日本国憲法第九条
日本国憲法第二章(戦争の放棄)第九条は、戦後新憲法の中ではただひとつの取り柄のあるものだ。この条項だけは現在のところ世界の資本主義「国」と社会主義「国」とそれ以外の諸国の軍隊規定のなかで、いちばん進歩した優れたものだといえる。そこでわたしの願望を理想化していえば現存している地球上の国家は、この日本国の憲法第九条にならうべきだとおもう。はっきり断っておきたいのだが、このわたしの場所は、遠い隔りから平和憲法に照らしてこの中東戦争に反対だ、戦争は人命と環境の破壊だからという社共や市民主義者の主張とは似て非なるものだ。とくにどんな資本主義「国」も社会主義「国」も、この第九条にならうほかに未来への切符を手にすることはできないから、これにならうべきだという積極的な主張が、わたしが願望として固執したいところだ。
(「わたしにとって中東問題とは」1991.10「中央公論」に掲載 「大情況論−中東湾岸戦争私論」1992.3弓立社に収録された)
隆明鈔--吉本隆明鈔集
(「わたしにとって中東問題とは」1991.10「中央公論」に掲載 「大情況論−中東湾岸戦争私論」1992.3弓立社に収録された)
- この第九条はあの日本の戦争の体験からきている。あれだけの血を流してやっとたどりついた優れた取り柄だ。しかしこの優れた理念は、世界のあらゆるところで衝突する、試練に立たされる。現実の世界の諸国家は、国家ごとに国軍をもち、兵器をつくり、それを他国に売り、局地的戦争に備えている。私たちのこの優れた理念を貫徹するためには、この理念自体を、この第九条を世界に積極的に主張することしかないのだ。
隆明鈔--吉本隆明鈔集
2006年12月10日(日) 14:26:55 Modified by shomon