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Square Leg演習の攻撃想定地図(by Duncan Campbell, 1980/10)


英国国防省による1980年の机上及び野外演習Square Legの核攻撃想定地図を入手したNewstateman紙は、Duncan Cambellによるレビュー記事を掲載した。
[ Defence: "World War Ill: an exclusive preview" (1980/10/03) on Newstatesman]

終了したばかりの、軍の"Square Leg"演習は、英国への予期される全面核攻撃の改定を検証した。ありうべきソ連の標的を示した、軍の演習計画者たちの地図は、この種の情報で、初めて国民に開示されたものである。そして、この地図は、従来、国防省と内務省によって、国民に与えられていた助言が、意図的に不正直で、ミスリーディングであったことを明らかにした。この地図は、政府が生存を意図しなかった都市の住民たちを、打ちのめしている。Duncan Campellがこのホロコーストをプレビューする。

「もし英国が核爆弾あるいは核ミサイルの攻撃を受けるとしたら、標的がどこかはわからず、攻撃がどれだけ深刻かもわからない」と、内務省のバカげたパンフレットProtect and Surviveは、その緒言で書いている。実際、我々はソ連戦略ロケット軍の司令官たちの一瞬一瞬の気分はわからない。しかし、だからといって、最大の消滅の危機にあるのが英国のどこか、そしてどこが生き延びるのか、英国の防衛計画者たちにも、良い考えがないわけではない。

しかし、内務省と国防省は、そのような計画の中で、誰がリスクを取り、誰が死傷するかについて、国民と情報共有しようとはしない。そして、実際、国民が無知であることにつけいって、都市住民の大半を見捨てることが今や明らかになった、避難させない政策をとっている。たとえば、中央情報局は"Protect and Surviveの発行とともに、予期される核攻撃前に放送する動画で、次のように主張している:
英国のどこも、他の場所より安全だということはない。家にとどまるのが最も良い

これはScilly Islesの住民にとっては価値ある助言かもしれないが、重要な工業地帯や戦略拠点の近くに住んでいる人々にとては、まったく価値のない助言である。政府自身が公開した計画は、Protect and Survive政策がまったくの詐欺であることを示している。 ~^
国防省はこれまでも正直ではなかった。直近には、Greenham Common (Newbury)とMolesworth (Northampton)地域の人々を狙った、高価なプロパガンダキャンペーンに関与した。その目的は、新たな米国の巡航ミサイルの価値を納得させることだった。このプロパガンダの主たる部分は、8500ポンドかけた、巡航ミサイルについてのカラーのパンフレットの配布だった。パンフレットによれば:
平時の巡航ミサイル基地は優先度の高い標的とはならない。

なぜなら、ミサイルは移動可能であり、攻撃前に分散配備されるからである。

これらの地域の人々自身が今や知るところかもしれないが、国防省は実際に、これらの米軍基地がきわめて迅速に粉砕されると予期している。

正確には、9月19日に、Greenham Commonは上空15000フィートでの3メガトンの空中爆発で破壊された。同時にNewbury自身も西方で2メガトンの地上爆発が起きて、30マイルの範囲が爆風の被害を受ける。これらの核攻撃は、ソ連の想定「先制攻撃」の中で、早々に起きる。正確には、最初の核攻撃警報となる、午前11時55分の核攻撃警報の9分後である。

New Stateman紙が入手したSquare Legの核爆発チャートによれば、Greenham Commonは第2次攻撃目標である。(第1攻撃目標は、Salisburyの北にあるBoscombe Down空軍基地である。平時には実験用航空機基地であり、戦時には米軍の予備基地となる。)

Square Leg演習で作られた核攻撃の図は非常にもっともらしいが、国土防衛の責任者である内務相Leon Brittanは、先週、WansteadにあるLondonセクターのバンカーを訪れたとき、核爆発プロットの詳細公開を拒否した。核戦争時のソ連の意図についての情報推定であると、国民が誤解するのを可能性があると、彼はその理由を挙げた。

我々が入手した地図は、Square Leg演習中の英国への攻撃想定の事実上の完全な全体像である。それは最新版あるいは、最も正確な「情報推定」ではないかもしれないが、考えうる標的エリアの非常に確からしい情報推定である。戦略研究のエキスパートたちによって、都市・工業地帯・軍事拠点と分類された攻撃パターンは、よく知られたソ連の標的意図と合致したものである。弾頭の種類やパターンは正確にはソ連の現在のミサイル戦力を反映していない。しかし、重要標的への複数の攻撃といった特徴は、信ぴょう性が高い。(ミサイルの信頼性は70%ほどしかなく、通常はミサイルは多弾頭であり、核爆撃機基地のような重要標的には、2ないし3個以上の弾頭あるいは、複数の核ミサイルにより攻撃が行われる。)

この地図で、もう一つ信ぴょう性が高い点は、実際には戦略的に重要だが、ほとんど知られていない標的への攻撃が記されていること。たとえば、Bedfordのすぐ南にあるChicksandsの米国空軍傍受基地や、同様の機能を持つ、Lincolnshireの英国空軍Digby基地へは複数の核攻撃が想定されている。(これらの基地はソ連の航空機の通信傍受を目的としている。)潜航する潜水艦、特にポラリスとの主たる通信手段である、ラグビー及びShropshireのCriggionの低周波通信基地も攻撃を受ける。Walesの僻地にある、米軍の欧州で最も重要な海中監視センターも攻撃を受ける。Walesの他の地域が攻撃を受けるかは、あまり明らかではない。Cardigan近くのAberporthには分散配備基地があるが、国防省が何か知っていない限り、Machynlleth sportsは標的になりそうにない。


国防相は、演習目的の当て推量であり無視してもいいと主張した。国防情報参謀部の最新の推定は、大きくは違っておらず、おそらくは考えられる複数の標的の一つ選んだか、置き換えたものだと思われる。DoncasterあるいはNorthwoodのNATO司令部の代わりにHuddersfieldを、High Wycombeの代わりにMiddlesexを。このプロットをより詳細に見ていけば、これが実際の攻撃計画であることは明瞭になるだろう。そして、Protect and Surviveが提示する原則は崩壊する。

標的は、おおよそ2種類に分かれる。一つは、都市と産業の中心地であり、もう一つは空港や港湾や貯蔵施設や通信・指揮・コントロールのセンターである。前者では最初に、Port TalbotとNottingham, DerbyとSalford (Manchesterの西方)とNewcastle-upon-TyneとLeicesterが攻撃を受ける。それから3時間後の第2次攻撃では、BirminghamやCoventryやCardiffやSwanseaやLeedsやBradfordやSheffieldやLiverpoolが攻撃を受ける。

驚くべきことにLondon自体は標的になっていない。ただし、首都の大半は、周辺部に落下した核爆弾、特にHeathrow空港及び周辺を攻撃した3発により、大なり小なり被害を受ける。Londonへの爆撃の例は、軍がコラテラルダメージを呼ぶものを明瞭に示している。すなわち、他の標的を狙った爆弾による都市中心の人口密集地域への被害である。Londonの地図は、公式なSquare Leg演習で予期される建築物へz爆風被害の範囲を示している。CroydonとHeathrow/BrentfordとPotters BarとOngarへの爆撃は、Londonの、そして他の全都市に部分的に被害を及ぼす。

戦略標的のなかでも、米軍基地が明らかに目立っている。これらには有名なAlconburyとLakenheath(とすぐ近くのMidenhall)とUpper Heyfordの空軍基地と、現在は予備基地で、まもなく巡航ミサイルの基地となるGreenham CommonとMolesworthがある。Fairfordは米軍のタンカー基地である。Boscombe DownとCranwellとAberporthはすべて、基地共同使用協定に基づいて米航空軍が使用することになると考えられる。EssexのHaverhillへの爆撃は、別の米軍予備基地Wethersfieldを狙ったものだろう。核爆撃のプロットでは、英国と米国の核爆撃機は、各地の基地に分散配備されたことになっている。すなわち、ScamptonとWaddingtonとMarhamとCottesmoreとWitteringとHoningtonとColtishallである。英国にある米軍の2か所の武器集積所であるBurtonwoodとDitton Priorsも標的とされている。

これらの施設が攻撃を受けるのは、軍隊の移動、特に米軍部隊が英国へ移動及び英国内で移動するのに重要となるからである。米軍はLiverpoolとSouthamptonに、部隊及び補給物資の到着のための施設を持っている。それらの部隊及び補給物資は、DoverやHull(そしてHarwichを無傷で)出発したものである。Heathrow空港とGatwick空港とLuton空港への攻撃は、これらの移動中の部隊が使用するのを未然に防ぐためのものである。

国防省の計画者たちが選定した戦略標的には、わかりやすいものと、わかりにくいものがある。3発の地上爆発にみまわれるHigh Wycombeには、英国空軍打撃軍団があり、その地下深くにある司令部バンカーはそのようなオーバーキルの標的となるだろう。FylingdalesとBoulmerはレーダー早期警戒基地である。また、CriggionとRugbyのVLF基地(いずれも英国郵政省が運営)以外に、英国郵政省のOngar基地が海外の無線リンクを提供する。CatterickとAldershotは主要な陸軍拠点である。同様にChicksandsとDignyの傍受基地と、Cheltenhamにある英国傍受司令部GCHQも第1次攻撃の対象となる。


PenzanceやOxfordやMachynllethなどは明確な工業あるいは戦略的重要性がなく、まちがって記載されたのか、標的とされたのかもしれない。あるいは、この地図を描いた、Square Leg演習指導参謀たちの悪意あるユーモアかもしれない。しかし、Eastbourneへの爆撃は異なる意図があるかもしれない。地上爆発の火球が大量の土を巻き上げ、それが後に放射性降下物として降ってくる。攻撃時に、いつもより強い南風が吹いていれば、放射性降下物のプリュームは非常に高速に移動して、Londonや英国南東部を覆うことになる。Eastbourneからの放射性降下物は、そのから北に住む生存者への攻撃手段として使われるかもしれない。

このような方法で意図的に放射性降下物を増加させるという考えは、Eastbourneについては架空のものかもしれないが、Dungenessへの攻撃は明確である。そこには2基の原子炉がある。商用原子炉への攻撃の影響はあまりにも大きいので、原子炉は直接の標的からはずすべきだという、核戦争に関するジュネーブ条約規定を提案しているグループもいる。放射性降下物として広範囲に降る炉心には、セシウムなど半減期の長い放射性同位体が多く含まれる。

Windscaleにある再処理センター及び核廃棄物貯蔵施設への攻撃は、より恐ろしいものとなり、センターに貯蔵された廃棄物が、スコットランド中央部に、放射性物質の気味の悪いカクテルとして飛び散る。(Square Leg演習は、強い南風を想定しているが、これは多くの場合南西の風になり、地図上に示された放射性物質のパターンは、東の方向にひずむことになる。)第2演習では、演習計画者たちは、5メガトンの核爆弾をCanvey IslandとChathamの間にあるThames Estuaryに投下する。これは、おそらく製油所と海軍基地を一発で破壊するという経済的手段だと思われる。


Protect and Surviveの推奨事項は、これまで隠されてきた、核攻撃時に何が起こるかについての政府予測とはフィットしていない。脅したり、すかしたりして、Protect and Surviveは、国民にその場に留まることを求めている。放射性降下物から避難中であれば、これは正しい助言かもしれない。しかし、官僚たちを除けば、攻撃時には全く意味がない。正しくも常識的な見方は、先週Arrowが出版した"Nuclear Survival Handbook"に簡潔に書かれている。
地震クレータ地域(想定爆心近傍)に住む人々は、その場に留まらせようとする、あらゆる脅しと誘いを無視すべきである。そして、たとえ目的地に何の準備をしていなくても、退避すべきである。


誰もがこの助言に従えば、政府は都市部や標的地域からの避難民へ、物資の大量供給をすることを真剣に検討する必要に迫られるだろう。政府は大量の食糧備蓄を用意し、数十万人を収容する緊急宿泊施設の早期計画を作る必要がある。道路を封鎖するという現在の計画も再検討する必要があるだろう。Wansteadのバンカーへの移動中に、報道陣はGreater Londonの周囲のEssential Service Routes (ESRs) の制限計画を見ることができるだろう。主要な14の道路はESRに指定され、政府の移動のみ確保される。

最終的には、内務省は、意図的に大半の都市住民が攻撃時に生存できないようにしている現在の政策を放棄しなければならくなるだろう。この政策を、軍の演習の秘密計画から得られたSquare Leg演習シナリオの詳細要素と対比するのは意味があるだろう。これが戦争へのステップである;

8月27日: 政府は重要美術品の退避準備を要請する。
9月12日: 内閣は女王勅令2号(議会停止と非常時権限の確立)を承認する。
9月13日: 都市部では衝動買いが発生。
9月15日: 宣戦布告。この4日後に核攻撃。その期間に政府バンカーに関係者が入る。したがって、政府上層部は国家の重要美術品リストに載ることになるだろう。




図 Square Leg演習で使われた核攻撃プロット。白丸は空中爆発を示し、ほとんど放射性降下物を生成しない。黒丸は地上爆発を示し、大量の放射性降下物を生成する。地図は、先週、報道陣に公開されたBasingstokeやWansteadなどのバンカーに掲示されていた地図など、公式情報源からコピーしたものである。「使用された」核爆弾の大半は、0.5〜3メガトンであり、これは広島を破壊した原爆の25〜150倍の威力に相当する。これは、おおよそ、西欧を標的としている、ソ連の核ミサイルの核弾頭の種類に合致している。
攻撃は2段階で行われた。第1次攻撃は攻撃警報直後の12:00〜12:10で、第2次攻撃は13:00〜15:00だった。図の斜線部分は3時間以内に放射性降下物が到達する領域だが、その強さは中程度〜即死レベルまでと、大きく違っている。爆心周辺は爆風による被害ゾーン及び、火災ゾーンであり、都市部は多くの場合ファイヤーストームに襲われる。この演習想定のような快晴時では、2メガトンの地上爆発による重度の破壊は3マイルに及び、火災ゾーンは半径6マイルの領域に及ぶ。




図 第3次世界大戦後のLondon; OngarとPotters BarとHeathrowとCroydonとCanvey Islandで核爆弾が爆発し、都市施設の大半が爆風と火災で失われる(斜線部)。Croydonでの核爆発による強い放射性降下物がLondon中心部に到達するが、遅れてEastbourneとDungenessからの放射性降下物が到達する。同様の核攻撃がBirminghamに対してSquare Leg演習期間中に行われ、14日間での死者(その後の放射線障害による死者を除く)は人口の40%に到達すると推定された。






(by Duncan Cambell, 1980/10)

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