マルクスと折口信夫と三木成夫の三人
わたしは対幻想という発想をしたときから男女の区別は相対的なもので、一人の人間と一人の人間の関係の仕方が対幻想だと定義してきた。三木成夫の著書を読むと、陰核は女性のなかの男性性器の名残りで、前立腺の領域は男性のなかの子宮の名残りだとかいてある。それを読みながら一人の人間と一人の人間の関係にまつわる言葉や、思考や、行為の領域では、男性も女性もより男性の領域にあるか、より女性の領域にあるかどちらかだとかんがえるべきだ。そうおもえるようになった。いってみれば対幻想の領域にある構造をあたえられる気がしてきた。だがはっとするほど驚嘆したのは、そのさきだった。この著者にはふつうわたしたちが断層としてみている植物と動物と人間の構成のあいだに、進化の連続性の流れがみえている。なぜある有機体は植物になり、また別の有機体は動物になり、また人間になっているのかが、内臓や筋肉や神経の成り立ちや構造に即して、つながりや相違や対応性としてはっきりつかまれている。わたしの無知な思い過ごしかもしれないが、これはほんとに驚きだった。この方法をはっきりと記述している例を、人間の対象化行為(労働)と価値の論議の場合のマルクスと、国文学の発生についての折口信夫と、この著者三木成夫のほかにわたしは知らない。また方法的な自意識としていえば、この三人のほかいないのではないかと思えた。
(三木成夫「海・呼吸・古代形象」1992.8.31うぶすな書院 の「解説」)
隆明鈔--吉本隆明鈔集
(三木成夫「海・呼吸・古代形象」1992.8.31うぶすな書院 の「解説」)
- この三人に共通の方法を見いだした吉本さんの思いに、私もおおいに納得してしまいます。そして、その共通した方法とは実に根源的なものであったということなのでしょう。そして、これは吉本さんも知らず駆使してきた方法なのだと思うのです。
隆明鈔--吉本隆明鈔集
2006年12月10日(日) 14:31:56 Modified by shomon