これは警視庁の異端児、「特麗課」の二人が織りなす物語。
ある日彼女たちのもとへ、老舗ファッションブランドの社長が乗り込んでくる。
「新作バッグのデザインが盗まれた」との訴えを頼りに、捜査を開始する二人だったが......。
型破りな刑事を演じるのは、ビジネスに通じたあのアイドル!その相棒は、健康志向のあのアイドルが熱演!
でこぼこコンビが、どんな事件も華麗にスマートに解決する......!?
(特麗課) | |
ツカサ | アタシの名はツカサ。 |
ツカサ | こう見えて、刑事。そんで、趣味は仕事。 |
ツカサ | 毎朝、この『特麗課(とくれいか)』に出勤して…… |
ツカサ | 自家製のぬか床をチェックするのが日課だ。 |
ツカサ | もちろん、ただぬか床をかき混ぜているわけじゃない。 |
ツカサ | TVのニュースを聞きながら、インプットすることも忘れない。 |
(TV) | 『本日のニューストピックスは……』 |
(TV) | 「今、ぬか漬けがアツい!」「最新ファッショントレンド」 |
(TV) | 『以上の2本立てです。お楽しみに!』 |
ツカサ | そして……。 |
ネネ | ツカサさん、コーヒーが入りましたよ。 |
ツカサ | おっ、サンキュ。 |
ツカサ | こいつが、今のところのアタシの相棒……ネネ。 |
ツカサ | 「特麗課」はアタシとネネ、二人だけの城ってわけ。 |
ツカサ | ふぅ……。 |
ツカサ | ああ、イイな。今日も味がシマってる。 |
ネネ | 週の初めですからね。頭がすっきりするような、苦味と香りにこだわりました。 |
ツカサ | うん、ちょうどイイよ。 |
ツカサ | やっぱアタシの一日は、お前のコーヒーがないと始まらねー。 |
ネネ | ふふっ。お褒めにあずかり、光栄です♪ |
ツカサ | ああ、明日も頼むわ。 |
ツカサ | ……それはそれとして。ネネ、バック変えたのな。 |
ツカサ | 『テヤンデール』の新作か…… なかなかいいチョイスじゃん。 |
ネネ | わぁ、当たりです!週末に、妹とお出かけして選んだんです。 |
ネネ | ツカサさん、さすがですね。 |
ネネ | ひと目見ただけで、ブランド名に発売時期までわかってしまうなんて。 |
ツカサ | まぁ、あのテヤンデールだからな。 |
ツカサ | 老舗のブランドだけど、出すたびに新しい挑戦をしてるっつーか……イノベーション感じるし。 |
ツカサ | 特に、今の社長になってからはアタシら世代向けのアイテムも増えたし。 |
ツカサ | アタシも、新作は欠かさずチェックしてるんだよ。 |
ネネ | へぇ……。珍しいですね、ツカサさんがそんなに褒めるだなんて。 |
ツカサ | アタシだって、認める時は認めるよ。 |
ツカサ | 実際、普遍的に愛されてるってコトには理由があるって思うからな。 |
ツカサ | さて……。 |
ツカサ | コーヒーも飲んだし、今日も仕事を始めるか。 |
ネネ | はい♪まずはウォーミングアップがてら、書類の残りを……。 |
警察署員 | ちょっと、止まってください!その先は…… |
??? | てやんでい! |
??? | そんなコトであたしの事情聴取が務まるかってんだ! |
ネネ | なんだか、外が騒がしいですね。 |
ツカサ | ああ……事件の匂いがするな。 |
ツカサ | ……ネネ、書類仕事は後にするぞ。まずは客人をもてなすのが先だ。 |
(タイトル表示) |
(特麗課) | |
ツカサ | キャシー・テヤンデール……だな。 |
キャシー | おぉ、あたしのことを知ってる? |
キャシー | なら話が早い!ちょっと聞いておくれよ! |
ツカサ | OK。けどその前に、こっちも名乗らせてくれ。 |
ツカサ | ……アタシはツカサ。こう見えて刑事。 |
ツカサ | で、こいつがネネ。 |
ネネ | ネネです。キャシー・テヤンデール社長、初めまして。よろしくお願いしますね。 |
ツカサ | アンタがさっき言ってた事件については、アタシら特麗課が話を聞くよ。 |
キャシー | 助かるよ!けど、……トクレイ課? |
キャシー | 初めて聞く名前だね。 |
キャシー | 部屋もずいぶんオシャレだし。 |
キャシー | 警察って、こんな課があったんだ。 |
ネネ | えっと、課の名前については、その……。 |
ツカサ | あー、実のところ、ウチは正式な課じゃない。 |
ツカサ | いずれ、ホントの課にしたいとは思ってるけど……。 |
ツカサ | 今は、アタシが勝手に名乗ってるだけ。 |
ツカサ | 特麗課ってのは、麗を持って事件(コト)にあたる。そういう、志……っていうの? |
ツカサ | 要は、マインドの問題な。 |
キャシー | なるほどねえ!志、結構結構。 |
キャシー | 体裁はいいよ。あたしも気にしないしね。 |
ツカサ | いいね、聞いてた通りだ。豪快かつ明確、話がわかる。 |
ツカサ | うん、会えてよかったよ。 |
キャシー | ワオ、そんなに褒められるとこそばゆいね! |
キャシー | あたしってば、もしかして有名人? |
ネネ | あはは……。なんと言っても、テヤンデールの社長ですからね。 |
ネネ | 有名人なのは間違いないと思いますけど……。 |
ツカサ | ネネも、週末にテヤンデールのバッグを買ったばかりだしな。 |
ネネ | はい。えっと、そこに……。 |
キャシー | 新作じゃないか!嬉しいね、バッグにサインしようか? |
キャシー | ……って、刑事さんがサイン入りのバッグ使ってたらカッコつかないか。 |
ネネ | ふふっ。ありがとうございます。お気持ちだけ、いただいておきますね。 |
キャシー | うん、ヤマトナデシコだね!やっぱり、あたしの嗅覚に間違いはなかった! |
キャシー | センスもある、話もわかる。この部屋に来て正解だったよ。 |
ツカサ | まぁな。アンタは犯人を見つけたい。 |
ツカサ | アタシらは、正式な課にするために実績が欲しい。 |
ツカサ | お互い、Win-Winの関係でやっていこうぜ。 |
キャシー | ウィンウィンね、合点承知。 |
キャシー | それで……えーっと。 |
キャシー | あたし、何でここに来たんだっけ? |
ネネ&ツカサ | え!!? |
ツカサ | おいおい……。豪快なのはいいけど、大事なことを忘れてるぞ。 |
ネネ | 何か、事件があってここに来られたんじゃ……? |
キャシー | あ、そうだった! |
キャシー | 大変なんだよ。あたしの会社から、大事なモノが盗まれたんだ! |
キャシー | 一昨日まではあったのに、キレイさっぱりと! |
ツカサ | 盗難か。……で、盗まれたのは? |
キャシー | 盗まれたモノは……。 |
キャシー | あーっ、思い出したらまた頭に血がのぼってきた! |
キャシー | 盗まれたのは…… 次の新作のデザイン画だよ! |
(特麗課) | ||
ネネ | 盗まれたのは、新作のデザイン画……。 | |
ネネ | まずはどういう状況だったのか、聞かせてもらえますか? | |
ネネ | その、少し落ち着いてからでいいので……。 | |
キャシー | てやんでえ!これが落ち着いていられるかってんだ! | |
ツカサ | ま、気持ちは分かるが……。ほら、とりあえずコーヒーでも飲めって。美味いぜ。 | |
キャシー | コーヒーくらいで……。 | |
キャシー | ってホントに美味しいじゃないか! | |
キャシー | こんな美味しいコーヒーで、もてなしてもらえるのかい、警察ってのは! | |
ツカサ | ウチのは特別。ま、淹れたのはネネだけどな。 | |
ツカサ | どうだ?気分、フラットになったか? | |
キャシー | うん……ごめん、悪かったよ。 | |
ネネ | いえ、気にしないでください。それだけ大事なものなんですよね。 | |
ツカサ | じゃ、次のフェーズな。 | |
ツカサ | デザイン画がなくなってるって気づくまで、できるだけ時系列に沿って話してくれるか? | |
キャシー | わかった。デザイン画を描いてたのは一昨日の夜くらいまでで……。 | |
キャシー | なくなってるって気づいたのは今日の朝だね。 | |
ネネ | なるほど……。今回のデザイン画を描かれていたのは、キャシー社長だけでしょうか? | |
キャシー | デザイン画の段階で関わるのは、あたしだけかな。一昨日にだいたい完成して、一日くらい寝かそうと思ってさ。 | |
キャシー | 会社の金庫に置いておいたんだけど……昨日は出かけてて、会社には寄らなかったんだ。 | |
キャシー | それで、今朝会社に行ったら……。 | |
ツカサ | デザイン画がなくなってた……ってワケか。他のスタッフには、聞いてみたのか? | |
キャシー | 金庫のある部屋に入ったスタッフには、全員ね。誰も、金庫に触れてもいないって。 | |
キャシー | そうしたらもう、誰かに盗まれたとしか……。 | |
TV | 『――さて、最新ファッショントレンドのお時間です』 | |
TV | 『今日は、先ほど入ったばかりの新作ニュースからご紹介!』 | |
TV | 『なんと、新進気鋭の人気ブランド「ナミティエ」から、早くも次シーズンの新作バッグの情報が届きました』 | |
ツカサ | 悪い、このコーナーマストなんでチェックさせてくれ。 | |
ツカサ | ナミティエか……最近、勢いあるよな。 | |
キャシー | そうだね。ウチとは傾向の違う、攻めた感じだけど…… | |
キャシー | これから伸びていきそうな、ブランドだよね。 | |
TV | 『創業者のホナミ社長は、一代でナミティエを人気ブランドに押し上げた立役者』 | |
TV | 『その美しさとスマートな言動に、憧れる女性も多いとか』 | |
TV | 『そんなホナミ社長が監修した新作のデザイン画を大公開!……こちらです!』 | |
ツカサ | これはまた、ずいぶん方向性変えてきたな。 | |
ツカサ | これじゃむしろ……。 | |
キャシー | ……。これって……。 | |
ネネ | キャシー社長?あの、顔色が悪いみたいですけど……大丈夫ですか? | |
キャシー | ……これだよ。 | |
ツカサ | これ?おい……まさか……。 | |
キャシー | このデザイン画……少し変えられてるけど、間違いない。 | |
キャシー | あたしのデザイン画は……ナミティエに盗まれたんだ! |
(テヤンデール・デザイン室) | |
ツカサ | へぇ……いい環境が揃ってるじゃん。 |
ネネ | ここが、作業室……。 |
ネネ | 社長も、みなさんと同じ部屋で作業されてるんですか? |
キャシー | その方がみんなの意見を取り入れやすいしね。 |
キャシー | あたしは社長だけど、肩はスタッフのみんなと並べてるつもりだよ。 |
ツカサ | 足並み揃えてってスタンスか。 |
ツカサ | テヤンデールのデザインの根本は、そういうとこにあるのかもな。 |
キャシー | 母親と、おばあちゃんから受け継いできたブランドだもん。 |
キャシー | 色んな世代、色んな好みの人に使ってほしいからね。 |
キャシー | 基本のデザインはあたしだけど、スタッフの意見も聞いて、どんどん取り入れてるよ。 |
ネネ | そうなんですね。それじゃあ、今回のデザインも……? |
キャシー | うん。完成するまでにスタッフの意見も聞いてたね。 |
キャシー | ウチのスタッフがあのデザイン画を見れば、ひと目でわかるはずだよ。 |
ツカサ | OK。それなら、ナミティエの出してきたデザインが、キャシーが描いてたモノに近いって証言は取れそうだな。 |
ツカサ | それで、念のためもう一度聞くけど…… |
ツカサ | やっぱ、何も残ってないワケ?コピーとか、スキャンしたデータとかさ。 |
キャシー | 残ってないね!何せ、うちはアナログ一筋! |
ツカサ | ……はぁ。ダメか……。 |
キャシー | まあ、あたしがパソコンとかコピーの機械を使えないってだけなんだけどね。 |
キャシー | ああいうのって、どんどん型番が変わってくでしょ? |
キャシー | そのたびに色々変わっちゃうし、いちいち操作を覚えてられなくてさ。 |
キャシー | だからデータ化とかは、そのへん詳しいスタッフにおまかせなんだよね。 |
ネネ | でも、データ化やコピーをする前になくなってしまったと……。 |
ネネ | 困りましたね。原本があれば、だいぶ違ったんですが……。 |
ツカサ | だからこそ、原本を持って行かれたのかもしれねーけどな。 |
ツカサ | ひとまず、周辺と経路はあとで調査するとして……。 |
ツカサ | キャシー社長、デザイン画を保管してた金庫のトコまで、案内してくれるか? |
キャシー | もちろん!このキャシー・テヤンデールにドーンとおまかせだよっ! |
ツカサ | 頼んだ。さて、もうひと仕事するか! |
(テヤンデール・デザイン室) | |
キャシー | へいお待ちっ!問題の金庫がコレさ。 |
ツカサ | 作業室に堂々と置いてあんのか……セキュリティ的に大丈夫か? |
キャシー | 人目が多い方がいいんだ。何かしようとしても、誰かが気づくでしょ? |
キャシー | 社長室だと、あたしの外出中は無人になっちゃうし。 |
ツカサ | なるほどね。まぁ、それもアリかもな。 |
ネネ | ただ……この部屋自体は、施錠できるシステムが見当たりませんね。 |
ネネ | 社内に入りさえすれば、金庫まで真っ直ぐに来られます。 |
ネネ | 先ほど見つけたブローチも……ドアから金庫までの通路に落ちていましたから、犯人のものという可能性がありますね。 |
ツカサ | ああ。あとは、どうやって金庫を破ったのかだけど……鍵を壊したり、無理にこじあけた形跡もない。 |
ツカサ | キャシー社長、何か心当たりあるか? |
ツカサ | スタッフを疑うわけじゃないけど……金庫のパスワードを知ってる人間とかさ。 |
キャシー | ああ、それなんだけど……あたしが忘れっぽいからさ。 |
キャシー | 金庫のパスワードは紙に書いて、横に貼ってあるよ! |
ネネ&ツカサ | 「えーっ!?」「ハァ!!?」 |
ツカサ | マジかよ。それだろ、どう考えても……。 |
ネネ | 冷蔵庫のメモじゃないんですから……っ。 |
ネネ | あの、これを機に、セキュリティを見直した方が……。 |
キャシー | いやはや、ごもっとも! |
キャシー | でも、既に盗まれちゃったからね。過去を悔やんでも仕方ないっ! |
ツカサ | いや、そこは多少悔やんでくれよ……。 |
キャシー | まぁ、セキュリティだかキューリだかってのは追い追いやっていくとして。 |
キャシー | やっぱりうちのスタッフにあやしい人間はいないと思うよ。 |
キャシー | だって、何か盗まれて、真っ先に疑われるのは内部の人間でしょ? |
キャシー | そんな危険なコトしてまで盗むかな? |
ネネ | 確かに、社内で話を聞いた方は、全員キャシー社長を慕っているようでしたしね。 |
ツカサ | それは、わかんねーだろ。裏では、ついていけねーって思ってるかもしれねぇし。 |
キャシー | うっ……。 |
キャシー | まぁ、もしかしたらそういうコトもあるかもしれないけど……。 |
ツカサ | とは言え、だ。デザインの原本はあっちにある可能性が高い。 |
ツカサ | 渡した人間がいるか、外部の人間が忍び込んで盗んだ……か。 |
ネネ | あの……キャシーさん。仮に犯人がいたとして、ですが……。 |
ネネ | 見つかったら、どうしたいですか? |
ネネ | 本当にナミティエ側による盗難だとすれば、侵害の是正を要求すべきなんでしょうけど……。 |
キャシー | そうだね……。 |
キャシー | デザイン画がないってわかった時は頭に血がのぼって、思わず警察に乗り込んじゃったけど。 |
キャシー | 今は……できればあんまり、戦いたくないよ。 |
キャシー | まずは、理由を聞きたいかな。なんでこんなコトしたんだーって。 |
キャシー | だって、うちのデザインを盗んだなんて知れたら、ナミティエ側だって苦労するはずでしょ? |
キャシー | だから、どうしても納得いかなくてさ。 |
ネネ | はい……。ツカサさん、やっぱりここは……。 |
ツカサ | そうだな。やっぱ、行かねぇと始まらねー。 |
ツカサ | ……行くか、ナミティエに! |
(ナミティエ・ロビー) | |
ホナミ | 何度も言わせないで… 身に覚えのない訪問だわ。 |
アシスタント | そ、そうですよ。警察が何のご用ですか? |
アシスタント | 次のアポイントのための、出発時間も迫っていますし……。 |
ツカサ | へぇ、ずいぶん心の余裕がないんだな。 |
ツカサ | テヤンデールとは大違いだ。 |
ホナミ | テヤンデール……? |
ネネ | あの、身構えないでください。あくまで、お話を聞きに来ただけですから。 |
ネネ | ほんの数分で構いませんっ。お願いします! |
ホナミ | ……。 |
ホナミ | ねぇ、出発までの残り時間は? |
アシスタント | えっ……さ、3分あります。ですが社長……。 |
ホナミ | 3分だけ、聞きましょう。あくまで私にメリットのある話なら……ですが。 |
ネネ | ありがとうございます! |
ネネ | 要件は、ひとつだけです。今朝発表された新作バッグのデザインですが……。 |
ツカサ | あれに良く似たデザインを知ってるって人間がいてな。 |
ツカサ | アタシたちで調査させてもらってる。デザインの出所を教えてもらえるか? |
ホナミ | 出所……と言っても。 |
ホナミ | 私たちのブランドから発表したものだもの。ナミティエのスタッフがデザインしたものでしかないと思うけど……。 |
ネネ | そのスタッフと言うのは、誰なんでしょう? |
ホナミ | 言えば、そのスタッフが疑いをかけられるのかしら…… |
ホナミ | なら、応じられないわ。私にはスタッフを守る義務がありますから。 |
ネネ | ですが……! |
ホナミ | ただ、内部でも調べてはみる…… それでどうかしら。 |
ホナミ | ……時間ね。失礼するわ。 |
ツカサ | ……。 |
ネネ | ホナミ社長には、あまり話を聞けませんでしたが…… |
ネネ | 聞き込みの結果、ナミティエは次の発表会に向け新作のサンプルを急ぎ作製中。 |
ネネ | 大々的に、新商品として発表するつもりみたいです。 |
ネネ | そうなると、もうどちらも後に引けなくなりますね……。 |
ツカサ | 戦いたくないっていうキャシーの意志にも反するしな。 |
ツカサ | 発表会は1週間後。それまでに、真相を確かめねぇとな……。 |
ツカサ | ただ、ひとつだけわかったこともある。 |
ツカサ | テヤンデールに忍び込んだヤツがナミティエ関係者であることは、ほぼ間違いない。 |
ネネ | えっ……?ツカサさん、何か手がかりが? |
ツカサ | ホナミ社長が身につけてたイヤリング……どっかで見たことあると思わなかったか? |
ネネ | イヤリング……? |
ネネ | あっ似ていますね。テヤンデールで拾ったブローチに……。 |
ツカサ | だろ?恐らく、本来はセットで身につけるモンだと思う。 |
ツカサ | それを落とすってことは、ホナミ社長本人か、近しい人間か……。 |
ネネ | それなんですが……さっきのアシスタントの方、気になりませんか? |
ネネ | 何か、ホナミ社長に思うところがあるような……。 |
ツカサ | ……?ホナミ社長とは、win-winで上手くやってるように見えたけどな。 |
ツカサ | 社長の方も、信頼してるから当たりが強いんだろうし。 |
ネネ | 表向きは、そうかもしれません。ホナミ社長もきっと、上手くいっていると思っていて…… |
ネネ | でも、心の中ではもしかしたら……。 |
ツカサ | ……ネネ。それってもしかして、オマエ自身がそうって話? |
ネネ | ……。 |
ネネ | ただ、あの人の気持ちもわかるような……。 |
ネネ | そんな気がするだけです。 |
ツカサ | 気持ちね……。 |
ツカサ | そこまで言うなら、好きにしろよ。アタシは止めねーから。 |
(特麗課) | |
数日後……。 | |
ツカサ | はぁ……シマんねーな。おいネネ……。 |
ツカサ | ……いや、いないし。 |
ツカサ | てか、来なくなって何日経ってんだよ。 |
ツカサ | ナミティエの新作発表会、もう明日だってのに。 |
ツカサ | ……しゃーない、もう一回自分で情報洗い出して…… |
ツカサ | その前に、コーヒー淹れっか。 |
ツカサ | …………。 |
ツカサ | ま、ネネがいなくてもこのくらいはな。 |
ツカサ | ふぅ、いただきま……。 |
ツカサ | 熱っ! |
ツカサ | そんでマズっ! |
ツカサ | ……はぁ、なんだこれ。アタシこんなカッコ悪かったか……? |
キャシー | おやおや、ツカサ刑事ともあろう者が!ずいぶんタソガレてるじゃあないか。 |
ツカサ | キャシー・テヤンデール……。 |
ツカサ | どうしたんだよ?捜査については、残念ながら連絡した通りだぞ。膠着状態ってやつ。 |
キャシー | それは承知の上!ちょっとね、アンタの顔を見に来たんだ。 |
ツカサ | ひとりで頑張ってるって聞いたからねっ♪ |
ツカサ | まぁ、いいけどさ。 |
ツカサ | ……飲むか?コーヒーしかねぇけど。 |
キャシー | お、いただこうか! |
キャシー | ……って、うわマズっ! |
ツカサ | そう言うなよ。自分でもわかってるんだからさ。 |
キャシー | なるほど……コーヒーの味は完全に、ネネの功績だったってワケね。 |
ツカサ | そういうこと。アイツもマメなんだよな。 |
ツカサ | アタシの好みとか、健康まで気をつかってさ。 |
キャシー | へぇ、いいバディじゃない!アンタが真っ直ぐ突っ走って、ネネがフォローする。 |
キャシー | 少なくとも、あたしはそう思ってたけどね。 |
ツカサ | どうだかな。 |
ツカサ | ……特麗課ってさ。アタシが勝手に作って、名乗ってるだけなんだけど。 |
ツカサ | ネネの前に、何人もやめてってるんだよ。 |
ツカサ | 部署異動だったり、別の署に転勤したり…… |
ツカサ | みんな、アタシに付き合いきれなくなってさ。 |
キャシー | へぇ……。ツカサにも、そんな悩みがあったんだねぇ。 |
ツカサ | 悩みってほどのことじゃねぇけど。 |
ツカサ | ……ま、だから結局、ネネもアタシに付き合いきれなくなったのかもな。 |
ツカサ | アイツと組んで、そろそろ一年経つけど…… |
ツカサ | 同じ事件追ってても、足並み揃わねー、テンポもセンスも合わねー。 |
ツカサ | アンビバレントってやつ? |
キャシー | オー、ザッツアンビバレント! |
キャシー | ……なんて!ごめん、あたし見た目はアメリカ人だけど、浅草育ちだからさ。 |
キャシー | 英語全然わかんないんだ! |
ツカサ | あーそっか。アンタも見かけによらないよな。 |
ツカサ | アンビバレントってのは……ま、二律背反、みたいなやつ。 |
ツカサ | 理想はwin-winなんだけどさ。 |
キャシー | なるほどねぇ。矛が勝つか、盾が勝つか…… |
キャシー | でも、答えは出てるんじゃない?ツカサとしてはさ。 |
ツカサ | どういう意味だ?やっぱアンタから見ても、ダメってことか? |
キャシー | ううん、その逆! |
キャシー | 例えばこの部屋、ずっと違和感あったんだけど…… |
キャシー | オシャレにまとまってるのに、その野菜のクッションとか。 |
ツカサ | あー、それね。ネネが持ってきたんだよ。 |
ツカサ | 『ツカサさん、ぬか漬け好きですよね』ってさ。 |
ツカサ | インテリアにするのは違うだろって思うけど。 |
キャシー | あはは、だろうね!でも、ツカサはそのクッションを捨ててないでしょ? |
キャシー | これだけしっかり、自分好みの部屋を作り込んでるのにさ。 |
キャシー | アンタたちはダメじゃないよ。 |
キャシー | 足並み揃わなくても、自分のセンスじゃなくても……。 |
キャシー | ちゃんとネネのこと、受け入れてるじゃない。 |
ツカサ | ……。 |
ツカサ | はー、そっか。そうだよな。 |
ツカサ | さすがはキャシー・テヤンデール。言うことが違うわ。 |
ツカサ | あー、ダセー。ダサすぎだろ、こんな自分。 |
ツカサ | けど、ネネのせいにする自分はもっとダセーし。 |
ツカサ | 目が覚めたよ。サンキュー、キャシー。 |
キャシー | いいってことよ♪ |
キャシー | さて、元気になったツカサ刑事に大ニュース!あたしたちに、最後のチャンスがやってきたっ! |
キャシー | 目指すはナミティエの新作発表会!あたしたちも乗り込むよっ! |
(ナミティエ・新作発表会) | |
ツカサ | 新作発表のレセプションまで約1時間……。 |
ツカサ | それまでに犯人を押さえて、ホナミ社長を止めねぇと。 |
ツカサ | 結局、めぼしい証拠はテヤンデールで見つけたブローチだけ。 |
ツカサ | けど頭のキレるホナミ社長が、そんなわかりやすい痕跡を残すとは思えねぇ。 |
ツカサ | あのブローチを手に入れられるくらい、社長に近い人間…… |
ツカサ | やっぱネネの言ってた通り、あのアシスタントにカマかけてみるか。 |
キャシー | うーん、同じ社長としては、あんまり想像したくないね。 |
キャシー | でも、もしホナミも騙されてるなら、やっぱり教えてあげなきゃ! |
ツカサ | アンタも大概、お人よしだよな。 |
ツカサ | ……けど、嫌いじゃねー。そういうヤツ、身近にいるしな。 |
キャシー | あははっ!言うねぇ。 |
ツカサ | ……!キャシー、静かに。 |
ツカサ | 噂をすれば……だな。 |
ホナミのアシスタント | ……ククッ。 |
ホナミのアシスタント | これで、発表の準備は完了。あのバッグをテヤンデールが訴えれば、ナミティエの人気もガタ落ちだ。 |
ホナミのアシスタント | もし訴えなくても、あのバッグをデザインしたのはオレだと社長は信じきっている。 |
ホナミのアシスタント | どちらに転んでも、オレの得になるってことだ! |
ホナミのアシスタント | ホナミめ……テヤンデールのことばかり追いかけやがって。 |
ホナミのアシスタント | なにが社長だ!オレの実力を認めなかったこと、後悔させてやる! |
ツカサ | ……ったく。ベラベラと喋りやがって。油断しすぎだろ、アンタ。 |
ホナミのアシスタント | ……! キャシー・テヤンデールに……この前の刑事!? |
ホナミのアシスタント | おい、関係者以外は立ち入り禁止だぞ! |
キャシー | おやおや、そんなこと言っていいのかい? |
キャシー | あたしたちは親切に、落し物を届けにやってきたんだけど。 |
ツカサ | そ。困ってるヤツの前で、ルールは無用ってね。 |
ツカサ | このブローチ……アンタのとこの社長のモノだと思うんだけど? |
ホナミのアシスタント | そ、それは……! |
ホナミのアシスタント | はい、間違いなく社長のブローチです!見つかったんですね! |
ツカサ | ふーん。「見つかった」ね。 |
ツカサ | それって、ホナミ社長が「なくした」って言ってたわけ? |
ホナミのアシスタント | そ、それは……!その、落としたから探してほしいと頼まれてまして……。 |
ホナミ | ……貴方に、そんなお願いをした覚えは、ないと思うけど。 |
ホナミのアシスタント | しゃ、社長……っ!? |
ツカサ | ナイスタイミング、ホナミ社長。このブローチ、アンタので間違いないな? |
ツカサ | こいつをテヤンデール社内で拾った……って言えば、伝わるか? |
ホナミ | ええ……そこのアシスタントから、新作のデザインを渡される前日…… |
ホナミ | どこかでなくしてしまったの。誰にも言わなかったけれど。 |
ホナミのアシスタント | あ、あの……社長がブローチをなくされたことに、気づいてですね……! |
ツカサ | 言い訳は無駄な。さっきのでかい独り言、録音してっから。 |
ツカサ | なんだっけ?これでナミティエの人気もガタ落ち……ってやつ。 |
ホナミのアシスタント | ……。 |
ホナミのアシスタント | くっそおおおお!バカにしやがって! |
ホナミのアシスタント | こうなったら、社長への恨みだけでも……! |
キャシー | ホナミ! |
ツカサ | ホナミ、あぶねえ! |
ツカサ | (ちっ、煽りすぎたか?) |
ツカサ | (……くそ、避けられねえ……!) |
??? | たぁあああーーーーっ!!! |
ホナミのアシスタント | ぐあ……っ!!? |
ツカサ | は……、ネネ……? |
ツカサ | おま、お前、今までどこに……! |
ネネ | 良かった……間に合いました。 |
ネネ | でもひとまず今は、この人を取り押さえます! |
ツカサ | お、おう……! |
(ナミティエ・新作発表会) | |
ツカサ | さて、落ち着いたのはいいが……ネネ。 |
ツカサ | お前、マジでどこ行ってたんだよ。アタシに連絡もなしに……。 |
ネネ | すみません、私なりに、アシスタントさんの足取りを追っていて。 |
ネネ | でもおかしいな……不在にすること、署には連絡してたんですけど。 |
キャシー | あははっ!おおかた、署にいる時は課に閉じこもってたんだろ? |
キャシー | 誰とも話さずにさ! |
ツカサ | ……。あー……、なんだ。 |
ツカサ | わかった。 |
ツカサ | とりあえずホナミ社長の話を聞かねーとだな。落ち着いたし。 |
ホナミ | え?ええ……。 |
ホナミ | その……あのデザイン画を、持って来られた時。違和感がなかったと言えば、嘘になるわ。 |
ホナミ | でも、信じたくて……。 |
ホナミ | テヤンデールにあって、今のナミティエにない普遍的な魅力…… |
ホナミ | それを感じたから、私もすぐ、マスコミに情報を流すよう指示したの。 |
ホナミ | ……だけど、刑事さんたちに言われて、私自身も調べて……。 |
ホナミ | やっぱりあれは、テヤンデールのものだって疑いが強くなって。 |
ツカサ | ……それで今日、アンタもアイツがボロを出すのを待ってたってわけか。 |
ツカサ | まったく、ヒヤヒヤさせやがって。 |
ネネ | まあまあ、ツカサさん。間に合ったんだから、いいじゃないですか。 |
ホナミ | 私は……新作発表会を記者会見に変更し、全てを公表しようと思っているの。 |
ホナミ | よければ、一緒に出席してくれないかしら? |
キャシ | お安いご用!って言いたいとこだけど…… |
キャシー | あたし、ホナミに恨みはないからさ。できれば、穏便に済ませたいんだよね。 |
ツカサ | 確かに、戦いたくないって言ってたけど……どうするつもりだよ? |
キャシー | へへっ、そこはツカサが言ってた、ウィンウィンってやつ♪ |
キャシー | あたしの名案、みんな聞いてちょーだい! |
数日後――。 | |
ツカサ | あーあ。また実績にならねー事件を解決しちまったな。 |
ネネ | ふふっ♪そう言いつつ、ちょっと楽しそうでしたけど。 |
ネネ | はい、コーヒーどうぞ。 |
ツカサ | まぁな。キャシーもホナミも、あれから連絡がないってことは、上手くやってるんだろうけど…… |
ツカサ | どうしてるんだか……。 |
TV | 『さて、先日の新作発表会で話題をさらった、テヤンデールとナミティエのコラボ商品ですが……』 |
TV | 『そのシリーズ名が決定したそうです!』 |
TV | 『その名は……アンビバレント!』 |
TV | 『テヤンデールとナミティエの関係性を象徴するようなネーミングですね』 |
ツカサ | なっ……!! げほっ、げほっ……! |
ネネ | ツカサさん!? 大丈夫ですか? |
ネネ | バッグの名前が、そんなに面白かったんでしょうか……。 |
キャシー | おお、今日もやってるねえ!どう?調子は! |
ホナミ | コラボバッグの感想を聞きにきたのだけど。取り込み中だったかしら……? |
ツカサ | な、なんでもねぇよ。 |
ツカサ | コホン。 |
ツカサ | バッグのデザインね。さっき見たけど……なかなかイイんじゃねぇの? |
キャシー | なかなかイイ、かぁー。結構、気合い入れたんだけどなぁ……。 |
キャシー | ねぇ、ホナミ? |
ホナミ | そうね……。まだまだ、改良の余地があるということかしら……? |
ネネ | 大丈夫ですよ♪ ツカサさんがなかなかイイって言う時は、かなり褒めてる時ですから。 |
ツカサ | そういうフォローはいいんだよ。 |
ネネ | コーヒーだけは、素直に褒めてくれるんですけど。 |
ツカサ | ネネ! |
ネネ | はーい♪ |
ツカサ | アタシの名はツカサ。 |
ツカサ | こう見えて、刑事。そんで、趣味は仕事。 |
ツカサ | 今のところの…… |
ツカサ | いや。 |
ツカサ | 相棒のネネと、これからもやっていくんだと思う。 |
ツカサ | この、特麗課で。 |
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