キリを揉みこむような
だが、もっとほんとの理由は、年齢とともに、心身ともゆとりを失って、きつくなるばかりであったことに帰せられる。わたしが弱年のころ想像していたのは、この逆であった。やがていつかはじっくりとゆとりをもって生きてゆけるときがやってくるにちがいないということであった。壮年になっても、この夢を捨てることができなかった。いまは、それがどんなに虚妄であったかを思い知らされている。そして、そんな夢は捨ててしまった。人間の生涯は、何ものかに向って、キリを揉みこむようなものではないのか。深みにはまりこんで困難さは増すばかりである。そして誰も生き方について、わたしにこのことを教えてくれなかった。遥かな未知よ、わたしはそこへ到達できるだろうか。
(「詩的乾坤」1974.9.10国文社「あとがき」1974.6.14)
隆明鈔--吉本隆明鈔集
(「詩的乾坤」1974.9.10国文社「あとがき」1974.6.14)
- これは誰もが抱いてしまうことなのではないだろうか。年をとればとるほど余裕がなくなっていってしまうのだ。これはどうにも想像していたこととは逆のようなのだ。だが、吉本さんからこれを教えてもらっていた私はいくらかはましな姿勢を持ててこれたような気がする。
隆明鈔--吉本隆明鈔集
2006年12月10日(日) 12:36:55 Modified by shomon