「ひゃっ、100万DP!?」

「しーっ、静かに…」

俺は辺りを見回した。
店内には客が疎らに居たが、幸い誰もこちらを見ていなかった。
俺は再び視線を戻すと、食い入る様にそのタマゴ型の装置を見つめた。

「本当…なのか?」

「ああ、保証する…だからこの値段でしか売らない」

話を聞いているうち、最初は冗談だと思っていた店長の言葉が妙に真実味を帯びてくる。
この装置にそんなことが出来るとは到底思えないが、100万DPと言われると確かに…

俺は息を飲んだ。
この話が本当なら…

<30日後>

俺は部屋に着くなり、バッグの中から装置を取り出し、丁寧に机の上に置いた。
そしてドアに鍵をかけ、まだ昼間だというのにカーテンを閉めきった。
そうして薄暗くなった部屋の中で大きく深呼吸をすると、手をこすりこすりその装置を開封した。
俺は鼓動が高まるのを感じていた。
例えるなら小学生の時、雨でグシャグシャになった道端のエロ本をめくる時のような感覚。
緊張感とやってはいけないことをしている感が混ざり合って、俺の指先を震わせる。
「よしっ、開いたぞ…」

本体を取り出した頃にはうっすらと額に汗が吹き出していた。
それ程の緊張が俺を襲っていたのだ。
なおビクつく指で真ん中のボタンを押すと、そのタマゴがぱかっと開き、カードをセットするであろうケースが飛び出した。
その瞬間、走馬灯のように約一ヶ月間の思い出が溢れ出した。

「召喚の卵(サモン・エッグ)?」

「ああ、どうやらカードを具現化出来るらしい」

「へー、変わった商品があるんだな…」

あの時笑っていた自分が懐かしい。
店長と話しているうち、それはガラクタから神器へと変貌を遂げた。
そして、確信したその瞬間からデュエル地獄の日々が始まったのだ。

雨の日も風の日もデュエル、デュエル、デュエル。
初めから少なかった友達はかなり減った。
街の子供たちも俺を見るなり逃げ出すようになった。
みんなに嫌われた。

そう、全てを犠牲にした。
それが今、報われようとしている。
「ふぅ…じゃあちょっと試してみるか」

自分を落ち着かせようと冷静を装うが効果はなかった。
俺は緊張のあまり、肝心のカードを用意していなかったことに気付く。
今から部屋の中を掻き回す気にはなれず、机の中から自らのデッキを取り出した。
それを素早く流し見、その中から異次元の女戦士を取り出した。
彼女以外女の子がいなかった。
俺はカードの中の彼女を見つめた。
鋭い眼光がちょっと怖い。
だが、後戻りは出来ない。
もう決めたのだから。

(カードを具現化出来る装置と高校生…やることは一つだあっ!)

俺はカードをタマゴにセットすると、渾身の声で叫んだ。

「いでよ、異次元の女戦士!」

刹那、部屋が白煙に包まれる。
期待と期待と期待の中、ゆっくりと目を開く。

そして…

遂にこの時が来た。
「ふん、貴様がマスターか」

「マジで…」

開いた口が塞がらない、とはまさにこのことだった。
凜とした姿、金色の長髪、灰色の防具から覗かせる真っ白い肌、こちらを見つめる蒼い瞳。
そこにいたのは紛れも無く「彼女」だった。
呼び出したのは自分なのに、俺は驚きを隠せなかった。
モニターとは違う、生身の彼女。
本当に呼び出せてしまった。

「望みは何だ?…まあ聞くまでもないか」

「えっ?あっ、あの…うわっ」

彼女は何事もなかったようにすらすらと話す。
そしてテンパっている俺の腕を掴むと、そのまま自分の方へ引っ張った。
俺はなすがままに引き寄せられ、彼女の顔が近付く。
ふわり、といい匂いがした。

「貴様のくだらない考えはよくわかった…」

ぐい、と抱き寄せられる。
そして押し当てられる柔らかい唇の感触。
そこで理性が飛んだ、というか吹っ切れた。
<数分後>

「もう終わりか?まあいい…帰るぞ」

彼女はそう言うと光の粉となってカードに吸い込まれていった。
俺はベッドの上に座ったまま、その光景をぼんやり眺めていた。

「あっ…もう…」

もう一度彼女を抱きしめたかった。
ベッドには温もりがまだ残っていた。
なのに彼女がそこいないことが俺をより切なくさせた。
耐え切れず、抱きまくらをぎゅっと抱きしめる。
何が胸にぽっかり穴が開いたようだった。
そして、俺がそのまま眠りにつこうとした

その時…

「ふふ、冗談だ」

「えっ…?」

「そうすぐには帰らないさ…今日は一緒に寝てやる」

「///」

「こら…そんなにくっつくな…」










「って感じになるといいなぁ〜♪」

シャワーを浴びた後、俺はタマゴを眺めながらそう呟いた。

そして

「いでよ、ブラックマジシャンガール!」

「えっ!?私?…って、きゃあっ!ま、マスター!?服を…」

「あっ…」

こうして俺の楽園生活は始まった。

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