ、無事カードも取り戻したんだし、」


不機嫌モード全開のカミューラに脅かされてビビッている幽霊男があまりに気の毒になった十代は、
カミューラの側まで来ると凄む彼女を宥める。
へたり込む幽霊男の姿は先ほど彼に脅かされていたカミューラと全く同じだったので、
彼女は「仕返しが出来た」と少し気が晴れたのと、十代に宥められたこともあって顔を元に戻した。

「フンッ まあいいわ… これに懲りたら幽霊のフリをして脅かしたり、人からカードを盗ろうなんてしないことね」

「じゃあもういいだろ? 帰ろうぜ」

雨降って地固まるではなかったが、何とかカミューラの怒りが収まったのと、
何より彼女が無事であったので、もう何も言うことはない十代は部屋に戻ろうと言い一歩踏み出したところで、
グイッと袖を引っ張られた。引っ張ったのは勿論カミューラだ。

「手…」

「え、なんだ?」

「手を繋ぐの…」

「ひょっとしてまだ怖いのか?」

「違うわよッ! エスコートするの! まったくデリカシーが無いわねッ!!」

手を繋いで歩けと言うカミューラは十代の気配りのない言葉に“ぷぅ〜ッ”とほっぺを膨らませて文句を言う。
元々そういうのに疎い十代に女性への気配りを求めても無駄なのは彼女自身わかってはいたが、
今夜は一連の出来事のせいで彼の温もりを必要以上に欲しているのだ、少しは気が付いてほしいと思うのも無理はない。

「はは、悪い悪い、俺そういうところ鈍いからな」

「まったく、一緒になってもう1年以上になるのに貴方と来たらいつまでもっ… んうっ!?」

が、今夜の十代は彼女が思っていた以上に気を配っていたりしていた。
十代は愚痴を言い始めたカミューラの手を掴んで引き寄せるとキスをしたのだ。

「んっ んっ んふうっ んんっ」

唇を押し付けられたまま十代に抱き寄せられたカミューラは、まさかこのタイミングでキスされるとは思っていなかったため、
対応することができずに、ただ黙ってキスを受け入れることしか出来ないでいた。
それほど長く続けるつもりは無いようで直ぐに唇を離されたが、唐突なのもあってカミューラの胸はドキドキと高鳴り、
頬も紅く染まって、ポーっと十代を見つめてしまう。

「さ、帰ろうぜ」

そして今度こそ部屋に戻ろうと十代に手を引かれて歩き出した。

「た、助かったゾ…」


二人が元来た方に歩いていき、姿が見えなくなったのを確認した幽霊男はフーっと息をついて
浮かんでいた冷や汗を拭う。
散々調子に乗ったあげくに逆転負けを喫した彼だったが、一応目的の半分は達したからいいかと、
意外にスッキリしている様子だった。
実は彼、今あるゴーストデッキ以外に強力なアンデッドデッキを作ろうと思いついて、カードの情報を集めていたところ、
デュエルアカデミアのオシリスレッドに〈ヴァンパイア・ジェネシス〉という強力なアンデッドのレアカードを持った生徒がいる
と聞いて、デュエルを申し込んで勝ったらそのカードを頂こうと考え、定期船に乗ってアカデミア島を訪れていたのである。
ただ来たは良い物の道に迷って夜になってしまい、レッド寮と思わしき場所に着いた頃には全部屋の明かりが消えていて、
起きてるところはないかと、寮の周りや各部屋のドアの前を行ったり来たりしていたのは、常識がなかったと反省していた。
とにかく途方に暮れているとき、ある部屋から出てきた女が懐から落としたカードを拾って、
それが目的のカード〈ヴァンパイア・ジェネシス〉であったため、思わず盗って逃げてしまったのだ。
そして追い掛けてきた持ち主の女、カミューラとデュエルしたという訳であった。


「最初オレにビビってたから気の弱い臆病者だと思ったら、凄く怖い女だったな……」


結果としてデュエルに負けた彼は〈ヴァンパイア・ジェネシス〉を諦めることにしたのである。


「けど、あの女変なこと言ってたなオレのこと幽霊とか人間とか… オレの二つ名はゴーストだゾ」


カミューラが人間と言ったとき、或いは幽霊と言ったときに訂正してゴーストだと言ったのは
彼の二つ名がそうだからである。
無論カミューラは名前として言ったのではないが……


「それにオレが幽霊のフリして脅かしたとか… オレそんなことしてないゾ…」


侵害だとでも言うような幽霊男だったが、彼はこの島で最近あったという幽霊話を聞いたカミューラが
彼を幽霊だと勘違いしていたとは知らないので仕方がない。
確かに彼は幽霊ではない。何せカミューラが聞いた幽霊の話しは彼がこの島を訪れる数日前に起こった出来事なのだから。

「でも、どうして私の居場所がわかったの?」

部屋に帰ってきたカミューラは、自分が飛び出したときには寝ていたはずの十代に、
どうして正確な居場所がわかったのかを聞いた。
いくらなんでも感だけで正確な場所が突き止められる訳がない。

「ああ、それは… アイツのおかげだぜ」

十代が指差したのは窓の外、窓枠にぶら下がっているコウモリだ。

「アイツが入り口のドアから入ってきて、オレの顔とか耳の横でキィキィ鳴いて起こしてくれたんだよ
 それで横見たらお前居なくなってるし、アイツも付いてこいって言ってるみたいだし、何かあったなと思って慌てて飛び出したんだ」
 

(そういうこと…)
コウモリは超音波を発するので、揺すっても起きないくらいグッスリ寝ていた十代を起こす何らかの要素があったのかも知れないと
思いながら、彼女も同じようにコウモリを見る。
帰ってきてから直ぐに寝たのかコウモリの目は閉じていた。
(そういえばあの子、私と同じ生活をしていたわね)
カミューラの僕であるこのコウモリも本来夜行性であるにも関わらず主に併せて昼起きて夜寝ているので、
おそらく疲れているのだろう。
(夜寝るのが普通になるなんて、昔じゃ考えられなかったわ)
そんなことを考えながら、もう随分夜遅いというか朝早いのでだんだん眠くなってきた。

「ふあぁ〜…」

カミューラは欠伸をして目をゴシゴシ擦る。

「眠いのか?」

「ええ… 夜通し起きていたから…」

ヴァンパイアなのに夜通し起きていて眠いというのは違和感ある言葉なのだが、
今や彼女に取っては当たり前になっているので十代も気にならない。

「じゃあさ…」

「きゃっ」

グイッと十代に腕を引っ張られたカミューラは、彼の胸に抱き留められた。

「こうしたら寝やすいだろ?」

十代はカミューラが一睡もしていないのを聞いて、眠れないなら自分の胸を貸してやろうと考えたのだ。
彼女は意外に寂しがり屋なところがあるので、こうしていれば熟睡出来るのでは? と…
実際カミューラに取っては十代の側が一番落着ける場所だから間違ってはいない。
しかし、彼の好意から出たその行動は、眠たかった彼女を逆に眠らせないようにしてしまう。
何せ今夜は怖いことばかりだった上に、怯える自分を颯爽と助けに来てくれた彼に対して
いつも以上にドキドキさせられていたから、いくら眠たくてもこのまま寝てしまうのは勿体なく思え、
彼女は意地でも寝たくなくなってしまったのだ。

「嬉しいけれど…… 御遠慮させていただきますわ」

「え…? いや、でも眠いんだろ?」

「確かに眠いけれど、このまま寝てしまうのは勿体ないと思うの……」

それだけ言うとカミューラは十代の顔に自分の顔を近づけて彼の唇にキスをした。

唇が触れ合うだけの軽いキスをしたカミューラは頬を赤らめて十代を見つめる。


「カミューラ…」


キスをされた十代はカミューラがしてほしいことを汲み取り彼女の腰に手を回すと、自分の方に抱き寄せて、
真っ白な首筋にそっと唇を落としてキスマークを作り、続いてキスしたところを甘く噛んだ。


「んっ!」


かぷっ かぷっ と何度か首筋を噛まれたカミューラは、自分が血を吸われているような気分になった。
人間の十代が血を欲するなどということは無いので、ただ噛まれているだけなのだが、
十代に血を飲ませてもらうときに噛み付く場所と同じ位置なので余計にそんな錯覚がするのだ。
次に耳を噛まれた。これも痛い物ではなく啄むような甘噛みだ。
十代がカミューラの耳を噛むのは良くあることで、彼女が以前聞いたときは
「耳尖ってるから目について、なんか噛んじゃうんだよなぁ」などと言われたことがある。


「あ…っ!」


おまけに今、カミューラの長い髪は三つ編みにして一つに纏められているので尖った耳がよく目立ち、
それが目に付いた彼は早速彼女の耳を噛んだというわけだ。
元々は寝る予定だったから彼女の青い宝石のイヤリングがはずされていて丁度良いというのもあった。
続いて二度目のキスを交わしながら、重ねた唇をそのままに、ベッドの上に倒れ込む。
柔らかな布団の上に横たわりながら、十代はカミューラの身体を抱き締め、
舌で唇を割って彼女の舌を絡め取る。


「んう……っ、ん……っ、は、あぁ……。 ふぅぅ……、ウフフ……何度されても良いものね」


唇を離しながら微笑むカミューラの白い頬には朱が混じっている。


「好きなようにさせてもらっても良いか?」

「ええ、いいわ。貴方の好きなように抱いてちょうだい…」

了解をもらった十代はカミューラのスカートを捲った。


「カミューラのスカートってエッチするとき捲りやすくていいよな」


彼女の服のスカートは腰の目一杯までスリットが入っているので
十代の言うように捲りやすいと言えば捲りやすい。


「あら? これは服のデザインであって、こういうことをするための物ではなくてよ?」


カミューラの着ているドレスは結構高級な物である。
同じ服を数着持っているため、簡単に手に入る物だと勘違いされることがあるが、
この服はオーダーメイドである上に、生地も良い物を使っているのでそう簡単には手に入らない。
現在でこそ普段着として着ているが、数百年前は貴族の社交界の場に着て行ったようなお高いドレスだ。
勿論彼女のお気に入りの服であり思い入れもある。それをスカート捲りがしやすいなどと言われては適わない。


「それはそうだろうけど、実際に捲りやすいぜ」

「フフ、残念だけど貴方とファッションの話しをするつもりはありませんわ」


そもそも十代と服のデザインとか、おしゃれについての話しをしても意味がない。
カミューラは以前にマニキュアや口紅を変えたりしたとき全く気付かれなかったのでよくわかっている。


「でもこの服一番似合ってるけどな」

「フフ、ありがとう」


十代は話しが終わるとスカートを捲られて露わになったカミューラの太股にキスをした。
まずは前の部分に口付け、舌を這わしながら徐々に内股に移動していく。


「は…あぁ……っ」


膝の内側にキスされたカミューラの口から艶めかしい声が出てきた。
その声は十代の口が内股の上の方に、膝の付け根にさかのぼってくるにつれ少しずつ大きくなる。


「あ、うう……だ、だめ……っ」


そして股間まで来たとき十代は鼻を近付けてわざと息を吹き掛けながら匂いを嗅いだ。
黒い下着で守られたカミューラの股間に鼻を押し付けくんくんと匂いを嗅ぐと、甘い女の匂いに鼻腔を擽られる。


「カミューラの匂い…… いい匂いがするぜ……」

「バ、バカ…っ そんなところ…が……っ いい匂いなわけ…っ アア…ッ!!」


いい匂いだという十代に股間を嗅がれているカミューラは、彼の生温かい息を下着越しに感じながら否定した。
一応入浴は済ませていた物の、その後に幽霊みたいな不気味男とデュエルしている間、
かなりの汗をかいていたから、いい匂いなんかする訳がない。
が、それはあくまで彼女がそう思うだけで、十代からすればカミューラの匂いならどんな匂いでもいい匂いに感じるのだ。
その“いい匂い”を嗅いでいた十代は下着越しにカミューラの股間にそっと口づける。
ぴくんと跳ねたカミューラをちらりと見上げて表情を確かめると、舌で黒い布越しに割れ目をつついて刺激し、舐めていく。


「ヒ…ッ ああッ!」


十代のキスを股間に受けたカミューラは悲鳴を上げた。
黒い下着は十代の唾液に濡らされてびしょびしょに濡れ、その濡れた下着に唾液とは違う粘り気のある液体が滲み出してくる。
それは勿論カミューラの割れ目から出てきた物で、それを舌で感じ取った十代は一旦口を離して、彼女の下着を脱がせた。
するすると脱がされていく黒い布の、丁度割れ目に接触していた部分には、ねっとりした愛液が染みついていた。


「んう……っ じゅう…だい……早く……っ」

「もうちょっとだけ待ってくれよ」


下着を脱がされて膣を外気に晒されたカミューラは、股間を口で攻められて息を荒くしながらも、
いつまでも口でしてないで早く繋がろうと十代に言ったが、もう少しと待ったをかけられてしまう。
そして再度彼に口付けをされた。十代の口とカミューラの膣口が触れ合わされる口付けを。


「ひゃあぁん…ッ!」


十代が唇を膣口に重ね合わせたまま舌を差し出して、勃起したクリトリスをつつくように刺激すると、
秘裂の奥から更に多くの愛液が滲み出してきた。
明らかな反応に期限をよくした十代はカミューラのクリトリスを口に含み、さらなる刺激を加えていく。
十代の唾液で濡れたクリトリスは愛撫している舌でもその尖りが分かるくらいに硬くなってくる。


「は、あぁ……っ! じんじんするぅぅ……っ!」


十代が濡れた突起を舌で優しく撫でると、カミューラは悲鳴を上げてシーツを掴んだ。
十代はカミューラの割れ目をなぞり、クリトリスを啄みながら
膣の中へと舌を入れて入り口付近の襞を舐め回し、ほぐしていく。


「ひあ…ッ あぁ……っ、や、はぁっ……はうっ ひぃんっ し、舌が……っ、アソコにィィ……っ、」


割られた膣口が十代の唇や舌を啄むようにひくつき、本当に口でのキスをしているような感じになる。
秘裂の奥からは愛液が溢れ出し、舌を伝って十代の口に流れ込む。
舌で愛撫を続けている十代は、口の中に溜まり始めた愛液を唾と一緒に飲み干すと、
ストローの口を吸うみたいに割れ目から溢れてくる愛液を吸い上げた。


「ひあぁぁあ…ッ ダメェ…ッ やッ、もうやめ……っ お願い……ッ!」


膣に吸い付かれているカミューラはイキそうになってしまい、もう我慢の限界だと伝えた。
懇願するような彼女の様子にホントに果ててしまいそうだと感じた十代も名残惜しげに口を離すと、
もう十分すぎるほど潤い、ほぐされたカミューラの膣を見た十代は、服を脱がせてカミューラを裸にさせると、
両手でカミューラの大きな胸を掴んだ。


「はあん……っ」


カミューラの巨乳と言っていい胸は十代の手に収まらない。
その豊かな胸の柔らかさを味わうように十代は優しい手つきで揉みし抱く。
乳首に顔を近付けて撫でるように舐めると、ぷっくりと乳首が尖って赤く色づいた。


「ひゃうんっ! はぁ……あ……っ」


そのまましばらく乳首を舐め、吸い続けた十代は、艶めかしく喘ぐカミューラの声に、(もういいかな?)と考え、
そろそろ自分も性交を始めたくなったのもあって、一度身体を離してシャツとズボンを脱ぎ始めた。

「あふぅ……アナタぁ、 早く……きてェ……っ」


身体の火照りと熱に浮かされたカミューラは、ベッドに仰向けで寝たまま膝を立てて
服を脱いでいる十代に熱い視線を送ると、あまり使わない呼び方で彼を呼んだ。
(アナタ……か、何かそう呼ばれると夫婦っていうの意識させられるよなぁ)
十代はカミューラと仲良くなったその日からキスはするし、子作り前提のセックスはするしで、
凡そ夫婦生活その物の毎日を送り続けている物の、普段はあまり意識していない。
しかし、“アナタ”と呼ばれるとカミューラに抱く愛情も相まって、やはり夫婦なんだというのを意識させられる。


服を脱いで裸になった十代は自分を待ってベッドに横たわっているカミューラの側に行くと、
その白い足を大きく広げさせ、開いた足の間に身体を割り込ませた。
十代はすべすべの膝を優しく撫でて、くぱぁ と開いて愛液の滴る割れ目に硬く勃起した肉棒を近付け、あてがった。


「待たせて悪いな」

「いいから早く挿れてェっ……!」


焦らされているカミューラは身体の疼きに耐えられず早く挿れてとせがんだ。
愛液で潤った膣口がぱくぱく蠢き、眼前にある肉棒を食べようとしている。
それを見た十代は入り口の少し上で勃起しているクリトリスに亀頭を二、三回擦り付け、
続けて裏筋でも撫で擦ってから、ひくひくしている膣口に亀頭を潜り込ませた。
くちゅっと濡れた音たてて肉襞が絡みつく感触に、十代の身体が鈍い快感に痺れた。


“ずぶり…ずぶずぶ……ずぶぅ”
「くう……っ あ、はぁぁ……っ、十代が、入ってきてる……っ」


膣内は既に愛液たっぷりであるため滑るように奥に入ってくる肉棒の感触に背筋を震わせながら、
カミューラは下半身に目を向け、だんだんと深く自分の身体に突き刺さされる十代の肉棒を熱っぽい目で見つめる。
十代はカミューラの膝を抱えながら、ゆっくりと腰を進めていった。カミューラの中は相変わらず気持ちが良く、
燃えるように熱い肉壁は程よい力で肉棒を締め付けながら蠢き、奥へと導いている。


「んぁぁ……は、ああ、ん……っ、十代……っ、き、きもち……気持ちいい……っ」

「カミューラ……、俺も、気持ちいいぜ……」


呟いた十代はカミューラに覆い被さると、腰を沈めて更に深く肉棒を突き入れた。


「は、あぁっ! ああっ! 十……代……気持ちいい……っ、あっ、あっ、深い……すごく……っ、深いわ……っ」


身悶え、喘ぎながらカミューラは首を左右に振る。それに合わせるかのように蠢く膣口が十代の肉棒根元に絡みつき、
肉棒を受け入れている膣内が収縮を繰り返して、吸い上げるように締め付ける。
カミューラの膣内は愛液で満たされている事でぬめり気を帯び、すべりを良くしているので抽挿するのに問題は無く、
十代は燃えるように熱い肉壺の中を前後に動き続けた。
亀頭が柔らかな肉を割り、竿の部分が愛液を絡め取りながら膣内を擦り上げていく。


「ん、あぁ……すご……すごいィィ……ひう、あぁぁ……、私の中……っ、痺れるぅぅ……っ」


十代の動きが大きく、激しくなるにつれて、カミューラの嬌声も大きくなる。
部屋に響くのはカミューラの喘ぎと息づかいだけだ。
十代は大きく腰を引いて肉棒が膣から抜けるか抜けないかというところまでくると、
再び入り口から奥まで一息に突き下ろす動きに変えて、出し挿れを繰り返す。
するとカミューラはあまりの快感に悲鳴にも似た嬌声を上げた。


「ひっ、ひぁぁぁぁっ……! は、あぁ、そんな……っ、あうっ! ひぅぅっ!」


大きく激しい抽挿をされても決して痛みなど与えられることは無く、寧ろカミューラの官能は大きく刺激され、
唯々気持ちが良いばかりである。


「あはぁぁ……くう、はうぅっ……はひぃぃ……っ、深い……っ、気持ちいい……っ、十代っ、もっと……もっとしてぇぇ……っ」

「ああ、遠慮しないからな……っ」


言いながら十代はカミューラの中を貪るように動く。
膣内を肉棒全体で擦り、摩擦で熱くさせ、互いに温もりを分かち合う。
亀頭を一番奥まで突き入れて、子宮への入り口をつつく。


十代は何度も子宮口を突きながら、膣内に溜まった愛液を掻き混ぜて肉棒に絡めつつ、カミューラを喘がせる。


「あっ、あぁぁ……っ、くぁぁ、ひぃ……っ ひぁん! い、いい……っ、いいわ、十代……っ、もっと抱いて……っ、私を愛してぇぇ……っ!」

「カミューラ……っ!」


カミューラに応えるように十代は腰の動きを速くして、ラストスパートに入った。
二人が身体を重ねて愛し合うベッドが、動きに合わせてギシギシと音を立て、大きく軋む。
亀頭の先が勢いよく子宮口を突き、突いてくる肉棒を膣肉が強く締め上げ、お互いを絶頂へと向かわせていく。


「カミューラっ……そろそろ……っ、出そうだ……っ」


言われたカミューラは自分に覆い被さったまま至近距離で見つめ合う十代に小さく頷くと、
爆発寸前まで追い詰めてきた愛欲に思考を奪われながらも、紅い唇を歪めて艶っぽい笑みを浮かべる。
白い頬は真っ赤に染まって、性交による熱と身体の運動の為に玉のような汗が浮かんでは流れ落ち、カミューラの色気を引き立たせ、
彼女を見つめる十代の鼓動と抽挿が早まっていく。


「あっ、ああっ……ああ……っ! 十代……っ!」


キュッと、一際強くカミューラの膣が十代の肉棒を締め上げ、根元から竿、亀頭の先に至るまで吸い付くように肉が絡みついて、
十代の精を求める。


「あうう、わ、私……っ、もうダメぇぇ……っ! 十代……っ、十代っ……! 一緒に、私と一緒に……っ!」

「ああ、わかってる! 一緒に……一緒にイこうぜ……っ、カミューラっ!」



強く締まる膣の中、肉を引き裂くように十代は大きく動く。
激しく大きく動いてはカミューラの最奥まで貫き続けた。
その動きを留めながらも奥へ奥へと誘導するようにカミューラの膣壁は蠢き、欲する物を出させようと肉棒を刺激する。


「あッ、あッ、あッ、あうう……ッ、い、イク、イクぅッ……ッ、わ、私……イクぅ、あ、アァァァァァ―――ッッッ」

「くううッ、だ、出すぞ……ッ!」
“ドクンッ、ドクッ ドクッ びゅうぅぅ、びゅうう……”


カミューラの絶頂の声と同時に、彼女の奥深くまで肉棒を突き刺した十代は、亀頭で子宮口を貫き、
その中にまで進入させてから熱い精を解き放つ。
カミューラの子宮内に注がれる十代の精子は、胎内を満たしても尚出続け、膣内に溢れて愛液と混ざりながら、
根元まで入っていることでしっかり重なっている二人の股間の間、カミューラの膣の僅かな隙間から、外に溢れ出したところで止まった。


「はあッ はぁッ はぁッ 十代……」


荒い呼吸を繰り返しながら、カミューラは力の入らない腕を差し出して十代を求める。
十代は繋がったままカミューラの背中に腕を回して彼女と抱き合い、開いた唇に自分の唇を重ねて舌を絡め合った。


「んふ……っ、ちゅむ……っ、んんっ……」


熱いキスを終えても十代とカミューラは身体を一つに繋げたまま、ただお互いに見つめ合っていた。





翌日、昨晩カミューラとデュエルした不気味男が森で気絶しているのが発見されて、ちょっとした騒ぎになった。
気が付いた男は「幽霊にデュエルを挑まれた!」と何度も言い続けたそうで、
十代はそれを耳にしたカミューラに一日中引っ付かれることになるのだった。


「私は怖くなんかなくてよ! ただアナタとこうしていたいだけですわ!」

「わかってるって、」

(やっぱ苦手な物ってそう簡単には無くならないよな〜。ま、可愛いから良いけどさ)


自分の膝の上に座っているカミューラの髪を優しく撫でながら、十代はそんなことを考えていた……

このページへのコメント

カミューラとの結婚話が見てみたいです最後に子供とかできて

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Posted by 名無し 2012年08月03日(金) 19:49:18 返信

骨塚VSカミューラ
アンデッド使い同士だから二次で有りそうだけど無かった対決ですね。始めてみましたよw

カミューラ萌!奥様は吸血鬼!

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Posted by 二十代 2012年01月11日(水) 16:34:30 返信

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