芥川龍之介の死
芥川龍之介の死は、「歯車」や「或る阿呆の一生」のあとに、どのような作品も想像することができないように、純然たる文学的な死であって、人間的、現実的な死でなかった。したがって、時代思想的な死ではなかった。「架空線の花火」をとらえようとして、すでに、それをとらええなくなった失墜した作家の文学的自然死であった。人生の、社会の、ぶつかりあい矛盾しあう現実社会の火花をとらえようとして、とらええなくなった作家の人間的な死ではなかった。
(「芥川龍之介の死」1958.10「解釈と鑑賞」に掲載「芸術的抵抗と挫折」1959.2未来社に収録された)
隆明鈔--吉本隆明鈔集
(「芥川龍之介の死」1958.10「解釈と鑑賞」に掲載「芸術的抵抗と挫折」1959.2未来社に収録された)
- 芥川の死は早すぎもおそすぎもしない。何が「敗北の文学」(宮本顕治は芥川の文学をこう呼んだ)なのだろうか。荷風のように江戸の下町に回帰すれば生きながらえたのかもしれないが、自己の出身階級に対する嫌悪感がその道をとらせることはなかったのだ。
隆明鈔--吉本隆明鈔集
2006年12月03日(日) 13:45:59 Modified by shomon