ロシア宇宙主義についてのノート・調べものメモ

ロシア右翼

ロシア右翼バージョンの宇宙主義 (Faure, 2021)


Juliette Faure (2021)によれば、150年前に出現したロシア宇宙主義と総称される考え方が、別物として21世紀にロシアに再登場している。
正教会神学と科学的予測を融合した知的運動である宇宙主義は、約150年前に出現し、再びロシアで勢いを増している。ロシアのエリート階層には、西側でおそらく支配的なトランスヒューマニズムに対するロシア独特の反応として、宇宙主義を信じている。宇宙主義とは何か、今日のロシアにどう広まっているのか?

19世紀末、ロシアの思想家ニコライ・フョードロフ(1829-1903)は、倫理とキリスト教科学哲学を深く擁護した。彼は、人類が技術発展を用いて、万人の救済(universal salvation)を実現できるだろうと考えた。彼によれば、科学的進展は祖先の復活と、不死の実現と、人間の神格化と、最終的には宇宙の征服と管理に使える。

フョードロフ以後、宇宙飛行の先駆者であるコンスタンチン・ツィオルコフスキーや、地球化学の創始者ウラジーミル・ヴェルナツキー(1863-1945)のような名高いロシアの科学者たちが、フョードロフの技術発展についての未来的でスプリチュアルなビジョンの高めた。

1970年代、一群のソビエト知識人たちはこれらの著者たちの深遠なテーゼに熱狂し、「ロシア宇宙主義」の名のもとに、これらをひとつの統合した。公式な共産主義イデオロギーとは逆に、宇宙主義は異端の理論だった。しかしながら、これは学術界の関心とともに、政治および軍事階層の上層の関心が高まった。

これらの一人が、1989〜2003年に超常現象の軍事利用研究を行う秘密部隊10003の責任者だったアレクセイ・サヴィン中将である。ヴェルナツキーを読んで触発されて、サヴィン中将は「noocosmology (ヌーコスモロジー)」と呼ぶ地球外世界の科学原則を発達させた。同様に1994年に、ロシア安全保障会議事務次官であり、元KGB分析部門長であるウラディミール・ルバノフは宇宙主義を、「ロシアのナショナル・アイデンティティー」として使うことを提唱した。

[ Juliette Faure: "Russian Cosmism: a national mythology against transhumanism" (2021/01/11) on The Conversation ]

ロシア右翼バージョンの「宇宙主義」を掲げるのは、ロシアのシンクタンク「イズボルスキークラブ」である。彼らの掲げる「宇宙主義」は、帝政ロシアの価値観と、ソビエト連邦の価値観を融合して、西側世界と対抗するは異なる価値観を形作っている。
イズボルスキークラブ: ロシアのナショナル・アイデンティティーとしての宇宙主義

今日、宇宙主義はポストソビエトのロシアの合理的発想の探求するイデオロギーの着想の源泉として機能している。宇宙主義者の思想の遺産は、特に権力に近い、2012年に設立された保守的シンクタンク「イズボルスキークラブ」によって主張されている。

この集団は、帝国主義者と反西洋アジェンダ周辺の50人の、学者とジャーナリストと政治家と起業家と聖職者と元軍人の一団である。大統領府からの資金援助に一部支えられながら、イズボルスキークラブはロシア国家のイデオロギーを定めることを目的としている。これについて、クラブのメンバーは科学を戦場と考え、ロシアは西洋の発展モデルに対する自分たちの「テクノクラートの神話」で対抗しなければならないと考えている。この西洋の発展モデルはおおよそトランスヒューマニズムに対応する。イズボルスキークラブのメンバーたちは、イーロンマスクなどのトランスヒューマニズムの明示的支持者と、フェミニズム、グローバリゼーション、持続可能な開発などの伝統社会のビジョンを損なう世界観の両方を、トランスヒューマニズム支持者とランク付けしている。

西洋のトランスヒューマニズム思想家の中には、フョードロフを不死の探求の預言者と見る者もいる。一方、イズボルスキークラブは逆に、宇宙主義の特にロシア性と、ロシア人の歴史的任務とつながる関係を主張する。イズボルスキークラブジャーナル2020年11月号は宇宙主義とトランスヒューマニズムの対決を取り上げている。

それによれば、トランスヒューマニズムは進化的進歩主義の論理的継承者であり、機械との混合により人間の性質の制約から個人を解放することを目指すものである。対照的に、宇宙主義は、聖書の復活の誓約の文字通りの解釈に導かれる、人間の霊化を求める終末論的探求として描かれている。イズボルスキークラブジャーナルの著者たちが、人間の技術的発展への純科学的信仰を非難するなら、生物保守主義あるいは生態的テクノフォビアからも距離をとるだろう。したがって、宇宙主義は、「テクノクラート的伝統主義」と称する融合的イデオロギーの基礎として機能し、技術的近代性と宗教保守主義の結合である。

このイデオロギーにより、ロシアの歴史の異なるの遺産を結合できるようになる。この見方では、ソビエト連邦の技術力及び工業力を、帝政ロシアの伝統的正教価値観と、調和的に結合できる。さらに、有名な著述家であり、極右新聞ザブトラ編集長である、イズボルスキークラブ代表のアレクサンドル・プロカノフは「宇宙主義的レーニン主義」という造語を作り、レーニンの産業主義的ユートピア主義の根本的意味は「ロシア宇宙主義ドクトリン」とその拡張に由来していると論じている。宇宙主義の遺産の再発明により、「ロシアには1000年以上の共通の連続した歴史がある」と主張するために、矛盾する記憶を消し去り、歴史時代をつなげるというウラディミール・プーチン体制の狙いに対応した、統合された国語りを作り出せる。

さらに、イズボルスキークラブは「ロシアが表現し提案できる新しいグローバルな代替開発プロジェクト」の基礎として宇宙主義を推進している。現代科学と政治的伝統主義の融合は、「経済発展がリベラルデモクラシーに向か合う社会の政治的収斂をもたらす」という西洋の近代化理論に対抗することを意図している。イズボルスキークラブが、シリコンバレーのしろものと位置づけるバタリアニズムとコスモポリタニズムとは対照的に、イズボルスキークラブのイデオロギーは権威主義国家と集産主義経済が主導するスターリン主義モデルの近代化を提唱している。

イズボルスキークラブの見方では、宇宙主義はボルシェビキ社会の堕落した理想の代わりに立っており、したがって、科学の最終性についての帝国主義的でメシアニックな概念を新たにすることができる。イズボルスキークラブが推進する主要な科学的成果(宇宙および潜水艦の探査、北極圏の開発、人間の能力向上に関する研究)は、「ロシア文明」とその「精神的安全」の防衛に役立つ。したがって、科学は、アメリカンドリームを「ロシア宇宙主義の理想」と「精神科学」に置き換えることを意図した「ロシアの夢」の実現のベクトルになる。

[ Juliette Faure: "Russian Cosmism: a national mythology against transhumanism" (2021/01/11) on The Conversation ]

そして、このロシア右翼バージョンの宇宙主義は、ロシアの権力中枢で共有される見方となっている。
'権力中枢で共有される見方

イズボルスキークラブは、自らの考えを広めることができる、影響力ある権力ネットワークにつながっている。2019年7月、アレクサンドル・プロカノフはロシアの議会であるドゥーマに招待され、自らの映画「ロシア:夢の国」を上映した。この映画で、国の科学的および精神的な神話のビジョンを宣伝した。イズボルスキークラブはまた、保守的エリートの主要人物である君主主義者オリガルヒ、コンスタンチン・マロフェーエフや、ロスコスモス宇宙機関長官であるドミトリー・ロゴージンと近い関係にある。最後に、軍産複合体にアクセスできる。これらのつながりの証明するものとして、ミサイル戦略爆撃機ツポレフTu95-MCは、2014年にクラブ名称にちなんで「イズボルスク」と名付けられた。

イズボルスキークラブを超えて、宇宙主義への言及は権力中枢の言説に浸透している。憲法裁判所長官ヴァレリー・ゾキンは最近、宇宙主義の熱烈な支持者であるアーセニー・グリガ(1921-1996)を引用した。2019年の第9回サンクトペテルブルク国際法務フォーラムでのスピーチで、彼は憲法に書かれたロシア国民の共通の運命の意味を「万人救済」に向けられたより一般的な受け入れに広げることを求めた。

したがって、宇宙主義は、現体制の2つの必須事項、つまり権力をめぐる技術的競争と西洋の現代性に代わる政治モデルの定義に一致する新しいロシア国民の神話の基盤として機能する。

[ Juliette Faure: "Russian Cosmism: a national mythology against transhumanism" (2021/01/11) on The Conversation ]






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