少女たちには夢があった。光降り注ぐ舞台で、輝きたいという夢が。
そんな彼女たちが挑む、多くの名優を輩出する演劇祭。
かつて憧れた舞台は、憧れのまま終わるのか……!?
主人公を演じるのは、ツンもデレもあるあのアイドル!
一番星を目指すアイドルや、お菓子作りが好きなアイドルも大活躍!
さあ、客席でお待ちの皆様、夢と青春の演劇ストーリー、間もなく開演です!
(舞台が、嫌い) | |
――舞台に、憧れていた。眩く光り輝く、あの場所に。 | |
カレン | さて、ここで問題です。ホウジョウ・カレンは物事を簡単に諦める子? |
リン | まさかでしょ。カレンは……あがくよ。 |
幼いナオ | ……すごい。この舞台、最高だ! |
ウヅキ | 来てくれたのに、ごめんなさい。私はここで歌い続けなきゃいけません。 |
アイコ | 私は、激しい歌を知りません。勇ましい歌は、わかりません。でも……それでも、歌える歌は、あるんです! |
アカネ | 名前を読んで、一緒に遊んで……仲良くなれたと思ったら、もうトモダチなんですよ! |
幼いミオ | ……すごい。私も、この子たちみたいに輝きたい! |
アリサ | 正しく導くのが大人の務めってこと。放っておけなかったのよ。 |
ミユキ | ……行こう、ミドリ様の居る場所へ! 本当においしいごはんを、食べてもらうために! |
チエリ | 今からは、対等な友だちだよっ! 離れてても、住む世界が違っても……ずっとっ! |
幼いカナコ | ……すごい。みんな、たくさんのお客さんを笑顔にしてる……♪ |
あの日、あたしたちは舞台を観て、彼女たちの輝きに、どうしようもないくらい憧れた。 | |
そして、思ったんだ。いつかは、あたしも―― | |
って言っても、舞台の世界なんて、そんな甘いもんじゃなかったけどな。 | |
あそこは、才能とかオーラとか、そんなもので左右される、どうしようもない場所だと思ったよ。 | |
あたしが、決して輝くことのできない場所だって、 |
クラスメートA | ねえねえ、この脚本、めっちゃよくない!? 私の自信作! |
クラスメートB | これなら、今年は狙えちゃうかもよ!? 輝劇祭で一番輝いた劇団に与えられる称号―― |
クラスメートたち | スター! |
クラスメートC | となれば、あとは配役だよね。ここはやっぱり、オーディションで決めようよ! |
ナオ | (輝劇祭……もうそんな時期か。でも、あたしには関係ない。……帰ろう。) |
クラスメートA | あっ、ナオ! ナオもさ、一緒に舞台を作ってみない? ダンスのアンサンブル、募集してるんだ! |
クラスメートB | 球技大会の時のチアガール、よかったもん! ダンスもすっごい上手だったし、ナオは舞台でも映えそ…… |
ナオ | いいっ! あたしはいいからっ! |
クラスメートB | そ、そう……? |
ナオ | あ、ごめん……急に大きな声出したりして。でもほら、あたしは女優ってガラじゃないしさ! |
クラスメートB | そうかなぁ……ナオが舞台に立ったらきっと素敵だろうし、観てみたいけど……。 |
ナオ | あー、はは……。 |
クラスメートB | あ、じゃあチラシだけでも持ってってよ! 素敵な劇にするから、観にきてくれたら嬉しいな! |
ナオ | ……おう。気が向いたらな。んじゃ、おつかれー。 |
ナオ | (あいつらがやるのは……へぇ、スパイものか。銃と刀での殺陣もあって……かっこいいな) |
ナオ | (主人公は、飄々とした実力者のスパイ。新人の相棒と組んで、とあるミッションに挑む、か) |
ナオ | (……周りには、誰もいない……誰も見てないし……少しだけ、やってみよう) |
ナオ | 『ははっ、オレたちにチームワークなんてあるはずないだろう?』 |
ナオ | 『これはゲームさ! ターゲットを騙し、情報を抜き取る、至極簡単な、ね』 |
??? (ミオ) | 『簡単なら、僕がついていってもいいでしょう!? 先輩の実力を、この目で見たいんです!』 |
ナオ | 『何を言ってるんだ? オレは誰ともつるまない。それがポリシー……』 |
ナオ | って、なんだよ!? っていうか誰だ!? 勝手にセリフに突っ込んできて! |
??? (ミオ) | だって、舞台はひとりきりじゃ作れない……でしょ? |
??? (ミオ) | よかった。ナオ、劇団を辞めたって聞いたけど、まだ演劇を続けてたんだね! |
ナオ | ……アンタ、なんであたしのことを知ってるんだ? |
??? (ミオ) | なんでって、悲しいなー。一緒に輝劇祭の舞台を観に行った幼馴染みを忘れたのかい? |
ナオ | 舞台を観に行った幼馴染み……で、この押しの強さっていったら……ミオか!? |
ミオ | 押しが強いは余計だよ! でも正解☆ 久しぶりだね、ナオ。 |
ミオ | 今日は、演劇が好きなナオに会いたくて、来ちゃった☆ |
ナオ | 来ちゃったって……生憎だったな。あたしは劇団を辞めたし、舞台のことももう好きじゃない。 |
ミオ | またまたー! 今の、相当練習してる子の演技だったよ? 素直になりなって〜☆ |
ナオ | ふんっ! ……素直になれば、何かが変わるってのかよ。 |
ミオ | うん、変わるよ。少なくとも、私はそう信じてる。 |
ミオ | 手始めに、私が素直な気持ちをぶつけて、夢への一歩を踏み出してみせるよ! |
ミオ | 宣誓ー! 私は、ナオと舞台をやりたい! っていうか、やる! |
ナオ | …………は? |
ミオ | そのために、所属してた劇団も辞めてきました! |
ナオ | はああああああああ!? |
(タイトル表示) |
(閃光) | |
ミオ | お願い! 一回だけ……今年の輝劇祭だけでいいんだ。私と一緒に、舞台に出てほしい! |
ナオ | ……ミオは、輝劇祭にもあたしにも、やけにこだわるよね。 |
ミオ | そりゃあね。輝劇祭は、この小さな田舎町で一番のお祭りだもん。 |
ミオ | 芸事の神様に捧げる舞台を、誰でも観ることができる。そこで一番輝いた劇団に与えられる称号が、スター。 |
ミオ | スターとなった劇団からは、多くの名優が生まれてる。役者を目指すなら、誰だってスターを獲りたいと思うよ。 |
ミオ | でも、それだけじゃない。私は輝劇祭で初めて舞台演劇を観て、憧れた。それはナオも同じでしょ? |
ナオ | …………ああ。そうだな。 |
ナオ | (憧れを抱いてから……ううん、憧れを抱く前から、舞台は、あたしにとっての救いだったよ) |
おともだち (幼いカナコ) | ナオちゃ〜ん! 今度のお遊戯会、頑張ろうねっ♪ 私たちの役は、親友同士なんだって。 |
おともだち (幼いカナコ) | だから、えっと……私たちも、このお話のふたりみたいに、お友だちになれるかな……♪ |
幼いナオ | そ、そんなことわかんないよっ! それよりも、今は台本を覚えた方がいいって! |
おともだち (幼いカナコ) | ……そっか、そうだよね。変なこと言ってごめんね。 |
幼いナオ | (あうぅ……またやっちゃった……) |
素直になれない。言い方はぶっきらぼう。誤解されたりがっかりされたりするのは当たり前。 | |
でも、舞台の上でだけは、違ったんだ。 | |
幼いナオ | 『アンタはあたしの友だちだ! かけがえのない、大切な友だちなんだ!』 |
あの時、舞台で口にしたのはアドリブだった。この役ならこう言うという解釈と、あたしが彼女に言いたかった本音。 | |
そのふたつがぴったり重なって、咄嗟に口をついて出た言葉だった。 | |
おともだち (幼いカナコ) | ナオちゃん……! |
幼いナオ | カナコ……。 |
舞台の後、親友役だったあの子が、あたしに駆け寄ってくる。 | |
おともだち (幼いカナコ) | アドリブ、すっごくよかったよ! ナオちゃんが友だちだって言ってくれて、嬉しかった……♪ |
その日から、舞台の上は、あたしが唯一素直になれる場所に変わった。 | |
友だちに誤解されたり、がっかりされたりしない、あたしにとっての救いの場所だった。 |
ミオ | ねぇ、ナオ。私さ、ナオと久しぶりに会って、もう舞台なんて知らないって、演劇なんて大っ嫌いって言われたら、きっぱり諦めるつもりだったんだ。 |
ミオ | でも、そうじゃないなら、何度だって言わせてよ。私と一緒に、舞台をやろう! |
ナオ | ……一緒にやって、それが目も当てられないくらいひどいもんだったら、どうするんだよ。 |
ミオ | そうはならないよ! なんたって、ミオちゃんがついてるからね☆ |
ナオ | はは……相変わらず自信家だな、ミオは。でも、自身があるのもわかるよ。 |
ナオ | ミオは眩しいくらいに輝いてるからな。きっと劇団の中でも主役を任されるくらいの実力者だったんだろ? |
ミオ | えっ、もしかしてナオ、劇団に入ってからの私の活躍とか知ってた!? 照れますなー♪ |
ナオ | そ、そんなんじゃないっ! ただ…… |
ナオ | (ただ……言っても信じられないか。あたしは、舞台役者の輝きが見える、なんてさ) |
幼いナオ | あー! 輝劇祭の舞台、すっごい面白かったー! |
幼いカナコ | 私も! お遊戯会じゃない舞台って、初めて観たよ! |
幼いミオ | すごかったよねー! いつか、あのお姉さんたちみたいに、かっこいい役、やってみたい! |
幼いカナコ | じゃあ、お願いしようよ♪ お母さんが言ってたの。輝劇祭の神様は、流れ星に乗ってやってくるんだって。 |
幼いカナコ | それでね、演劇が大好きな子の舞台のためのお願いを、叶えてくれるんだって! |
幼いミオ | あーっ! 今の、流れ星じゃなかった!? |
幼いカナコ | 大変〜っ! 早くお願いしなきゃ! |
幼いミオ | 私は、舞台の上でキラッキラに輝く女優になれますように☆ |
幼いカナコ | 私は、みんなを笑顔にできる役者さんになりたいなぁ……♪ |
幼いナオ | あたしは……ずっと、ずっと、ずーっと、舞台の上に立っていたいっ! |
変化が起こったのは、その次の日からだった。 | |
役者としての才能というのか、それとも、オーラとでも言うべきものか。そんな曖昧なものが、 | |
人の纏う輝きとして、あたしの眼には見えるようになったんだ。 | |
先生 | みんな、この劇団に入ってくれてありがとう! 今日は本読み稽古といって、みんなで台本を読んでいきましょう。 |
劇団の子 | 『一番ステキにできた子が、祝福を受ける大女優♪』 |
幼いナオ | (あっ、あの子、すごく上手……! それに、キラキラがたくさん見える……!) |
先生 | ほら、次はナオちゃんよ。 |
幼いナオ | え、えっと……『み、みんなを魅了し、舞台の上へとご案内♪』 |
先生 | うん、いい感じね。 |
幼いナオ | (いい感じ……? 本当に? 上手な子は、キラキラして見えるけど……台本を持つあたしの手は、普通だ……) |
劇団の子 | 次、もう一回ナオちゃんだよ! もっとちゃんと読んで! |
幼いナオ | (読んでるよ……。でも、ちゃんと読んでも、あたしはここにいるみんなみたいにキラキラできない……) |
劇団の子 | ナオちゃん、聞いてるの? 脇役だからって、手抜いちゃダメなんだよ! |
先生 | あらあら、駄目よ。お友だちにキツく当たっちゃ。 |
幼いナオ | あたし、手なんて抜いてない! 頑張ってるのに、そんな言い方ないだろ!? |
劇団の子 | ……ナオちゃん、怖い。声も大きいし、言葉も乱暴だもん。 |
先生 | ホラ、もうよしなさい。気を取り直して、次の場面にいきましょう! |
それから、劇団内の雰囲気は、少しずつ悪くなっていった。 | |
あたしのせいだと思った。納得のいく演技も、できる気がしなかった。 | |
だから、あたしは、逃げるように劇団を辞めたんだ。 |
ナオ | ……ごめん。あたしはやっぱり、ミオの願いは聞けないや。 |
ミオ | なんで? ブランクがあってもフォローするし…… |
ナオ | そもそも、あたしは舞台役者に向いてないんだよ。舞台の上で出せるオーラってもんがないし、言葉遣いはどうしたって直らなかった……また劇団の雰囲気を悪くしたら、どうするんだよ? |
ミオ | ナオ……。 |
ナオ | なあ、ミオ。神様って残酷だよな。 |
ナオ | ……ない夢なら、最初から要らなかったんだよ。 |
(光明) | |
ナオ | で、ミオは役者にしろ裏方にしろ、何か当てがあるのかよ? |
ミオ | …………ない、かな〜。 |
ナオ | ないのかよっ! まさか、劇団辞めたのも見切り発車なんじゃないのか? |
ミオ | そ、その辺の事情は、まあおいおい……。でも、辞めたからには劇団の伝手も使えないんだよね……。 |
ナオ | だったら、奥の手の「周りに固めてあたしを引くに引けなくさせよう」はナシ。解散だ解散! |
ミオ | ちょっとちょっと! 帰ろうとしないで! 大丈夫だから! |
ミオ | なんたって、ここは芸事の神を祀る町☆ 舞台に憧れる人は大勢いるよ! もちろん、裏方志望も含めてね♪ |
ミオ | なんて、勢いよく言ったのはいいけどさ。見つからない〜っ! |
ミオ | たいていの子はもう大手の劇団からスカウト受けたり、友だちと輝劇祭に出る約束してるんだもん! |
ナオ | じゃ、ここで解散ってことで。 |
ミオ | ダメーっ! まだ諦めないで! ほら! あの子! あそこで化粧品見てる子なんかどう!? |
ミオ | 見てよあの綺麗な肌にぷるぷるの唇! メイクも煌めくほどの仕上がりだよ〜! |
ナオ | おお……可愛いな……。ああいうの、プロにメイクしてもらうんだろうな。ってことは、彼女も役者なのか? |
ミオ | たぶんね! ってワケで、突撃ーっ☆ すみませーん! |
??? (セツナ) | はい〜? あっ、もしかして、メイク道具を見に来ましたぁ? すぐどきますねぇ〜。 |
ナオ | あ、違うんだ! それに、あたしらが見るとしても舞台用のメイクだしな……。 |
??? (セツナ) | ステージメイク! なら汗で落ちないのは必須ですよねぇ。ファンデは肌に密着するタイプがベストですよ〜♪ |
ナオ | おぉ、もしかして、舞台のメイクに詳しいのか? |
??? (セツナ) | うふふ、詳しいというより、好きなだけですけどねぇ。私は、魔法のようなメイクが大好きなんです♪ |
??? (セツナ) | 舞台には、色んな魔法があるでしょ? 別人になりきる演技の魔法に、舞台セットを異世界に変える演出の魔法…… |
??? (セツナ) | その中でもメイクは、舞台に立つ役者さんが、物語の世界の中に入っていけるように背中を押す魔法なんですよぉ♪ |
ミオ | 本当にメイクが好きなんだね。決めた! あなたに私たちの劇団でメイク係をしてほしい! あとアンサンブルも! |
ナオ | おいミオ! こんなにメイクが好きな人なら、もうどこかの劇団でやってるに決まってるだろ! |
??? (セツナ) | それが、いろんな劇団に応募したけど、落ちちゃったんですよねぇ〜。理由は、舞台メイクの経験が少ないから。 |
??? (セツナ) | 私、ずっと自分を可愛くするメイクの研究をしててぇ……舞台メイクを勉強し始めたのは、つい最近なんです。 |
??? (セツナ) | スターになりたい劇団は、みんな有名なメイクアップアーティストを採用してましたしねぇ〜……。 |
ミオ | だったらなおさらだよ! 私たちの劇団に入ってほしい! まだふたりしかメンバーがいなくて、新設したばかりの劇団だけど……だからこそ、私たちの舞台には、あなたのメイクの魔法が必要だよ! |
セツナ | ……私のメイクで、舞台に魔法を……うふふ、素敵なスカウトの言葉ですねぇ〜。ぜひ、このセツナにお任せを〜♪ |
ミオ | で、次は衣装係! セっちゃんの話だと、この展示会のドレスを作った子が、彼女のお友だちなんだよね! |
ミオ | 服飾学校に通ってるから、きっと力になってくれるって……ナオ、どうしたの? おーい! |
ナオ | …………綺麗なドレスだなぁ。 |
??? (ウミ) | おっ、気に入ってくれたかい? |
ナオ | うわああああああ!? 誰だ!? 何だ!? どうしてここに!? |
??? (ウミ) | あははっ、落ち着きなよ。ウチはこのドレスを作った張本人で、展示会の様子を見にきただけだからさ。 |
ミオ | じゃあ、セっちゃんの友だちって…… |
ウミ | ああ、ふたりがセツナの言ってた劇団の人たちだね。ウチはウミ。話は聞いてるし、衣装係の件、受けるよ。 |
ミオ | そんなにあっさり!? いいの!? |
ウミ | ああ。衣装は演劇のスイッチなんだ。着た途端、役者の意識がぐっとステージに向くからね。 |
ウミ | 学生の身でそんな大役を任せてもらえるなんて、むしろありがたいよ。 |
ウミ | それに、セツナが言ってたよ。輝劇祭は、ふたりの昔からの夢なんだろ? |
ウミ | ウチには弟がいるんだけど、とにかく夢見がちでね。野球選手にサッカー選手。パイロットになりたいって言ってたこともあったかな。キラキラとした目で、あれになりたい、こうしたいって語ってくれるんだ。 |
ウミ | だから、夢を追いかける人はつい応援したくなるんだよ。ふたりとも、輝く目をしてるしさ。 |
ナオ | 輝く目……あたしが……? そっか……ありがと、ウミさん。 |
ウミ | なに、ウチはウチにできることをするだけさ。その代わり衣装ができたら、ふたりの写真を撮らせてよ。 |
ウミ | 弟に自慢してやるからさ。お姉ちゃんも今、夢に向かって頑張ってるよって! |
ミオ | メイク係に衣装係、アンサンブルもけっこう集まってきたよね! |
ナオ | ま、順調なんじゃないか? |
ミオ | うんうん、ナオも楽しそうな顔してて、ミオちゃんも嬉しいぞ☆ |
ナオ | は、はぁ!? そんな顔してな……あ、ミオ、ちょっとストップ。足元。 |
ミオ | ん? ……あ、手帳が落ちてるね。誰かの落とし物かな? |
ナオ | 落とし主に届けた方がいいよな。いや、それよりも交番か? |
ミオ | んー、どっかに名前とか書いてないかな……。それとも、埋蔵金のありかとかメモしてあったりして……☆ |
ナオ | おいっ、そんな勝手に見ていいのかよ? |
ミオ | 最初のぺージだけ、ちょっと見るだけだって………………おおっ! |
ナオ | どうした!? まさか、本当に宝の地図があったのか!? |
ミオ | ううん、小説が書いてあったんだけど……これがすっごく面白い! 見てよ、ほら! |
ナオ | だから勝手に読むのは……って、面白いな……。 |
ミオ | でしょでしょ!? 特にこの、黒の女王と白の王子が出会うシーン! |
ミオ | 『可愛い貴方……香り立つ魅力で、私のトリコにしてあげましょう……♪』 はい、次はナオ! |
ナオ | 『それはこっちのセリフだよ。さあ、手をとって。エスコートをしてあげる』……って、乗せるな! |
??? (フウカ) | すごい……! |
二人 | えっ? |
??? (フウカ) | 私の思い描いた世界が……鮮やかに、一瞬で目の前に広がっていくみたいで…… |
??? (フウカ) | すっごくドキドキしちゃいました! もっと演じてもらいたいし、もっと色んな作品を書いてみたい……! |
ミオ | え……もしかしなくても……この手帳の持ち主さん!? ……ナオ。これは決まりじゃない? |
ナオ | ……ミオがそう言うなら、好きにすればいいだろ。 |
ミオ | オッケー! あなた、名前は? |
フウカ | えっと、フウカですけど……? |
ミオ | フウカ! 自分の作品を、舞台にしよう! それで、さっきのドキドキを、もっともっと味わおうよ! |
ミオ | メイク、衣装、脚本に、大道具にアンサンブル! よしよーし、順調に人が集まってるよね! |
ナオ | って言っても、メインの役者がふたりだけじゃ意味ないだろ。 |
ミオ | ふふふ〜☆ ナオってば、ちゃんと自分も数に入れてるんだねぇ♪ |
ナオ | あっ、いや、あたしはそんなつもりじゃ……! |
ミオ | ま、ナオが乗り気でも、あとひとりは役者がいないと、フーちゃんの脚本が上演できないんだけど……。 |
??? (カナコ) | ミオちゃん! ナオちゃん! よかった……見つけたぁ! 差し入れのクッキー、持ってきたよ♪ |
ナオ | あたしの名前を知ってて、お菓子を差し入れする……だいたい流れがわかってきた、アンタ、カナコだな! |
カナコ | うん、久しぶりだね、ナオちゃん♪ |
ミオ | カナコはね、私と同じ劇団だったんだー。やっぱり、輝劇祭に憧れてね♪ |
カナコ | でも、ミオちゃんほど上手な演技はできなくて……名前のある役は、もらえたことがなかったんだ。 |
カナコ | だから、どちらかというと、稽古を手伝ったり、手作りのお菓子を差し入れたりすることの方が多くて…… |
カナコ | 途中からはもう劇団も辞めちゃって、ほとんど差し入れに行ってたようなものだったよ。 |
カナコ | だから今回、ふたりが新しい劇団を作るってきいて、何か力になれたらなって思ったんだ♪ |
ナオ | ……なあ、ミオ。 |
ミオ | うん……私も、今までどうして気づかなかったんだろうって思ってるよ……。 |
二人 | 見つけた! 一緒に舞台に立つ、もうひとりの役者! |
(残照) | |
カナコ | 私、やってみたいな……。自身はなくても、ナオちゃんやミオちゃんとなら、大丈夫って思えるから♪ |
ミオ | だってさ、ナオ。ここまで言われたら、役者冥利に尽きるってもんだよね☆ どうする? |
ナオ | 〜〜〜〜〜〜っ! わかった、わかったよ! |
ナオ | これだけメンバーがそろって、あたしがやらないからはい解散ってわけにはいかないだろ! |
ミオ | やったね! カナコ、ハイターッチ! |
カナコ | は、ハイターッチ♪ |
こうして、輝劇祭に向けて、あたしたちの劇団は動き出した。 | |
ミオ | はいはーい! みんな、ちゅうもーく☆ 脚本が完成したよ! まずは作者のフーちゃん先生から一言☆ |
フウカ | せ、せんせい!? ……えっと、みなさんが輝ける脚本にしたつもりで……いえ、みなさんが輝ける自信作です! |
ミオ | というワケで、配役発表をしまーす! |
フウカ | まずはお姫様の幼馴染みで、心優しい宮廷の菓子職人を、カナコさんに演じていただきます……! |
カナコ | はいっ、頑張ります♪ |
フウカ | 次は、突然お姫様のもとに訪れる謎多き旅人……こちらはミオさんです。 |
ミオ | オッケー! 超かっこいい旅人を演じてみせるよ! |
ウミ | ウチやセツナはアンサンブルだね。商人や女王になって、舞台を盛り上げてやろうじゃないか! |
フウカ | それから……長い間、素直になれずに苦しむお姫様を、ナオさん、よろしくお願いします……! |
ナオ | はいはい……はぁ!? あたしがお姫様!? ガラじゃないだろ!? |
フウカ | いいえ……ナオさんとミオさんの演技を見た時から、ぴったりだって思ってたんです。 |
ナオ | だからってなぁ……。 |
ナオ | (とはいえ、お姫様のセリフは短い……彼女の本音が明かされるのは、クライマックスだけだ) |
ナオ | (たとえあたしが輝けなくても、クライマックスまでに、ミオたちが劇を盛り上げてくれれば……) |
カナコ | ナオちゃん、大丈夫……? |
フウカ | お姫様役は、嫌でしたか……? |
ナオ | (みんな、あたしを心配してる。……全員で、いい舞台を作ろうって思ってる) |
ナオ | (……なのに、あたしだけがこんな気持ちじゃ、ダメだよな) |
ナオ | (あたしだって、あの日憧れたようなすごい舞台を作りたい。輝きがなくても、可愛いお姫様なんてガラじゃなくても) |
ナオ | ……わかった。やってみるよ、お姫様の役。 |
顔合わせを終え、本読みも終えたら、次の日からは立ち稽古が始まる。 | |
ミオ | 『お姫様! 本日はご機嫌いかがです? おっと、城内が暗くては顔が見えません!』 |
ミオ | 『カーテンを開け、ついでに貴方のお好きな花を飾りましょう! 先ほど、商人から買ったのです』 |
ナオ | 『……本当に調子のいい旅人。あなた、一体何をしているの?』 |
ミオ | んー、ここはもう少しコミカルにした方がいいかな? ナオとフーちゃんはどう思う? |
フウカ | たしかに……序盤なので、笑いで観客の意識を舞台へ惹きつけたいですね。 |
ナオ | だったら、もう少しうんざりした様子で……『はぁ……本当に、調子のいい旅人。あなた、一体何をしているの?』 |
ミオ | あっ、その感じ、すごくいいかも! 姫のうんざりした表情がコメディちっくでさ! |
ナオ | 『カナコ、あなたまで……!?』 |
カナコ | 『はい、姫様♪ 私……私……』 えっと…… |
ナオ | 『……なんですか、その手に抱えた菓子の量は。あたしがそんなに食べられるはずないでしょう』 |
カナコ | 『マ、マカロンとクッキーとシュークリームですっ! 美味しいから大丈夫ですよ!』 |
セツナ | ナオちゃん、今のナイスアドリブだねぇ〜! |
カナコ | おかげで、セリフも思い出せたよ。ありがとう、ナオちゃん♪ |
ナオ | あ、いや……今のは咄嗟に出てきたんだよ! お姫様ならこう言うかなって! |
カナコ | ふふっ、昔のお遊戯会を思い出すなぁ……♪ あの時も、ナオちゃんはたくさんフォローしてくれたね。 |
ナオ | ……そうだな。 |
ナオ | (あの頃は、輝けるかなんて考えてなかった……ただ、楽しく演じてたんだ) |
ナオ | あたしも、あの時と同じことを思ってるのかもな。みんなと舞台を作れるのが、すっごく楽しいんだ! |
ミオ | 楽しむことこそ、上達の道であーる! いい感じだね。ナオにつられるように、みんなの演技もよくなっていってる。 |
ミオ | (これなら……ナオたちとなら、私だって、一緒に輝ける!) |
フウカ | では……次は、王宮でダンスパーティーをするシーンを練習してみましょう……! |
ナオ | ワン、ツー、スリー……よし、足並みは揃ってる! このままミオとカナコとステップを合わせて……フィニッシュだ! |
セツナ | わぁ……♪ 息ぴったりですねぇ! |
ウミ | うんうん♪ ウチらもノリノリでバックダンスできたよ! |
ナオ | ははっ。あたしも、実は今までで一番手ごたえがあって…… |
ナオ | あれ? |
ミオ | ナオ、どうしたの? |
ナオ | ……いや、何でもないよ。 |
ナオ | (今、あたしの手が輝いた……一瞬だけ、そう見えた) |
ナオ | (あれは、ミオの眩しすぎる輝きでも、カナコの優しい輝きでもなかった。だったら、あたしの輝きか……?) |
ナオ | (なんでだ……? この脚本だから? この役だから? この劇団だったら……あたしは輝けるのか?) |
――数日後 | |
ミオ | うん、練習の甲斐あって、かなりまとまってきたよね! このままいけば、スターの称号だって夢じゃない! |
カナコ | は、はひぃ〜……! |
ナオ | カナコ、少し疲れてるだろ。そろそろ休憩にしても…… |
??? (アイリ) | えっ、もう休憩なんですか〜? |
??? (ツカサ) | 役者は体が資本だからな。その点、そこのナオ……だっけか? アンタはよくわかってるよ。 |
??? (ハヤテ) | でも、ハーはもっと観てたかった! 面白そうな演目だったし♪ |
ミオ | アイリにツカサ……。それに、ハヤテまで……。 |
ナオ | ミオ、知り合いか? |
アイリ | 前の劇団で、同じチームにいたんですよ〜。ミオちゃん、元気そうでよかったですっ! |
ミオ | みんなこそ。その……そっちはどう? 私、勢いで飛び出しちゃったからさ。 |
ハヤテ | みんな気合入ってるよ! ミオがいなくなった後は、自分が次の一番星になるんだって、モチベ上がりまくり! |
ナオ | 一番星……? |
アイリ | 知りませんか? 演劇界でミオちゃんが持つ称号というか、あだ名みたいなものですよ〜♪ |
ツカサ | オーディションでは必ず主役を射止めて、舞台に立てば誰よりも強く輝ける。 |
ツカサ | だから、ミオは呼ばれてたんだよ。一番星ってな。 |
アイリ | ミオちゃんが劇団を辞めた時、みんなで不思議がってました。大きな劇団で、一番星と呼ばれて……どうして? って。 |
アイリ | でも、今わかりました。ミオちゃんは、私たちとは違って、ただ楽しい舞台を作りたかった。……ですよね? |
ナオ | なあ、それ、どういう意味だ? |
ハヤテ | 気になるなら、ハーたちの稽古も見にきてよ! ミオにも、ハーたちだけで頑張ってるとこ、見せたいし! |
ツカサ | 『この物語は、喜劇でもなければ、悲劇でもなく。ただ、今を生きる少女たちの姿を……克明に映し出すのみ』 |
アイリ | 『誰が! 誰が私たちの夢を! 信念を! 希望を! 打ち砕くことができるというの!?』 |
ハヤテ | 『私は生きるわ! 皆と共に! 光の中で美しく! 最期のその時まで、舞台の上にいたいもの!』 |
それは、今までに観たこともない舞台だった。誰もが一度観たら、二度と忘れられなくなる舞台だった。 | |
今までの舞台の常識を打ち破ろうという、実験的な脚本と演出。 | |
それに……稽古だというのに、全員が、目を背けたくなるほどの、巨大な輝きを放っていた。 | |
ナオ | なあ、カナコ……ミオは、こんなにすごいチームにいたのか……? |
カナコ | うん……同じ劇団でも、私が所属していたチームとは、天と地くらいの差があったよ。 |
カナコ | トップクラスのチームは、新たな演劇を生み出すことを目標に掲げて、高みにのぼり続けるため、稽古を重ねるの。 |
ナオ | はは……そりゃあ、あたしたちはただ、舞台を楽しんでるだけに見えるよな……。 |
ミオ | …………。 |
ナオ | それに、輝劇祭には当然、彼女たちも出演するんだろ……? |
ナオ | あたしたち、勝てるのかよ……この劇団に……。 |
(暗転) | |
ナオ | 『これは、お母様から譲っていただいた、お気に入りのドレス……これは、パーティーで……パーティーで……』 |
ミオ | 『パーティーで食した、甘い焼き菓子』だね |
ナオ | ……悪い、もう一回やり直させてくれ。 |
ウミ | 珍しいね。ナオがセリフを飛ばすなんて。 |
セツナ | セリフを忘れることなんて一度もなかったですもんねぇ。むしろ、いつも私たちのフォローしてくれて……。 |
ミオ | ナオはね、役と自分をシンクロさせるタイプなんだ。もともと物語にのめりこむ性格で、アニメとかもよく見てるし。 |
カナコ | 私も、前にナオちゃんがこう言っていたのを、聞いたことがあるんだ。 |
カナコ | この役ならこう言うって解釈と、ナオちゃんの言いたいことは、舞台の上でぴったり重なるんだって。 |
カナコ | だから、自分はこんな性格だけど、舞台の上でなら素直になれるんだって。 |
セツナ | でも……今は、そのナオちゃんが上手く演じられていないんですよね……。 |
ナオ | はぁ……っ、はぁ……っ、悪い、もう一回だけ付き合ってくれ……。 |
カナコ | ナオちゃん……ずっと稽古して疲れてるんですよ。少し休憩しましょう、ね? |
ミオ | そーそー。その間は、カナコと私が出るシーンをやってるからさ。 |
ナオ | …………わかった。 |
フウカ | では、旅人と菓子職人のシーン、お願いします……! |
ミオ | 『かき混ぜる時に入れるのは、空気と愛情、それから、キラッキラの砂糖をた〜っぷり! そーれっ!』 |
カナコ | 『ふふっ、この旅人さんは、なんて明るいダンスをするんでしょう……』 きゃっ!? |
ミオ | あ……っ!? ご、ごめんカナコ! 私、派手に動きすぎて……! ケガはない? |
カナコ | うん、大丈夫……私の方こそごめんね。もう少し下がってれば、ぶつからなかったのに……。 |
フウカ | ……い、いえ! カナコさんの立ち位置は、そのままでお願いしていいですか? |
カナコ | え? は、はいっ。 |
フウカ | そ、それと……ミオさん。動きが大きすぎて、舞台を独り占めしすぎてます。なので……その……。 |
ミオ | ……! そ、そうだね! もっと周りを意識してみる。 |
フウカ | では……気を取り直して、もう一度お願いします……! |
セツナ | みんな、調子悪そうですねぇ……。 |
ウミ | ナオはセリフをよく飛ばすし、ミオは前に出すぎ。逆にカナコは引っ込みすぎか……。 |
ウミ | それも、前にミオが元いた劇団の稽古を見てから、だっけ? |
ウミ | ウチらは大道具の人との打ち合わせでいなかったけど……何かがあったんだろうね。 |
フウカ | いずれにせよ、よくない状況です……。もしかしたら、あっちの劇団の雰囲気に呑まれちゃったのかな……。 |
ウミ | それって、向こうを真似し始めちゃったってことかい? |
セツナ | 向こうは重くて考えさせるお話でぇ……私たちの演目は、わかりやすいハッピーエンドですよねぇ。 |
セツナ | 真似なんてできるんですか〜? |
フウカ | えっと……どちらかというと、演じ方の影響を受けてるっていうんでしょうか……。 |
フウカ | 自分たちも、あんな風にならなきゃって焦ってる感じというか…… |
フウカ | うぅ……もしかしたら、素人の的外れな意見かもしれないんですけど……! |
ウミ | どちらにせよ、今日はこれで解散した方がいいかもね。個人で台本を読んで、ウチらの演目に向き合ってもらうんだ。 |
フウカ | そうですね……。す、すみませーん! 今日は少し早いけど、稽古終わりたいと思います! |
ナオ | ……っ! なんで……やっぱり、あたしが輝けないからか……? |
ミオ カナコ | ナオ? ナオちゃん? |
ナオ | あ、いや、何でもない。休憩は大事だよな。調子悪い時は、無理してもろくなことないし。 |
カナコ | そうだね。それに、ほら、今日は夕方から雨だって、天気予報でも言ってたよ♪ |
しばらくして、カナコが言っていたように、雨が降り始めた。 | |
泣きたいあたしのために、空が泣いてくれてるのかな……なんて、あたしは考えて―― |
ミオ | あれ? カナコ? |
カナコ | ミオちゃん! ふふっ、私たち、考えてたことは同じみたいだね。 |
ミオ | あはは、せっかく晴れたし、室内でひとり稽古してると、息が詰まっちゃうって思って…… |
ナオ | 『本当は、憧れてたんだ……私、私だって……』 ちくしょう! 上手く演じられない……! |
ミオ | この声は…… |
ナオ | (アイリたちの演技が、頭から離れない……少しでも練習してないと、安心できない……) |
ナオ | (なのに、練習すればするほど思う……こんなんじゃダメだ。これじゃあ、勝てない……) |
ナオ | (違う、勝つことが大事なんじゃない。あたしはただ、楽しく舞台に立てれば……) |
ナオ | (ああ、もう……! 頭の中がぐちゃぐちゃだっ!) |
カナコ | ナオちゃん! 大変……体が冷えてる! |
ミオ | ふらついてるし……まさか雨の中でずっと練習してたの!? |
ナオ | ……っ! だって、できないんだ……だから、もう一回……。 |
カナコ | ナオちゃん、ダメですっ! 今日は帰りましょう? 送っていきますから、温かくして休んでください……! |
ナオ | それじゃあ、あたしがみんなの足を引っ張っちゃうだろ!? |
ナオ | 観てる人にも、手抜きだなんて思われたくないっ! |
ナオ | 今までは、みんなが輝けばそれでいいって思ってた…… |
ナオ | あたしは、それを近くで見ているだけでいい。舞台を作る仲間になれただけで、充分幸せだって……。 |
ナオ | でも、それじゃあダメなんだよ!! |
ナオ | アイリたちは、みんな輝いてた! だから、あたしだけが輝けない今の状況じゃダメなんだ! |
ナオ | このままじゃ……勝ち負けどころか、楽しい演技すらできやしないだろ! |
ミオ | ……ねぇ、ナオ。私、ずっと気になってたんだ。 |
ナオ | …………何が? |
ミオ | どうして、あんなに舞台に憧れてたナオが、急に劇団を辞めたのか。 |
ミオ | もちろん、噂には聞いてたよ。途中から、上手く演技ができなくなったんだって。 |
ミオ | あんなに演技が上手い子も、一時のスランプでへこんでしまう凡人だったんだって、みんな勝手なことを言ってた。 |
ミオ | でも、私と再会した時、ナオの演技は上手いままだったよ。 |
ナオ | ……それに、ナオちゃんは私に言ってくれたよね。カナコなら輝けるって。 |
カナコ | そして、さっきは自分だけが輝けないって言ってた。 |
カナコ | 突飛なことを言ってるように聞こえたらごめんね。でも、私だけじゃなくて、ミオちゃんも薄々感じてると思うんだ。 |
カナコ | ナオちゃんは、もしかして……私たちには見えないものが、見えているんじゃないのかな? |
(流星からの贈り物) | |
ミオ | 輝きが、見える……? |
ナオ | ああ。役者としてのオーラなのか、才能が放つ光なのかはわからない。 |
ナオ | でも、輝いて見える人は必ず、舞台の上では更に強い輝きを放って……成功していった。 |
カナコ | いつからかとか、原因とかは……? |
ナオ | わからないよ。見えるようになったのは、あの日からだ。みんなで、流星に願ったあの日。 |
ナオ | ずっと舞台に立っていたいって願ったのに、妙な力のせいで舞台の上から去ることになったんだから、皮肉な話だよ。 |
カナコ | じゃあ、ナオちゃんが私に輝けるって言ってくれたのは…… |
ナオ | そのままの話だよ。……カナコの輝きは、柔らかい光だ。周りの人を包み込むような、優しい光。 |
ナオ | ミオはまさに一番星だな。舞台の上で、誰もが真っ先に見つけられる存在だ。 |
ナオ | ふたりとも、あたしにとっては眩しすぎるんだよ。あたしは、輝いてなんかいないんだから。 |
カナコ | だから、ナオちゃんは演劇をやめたの……? 自分は、輝けないって思ったから……? |
ナオ | ああ、そうだな。 |
ミオ | ……違う。 |
カナコ | ミオちゃん……? |
ミオ | だって、ナオはあんなにも舞台に憧れてた! 演劇が好きだったんだよ!? |
ミオ | 輝きなんて不確かなものを理由に、諦めるなんてこと、あるはずがない! |
ナオ | わかったようなことを言うな! ミオにはあたしの気持ちなんかわからないだろ!? |
ナオ | あたしは舞台の上で、演じる役と自分を重ねて、素直な気持ちを言葉にできた。それが楽しかった。 |
ナオ | でも、輝きが見えるようになって……みんなのように、あたしは輝けないってわかって…… |
ナオ | 自分が惨めに思えるんだ。そんな気持ちで、演じる役と自分が、ぴったり重なるはずないだろ……!? |
ナオ | 誰かと演じる度に思ったんだ。惨めなあたしと、役を重ねるわけにはいかないって。 |
ナオ | そしたら、演技なんか、独りでいる時しかできなくなった! 舞台の上ですら、素直になれなくなった! |
ナオ | これでわかっただろ? あたしは、みんなと同じように輝けない……あたしが、今のみんなの足を引っ張ってる。 |
ミオ | ……そんな弱気なこと、言わないでよ。私は、ナオならって思ったんだよ……? |
ナオ | ……なあ、ミオはなんで、そんなにあたしにこだわるんだよ。 |
ミオ | それは……ナオなら……昔、私の手を引いて、輝劇祭に連れていってくれたナオなら……私を…… |
ミオ | ……っ、ごめん。言えない。こんなの、ただの個人的な理由だから。 |
ナオ | 言えないような理由なら、最初からあたしなんかを誘うなよ! |
ナオ | ミオは一番星なんだろ!? だったら、ひとりで輝いていればよかったじゃないか! |
ミオ | 嫌だよ! 舞台で、独りで輝くなんて、私は絶対に嫌だっ!! |
カナコ | ふたりとも、もう止めてよっ! |
カナコ | ねぇ……今日は、もう帰ろう……? それで、また明日、話し合おうよ……? |
二人 | …………。 |
カナコ | ……また前に出られなかった。もっと早く止めてたら、ふたりとも、傷つくことはなかったのに……。 |
カナコ | (昔から、ずっとそう。自分に自信が持てないから、いつも端で大人しくして、光が当たるのを、避けてた) |
カナコ | (地味で、取柄のない私なんて、スポットライトを浴びる資格がないって、ずっと逃げ続けてたんだ……) |
カナコ | 変わりたい……もっと、前に出られる私になりたいのに……っ。 |
(回想)
ミオ | 『私は星! 夜空で光り輝く存在! みんながみんな、私に見惚れればいい!』 |
脚本家 | さすがですね、ミオさん。期待の新星と呼ばれた通りだ。貴方は時代を代表する役者になれる。 |
ミオ | あ、ありがとうございます! でも、あの演技は、他の役者さんたちがいたからできたことで……! |
演出家 | いいえ、あれはまさに、ミオさんが中心の舞台でしたね。 |
演出家 | むしろ、他の人もかすむ勢いでしたよ。みなさんも、ミオさんを見習うように。 |
ミオ | (私は、気づいたら舞台の上でひとりぼっちだった。……他の星をかすませて、ただひとりで、瞬いていた) |
ミオ | (一番星なんて呼ばれてさ。それは嬉しかったけど……いつも頭の中で、幼い私の声がする) |
憧れのあの舞台は、みんなで作り上げたものだったね。舞台は、独りで作るものじゃないんだよ? | |
ミオ | 嫌だよ。暗い夜空にたった独りなんて、絶対嫌だ……! |
ミオ | (私は、友だちと一緒に輝きたかった。だから、ナオに会いに来た。最初の友だちである、あなたに……) |
――翌日。三人が顔を合わせても、気まずい空気のまま、昨日のことを話し合うことはなかった。 | |
稽古はいつも通りに始まり、一応は劇も形になってきた。輝きとは程遠くても。 | |
そして無情にも、輝劇祭の日は近づいてくる。解決しない問題を、残したままで。 |
ナオ | 『そんなこと……できません……できない……。私は……』くそっ! |
ナオ | (……やっぱり、ダメだ。どうやったって、最後のシーンが……素直になるシーンが演じられない) |
ウミ | ……日を改めても、ギクシャクしたままだね。 |
セツナ | 三人とも、やりづらそうですねぇ……。 |
ウミ | ……輝劇祭の本番まで、あと少し。でも、最後のシーンまでは、まだ一度だって通せてない。 |
セツナ | どうしましょう〜。何か、いい解決方法は…… |
ナオ | ……今なら、まだできるはずだよ。棄権の申請が。 |
全員 | !! |
ナオ | こんな、劇にもなってない劇を見せるより……いっそのこと―― |
フウカ | 待ってください! |
フウカ | 舞台の上は役者の世界……みなさんにしか、背負えないものもあるでしょう。 |
フウカ | そのうえで、私の勝手な願いを言わせてください……! わ、私は……私の書いた脚本をみなさんに演じてほしいです! |
フウカ | あの日、ナオさんたちが私の本に彩りをくれました。……初めてだったんです。あんなに胸が高鳴ったのは! |
フウカ | それに、私たち裏方にだって、プライドがあります。みんなで作り上げた世界を、ゼロにしたくないプライドが。 |
ナオ | フウカ……。 |
フウカ | 上手く演じられないのは、ラストシーンだけですよね? |
フウカ | ナオさんは、役にのめりこんで演じるタイプですから……今はもう、私よりも姫のことを理解しているはず……。 |
フウカ | だから、ラストシーンを変えます。 |
フウカ | 本番は、舞台の上で、ナオさんたちが思うままに演じてください。 |
ウミ | アドリブだなんて、そんな無茶な……。 |
フウカ | 大丈夫です。展開がどうなっても、私がナレーションでフォローしてみせますから。 |
そして、棄権という選択はとらないままに、輝劇祭の本番がやってきた。 |
(もっと、輝く自分へ) | |
ハヤテ | ミオたちは、これから本番? ハーたちの後だったんだね! |
ナオ | ハヤテ……。アイリにツカサも……。 |
ツカサ | アタシらは、ずっと一番星を越えたいと思って稽古を続けてきた。ずっと、アンタたちをライバルだと思ってる。 |
ツカサ | だから、稽古に呼んだ。そこで打ちのめされても、立ち上がり、立ち向かってくるってわかってたからだ。 |
アイリ | 行ってらっしゃい。私たちに、一番星よりも輝く演技を見せてくださいね♪ |
ナレーション (フウカ) | これは遥か昔、遠い遠い世界の出来事。 |
ナレーション | 素直になれないお姫様と、彼女に素直な言葉をかけた者たちの、友情の物語――。 |
商人 (セツナ) | 『清々しい朝ですね。朝日に照らされて輝くのは、ナオ様の類稀なるその美貌』 |
商人 | 『いかがでしょう? 東国より仕入れた白粉で、さらにその美しさを際立たせてみては?』 |
お姫様 (ナオ) | 『……いりません』 |
商人 | 『では、希少な金糸を織り込んだ豪奢なドレスは? 未来の伴侶を見抜く、よく当たる占いは?』 |
お姫様 | 『……興味ありません』 |
ナレーション | 気持ちの良い一日の始まり。けれどお姫様は、訪れた商人から顔を背け、冷たい言葉を吐くばかり。 |
ナレーション | そんなお姫様を心配していたのは、女王様でした。 |
女王 (ウミ) | 『我が国は、かつては貧乏な小国だった。それゆえに、私も姫に清貧を求めてばかりいた』 |
女王 | 『しかし、今はもう違うのだ。国は栄え、城には珍しい品を携えた商人が、毎日のようにやってくる』 |
女王 | 『ナオはもう、可愛いドレスを身に纏い、綺麗な宝石で自分を飾ることもできるはずだ』 |
お姫様 | 『お母様。何度でも申し上げましょう。私は、可愛いドレスなど着たくない……美しい宝石も、私には不要です』 |
女王 | 『何故なのだ? 姫は昔、私にこう言った。お母様のように、ドレスを着て、パーティーに出るのだと!』 |
ナレーション | 女王様は考えました。もしかすると、姫は何らかの事情で口を噤み、本音を語らないのではないかと。 |
ナレーション | そう考えれば合点がいきます。いつからか、姫は幼い頃のようには笑わなくなりました。 |
ナレーション | 彼女には、何か隠し事があるに違いない。しかし、女王様がどのように言葉をかけても、姫の態度は変わりません。 |
ナレーション | 困り果てた彼女は、家臣の手も借り、国中――いえ、世界中にお触れを出しました。 |
女王 | 『家来でも他国の王子でも、民でも道化でも構わない。褒美は何でも与えよう。誰ぞ、姫の本音を引き出してみよ!』 |
ナレーション | お触れからしばらくの間、お姫様の前には、民がひっきりなしに訪れました。 |
商人 | 『姫様! この宝石は一生に一度お目にかかれるか否かの代物! どうです? 喉から手が出るほどほしいでしょう?』 |
商人 | 『ささ、どうぞ手に取ってご覧ください!』 |
ナレーション | ある者は、姫の言葉や行動を無理やり引き出して、本音にしようとし―― |
文官 | 『褒美が"何でも"とは……姫様も策をめぐらせたものよ。どうです? 国家転覆の計画、私にも噛ませてみませんか?』 |
ナレーション | ある者は、姫を傾国を企む悪人に仕立てようとしました。 |
ナレーション | そう。誰もが、姫の本音になど興味なく、褒美や目先の欲にとらわれていたのです。 |
ナレーション | そのような日々が続き、やがて、姫の目は氷のように冷め切り、口は更に固く結ばれました。 |
ナレーション | しかし、訪ねる人も途切れ、朝と夜が幾度も過ぎ去った時、とある旅人が、王宮を訪ねてきたのです。 |
旅人 (ミオ) | 『ここがお城の大広間か! 私が友人から聞いていた城の風景とは大違い! まさに圧巻だ!』 |
お姫様 | 『な、何者ですか、あなたは!』 |
旅人 | 『私はミオ。芸を身の助けとし、世界を旅する者でございます』 |
旅人 | 『お忘れですか、お姫様? かつて約束したではありませんか。いつかまた芸を磨き、あなたの前で披露する、と』 |
お姫様 | 『……覚えては、います。けれど今やってくるなんて……あなたも所詮、褒美に目が眩んだだけでしょう』 |
旅人 | 『褒美? ああ、そういえばそんなお触れ書きが、国中に出回っておりました!』 |
旅人 | 『私がしばらく帰らない間に、姫様も変わられたのかもしれません。しかし、本質は変わらないはずです』 |
旅人 | 『私と出会った頃のまま……少しぶっきらぼうで、とても優しいお姫様のままでしょう?』 |
お姫様 | 『し、失礼な! 大臣! この者を即刻帰らせなさい!』 |
お姫様 | 『帰らせるためなら、金でも宝石でも与えて構いません! さあ、旅人も、望みの物を言いなさい!』 |
旅人 | 『そうですね。何も望まないといえば嘘になります。私が望む褒美は、ただひとつ。姫様の笑顔が見たいのです!』 |
旅人 | 『姫様! 本日はご機嫌いかがです? おっと、城内が暗くては顔が見えません!』 |
旅人 | カーテンを開け、ついでに貴方のお好きな花を飾りましょう! 先ほど、商人から買ったのです』 |
ナレーション (フウカ) | 旅人は、毎日、姫のもとへやって来ては、芸を披露していきます。 |
旅人 | 『本日は、種も仕掛けもない箱を、空中で操ってみせましょう!』 |
旅人 | 『姫様、ご覧ください! 世にも奇妙な喋る人形です!』 |
旅人 | 『さあさあ、連続宙返りをご覧あれ!』 |
ナレーション (フウカ) | しかし、旅人がどのような芸を見せようと、姫が笑うことはありませんでした。 |
お姫様 | 『はぁ……本当に、調子のいい旅人。それで私が、腹をかかえて笑うとでも?』 |
ナレーション (フウカ) | 報われない旅人――しかし、そんな彼女を気遣う者も、城内にはいたのです。 |
菓子職人 (カナコ) | 『あの……旅人さん。誤解しないでくださいね。姫様は、本当はよく笑うし、とても優しい方なんです』 |
旅人 | 『おや、あなたは……?』 |
菓子職人 | 『私は、城の厨房で菓子職人をしている、カナコと申します。姫様とは年が近く、幼い頃はよく一緒に遊んだんですよ♪』 |
菓子職人 | 『――昔、この国がまだ貧しかった頃、ろくな材料が揃えられず、姫様にお菓子を作ってあげられませんでした。』 |
菓子職人 | 『そのことをお詫びすると、姫様は「謝らないで!」と……砂糖も果物も入っていないパンを口にして、笑いながら、』 |
菓子職人 | 『「やっぱり、カナコの作る菓子は美味いな」と……。その言葉が、とても嬉しかった。』 |
菓子職人 | 『お菓子で人を笑顔にしたい。滑稽と笑われる私の夢も笑顔で応援してくれました』 |
旅人 | 『……カナコも、もう一度姫様の笑顔が見たいんだね。だったら、私と一緒だ!』 |
菓子職人 | 『もう一度……ということは……』 |
旅人 | 『実は私も、幼い頃の姫様を知ってるんだ。私は昔から旅の一座にいてね、大人たちと一緒に、公演を終えたら |
旅人 | すぐあちこちに移動して……同年代の友だちなんていなかった。ずっと、友だちが欲しいと思ってた』 |
旅人 | 『そんな時だよ。お忍びで、公演を観に来ていた姫様と出会ったのは』 |
お姫様 (幼少期ナオ) | 『すごい! あんた、あたしと同じくらいの年だよな? さっきの曲芸、最高だったよ!』 |
お姫様 (幼少期ナオ) | 『友だちがほしい? あたしたち、もう友だちだろ?』 |
旅人 | 『友だちがほしいという私の本音を受け止め、笑顔にしてくれたのが姫様だったんだ。だから、今度は私の番だよ』 |
菓子職人 | 『あの……それ、私たちの番にしていただけないでしょうか?』 |
菓子職人 | 『私ももう一度、姫様の……友だちの笑顔が見たいのです』 |
菓子職人 | 『旅人さん……ううん、ミオちゃん! 私にもどうか、協力させてくださいっ!』 |
ナレーション | こうして……旅人と菓子職人。姫のふたりの友人により、運命の歯車は少しずつ、回り始めたのです。 |
(淡く輝く三つの星) | |
ナレーション (フウカ) | それから、旅人と菓子職人は毎日、一緒に姫に話しかけました。 |
ナレーション | それはまるで、幼い子どもが、友だちを遊びに誘うかのように。 |
ナレーション | 時には城の中庭を散歩しよう。時には城に迷い込んだ子猫の世話を共にしよう。そして、今日は―― |
菓子職人 (カナコ) | 『姫様、私どもとティーパーティーをいたしましょう!』 |
お姫様 (ナオ) | 『カナコ、まさかあなたまで、旅人の悪ふざけに乗ったのですか……』 |
旅人 (ミオ) | 『ええ、ふたりは同じ褒美を望んでいますから』 |
お姫様 | 『まったく……まず、ティーパーティーにしても、菓子の量が多すぎます。三人で食べきれるとお思いですか?』 |
菓子職人 | 『美味しいから大丈夫ですよ! 姫様がお好きな、東国の菓子も用意しました!』 |
お姫様 | 『……け、けっこうですっ!』 |
旅人 | 『姫様の頑ななお気持ちも、お菓子を前にしては揺らいだようだね!』 |
旅人 | 『それでも……好物でも、まだ素直な気持ちを口にするには至らない……』 |
旅人 | 『好物に加え、何か……何かもうひと工夫できればと思うんだけど……』 |
菓子職人 | 『……ダンスパーティー。姫様が口を噤むようになったのは、初めてこの城で開かれたダンスパーティーの後でした』 |
菓子職人 | 『女王が国を立て直し、久々に他国と国交が回復したことを祝うパーティーでした。そこに手がかりがあるのかも……』 |
旅人 | 『パーティーでやり残したことがあるとか、後悔があるとか? なら、もっと素敵なパーティーを、私たちで開こうよ!』 |
菓子職人 | 『で、でも、姫様の心の傷をえぐることになってしまうかも……』 |
旅人 | 『それでも、可能性があるなら私は賭けたいよ。たとえ、姫様に嫌われることになったとしても……』 |
ナレーション | それから、ふたりはパーティーに向けて、準備を始めました。城を走り回って許可をとり、必要なものを全てそろえ―― |
旅人 | 『かき混ぜる時に入れるのは、空気と愛情、それから、キラッキラの砂糖をた〜っぷり! そーれっ!』 |
菓子職人 | 『ふふっ、旅人さんってば、ダンスしながらお菓子を作ってる♪』 |
ナレーション | 姫のことを思い、準備は続きます。夜が明け、謁見の時間が来るその時まで。 |
お姫様 | 『……それで、今日は何をするつもりなのですか? たまにはまともな提案をしてくれることを願いますが』 |
菓子職人 | 『はい、今日はお菓子を作ってきました。パーティーを華やかに彩るマカロンタワーに、様々な味のプチデセール……』 |
旅人 | 『そして、今日はティーパーティーではありません。城を上げてのダンスパーティーです!』 |
旅人 | 『もちろん、姫様にお召しいただくドレスも、ご用意いたしましたよ!』 |
お姫様 | 『それは……私が昔、パーティーで着たドレス……』 |
菓子職人 | 『そのリメイクですよ。仕立て屋に用意してもらったのです』 |
旅人 | 『姫様、私と踊りましょう。あの時、あなたがしてくれたように……次は、私があなたをエスコートする番です』 |
菓子職人 | 『その後は、お菓子を召し上がれ♪ そしてまた……美味しいと笑うあなたの顔が見たいのです』 |
お姫様 | 『そんなこと……できません……できない……っ!』 |
お姫様 | 『私は……あたしみたいなのは、パーティーに相応しくない!』 |
ナレーション | ――数年前。城内のパーティーにて。 |
お姫様 (幼少期ナオ) | 『お母さま! あたしは何をすればいい?』 |
お姫様 | 『……楽しむって、それだけじゃやだよ! あたしも、何か手伝いたい!』 |
ナレーション | 健気な姫の言葉。けれど他国の者は、彼女の上辺しか見ていませんでした。 |
貴婦人A | 『まあ、なんて言葉遣い。しっかりとした教育を受けられていないのね』 |
貴婦人B | 『そのような姫が、可愛らしいドレスに宝石など、分不相応ですよ』 |
ナレーション | そして、そんな噂話が姫の耳にも届いてしまっていたのです。 |
お姫様 | 『あたしが、あたしのままだと国のみんなが……友だちが可哀想って言われる……! そんなの、嫌だ!!』 |
お姫様 (ナオ) | 『……わかっただろ? あたしは口も悪いし、お姫様らしくない』 |
お姫様 | 『だったら、何も言わず、求めず……ただいるだけ。それでいい。それが一番いいんだよ……』 |
ミオ | (さあ、ここからだよ、ナオ……) |
ナオ | (これ以降のラストシーン……何度やっても、上手くいかなかった……もう、ぶっつけ本番にかけるしかない……) |
カナコ | ねぇ、姫様……ナオちゃん。私の話を、少しだけ聞いてもらえませんか? |
カナコ | (本当は……今だって、舞台の中央に立つことは、怖い……。それはずっと、目立つ人がすることだと思ってたから) |
カナコ | (私には、何のとりえもないしスタイルだってよくない。周りにはミオちゃんやアイリちゃん……すごい人がたくさんいた) |
カナコ | (だから、ずっと思ってたよ。「私には、みんなを支える方が向いてるんだ」って) |
カナコ | (……でも、支えることと前に出ないことは、同じじゃないんだよね) |
カナコ | (友だちもお客さんも、舞台に関わるみんなを支えて笑顔にしたいなら……私も、前に出なきゃ!) |
カナコ | 私と姫様は、少し似ていますね。自分に自信がなくて、向き合いたいものから目をそらすことも多かった。 |
カナコ | 今も……支える振りをして、また後ろに引っ込んじゃうところだったよ。でも、もうそんなことはしたくない。 |
カナコ | 私は、友だちを支えるんだ! 覚悟はできてる。何を言われても大丈夫。だから、姫様の……ナオの本音を聞かせてほしい! |
カナコ | そうだよね、ミオちゃん! |
ミオ | (はは、私にバトンを渡してくれるんだね……いいよ、受け取ったよ、カナコ!) |
ミオ | (劇団にいた時から思ってた。カナコは受ける演技が上手い) |
ミオ | (それが、自信を失うにつれて、後ろへ引っ込むマイナスの方向に作用しちゃったけど……) |
ミオ | (今は、視線誘導も立ち位置も、経験をすべて駆使して語りかけてくる) |
ミオ | (「私はふたりを支えてみせる、どんなアドリブだって受け止める」ってね) |
ミオ | (……これは、私も負けてられないなぁ。思いっきり、輝かせてもらうから!) |
ミオ | 私はね、旅芸人の一座の中で、一番になりたかった。一番星って呼ばれる、人気者になりたかったんだ。 |
ミオ | でもね……輝けば輝くほど、独りになっていったよ。同年代の子はみんな、どんどん私を遠巻きに見るようになった。 |
ミオ | そんな時に、あなたのことを思い出したの。かつて旅の中で、一瞬だけ友だちになった女の子。 |
ミオ | 彼女なら、私を独りにしない。昔、私の手を引いてくれたみたいに。 |
ミオ | 最初は、本当に自分勝手な理由だったんだ。でも、今は違う! |
ミオ | 私はあなたと……ナオと、笑い合いたい! 今、この場所で、思いっきり! |
ミオ | これが、ちょっぴり情けない私の本音! さあ、次はあなたの素直な気持ちを聞かせて! |
ナオ | カナコ……ミオ…… |
ナオ | (今もアンタたちは、舞台の上で、本当に楽しそうに輝いてる……。だから、隣にいるとこう思っちゃうんだ) |
ナオ | (輝けないあたしでも……何の才能もない、普通のあたしでも……輝きたいって、願ってもいいんじゃないかって) |
ナオ | (……アンタたちのせいだ。ううん、アンタたちのおかげだ) |
ナオ | ふたりが、あたしに構い出すから…… |
ナオ | (あたしと舞台をやりたいって言い出すから……) |
ナオ | あたしに、諦めるってことを忘れさせるんだ! |
ナオ | あたしだって、本当は着たい! 可愛いドレスに、ずっと憧れてた! |
ナオ | 綺麗な宝石だってつけてみたいし、みんなとダンスをしたい! みんなと一緒にいたい! |
ナオ | あたしは……みんなとここで、笑っていたい! |
ナオ | (あ……まただ。また、あたしが輝いているように見えた……) |
ナレーション | それから、その日は姫の素直な気持ちを聞けた記念に、盛大なパーティーを開くことになりました。 |
ナオ | ちょっ、このドレス、ふりふりじゃん!? あたしのガラじゃないよ……。 |
ミオ | でも、好きなんでしょ? |
カナコ | それに、姫様……いえ、ナオちゃんに絶対似合いますよ♪ |
ナオ | 本当? それ、本気で言ってんのか? そっか……へへ、みんな、口が上手いな! |
ナレーション | それから、お姫様は、少しぶっきらぼうで……でもとても可愛らしいと、国民から愛されるようになりました。 |
ナレーション | そして、大人になり、国を治めるようになった彼女の傍らには、いつもふたりの友人がいたといいます。 |
ナオ | あたしは素直じゃなくて、すぐに本音を口に出せないけど……それでも。 |
ナオ | 大切な人の前では、少しずつ素直になることにするよ。 |
ナオ | 一度は失くした、大切な自分の想いを……もう二度と、置いていかないように。 |
(舞台が、好き) | |
あたしたちの初舞台は、大きな拍手の中、幕を下ろした。 | |
ナオ | ……終わったなぁ。 |
カナコ | ふたりとも、お疲れさま♪ |
ミオ | カナコもお疲れさま! ……終わっちゃったけど、いい舞台だったよね。 |
ナオ | ああ。ライトに照らされてる時の熱が、まだ残ってる……。本当に、いい舞台だったよ。 |
ミオ | うん。でも……だからこそ……ミオちゃんは、すっっっっごく悔しい! |
カナコ | 金賞……スターの称号は、ハヤテちゃんたちが持っていったからね。でも、私たちも特別賞だよ? |
ミオ | それでも、悔しいものは悔しいいいいいいいい! |
カナコ | ほ、ほら、この後、ウミさんたちが打ち上げのバーベキューの準備してくれてるし……悔しさは、そこで語り合おう? |
ナオ | ……それに、これで終わりじゃないだろ。まだ、次がある。 |
二人 (ミオ・カナコ) | …………。 |
ナオ | な、なんだよ、ふたりとも。 |
ミオ | ナオがそう言ってくれると、嬉しい……これからも、舞台に立ってくれるんだよね? |
カナコ | 私も、みんなを笑顔にしたいって思って、みんなにとって何がいいのかを考えたら、前に出られなくなって……あ! |
ミオ | どうしたの、カナコ? |
カナコ | えっと……一応、芸事の神様は私たちの願いを叶えようとしてくれてたのかなって、そう思って……。 |
ミオ | たしかに、私の願いは一応叶えたっぽいけどさ。カナコは? |
カナコ | 私は……「みんなを笑顔にしたい」のみんなに、自分を入れずに、ないがしろにしちゃってたから…… |
カナコ | だから、頑張って前に出たら、願いは叶ったんじゃないかなって思ったの。 |
カナコ | ナオちゃんの力についても、少し思うところがあるんだ。 |
カナコ | 気のせいかもしれないけど、私、舞台の途中、一瞬だけだったけど、ナオちゃんが輝いているように見えたよ。 |
ミオ | それ私も! 見間違いかなと思ったけど、カナコにも見えてたんだ。 |
ミオ | 綺麗な、虹色の光だったよね。 |
ナオ | そうだな。あんな拍手とライトを浴びた瞬間を、忘れられるはずないよ。 |
ナオ | カーテンコールで舞台から見た景色は……憧れの景色と同じくらい、あたしの目に焼き付いたから。 |
カナコ | うん。虹は光が水滴に当たって見えるものだよ。だから、ナオちゃんの輝きも同じで…… |
カナコ | 誰かの輝きを浴びて初めて、見えるものなのかなって思ったの。 |
カナコ | 輝きが見えるのは、ずっと舞台に立ち続けるために……人の輝きを浴びやすくするために、とか……? |
ナオ | じゃあ、どうして前にいた劇団の時はダメだったんだよ? あそこでも、輝いてる子はいたぞ? |
ミオ | 友情に愛情……どんな劇をやるにしても、ナオは役とシンクロするタイプだもん。 |
ミオ | 素直に自分をさらけ出せる人じゃないとダメだったんじゃない? |
ミオ | それで、私たちと舞台に立って本領発揮……と。いやあ、光栄ですなー☆ |
ナオ | はあ!? じゃあ芸事の神様って、かなりのあまのじゃくじゃん! |
ミオ | まるでナオみたいだよねー! |
ナオ | ミオ、お前、さっきから好き勝手言ってくれるよな? |
カナコ | ふふっ、ふたりとも、ケンカはダメだよ? ほら、みんなのところに行こうっ♪ |
(これが、あたしの初めての舞台。初めて輝劇祭に参加した時の一幕) | |
(それから、時は流れて……) |
――数年後 | |
ミオ | それじゃあ、千秋楽の挨拶は、ナオにお願いしよっかなー! |
カナコ | ふふっ、感動的な言葉をお願いしますね♪ |
ナオ | お前ら〜……コホン。あたしが舞台に立ったのは、数年前の輝劇祭の時だ。 |
ナオ | その時の仲間と、またこうして公演ができて嬉しいよ。 |
ナオ | あはは、みんな、今あたしのこと、いつもより素直だって思っただろ? |
ナオ | どうも、あたしは舞台に立ってる方が、素直になれるっぽいんだよなー。 |
ナオ | ってわけで、最後は、あたしの心からの言葉でしめたいと思う! |
ナオ | あたしはこれからも、ずっとずっと、光の下で、ステージの上で輝き続ける! |
ナオ | 一緒に輝いてくれる仲間に、あたしを応援してくれる人たち……みんなことが、大好きだーっ! |
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