最終更新:ID:hvCH9QvzDg 2009年10月23日(金) 11:53:25履歴
予告しました、遊星・アキのSSを投下します。
以下、注意点
・オリキャラ登場
・設定や解釈がかなり強引
・非エロ
では、投下します。
遊星の悪夢
地縛神コカパクアプの攻撃に敗北させられそうになり、負傷した遊星。
そして、赤き竜の痣を通して遊星が戦っていることを知ったアキ。
今回の物語は遊星が敗北後、意識を取り戻すまでに遊星とアキが夢の中で体験した出来事である。
遊星、アキ、それぞれの視点で2人が体験した出来事を見ていくことにしよう。
鬼柳に敗れた遊星。
彼は怪我をしていたため危険な状態であったが、懸命な治療の末、一命を取り留めたのである。
闇のような空間、遊星は一人佇んでいた。
「ここは…?」
周りを見渡しても闇だけがあった。
「いったいここはどこなんだっ!?」
遊星は今までに感じたことのない不安を覚えていた。
「…?」
ふと遊星は自分のデッキを取り出す。
「そうだ…、俺は…、鬼柳に…負けたんだ…」
地縛神の攻撃に成す術もなく敗れた…、もとい、敗れそうになった遊星。
だが、結果的には敗北したことに変わりはなかった。
敗北したことで遊星の心は折れてはいなかった。
デッキの向きは裏側であったたので、カードの確認を使用とデッキを裏返す。
「!?」
その時、遊星は自分の目を疑った。
「どういうことだ!?なぜ、カードが白紙なんだ!?」
なんと遊星のカードの表側は全て白紙になっていたのだ。
「うそだっ!!」
何かの間違いだと思いながら、1枚1枚確認するが、エクストラデッキも含めた全てのカードが真っ白になっていたのだ。
「…」
状況を理解した遊星の手からカードが散らばっていく。
「そんな…」
力なく両膝をつく状態になる。
「くぅ…、うぁぁ…」
いつの間にか遊星は涙を流していた。
彼をここまで追い詰めたのはカードが白紙になっただけではなかった。
敗北による地縛神への恐怖、得たいの知れない闇の空間に仲間がいないことによる孤独と不安があった。
つまり、遊星の信じてきた仲間やカードの絆が脆くも崩れ去ったのであった。
どのくらいの時間が経ったであろうか。
声を殺して泣いていた遊星に声が聞こえる。
「仲間との絆など…、お前には最初からなかったんだ…」
その声に気づいた遊星は立ち上がり、涙を拭い辺りを見渡す。
「誰か…いるのか…?」
すると、どこからともなく足音が聞こえてくる。
しかし、闇の空間にいるためなのか、音が反響してどこからしているのか判断できなかった。
辺りを見回していると、黒い影のような物が近づいてくる。
「誰だ?」
遊星が影に向かって質問すると、
「それは、お前が一番よくわかっているだろう…」
「なに!?」
遊星はその影をよく見た。
するとだんだん影はなくなり、その者の姿がはっきりと遊星の目に飛び込んできた。
「っ!?」
再び自分の目を疑った。遊星の目の前に立っている人物。
遊星と同じ容姿、同じ格好。
瓜二つなどというレベルではなく、まるでそのままコピーしたかのように。
その姿は紛れもなく遊星そのものであった。
「ばかな…、おれが…、もうひとり…、いる…だと…?」
遊星は言い知れぬ恐怖を感じていた。
「そうだ…。俺はもう一人のお前だ…」
「もう一人の俺…」
この状況に遊星は完全に混乱していた。しかし、もう一人の遊星は言葉を続ける。
「お前は地縛神の攻撃を受ける際、鬼柳、地縛神に負けたのは、"俺ではない!"。そう強く自分に言い聞かせていた。」
もう一人の遊星の言葉に遊星の頭に激痛が走る。
「うああああああああああっっ!!」
あまりの激痛に今まで出したことのない声で絶叫する遊星。
しかし、もう一人の遊星は絶叫にも臆せず続ける。
「鬼柳を死に追いやったことへの罪悪感、地縛神への恐怖、そういった心の闇がもう一人の俺を作りだしたんだ…」
「オレハッ!!オレハッ!!」
遊星は発狂したかのようにおかしくなっていた。
そんな遊星をもう一人の遊星はやさしく抱き込む。
「もういいんだ…。もう苦しまなくていい…。」
「あ…ああ…」
「確かに鬼柳には勝てなかったかもしれない…。だが、俺…、いや…、心の闇を受け入れるんだ…」
「…う…ぁ…」
もう一人の遊星は遊星の中に少しずつ入っていく。
いや、同化していくという表現が正しいのかもしれない。
「そうすれば、お前はもっと強くなれる…。仲間やカードの絆など無くても…、強くなれる…」
「つよ…く…?」
「そうだ…。最初から無ければ、失う物など何もないからな…」
もう一人の遊星の言葉に遊星は目を閉じる。
その顔は穏やかな表情であった。
「元々お前は一人で戦えるんだ…。仲間との絆が無くてもな…。その方がお前は強い…」
もう一人の遊星は遊星の中に完全に入っていく。
「おれは…、さいしょから…、ひとり…」
遊星はそう呟きながら、今までの事を思い出していた。
仲間との楽しい日々、数多くのデュエリストとの戦いの記憶を。
「ふふ…。あはははははっ!」
途端に遊星は笑い始める。
だが、その笑い方は今までしてきた笑い方とはまったく異なるものであった。
「仲間との絆、カードの絆、そんな物があったから、俺は鬼柳に勝てなかったんだ!!」
遊星は何かを悟ったかのように言葉を発する。
「敵を倒すためにはカードを信じるんじゃない…、そのための力を得なければならないんだ!!」
遊星は右腕を高く上げる。なんと、赤き竜の痣は黒く変色していた。
「そうだ!もっとだ!赤き竜の力に心の闇の力を!!」
遊星が負の感情を抱く度に痣はだんだんと濃い色の黒に変色していく。
「仲間など必要ないっ!!俺の前に現れる者は全て敵だっ!!」
遊星は悪者のような笑みを浮かべる。
力が湧き上がってくる感覚に酔いしれていた時、
「ゆう…せい…」
不意に遊星の名前を呼ぶ女性の声がしたため、声のした方向に振り返る。
そこには驚きの表情を浮かべた寝巻き姿の十六夜アキがいた。
「十六夜…」
「遊星…」
アキはそれ以上言葉を続けれなかった。
「どうした、十六夜…。」
「…」
アキは複雑な表情をしながら顔を少し横にする。
「人の心の中に入ってくるのを嫌っているお前が、人の心の中に入ってくるとはな…」
「そんなつもりじゃ…」
「十六夜…。俺は心の闇を受け入れてわかったよ。お前がどれだけ過酷な運命を受け入れてきたのかをな。」
遊星はアキに近づく。しかし、アキは身の危険を感じたのか、後退して距離をとる。
「十六夜…。俺の物になれ。お前の満たされなかった物を俺が満たしてやる…」
素早くアキに抱きつく遊星。
「嫌っ!!離してっ!!」
突然抱きつかれたため、激しく抵抗するアキ。
「仲間との絆は必要ない。だが、愛する者は必要だ。」
「…」
その言葉にアキの顔は少し赤らむ。しかし、
「お前は…、遊星じゃない…」
「何を言っているんだ?俺は正真正銘の不動遊星だ。」
「うそ…。遊星が…そんなことを考えているハズがないわ!!」
その瞬間、渾身の力で遊星を押しのける。
「十六夜!?」
突然のアキの拒絶に遊星は驚く。
「遊星は言ったわ、"考えろ、お前自身が。答えを得るには自分で考えなければいけない。"」
「十六夜…」
「"お前がお前を愛するんだ。"」
遊星の動きが少しずつ止まっていく。
「そして、"何度でも受け止めてやる!全部吐き出せ!お前の悲しみを!"って…」
すると、アキは自分の右腕を左手で掴む。
「それから私の腕の痛みは薄らいでいった…。あの時…、私は…」
「う…、あ…」
「あの時…、私は助けて欲しいって…、心の中で本当に思った…。ディヴァインではなく…、遊星に…」
「いざよい…」
アキの目に涙が浮かび上がっていた。
「だから…、本当に遊星なら、ここまで痣が痛むことはない…」
「い…ざ…」
「目を覚まして!私が知っている遊星はこんなことで全てを諦めるようなことはしないはずよ!」
「イ…」
アキの訴えのためか、再び遊星が少しずつおかしくなっていく。
そして、遊星の頭に激痛が襲う。
「うわああああああああああ!!」
「遊星っ!!」
その瞬間、遊星は完全に意識を失った。
意識を失った刹那、遊星にはある光景が見えた。
それは遊星の痣を持った男とアキの痣を持った女が、恋人同士のように大木の下で寄り添って座っていた光景を。
その光景から再び闇の空間へとやってきた遊星。
すると、遊星を呼ぶ小さな声が聞こえてくる。
「まただ…、誰かが、俺を呼んでいる…」
声のする方向に遊星が進んで行く。
すると、強力な光が遊星を包み込む。
「遊星っ!!遊星っ!!」
アキの呼び声に目を開けると、目の前にはアキの顔があった。
「いざよい…?」
「遊星…、よかった…。」
アキの表情は魔女と言われていたときの苦しみや憎しみに満ちた物ではなく、本当の十六夜アキとしてのやさしい顔をしていた。
遊星は自分の状況を確認したところ、アキに膝枕をされている状態であることを知った。
遊星とアキの目が合い、2人は間近に見つめ合う状態になっていた。
「だいじょうぶ…?」
少しおどおどした様子で容態を聞くアキに、遊星も緊張した様子で答える。
「大丈夫だ…」
再び見つめ合ったままの沈黙になってしまう。
そして、1分程経過してから、遊星とアキは立ち上がる。
「十六夜、どうしてここに?」
「わからないわ…。寝ているときに遊星が戦っているということを痣を通して感じたの…。」
「痣が…」
遊星は自分の右腕の痣を見ると、黒く変色していた色が元の赤色に戻っていた。
さらに遊星はアキの姿を見て不思議に思った。気を失う前と比べて、寝巻きが汚れていたのだった。
まるで、誰かとデュエルをしたかのように。
「十六夜…」
「何?」
「俺が気を失っている間に何かあったのか?」
遊星の質問にアキは表情を変えずに答える。
「何もなかったわ…。ただ…、いつもの遊星が戻って来てくれただけで安心してるの…」
「十六夜…」
遊星はアキを抱きしめたい衝動に駆られるが、その場から動かず手を強く握りしめていた。
一時とはいえ、おかしくなってしまった自分にその資格はないと自らを制止したのだ。
「これは全部…、夢…よね…?」
「ああ…。夢と思いたいな…」
(本当は…夢だと思いたくない…)
すると、アキは少し悲しそうな表情になり、
「これからはもう会うことはできないわね…」
「それでも…、俺たちはシグナーだ。会えなくても、この痣で心は繋がっている。だから…」
「遊星らしい考え方ね…」
そして、十六夜は光に包まれ、遊星の目の前からゆっくりと消えていく。
「十六夜っ!!」
遊星はアキを掴もうと手を伸ばすが、届く寸前にアキは完全に消えてしまう。
「十六夜…」
だが、同時に闇の空間全体に光が降り注ぐ。遊星はあまりの眩しさに目を閉じる。
そして、遊星はベッドの上で目覚めたのであった。
遊星はこの夢の出来事を覚えてはいなかった。
だが、この夢がなければ、地縛神への恐怖が残ったままで、"今の俺では鬼柳に勝てない"という思いにまでは至らなかっただろう。
いずれにしても、遊星の仲間との絆を信じる気持ちが絶望の底にあった遊星を救う結果となったのは確かである。
アキは自室で眠りに入ろうとしていた。
(遊星…)
ついいましがた、眠りにつく直前、右腕の痣が疼いたのだ。
痣は遊星が誰かと戦っているということを訴えていた。
(遊星のことが頭から離れない…。どうして…?)
アキの心境をここまで変化させたのは、やはり、デュエル・オブ・フォーチュンカップでの遊星との一戦に間違いない。
あの一戦以来、ディヴァインに依存しながらも、遊星の言葉に何かを感じていたのは確かである。
(共有する痛み…)
アキは自分の痣を見て、遊星とのデュエルを思い出していた。
(こんなきもちは…、はじめて…)
それから程なくして、アキは深い眠りに入っていった。
深い眠りに入ったアキは目を覚ます。
「?」
目を覚ましたアキの眼前には闇の空間が広がっていた。
「ここはどこ?」
アキは訳も分からずただ立ち尽くしていた。
しかし、すぐに背後に誰かが現れたことを感じ取る。
「誰っ!?」
振り返るとそこにはブラックローズドラゴンがいた。
「ブラックローズドラゴン!?」
同時にブラックローズドラゴンは雄叫びを上げる。
アキにはブラックローズドラゴンが何かを言おうとしていると感じた。
すると、ブラックローズドラゴンは触手の一本を水平に伸ばして闇の空間の一点を指した。
「そこに何かがあるの?」
アキの問いにブラックローズドラゴンは首を縦に振る。
「わかったわ…。」
アキとブラックローズドラゴンは闇の空間の奥へと進んでいく。
(何なのこの感覚…)
闇の空間を進んでいくにつれて、アキは何かを感じ始めていた。それは懐かしい感覚であった。
すると闇の空間が一転して、花畑がある空間に変化する。
「どうなってるのっ!?」
アキは周りの環境の変化に戸惑いを感じていた。
すると、ブラックローズドラゴンは再び触手の一本を水平に伸ばして空間の一点を指した。
「えっ…!?」
ブラックローズドラゴンが示した先にアキは言葉を失う。
自分と同じ痣を持った女と遊星の痣を持った男とが、恋人同士のように大木の下で寄り添って座っていた光景が目に入る。
その光景に一瞬、我を忘れそうになる。しかし、すぐに冷静さを取り戻す。
そして、アキは自分の腕の痣と女の腕の痣とを見比べる。
遠目ではあったが、女の腕の痣は間違いなく自分の腕の痣と同じ紋様であった。
「なんなの…、いったい…」
だが、疑問は確信へと変わっていった。懐かしい感覚の正体はあの2人の姿なのではないのかと。
(私と遊星が…)
そう思った瞬間、周りは再び闇の空間に変化する。
「もう…なんなのよ…」
ぼやきながらも、再び闇の空間を歩きはじめる。
そのとき、ブラックローズドラゴンは再びけたたましいまでの雄叫びを上げる。
「どうかしたの!?」
ブラックローズドラゴンはアキの問いかけを無視して先に進んでしまう。
「一体どうしたのよ!」
アキはブラックローズドラゴンの後をついていく。
すると、アキとブラックローズドラゴンの前にスターダストドラゴンが姿を現す。
「スターダストドラゴン!?」
スターダストドラゴンの出現に驚くアキ。
しかし、スターダストドラゴンの様子がおかしかった。
よく見ると、黒い鎖のような物で全身が完全に拘束されていたのである。
「どういうこと?」
スターダストドラゴンは弱弱しく悲痛な叫びをあげる。
ブラックローズドラゴンはスターダストドラゴンの言葉を理解したのか、触手で拘束を壊そうとする。
「スターダストドラゴンを助けようとしているの?」
すると、ブラックローズドラゴンはアキの方に向き直り、触手の一本を水平に伸ばして空間の一点を指した。
さらにその方向を指したまま、触手を伸ばしたり縮めたりする。
「あの方向に行けというの?」
その問いかけにブラックローズドラゴンは首を縦に振る。
そして、ブラックローズドラゴンは再びスターダストドドラゴンの拘束を壊そうと奮闘する。
「わかったわ。」
アキは一人、ブラックローズドラゴンが示した先に進む。
どのくらい歩いたかわからないくらいに歩いたという考えが出始めたとき、痣が疼き始める。
「この感じ…。遊星?」
遊星が近くにいる。痣はそう訴えていた。
すると、闇の空間がアキを包み込む。
「えっ!?なに!?いやっ!!たすけてっ!!」
アキは闇の空間の中で気を失っていた。
『何度でも受け止めてやるっ!!』
(ゆうせい…)
遊星の声に目を覚ますアキ。
すると、どこからともなく奇声が聞こえてくる。
「ふふ…。あはははははっ!」
声のする方向に目をやると、そこには遊星の後ろ姿が目に入る。
(遊星?)
後ろ姿だけしか見えなかったが確かに遊星であった。
「仲間との絆、カードの絆、そんな物があったから、俺は鬼柳に勝てなかったんだ!!」
遊星は何かを悟ったかのように言葉を発する。
(きりゅう?誰?負けたってこと…、遊星が…)
「敵を倒すためにはカードを信じるんじゃない…、そのための力を得なければならないんだ!!」
遊星は右腕を高く上げる。なんと、赤き竜の痣は黒く変色していた。
(痣が黒くなってる!?)
「そうだ!もっとだ!赤き竜の力に心の闇の力を!!」
遊星が負の感情を抱く度に痣はだんだんと濃い色の黒に変色していく。
「仲間など必要ないっ!!俺の前に現れる者は全て敵だっ!!」
遊星は悪者のような笑みを浮かべる。
(うそよ…、あんなの…、遊星じゃない…。私をたすけようとした…遊星じゃない…)
遊星は力が湧き上がってくる感覚に酔いしれていた時、思わずアキは声をだしてしまう。
「ゆう…せい…」
不意に名前を呼ばれた遊星はアキの方に向き直る。
その時の遊星は魔女の力に酔いしれていた自分と同じような表情をしていた。
「十六夜…」
「遊星…」
アキはそれ以上言葉を続けれなかった。
「どうした、十六夜…。」
「…」
アキは複雑な表情をしながら顔を少し横にする。
「人の心の中に入ってくるのを嫌っているお前が、人の心の中に入ってくるとはな…」
「そんなつもりじゃ…」
事実であるためか、反論しようとしても言葉がでなかった。
「十六夜…。俺は心の闇を受け入れてわかったよ。お前がどれだけ過酷な運命を受け入れてきたのかをな。」
遊星はアキに近づく。
(何なの、これが遊星なの…)
アキは身の危険を感じたのか、後退して距離をとる。しかし、徐々に距離は詰められる。
「十六夜…。俺の物になれ。お前の満たされなかった物を俺が満たしてやる…」
(私の満たされなかったもの…)
一瞬の迷いを見逃さなかった遊星は素早くアキに抱きつく。
「嫌っ!!離してっ!!」
突然抱きつかれたため、激しく抵抗するアキ。
「仲間との絆は必要ない。だが、愛する者は必要だ。」
「…」
(愛する者…)
その言葉にアキの顔は少し赤らむが、
(遊星が私を愛してる…?喜んでいいの…。いいえ、違うわ…)
「お前は…、遊星じゃない…」
「何を言っているんだ?俺は正真正銘の不動遊星だ。」
「うそ…。遊星が…そんなことを考えているハズがないわ!!」
その瞬間、アキは渾身の力で遊星を押しのける。
「十六夜!?」
突然のアキの拒絶に遊星は驚く。遊星を跳ね除けたアキは胸、呼吸が少し苦しくなっているのを感じた。
「遊星は言ったわ、"考えろ、お前自身が。答えを得るには自分で考えなければいけない。"」
アキは遊星とデュエルした際に遊星からの想いを思い出して言葉にする。
「十六夜…」
「"お前がお前を愛するんだ。"」
遊星の動きが少しずつ止まっていく。
「そして、"何度でも受け止めてやる!全部吐き出せ!お前の悲しみを!"って…」
すると、アキは自分の右腕を左手で掴む。
「それから私の腕の痛みは薄らいでいった…。あの時…、私は…」
「う…、あ…」
遊星は少しずつ動きが遅くなっていく。
「あの時…、私は助けて欲しいって…、心の中で本当に思った…。ディヴァインではなく…、遊星に…」
「いざよい…」
アキは自分でも気づかないうちに涙を浮かべていた。
「だから…、本当に遊星なら、ここまで痣が痛むことはない…」
「い…ざ…」
「目を覚まして!私が知っている遊星はこんなことで全てを諦めるようなことはしないはずよ!」
「イ…」
アキの訴えのためか、再び遊星が少しずつおかしくなっていく。
そして、遊星は頭に激痛を感じたのか、自分の頭を両手で押さえる。
「うわああああああああああ!!」
「遊星っ!!」
遊星の絶叫は闇の空間全体を振動させた。
「なっ!何!?」
闇の空間の振動は収まった。しかし、痣が強烈な痛みを伴う。
「痛い…!」
その痛みは今まで経験したことのない痛みだった。
「いたいだろう…。おれがうけたいたみだ…」
「!?」
その言葉にアキは遊星を見る。
「ゆうせい?」
遊星は何事もなかったかのように立っていた。
「遊星?」
アキは遊星が元に戻ったと思った。しかし、痣の痛みはまったく消えなかった。
「お前は誰!?遊星じゃないわね?」
「おれは…遊星が心の闇から作りだしたもう一人の遊星…」
「もう一人の遊星…」
意味不明な内容であったが、アキは理解することができた。
それはかつての自分と同じだったからでもある。
「本当の遊星はどこにいるの?」
「肉体はもう一人の俺だが、今は俺が支配している。」
「そんなこと…」
「本当だ…。俺は俺自身を救いだし、強くならなければならない…。だから、俺はもう一人の俺と融合した。だが…」
遊星の表情に迷いはなかった。
「十六夜…。お前が俺の中に入ってきてしまった。だから、融合は不完全な状態だ…」
「わたしが…」
「そうだ…。お前が救いを求めているように、もう一人の俺も心のどこかで救いを求めていたんだ…」
完全無欠のイメージがあった遊星にも、自分と同じように救いを求めていたことに驚くアキ。
「だからこそ、お前にはここから出て行って欲しい…」
「えっ?」
「心の闇から生まれた俺でも、お前を傷つけることはしたくない…。だから…」
「遊星…」
遊星の想いにアキの気持ちがぐらついたとき、スターダストドラゴンとブラックローズドラゴンが出現する。
「スターダスト…」
「ブラックローズドラゴン、スターダストドラゴン」
2体のドラゴンは遊星に対して、訴えるかのように吼えていた。
「遊星、心の闇に負けちゃだめ…。そんなのあなたらしくないわ…」
「なにぃ!?」
一瞬、遊星の顔が歪む。
「あなたは仲間やカードの絆を信じて戦ってきたじゃない…」
「…」
「そんなあなたが…、こうも変わってしまうの…、わたしは…、つらい…」
アキの言葉に遊星は目を瞑る。
「ならば…」
その言葉と同時に遊星は目を開ける。すると、遊星の左腕にデュエルディスクが出現する。
そして、デュエルディスクを前に出し、デュエルのスタンバイが完了したことを示す。
「その絆をお前が証明してみせろ!」
「えっ!?」
すると、アキの左腕にもデュエルディスクが出現する。
しかし、そのデュエルディスクはいつもしている赤いディスクではなく、遊星が使用しているディスクと同じ物だった。
「これは!?」
「もう一人の俺のデッキがセットされている。スターダスト、俺を取り戻したければ、十六夜と共に戦え!」
その言葉に呼応するかのようにスターダストドラゴンはカードに変化して、アキのディスクのエクストラデッキに入る。
「ブラックローズドラゴンは退場してもらおう。」
「ブラックローズドラゴン、ここは私に任せて先に戻って。」
ブラックローズドラゴンは首を縦に動かし、闇の空間の彼方に向かい移動を開始した。
全ての準備は整い、闇の空間はデュエルの独特の雰囲気につつまれる。
「一言、言っておく。ここは俺の心の中だ。十六夜、お前が負ければ、二度とお前はここから出ることはできない。」
「どういうこと?」
「魂の死ということだ。夢の中とはいえ、それは現実の死と同じだ。永遠に目覚めることのない…」
脅しとも警告とも言える内容だった、逃げるなら今の内ともとれた。
しかし、アキはディスクを前に出す。
「私がここに来たのは、遊星…、あなたを救うため。逃げる訳にはいかないわ!」
アキの言葉に、
「後悔するなよ…」
「お互い様ね」
「デュエル!!」遊星 LP 4000
「デュエル!!」アキ LP 4000
2人はデッキから5枚のカードを引く。
「十六夜、先攻はお前だ。」
「私のターン、ドロー。」
(遊星のデッキはシンクロ召喚を主軸とした戦術。私のデッキの戦術とは異なる。でも…)
「ロードランナーを守備表示で召喚。さらに、リバースカードを1枚伏せて、ターンエンド。」
「ふふ…」
遊星はアキの様子を見て思わず笑みを浮かべてしまう。
「何が可笑しいの?」
「いや…うれしいんだ…」
「うれしい?」
遊星の意外な発言に戸惑うアキ。
「こうして、お前とデュエルができるのがな。」
「遊星…。私も本当はこんな形であなたとデュエルをしたくはなかった…」
「それは俺も同じだ…」
アキはその言葉が遊星の本音に聞こえてしょうがなかった。
「俺のターン、ドロー!」
遊星は手札を一旦確認する。
「ブーメラン・ウォリアーを召喚。」
ブーメランウォリアー ATK 1000
「バトル!ブーメラン・ウォリアーでロードランナーを攻撃!」
ブーメラン・ウォリアーの攻撃でロードランナーは撃破される。
「この瞬間、ブーメラン・ウォリアーのモンスター効果発動。」
「えっ!」
「バトルによって相手モンスターを破壊した時、フィールド上の魔法・罠カードを一枚破壊する。リバースカードを破壊。」
アキのリバースカードは破壊されるが、
「リミッター・ブレイクの効果により、デッキからスピード・ウォリアーを守備表示で特殊召喚する。」
「フ…、俺はカードを1枚セットして、ターンエンドだ。」
「私のターン、ドロー。」
アキが引いたカードはジャンク・シンクロン。
「ジャンク・シンクロンを召喚。」
「さらにジャンク・シンクロンの効果で、ロードランナーを墓地から守備表示で特殊召喚。」
「そして、スピード・ウォリアーをジャンク・シンクロンでチューニング。シンクロ召喚!ジャンク・ウォリアー!」
「…」
遊星はアキの行動をよく見ていた。
「ジャンク・ウォリアーの効果により、レベル2以下のモンスターの攻撃力の合計分、攻撃力がアップ。」
ジャンク・ウォリアー ATK 2300+300=2600
「バトル、ジャンク・ウォリアーでブーメラン・ウォリアーを攻撃!」
ジャンク・ウォリアーはブーメラン・ウォリアーを攻撃しようとした瞬間、
「リバースカードオープン!ホーリージャベリン!」
「ホーリージャベリン!?」
「このカード効果により、俺は相手攻撃モンスター1体の攻撃力分のライフを回復する。」
遊星 LP 4000+2600=6600
「それでも、バトルは適応されるわ。」
ジャンクウォリアーはブーメランウォリアーを撃破する。
「これくらいなら問題はない。」
遊星 LP 6600−1600=5000
「私はカードを1枚伏せてターンエンドよ。」
「俺のターン!ドロー!」
遊星はドローしたカードを見て笑みを浮かべる。
「手札より魔法カード、マジシャンズマントを発動!」
「マジシャンズマント?」
「自分の場にモンスターが存在しない時に発動できる。手札よりレベル2以下の闇属性モンスター1体を特殊召喚する。」
遊星は手札からカードを1枚取る。
「マーダーサーカス・ゾンビを特殊召喚!」
マーダーサーカス・ゾンビ ATK 1350
「さらに、ジャンク・シンクロン召喚!」
「ジャンク・シンクロンのモンスター効果でブーメラン・ウォリアーを守備表示で特殊召喚。」
ブーメラン・ウォリアー DEF 0
「そして、ブーメラン・ウォリアーをジャンク・シンクロンでチューニング!シンクロ召喚!ジャンク・ウォリアー!」
「さらにジャンク・ウォリアーの効果により、レベル2以下のモンスターの攻撃力の合計分、攻撃力がアップ。」
「攻撃力3650!?」
「そうだ…、これが心の闇の力だ…赤き竜の力を凌駕する程の力さ!」
遊星の表情は再び歪む。
「ジャンク・ウォリアーで十六夜のジャンク・ウォリアーを攻撃!」
遊星のジャンク・ウォリアーがアキのジャンク・ウォリアーを撃破した瞬間、
「手札を1枚捨てて、カードディフェンスを発動!プレイヤーへのダメージを1度だけ0にして、さらにカードを1枚ドロー。」
「まだ、俺の攻撃は終わっていない。マーダーサーカス・ゾンビでロードランナーを攻撃!」
マーダーサーカス・ゾンビの攻撃でロードランナーは撃破される。
「ダメージは与えられなかったが、まあいいさ。俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ。」
「私のターン、ドロー!」
アキはドローしたカードを確認する。
「手札を1枚捨てて、カード・フリッパーを発動。相手フィールド上の全てのモンスターの表示形式を変更。」
遊星のジャンク・ウォリアーとマーダーサーカス・ゾンビは守備表示に変更される。
「そして、戦士の生還を発動。墓地から戦士族モンスターのジャンク・シンクロンを手札に戻して、召喚。」
「ジャンク・シンクロンの効果でニトロ・シンクロンを守備表示で特殊召喚。」
「そして、チューナーモンスターが場に存在することにより、墓地からボルト・ヘッジホッグを特殊召喚。」
「ボルト・ヘッジホッグをジャンク・シンクロンでチューニング。ジャンク・ウォリアーをシンクロ召喚。」
「そして、ジャンク・ウォリアーをニトロ・シンクロンでチューニング。シンクロ召喚!ニトロ・ウォリアー。」
「ニトロ・シンクロンの効果でカードを1枚ドロー。」
すると、今度はアキが笑みを浮かべる。
「何を引いたんだ…」
「これよ!ジャンク・アタックをニトロ・ウォリアーに装備!」
「まさか…」
「ニトロ・ウォリアーでジャンク・ウォリアーに攻撃!」
ニトロ・ウォリアーはジャンク・ウォリアーを撃破する。
「ジャンク・アタックの効果発動!破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える!」
「ぐわーーーーー!!」
遊星 LP 5000−1825=3175
「そして、ニトロ・ウォリアーの効果でマーダーサーカス・ゾンビを攻撃表示に変更し、バトルを行う。」
ニトロ・ウォリアーは攻撃表示になったマーダーサーカス・ゾンビを撃破する。
「うわーーーーー!!」
遊星 LP 3175−1450=1725
「ジャック・アタックの効果で追加ダメージ!」
「ぐうううううう!!」
遊星 LP 1725−675=1050
闇の空間でのデュエルのため、攻撃で発生する衝撃と惨状にアキは思わず呼びかけてしまう。
爆発による噴煙から、片膝をついている状態で遊星が姿を表す。
「ふふふっ…。あっはっはっはっはっはっ!」
だが、これほどのダメージを受けても遊星は高笑いをしていた。
「遊星…」
「証明されたな…」
そう言って、遊星は立ち上がる。
「十六夜…、いや…、アキ…、お前の心は俺を求めていることがな…」
「えっ…?」
遊星が初めて下の名前で呼んでくれたことに胸の中が痛みだしていた。
(なに…、この感じ…、心臓がすごく…ドキドキしている…?)
「だからこそ、お前は俺のデッキを使いこなすことができるんだ…」
「わたしが…」
完全に同様してしまうアキ。
「ふ…。まだ、お前のターンは終わっていないぞ。」
しかし、遊星の言葉に少し落ち着きを取り戻す。
「そうね…。私はカードを1枚伏せて、ターンエンドよ…」
「俺のターン!ドロー!」
その瞬間、再び遊星の顔が歪むと同時に黒い煙のような物が遊星の周りに出現する。
「リバースカードオープン!ダークリバイバイル発動!ジャンク・ウォリアーを攻撃表示で特殊召喚!」
「生還したジャンクウォリアーの攻撃力が0…、どういうこと?」
「ダークリバイバルで復活した闇属性モンスターは攻撃力が0になる。さらに、ダーク・リゾネーターを召喚!」
アキは身構える。
「ジャンクウォリアーをダーク・リゾネーターでチューニング!」
「レベル8!?スターダスト・ドラゴン!?」
「集いし星が全てを征する力として飛翔する!シンクロ召喚!降臨せよ!ダークダスト・ドラゴン!」
ダークダスト・ドラゴン ATK 3000
「ダークダスト・ドラゴン!?」
スターダスト・ドラゴンを漆黒の色で多い尽くしたかのような恐ろしい姿である。
「ダークダスト・ドラゴンのモンスター効果発動。手札を1枚捨てることにより、相手モンスター1体を破壊する。」
ダークダスト・ドラゴンの力でニトロ・ウォリアーは破壊されてしまう。
「さらに、コストとして墓地へ送った魔法カード、ダークサンプルの効果が発動される。」
すると、アキの場にこの世の物とは思えないグロテスクなモンスターが出現する。
「…!?」
その姿に思わずアキは口を手で覆ってしまう。
「ダークサンプルは墓地に置かれた時に発動する魔法カード。サンプルトークン1体を相手の場に特殊召喚する。」
サンプルトークン ATK 2000
「ただし、サンプルトークンが破壊された時、コントローラーは3000ポイントのダメージを受ける。」
「なんですって!?」
「ダークダスト・ドラゴンでサンプルトークンを攻撃!ソニックダークバスター!!」
ダークダスト・ドラゴンは攻撃の態勢に入る。
「っ!?」
「ようやく!アキを俺の物にできる!」
遊星の強い言葉にアキは自分の想いを思い出す。
「遊星…、私は…あなたを…なんとも思っていない…」
「なにっ!?」
遊星の顔が歪む。
「なぜだっ!!なぜっ!ここまで戦えるっ!?」
「私が本当に想っているのは…、心の闇に支配された遊星よ…」
「なっ…」
「だから…、わたしは…、本当の遊星を取り戻してみせる!」
すると、ダークダスト・ドラゴンが攻撃を仕掛ける。
「もう手遅れだ!!」
「まだよ!リバースカードオープン!速攻魔法、ミラクル・シンクロ発動!」
「ミラクル・シンクロだと!?」
「自分フィールド上または墓地から、シンクロモンスターカードによって決められたモンスターをゲームから除外!」
サンプルトークン、ロード・ランナー、ジャンク・シンクロンがゲームから除外される。
「スターダスト・ドラゴンをシンクロ召喚!この特殊召喚は、シンクロ召喚扱いとする。」
「スターダスト・ドラゴン…。だが、スターダスト・ドラゴンを出したところで!」
ダークダスト・ドラゴンの攻撃でスターダスト・ドラゴンは撃破される。
「う…!!」
アキ LP 4000−500=3500
「さらにダークダスト・ドラゴンのモンスター効果、バトルで破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える!」
アキ LP 3500−2500=1000
「ああああああっ!!」
ダークダスト・ドラゴンのパワーに吹き飛ばされるアキ。
「もう諦めろ…。お前をこれ以上傷つけたくはない…」
アキは痛みに耐えながらもゆっくりと立ち上がる。
「遊星はこんなことで諦めるような人じゃないわ…。だから…、私も諦めない…」
「アキ…」
「私のターン…、ドロー…」
傷つきながらもカードを引くアキ。
「…」
引いたカードを見たアキは表情を引き締める。
「スタンバイフェイズ時に手札より魔法カード発動、ファイナル・スターダスト!」
魔法カード発動と同時にアキの場にスターダスト・ドラゴンが出現する。
「どういうことだ!?スターダスト・ドラゴンが…」
「このカードはスタンバイフェイズ時、墓地に“スターダスト”と名の付くモンスターが存在し、自分の場にカードが存在しない時に発動できる。スターダストと名の付いたモンスターを特殊召喚する。」
「それで、復活したということか…。だが、それでも攻撃力はダークダスト・ドラゴンの方が上だ。」
すると、スターダスト・ドラゴンが輝きだす。
「ファイナル・スターダストにはもう一つの効果があるわ。特殊召喚したスターダストはこのターンのみ相手プレイヤーへの直接攻撃が可能となる。但し、エンドフェイズ時に特殊召喚したスターダストはゲームから除外される。」
「何っ!!」
「遊星、今、目を覚まさしてあげるわ!スターダスト・ドラゴンでダイレクトアタック!響け!シューティング・ソニック!!」
スターダスト・ドラゴンの攻撃が遊星を貫く。
「うわああああああああああ!!」
遊星 LP 1050−2500=0
スターダスト・ドラゴンの攻撃は大きな爆発を引き起こした。
「遊星っ!!」
アキは遊星の元に走りだしていた。
噴煙の中に遊星は倒れていた。
デュエルは終了したため、いつの間にか2人がしていたデュエルディスクは消えていた。
「遊星!!しっかりして!!」
アキは無意識に遊星の上半身を抱き起していた。
「アキ…」
目を開けた遊星だが、痣はまだ本当の遊星ではないということを教えていた。
「仲間とカードの絆か…」
「遊星…」
遊星は笑みを浮かべるが、その笑みは満足したかのような笑みだった。
「お願い…、元の遊星を返して…」
「そうだな…。俺は…、俺のままでいた方がいいのかもしれないな…」
「遊星…」
「でも、忘れないでくれ。俺…、本当の俺が…、お前を好きになっていたことは本当だ…」
「…」
遊星の告白にアキは顔を赤くする。
「けど、本当の俺は鈍感だから、自覚がない…。もっとも…、お前も同じはずだ…」
「わ…、わたし…は…」
遊星は言葉に詰まるアキの口に人差し指を軽く当ててから離す。
「答えは急がなくていい。」
「遊星…」
「お前たち2人はまだその時ではない。いつかお互いが本当の想いを伝える時が来る。」
「本当の想い…」
「ああ。だから、その時はちゃんともう一人の俺に伝えてやってくれ。」
「えっ…、ええ…」
心の闇の遊星の申し出にしっかりとした返事をできなかったアキ。
だが、遊星はそれをやさしい笑顔で見つめていた。
「じゃあな…、アキ…」
「えっ?」
遊星は静かに目をつぶる。
「ちょっ!?遊星!?」
いくらゆすっても遊星は目を開けなかった。
しかも、遊星の体はみるみる冷たくなっていく。
「遊星!いやっ!!一人にしないでっ!!」
何度も呼びかけるが遊星は完全に死人であった。
(どうして…こんなことに…。これじゃ…、何も…変わっていない…)
アキは涙を流していた。
(遊星は私を助けようとしたのに…。私はまた傷つけている…)
遊星の頭を自分の膝の上にのせる。
「遊星…、わたしは、…」
アキは誰にも聞こえない小さな声で遊星にささやく。
その瞬間、遊星が光に包まれる。
「?」
すると、遊星の体温が元に戻っていく。
「!!」
光がなくなった瞬間、
「遊星っ!!遊星っ!!」
アキは遊星の名前を叫ぶ。すると、遊星はゆっくりと目を開ける。
「いざよい…?」
アキの存在に気づいた遊星がゆっくりと呼びかける。
「遊星…、よかった…。」
遊星は一体何があったのかという表情をしていた。
遊星とアキの目が合い、2人は間近に見つめ合う状態になっていた。
「だいじょうぶ…?」
少しおどおどした様子で容態を聞くアキに、遊星も緊張した様子で答える。
「大丈夫だ…」
再び見つめ合ったままの沈黙になってしまう。
そして、1分程経過してから、遊星とアキは立ち上がる。
「十六夜、どうしてここに?」
「わからないわ…。寝ているときに遊星が戦っているということを痣を通して感じたの…。」
「痣が…」
遊星は自分の右腕の痣を見ると、黒く変色していた色が元の赤色に戻っていた。
(よかった…。いつもの遊星に戻ってる。)
だが、アキは遊星の視線に少し疑問を持った。
(どうしたのかな?)
「十六夜…」
「何?」
「俺が気を失っている間に何かあったのか?」
アキは心の中で大きく動揺していた。しかし、遊星の質問に表情を変えずに答える。
「何もなかったわ…。ただ…、いつもの遊星が戻って来てくれただけで安心してるの…」
「十六夜…」
(どうしてかな…。私…こんなにうれしい…)
アキは何もかも忘れて遊星に抱きつきたい衝動に駆られていた。
(でも…、今の私じゃ…、遊星は喜んでくれない…)
気持ちを抑え、その場に立ち尽くしていた。
「これは全部…、夢…よね…?」
「ああ…。夢と思いたいな…」
(夢なの…?いや…、夢と思いたくない…)
すると、アキは少し悲しそうな表情になり、
「これからはもう会うことはできないわね…」
(違う…、私が言いたいことは…こんなことじゃ…)
「それでも…、俺たちはシグナーだ。会えなくても、この痣で心は繋がっている。だから…」
「遊星らしい考え方ね…」
(痣だけの繋がりじゃ嫌…)
すると、アキは光に包まれる。
(うそ…、体が…?いやっ!!遊星!わたし…、まだっ…)
その瞬間、アキは意識を失ってしまう。
陽の光がカーテンの間から部屋に差し込んでいる。
朝になり、アキは目を覚ます。
「…」
アキはしばらく頭が働かなかった。
「わたし…、どんな夢を…?」
しかし、アキは何も覚えていなかった。覚えていたのは、昨夜、痣が疼いていたことだけだった。
おもえば、この日はいつも以上にアキは不安定な状態で訓練をしていた。
その原因がこの物語にあった、ということは言えないが、決して否定もできない。
だが、この日がアキにとって最厄の日になることは夢にも思わなかったであろう。
そして、遊星とアキは再会することになる。近い未来に…
願わくば、遊星とアキに明るい未来を示されることを祈る…
以下、注意点
・オリキャラ登場
・設定や解釈がかなり強引
・非エロ
では、投下します。
遊星の悪夢
地縛神コカパクアプの攻撃に敗北させられそうになり、負傷した遊星。
そして、赤き竜の痣を通して遊星が戦っていることを知ったアキ。
今回の物語は遊星が敗北後、意識を取り戻すまでに遊星とアキが夢の中で体験した出来事である。
遊星、アキ、それぞれの視点で2人が体験した出来事を見ていくことにしよう。
鬼柳に敗れた遊星。
彼は怪我をしていたため危険な状態であったが、懸命な治療の末、一命を取り留めたのである。
闇のような空間、遊星は一人佇んでいた。
「ここは…?」
周りを見渡しても闇だけがあった。
「いったいここはどこなんだっ!?」
遊星は今までに感じたことのない不安を覚えていた。
「…?」
ふと遊星は自分のデッキを取り出す。
「そうだ…、俺は…、鬼柳に…負けたんだ…」
地縛神の攻撃に成す術もなく敗れた…、もとい、敗れそうになった遊星。
だが、結果的には敗北したことに変わりはなかった。
敗北したことで遊星の心は折れてはいなかった。
デッキの向きは裏側であったたので、カードの確認を使用とデッキを裏返す。
「!?」
その時、遊星は自分の目を疑った。
「どういうことだ!?なぜ、カードが白紙なんだ!?」
なんと遊星のカードの表側は全て白紙になっていたのだ。
「うそだっ!!」
何かの間違いだと思いながら、1枚1枚確認するが、エクストラデッキも含めた全てのカードが真っ白になっていたのだ。
「…」
状況を理解した遊星の手からカードが散らばっていく。
「そんな…」
力なく両膝をつく状態になる。
「くぅ…、うぁぁ…」
いつの間にか遊星は涙を流していた。
彼をここまで追い詰めたのはカードが白紙になっただけではなかった。
敗北による地縛神への恐怖、得たいの知れない闇の空間に仲間がいないことによる孤独と不安があった。
つまり、遊星の信じてきた仲間やカードの絆が脆くも崩れ去ったのであった。
どのくらいの時間が経ったであろうか。
声を殺して泣いていた遊星に声が聞こえる。
「仲間との絆など…、お前には最初からなかったんだ…」
その声に気づいた遊星は立ち上がり、涙を拭い辺りを見渡す。
「誰か…いるのか…?」
すると、どこからともなく足音が聞こえてくる。
しかし、闇の空間にいるためなのか、音が反響してどこからしているのか判断できなかった。
辺りを見回していると、黒い影のような物が近づいてくる。
「誰だ?」
遊星が影に向かって質問すると、
「それは、お前が一番よくわかっているだろう…」
「なに!?」
遊星はその影をよく見た。
するとだんだん影はなくなり、その者の姿がはっきりと遊星の目に飛び込んできた。
「っ!?」
再び自分の目を疑った。遊星の目の前に立っている人物。
遊星と同じ容姿、同じ格好。
瓜二つなどというレベルではなく、まるでそのままコピーしたかのように。
その姿は紛れもなく遊星そのものであった。
「ばかな…、おれが…、もうひとり…、いる…だと…?」
遊星は言い知れぬ恐怖を感じていた。
「そうだ…。俺はもう一人のお前だ…」
「もう一人の俺…」
この状況に遊星は完全に混乱していた。しかし、もう一人の遊星は言葉を続ける。
「お前は地縛神の攻撃を受ける際、鬼柳、地縛神に負けたのは、"俺ではない!"。そう強く自分に言い聞かせていた。」
もう一人の遊星の言葉に遊星の頭に激痛が走る。
「うああああああああああっっ!!」
あまりの激痛に今まで出したことのない声で絶叫する遊星。
しかし、もう一人の遊星は絶叫にも臆せず続ける。
「鬼柳を死に追いやったことへの罪悪感、地縛神への恐怖、そういった心の闇がもう一人の俺を作りだしたんだ…」
「オレハッ!!オレハッ!!」
遊星は発狂したかのようにおかしくなっていた。
そんな遊星をもう一人の遊星はやさしく抱き込む。
「もういいんだ…。もう苦しまなくていい…。」
「あ…ああ…」
「確かに鬼柳には勝てなかったかもしれない…。だが、俺…、いや…、心の闇を受け入れるんだ…」
「…う…ぁ…」
もう一人の遊星は遊星の中に少しずつ入っていく。
いや、同化していくという表現が正しいのかもしれない。
「そうすれば、お前はもっと強くなれる…。仲間やカードの絆など無くても…、強くなれる…」
「つよ…く…?」
「そうだ…。最初から無ければ、失う物など何もないからな…」
もう一人の遊星の言葉に遊星は目を閉じる。
その顔は穏やかな表情であった。
「元々お前は一人で戦えるんだ…。仲間との絆が無くてもな…。その方がお前は強い…」
もう一人の遊星は遊星の中に完全に入っていく。
「おれは…、さいしょから…、ひとり…」
遊星はそう呟きながら、今までの事を思い出していた。
仲間との楽しい日々、数多くのデュエリストとの戦いの記憶を。
「ふふ…。あはははははっ!」
途端に遊星は笑い始める。
だが、その笑い方は今までしてきた笑い方とはまったく異なるものであった。
「仲間との絆、カードの絆、そんな物があったから、俺は鬼柳に勝てなかったんだ!!」
遊星は何かを悟ったかのように言葉を発する。
「敵を倒すためにはカードを信じるんじゃない…、そのための力を得なければならないんだ!!」
遊星は右腕を高く上げる。なんと、赤き竜の痣は黒く変色していた。
「そうだ!もっとだ!赤き竜の力に心の闇の力を!!」
遊星が負の感情を抱く度に痣はだんだんと濃い色の黒に変色していく。
「仲間など必要ないっ!!俺の前に現れる者は全て敵だっ!!」
遊星は悪者のような笑みを浮かべる。
力が湧き上がってくる感覚に酔いしれていた時、
「ゆう…せい…」
不意に遊星の名前を呼ぶ女性の声がしたため、声のした方向に振り返る。
そこには驚きの表情を浮かべた寝巻き姿の十六夜アキがいた。
「十六夜…」
「遊星…」
アキはそれ以上言葉を続けれなかった。
「どうした、十六夜…。」
「…」
アキは複雑な表情をしながら顔を少し横にする。
「人の心の中に入ってくるのを嫌っているお前が、人の心の中に入ってくるとはな…」
「そんなつもりじゃ…」
「十六夜…。俺は心の闇を受け入れてわかったよ。お前がどれだけ過酷な運命を受け入れてきたのかをな。」
遊星はアキに近づく。しかし、アキは身の危険を感じたのか、後退して距離をとる。
「十六夜…。俺の物になれ。お前の満たされなかった物を俺が満たしてやる…」
素早くアキに抱きつく遊星。
「嫌っ!!離してっ!!」
突然抱きつかれたため、激しく抵抗するアキ。
「仲間との絆は必要ない。だが、愛する者は必要だ。」
「…」
その言葉にアキの顔は少し赤らむ。しかし、
「お前は…、遊星じゃない…」
「何を言っているんだ?俺は正真正銘の不動遊星だ。」
「うそ…。遊星が…そんなことを考えているハズがないわ!!」
その瞬間、渾身の力で遊星を押しのける。
「十六夜!?」
突然のアキの拒絶に遊星は驚く。
「遊星は言ったわ、"考えろ、お前自身が。答えを得るには自分で考えなければいけない。"」
「十六夜…」
「"お前がお前を愛するんだ。"」
遊星の動きが少しずつ止まっていく。
「そして、"何度でも受け止めてやる!全部吐き出せ!お前の悲しみを!"って…」
すると、アキは自分の右腕を左手で掴む。
「それから私の腕の痛みは薄らいでいった…。あの時…、私は…」
「う…、あ…」
「あの時…、私は助けて欲しいって…、心の中で本当に思った…。ディヴァインではなく…、遊星に…」
「いざよい…」
アキの目に涙が浮かび上がっていた。
「だから…、本当に遊星なら、ここまで痣が痛むことはない…」
「い…ざ…」
「目を覚まして!私が知っている遊星はこんなことで全てを諦めるようなことはしないはずよ!」
「イ…」
アキの訴えのためか、再び遊星が少しずつおかしくなっていく。
そして、遊星の頭に激痛が襲う。
「うわああああああああああ!!」
「遊星っ!!」
その瞬間、遊星は完全に意識を失った。
意識を失った刹那、遊星にはある光景が見えた。
それは遊星の痣を持った男とアキの痣を持った女が、恋人同士のように大木の下で寄り添って座っていた光景を。
その光景から再び闇の空間へとやってきた遊星。
すると、遊星を呼ぶ小さな声が聞こえてくる。
「まただ…、誰かが、俺を呼んでいる…」
声のする方向に遊星が進んで行く。
すると、強力な光が遊星を包み込む。
「遊星っ!!遊星っ!!」
アキの呼び声に目を開けると、目の前にはアキの顔があった。
「いざよい…?」
「遊星…、よかった…。」
アキの表情は魔女と言われていたときの苦しみや憎しみに満ちた物ではなく、本当の十六夜アキとしてのやさしい顔をしていた。
遊星は自分の状況を確認したところ、アキに膝枕をされている状態であることを知った。
遊星とアキの目が合い、2人は間近に見つめ合う状態になっていた。
「だいじょうぶ…?」
少しおどおどした様子で容態を聞くアキに、遊星も緊張した様子で答える。
「大丈夫だ…」
再び見つめ合ったままの沈黙になってしまう。
そして、1分程経過してから、遊星とアキは立ち上がる。
「十六夜、どうしてここに?」
「わからないわ…。寝ているときに遊星が戦っているということを痣を通して感じたの…。」
「痣が…」
遊星は自分の右腕の痣を見ると、黒く変色していた色が元の赤色に戻っていた。
さらに遊星はアキの姿を見て不思議に思った。気を失う前と比べて、寝巻きが汚れていたのだった。
まるで、誰かとデュエルをしたかのように。
「十六夜…」
「何?」
「俺が気を失っている間に何かあったのか?」
遊星の質問にアキは表情を変えずに答える。
「何もなかったわ…。ただ…、いつもの遊星が戻って来てくれただけで安心してるの…」
「十六夜…」
遊星はアキを抱きしめたい衝動に駆られるが、その場から動かず手を強く握りしめていた。
一時とはいえ、おかしくなってしまった自分にその資格はないと自らを制止したのだ。
「これは全部…、夢…よね…?」
「ああ…。夢と思いたいな…」
(本当は…夢だと思いたくない…)
すると、アキは少し悲しそうな表情になり、
「これからはもう会うことはできないわね…」
「それでも…、俺たちはシグナーだ。会えなくても、この痣で心は繋がっている。だから…」
「遊星らしい考え方ね…」
そして、十六夜は光に包まれ、遊星の目の前からゆっくりと消えていく。
「十六夜っ!!」
遊星はアキを掴もうと手を伸ばすが、届く寸前にアキは完全に消えてしまう。
「十六夜…」
だが、同時に闇の空間全体に光が降り注ぐ。遊星はあまりの眩しさに目を閉じる。
そして、遊星はベッドの上で目覚めたのであった。
遊星はこの夢の出来事を覚えてはいなかった。
だが、この夢がなければ、地縛神への恐怖が残ったままで、"今の俺では鬼柳に勝てない"という思いにまでは至らなかっただろう。
いずれにしても、遊星の仲間との絆を信じる気持ちが絶望の底にあった遊星を救う結果となったのは確かである。
アキの想い
アキは自室で眠りに入ろうとしていた。
(遊星…)
ついいましがた、眠りにつく直前、右腕の痣が疼いたのだ。
痣は遊星が誰かと戦っているということを訴えていた。
(遊星のことが頭から離れない…。どうして…?)
アキの心境をここまで変化させたのは、やはり、デュエル・オブ・フォーチュンカップでの遊星との一戦に間違いない。
あの一戦以来、ディヴァインに依存しながらも、遊星の言葉に何かを感じていたのは確かである。
(共有する痛み…)
アキは自分の痣を見て、遊星とのデュエルを思い出していた。
(こんなきもちは…、はじめて…)
それから程なくして、アキは深い眠りに入っていった。
深い眠りに入ったアキは目を覚ます。
「?」
目を覚ましたアキの眼前には闇の空間が広がっていた。
「ここはどこ?」
アキは訳も分からずただ立ち尽くしていた。
しかし、すぐに背後に誰かが現れたことを感じ取る。
「誰っ!?」
振り返るとそこにはブラックローズドラゴンがいた。
「ブラックローズドラゴン!?」
同時にブラックローズドラゴンは雄叫びを上げる。
アキにはブラックローズドラゴンが何かを言おうとしていると感じた。
すると、ブラックローズドラゴンは触手の一本を水平に伸ばして闇の空間の一点を指した。
「そこに何かがあるの?」
アキの問いにブラックローズドラゴンは首を縦に振る。
「わかったわ…。」
アキとブラックローズドラゴンは闇の空間の奥へと進んでいく。
(何なのこの感覚…)
闇の空間を進んでいくにつれて、アキは何かを感じ始めていた。それは懐かしい感覚であった。
すると闇の空間が一転して、花畑がある空間に変化する。
「どうなってるのっ!?」
アキは周りの環境の変化に戸惑いを感じていた。
すると、ブラックローズドラゴンは再び触手の一本を水平に伸ばして空間の一点を指した。
「えっ…!?」
ブラックローズドラゴンが示した先にアキは言葉を失う。
自分と同じ痣を持った女と遊星の痣を持った男とが、恋人同士のように大木の下で寄り添って座っていた光景が目に入る。
その光景に一瞬、我を忘れそうになる。しかし、すぐに冷静さを取り戻す。
そして、アキは自分の腕の痣と女の腕の痣とを見比べる。
遠目ではあったが、女の腕の痣は間違いなく自分の腕の痣と同じ紋様であった。
「なんなの…、いったい…」
だが、疑問は確信へと変わっていった。懐かしい感覚の正体はあの2人の姿なのではないのかと。
(私と遊星が…)
そう思った瞬間、周りは再び闇の空間に変化する。
「もう…なんなのよ…」
ぼやきながらも、再び闇の空間を歩きはじめる。
そのとき、ブラックローズドラゴンは再びけたたましいまでの雄叫びを上げる。
「どうかしたの!?」
ブラックローズドラゴンはアキの問いかけを無視して先に進んでしまう。
「一体どうしたのよ!」
アキはブラックローズドラゴンの後をついていく。
すると、アキとブラックローズドラゴンの前にスターダストドラゴンが姿を現す。
「スターダストドラゴン!?」
スターダストドラゴンの出現に驚くアキ。
しかし、スターダストドラゴンの様子がおかしかった。
よく見ると、黒い鎖のような物で全身が完全に拘束されていたのである。
「どういうこと?」
スターダストドラゴンは弱弱しく悲痛な叫びをあげる。
ブラックローズドラゴンはスターダストドラゴンの言葉を理解したのか、触手で拘束を壊そうとする。
「スターダストドラゴンを助けようとしているの?」
すると、ブラックローズドラゴンはアキの方に向き直り、触手の一本を水平に伸ばして空間の一点を指した。
さらにその方向を指したまま、触手を伸ばしたり縮めたりする。
「あの方向に行けというの?」
その問いかけにブラックローズドラゴンは首を縦に振る。
そして、ブラックローズドラゴンは再びスターダストドドラゴンの拘束を壊そうと奮闘する。
「わかったわ。」
アキは一人、ブラックローズドラゴンが示した先に進む。
どのくらい歩いたかわからないくらいに歩いたという考えが出始めたとき、痣が疼き始める。
「この感じ…。遊星?」
遊星が近くにいる。痣はそう訴えていた。
すると、闇の空間がアキを包み込む。
「えっ!?なに!?いやっ!!たすけてっ!!」
アキは闇の空間の中で気を失っていた。
『何度でも受け止めてやるっ!!』
(ゆうせい…)
遊星の声に目を覚ますアキ。
すると、どこからともなく奇声が聞こえてくる。
「ふふ…。あはははははっ!」
声のする方向に目をやると、そこには遊星の後ろ姿が目に入る。
(遊星?)
後ろ姿だけしか見えなかったが確かに遊星であった。
「仲間との絆、カードの絆、そんな物があったから、俺は鬼柳に勝てなかったんだ!!」
遊星は何かを悟ったかのように言葉を発する。
(きりゅう?誰?負けたってこと…、遊星が…)
「敵を倒すためにはカードを信じるんじゃない…、そのための力を得なければならないんだ!!」
遊星は右腕を高く上げる。なんと、赤き竜の痣は黒く変色していた。
(痣が黒くなってる!?)
「そうだ!もっとだ!赤き竜の力に心の闇の力を!!」
遊星が負の感情を抱く度に痣はだんだんと濃い色の黒に変色していく。
「仲間など必要ないっ!!俺の前に現れる者は全て敵だっ!!」
遊星は悪者のような笑みを浮かべる。
(うそよ…、あんなの…、遊星じゃない…。私をたすけようとした…遊星じゃない…)
遊星は力が湧き上がってくる感覚に酔いしれていた時、思わずアキは声をだしてしまう。
「ゆう…せい…」
不意に名前を呼ばれた遊星はアキの方に向き直る。
その時の遊星は魔女の力に酔いしれていた自分と同じような表情をしていた。
「十六夜…」
「遊星…」
アキはそれ以上言葉を続けれなかった。
「どうした、十六夜…。」
「…」
アキは複雑な表情をしながら顔を少し横にする。
「人の心の中に入ってくるのを嫌っているお前が、人の心の中に入ってくるとはな…」
「そんなつもりじゃ…」
事実であるためか、反論しようとしても言葉がでなかった。
「十六夜…。俺は心の闇を受け入れてわかったよ。お前がどれだけ過酷な運命を受け入れてきたのかをな。」
遊星はアキに近づく。
(何なの、これが遊星なの…)
アキは身の危険を感じたのか、後退して距離をとる。しかし、徐々に距離は詰められる。
「十六夜…。俺の物になれ。お前の満たされなかった物を俺が満たしてやる…」
(私の満たされなかったもの…)
一瞬の迷いを見逃さなかった遊星は素早くアキに抱きつく。
「嫌っ!!離してっ!!」
突然抱きつかれたため、激しく抵抗するアキ。
「仲間との絆は必要ない。だが、愛する者は必要だ。」
「…」
(愛する者…)
その言葉にアキの顔は少し赤らむが、
(遊星が私を愛してる…?喜んでいいの…。いいえ、違うわ…)
「お前は…、遊星じゃない…」
「何を言っているんだ?俺は正真正銘の不動遊星だ。」
「うそ…。遊星が…そんなことを考えているハズがないわ!!」
その瞬間、アキは渾身の力で遊星を押しのける。
「十六夜!?」
突然のアキの拒絶に遊星は驚く。遊星を跳ね除けたアキは胸、呼吸が少し苦しくなっているのを感じた。
「遊星は言ったわ、"考えろ、お前自身が。答えを得るには自分で考えなければいけない。"」
アキは遊星とデュエルした際に遊星からの想いを思い出して言葉にする。
「十六夜…」
「"お前がお前を愛するんだ。"」
遊星の動きが少しずつ止まっていく。
「そして、"何度でも受け止めてやる!全部吐き出せ!お前の悲しみを!"って…」
すると、アキは自分の右腕を左手で掴む。
「それから私の腕の痛みは薄らいでいった…。あの時…、私は…」
「う…、あ…」
遊星は少しずつ動きが遅くなっていく。
「あの時…、私は助けて欲しいって…、心の中で本当に思った…。ディヴァインではなく…、遊星に…」
「いざよい…」
アキは自分でも気づかないうちに涙を浮かべていた。
「だから…、本当に遊星なら、ここまで痣が痛むことはない…」
「い…ざ…」
「目を覚まして!私が知っている遊星はこんなことで全てを諦めるようなことはしないはずよ!」
「イ…」
アキの訴えのためか、再び遊星が少しずつおかしくなっていく。
そして、遊星は頭に激痛を感じたのか、自分の頭を両手で押さえる。
「うわああああああああああ!!」
「遊星っ!!」
遊星の絶叫は闇の空間全体を振動させた。
「なっ!何!?」
闇の空間の振動は収まった。しかし、痣が強烈な痛みを伴う。
「痛い…!」
その痛みは今まで経験したことのない痛みだった。
「いたいだろう…。おれがうけたいたみだ…」
「!?」
その言葉にアキは遊星を見る。
「ゆうせい?」
遊星は何事もなかったかのように立っていた。
「遊星?」
アキは遊星が元に戻ったと思った。しかし、痣の痛みはまったく消えなかった。
「お前は誰!?遊星じゃないわね?」
「おれは…遊星が心の闇から作りだしたもう一人の遊星…」
「もう一人の遊星…」
意味不明な内容であったが、アキは理解することができた。
それはかつての自分と同じだったからでもある。
「本当の遊星はどこにいるの?」
「肉体はもう一人の俺だが、今は俺が支配している。」
「そんなこと…」
「本当だ…。俺は俺自身を救いだし、強くならなければならない…。だから、俺はもう一人の俺と融合した。だが…」
遊星の表情に迷いはなかった。
「十六夜…。お前が俺の中に入ってきてしまった。だから、融合は不完全な状態だ…」
「わたしが…」
「そうだ…。お前が救いを求めているように、もう一人の俺も心のどこかで救いを求めていたんだ…」
完全無欠のイメージがあった遊星にも、自分と同じように救いを求めていたことに驚くアキ。
「だからこそ、お前にはここから出て行って欲しい…」
「えっ?」
「心の闇から生まれた俺でも、お前を傷つけることはしたくない…。だから…」
「遊星…」
遊星の想いにアキの気持ちがぐらついたとき、スターダストドラゴンとブラックローズドラゴンが出現する。
「スターダスト…」
「ブラックローズドラゴン、スターダストドラゴン」
2体のドラゴンは遊星に対して、訴えるかのように吼えていた。
「遊星、心の闇に負けちゃだめ…。そんなのあなたらしくないわ…」
「なにぃ!?」
一瞬、遊星の顔が歪む。
「あなたは仲間やカードの絆を信じて戦ってきたじゃない…」
「…」
「そんなあなたが…、こうも変わってしまうの…、わたしは…、つらい…」
アキの言葉に遊星は目を瞑る。
「ならば…」
その言葉と同時に遊星は目を開ける。すると、遊星の左腕にデュエルディスクが出現する。
そして、デュエルディスクを前に出し、デュエルのスタンバイが完了したことを示す。
「その絆をお前が証明してみせろ!」
「えっ!?」
すると、アキの左腕にもデュエルディスクが出現する。
しかし、そのデュエルディスクはいつもしている赤いディスクではなく、遊星が使用しているディスクと同じ物だった。
「これは!?」
「もう一人の俺のデッキがセットされている。スターダスト、俺を取り戻したければ、十六夜と共に戦え!」
その言葉に呼応するかのようにスターダストドラゴンはカードに変化して、アキのディスクのエクストラデッキに入る。
「ブラックローズドラゴンは退場してもらおう。」
「ブラックローズドラゴン、ここは私に任せて先に戻って。」
ブラックローズドラゴンは首を縦に動かし、闇の空間の彼方に向かい移動を開始した。
全ての準備は整い、闇の空間はデュエルの独特の雰囲気につつまれる。
「一言、言っておく。ここは俺の心の中だ。十六夜、お前が負ければ、二度とお前はここから出ることはできない。」
「どういうこと?」
「魂の死ということだ。夢の中とはいえ、それは現実の死と同じだ。永遠に目覚めることのない…」
脅しとも警告とも言える内容だった、逃げるなら今の内ともとれた。
しかし、アキはディスクを前に出す。
「私がここに来たのは、遊星…、あなたを救うため。逃げる訳にはいかないわ!」
アキの言葉に、
「後悔するなよ…」
「お互い様ね」
「デュエル!!」遊星 LP 4000
「デュエル!!」アキ LP 4000
2人はデッキから5枚のカードを引く。
「十六夜、先攻はお前だ。」
「私のターン、ドロー。」
(遊星のデッキはシンクロ召喚を主軸とした戦術。私のデッキの戦術とは異なる。でも…)
「ロードランナーを守備表示で召喚。さらに、リバースカードを1枚伏せて、ターンエンド。」
「ふふ…」
遊星はアキの様子を見て思わず笑みを浮かべてしまう。
「何が可笑しいの?」
「いや…うれしいんだ…」
「うれしい?」
遊星の意外な発言に戸惑うアキ。
「こうして、お前とデュエルができるのがな。」
「遊星…。私も本当はこんな形であなたとデュエルをしたくはなかった…」
「それは俺も同じだ…」
アキはその言葉が遊星の本音に聞こえてしょうがなかった。
「俺のターン、ドロー!」
遊星は手札を一旦確認する。
「ブーメラン・ウォリアーを召喚。」
ブーメランウォリアー ATK 1000
「バトル!ブーメラン・ウォリアーでロードランナーを攻撃!」
ブーメラン・ウォリアーの攻撃でロードランナーは撃破される。
「この瞬間、ブーメラン・ウォリアーのモンスター効果発動。」
「えっ!」
「バトルによって相手モンスターを破壊した時、フィールド上の魔法・罠カードを一枚破壊する。リバースカードを破壊。」
アキのリバースカードは破壊されるが、
「リミッター・ブレイクの効果により、デッキからスピード・ウォリアーを守備表示で特殊召喚する。」
「フ…、俺はカードを1枚セットして、ターンエンドだ。」
「私のターン、ドロー。」
アキが引いたカードはジャンク・シンクロン。
「ジャンク・シンクロンを召喚。」
「さらにジャンク・シンクロンの効果で、ロードランナーを墓地から守備表示で特殊召喚。」
「そして、スピード・ウォリアーをジャンク・シンクロンでチューニング。シンクロ召喚!ジャンク・ウォリアー!」
「…」
遊星はアキの行動をよく見ていた。
「ジャンク・ウォリアーの効果により、レベル2以下のモンスターの攻撃力の合計分、攻撃力がアップ。」
ジャンク・ウォリアー ATK 2300+300=2600
「バトル、ジャンク・ウォリアーでブーメラン・ウォリアーを攻撃!」
ジャンク・ウォリアーはブーメラン・ウォリアーを攻撃しようとした瞬間、
「リバースカードオープン!ホーリージャベリン!」
「ホーリージャベリン!?」
「このカード効果により、俺は相手攻撃モンスター1体の攻撃力分のライフを回復する。」
遊星 LP 4000+2600=6600
「それでも、バトルは適応されるわ。」
ジャンクウォリアーはブーメランウォリアーを撃破する。
「これくらいなら問題はない。」
遊星 LP 6600−1600=5000
「私はカードを1枚伏せてターンエンドよ。」
「俺のターン!ドロー!」
遊星はドローしたカードを見て笑みを浮かべる。
「手札より魔法カード、マジシャンズマントを発動!」
「マジシャンズマント?」
「自分の場にモンスターが存在しない時に発動できる。手札よりレベル2以下の闇属性モンスター1体を特殊召喚する。」
遊星は手札からカードを1枚取る。
「マーダーサーカス・ゾンビを特殊召喚!」
マーダーサーカス・ゾンビ ATK 1350
「さらに、ジャンク・シンクロン召喚!」
「ジャンク・シンクロンのモンスター効果でブーメラン・ウォリアーを守備表示で特殊召喚。」
ブーメラン・ウォリアー DEF 0
「そして、ブーメラン・ウォリアーをジャンク・シンクロンでチューニング!シンクロ召喚!ジャンク・ウォリアー!」
「さらにジャンク・ウォリアーの効果により、レベル2以下のモンスターの攻撃力の合計分、攻撃力がアップ。」
「攻撃力3650!?」
「そうだ…、これが心の闇の力だ…赤き竜の力を凌駕する程の力さ!」
遊星の表情は再び歪む。
「ジャンク・ウォリアーで十六夜のジャンク・ウォリアーを攻撃!」
遊星のジャンク・ウォリアーがアキのジャンク・ウォリアーを撃破した瞬間、
「手札を1枚捨てて、カードディフェンスを発動!プレイヤーへのダメージを1度だけ0にして、さらにカードを1枚ドロー。」
「まだ、俺の攻撃は終わっていない。マーダーサーカス・ゾンビでロードランナーを攻撃!」
マーダーサーカス・ゾンビの攻撃でロードランナーは撃破される。
「ダメージは与えられなかったが、まあいいさ。俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ。」
「私のターン、ドロー!」
アキはドローしたカードを確認する。
「手札を1枚捨てて、カード・フリッパーを発動。相手フィールド上の全てのモンスターの表示形式を変更。」
遊星のジャンク・ウォリアーとマーダーサーカス・ゾンビは守備表示に変更される。
「そして、戦士の生還を発動。墓地から戦士族モンスターのジャンク・シンクロンを手札に戻して、召喚。」
「ジャンク・シンクロンの効果でニトロ・シンクロンを守備表示で特殊召喚。」
「そして、チューナーモンスターが場に存在することにより、墓地からボルト・ヘッジホッグを特殊召喚。」
「ボルト・ヘッジホッグをジャンク・シンクロンでチューニング。ジャンク・ウォリアーをシンクロ召喚。」
「そして、ジャンク・ウォリアーをニトロ・シンクロンでチューニング。シンクロ召喚!ニトロ・ウォリアー。」
「ニトロ・シンクロンの効果でカードを1枚ドロー。」
すると、今度はアキが笑みを浮かべる。
「何を引いたんだ…」
「これよ!ジャンク・アタックをニトロ・ウォリアーに装備!」
「まさか…」
「ニトロ・ウォリアーでジャンク・ウォリアーに攻撃!」
ニトロ・ウォリアーはジャンク・ウォリアーを撃破する。
「ジャンク・アタックの効果発動!破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える!」
「ぐわーーーーー!!」
遊星 LP 5000−1825=3175
「そして、ニトロ・ウォリアーの効果でマーダーサーカス・ゾンビを攻撃表示に変更し、バトルを行う。」
ニトロ・ウォリアーは攻撃表示になったマーダーサーカス・ゾンビを撃破する。
「うわーーーーー!!」
遊星 LP 3175−1450=1725
「ジャック・アタックの効果で追加ダメージ!」
「ぐうううううう!!」
遊星 LP 1725−675=1050
闇の空間でのデュエルのため、攻撃で発生する衝撃と惨状にアキは思わず呼びかけてしまう。
爆発による噴煙から、片膝をついている状態で遊星が姿を表す。
「ふふふっ…。あっはっはっはっはっはっ!」
だが、これほどのダメージを受けても遊星は高笑いをしていた。
「遊星…」
「証明されたな…」
そう言って、遊星は立ち上がる。
「十六夜…、いや…、アキ…、お前の心は俺を求めていることがな…」
「えっ…?」
遊星が初めて下の名前で呼んでくれたことに胸の中が痛みだしていた。
(なに…、この感じ…、心臓がすごく…ドキドキしている…?)
「だからこそ、お前は俺のデッキを使いこなすことができるんだ…」
「わたしが…」
完全に同様してしまうアキ。
「ふ…。まだ、お前のターンは終わっていないぞ。」
しかし、遊星の言葉に少し落ち着きを取り戻す。
「そうね…。私はカードを1枚伏せて、ターンエンドよ…」
「俺のターン!ドロー!」
その瞬間、再び遊星の顔が歪むと同時に黒い煙のような物が遊星の周りに出現する。
「リバースカードオープン!ダークリバイバイル発動!ジャンク・ウォリアーを攻撃表示で特殊召喚!」
「生還したジャンクウォリアーの攻撃力が0…、どういうこと?」
「ダークリバイバルで復活した闇属性モンスターは攻撃力が0になる。さらに、ダーク・リゾネーターを召喚!」
アキは身構える。
「ジャンクウォリアーをダーク・リゾネーターでチューニング!」
「レベル8!?スターダスト・ドラゴン!?」
「集いし星が全てを征する力として飛翔する!シンクロ召喚!降臨せよ!ダークダスト・ドラゴン!」
ダークダスト・ドラゴン ATK 3000
「ダークダスト・ドラゴン!?」
スターダスト・ドラゴンを漆黒の色で多い尽くしたかのような恐ろしい姿である。
「ダークダスト・ドラゴンのモンスター効果発動。手札を1枚捨てることにより、相手モンスター1体を破壊する。」
ダークダスト・ドラゴンの力でニトロ・ウォリアーは破壊されてしまう。
「さらに、コストとして墓地へ送った魔法カード、ダークサンプルの効果が発動される。」
すると、アキの場にこの世の物とは思えないグロテスクなモンスターが出現する。
「…!?」
その姿に思わずアキは口を手で覆ってしまう。
「ダークサンプルは墓地に置かれた時に発動する魔法カード。サンプルトークン1体を相手の場に特殊召喚する。」
サンプルトークン ATK 2000
「ただし、サンプルトークンが破壊された時、コントローラーは3000ポイントのダメージを受ける。」
「なんですって!?」
「ダークダスト・ドラゴンでサンプルトークンを攻撃!ソニックダークバスター!!」
ダークダスト・ドラゴンは攻撃の態勢に入る。
「っ!?」
「ようやく!アキを俺の物にできる!」
遊星の強い言葉にアキは自分の想いを思い出す。
「遊星…、私は…あなたを…なんとも思っていない…」
「なにっ!?」
遊星の顔が歪む。
「なぜだっ!!なぜっ!ここまで戦えるっ!?」
「私が本当に想っているのは…、心の闇に支配された遊星よ…」
「なっ…」
「だから…、わたしは…、本当の遊星を取り戻してみせる!」
すると、ダークダスト・ドラゴンが攻撃を仕掛ける。
「もう手遅れだ!!」
「まだよ!リバースカードオープン!速攻魔法、ミラクル・シンクロ発動!」
「ミラクル・シンクロだと!?」
「自分フィールド上または墓地から、シンクロモンスターカードによって決められたモンスターをゲームから除外!」
サンプルトークン、ロード・ランナー、ジャンク・シンクロンがゲームから除外される。
「スターダスト・ドラゴンをシンクロ召喚!この特殊召喚は、シンクロ召喚扱いとする。」
「スターダスト・ドラゴン…。だが、スターダスト・ドラゴンを出したところで!」
ダークダスト・ドラゴンの攻撃でスターダスト・ドラゴンは撃破される。
「う…!!」
アキ LP 4000−500=3500
「さらにダークダスト・ドラゴンのモンスター効果、バトルで破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える!」
アキ LP 3500−2500=1000
「ああああああっ!!」
ダークダスト・ドラゴンのパワーに吹き飛ばされるアキ。
「もう諦めろ…。お前をこれ以上傷つけたくはない…」
アキは痛みに耐えながらもゆっくりと立ち上がる。
「遊星はこんなことで諦めるような人じゃないわ…。だから…、私も諦めない…」
「アキ…」
「私のターン…、ドロー…」
傷つきながらもカードを引くアキ。
「…」
引いたカードを見たアキは表情を引き締める。
「スタンバイフェイズ時に手札より魔法カード発動、ファイナル・スターダスト!」
魔法カード発動と同時にアキの場にスターダスト・ドラゴンが出現する。
「どういうことだ!?スターダスト・ドラゴンが…」
「このカードはスタンバイフェイズ時、墓地に“スターダスト”と名の付くモンスターが存在し、自分の場にカードが存在しない時に発動できる。スターダストと名の付いたモンスターを特殊召喚する。」
「それで、復活したということか…。だが、それでも攻撃力はダークダスト・ドラゴンの方が上だ。」
すると、スターダスト・ドラゴンが輝きだす。
「ファイナル・スターダストにはもう一つの効果があるわ。特殊召喚したスターダストはこのターンのみ相手プレイヤーへの直接攻撃が可能となる。但し、エンドフェイズ時に特殊召喚したスターダストはゲームから除外される。」
「何っ!!」
「遊星、今、目を覚まさしてあげるわ!スターダスト・ドラゴンでダイレクトアタック!響け!シューティング・ソニック!!」
スターダスト・ドラゴンの攻撃が遊星を貫く。
「うわああああああああああ!!」
遊星 LP 1050−2500=0
スターダスト・ドラゴンの攻撃は大きな爆発を引き起こした。
「遊星っ!!」
アキは遊星の元に走りだしていた。
噴煙の中に遊星は倒れていた。
デュエルは終了したため、いつの間にか2人がしていたデュエルディスクは消えていた。
「遊星!!しっかりして!!」
アキは無意識に遊星の上半身を抱き起していた。
「アキ…」
目を開けた遊星だが、痣はまだ本当の遊星ではないということを教えていた。
「仲間とカードの絆か…」
「遊星…」
遊星は笑みを浮かべるが、その笑みは満足したかのような笑みだった。
「お願い…、元の遊星を返して…」
「そうだな…。俺は…、俺のままでいた方がいいのかもしれないな…」
「遊星…」
「でも、忘れないでくれ。俺…、本当の俺が…、お前を好きになっていたことは本当だ…」
「…」
遊星の告白にアキは顔を赤くする。
「けど、本当の俺は鈍感だから、自覚がない…。もっとも…、お前も同じはずだ…」
「わ…、わたし…は…」
遊星は言葉に詰まるアキの口に人差し指を軽く当ててから離す。
「答えは急がなくていい。」
「遊星…」
「お前たち2人はまだその時ではない。いつかお互いが本当の想いを伝える時が来る。」
「本当の想い…」
「ああ。だから、その時はちゃんともう一人の俺に伝えてやってくれ。」
「えっ…、ええ…」
心の闇の遊星の申し出にしっかりとした返事をできなかったアキ。
だが、遊星はそれをやさしい笑顔で見つめていた。
「じゃあな…、アキ…」
「えっ?」
遊星は静かに目をつぶる。
「ちょっ!?遊星!?」
いくらゆすっても遊星は目を開けなかった。
しかも、遊星の体はみるみる冷たくなっていく。
「遊星!いやっ!!一人にしないでっ!!」
何度も呼びかけるが遊星は完全に死人であった。
(どうして…こんなことに…。これじゃ…、何も…変わっていない…)
アキは涙を流していた。
(遊星は私を助けようとしたのに…。私はまた傷つけている…)
遊星の頭を自分の膝の上にのせる。
「遊星…、わたしは、…」
アキは誰にも聞こえない小さな声で遊星にささやく。
その瞬間、遊星が光に包まれる。
「?」
すると、遊星の体温が元に戻っていく。
「!!」
光がなくなった瞬間、
「遊星っ!!遊星っ!!」
アキは遊星の名前を叫ぶ。すると、遊星はゆっくりと目を開ける。
「いざよい…?」
アキの存在に気づいた遊星がゆっくりと呼びかける。
「遊星…、よかった…。」
遊星は一体何があったのかという表情をしていた。
遊星とアキの目が合い、2人は間近に見つめ合う状態になっていた。
「だいじょうぶ…?」
少しおどおどした様子で容態を聞くアキに、遊星も緊張した様子で答える。
「大丈夫だ…」
再び見つめ合ったままの沈黙になってしまう。
そして、1分程経過してから、遊星とアキは立ち上がる。
「十六夜、どうしてここに?」
「わからないわ…。寝ているときに遊星が戦っているということを痣を通して感じたの…。」
「痣が…」
遊星は自分の右腕の痣を見ると、黒く変色していた色が元の赤色に戻っていた。
(よかった…。いつもの遊星に戻ってる。)
だが、アキは遊星の視線に少し疑問を持った。
(どうしたのかな?)
「十六夜…」
「何?」
「俺が気を失っている間に何かあったのか?」
アキは心の中で大きく動揺していた。しかし、遊星の質問に表情を変えずに答える。
「何もなかったわ…。ただ…、いつもの遊星が戻って来てくれただけで安心してるの…」
「十六夜…」
(どうしてかな…。私…こんなにうれしい…)
アキは何もかも忘れて遊星に抱きつきたい衝動に駆られていた。
(でも…、今の私じゃ…、遊星は喜んでくれない…)
気持ちを抑え、その場に立ち尽くしていた。
「これは全部…、夢…よね…?」
「ああ…。夢と思いたいな…」
(夢なの…?いや…、夢と思いたくない…)
すると、アキは少し悲しそうな表情になり、
「これからはもう会うことはできないわね…」
(違う…、私が言いたいことは…こんなことじゃ…)
「それでも…、俺たちはシグナーだ。会えなくても、この痣で心は繋がっている。だから…」
「遊星らしい考え方ね…」
(痣だけの繋がりじゃ嫌…)
すると、アキは光に包まれる。
(うそ…、体が…?いやっ!!遊星!わたし…、まだっ…)
その瞬間、アキは意識を失ってしまう。
陽の光がカーテンの間から部屋に差し込んでいる。
朝になり、アキは目を覚ます。
「…」
アキはしばらく頭が働かなかった。
「わたし…、どんな夢を…?」
しかし、アキは何も覚えていなかった。覚えていたのは、昨夜、痣が疼いていたことだけだった。
おもえば、この日はいつも以上にアキは不安定な状態で訓練をしていた。
その原因がこの物語にあった、ということは言えないが、決して否定もできない。
だが、この日がアキにとって最厄の日になることは夢にも思わなかったであろう。
そして、遊星とアキは再会することになる。近い未来に…
願わくば、遊星とアキに明るい未来を示されることを祈る…
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