最後の漱石
漱石はたぶん『明暗』という作品で、たったひとつの最後に残るおおきな眼を漠然と想定していて、その眼を、漱石は、たどりついたじぶんなりの境地だとかんがえているようにおもわれるのです。禅がいう悟りとはすこしちがうんですが、しかし、全部の人間を特別なふうに扱わないし、また特別な人間ともおもわないし、またどんな人間でもごく普通の人間としてみられるひとつのおおきな眼のようなものを漱石は「則天去私」、つまり「天に則って私を去る」という言葉で意味させようとしていたかもしれないとおもいます。
(「漱石の中の良寛」1984.9.13本郷青色申告会・本郷青色大学主催講演於本郷青色申告会 「超西欧的まで」1987.11弓立社に収録 「良寛」1992.2春秋社に収録)
隆明鈔--吉本隆明鈔集
(「漱石の中の良寛」1984.9.13本郷青色申告会・本郷青色大学主催講演於本郷青色申告会 「超西欧的まで」1987.11弓立社に収録 「良寛」1992.2春秋社に収録)
- 何人もの作家をたどっても、また漱石を手にとってみる。また漱石に戻ってみる。それはなんなんだろうといつも思う。漱石のあのロンドンのいらだちからこの「則天去私」のときまで、やはり日本の近代を象徴しているものと私には感じられるのだ。
隆明鈔--吉本隆明鈔集
2006年12月10日(日) 14:06:13 Modified by shomon