芸の無意識の自殺
いろいろなことがあるでしょうが、僕の理解の仕方では、あの乱入事件はビートたけしの「芸の無意識の自殺」だと、僕は思っています。自分が無意識のうちに話芸のうえの自殺をしたと思います。あれだけの人が無意識の自殺行為をもってしたことだから──一見すると、どこかの出版社に押し掛かけていって撲りあいをしたんだ、そして向こうがバカで警察を呼んだりするから、こんなことになってしまった、そんなふうに見えるけれど、僕はそう思いません。それだったら、あれだけの衝撃を与えないはずなのです。そうではなくて、あの人の中に芸の自殺、つまり芸としては自分はここで自殺をしてもいいというのが、無意識にどこかにあったから、あれだけの衝撃を与えたのだと、僕は思っています。
(1987.7河合塾名古屋校講演 「幻の王朝から現代都市へ−ハイ・イメージの横断」1987.12.1河合文化教育研究所に収録された)
隆明鈔--吉本隆明鈔集
(1987.7河合塾名古屋校講演 「幻の王朝から現代都市へ−ハイ・イメージの横断」1987.12.1河合文化教育研究所に収録された)
- 結局あのとき、たけしは芸はさておき、ある踏絵みたいなものを踏んだのだろうか。いつもはお笑いの芸の中で終らせていたものを、「いや、もうこれは芸の問題ではない、もう俺の芸は死んでもいいんだ」とどこかで決意してしまったのだろうか。これから実現するであろうビートたけしとの対談はたぶんかなりな内容になると思われる。私はそれが愉しみです。
隆明鈔--吉本隆明鈔集
2006年12月10日(日) 14:14:43 Modified by shomon